卒業を控えた2月。
私の好きな人、陽輝君が引っ越すと知った。
この想い、どうしたら良いんだろう。
サヨナラ。ずっと待ってるよ――。
〜登場人物〜
恩田 花栞(おんだ かな)
同じクラスの陽輝が好き。男子とはあまり話せないタイプだが、
陽輝とはどの男子よりも仲がいい。
榎本 陽輝(えのもと はるき)
同じクラスの花栞のことが好き。クラスでも結構目立つタイプ。
1.突然の知らせ
「そういえばさ、陽輝引っ越すんだってね。」「うん、そうらしいね。」
「えっ」
お昼休み。仲良しの夏津ちゃんと亜花莉ちゃんが言った。
2人はさも当然というように話していた。
知らなかったのは私だけだったらしい。
「あれ、知らないの?もう知ってるのかと思った!」「うん、花栞ちゃん陽輝君と仲いいしね。」
2人とも驚いた様子で私を見る。なんで陽輝君、私に教えてくれなかったんだろう……。
なんで…。私は、すごくショックだった。陽輝君のことは結構知っていると思っていた。
ただ、“つもり”だったんだ…。
放課後。
私はいつも陽輝君と家まで帰る。
だから今日も一緒に帰った。
そして帰り道、思い切って今日のお昼休みの話を確かめようと――
「陽輝君ってさ、引っ越すの?」「えっ………うん。」
一瞬驚いたような顔をした陽輝君。でも、その後俯いてそう答えた。
「………なんでさ…。」
抑えようとしてもダメだった。喉の奥から何かに押し出されて、気付いた時にはその勢いで言ってしまった。
「なんで私には教えてくれなかったの!!」
〜登場人物紹介〜
山田 夏津(やまだ なつ)
ムードメーカー。天真爛漫。
同じクラスに好きな人がいる。
上村 亜花莉(うえむら あかり)
愛想が良い。好きな男子ができたことがない。
モテるタイプ。
3>>亜花莉と夏津は、花栞が陽輝のことを好きなのを知っている。
5:未月希:2016/03/25(金) 14:15 ID:nec 「ごめん、もう話したと思ってた。」「……そっか、そうだったんだ。怒ってごめんね。」
涙を流すのを必死に堪えて言った。嘘だって気付いてる。
だけど、このまま追い詰めても嫌な思い出として、嫌な奴として陽輝君の中に残るのが嫌だった。
だからこのまま、せめて嫌な奴とは残りたくない。せめて、せめて、普通のやつでもいいから。
なっちゃんと亜花莉ちゃんと一緒に居た奴とでも良いから思い出して欲しいから。
私は、これ以上言わなかった。
「ごめん、今日、用事あったんだ…。先帰るね」
「えっ、おい花栞!」
いきなり走り出した私を陽輝君は大声で呼び止めた。
でも、このまま止まったら絶対に泣いてしまいそうで、泣いたところなんて陽輝君に見せたくないから、
私は走って走って、家の前まで着いたとき、誰にも聞こえない様に静かに泣いた――。
陽輝君と、もう一緒に帰れるのも……少しなんだ――。
次の日、私は学校を休んだ。
母には「体調が悪い」と言って、体調不良という理由で学校を休んだ。
亜花莉やなっちゃんから来た心配のメールに、少し罪悪感はあったけど……。
仕方ない。だって、陽輝君に会えるわけ無い。でも、やっぱり罪悪感の方が勝り、このまま休み続けるのも
余計学校に行きづらくなるだけだろうと、自分を納得させるように何度も繰り返し、「明日は学校に行く」
と母に告げた。
次の日。
「あぁ…。来ちゃった、ついに朝が…。」
目覚まし時計の音に少し苛立ちを覚えながら『まだもしかしたら……』という絶対ありえない希望を持って
カーテンの下から、外を見る。
「…明るい、やっぱり…あぁ。」
そりゃそうだよね、覗かなくたってわかる。明るいもん、カーテンの下が……。
「花栞ー、起きてるー?」
下から母が私を呼ぶ声が聞こえた。
「今行くー!」
憂鬱な気持ちでベッドから立ち上がり、うーんと背伸びをした。
「よしっ!気にしない!」
笑顔を作ってカーテンを開け、下に降りた。