「じゃ、そこで隠れてて。見つかんないようにね」
「う、うん」
志麻は聡に駐車場の近くに隠れるよう指示し、母親と思われる茶髪が特徴的な女性に近づいた。
すると、女性は志麻に気付きその細い身体をを抱きしめる。
その時の聡から見た女性のイメージは、ただの過保護な親だった。
「志麻、お家に帰ったらちゃんと勉強するのよ。12時までね」
「えっ……?」
聡は、その女性の発言に耳を疑った。
現在午後の4時。日付の変わる12時まで勉強するなら、およそ8時間である。……しかも、12時は小学生が起きておく時間ではないのだ。
「……また?」
「毎日の習慣でしょう。あなたは頭が良いのだから、今のうちに育てないともったいないのよ」
その発言を聞いて、聡は「一瞬でもまともだと思った自分がバカだった」としか思えなかった。確かに少し自分の息子に不都合なことがあるだけで騒ぎ立てる自分の親よりはマシだったが、志麻の親もかなり酷かった。
「……」
志麻は、一瞬女性から目を逸らし、聡にウィンクをする。
まるで、「でしょ?」と言わんばかりに。
それから、志麻と女性は車に乗って帰って行った。
聡は、これから関わるはずのなかった志麻の秘密を知り、驚くのだった。
「ほら聡ちゃん。帰るわよ」
「……うん、母さん」
……そして、親とは厄介なものだと思った。