〜アタシは“城ヶ崎莉嘉”だから〜
「お姉ちゃん!」
「はいはい、莉嘉」
アタシはいつだって、お姉ちゃんの背中を追いかけてきた。
だって、お姉ちゃんはカッコよくてアタシの憧れで……何より、お姉ちゃんの事が大好きだから。
……でも、少し考え方が変わってきた。
『お姉ちゃんみたいなカッコいいカリスマJKになりたい』から、『お姉ちゃんよりも凄いアイドルになりたい』……って。
そして、自分らしさを見つけたい、見て欲しいって。
お姉ちゃんの背中を追いかけるんじゃなくて、お姉ちゃんの背中を追い越したいって思ったんだ。
つまり、お姉ちゃんを目指すのを辞めるってこと。
だけど、アタシはお姉ちゃんを目指してこれまでやってきた。
アイドルになったのも、お姉ちゃんみたいになりたかったから。
セクシーなお仕事がしたいのも、お姉ちゃんみたいになりたかったから。
「アタシ、お姉ちゃん目指すの辞める!」
だから、少しテイコウがあったけど、結局お姉ちゃんと二人で話せる時にそう言った。
当然、お姉ちゃんに理由を聞かれた。
「アタシね―――――」
アタシはその時、自分の思ってることをぜーんぶ言った。
そしたら、謝られた。「気づいてあげられなくてゴメンね」って。アタシが勝手に決めたことなのに。
アタシが勝手に決めたことで、お姉ちゃんに悲しい顔をさせちゃった。
でも、アタシはこれだけは譲らなかった。
みくちゃんみたいに、自分を曲げないで……っていうのはちょっと違うかな。ゴメンね、みくちゃん。
そして、呼ばれ方も。
「妹ヶ崎」じゃなくて、「莉嘉ちゃん」とか、「莉嘉」って呼ばれたい。
“お姉ちゃんを目指すアタシ”じゃなくて、“城ヶ崎莉嘉”を見て欲しかった。
……って、その時は思ってた。
ある時、お姉ちゃんが出るライブのチケットを貰った。
当然、お姉ちゃんのカッコいい姿は見たかったから、見に行った。
「美嘉ー!」
お姉ちゃんは、ファンの人達みんなに名前を呼ばれて、やっぱりキラキラしてた。
そんなお姉ちゃんを見て、「やっぱりお姉ちゃんは凄い」、「お姉ちゃんには追いつけない」って思った。
そして、「お姉ちゃんを目指す」ってもう一度思ったの。
「やっぱりお姉ちゃんを目指さないの、やめた!」
って言った日には、お姉ちゃん、すっごい安心してたなー。
……だから。
「ねえ、Pくん。アタシね、“お姉ちゃんを目指しながら”“アタシらしさ”を見つけたいの! 」
>>34-35
3年後城ヶ崎姉妹。年齢操作に注意
「シキちゃん、空を飛ぶってどんな感じだろ」
いつものように美しい髪を揺らす彼女が言った。
空を飛ぶ、ね。物理的に飛ぶのか、或いは……なんて無粋な思考を巡らし始めたところで、やめた。シャンデリアに轢かれてハッピーエンドなあたしはあそこで終わったんだ。
「気持ちいいんじゃない」
とは答えたものの、正直あたしにも分かんない。だって空を飛んだことなんてないし。例えあっちであってもね。
そんなあたしの確かではない言葉に、彼女はちょっとだけ腑に落ちないをしたものの、「そっか」と言って話を終わらせた。そうやって切り替えが出来るところは、あたしより大人なのかもしれない。
「もし気持ちいいなら……アタシ、シキちゃんと空飛びたい」
「……ん?」
前言撤回、話は続いていた。
それに、気持ちいいなら空飛びたい? 何を言ってるんだ、この子は。もしかして、おかしくなっちゃったのだろうか。
「……フレちゃん、おかしくなっちゃった?」
「そうかもねー。なんでだろー♪」
本当に、フレちゃんは読めない。……でも、そんな所が面白い。面白くて、あたしは好きだ。この子とならなんだって出来そう。それから、理解できない所へだっていけそうだもの。
「ねえシキちゃん」
「なに、フレちゃん」
「朝になっちゃったね」
窓の外を見る。真っ暗だった空は少しだけ明るくなっていて、ラボの前を通る車の数も増えてきていた。多分、5時くらいだろうか。
「アタシ達、夜更かしさんだね」
「ねー、フレちゃん。お仕事、あったっけ?」
「確かオフだったよー」
そっか。そう言いながら、あたしは彼女の顔を見つめる。
綺麗な緑色の瞳の下には、ちょっとだけクマが出来ていて、フレちゃんらしくない顔だった。こうしたのはあたしか、それとも彼女自身か。そう尋ねれば、彼女はきっと自分がしたと言うだろう。何故なら……とっても優しいから。
「あたし、寝てもいい?」
正直、眠気なんてなかった。なんでこんな事を言ったのか分かんなかった。でも、あたしはいつの間にかそう言っていた。多分、彼女のクマを見るのが嫌だったからだろう。あたしが目をつぶれば見えないし、彼女も寝てくれれば消えるはず。
そんな幼くてバカらしい思考に、あたしは自分でも呆れたくなった。
「いいよー」
その返事を聞いて、あたしは直ぐに目を閉じた。ベッドに移動するのはめんどくさいから、ソファに寝転んで。
目を閉じていたから、その後彼女がどんな行動を起こしたのかは分からない。だけど、目を開けたら身体にはタオルケットが掛けられていて、彼女自身は何故か料理を作っていた。
……やっぱり、フレちゃんって面白いよ。あたしの負け。
>>37
しきフレ。キャラ掴めてなかったら虚しい
「おねーさん、誰?」
「え、ええと……」
―――正直な所、私は困惑していた。
人通りの多い廊下であるのにも関わらず、ぐいぐいと近付いてくる女の子は、一ノ瀬志希ちゃん。同じ岩手出身だけど、私よりも一回り近く年下で、普段は全くと言う程関わりがない。
だからこそ、接し方が分からなかった。
「三船美優……です」
ふうん。そう言いながら、私を見詰めてくる志希ちゃん。
大きくて猫のような瞳は、まるで私を逃がさないと言わんばかりにぎらりと光っていた。
私が消極的でなかったら、上手く接してあげられるのに……なんてマイナス思考になってまうのは、いつもの事。
「なんか単純っていうか、淡々としてる匂い」
「……どう捉えたらいいのかしら?」
「面白くはないね」
私が何も言えずにいると、志希ちゃんが口を開いた。
本人に悪気は無いのだろうけど、こうもはっきり言われてしまうと傷付く。かと言って、別に貶されているわけでも無いみたい。
要するに、志希ちゃんは私を“つまらない人間”だと捉えている。そう、ただつまらないだけの人間だって。
「アイドル、楽しい?」
一方的に色々言われたと思えば、志希ちゃんは唐突にそう尋ねてきた。
拍子抜けしてしまって、思わず目を丸くしてしまったけれど、どうにか頷くことは出来たと思う。
話がコロコロ変わる子、私の志希ちゃんに対する印象は、大体そんな感じだった。
「あたしも楽しい。だって、アイドルになって、今まで無かった事ばっかり! 新しくて、刺激的で」
アイドルについて語る志希ちゃんの目は好奇心に満ち溢れてて、キラキラしていた。
私には無い輝き。それが、今のこの子にはあるんだって、その目を見て思った。
……だから、志希ちゃんには私がつまらない人間に見えるのかな。
「美優さんは、アイドルのどんな所が楽しいの?」
「ええと……」
何と返すべきか分からなくて、必死に考えていた時。
遠くから足音が聞こえてきて、その音が段々と廊下に近付いてくるのが分かった。
「あちゃー、バレちゃった。美優さん、次会った時は答えを聞かせて。じゃあねー」
志希ちゃんは楽しそうに笑いながら周りを見渡し、走り去ってしまった。
そんな志希ちゃんを追いかけていく城ヶ崎美嘉ちゃんの背中を見ながら、私は考える。
「志希ちゃん、か」
少しだけだけど、志希ちゃんと話した時間は嫌じゃなくて。それどころか……ちょっと楽しかったな、なんて思って。
また会える事も、彼女が私を覚えているのかすらも分からないのに―――出された問題の、答えを探していた。
>>39
しきみゆ初挑戦
しきみゆどころか美優さんにすら初挑戦なのに下調べ無しはまずかった。ていうか文章が色々とおかしい