In order to meet you *百合*

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1:じゃじゃん:2015/10/25(日) 12:22 ID:Icg

葉っぱでは、初めて小説を書かせていただきます。

百合注意です。

暇潰しにでもどうぞ。

2:じゃじゃん:2015/10/25(日) 12:48 ID:Icg

「君、大丈夫? どこか痛いの?」
「……」

泣きじゃくる私を、心配そうに見てくれた。

「これあげる。ハンカチなんだけど……とってもいい匂いするでしょ?」

そのお姉さんが渡してくれたハンカチは、石鹸のような香りがした。
「名前書いてあるけど、気にしないでね」なんて、笑いながら。

その時のお姉さんが今も忘れられない。あの透き通った声が、あの白い肌が、あの優しい笑顔が。

ピーッ ピーッ

目覚まし時計にしては控えめな音が、部屋に響きわたる。

「ん、またあの夢……」

上体を起こし、目覚まし時計を止め、真希はそっと呟いた。
そして、壁に掛かっている制服に目を向けた。

「あっ!」

慌てた様子で、制服を手に取った。

未だに信じられないのだ。自分がこんな名門校に受かっただなんて。

「今日から宜しくね」

なんて、少し恥ずかしい事を言ってしまった。
まあ、今日くらいはいいだろう。

そうだ、あのハンカチも持っていこう。お守り代わりに……ね

「麻希! 遅れるよ!」

母の声で、現実に戻らせられた。

そうだ、今日はもう入学式。
ぼーっとなんて、していられないんだ。

麻希は返事をし、速足で階段を下りていった。

3:じゃじゃん:2015/10/25(日) 13:22 ID:Icg

「じゃあお母さん、入学式先に行ってるね」

新品の制服に身を包み、麻希は外に出た。
心地よい風に、二つに結んだ髪が揺れる。

「えっと……、電車これでいいんだよね?」

何度もメモ帳を確認し、恐る恐る電車に乗った。
麻希は田舎の方に住んでいるため、あまり交通機関を利用する事がないのだ。

「ふぅ」

ため息をつき、座席に座る。そして、ハンカチを手に取ってみる。

”レイ

と刺繍されたハンカチ。きっと持ち主の名前は”レイさんなのだろう。

……ここの学校入ろうと思ったのも、レイさんの影響なんだよな。

あの時のレイさんの服装は制服だった。
紺色のセーラー服に、チェックのミニスカート、目を引く胸元の大きなリボン。

当時九歳だった私は、当然、制服だけで学校が特定出来るわけがない。
しかし、努力して調べた。その結果、この優心女子学院だったのだ。
また、中貫一校だったため、会えるリスクも高いと思ったのだ。

「次は△△駅〜 △△駅〜」

学校付近の駅だ。荷物をまとめ、降りる準備をする。

「ヤバイ、遅れそう……」

扉が開いた瞬間、麻希は走って、学校へ向かった。スクールバッグに付けている、お気に入りのストラップを落とした事も気づかずに。

4:じゃじゃん:2015/11/05(木) 13:30 ID:Icg

「うわぁ……」

思わず校門の前で、立ち止まってしまう。
麻希はこんな綺麗で大きい学校を見たことは無かったのだ。
さすが私立。 さすが女子校。

「……レイさんも、ここに通っていたのか」

憧れの先輩、レイさんも、この学校に通っていたのだと思うと、嬉しさが込み上げてきて、胸がドキドキしてしまう。

「あ。美優ちゃん、それってアッブルのスマホ?」

「そうなの。パパが入学のお祝いに買ってくれたのよ」

「へぇ〜。さすが社長令嬢!」

ふと周りを見渡すと、やはりお金持ちの子が多いようだ。

アッブル……!? 生意気な……

そう思う気持ちをぐっと堪え、麻希は深呼吸をする。
市立中学に行けと言う父を、何とか説得して、やっと入れた学校なのだから、楽しまなくては勿体ないと。

淡いピンク色の桜がひらひらと舞う。
麻希に”がんばれと語りかけるように。

「……うん、頑張る」

小声でそう言った後、麻希は走って校舎へ向かった。

5:じゃじゃん:2015/11/05(木) 17:47 ID:Icg

「えっと、私のクラスは……と」

麻希は廊下で自分のクラスを確認していた。
クラス表が掲示してある廊下は、表と睨み合う者、「同じクラスだね」と手を合わせて喜ぶ者と、たくさんの人がいた。

どうやら麻希は四組のようだ。
早速、四組の教室に向かう。

どんな友達に出会えるのか、
どんな楽しい出来事があるのか、
希望に胸を膨らませていた麻希だが、それは一発で砕かれてしまった。

「星羅。そのポーチ、Candyの新作じゃない?」

「うん、五千円で、意外と安かったから。ママにおねだりしちゃった」

ぽっ……ポーチで五千円!?

「あそこのホテルっていいよね。うちはお盆やお正月は、全部あのホテルで過ごしてるんだ」

「へえ、梨華のお家はあのホテルなんだ。うちはここだよ。」

おっ……お盆やお正月はホテル!?

他にも車がベンツだとか、お手伝いさんがいるだとか……。

……ここって、こんなお嬢様学校だったっけ?

麻希は誰とも話す事が出来ず、ただ一人で椅子に座っていた。

6:じゃじゃん:2015/11/05(木) 20:50 ID:Icg

「四組、廊下に並んでください」

担任の先生の指示に従い、みんな名簿順に並ぶ。

……あ! ボーッとしてちゃダメだ。
まだ私、学校来て誰とも話してないじゃん。
このままだと、ボッチ確定!?
……それはダメ。絶対嫌だし。

とりあえず、自分の前にいた子に話しかける事にした。

「あ、あの!」

怪訝そうに振り向くのは、栗色の髪の毛が特徴的な女の子。
はっきりとした顔立ちで、すごく美人。

「わ、私……渡辺麻希です」

「……私は神崎未紅」

冷めた様子で話す神崎さんと、無駄に緊張している私。
異様な光景だろうな。

「あ、えっと。未紅ちゃんは、小学校どこだった?」

「……神崎小だけど。お祖母ちゃんが校長だから」

「えっ!? お祖母ちゃんが校長先生なの! 凄いね」

私たちの間に沈黙が流れる。

どうしよ……何か、何か話さなきゃ。

「もう、戻ってもいい? 友達と話してたんだけど」

神崎さんの冷たい視線。麻希は一気にどん底に突き落とされた気分だ。

「……うん。ごめんね」

こんなはずじゃなかった。
こんなはずじゃなかったのに。

インクのような黒いものが、心にドクドクと零れていく。

「四組、入学式会場に移動します」

指示に合わせ、足を進める。
……あれ? 進みたいのに、
足が進まない。


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