追憶の少女

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15:お茶:2020/06/02(火) 12:47

それは、よく晴れた日の朝だった。
教室に入るなり、このクラスの担任の水瀬は白い歯を見せて生徒に挨拶をした。HRが始まるため、生徒達は一斉に席に着く。
もう一度教室の扉が開くと、あくびをしていた生徒も眠気が吹っ飛ぶくらい目を大きく開けた。
教室に足を踏み入れたその女子生徒は、緊張した面持ちである。しかし、注がれるたくさんの好奇の眼差しを全て受け止めるように、女子生徒はしっかり前を見据えていた。
水瀬は「お待ちかねの転校生だ!」と紹介する。四十代であろう水瀬の額には、皺が寄っていた。
女子生徒は軽く頭を下げると、口を開いた。

「鴨原園子です。よろしくお願いします」

園子は水瀬に促され、窓際の一番奥の席に座った。
隣の少女に目をやる。その少女はキリッとした端正な顔立ちをしているが、園子に向けた柔らかい笑みは近寄り難い雰囲気を感じさせない。ショートボブの髪もよく似合っていた。

「よろしくね」

園子は挨拶すると、少女は声を控えめにして言った。

「世界を変えることに興味ある?」

園子は首を傾げた。胡散臭い宗教の勧誘のようだと、少しばかり警戒する。

「私達と一緒にこの汚れた世界を真っ白にしていこう」



「何が目的なの!何とか言いなよ!」
机を叩きながら男を問い詰める真由を、男は無視する。
男は一人一人のティーカップにコーヒーを注ぎ、それに白い粉末を加えて配膳していった。再び里穂の席に着席し、指を机に叩きつけて何かを促した。

「……飲めってことだよね」

「でも明らかに白い粉は毒でしょ!」

「違う!これを見て何かを思い出せってことだと思う」と志乃。
志乃は『I Guess Everything Reminds You of Something』と心の中で何度も繰り返し呟いた。きっと、この飲み物も里穂と何か関係しているのだろう。
桃が声を出した。

「マッシロの活動は元々正義のためで、最初は良いことをしていたけど、里穂が暴走してこうなったんです」

「あのさ、覆面野郎!私達にどんな恨みがあるか知らないけど、さっさとここから出してよ!早く!」と真由が挑発する。
男は片足を引きずって真由の元へ向かった。その間、真由が桃に耳元で何かを囁いていること、真由が桃にナイフを渡したのを志乃は見逃さなかった。
真由が何を考えているのかわからないが、三度目のリベンジが始まったのは確かだ。
真由はさらに挑発するようコーヒーを男に投げつけた。ガラスが割れる音が響く。
男は濡れたスーツを気にも留めない様子で真由の前に立つと、その後ろでは背後からナイフで男を刺そうとする桃がいた。
志乃はさっき真由が桃に何を呟いたか、なんとなく想像出来た。多分、真由は自分が囮になるから男を刺せとでも言ったのだろう。前よりも確実な方法に、志乃は緊迫感を忘れて感心してしまった。
しかし、瞬時に男は背後から忍び寄るナイフを察知し、それを取り上げた。一瞬の出来事である。男は取り上げたナイフを桃の首元に突き付け、コーヒーを飲むようティーカップを指さした。
脅しがかかっても、桃は明らかに怪しいコーヒーを拒もうと、ティーカップから目を逸らした。

「無理です!飲めません!」

だが、男はしつこく指示する。
桃の目から涙が溢れ出そうにになったところで、真由は桃のティーカップを自分の方に引き寄せた。

「やめて下さい、お願いします。私が飲むから許して!」

真由はこれまで男に対して見せたことのない必死な顔で懇願した。
男が許可を与える隙も作らずに、真由はコーヒーを半分口にしてみた。志乃達はその姿をじっと観察するように見つめる。
真由は苦しそうに咳き込んだと思いきや、「口がザラザラする」と顔を歪めた。
粉末が加えられた際は毒だと危惧していたが、真由の様子を見る限り、その心配はなさそうだ。志乃は胸をほっと撫で下ろした。

「何かの錠剤?」

遥の問いに答えたのは、杏樹だった。杏樹はスマホに文字を素早く打ち、それを見せた。

『睡眠薬かもしれない。最近よく飲んでるから』

「ねえ、もしかしたらこの投稿が関係しているかも」


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