「小日向くんが好きなのっ……!私と、つっ…付き合ってくれますか……?」
勇気を振り絞って、そう告げた。
──だけど、返ってきた言葉は想像以上に悲しい言葉だった。
「……ごめん。俺、実は他に好きな人いるんだ。」
「え………」
「だから、……ごめん。」
そう離れていく小日向くんの背中。
手を伸ばしても届かない。
私の恋は、砕け散ってしまった。
か、か………
可愛い…………!!!
言葉遣いが荒くて髪の毛もボサボサだったから、もっと男っぽい子なのかなって思ったけど……
すっごい可愛い女の子……!
目はぱっちりしててくりくりだし、色白で小柄。
春桃ちゃんより小さいかな?
私のすっごい好み。
みんな驚いている雰囲気だ。
「席どこ?」
顔は良いが口は悪い。
先生がハッとしたように、
「ま、まずは自己紹介をしてくれる?ね?」
「めんど……小野寺聖(おのでらひじり)。」
すると、小野寺さんと目があった。
「なあ、私の席ってあそこ?」
と、さっき用意された私の後ろの席を指差した。
「え、ええそうよ。」
先生はもう諦めてる様子。
「わざわざ用意したのか?」
小野寺さんが先生に訊ねた。
「そうだけど…」
「さんきゅ!」
小野寺さんが先生に向かってにこっと笑った。
何あのギャップ……!?
「ど…どういたしまして」
先生も照れたように笑った。
すると、小野寺さんがこちらに向かってずんずんと歩いてきた。
そして、どかっと後ろの席に腰をおろした。
ぽん、と肩に軽い感覚。
「よっ」
改めて近くで見ると、すごく綺麗な顔立ちをしている。
「は、はじめまして……」
「ってか、この机にラクガキしたの誰だ?バカアホドジって書いてある。直接いえばいいのにな」
「う、うん…」
なんか、この子って野生動物みたい……
「お前の名前当てる!ん〜、石ノ上権三郎!!」
その声が教室に響き渡った。
「ご、ごんざぶろ……」
「お前の名前は権三郎!決まりィ!」
みんなケラケラと笑っていた。
なんか……
苦手なタイプかも、小野寺さん……
顔はすっごい好みだけど。
「…てことで、今日から小野寺さんはこのクラスの一員になります。よろしくね、小野寺さん」
先生が小野寺さんに向かって言う。
「うっす!」
先生は呆れたような顔で笑い、教室をあとにした。
「おい転校生!」
先生がいなくなると、教室の入り口からバカデカい声が聞こえた。
みんなびっくりして目を向ける。
そこにはエイコーと委員長がいた。
「おい、お前だろ、そのボサボサ頭!」
エイコーは容赦なく小野寺さんをビシッと指差した。
だけど、当の本人は頬杖をついてぼーっとしている。
「おい、転校生!」
エイコーがしびれを切らしてそう叫んだ。
「あ、うるさいでーす」
小野寺さんはちらりとエイコー達を見てから、そう口にした。
あっけらかんと言った彼女に、みんなぷっと吹き出す。
「な、なんだとっ!この…」
エイコーが眉をつりあげ、教室に入ってきそうな勢いの形相で小野寺さんの後ろ姿を睨んだ。(エイコーからは小野寺さんの顔は見えない)
「だからうっせーんだよゴリラ」
小野寺さんがため息をつき、面倒くさそうに振り返った。
エイコーの口があんぐりと開いた。
「…な、は?おま、転校生?」
そりゃあそうだろう。
男子並みに口が悪かったのに、こんなに女の子らしい可愛い顔をみたら、こうなるだろう。
「転校生転校生って。何でそんな興奮してんだよ」
小野寺さんが立ち上がってエイコーの顔を覗き込んだ。
エイコーより背が少し低めな小野寺さん。
そんな彼女に、エイコーは顔を赤くした。
「お前…なんなんだよ!名前は!」
「小野寺聖でーす。あんたの名前は、もうゴリラで確定な?」
こっちからは小野寺さんの顔はあまり見えないけど、いたずらっぽく口の端を上げて笑う姿が想像できた。
「ひ…ひじき!覚えとけひじき!」
エイコーはいたたまれなくなったのか、そう叫んで去っていった。
「ひじきじゃなくてひじりだっつーの!クソゴリラ!!覚えとけ!」
小野寺さんは廊下に身を乗り出して叫んだ。
すると、彼女はこちらへすたすたと歩いてきて、どかっと席に腰をおろした。
そして目が合うと、
「“ひじき”じゃなくて“ひじり”だかんな?」
と、いたずらっぽく笑いかけてくるのであった。
[小日向視点]
1組に、転校生が来た。
今日はその話題で持ちきりだった。
でもさぁ…なんか可哀想なんだよなぁ。転校生って。
転校生転校生って騒がれて、なんか息苦しそう。
こんな偏見持ちたくないけど、どうしてもそう思ってしまう。
そんなことを考えながら昇降口で履き替えていると、
「あのぅ……小日向くん」
今にも消え入りそうな小さな声が、後ろから聞こえた。
「…あぁ。相原さん」
立っていたのは相原さんだった。
「……い、委員会、何に入った…?」
「俺は保健委員だよ。相原さんは?」
「あ…そうなんだ。私のクラスは、まだ決めてなくて…」
すると、
「やっべぇ!!忘れ物した!」
聞き覚えのある荒い言葉遣いと、足音が聞こえてきた。
弾かれたように顔を上げると、昇降口に小野寺さんが駆け込んできた。
小日向くんは目を瞬かせている。
「あ…あの、小野寺さん」
声をかけてみた。
「おお。権三郎。」
なんてことのないように呼ばれ、苦笑いすると、
「…えっと…君が転校生の…?」
小日向くんは小野寺さんを見て不思議そうに首を傾げた。
「うっせーな!今急いでんだよ!じゃあな!!」
そう言うと小野寺さんは私たちの間をチーターのように駆け抜けていった。
小日向くんは笑みを浮かべたまま固まっている。
「あ、小日向くん…えっと、今の子が転校生で……」
しどろもどろに説明すると、小日向くんはふっと笑みをこぼした。
「なんか賑やかな子だね」
『賑やか』というのは『うるさい』っていう意味なのかな……。
「あれ?カコちゃんと小日向くん」
なんだか久しぶりに聞いたような澄んだ声、春桃ちゃんの声が聞こえた。
「あ、」
小日向くんはそう洩らすと、春桃ちゃんから顔をそむけた。
「そうだ。さっき女の子とぶつかっちゃって、『怪我してない?』って言ったらさぁ、『こんくらいで怪我するわけねーだろ!!』って言ってどっか行っちゃったの」
それ、絶対小野寺さんじゃん……
「一緒に帰らない?」
「あ…」
……どうしよう。
せっかく小日向くんと一緒に帰れるのに……でも、春桃ちゃんと帰りたい気持ちもある。
「じ、じゃあ…一緒に帰ろっか」
と言うと、彼女は桜の花が咲いたようにふんわりと笑った。
「ありがとう!じゃ、行こっか」
まだ顔をそむけている小日向くんに春桃ちゃんが気づいた。
「小日向くん、どしたの?」
春桃ちゃんが小日向くんの肩をぽんと叩いた。
すると、小日向くんは弾かれたようにビクッと肩を震わせた。
………小日向くんは、やっぱり───
「い、行こうか」
うわずる声、赤い耳。泳ぐ瞳。
そんな彼の姿を見て、確信した。
彼は春桃ちゃんのことが好きなのだ、と。
「わ、私………先、帰ってもいい…?」
そんな言葉が口から飛び出した。
二人が目を丸くしてこちらを見る。
驚かせてしまっただろう。だけど、この二人の様子を見続けるなんてあまりにも辛い。
目を背ければいい話だろうけど、どうしてもこの状況は嫌だった。
「え……あ、用事あった?ごめんね」
春桃ちゃんが眉を下げて申し訳なさそうに謝ってきた。
そんな彼女に、少しいらついてしまった。
だって、彼女はみんなにちやほやされて、私の気持ちなんかちっとも分からない。1ミリも。
いい人を演じればもう勝ちだ。見た目の時点でもう勝ち組なのだ、彼女は。
運動だってできるし勉強もできる。おまけに歌もうまい。
どうして?なんで?
なんで彼女にはあんなに良いことばかり与えたの?
それに比べて、私は?
良いところなんてちっともないじゃない。
今更、どうしてこんなことを思っているのか分からない。けど、とめどない怒りがこみ上げてきた。
抑えないといけない。でも、何かが私の中でプツリと切れた。
そして、次の瞬間、私は春桃ちゃんの肩をつかんだ。
>>21
小日向視点だったはずが途中からカコ視点になっちゃっていました……ミスりました!!(汗)m(_ _)m
なんだか気になる展開……
続きが楽しみです!(いきなり乱入してすみません‼)