初めまして、凛堂りんさです
あれ、こいつ前にも小説書いてなかったか?
すぐ飽きるんだったら短編集にでもしろよ!
と思った方、いらっしゃいますかね^^;
そうです、私『殺し屋with女子高生』少し書いてから新しいネタを思いついてしまい……。。。
digest
舞台は2050年の日本。
人口が増加し過ぎて、食糧不足や土地不足が問題になっている。
そこで、政府が作り上げた残酷なシステム。
それは、日本に良い人材のみを残し、他は抹殺するという政策。
学校は全て公立化し、全国一斉にテストを行い、下位の者は抹殺される。
生き残るために、少年少女は死に物狂いで勉強する。
character>>02
character file
歌永 蘭華 Utanaga Ranka ♀
清咲学園中等部1年生
成績はいつも低く、今まで何とか抹殺を免れてきているが、危うい状況。
Zクラス所属。
両親が海外へ出張して居ないため、寮で生活しているものの、成績不振のため家事を押し付けられている。
身長が低いものの、胸がかなり大きい...髪色は黒のツインテール。
叶水 光河 Kanami Kouga ♂
清咲学園中等部1年生(転入生)
学園創設以来の転載と呼ばれていて、成績は上位で、1年ながら生徒会長の座を得る。
Sクラス所属
IQ300。
しかし、本人はガリ勉といった感じではなく、明るく元気でいたずら好きな性格。
制服を着崩し、パーカーを着用していて、髪色はオレンジ。イケメン。
神童寺 秀良 Shindouji Shuuryou ♂
清咲学園中等部1年生
光河が転入してくる前は生徒会長だったが、光河に負けて副生徒会長に降格。
家が裕福で、いかにもお坊ちゃんという感じ。
プライドが高い性格。
Sクラス所属。
金髪に青い碧眼と、ハーフなので外人のような容姿。
志良 天美 Shira Amami ♀
清咲学園中等部2年生
生徒会の会計を務め、成績優秀で美人。
無口でクールな性格で、笑ったことが一度もない、冷血仮面。
Sクラス所属
肩までの紺色の髪に眼鏡をかけている。
理事長 Rijichou ?
学園を創立した、謎多き人物
清咲学園 Kiyosaki Gakuen
1学年7クラス、全校で21クラス(タイトルの21はここから来ました。ちなみにトゥエンティーワンと読みます)
クラスは1ヶ月に一度の定期テストの順位によって振り分けられ、落第や昇格もあり、設備も大幅に違う。
Sクラス…送迎あり、特別寮での生活、校内全施設使用可などの優遇がされる。成績上位20名まで。
Aクラス…特別寮での生活、校内全施設の利用可能。成績20〜50位まで。
Bクラス…校内全施設の利用可能。成績50〜80位まで。
Cクラス…食堂、図書室のみ利用可能。成績80〜110位まで。
Dクラス…図書室のみ利用可能。食事は購買のみ。成績110〜140位まで。
Eクラス…権利無しだが、普通の生活を送ることができる。成績140〜170位まで。
Zクラス…他クラスの雑用や、寮の掃除などをしなくてはならない。170位以下。
なお、最下位から数えて10名は抹殺される。
・校内戦
校内戦では、学級委員や生徒会長など、あらゆる特権を持つものに勝負を挑み、テストで勝てばその座を略奪できるシステムになっている。
挑まれて負けた者は相手の地位と交換、挑んで負けたものは抹殺にされるため、挑戦者はほとんど居ない。
学校の方針を変えることのできる理事長にも挑むことができるが、挑んだ者はまだいない。
「歌永、お前またこんな点数か!これじゃあ抹殺も時間の問題だな!」
強面の先生は、赤い雨がたくさん降っているテスト用紙を教卓に叩きつけ、怒鳴り散らした。
ペケ、ペケ、ペケ、――二つマル。
勿論、今回も昇格なんかせず、最低クラスのZクラスのまま。
正直私はもう、今回のテストは自殺すると思って諦めてい挑んだ。
なのに、ギリギリの点数で抹殺を免れてしまった。
「よく勉強しておけ!次!」
先生はクシャクシャになったテスト用紙を乱暴に突き付けると、また怒鳴り散らす。
――2050年……
日本は人口が増加しすぎ、食糧不足や土地不足が問題となっている。
それらを解決するべく、政府は憲法や法律に背いて残虐な政策を行った。
それが――
『抹殺』
日本を発展させるために、教育を良くせねば、と政府は高校まで義務教育にした。
小学校では抹殺は無いが、中学から高校まで抹殺がある。
優良な人材を残すため、不良な人材は抹殺していく。
毎日が戦争のようなこの日々に、私はもう疲れていた――
「はぁー……またギリギリ……」
最下位から数えて11番目、つまりあと1位下だったら、私は抹殺されていた。
でも、もうそれで良かったのに――早くもうこんな世界から消えたかったのに……
いっそのこと、白紙で出せば良かったのかもしれない。
蘭華はしわくちゃになったテスト用紙を強く握り締めながら、廊下を俯きながらトボトボ歩いている。
周りには誰もいない、みんな教科書や参考書とにらめっこして、勉強に熱心だ。
でも、私はもういい――1ヶ月後の定期テストで、今度こそ死ぬのだから……抹殺されるのだがら。
「おーい、ちょっとそこの人ーっ!」
そんなことを思っていると、背後からこの学園の者とは思えないくらい明るい声がした。
皆、暗い性格やクールな人ばかりなのに、これほどまで元気な能天気そうなヤツがいるなんて……
蘭華が振り向くと、そこには明らかにバカに見える少年が一人立っている。
着崩した制服、青いパーカー、オレンジ色の髪……いかにもアホみたいなやつ……
「俺、転入してきたんだけどー職員室の場所が分かんなくってさぁ。教えて欲しんだけど」
「あ、貴方転入生……?別の地方から?」
「いやぁ〜、俺、両親も居ないし金も無くってさぁー、今まで学校行けなかったんだよねー」
「両親が居ない……?病気か何かで?あ、答えたくないのなら……」
「……事故だよ」
彼は何の変哲も無さそうに、しれっと言う。
そしてその後、気まずい沈黙が2人の間に流れていく。
蘭華はいけないことを訊いてしまったようで、少し後悔した。
重くなってしまった空気はどうにも拭えない。
「そんなことよりっ!俺は叶水光河!宜しくなっ!」
彼は重くなった空気を拭おうとしたのか、元気な声でそう言った。
叶水光河と名乗った男子は、蘭華に右手を差し出す。
「う、うん、宜しく…………」
蘭華は無駄にテンションの高い光河についていけず、苦笑しながら手を差し出した。
「職員室に案内するから、着いてきて」
「おー!ありがとう!」
蘭華は廊下を真っ直ぐ進んでから、階段を降りていく。
「叶水さん……」
「光河でいいよ」
「えっと……じゃあ光河さん。この学園の規則、知ってる?」
私は、まさかとは思うが、という思いで彼に尋ねてみる。
「え?何が?」
「成績が下の人から順に抹殺していく、っていう、全国の学校で指定されたルールよ」
「へー、俺知らんかったわ。これまた残虐な政策だなぁー」
彼は特に驚くこともなく、相変わらずしれっとして興味がなさそうに答えた。
抹殺――……
それは無視すること、ほうむり去る事を指す。
が、この世界の抹殺とは、残虐なものだった。
「抹殺って、貴方成績が悪かったら殺されるのよ!?何をそんな平気で……」
彼はよっぽどの自信があるのか、もう諦めているのか、かなり楽観的な態度だ。
余裕しゃくしゃくという感じで、そのまま蘭華についていく。
「要はあれだろ?成績が良けりゃいいんだろ?」
「そう簡単に言うけれど……」
蘭華は握り締めていたテスト用紙を見て、今にも泣きそうな表情だ。
なんせ、こんな成績なのだから、きっと今更勉強したって次のテストでは抹殺されているに決まっている。
そう思うと、いくら死を覚悟しても悲しいものだ。
「それ、今日返されたテストか?」
光河は蘭華の握り締めていたテスト用紙を覗き込む。
「うわーっ、ひでー点数ー」
「貴方に言われたくないっ!貴方の成績なんて知ったこっちゃないけれど、そんなだらしのない格好で……」
「格好は関係ねーだろー」
いかにも頭の悪そうなやつに、酷い点数と言われ、蘭華は憤りを隠せない。
自分がバカだということを自覚しても、頭の悪そうで努力していないやつには言われたくない。
「勉強しないと、あなたもいずれ抹殺されるわよ」
「まぁ、大丈夫大丈夫!何とかなるだろ」
光河は笑いながら蘭華の肩をポンッと叩き、親指を立てた。
蘭華はとうとう怒りを忘れ、怒る気力もなくなってしまった。
溜息をついて呆れると、職員室前で立ち止まった。
「……はい、ここが職員室。くれぐれもハチャメチャな行動は避けておいたほうがいいわよ。死にたくなければ、ね」
蘭華は一つ忠告すると、職員室から遠ざかり、来た道を帰っていった。
「あ、そうだ!お前の名前とクラス教えてくれよーっ!」
光河は職員室前だというのに、大声で手を振りながら叫ぶ。
「うるさい、私は歌永蘭華。Zクラスよ!」
Zクラス、というのは少し躊躇いがちな響きだった。
そしてキッと鋭い視線で彼を睨むと、スタスタと早足で行ってしまった。
「歌永蘭華、Zクラスな。よし、覚えた!」
光河はそう言うと、職員室に入り、『失礼しまーす!』と大声で言いながら入った。
勿論、先生方が耳をふさいだのは言うまでもない。
――放課後。
終業のチャイムが終を告げ、皆すぐに帰ろうと鞄を持っている。
Zクラスの設備は途轍もなく古く、みんなが一斉に動く度に、木造の床がギシギシっと軋む音がした。
勉強する机も、今にも木が割れそうで、脚のネジも緩み始め、ガタガタしている。
黒板も、いくら消しても前のチョークの落書きの跡が残ってしまう。
最も、その黒板を消す黒板消しもボロボロで使い物にならないのだが。
勉強なんて出来そうにない状態だが、改修工事の費用がZクラスには回されないし、備品の発注もしてもらえない。
なんせ、最低のバカが集うクラスなのだから。
「えー、皆さん、少し話があります」
帰ろうとしているZクラスの生徒達を、強面先生が引き止める。
「明日から、転入生がこのクラスに来ます」
いつの間にか、先生の横にちょこんとオレンジ色の髪の毛の少年が立っていた。
「えーっと……叶水光河です!宜しくお願いしまーっす!」
彼はニッと白い歯を輝かせながら、敬礼のようなポーズをとった。
「あ、あの転入生……」
当然蘭華は、その少年に見覚えがある。
「そっか……転入生だもんね」
この学園、清咲学園では、編入試験直後は点数の善し悪し関係なく、Zクラスに入らされる。
クラス分けは1ヶ月後のテストで決まるため、転入当初はまだZクラスだ。
「よ、宜しく……」
勉強に励む者達にとっては、元気で明るい性格には慣れていない。
いかにも頭の悪そうな転入生に、生徒達は口々に言い始める。
「なんか、アホそうだな」
「えーっ、でもカッコイイかも〜っ」
「バカ、この学園ではそんなもんどうでもいいんだ。勉強第一」
女子が興奮する中、男子は妬みなのか何なのか、アホそう、バカみたいだと光河を軽蔑するような目で見た。
「それでは、今日はこれまで。速やかに帰宅し、塾や勉強に励むように」
強面先生がパンッと手を叩くと、生徒達は挨拶もせずに散っていく。
塾や自習学習、家庭教師など、勉強の予定がつまっているからだ。
「はぁ。私も早く帰らないと……」
Zクラスは成績不振のため、上級クラスにコキを使われる。
主に雑用や、寮の掃除などをさせられ、勉強するのもままならない。
本日蘭華は寮掃除当番であるため、早く寮へ行かなくてはならない。
また遅れると寮母に叱られてしまう。
蘭華は急ぎ足で教室を出ていき、寮へ向かう。
その様子を、光河が物珍しそうに見ていた。
寮は学園の本校舎から少し離れた別棟にある。
といっても、学園の敷地内にあるため、それほど遠くはない。
そこには2つ寮があって、一つは特別寮、もう一つは普通の寮だ。
特別寮はSクラス、Aクラスのみ使用が許され、他の生徒は用がなければ立ち入ることすら許されない、天才の領域。
蘭華は特別寮の掃除を押し付けられているため、そこに踏み入ることが出来る。
「はぁっ、もう疲れてんのに……」
別に今日は学校で特に重労働などはしていないのに、体がだるい。
手に力は入らないし、頭はクラクラするし、口を開けただけであくびがでる。
もしここに布団があるのなら、3秒でレム睡眠に到達できるだろう。
蘭華は掃除用具の入った倉庫からモップを持つと、念入りに床を磨き始めた。
床は大理石でできており、レッドカーペットか敷かれていて、正に豪邸。
天井にはシャンデリアが輝き、もうそこはまるで城のようで。
けれど、私には到底手の届かない夢のまた夢のような場所で。
なんだかまるで、永遠に灰かぶりのシンデレラみたい……。
とりあえず、玄関の掃除が終了し、1階の一年生の廊下を磨いていた。
そして2階の廊下を掃除しようと、モップとバケツを持ったその時だった。
「おーいっ、んなとこで何してんだー?」
聞き覚えのある、無駄なくらい元気な声――
「光河さん!?掃除当番でもないのに、Zクラスが特別寮に来ちゃだめだよっ」
蘭華はモップを振り回しながら、周りを警戒しておどおどする。
幸い、SクラスやAクラスの者はおらず、絡まれる心配もないようだ。
「何か大変そうだなぁ、手伝おうか?」
彼はポケットに手を突っ込んだまま、呑気にあくびをしながら言う。
「結構です!掃除当番じゃないなら、とっとと帰って!」
蘭華は厄介事にならないよう、光河に帰るよう促すものの、彼はその場から動かない。
「歌永、一つ聞きたいんだけどさ。校内戦ってさぁ、相手にテストで勝てばその地位を得られんの?」
唐突に、彼はこの学園で常識とも言える質問をした。
「え……っ?えぇ、まぁそうだけれど……でも、挑戦者は負けたら殺されるのよ?誰もそんな下克上なんてしない」
「えーっ、やらないんだったら校内戦の意味が無いじゃん」
光河はそう言いながら、蘭華からモップをひったくるように奪うと、「次はどこを掃除するんだ?」と聞いた。
――2階。
「にしても、案内された俺らの寮とは全然ちげーなぁ」
光河は落ち着きなさそうに、特別寮の周りをキョロキョロ見る。
「そりゃそうでしょう。成績上位者だもの……」
「なのに、何でお前はまたこんなとこで掃除なんかしてんだ?」
「何でって……それは……私が成績悪いから、小間使いとしてSクラスにこき使われているから……」
蘭華は俯きながら、灰色に濁った汚い水の入ったバケツを床に置く。
「ふーん……んじゃ、次のテストで上位になりゃいんだろ?」
「な……っ!?私の成績知っているでしょう!?無理に決まっているじゃない!そんな簡単そうに言わないで!」
蘭華はヒステリックに、吐き捨てるようにそう言う。
そして光河からモップをひったくって奪い返すと、すごい勢いで床を掃除していった。
「じゃあさ、今日の放課後、俺の寮で勉強会するか?」
「え!?」
蘭華は余りにも意外すぎる光河の言葉に、モップで掃除していた手を止めた。
「お前も寮生なんだろ?他に誰もこねーしさ。成績あげたいだろ?」
「そうだけれど……」
蘭華は戸惑いながら、どう答えればいいのか悩んでいる。
こんなバカみたいな人に教えられても時間の無駄っぽいし……それに男子と2人で勉強とかやったことないし……っ
自分で、次回の定期テストで私は死ぬんだ、と諦めかけていても、やっぱり心の奥では成績を上げたいとも思っている。
「……分かった。今日、掃除が終わったら行くよ」
「よっしゃ決まり!」
光河はガッツポーズをとると、嬉しそうに笑った。
「ところでさ、さっき俺校内戦について聞いたじゃん?」
「あ、そういえば……」
光河は、本気で校内戦に挑むつもりなのだろう。
この血気盛んな性格だから、いきなりBクラスあたりの学級委員とか……?
「俺、とりあえず生徒会長に挑もうかなーって思ってんだよなぁ」
「!」
蘭華はその言葉に驚きすぎて、思わずモップを手放してしまう。
「……ほ、本気なの!?」
「あぁ。願わくば、理事長に勝ってこの抹殺制度をやめさせる!それが俺の目標!」
光河は落ちたモップを拾い、まるで槍のように掲げると、誇らしげに言ってみせた。
光河の手伝いもあり、いつもは6時くらいまで長引く掃除も、今日は4時と、かなり早く済ますことができた。
「んじゃ、早速俺の寮へレッツゴー!」
「はいはい」
光河はスクールバックをブンブン振り回しながら、軽快な足取りで寮へ向かう。
その後に続いて、蘭華がハイテンションについていけず、呆れながらトボトボ着いていく。
――本当にこんなんで勉強できるの……?
――3分後。
特別寮から隔離されて建っているのが、Bクラス以降の住む寮だ。
至って普通の寮で、特別寮のように豪華ではないけれど、生活するのに支障はない。
寮だけはBからZクラス、全員平等だった。
「俺は男子寮だけど、女子の立ち入りもいいんだよな?」
「え、まぁ……」
蘭華は男子寮に入るのに抵抗があり、顔を隠し、俯きながら歩く。
フローリングの床を早足で歩き、人目につかないようにした。
女子が男子寮に行くなんて、如何わしい事でもあるんじゃないかと誤解されると厄介だ。
皆勉強しているのか、廊下の人影は無く、誰に見られることもなかった。
「ここが俺の部屋!221B室だ!」
光河が221Bと刻印されたプレートがぶら下がっているドアを開けると、そこには……
「うわっ!何コレくっさ!」
カップラーメンの容器やお菓子の袋のゴミなどが散乱し、色々混じった悪臭が解き放たれていた。
服は散らかしてあり、ゴミ箱には潰された箱やペットボトルなどで一杯になっている。
窓際にある勉強机には、趣味の物であろうロボットのプラモデルや接着剤、作りかけのロボットの部品などが置いてあり、とても勉強できる状態じゃない。
基本、寮の決まりとして、私物の持ち込みは可能となっている。
コンビニで買ったお菓子なども、趣味の物も持ち込んで構わない。
「……汚い……貴方、勉強しているの?勉強しているのだったら、プラモデルなんか勉強机に置かない」
「勉強なんてするわけないじゃーん」
光河は笑いながら言う。
「〜っ!まずは掃除よ!勉強会はそれから!」
蘭華は鞄をその辺に放り投げると、カップ麺の容器などをゴミ袋に詰めていった。
――40分程経過しただろうか。
蘭華はゴミ袋を5枚寮母から貰い、ゴミステーション(寮のゴミ捨て場)に捨てた。
中には主に、食べ物の容器や、古くなった週刊少年マッテーとかが見つかり、分別するのにも一苦労だ。
「寮に来て日が浅いのに……もうこんなに散らかすなんて、信じられない」
「はははー、俺掃除苦手よー。サンキューな!ま、早速やるか!」
光河大分さっきよりマシになった勉強机に、椅子を二つ並べた。
「で、お前の苦手教科って?」
「数学……だけど……」
蘭華はスクールバックから教科書や参考書、問題集などを取り出して広げる。
「ふーん、図形かぁ」
蘭華は三角形や四角形などが並んだ、図形のページを開いた。
本来、政策が始まる前の2015年位ならば図形の問題は中学2年生がやるが、政策が始まってから教育レベルもアップしてきた。
「そうなの。でも先生に聞いても全く理解出来なくって……やっぱ参考書を読み返して理解するしかないか。塾にも行けないし……」
蘭華は頬杖をつきながら、はぁっ……と本日何度目かのため息をつく。
光河と蘭華は、椅子を2つ並べて至近距離で勉強しているため、蘭華は少し意識してしまう。
――なんか、かなり近いんだけど!
蘭華がそう意識しているのも気にせず、光河は至って普通だ。
「ふぅーん、この問一とかさぁ、錯角を使えば簡単じゃね?」
「えっ?」
光河の指摘に、蘭華は身を乗り出す。
こんな頭の悪そうな人が、勉強を教えているからだ。
xの角度を求めるという問題で、蘭華が前々から悩んでいる問題だった。
「錯角なんて無いじゃない」
「いーや、ここの曲がってんとこに線分を引くと……」
光河はスッと定規で線を引くと……
「本当!錯角ができた!これなら分かるかも!」
蘭華は早速問題集に書き込み、xの角度を求める。
「うそ……本当に出来ちゃった……」
蘭華は自分でも信じられないくらい、何日間も悩まされた問題をあっけなく、あっさり解いてしまった。
「ほらな。勉強できんじゃん。だからお前、テストで死のうとか考えんなよ」
「……え?」
私、そんなこと言ったっけ?
心の中では思っていたけど……
「お前、次のテストで抹殺されてもいい、って顔してたぞー」
「うそ……」
「ホントだって。んじゃ、続きの問二、教えてやっから」
光河はシャーペンを握りながら、二ヤッと笑った。
――もしや、光河さんって、頭良かったりする――?
「そこは平行だから、∠Aと∠Cは同位角になる」
「あっ、気がつかなかった!」
不思議と、光河の説明は先生よりも遥かに分かりやすい。
疑問点が明確に解ける。
その後も、次の問題も、その次の問題も蘭華は自力で解けてしまった。
「そんな……今まで例題ですら解けなかったのに!発展問題までできちゃうなんて!」
自分自身も自分自身を疑うくらい、蘭華の向上は凄まじかった。
「やっぱ、やれば出来るんじゃん」
光河は親指を立て、グッドサインを送る。
「あ……ありがとう……っ。迷惑じゃなければ、科学も分からないところが……」
「おう、何でも聞けよ」
蘭華は大幅に光河を見直すのだった。
寮に帰った後も、蘭華は問題集を解く。
発展問題も安定して解け、元素記号もかなりの数を暗記出来た。
「すごい……叶水光河さんって、一体何者なんだろ……」
彼はもしかしたら、次の定期テストでCクラスやBクラスに行けるかもしれない。
意外と頭いいらしいし、Dクラスの学級委員長は余裕で勝てるんじゃないか。
蘭華は問題を解きながらそう思った。
頑張ってください
13:凛堂りんさ:2015/10/20(火) 16:21 ID:CS2 数学も科学も、驚く程に劇的な変化が現れた。
「うっそ……難問問題も出来ちゃった……」
光河の指導があったとはいえ、彼が教えたのは基本問題のみ。
けれど勉強が楽しくなって夢中でやっていたため、難問まで出来てしまった。
「勉強が……こんなに楽しいなんて……」
自分の書いた答えと回答を、恐る恐る照らし合わせ、そして合ってきたときのその爽快感がとても楽しい。
蘭華は夕食が終わっても、夢中で勉強し続けた。
――翌日。
いつもは勉強が憂鬱で、学校なんて行きたくないと思うが、今日はとても朝から気持ちが良い。
蘭華がZクラスに行くと、もう光河は登校していて、席に着いていた。
なのだが……
「えぇーっ!?何で光河さんが私の隣!?」
「さぁ?入ったらここに『Welcome Kanami』って」
光河はボロボロの机の上に置いてある、白い紙を指す。
「ま、宜しくな!なーんか俺らって縁があるなぁ〜」
光河はその白い紙をヒラヒラさせながら呑気に言うのだった。
授業中、彼はほとんど寝ていたりボケっとしている。
「起きなよ、先生に怒られるよ!」
私はひっそり小声で彼に忠告するも、
「あー、みたらし団子ぉ〜」
と、返ってきたのは寝言だった。
そんなのが5時間続き、授業は終了した。
まともに授業を受けないで、どうして頭が良いんだろう。
少なくとも、私よりは頭が良い。
なのに授業態度は最悪だし、寮に帰っても勉強せずに出かけているという。
「あー、お前今日も掃除なのかぁ」
「うん。手伝わなくていいよ……光河さん、当番じゃないのに悪いよ」
本日も、蘭華は特別寮の清掃当番である。
だが、2日も連続で当番ではない光河を引き止めるのはさすがに悪いと思い、折角の申し出を遠慮しておいた。
「でも、どーせ帰っても暇だしなぁ。いいよ、俺もやろう!」
彼は箒の柄を持つと、ブンブン振り回した。
>>12匿名さん、初コメありがとうございます;▽;
コメント頂けてとても嬉しいです!
完結出来るよう頑張りますので、宜しくお願いいたします!
仕方なく、光河と一緒に1年の廊下を掃除していると、
「会長。本日はこの後5時から生徒会会議がございます」
と、キビキビとした口調の、女性の声がした。
「ありがとう。全く、会長ともなると忙しいものだよ」
会長、と呼ばれた男は、金髪に青い碧眼といかにも外国人らしい装いだ。
制服の袖口に、『生徒会長』と印字された緑色の腕章をつけている。
そして満更でもないような口調で、やれやれとため息をついた。
「会長がいらっしゃったぞ!」
その横に立っていた、眼鏡美人の秘書みたいな人が言うと、次々と部屋から寮生が出てきた。
「会長、お帰りなさいませ!」
そして深く礼をし、まるでホテルの出迎えのようだ。
「何だなんだ?あいつが生徒会長か?」
光河は箒を掃く手を止め、やけに騒がしい後ろを振り返った。
横を見れば、いつの間にか蘭華も同じように礼をしている。
「ちょっと、神童寺会長が来たんだから礼くらいしなさいよっ!」
「へ?何で?WHY?」
彼はとぼけたようにヘラヘラとしている。
「ははは、皆の者は我の支配下にある!さぁさぁ、勉強に励め!といってもまぁ、私を超える者など居ないがね!ははははっ!」
神童寺は高らかな笑い声をあげると、仁王立ちして威張った。
それを、周りの寮生は少し曇った顔で見ている。
それを見兼ねた光河は、箒を持ったまま、つかつか神童寺に歩み寄った。
「祇園精舎の鐘の声」
「!」
そして彼は突然、あの有名すぎる作品の冒頭部を言い始めたのだ。
「諸行無常の響き有り。紗羅双樹の花の色。盛者必衰の理をあらわす」
「な……っ!?」
「おごれるものも久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。たけきものも遂には滅びる。ひとえに風の前の塵に同じ――分かるよな?全盛期を築いた平家が、無様に衰弱していくさまを歌ったこの歌を」
光河は箒の柄を神童寺の顔面寸前に突き付け、彼を強く睨みつけた。
「俺と……校内戦で勝負して欲しいんだけど?」
彼は軽々しく、タメ口で、挑発的に言ってみせる。
そして、部屋から出てきた1年生がざわめき、物凄いギャラリーができていた。
「貴様、口を慎め!」
隣にいた女が、噛み付きそうな勢いで叫ぶ。
だが、それを神童寺が静止した。
「君、何クラスだい?」
神童寺は優しくニッコリとし、穏やかな口調で言う。
「……Zクラスだ」
光河は何の躊躇いもなく、ハッキリ堂々と口にした。
「Zクラスだと?」
その言葉を聞いた瞬間、神童寺は和やかな表情から一変、汚物を見るかのような目で光河を睨みつける。
「はっ、下克上か。いいだろう。しかし承知しているだろう?校内戦のルールは」
「勿論。明日もきっと登校できるからな」
光河は遠まわしに、抹殺されずに自分は生き残れる、つまり勝つということを言った。
「ふんっ、雑魚に付き合っている暇は無いんでね。これから生徒会会議があるんだ。早めに切り上げよう」
こちらもこちらで、まだ生徒会長を継続、つまりこの戦いは勝つと遠まわしに言っている。
そしてその頃には、1階フロアの1年だけでは留まらず、2,3年生も加わり、さらに壮大なギャラリーとなっていた。
「おいおい、見たか?あいつ生徒会長相手に……!」
「校内戦で命を落とすとか、なんて短い人生」
「しかもあいつ、Zクラスらしいぞ」
「もう、勝敗は見えてんなぁ。あいつ、終わったな。抹殺されるぞ」
ほとんどの生徒達が、もう光河の負けを確定していた。
なぜなら、神童寺は定期テストでいつも2位と大きく点差を引き離し、1位を保ってきたのだ。
自分より地位が上の者を相手に戦い、負けたら抹殺というルールで、ただでさえ挑戦者が少ないのに、生徒会長相手なんてまだ誰もいなかった。
「ちょっと、光河さん!何言ってるの!?」
「え?何って、普通に校内戦を申請しただけだけど?」
蘭華が焦ってモップを振り回しながら取り乱すが、光河は相変わらず平然としている。
「そんなことしたら死んじゃうよっ!会長の実力を知らないで……」
「まーまー、落ち着けって」
そんな二人のやり取りを、神童寺が見ていると、不意に神童寺が歩み寄ってきた。
「君、お名前は?」
ずいっと蘭華に顔を近づけ、その距離蘭華の顔面約5cm程の近距離。
「えええええええっと……うううう、歌永蘭華とももも申しまっす!」
蘭華は一瞬、自分の名前すら忘れてしまう程動揺する。
なんせ、あの学園トップの秀才の神童寺が自分の顔面の近くで話しているのだから。
神童寺は、クラスメートでさえこれほど親しくは話さないので、女性を口説くなんてそんなにないことだろう。
「歌永蘭華さん。とても綺麗な名前ですね」
「ああああああああああ、ありがとうございます!」
そして神童寺はそのまま、さっきの光河の態度とは全く違う、穏やかな表情で言った。
蘭華の顔は茹でダコ以上に真っ赤になり、今にもボンッと音を立てて爆発しそうなくらいだった。
「おいおい、勝負前に女を口説くなんて、礼儀がなってねーんじゃねーか?」
「お前が言うな!」
やれやれ、と呆れる光河に、神童寺は敬語もなっていない彼につっこんだ。
――5分後。
校内戦の審判の教員が特別寮に呼び出され、いよいよ始まろうとしていた。
「本当にやるの?」
「おう!生徒会長になって、この学園を改善する!」
彼は緊張とか、そういうものは一切感じていない。
感じているものがあるとしたら、それは闘争心などだろう。
「では、これから校内戦を始めます。挑戦者、叶水光河」
「はーいっ!」
「保守者、神童寺秀良」
「はい」
2人が大理石のフロントに向かい合い、互いに同意の返事をした。
「両者の了承を得ましたので、これより、この校内戦を正式なものとします。教科は国、数、理、英、社。問題数は20問。先に間違えた方の敗北です。では、開始!」
教員が笛を吹くと、光河と神童寺の前、つまり空中に青いパネルが浮かび上がった。
今で言う、クイズ番組に使用するパネルのようなもので、横の白いペンで答えを書き、ボタンを押す。
ボタンを押した時点でその答えが承諾される仕組みとなっているのだ。
「問い一!国語の問題。長編小説、『浮雲』の作者名をフルネームで答えなさい」
「「二葉亭四迷!」」
教員が問題文を読み終わらないうちに、2人はパネルに回答を書き終えていた。
そして問題の採点が一瞬でされ、ピンポーンとチャイムが鳴る。
教員の前に浮かんでいるパネルに、01-01の文字が映し出された。
「ふんっ、ウォーミングアップにもならない問題だな」
「これくらいよゆーよゆー!」
2人は楽勝で正解し、まだまだ余裕しゃくしゃくの態度だ。
「うわぁ、2人ともすごい……!中学1年生じゃ、習っていないのに……」
そんな光河と神童寺を、蘭華は唖然とモップを見ながら見つめているのであった。
「正解。では数学の問題です。内角が135°になる図形を答えなさ……」
「「8角形!」」
両者、出題者の言葉を遮るように言い、問題を書き終える。
「……せ、正解です……社会の問題。中尊寺金色堂が設立したとされている年代は……」
「「1124年!」」
またとしても、2人は息ピッタリで答えを言う。
その後も10問目、15問目と、両者正解で進んでいき、中々進展はない。
「重水素 と三重水素による核融合に必要なプラズマに対する三つの条件のことを……」
「「ローソン条件!」
教員が一般生徒にとって訳の分からない用語を羅列しても、彼らは戸惑うことなく答えを記していく。
「ふん、他の雑魚よりはやるみたいだ」
神童寺が強がって偉そうに言うと、
「まぁ、生徒会長って言うくらいなんだから、これくらいやってくれなきゃ困るんだけどな!」
と、光河も負けじと言い返す。
「す、すげぇあのZクラスのやつ!会長と互角に渡り合ってるぞ!」
「あ……あぁ。にしても、2人ともよくそんな細かいことまで知ってんなぁ……」
周りも蘭華動揺、彼らの頭脳の明晰さに圧倒されている。
「光河さん……頭がいいとは思ってはいたけれど、まさか会長並なんて……」
「これが最後の問題です。この問題で両者正解した場合、延長戦に突入します」
教員が問題文の印刷された紙を開き、ゆっくり読み上げた。
「国語の問題です。スタンダール作の『赤と黒』の主人公の名前を答えなさい」
「な……!?」
これは珍しく、神童寺が焦るような問題だった。
「へぇ、分かんねーの?」
光河が挑発的な表情で神童寺を見る。
「ふん、少し反応が鈍っただけさ」
本当は分からないのに、解らないのに、神童寺は強がってみせる。
「んじゃ、先に答えるぞー」
光河はさらさらっとパネルに答えを書き、余裕の笑みで神童寺を見据える。
パネルはカンニング防止のため、本人しか見えないようになっている。
「く……っ」
赤と黒、題名は聞いたことあるが――
くそっ、幼少期からいろんな純文学に触れてきたが、いくらなんでも知らない作品の主人公名など……
「神童寺さん、回答までの残り時間の猶予はあと10秒です」
教員がストップウォッチと神童寺を交互に見ながら言う。
「ええい、もうこれでいい!」
神童寺は自暴自棄になり、適当に答えを書いた。
――ブーッ
――ピンポーン
2つのチャイムが同時に鳴り、その瞬間に周りは固唾を飲んだ。
「どっちだ?」
「今の様子からすると、あのZクラスのやつっぽいけど……」
「こんなの分かる中やつとかいんのか?」
ギャラリーの予想は五分五分で、全く検討がつかない状態だ。
「光河さん……」
蘭華は緊張し、心配そうな目で光河を見る。
「正解者は――――……」
数秒の沈黙があった後、
「叶水光河さんでした!」
教員は驚きの表情で言った。
そして次の瞬間、周りの観客がざわつき始める。
「いえーい、ジュリアン・ソレルで合ってた〜。『赤と黒』はサマセット・モームの『世界の十大小説』にも取り上げられているから、読んでみることをオススメするぜ?元生徒会長さんよー」
神童寺は悔しそうに歯ぎしりし、歪んだ表情で項垂れた。
そしてその後、蘭華は光河の元へモップを持ったまま駆け寄った。
「す、すごいよ!光河さん!あの生徒会長と校内戦で勝っちゃうなんて!」
「んー、延長戦ギリギリまで持ち込まれて正直しんどかったなぁ〜」
光河は歓喜の声をあげたりせず、当たり前、という風な感じだ。
「くっ――次の定期テストでは必ず1位に返り咲いてみせる!」
神童寺は項垂れたまま悍ましい目つきで光河を睨みつけ、立ち去っていった。
そしてその場に、『生徒会長』と書かれた腕章だけが残っていた。
「今日から、俺、叶水光河は生徒会長になりましたぁ――っ!」
光河は床に落ちていた腕章を拾い上げ、自分の袖口に留めた。
周りでは、前生徒会長に不満を持っていた人々が拍手を始める。
1年2年と問わず、色んな生徒が光河の元に押し寄せてきて、混雑している。
特別寮の1階はまるで、王の戴冠式のようになっていた――
――そして。
審判を務めた教員が校内戦の結果の報告書を届け、光河は正式に生徒会長となり、負けた神童寺は権力も失なってしまった。
生徒会長の権力は、校則の変更、学園のイベントの企画、学園の費用の割り当て決めなど、多大な力を持っている。
そのため、生徒会長になれば最早、この学園を支配できると同然なのだ。
最も、抹殺制度は理事長にならない限り廃止できないのだが。
「ふぃーっ!んじゃ、帰るか!」
光河は特別寮でもみくちゃにされたあと、何とか逃げてきた。
もう外は夕暮れで、2人の影を長く長く伸ばしていた。
「おめでとう、光河さん。正直私、貴方があんなに天才だとは思っていなかったわ」
蘭華は今まで散々、頭が悪そうと勝手に思ってしまい、悪く思った。
「俺、天才じゃねーけど」
「貴方を天才と呼ばないなら、誰を天才と呼ぶのよ!?」
蘭華は無自覚な光河に呆れた。
「んで、今日はなんの教科をやるんだ?」
「……国語をお願い」
「ん、了解!」
そして、2人はいつも通り勉強会を行うことになった。
以前蘭華が部屋を片付けたおかげで、大分スッキリしていた。
机を移動し、椅子を向かい合わせに並べて勉強をする。
光河の教え方はかなり独特で、不思議と頭に入る特徴がある。
なぜだかよく分からないけど……先生の教え方とはまた違う。
「ちなみに正岡子規は、試験でカンニングしたことがあるんだぜ。これ、豆知識な」
「へ……へぇーっ……知らなかった。あの正岡子規が……」
正岡子規は英語が苦手だったらしく、試験中に隣の席に居た人に答えを教えてもらったらしい。
その後、正岡子規は合格したものの、教えた人は不合格になったそうな。
勿論、教科書に出てくることも教えてくれるけど、案外知られていないような、テストにでなさそうな豆知識も教えてくれる。
「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺……松山や 秋より高き 天守閣……うそ、もう2句も覚えちゃった……」
蘭華はなんと、光河の指導のおかげで、約開始3分程で俳句を覚えてしまったのだ。
「なんでだろう、教科書を閉じても、忘れようとしても忘れられない……」
「よかったじゃん、2句も覚えられて」
光河は相変わらずしれっとしているが、その正体は謎。
それに、光河の指導は不思議で、光河から教えてもらったものは忘れようとしても忘れられない。
まるで、脳がその記憶を離してくれないかのように。
「光河さんって、一体何者なの?いきなり生徒会長に勝っちゃうし、教え方すごく上手いし」
蘭華は、訝しげに光河を見つめる。
こんなのまるで、見た目は子供、頭脳は大人の某アニメの主人公みたいだ。
「何者って言われてもなぁ……俺、普通の中学生だし?」
「普通の中学生が、勉強もせずにあんな天才になれるわけない!何か秘密があるんでしょ?」
蘭華は光河に尋問するが、光河は困った顔をして腕を組んでいるだけ。
「俺、普通にゲームしたりテレビ見たりサッカーしたりしてたんだけどなぁ……」
蘭華はなかなか秘密を吐こうとしない光河にムッとし、部屋をぐるりと見回して物色した。
部屋にはゲーム機のカセットや少年漫画、サッカーボールといった物しかなく、勉強道具が何一つ見つからない。
ただ、蘭華が気になったのは、閉まりきっていないクローゼットから除く、白い布だった。
「光河さん、あれ何?」
蘭華がクローゼットの向こうを指すと、そこには白衣が落ちていた。
サイズは小さく、今の光河では着られそうなサイズではないため、もう何年も着ていないと思われる。
皺だらけで、薬品の臭いが染み付いている。
「あ……あぁ。あれか――昔、着ていたやつだよ」
光河は椅子から立ち上がり、白衣を拾い上げて畳むと、クローゼットの奥にしまいこんだ。
――
「今日はありがとう。明日の国語の小テスト、出来そうな気がする」
「そうか、そりゃー良かったな」
光河はポケットに手を突っ込んだまま、そう言った。
「それじゃ、また」
「おう」
蘭華はドアノブを握って回すと、そのまま出て行く。
「…………」
その姿を、光河は沈鬱な表情で見据えていた――
――翌日。
案の定、クラス中……否、学校中が大騒ぎになっていた。
「おい、聞いたか!?」
「あぁ。Zクラスの転入生が、生徒会長に勝ったんだってよ!」
「生徒会長は後で校内戦で副会長に勝って副会長の座を得たらしい」
いつの間にか、蘭華も知らない新情報も流れている。
どうやらその後、神童寺は副会長を校内戦で倒し、生徒会に返り咲いたようだ。
「おいおい、なんの騒ぎだぁ?」
蘭華より少し遅れて登場したのは、新生徒会長の光河だ。
よくよく見ると、腕に『生徒会長』と印字された青い腕章を身につけている。
生徒会長の権限は得たものの、クラスまではまだ変わらない。
光河が教室に入るなり、ドッと人が集まってくる。
「叶水さん、生徒会長になったの!?」
「あの神童寺会長に勝ったの!?」
光河の席はたちまち人によって埋め尽くされ、光河は身動き出来ない状態に陥る。
色んな人から次々問い詰められ、光河は困り果てている。
「おいおい、何だなんだ?俺座れねーんだけど……」
光河は自分がした事がどれだけすごいか自覚しておらず、ちんぷんかんぷんだ。
その様子を、座れずに立っていた蘭華がため息をついて群衆の遠くから見ていた。
光河が生徒会長に就任してから1週間が経とうとしていた。
色々と校則が改善され、Zクラスの掃除の撤廃や、下クラスでの図書室利用可能など、差別問題を主に改善していっている。
上クラスの優遇は変わらないので不満は無いし、下クラスは差別が緩くなったおかげで現生徒会長、光河に感謝している。
「いやぁ、今の生徒会長、すげぇいいよなぁ」
「あぁ。図書室利用可能になったおかげで、欲しい資料が手に入ったんだ」
下クラス、上クラスからの支持率は、前生徒会長を大幅に上回った。
――帰り間際のホームルーム。
「えー、遂に、3日後に定期テストがあります。このテストで抹殺者とクラス分けが決まる、重要なテストです。皆さん、全力で臨むように」
強面の担任の先生がそう言うと、クラス全員がざわめく。
「遂に3日後、定期テストかぁ……」
「ま、どうせ大幅には上がらないだろうし、せめて抹殺者にならないようにしようぜ」
もう、このクラスの生徒の大半は成績を上げることを諦めていた。
なぜなら、もう自分には見込みがなく、いくら頑張っても成績が上がらないと、自分で自覚してしまっているから。
以前の蘭華もその一人だったが、今は違う。
光河に出会って、教えてもらい、あれから約2週間が経っていた。
蘭華はこの2週間で小テストのできが良くなり、小テストは安定して満点を取ることが出来るほどになっている。
以前は10点中1点でも取れれば良い方という、かなり悲惨な点数だったのに。
今では小テストの満点は勿論のこと、難関問題も出来るようになってきている。
難関問題は教科書の巻末に、S,Aクラス用に作られた問題なのだが、蘭華はS、Aクラス用に作られたとは全く知らないし、他の生徒も説明されていないため、この事は知らない。
全校生徒はただ単に難しい問題としか認識していないのだが、実はS,Aクラスに匹敵する学力だと示す問題でもあった。
「次の定期テスト、きっとEクラスには入れるかも!」
蘭華はそんな事も知らずに、実力よりかなり低い成績を期待している。
難関問題はBクラスの成績優秀者でも解くのがやっとなくらいで、2週間で5教科の難関問題をマスターするのは不可能に限りなく近い。
普通だったらありえないが、光河の指導はとんでもない効果を齎したようだ。
「光河さんは、多分Sクラスだよね?」
「ん?よく分かんねーけど、俺よりこの学園に詳しいお前がそう言うならそうなんじゃね?」
光河はテストには全く興味がないと言わんばかりにあくびをする。
「はぁ。成績優秀なのに、その頭脳を生かさないなんて勿体ない」
蘭華は羨ましそうに光河を見る。
「俺、別に学問とか興味無いしなー。高校生活って、文化祭やったり、体育祭やったり、青春をエンジョイできるって聞いたから入学したんだけどさぁ」
光河が差し出したのは、40年程前の雑誌だった。
「これ……2010年の雑誌じゃない!」
「俺の家の倉庫にあったんだよなぁ。楽しそうだから入ったけど、皆勉強とかテストばっかでつまんねーじゃん」
どうやら光河は、40年前の学校の雑誌を見て楽しそうだから入学したらしい。
天才なのかアホなのか、蘭華は分からなくなってきた。
「テストまであと3日!全力で勉強して、Eクラスに入ろう!」
放課後、恒例の光河の指導も受けた後、蘭華は自習学習に励んでいる。
成績が向上してきているからといって、勉強を怠ってはいけない。
毎日コツコツ、地道に解いていかなければ――!
「うわぁ、前まで苦手だった数学も、難関問題を全部解けるくらいになった……」
巻末に作られた難関問題を全て解き終わってしまい、蘭華は自分でも驚く。
思い返せば、光河と出会ってからの2週間、人生が180度変わった。
最初の頃、私は抹殺者ギリギリの成績で、落ちこぼれ、底辺だった。
もう、殺されるのを覚悟でテストに挑み、ギリギリ免れた。
けれど、今は難関問題まで解けるし、小テストも満点続き。
自分の能力が、目まぐるしく変わっていく。
「ふぅ、3日しかないんだ。他の教科も頑張らなくちゃ」
蘭華はもう一度強くペンを握り直すと、また問題集を解き始めた。
――3日後。
「うわぁ、うわぁー!遂に……定期テスト」
朝起床し、寮の食堂で食事を摂る際から雰囲気が違っていた。
皆ピリピリとした空気で、緊張感があり、誰ひとりとして喋らない。
「おい、何でこんなに静かなんだ?」
隣の席に、光河が座ってきて密かに耳打ちしてきた。
「定期テストだからに決まっているでしょ?皆緊張しているの」
蘭華は呆れながら、溜息混じりに言う。
「へー」
相変わらず、光河は自身があるのか余裕しゃくしゃくの態度だ。
光河と蘭華は食器を下げると、いつも通り登校していった。
教室内でも、みんな黙って教科書や参考書を直前まで眺めていた。
唯一見てないのは光河だけ。
みんな必死なのだ。
なぜなら、成績が下がり、下から10名になると殺されてしまうから。
「筆記用具をしまえー」
担任の先生がガラッと入ってくる。
この一言で、緊張していた雰囲気がさらに緊張感を増す。
問題用紙が配られ、ペンを握る。
その時から既に蘭華は手汗を握るくらい緊張していた。
――大丈夫、きっとできる――
蘭華はそう自分に言い聞かせ、気持ちを静めた。
「それでは、45分間。はじめ!」
その一言で、クラス中のテスト用紙をひっくり返す音が一斉にする。
柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺。この歌の作者をフルネーム、感じで諳んじなさい。
――正岡子規
問一の短歌は何句切れでしょう。
――句切れなし
次の日本語を英文に訳しなさい。トムは窓を閉めることができなかった。
ここは過去形だからcanじゃなくって……
――Tom couldn`t close the window.
炭酸水素ナトリウムの化学式を答えなさい。
なほこさん(NaHCO3)で、炭酸ナトリウムなつこさん(Na2CO)だから……
――2NaHCO3→Na2CO2+CO2+H2O
記号Aの国名を答えなさい。
これはマイナーな国だけど、光河とやった……
――ベリーズ
蘭華は今までテストでできなかった問題を次々と解き、遂に5教科を終えた。
「ふー!予想以上に出来ちゃった」
なんと、蘭華は5教科全てのテストを埋めてしまったのだ!
「Cクラスに入れちゃったりして」
蘭華は達成感を感じながら、思いっきりのびをした。
――2日後。
テストの結果が掲示板に発表された。
廊下の掲示板前は混雑していて、生徒達が押し寄せてきている。
全校生徒の名前が載せてあり、探すのも一苦労だ。
「すっげー混雑してんなぁ」
「うん。皆、何だかんだ言って自分の成績が気になるんだよ」
蘭華と光河は要約掲示板の見える位置に立つと、自分の順位を確認した。
「えーっと、俺は……あー、あった上だ」
光河は先頭に印字された、『1位 叶水 光河 500点』という文字を目にした。
一方蘭華は、下から順に見ていくが、一行に名前は見つからない。
「あれっ、おかしいな?Cクラスまで私の名前が無いなんて……先生のミス?」
蘭華は自分がCクラス以上の成績になるという考えが全く脳内になかった。
「おい、何言ってんだお前?ここに名前あんぞ」
光河は顎をクイッと上に突き出し、蘭華に指し示す。
そこには――
「え…………えええええぇ―――――っ!?」
『7位 歌永 蘭華 480点』と、間違いなく印字されいてた。
「うそうそうそ、絶対おかしい!Sクラスに入ってるううぅぅ!?」
蘭華はぎゃあぎゃあ悲鳴に近い声をあげながら、混乱している。
「おかしい!展開早すぎっ!前まで成績Zクラスだった私が、いきなり全校生徒7位なんておかしい!おかしすぎっ!」
「そうでもねーだろ。お前飲み込み早いからなぁ。難関問題もすんなりイケたじゃん」
光河は当然の結果だろ、と言うような様子だ。
「おい、あの歌永って、前までZクラスじゃなかったか?」
「あぁ。転入生はともかく、一般人のあいつがいきなりSは怪しい」
「隣が生徒会長だから、カンニングしたんじゃないか?」
周りの生徒は蘭華を見ながら、ヒソヒソと意地悪く話す。
そこに、とある人物が現れた――
「ちょっと、歌永さん?」
唖然としている蘭華と、光河の背後から聞き慣れない声がした。
振り返ってみると、そこにはいかにもお嬢様みたいな格好の女子が立っている。
髪の毛は何時間セットしたんだ!?と言いたくなるくらいの完璧な巻き髪、大きなリボン。
眉をキリッと釣り上げ、なんだか不服そうな様子だ。
「えーっと、貴方は確か、書記の……」
「彩風麻里乃と申します。あなたのせいで、7位から8位に転落しましたわ……」
それはただ単に貴方の責任なんじゃ?と蘭華は心の中で思う。
「それはおいておいて。単刀直入に言わせて頂きます。歌永さん、貴方……カンニング、しましたよね?」
麻里乃は蘭華の言葉を遮るように言い、否定を認めない言い方をした。
「そんな……っ!カンニングなんてしていません!」
「貴方のような先日までZクラスに居た人が、どうして隣の席に天才が来た途端に成績が向上したのかしら?」
「それは……」
もちろん、蘭華が光河に指導してもらい、自分でも努力したから。
けれどもそれは、ありえないくらいの上達っぷりで、信じてもらえそうにない。
未だに、自分でも信じられていないくらいなのだから。
「貴方を退学……いえ、抹殺を推奨することもできます」
麻里乃は蘭華に詰め寄り、睨みつける。
「ちょっと待って下さい、私本当にカンニングなんて、目撃者でもいるんですか……」
「おいおい、勝手に決め付けんのは、早いんじゃねーの?」
またしても蘭華の言葉は遮られ、光河が割り込んでくる。
「会長は無関係のはずです」
「それが関係あるんだよなぁ。こいつは正真正銘実力だぜ?多分、こいつのことだから、毎晩遅くまで勉強してただろーなぁ」
光河は制服のポケットに手を突っ込みながら気だるそうに言う。
「そこまで疑うんなら、校内戦でお前と勝負すればいいんじゃね?んで、勝ったらカンニング疑惑取り消しと、こいつの書記任命」
「え……えええええ!?ちょっ、何勝手な事言ってんの!?展開早すぎ!ちょっと!」
「私は構わないわ。何なら、私が挑戦者になってもいい」
麻里乃は余裕の笑みをうかべ、自信満々の様子。
「歌永蘭華!貴方に校内戦を申請します!」
ビシッと蘭華の方を指差し、勝負を挑んできた。
「な、なんてこと〜!」
蘭華は半分泣きそうになりながら、その場に項垂れた。
校内戦を拒否する間もなく、審判の教員が呼ばれ、掲示板前で校内戦が始まろうとしていた。
案の定、校内戦と聞いて、学校中の生徒が集まり、ギャラリーができる。
「おい、書記の彩風とZクラスの歌永が校内戦するらしいぞ」
「歌永って確か前のテストまでZクラスじゃなかったか?」
「こりゃ、歌永の負けだな」
もう周りでは麻里乃が勝ったような雰囲気になっている。
「光河さん!何であんな勝手な事を言ったの!?私が校内戦で彩風さんに勝てるわけないよーっ!」
「お前なら、あいつに勝てるって!お前は正岡子規じゃねー。カンニングなんてしてねーんだろ?」
相変わらず光河は無責任で、蘭華の肩を叩いてグッドサインをした。
「こんなに人が集まって……これじゃ私、恥さらしにされるー!」
そして、泣く泣く蘭華は校内戦をさせられることとなった。
「挑戦者、彩風麻里乃」
「はい!」
「保守者、歌永蘭華」
「はい…………」
「それでは、この校内戦を正式なものとして認めます。教科は5教科。問題数は20問。先に間違えた方の敗北となり、挑戦者は抹殺、保守者は立場入れ替えとなります。用意……はじめ!」
教員が笛を吹くと、ピーっと甲高い音が鳴り響いた。
「では、第一問。理科の問題。エタンの化学式を答えなさい」
教員が問題を読み上げると、2人は一斉にパネルに答えを書いていく。
そして2人が回答送信ボタンを押すと、同時にピンポーンと正解のチャイムが鳴る。
「C2H6。簡単すぎて、話にならないわね」
麻里乃は蘭華を睨みつけながら言う。
「第二問。3代目アメリカ大統領の名前を、英語表記、フルネームで答えなさい」
「アメリカ大統領……あっ」
蘭華は緊張しながらも、素早くペンを走らせて書いていく。
「速い……」
麻里乃も蘭華の頭の回転の速さに、少し動揺している。
蘭華が先に回答送信ボタンを押し、その次に麻里乃が押す。
そして、ピンポーンとチャイムが正解を告げる。
「John Quincy Adams。ふぅ、合っていて良かった」
蘭華は安堵のため息を漏らし、麻里乃は少し焦っている。
――本当に彼女の実力だというの……?
いえ、まだ2問目だから、きっとこれからボロを出すわ!
しかし、そんな麻里乃の予想は裏切られてしまった。
「五月雨や 集めて早し 最上川。作者名を答えなさい」
普通授業で俳句は一つ一つ習わないため、自習学習がモノを言う問題。
「この俳句、前に読んだ……」
だが、蘭華はすぐに分かった。
こちらも、蘭華が一足先に回答ボタンを押し、麻里乃が続いて答えを書き上げる。
「正解です!」
「ふん、松尾芭蕉ね。貴方、少しは努力したようね」
麻里乃は腕を組みながら、蘭華の方をまだ睨み続けていたが、その心の奥には大きな動揺が芽生えていた。
3代目アメリカ大統領はトーマス・ジェファーソンでしたね
ジョン・クィンシー・アダムスは6代目でした、すみません...