先輩から貰った飴の味を、
私はきっと忘れることができない。
>>0002.
なんか前のやつ放置しちゃってて、
流されてたから新しく作った()
すみません(´;ω;` )
内容的には前回と変わりません。
温かい目で見守ってくれれば幸いです。
よろしくお願いします!!
コメント・質問などぜひぜひ( *´-ω-`)b
先輩は、綺麗好きだった。
先輩は、緑色を好んでた。
先輩は、眼鏡が似合った。
先輩は、成績が良かった。
先輩は、飴が好きだった。
先輩は、好きな人がいた。
わたしは、きっと、そんな貴方が好きだった。
よく分かんないけど、見てるだけで
本当に幸せだったのです。
「 先輩、そこ強火じゃなくて弱火ですよ。 」
少し夕日が差し込む部屋の中、私は
まるで子供に言うように優しく注意してあげました。ですが、私の声は、オレンジ色の空に吸い込まれてしまったようです。
すっかり部活のことなんて忘れて、
愛用の黒い眼鏡を拭きまくる先輩。きっと火を使ってたから、眼鏡が曇ったのでしょう。
だからって無視するのは、と
私は少しカチンとしました。
しかも、私が座っている席から
いつも見えるその横顔が、今日も無駄に整ってて、
私はさらにカチンとします。
きっといつもよりかっこよく見えるのは、
優しい逆光のせいです。
・・・って。
「 先輩っ、ハチミツ入れてないじゃないですか・・ええぇぇ、待って、焦げてるよ、先輩!混ぜて!混ぜて!てか火弱めてよ!? 」
「 えっ、うわぁ!ごめんごめん、うっ、あっつ!! 」
「 ちょ、なにして・・馬鹿なんですか!?もういい私が火止めます! 」
私は先輩の代わりに、
夕日と同じ色の火を止めました。
まったく、ハチミツは入れ忘れるし、
鍋の中は完全に焦げそうです。
見た目だけでも分かるほど、
キャラメルは堅くなっていて、
鍋に近い側なんか、もう焦げ始めています。
先輩は慌てた勢いで、熱してる真っ最中の
鍋に触ってしまったらしく、
ほんのり赤く腫れた指を、水で一生懸命冷やしました。
この人はかなりの馬鹿だと思います。
1年と少し、先輩と過ごしてきて、
一体、彼は家庭科部において何を学んだのだろうと、
つくづく感じるのです。
本来ならとろけそうになるほど甘く、
程よいミルクの味がたまらなく美味しい
キャラメルなのですが。
わたしは、本心を口にします。
「 なにこれ、かったい。 」
先輩が作ると、堅すぎる謎のお菓子、
少なくともキャラメルではないものが
出来上がってしまいました。
「 あはは、ごめん。 」
「 軽すぎます。絶対そう思ってないですよね。」
この日のために、わたしはとあるお店まで行って、花柄の可愛い包み紙を20枚セットで買っておいたのです。
余ったとき用に、持って帰れるように。
先輩が作ったものは、残さずたくさん食べたいのです。
先輩は、そんな乙女の甘い期待を、
"あはは、ごめん"という思ってもない言葉で、
さらっと裏切ってしまいました。
「 まったく先輩は・・ 」
「 あ、じゃあさ、これ顧問に全部あげちゃおうよ。 」
「 あ、それいいかもです。 」
今日のところは、顧問の恭子先生にあげるという
ナイスアイデアを出してくれたので、
先輩の大失態を許してあげます。
「 じゃあさ先輩!包み紙にくるんで、ついでに包み紙を買ったときについてきたメッセージカードにも、なんか書いて渡しましょうよ。 」
わたしは、先輩のアイデアを越える
ナイスアイデアを提案しました。
「 おー、なかなかやるね。 」
あとから先輩は、俺のおかげだけどね、
と要らない一言を付け足したのですが、
わたしは華麗にスルーしました。
この家庭科部は、部員二人に顧問一人。
部員二人っていうのは、
もちろん私と先輩のことです。
先輩は3年生で、私は2年生。
1年生はいません。
3年生の真( まこと )先輩は、
生徒会に入っていて、部活に来れるのは
週二回くらいです。
私は、特に委員会も生徒会にも入ってないので、
部活がある日は毎日ここに来ています。
部員が私だけしか来てない日も、
そう珍しくはありません。
そのときは、顧問と一緒に、
御裁縫などをしています。
私は普通に料理ができるのですが、
先輩はまるで駄目です。
なのになんで家庭科部に入ったのかと
疑問に思ったことがあったので、
前に一度聞いてみたことがありました。
そしたら先輩は、「 俺の一個上の女の先輩が美人で入ったんだよ、肌が白くて、目が大きくて・・ 」と、限りなくどうでもいい美人の定義を言い始めました。
ので、私はそれ以降、先輩との会話のなかで
美人の話題は出さないようにしました。
黙ってればかっこいい人なのに、本当に残念です。
それはそうと、顧問の恭子先生が言うに、
来年にはこの家庭科部は
廃部になってしまう予定らしいです。
わたしはまだ家庭科部にいるつもりなのに、
酷いことです。
「 "いつもありがとう"とか、そういう感じで書けばいいですかね? 」
私は、恭子先生へのメッセージカードを
書き始めました。
キュ、とマジックペン特有の音が辺りに響きます。
私はマジックペンの音と臭いが
あまり好きではありません。
でも、これも恭子先生のため。
そして、先輩との楽しいときのためなのです。
「 お、いいんじゃね?先生、喜ぶよ 」
先輩が発する肯定の言葉を聞いてから、
無言で花柄の包み紙を取りだし、
二人の間に置きました。
先輩はなにも言わず、
堅く不味いキャラメルを包み始めました。
私は、静かなこの部室が大好きです。
そして、なにも言わなくても通じる先輩も好きです。
少し時間が経って、
私と先輩の間にあった包み紙がなくなりました。
「 終わった!葵ちゃんお疲れ! 」
自分の名前を忘れているわけではないのですが、
先輩に名前を呼ばれると、
"あ、わたしは葵なんだ"と思います。
"あおい"は元々嫌いじゃない名前ですが、
先輩の呼ぶ"あおい"は、とても透き通っていて、
私なのに私じゃないみたいでした。
まるで青い空を眺めてるみたいだと思いました。
・・やっぱり今のは嘘かもしれません。
私の目には先輩しか見えてないんですから。
「 職員室行って、先生に渡してこよう。 」
先輩は言いました。
私は静かに頷きました。
調理器具を片付けてから、
家庭科室の戸締まりをして、
私たちは部屋を出ました。
職員室まで、上履きをぱたぱたと鳴らしながら
歩いていきます。
「 あら、珍しいわ。私にくれるの? 」
恭子先生は、嬉しそうに受け取ってくれました。
どんなキャラメルかも知らずに。
恭子先生が喜ぶ中、
私と先輩の視線が交わったとき、
先輩はクスッ、と笑いました。
それはそれは、とても悪い笑顔でした。
でも、私はその悪魔みたいな顔も
けっして嫌いじゃありません、
なぜなら先輩だから。
職員室から下駄箱まで移動する間、
私は先輩の後ろについて歩きました。
家の方向は違うので、
一緒に入れるのもここまでです。
「 また明日ね 」
私が知っているなかでいちばん、
"また明日"という言葉は切ないものです。
まあ、私の語彙が貧困なだけですが。
「 あ、 」
先輩は思い出したように
つぶやきました。
「 今日もお疲れ。はい、いつもの。 」
そういうと先輩は、
私に白い飴をくれました。ミント味の。
このときの飴は、私の手と先輩の手を
くっ付けてくれる、万能なものです。
「 お疲れさまでした。ありがとうございます! 」
私は先輩にしっかりとお礼を言いました。
前に、「 君は"ありがとう"というと顔が赤くなるね 」と先輩に言われたのですが、きっとそれは先輩だからです。
私の頬は、今もきっと夕焼けより赤いと思いました。
帰り道、私は先輩がくれた甘く爽やかな飴を、
舌で転がしていました。
先輩がくれるこのミント味の飴は、
とても美味しいです。
透き通るような色と、
すっ、と喉を通るような感じの味。
嫌なことまで一緒に喉の奥へと
連れていってくれるような感覚が、
私はたまらなく大好きです。
きっかけは去年の夏ごろ。
部活で必要なお菓子の材料を買いに、
近くのスーパーに行ったときのことです。
甘いものが大好きな先輩は、
材料とは関係ないのに、
チョコレートと飴を買っていました。
そして私に、どの味がいい?と、
飴が入っている袋のパッケージを見せてきたので、
私が「 ミントで。 」というと、
その袋の中にあったミント味の飴を、全部くれました。
そんなに要りません、と断ったのですが、
「 僕、ミント嫌いだから 」って、
まるで大阪のおばちゃんみたいに
手のひらに飴を乗せてきました。
それからというもの、買った飴の中にミント味があると、私にくれました。
なので私は、ここ半年以上、
飴といったらミント味しか舐めていません。
でも、先輩がくれたものなら
なんだって嬉しいので、私は幸せです。