十戒名日乗

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1:みえ様◆ro hoge:2016/03/26(土) 22:43 ID:ZNM

※多分更新しなくなる日が来ます
私のオリキャラたちを使った1話完結の話です
本当はちゃんとしたストーリーがあるのですが、まだ完成しないので此処ではかきません
IFストーリーとかみんなの日常とかを書きます
オリキャラについてはここをみれば大概わかります
http://uranai.nosv.org/u.php/novel/7b2209059f12/
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55105293

2:みえ様◆ro:2016/03/27(日) 19:58 ID:ZNM

キャラ紹介のためのお話〜閻魔王編〜

 カーテンがゆれて、柔らかい光が閻魔王の頭上に差し込んだ。ゆっくりと上半身を起こし、瞼をこする。

「ああ、おはようございます、閻魔王様。今日はいい天気ですよ。朝ごはんを食べたら散歩にでも行きませんか?」

 この少々口数が多い男は地蔵菩薩。閻魔王の一の部下であり、次期閻魔王でもある。
この口数の多さは愛しの上司と少しでも関わりたいからである。それを閻魔王もわかっているが、決してその想いには応えない。
それには理由がある。

「おはようございます、地蔵。家にいたいので散歩は遠慮しておきます」

 閻魔王はよく言えばインドア、悪くいえば引きこもりなのだ。

 勿論地蔵菩薩はそれをわかっているので、ですよねー、などといいながら立ち上がり、椅子をたたんでしまった。
ちなみに、椅子が置いてあった場所は閻魔王が寝ているベッドの隣である。
何故ベッドの隣に椅子が置いてあるのか?
地蔵菩薩が閻魔王の寝顔を見るためである。
地蔵菩薩は地蔵菩薩で怖いが、それを受け入れる閻魔王は閻魔王でおかしい。
そんなおかしい彼女は、うんと伸びをして、彼を見つめた。

「着替えるので出てってください」
「わかりました。朝ごはんできてますから、用意終わったら下に下りてきてください」

 パタンとドアが閉まる。閻魔王は名残惜しそうに布団から出て、かけてある仕事着をベッドに投げた。
するすると寝巻きを脱いで、下着をつける。
暖かくなってきたとはいえ朝はまだ冷えるし、彼女は相当色が白い。だいぶ寒そうに見える。
実際寒いらしく、一度身震いして、目にもとまらぬ速さで服を着替えた。
鏡の前に座って寝癖を雑になおし、冠を手に持つ。

 彼女は十王。地獄の頂点に立ち、衆生の輪廻をつかさどりし十人の王が一人。

 彼女が十王が一人「閻魔王」であることを表すその冠は、日の光を浴びて一瞬きらりと輝いた。それを被り、鏡の前で前髪を整える。
まっすぐに切りそろえられた髪型は、一部に偏るとそれはそれは不思議な髪型になってしまう。
それを防ぐためになんどか被りなおしたり櫛で髪を梳いたりして、いつもどおりの髪型にする。

「……よしっ、」

 短く声をあげて、ゆっくりと立ち上がった。

3:みえ様◆ro:2016/03/27(日) 20:37 ID:ZNM

 階段を下りながら、閻魔王は下に声をかけた。

「地蔵ー、用意終わりましたよー」
「わかっております。さっき朝ごはんを温めなおしました」
「エスパーですね」

 エスパーではなく長年のストーカー……否、同居生活による勘なのだが、それはそんなに問題でもないらしく、地蔵菩薩も適当に受け流す。
閻魔王は台所に向かい、温めた朝食を手に持った。

「私も運びます」
「ありがとうございます」

 テーブルの上に、味噌汁と卵焼き、白米、和え物というごくごく普通の朝食が並ぶ。並べ終わると二人は椅子に座り、手を合わせた。

「いただきます」

 二人は味噌汁から手をつけた。蒟蒻とねぎと大根が入った、いたって普通の味噌汁。
閻魔王はそれを早々に飲み干し、明らかに落胆した顔をした。

「蒟蒻が……入ってなかった……」
「えっ嘘……あっ」

 そこで地蔵菩薩は気がついた。自分の味噌汁と閻魔王の味噌汁を間違えたことに。
どうりで蒟蒻が多いわけだ。

 閻魔王は蒟蒻が異常に大好物である。

 人間界で言い伝えられている初代閻魔王も蒟蒻が大好物らしい。が、きっと彼女ほどではないだろう。
1日1食どれかに蒟蒻が入っていないと禁断症状を起こすような人間だ。

「俺の食べますか……? 蒟蒻はいってますけど」
「ください」

 閻魔王は味噌汁を強奪し、行儀が悪いが箸でかちゃかちゃと中を確認する。大量の蒟蒻。美味しい。
地蔵菩薩はそれを確認して立ち上がり、また味噌汁を注ぎに行った。

4:みえ様◆ro:2016/03/27(日) 21:03 ID:ZNM

「どうして閻魔王様はあんなに蒟蒻が好きなのか……悪いことをした……」

 すこしへこみながら、自分の分の味噌汁をお椀にいれて、またテーブルに戻る。
閻魔王はまだ味噌汁を飲んでいて、他には手をつけていない。あーあ、と地蔵菩薩はため息をついた。
彼女はいつもいつも好きなものからばっかり食べしかしないから、たまに偏食気味になるのが彼の悩みなのだ。
まるで彼女の親のような悩みだが、きっと作ったものはとりあえず手をつけて欲しいのだろう。
彼らは寿命が決まっているので、栄養バランスなどはあまり気にする必要もないのだが。

「あ、地蔵菩薩。蒟蒻まだあります?」
「他のを食べてからにしてください。朝ごはんが味噌汁だけって、午後辛いですよ?」
「……わかりました」

 おとなしく朝食を全て食べきった頃には味噌汁が入る余裕はなくなったらしく、おかわりをしに行く様子は見られなかった。

「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」

 閻魔王は皿を片付けに台所へ向かった。どうせだから皿洗いもしてしまおうと、蛇口をひねりスポンジをてにもつ。
冷たい水に少しおどろき、いつも皿洗いをしてくれる地蔵菩薩のことを考えた。
自分よりずっと忙しいはずなのに、よくやってくれるものだ。

「あ、閻魔王様! 皿洗いなんかしなくていいんですよ! 俺がやりますって」
「私がやります」

 つくづく不思議に思いながら、閻魔王はその申し出を拒否した。

5:みえ様◆ro:2016/03/27(日) 21:47 ID:ZNM

「えっ、なんでですか?」
「いつもあなたがやってるじゃないですか。そういう気分なんですよ」
「そんな……あっ」

 地蔵菩薩は何かに気がついたように、閻魔王の手をとる。唐突のことで皿を流しに落としたが、割れてはいないようだ。
ほ、と安堵して、閻魔王は手をつかむ部下を見た。

「危ないじゃないですか。どうしたんです」
「素手……」
「え?」
「手袋ぐらいつけてください! そこに布手袋とゴム手袋がありますから!」

 地蔵菩薩の剣幕に、閻魔王は一歩後ずさる。蛇口が開いていたことに気がついた地蔵菩薩は蛇口を閉め、その後二種類の手袋をもちだした。
木綿の薄い手袋と、普通のゴム手袋。ゴム手袋のほうが若干大きい。普段から家事をするわけではない閻魔王には、何故二種類必要なのか想像もつかなかった。

「いいですか、閻魔王様は肌が弱いんですから手袋ぐらいしないと荒れてしまいます」
「どうして私が肌弱いこと知ってるんですか」
「部下なので」

 これは使い勝手のいい言い訳を考えたな、と閻魔王は少し感心した。感心すべき事柄ではないと思うが、閻魔王本人がストーカー行為のことをあまり気にしていないから仕方がない。
地蔵菩薩は講義を続ける。

「蒸れとかラテックスアレルギーの防止のため、この布手袋をまずはめますね」
「自分で出来ますが」
「いいから」

 白くて形の整った手に、布手袋がはめられていく。子供でもないのに何故、自分で手袋をはめていないのか……少しむなしくなりながら、それを閻魔王はただ眺めた。
地蔵菩薩は少し機嫌がいい。好きな人の手をどういう状況にしても握ってるのだから仕方ないだろう。
好きな人の世話を全部してあげたいとは、好意というより依存だが。

「そして、この上からゴム手袋をはめます。あと、念のため合成洗剤じゃなくて石鹸で洗ってください。まあぬれないだろうし大丈夫だとは思いますが……」
「わかった、わかった、わかりました。手荒れに細心の注意を払って皿洗いをしてくれと」
「当たり前です。閻魔王様の美しい手が皿洗いで荒れてしまったら、俺は責任を感じて悔やんでも悔やみきれません」
「おおげさな……」

 地蔵菩薩に言われたとおり、肌に気を回しながら皿洗いをする。いつのまにか隣で地蔵菩薩も皿洗いをしていた。
ああ、地蔵もやるんだ……などと考えてふと彼の手を見たら、なんと素手ではないか。

「あなたも素手じゃないですか! なんなんですか!」
「俺は手荒れしないからいいんです」
「何のために手袋を常備してたんですか……」
「こういう日のためです」

 その日、皿洗いのほかに閻魔王が家事をすることはなかった。地蔵菩薩が全てこなしたのだ。
閻魔王は内心呆れながらも、彼に感謝をしていないわけではない。が、彼の行動全てが自分に評価されたいがためだと知っているので、素直に感謝できるわけではない。
共依存者で、そのうえ自覚がない部下をどうすれば克服させてあげられるか。
彼に自分自身を愛することを教えてあげるにはあと何年かかるのか。
気長に克服させよう、彼が依存した相手が私で本当によかった。

 実は自分も彼に依存していることを知らず、今日も彼らは二人で過ごす。



「ああ、おはようございます、閻魔王様。今日はいい天気ですが、やっぱり家にいますか?」
「おはようございます、地蔵。そうですねー……」

「今日は外に出てみましょう」

end

6:みえ様◆ro:2016/03/27(日) 21:48 ID:ZNM

なんか閻魔王の紹介のために書くっていう当初の目的を見失った。
感想とかあったらよろしく
あと誰かうちの子描いて(書いて)くださいお願いします

7:みえ様◆ro:2016/04/05(火) 15:59 ID:pp.

キャラ紹介のための話〜地蔵菩薩編〜

「1、2、1、2!」

 ここは十王達の部下、十戒名の訓練場である。
十戒名たちは毎日教官の獄卒である牛頭、馬頭の二人にしごかれて、まさしく地獄のような訓練をするのだ。

「よしっ一旦やめ! 10分の休憩とする!」
「っはー! つっかれたー!」

 声を上げた少女は薬師如来。ばたんと後ろへ倒れて、荒く呼吸をする。
他の十戒名はほとんどが声をあげる気力も無くただ倒れている。
額から角の生えた、異形の姿の少年をのぞいて。

「おー地蔵菩薩、あまりお疲れじゃない感じか? すごいな」
「……疲れてますよ。いくら俺といえども」

 あー、と気だるげに声を絞り出して、地蔵菩薩はぐきぐきと首を鳴らす。
彼は獄卒と人間の混血児。純粋な獄卒ほどではなくても、身体能力が高く、人間の比ではない。
うんと伸びをして地蔵菩薩も後ろに倒れた。
そのまま、自分を見下げる牛頭に目線をうつして語る。

「薬師のほうがすごいですよ。ただの人間なのに」
「まあね! 才能かなっ!」
「ただの脳筋か……」

8:佐藤花子◆ro:2016/04/10(日) 01:33 ID:yv2

 脳筋といわれて納得がいかないのか、薬師如来は地蔵菩薩を睨みつけた。

「んなわけないでしょ! これでも試験受かってるんだから」
「替え玉?」
「なんだと!」

 試験とは、十戒名になるために受ける必要があるテストだ。
試験には広く深い知識と応用力が求められ、その上面接と浄玻璃鏡によって人物性まで見られ、ようやく10人選ばれる。
ちなみに浄玻璃鏡とは、閻魔王が持つ道具の一つで、ありとあらゆる衆生の一挙手一投足がわかる地獄の鏡だ。
二重の意味で。

「あんまりかっかしてると休めないぞ。もう休憩時間が終わる」
「えっ!? 早い!」

 朱色の髪を揺らして、彼女は勢いよく身体を起こした。他の十戒名は勿論死体のように寝そべったままだ。
指示があるまで動かず、ただひたすら休む。それがこの訓練を耐える秘訣である。
ただ、10分の休憩では辛すぎるほど、彼らは身体を酷使していた。

「起きろ! 訓練を再開する!」

 この一声が響いても、起き上がることが出来ぬほど。

9:みえ様◆ro:2016/04/10(日) 01:34 ID:yv2

(ハンネ間違えました)

10:みえ様◆ro:2016/04/10(日) 23:07 ID:TVo

 薬師如来と地蔵菩薩はゆっくりと起き上がり、身体を伸ばす。

「他のやつらも起きろ! 再開すると言っただろう!」
「牛頭、この子達は人間だよ〜」
「わかってる。だが、限界を超えさせないといざというときにだな」
「ここまでやったら逆に体壊すよ〜。せめて、起き上がるのぐらい助けてあげなきゃ〜」

 そういうと、馬頭はすたすたと歩いた。秦広王の部下、不動明妃の前に立つ。

「立ってってば〜」

 不動明妃の瞳が、わずかだが、恐怖にゆれた。
次の瞬間、彼女の体が宙に浮き上がる。

 馬頭はまるでサッカーボールのように、不動明妃を蹴り上げたのだ。

 勿論上手く体勢を整えられず、そのまま落下する。
馬頭はリフティングを続けた。
この様子を見たら助けに入るか、次の標的になるのを恐れて立ち上がりそうなものだが、それは出来なかった。
恐怖だけではどうにもならないほど彼らは疲れていた。
そして、動けるはずの薬師如来も動くことは出来なかった。動こうとした彼女を、牛頭が止めているからだ。
いつもこうだった。誰が悪いわけでもなかった。

 止められる可能性を持つものは、あと一人しかいない。

「やめてください」
「どうして?」
「いつも言ってるでしょう。人間が嫌いだからといって、それは人を傷つけていい理由にならない」
「君だって人間なんか大して好きでもないくせに」
「獄卒のことも好きじゃないです」

 またしても宙に浮かび上がった不動明妃を、地蔵菩薩は受け止めた。

「このままでは死んでしまいます」
「いったん止めても僕はまたやる。君はどうしたい」
「あなたに人間いじめをやめていただきたい」
「嫌だ」

 そういうと馬頭は、人間を超越した速さで薬師如来の前へ現れた。
彼女の両の目は馬頭を睨みつける。

「……牛頭、この子を固定してるのは僕が一方的に痛めつけるため?」
「そんなわけ無いだろうが。お前を間違ってもとめたりしないようにだ」
「何で?」
「お前に殺させるわけには行かないからな」

 牛頭は薬師如来を後ろにやった。

「後で無間地獄に行こう。罪人を好きなだけ痛めつけてやれ」
「その子を殺して、泰山王に裁かせるほうがずっと面白そうだけど」

 泰山王とは、薬師如来の上司の十王である。
牛頭は鋭い目つきで馬頭を見つめた。

11:みえ様◆ro:2016/04/10(日) 23:17 ID:TVo

「いい加減にしろ。訓練のたびにこんなことをされたら困るんだ」
「自重して一ヶ月に一回ぐらいにしてるでしょ、褒めてよ」
「褒めるか!」

 ようやく体が動くようになったほかの十戒名たちは、静かに起き上がった。
地蔵に抱かれている不動明妃も、である。

「……ありがと」
「無理して話すな。おろすぞ」

 ゆっくりと不動明妃をおろし、地蔵菩薩は牛頭の元へ向かった。

「牛頭さん、皆はいつもより早く動けるようになっています。もういいんじゃないですか」
「……ああ、今日はもういい。皆、すまなかった。解散しろ」

 その一言で、ゆっくりと皆立ち上がり、息も絶え絶えに歩き出す。
普段は声を上げない教官に、恐れを抱きながら。
地蔵菩薩もゆっくりと歩き出した。

12:みえ様◆ro:2016/04/23(土) 17:23 ID:4Dc

「お帰りなさい。大丈夫でしたか?」

 閻魔王は、地蔵菩薩が訓練から帰ると毎回同じ質問をする。
獄卒の寿命は長い。彼女らが訓練をしていたときから、「牛頭馬頭」の職についているのはあの二人だ。変わっていない。
ゆえに、危機感を抱いているのだ。大事な部下が酷い目にあっていやしないかと。

「大丈夫ですよ。馬頭さんは、獄卒の血を引いていれば嫌いにならないらしいですから」
「他の子は」
「今日は薬師がやられました」
「そうですか……」

 はあ、と閻魔王はため息をついて、書類の整理に戻る。

「これも、さっさと片付けなくてはいけないですね」
「それは」
「獄卒との関係について」

 分厚いその書類には、十王達が何年も、何年も前から議題にしている「獄卒について」の十王会議全てをまとめ、その上個人の考察や獄卒と人間の現状、現牛頭馬頭についてなどが細かい文字で書かれている。

 人間と獄卒は、はるか昔戦争をしていた。今は落ち着いているが、相変わらず仲は悪い。
姿かたち、能力、文化、何もかも違うからだ。
そのため、地蔵のような混血児はかなり珍しい。今のところ、彼以外確認が取れていない。

 別の種族同士が愛し合うことは、それだけで稀有なことだ。
だというのに、それが敵対種族だとすれば。

「俺には期待しないでくださいね」

 地蔵菩薩は、何を言われると思ったのか、冷たく呟いた。

「俺は両種族に嫌われてるんで、普通の人間や獄卒より何も出来ません」

 沈黙が流れる。
閻魔王はしばらくの後、そう、と一言返して仕事に戻った。

13:みえ様◆ro:2016/04/23(土) 17:46 ID:4Dc

 夕飯を作るのは地蔵菩薩の仕事だ。蒟蒻を多めに入れて、栄養バランスに気を使いながら料理を作る。
ただ、今日はなんだか気分が乗らない。
いつもなら閻魔王様が自分の作ったものを食べてくれるという状況を想像するだけで、言葉には表せない感情があふれ出しそうになるのに、今日はそれもない。

 自分は人と違うという事実を、今日改めて突きつけられた。

 それがむなしく、ひとつため息をつく。
なれていたはずなのだ。自分が人と違うと言うことを、受け止めていたはずなのだ。
何故こんなにもむなしいのだろうか?
地蔵菩薩は一人思案する。
自分の世界は閻魔王様を中心に回っているから、おそらく原因は閻魔王様だろう。
閻魔王様は普通の人だ。いや、自分の中では普通の人とは違う素晴らしいお方だが、閻魔王様の魅力がわからない普通のやつからすれば普通の人だろう。
つまり、人と違うということは、閻魔王様と違うと言うことになる。
ただ、それを悲しむ必要はどこにあるのだろうか? 閻魔王様は自分みたいな衆生と何もかも違うに決まっているじゃないか。

「どうしたんです、元気がないですね」
「あっ、いえいえ。問題ないです。今ご飯作るのでゆっくりとお待ちになってください」
「……わかりました」

 作っていたぶり大根の汁を味見する。
いつもと違う味だ。しょっぱい。

14:みえ様◆ro:2016/04/23(土) 18:14 ID:4Dc

「いただきます」

 二人して手を合わせ、いつもよりも静かに夕飯を食べ始める。
何も聞かれない。無言だ。
地蔵菩薩は知っていた。何も聞かないのが、閻魔王なりの優しさであると。
地蔵菩薩があまり詮索されたがらない性格であることを、彼女は知っているから。
しかし今日は違った。何かを話したくてたまらなかった。

 馬頭に特別扱いされているのがいやだった。
それは「獄卒と人間の混血児である」というプレミアからだというのを知っていたから。
 自分の血筋を恨んだ。
それは両種族の関係改善に対する無言の期待を背負っていることを意味していたから。
 その期待にこたえようと思えないのが申し訳なかった。
全てが閻魔王でまわっている世界に、獄卒は関係ないのだから。

 箸は進まない。

「ごちそうさまでした」
「……あ、おそまつさまでした」

 閻魔王は流しに自分の皿を置く。
綺麗に重ねられた皿には、すこしの傷がついている。
地蔵菩薩のほうを覗き込むと、相変わらず箸は動いてなかった。
確かな足取りで、地蔵菩薩の隣に移動し、ひゅっと皿を掠め取った。

「あなたのも片付けておきますね」
「ちょちょちょちょ」

 地蔵菩薩はあわてて止めた。真っ先にとられたのは主食である白米だ。
閻魔王は振り返り、きょとんとした顔で。

「何か問題でも?」
「問題しかないですけど、まだ全然食べてないです」
「箸動かさないから、食べる気がないのかと」
「食べますよ!」
「じゃあ早く食べてくださいよ」

 その言葉に、ぐうの音も出なくなる。
確かに、食べようとはしてなかった。目の前にあるものがとられそうになって反射的に声を上げただけだ。
閻魔王は続ける。

「何かあるのはわかりましたけど。一応仏教の諸尊として存在しているわけですし……ご飯ぐらい残さず食べましょう」
「蒟蒻以外食べない閻魔王様には言われたくないですね」
「……ごめんなさい」

 何が面白いのか、地蔵菩薩はくすりと笑った。
つられて、閻魔王も笑い出す。

「食べます、食べますよ。俺が作ったんですから絶対美味しいですしね」
「そうですよ。地蔵の作ったものは美味しいですから」

 味見の段階ではすこししょっぱかったぶり大根を一口。意外と美味しい。
が、納得いかない味ではある。
自分の都合でこんなものを閻魔王様に食べさせたことが悔やまれる。
ただ彼女は優しいから、文句など言わないが。

 そんな優しい閻魔王は、色々考えすぎてしまう部下に、ねぎらいの言葉をかけた。

「まあ、話したくなれば何でも言ってくださいね」

 地蔵菩薩はだいぶ穏やかな表情になって、それじゃあ、と口を開いた。

「ぶり大根をしょっぱくしすぎたんですが、どうしましょう」
「知りません」

end

15:みえ様◆ro:2016/04/23(土) 18:18 ID:4Dc

最初はぱっつん常識人だったはずの閻魔王様が、最近トリッキーなタイプの人になってきてる。
「牛頭馬頭」という職、とかそういうわけわかんないのはいつかわかります。待ってて。
あと誰かうちの子描いて(書いて)

16:みえ様◆ro:2016/04/24(日) 12:52 ID:aTc

キャラ紹介のためのお話〜司命と司録編〜

 鏡があった。
よほど大事にされているのか、きらきらと輝き、目の前に立つものの全てを映し出してしまいそうな。
そんな鏡の前には、男にしては長い紫の髪を右側でまとめ、地味な仕事着を着ている一人の人間。
毎朝毎朝自分を眺めて、よく飽きないよな、と呟いたのは、彼の色違いといっても間違いはないほどにそっくりな男。
彼の双子の兄である。

「だって僕っていつ見ても惚れ惚れするんだも〜ん……あ。兄さんも鏡使う?」
「別にいいよ、身だしなみはもう整えたし」
「え? 自分のこと見ないの? 僕の次には美しいのに」

 弟の方は様々なポーズをとりながら左右反対の自分を見つめ、はあ、と息を漏らした。

「やっぱり僕って美しいし可愛いしかっこいいよね〜」
「仕事だよ司録」
「わかったよ司命兄さん」

 意外と聞き分けがいいらしく、鏡の前からさっとどいて、自分にそっくりな兄にぴとっとくっつく。

「じゃあいこ、にーさん?」
「くっつかないでよ気持ち悪いなぁ〜」

 気持ち悪いとか言いつつ、その声は高く愛らしい。嬉しいのか嬉しくないのかわかりにくい。
傍から見れば気持ち悪いほど仲がいい双子は、男二人で暮らす殺風景な部屋を後にした。

17:みえ様◆ro:2016/04/29(金) 16:31 ID:ph.

「司命、亡者をつれてきてください。司録は何もしなくていいです」
「なんでよ」
「どうせ鏡を見て仕事になりません」

 閻魔王の静かな一言に、司録はむっとしつつ、事実なので仕方ないか、と自分の椅子にもたれかかった。
まあ裁判中に一番大変なのは僕だし、と筆をくるくるとまわす。
彼ら双子の仕事は書記とされているが、実際に書記と思わしき仕事をするのは司録だけである。
司命は亡者を呼びにいったり、判決文や判決理由を読んだりするのが仕事だ。

「よんできたよー」
「ありがとうございます」

 つれてこられたのは、薄青い肌をした男の獄卒鬼だった。
角は一本、うつろな目、緑のごわごわとした髪の毛。
人間からすれば醜いが、獄卒としてはこれが標準である。
太い腕には獄卒用の手錠がつけられ、司命はそれにつながる鎖を手に持ち、可愛らしい笑顔で獄卒の背中を押していた。

「歩いてよー、君ちょっと重いよ」
「なんで押して歩けるんだ、獄卒は人間より重いはずだぞ」
「僕普通の人間じゃないもん」

 亡者を指定の位置へ押し進め、鎖を手から離す。
暴れる様子もなく、獄卒はそのままの姿勢で前を見つめた。
死んだ瞳が閻魔王を見つめる。

「閻魔王様、まもなくお時間です」

 地蔵菩薩が一言告げると、閻魔王はちらりと時計を確認して、頷いた。

「これより、第5審「三十五日」を執り行う」

「開廷」

18:みえ様◆ro:2016/04/29(金) 16:53 ID:ph.

「あなたの名前は」
「……涅哩底(ネイリチ)」
「あなたは35日前に射殺されて死にました。わかっていますか」
「……忘れるものか、俺を殺したやつを全員殺してやる」

 閻魔王はたんたんと質問を続けていく。
全て浄玻璃鏡で見えてしまうから隠し事をしても意味ないことなども説明する。
涅哩底はおとなしく聞いていた。
司録は二人のやり取りを速記術で記し、司命は何もせずぼけーっとしている。
地蔵菩薩は閻魔王の使う道具や閻魔帳などを持ってきたり、傍聴人含め全体の監視をしていた。
いつもと同じように平和だった。
それが崩れたのは、彼が死んだ理由に触れたときだった。

「あなたは罪のない人間に突然襲い掛かり、結果射殺されたんですよね」
「罪のない? 人間は人間でいるだけで罪だろう」
「そんなことはありません。輪廻を巡る衆生はみな平等に穢れや欲や罪を持っている。人間だけが特別ではない」
「お前は人間だからそういえるんだ。身勝手な人間に俺のことは裁かせない。異種間差別を完全になくしてから説教しろ」

 徐々に徐々に、涅哩底の苛立ちが高まっていくのがわかる。
地蔵菩薩は身構えた。十王やその他の衆生に危害を加えるようならいつでも止められるように、それが彼らの本来の仕事だからだ。

「罪は罪です、あなたを殺した人間らも罰され、あなたも罰される。それが世の理です」
「うるさい! 獄卒を差別するお前ら人間が悪い!」
「私たちは十王です。人間とも獄卒とも一線をひいた地獄の役人です。獄卒も人間も平等にみています。現地蔵菩薩も、獄卒と人間の混血です」
「ああ、知ってるぞ、こいつ。人間なんかと誇り高き獄卒の醜い混血児だろ」

 閻魔王は部下を馬鹿にされ相当いらだったのか、穴が開いて血が出るのではないかと思うほどに強くこぶしを握った。

「あなたが一番異種間差別をしている。よく理解しなさい。この話は埒が明きません、判決に入ります」
「逃げるのか? 自分たちが犯している間違いを全部俺らになすりつけて、得意だよなあ、人間はそういうの」
「司命、判決を」
「おい! 無視してんじゃねぇよ!」

 涅哩底は強く床を蹴った。
ひびが入り、少しゆれる。
傍聴席がざわつき、ぼけーっとしてた司命ははっと目を見開いた。

「お前、寝てたろ……」
「地蔵にはばれてたかあ……」

19:みえ様◆ro:2016/04/29(金) 19:14 ID:ph.

 司命は適当すぎる男だった。自分が仕事をする必要のない時間は、寝てたり好きなことしてたりと、なかなかに無責任だった。
こんっ、と司命の頭の中で音が響く。
上から何かがふってきて、ぶつかったらしい。

「こんなやつらに裁かれるなんて、あいつも可哀想だよな」

 見上げると、一体の獄卒が司命を見つめている。
おそらく司命に物をなげたのだろう。床には空き缶が落ちていた。

「自分の審判中に寝られるってどんな気持ちだと思うんだよ」
「それについては俺も同意する。司命、お前最低だな」
「地蔵まで!!」

 確かに悪かったけど、君ぐらい味方してくれても。
そう口を開こうとしたときに、また頭に何かが当たった。
どうやら他の獄卒も便乗して物を投げたらしい。

「やっぱり将来、人間なんかに裁かれるのは納得いかない!」
「こんな奴がたくさんいる、それが人間という種族だ」
「ひー地蔵! 助けて!」
「人間っていうかお前は批判されてしかるべきだ」
「なんでよー!」
「あの、ちょっと静まってくれませんか。さっきから亡者の方が可哀想なのですが」

20:みえ様◆oro:2016/05/08(日) 19:47 ID:yrM

 閻魔王の一言で、地蔵や司命、閻魔王の部下は落ち着いた。
しかし、傍聴席が落ちつく様子はなく、むしろどんどんヒートアップしていく。
終いには傍聴席の獄卒VS傍聴席の人間という騒ぎにまで発展し、閻魔王は頭を抱えた。

「これだからこの仕事大嫌いなんだよ……」

 その呟きは運よく誰にも聞かれることはないままに消えた。
もう閻魔王が全てを諦めたそのとき。

「うるせぇな! これは俺の審判だぞ! 獄卒だろうが人間だろうが口出ししてくんじゃねぇ!」

 涅哩底の叫びが、一瞬で傍聴席の暴動状態を鎮めさせた。


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