――――昔は病弱で、ずっと病院に入院してた。
そのときの私が見ていた世界は、真っ白い壁、真っ白いベッド……とにかく、これでもかってほど真っ白ですっからかんだった。
『次は、竜宮小町の皆さんです』
『はーい、竜宮小町の三浦あずさです〜』
『こんにちは、水瀬伊織でーす』
『双海亜美だよー! よろしくちょーん!』
「…………」
そんな私が夢見ていたのは、アイドル。最初はアイドルに対して「何この人たち、バカみたい」なんて思っていたけど、病室のテレビで見る度に顔と名前を覚えて、曲も覚えて、いつの間にかステージで歌って踊る姿がキラキラして見えて。「私もこんな風になりたい」なんて思って。
『加蓮は可愛いからアイドルになれるわよ』
たまに見舞いに来ていたお母さんはそう言っていたけど、私の病気は結構重くて退院すらできるかも分からないくらいだったからそんなの夢世界でしかなかった。
……だから、今こうしてアイドルとして歌って踊っているのも、少し実感が湧いてない。
そんなアイドルとは縁があるようで無縁な私の生活は、病気の状態が少し良くなった頃に変わって行った―――
「加蓮!」
いつも通り病室で真っ白な一日を過ごしているとき、お母さんが大急ぎで病室に駆け込んできた。
「何?」
「もうすぐ退院できるって!」
私がそう尋ねると、お母さんは嬉しそうな顔をして答えた。
……退院? 私が?
「ほ、ホント!? 冗談とかじゃないよね!?」
私は、大声でお母さんに尋ねた。
「嘘じゃないわよ。状態が良くなってるって」
「アタシが、退院……」
この時は、嬉しすぎて泣きそうになった。……だって、病室から出られるんだよ? 真っ白で、何にもなくて。そして、私を縛った病室から。
「お父さんも喜んでるのよ。……本当に、本当に良かった……加蓮……」
「……お母さん」
お母さんも嬉しかったみたい。耐えきれなくなったのか、話してる途中で泣き出しちゃった。
昔は「あんまり見舞いに来てくれないし、お母さん私のことなんてどうでもいいのかな」なんて思ってたよ。でも、この時実感した。お母さんは私を愛してくれてるんだって。
そうして私は最後に1回診察を受けて、それから退院したのだった――――