駅のホームで鳴り響く、発車の合図。
階段を駆け下りている俺は、焦りを覚える。
この電車が命綱だ。
これを乗り遅れたら最後、俺は遅刻した奴という烙印を押されるのだ。そんなに大層なもんじゃない。
階段を下り終えると、目の前で大きな口を開けている電車がある。
助かった、と思った瞬間、『ドアがしまります』という車掌さんの鼻声アナウンスが俺の耳に届く。
それは地獄の囁きのようにも思える。そんな大層なもんじゃない。
駆け込み乗車をする不届き者にはなりたくない!という思いを胸に、「待ってー」なんてバカみたいな声を上げながら走った。駆け込み乗車する気満々じゃねぇか。
すると、そのドアの向こう側。
電車内に、仲のいい友達が見える。
こうなったら、あいつに飛びつくしかない。そう考えたのだ。
「おい!」
「え」
ダッと一歩、おもいきり踏みだしてそいつにしがみついた。
俺の飛びついた勢いで押され、ぎゅうぎゅう詰めになっていた人々がもっとぎゅうぎゅう詰めになる。
『駆け込み乗車はご遠慮くださーい』という声が響いた後、ドアが閉まった。そこまでの時間が長いのは、俺の体感速度の問題だから気にしたら負けだ。
「おい、お前いつまで抱きついてんだよ!」
「いいだろ別に!人だらけで手が動かねぇんだよ!」
そんな会話を小声で繰り広げながら、体制は変わらず。
ふと真横を見れば、女の子が立っている。
こんな満員電車の中に女の子なんて……危険だな。
そうおもっていた矢先染まる、俺のシャツ。
白の生地についた、赤い模様。
女の子の鼻から血が垂れた……というより、噴き出した。
よく漫画で血が噴き出すのを見て、試しに鼻血が出た時に放置しても下にしか流れなかったのにもかかわらず、この女の子は前に飛ばしたのだ。
こいつ……やりおる。なんて馬鹿な事を考えてから、冷静になった。
「……大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です!気にしないでください!ちょっとこうふ、じゃない……鼻を掻いていたら血が出てきただけです!」
「あ、あぁ……そうなんだ」
女の子の裏事情なんか知りたくなかった。
絶望を感じながらも、友達にティッシュを貰って、その女の子に差し出す。
その女の子が終始ニヤついている事に、気付かないふりをしながら。
……正直、少し気持ち悪かった。
「反対側のドアが開きます」というアナウンスの声。
やっとこの地獄から解放される事が出来るのである。
「……なぁ、これ降りられると思うか……?」
そう耳もとで小さく囁く友達の声が、気持ち悪くてゾクリと背中を悪寒が駆け巡った。友達の声に失礼だ。
「いや……ちょっと難しいだろ……お前握力何?」
「30……5……くらいか?」
「俺より強いな、よし、お前引っ張ってけ」
ガッと掴んだ友達の手のひらから、甘い熱が伝わってくる。
……なんて、少女漫画見たいな表現を使っても相手の手はがっちりとした男の手。これが女なら、どれだけよかったか。
「はぁ?……しゃーねーな」
チッという舌打ちを聞かなかったふりをして、ニッと笑った。
ドアが開く音が聞こえて、手がグイッと引っ張られた。
「いっ!?」
予想外の引きのよさに、俺の腕はちぎれるかと思う位の痛みを感じる。……まるで魚釣りみたいだ。やったことねぇけど。
人を横に掻き分けて、ホームへの入り口に突き進む。
俺を引っ張る友達がホームに出た瞬間、今まで以上の力で俺を引っ張った。
その時、俺の頭の中から、電車とホームの間のちょっとした段差の事など消えていて……。
ここまで言ったら予想出来るように、俺は勢いよくぶっ倒れた。
「いった!」
次に襲ってくるであろう痛みを想像して、そう声を上げた。
にもかかわらず、感じるのは花の柔軟剤の香り、サラサラとしたシャツの触感……そして、男の固い胸板。
「いってぇよ転ぶなばーか!!」
「え、えええ……」
転んだ瞬間、友達に受け止めてもらった俺は怪我一つなく。
ただただ、友達に抱きしめられるような体制で「いった!」と叫んだ変人である。
周りの目線が痛い。
「い、行くか……ありがとな」
「お礼言わなかったらぶん殴ってたわ。遅刻するから行くか」
そう手を引かれて歩き出した。
後ろから、「え!?」「大丈夫ですか!?」「女の子が倒れた!駅員さん呼んで!」「凄い鼻血だぞ……」なんて声が聞こえた。
真っ先に浮かんだあの女の子。
……もう会う事もないだろう。
ニヤつくあの子の顔を思い出して、何故か嫌な汗が流れた。
「よっす!おはよ」
「おは、ゲッ!お前人を天に召せたの?」
教室に入った瞬間に犯罪者扱いである。
っていうか、日常会話で天に召せたとか普通使わないだろ。こいつ邪気眼とか言っちゃってたやつか。
「いや、俺らが立ってた横に居た女の子が鼻血吹き出した。な?」
「嘘みたいな話だけどマジなんだよな」
「へぇー、貴重な体験だな。500円でそのシャツどうだ?」
「それ言いながら財布だすのやめろよ」
邪気眼野郎もとい変態野郎だ。なんだこいつ、犯罪者かよ。
「可愛いかった?」
「普通……だよな?」
「普通だな」
「じゃあ300円だな」
誰が値段の話してたんだよ。お前だけだよ。
そんな馬鹿な話を繰り広げていたら、担任が教室に入ってくる。
急いで椅子にすわると、チャイムが学校になり響いた。
おもしろすぎwww
まさかの、あの子は腐女子……?
なんか色々わけわからんこと書いてるけど、要するにめっさ面白いってことです!
乱入失礼しました。
更新頑張ってください!!
>>6
ありがとう!面白いなんて嬉しい言葉いただけてよかったですw!
評価とかあまりされたことないので、嬉しかったです。
更新……というか、物語を適当に進めるのを頑張ります!
「お前、昼何食う?学食?」
「あー……学食だな」
昼休み、飯の時間がやってきて、友達が真っ先に俺の元にやってくる。
時間の流れなんて、こんなもんだ。気にしたら負け。
「うっげ……金ないし……お前貸してよ」
「やだよ」
俺が財布を覗き込むと、入っていたのは200円という子供のお小遣いの様な金額だった。
「……ケチだなお前」
「俺、500円しか持って来てねぇもん」
同じような状態にある友人だった。類は友を呼ぶ。ぐっ。
「俺が食うのを前で見てろよ」と言いながら高笑いする友人を見て、殿様に仕える家来の様な気持になる。そこまでじゃない。
「ラーメン食うから」
だからなんだよ。
「ふーん」
思ったことを口に出さなければ、崩れる友情なんてないんだぞ。
「なぁ、1口くれよ」
ズーズーと啜るラーメンを眺めれば、お腹がグーグーと空腹を訴えかけてくる。
「あぁ?嫌だよ……」
こんなに腹と俺が訴えかけてるって言うのに、なんて冷たい友人だ。俺の腹が激怒した。
「なぁ、1口だけだからさ!」
「……1口な」
またもや舌打ちをされ、ラーメンをこちらに受け渡す……と思いきや、「口開けろ」なんて言い出す。
「え、器くれよ」
「お前めっちゃ食うだろ、1口」
「くっそだな」
人の飯を食う俺が、くそだなんて言えたもんじゃない。
「あ」
そういいながら口を開けると、友達が俺の元に麺を寄せる。
その瞬間、赤く染まるスープ。
「ぶっ」
「は!?」
それに驚いた俺が噴き出した麺が、スープ内にクリーンhitを決め込んだ。
「え、ちょ、え、何これ、血?」
「……お前、辛いの食えたっけ」
「普通のラーメン食ってたよ!馬鹿野郎!」
バッと、その赤い液体が飛んできた方向をむけば、女子が鼻を押さえて俯いていた。
「……大丈夫ですか?」
何故か感じるデジャヴを抑えきれない。
「あ……大丈夫ですから……ごめんなさい!!」
そういいながら走りさって行った女の子。
いや、こっちは全然大丈夫じゃない。
「お前……ラーメン!ラーメン……!」
俺の噴き出した麺と、さっきの子が出した血が、綺麗なグラデーションを生み出していた。きったね。
涙を流す友達を宥めるべく肩をたたいた瞬間、頭を強く殴られた。
「いった!?お前、これ以上天才になったらどうすっきだよ!?」
「お前位のどうしようもない馬鹿なんかいねぇよ!ラーメン返せ馬鹿野郎!」
財布「お腹すいたよー」
腹「お腹すいたよー」
「…………すいませんでした」
土下座をしたのは、その日が初めてだった。
「うっし、かえろ」
「おう、帰るか」
放課後になり、少し額の腫れた俺と友達で下校をしようと、鞄を持つ。
適当な会話を交わしながら、校門を出た。
学校から駅までの道のりは、さほど遠くない。
だからと言って、近くもない。どっちなのかは、神のみぞ知る。そんな壮大な話じゃない。
「おっ、まって、俺ぷっちょ買う」
「お前金ねぇんだろ?あ?」
「睨むなよ……108円くらいなら持ってんだ」
そう居ながらジャンプをすると、ズボンのポケットから金の音がする。
「……俺にも寄こせよ」
「えー、やだ」
「ラーメン?」
「喜んで」
一瞬で出来た、服従関係である。
「108円ね」
「はい」
売店のおねぇさん?が、ぷっちょを俺の手の上に乗せた。「?」を付けた理由は、まぁ、察しろ。
その見返りのように、108円を伸ばされた手の上に乗せようとすると、1円が転げ落ちた。
たかが1円、されど1円。
1円を馬鹿にするものは、1円に泣く。金欠病って怖い。
「おっと、すんません」
そう言って屈みこむと、目の前にあった棚に頭を強打した。なんて馬鹿だ。
コレが女の子ならば、ドジっ子萌え☆とか言えるところ。けれど、俺は男だ。
「いってぇ!!」
「うおっ!?倒れこんでくるな馬鹿野郎!!」
バランスを崩した俺は、そのまま友達の胸元にダイブ。デジャブを感じまくりだ。
こうなったら、もうパターンが読めている。
「よけろぉぉお!」
「うおっ」
ドンと押した友達は地面に倒れ、俺はそのまま立ちつくした。
「……おい?」
「え、いや、ここは……鼻血を出す、あれぇ?」
「いってぇよふざけんなクソ野郎!!!」
俺の手も、髪も、靴も、顔も、ズボンも、シャツも。
良そうに反して、赤く染まっている箇所なんて一つもなかった。
「……ドジっ子☆」
「ぶっ殺すぞ」
友達の目は、狼のように鋭く、氷のように冷たかったです。