___もう、私に逃げ場はないんだ。
彼女は傷だらけの腕を握りしめ、大きな崖の上に立っていた。
「私のいる世界は、こんなに高くなかったよね……」
溢れる涙を拭いながら、真っ直ぐと空を見上げる彼女。
「…神様のバカ。
不公平だよ……」
刹那、崖の上から彼女の姿が消え、直後に小さな衝突音が響いた。
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「ほーら、早く食えよ!」
「え〜、これホコリじゃんw」
「こいつが私たちと同じもの食う権利なんて無えだろw」
「確かに〜こいつマジで病原菌www」
笑い声があちらこちらから聞こえてくる。その中心で四つん這いになる黒髪の女。
彼女は「病原菌」と呼ばれた、いじめの標的だった。
「………嫌だ」
「は?聞こえねーよww」
「お前の口なんか飾り程度なんだよ!」
「飾り?ただのゴミでしょw」
「あははははは、間違えたーーw」
「うぅ……助けて……」
彼女は涙を堪えながら、震える唇を噛み締めた。
一時間目の授業が終わり、彼女にとって最悪な、彼らにとって最高な時間が再びやってきた。
「きゃああっ」
木製のバッドで殴られた彼女は苦痛に顔を歪め、床に倒れ込んだ。
「流石野球部エース!やるね〜!」
「あとでバッド洗えよ〜w」
「菌が着いたかもなw」
「うっわー!もう捨てなよそれ〜!」
彼女の額から鮮血が流れ、くすんだ床に滴り落ちる。
「っ……」
流血に怯える彼女に、更なる恐怖が襲いかかった。
「次はコレー」
「!!や、やめて……お、おお願い………ぁあぁぁぅ……」
彼女はソレを見たとたん、血の気が引くのを感じた。
ソレは、銀色に光る鋭い刃を持ったカッターナイフに他ならなかった。
「い、いやぁあぁああぁあぁっ!!!」
「………はははははははっ!」
「う、わ……………」
「あんた、やり過ぎww」
「でもこれがこいつのあるべき姿なんじゃね?」
彼らの指差す先には、傷だらけになった彼女の醜い姿があった。
「あ………ぁあア…アあァ…アあ」
彼女は苦しそうな呻き声を上げて、力尽きたのか鮮血の池の上に倒れ込んだ。