prologue
生徒会長……
それを聞くと、ほかの生徒とはちょっと違う、何かが違う。
特別な生徒って雰囲気が醸し出される。
優等生感……リーダー感
具体的には分からないが、なんか特別な感じがするんだ――
登場人物>>02
登場人物紹介
・石堂 女神 Ishidou Megami♀
デルタ学園生徒会長 3-E
成績はさほど良くないが、温厚で親しみやすいため、選挙で選ばれた
なにかとトラブルを起こしたり、ハチャメチャなことをする
大人気ケータイ小説家で、書籍化、アニメ化を果たしている
ドジでおっちょこちょいだが根性はある 響輝が好き
・海空 響輝 Misora Hibiki ♂
デルタ学園副生徒会長 3-E
イケメン&成績優秀&運動能力抜群な完璧人でモテるが無自覚
アルファ学院からの転入生で、先生の使命及び推薦により副会長に就任
実質、生徒会長より仕事をしている
クールで頭の回転が速く、ツッコミスキルがすごい。
・栗野 千冬 Kurino Chihuyu ♀
デルタ学園書記 3-A
成績は普通だが真面目で、選挙によって就任
響輝が好きで、女神をライバル視している
・伊織 菊人 Iori Kikuto ♂
生徒会会計 3-E
成績は中より上 お金の執着心がハンパないので先生の指名によって就任
両親は世界的有名な企業会長と大人気女優
クールな響輝とは対照的に、おちゃらけているが根は真面目
ハイスクール・ランキング・プロジェクト 通称ハイスク
日本でも名門とされる高校の同盟
月に数回程の頻度で競い合い、ランキングにして発表される
合唱部門、学力部門、体育部門など様々なランキングがある
上位を獲得すると、その学校には多くの寄付金が入る
ハイスクール・ランキング・プロジェクト参加校
デルタ学園高等部
校舎が古く、建て替えなければいけないほど劣化している
日本屈指の名門校だが、ハイスクのランキングは毎年最下位
アルファ学院
毎年1位を獲得するハイスク強豪校
エリートのみを全国から集めた最高の高校として憧れられている
校舎も最新設備が揃っており、倍率が最も高い高校としても有名
シグマ高校
ハイスクでは毎年必ず上位に入る
音楽部門に特に力を入れており、数々の歌手や演奏者を輩出している。
オメガ高校
ハイスク中位
スポーツ部門では常に上位だが、学力や音楽は平均
俺は転入早々、気になっている生徒がいる。
気になっている、と言っても俗に言う恋愛感情とかではなく、興味を持っている、ということだ。
「2年の冬休みが終わりましたが、皆さんなにか事故などはありませんでしたか?えー、残念ながら一人、事件に巻き込まれた生徒が……います」
若い男の先生は、俺の隣の空席を困った顔で見据えていた。
「えー……石堂さんが冬休み中へ海外へ旅行へ行ったところ、スパイの疑惑があるとして今現地にいるそうです。まだ大使館から詳しい情報は入ってきていません。皆さんも旅行にはくれぐれも気をつけてください」
もちろん、周りはざわつく。
「石堂さんがスパイ疑惑!?うそでしょ!?」
「マジかよ」
俺は隣の空席を見つめ、ため息をつく。
一体どうしたらスパイ疑惑なんかかけられるのだろうか――……
石堂女神……!
同時刻、どこかの国で――……
「No!I`m not!(私ではありません)」
「Don`t tell a lie!(嘘をつくな!)」
はぁ、最悪だあぁっ!
小説のネタを得るために海外まで行ったらスパイの容疑をかけられてるなんてえぇー!
私はただ困っていた人がいたから助けようとしただけなのにいぃーっ!
それのどこがスパイだというの!?
怖そうなおじさんに牢屋へぶち込まれ、私に次々と問い詰めてくるけれど、全く聞き取れない。
通訳を紹介してもらったけど、まだ来ない。
あぁ、どうしよ、私死刑とかにされちゃうかもおぉー!
「なーんてことがありました!いやぁ、あの時は大変だったなぁ。通訳さんが来てくれなかったら私殺されてたよー!」
あれから数日後、通訳によって私の話は通じた。
どうやら助けた人が他国のスパイだったらしく、私はその仲間なのではないかと疑われたというわけである。
波乱の裁判の末、なんとか私は無罪が証明されたのだ!
「こんなバカがスパイなわけないだろ。全く」
「あら、それはどうかしら。バカに見せかけたと踏んでもおかしくないわよ」
「うわっ、みんなバカバカひどい!」
最初にバカと言ったのは同じクラスで転入生で私の好きな人である響輝君で、次にお嬢様口調で言ったのはこのクラスの学級委員長の千冬。
2人とも同じ班で席が近いんだ。
「全く……お前のせいで掃除当番が1人足りなくて俺が2人分やらされたんだぞ」
「だって仕方ないじゃん!まさか助けた人がスパイだったなんて!」
「お前はお人好しすぎなんだよ。大体話もろくに通じない相手を助けようなんて、何ができるんだか」
響輝君はため息をつき、呆れながら言う。
「うっ……」
「まぁ、そこが女神さんの長所ですけれどね。ところでお二人方、生徒会総選挙には立候補するんですか?」
「えっ?立候補しないけど。響輝君と千冬はするの?」
「俺は立候補しないが、指名が来たら引き受けるつもりだ」
「私は書記に立候補したわ。当選するか分からないけれど」
生徒会員は、立候補と任命制の二つによって決まる。
生徒会長、書記は生徒の選挙によって、副会長と会計は職員が優秀な生徒を任命して選ばれる。
さらに、生徒会は色々な待遇が用意されているため、結構人気だ。
でも学校対抗のハイスクで代表選手として出なきゃいけないから、全校生徒800人の代表というプレッシャーもかかる。
「海空さんはアルファ学院の元生徒会長でしたわね。あのアルファ学院がハイスクでトップになれたのも、海空さんの指揮のお陰だと聞きましたから、今回副会長に任命される可能性が高いですね」
「えっ!?響輝君任命されるかもしれないの!?」
響輝君を見ると、彼は気だるげに頬杖をついて「わっかんね」と言っていた。
響輝君と一緒に生徒会に入りたい……!
入ったら――響輝君と接近できるかも!?
「…………私、生徒会長に立候補する!」
その思いが、立候補の道へと私の背中を押した。
「は!?生徒会長って……なんでお前急に」
響輝君は頬杖をつくのをやめて、目を見開いて私に視線を向ける。
「だってひび……いや、みんなの役に立ちたいし!」
危ない危ない、響輝君と一緒に居たいとか言うところだった……
そんなことで生徒会に立候補するなって響輝君怒るよね……絶対。
「ま、好きにすれば?他に良い奴が居なかったらお前に一票くれてやるよ」
「あら、友人が生徒会長に立候補するなんて心強いわ。投票しますわ」
「ありがとう。ま、まぁ……当選するかは分かんないけどね。私ってバカだし」
「バカって自分で認めたのかよ……さっきまで怒ってたくせに」
再び響輝君は頬杖をついて苦笑していた。
そんな姿にまでいちいちカッコイイー!とか思う私はもう末期かな。
「えーっ!何なに、めがみん立候補するの!?」
「生徒会長!?じゃあ私絶対めがみんに投票するよ!」
そんな話をしていると、周囲から色々やって来て応援してくれた。
ミっちゃん、絢香、華乃……ありがとう!
「ありがとう!あ、確か立候補の期限って明日までだよね!私立候補用紙貰ってくるよ」
私が職員室へ行こうと机から立ち上がると、背後から私を呼ぶ声がした。
「石堂さん」
「えっ?あ、貴咲ちゃん」
金剛寺 貴咲ちゃん。図書委員の委員長で、すっごく頭が良い子だ。
容姿端麗、才色兼備なんて言葉が似合う、私とは正反対な子。
「き……!?私は貴方とお友達になった覚えはないわよ!金剛寺と名字で呼んで頂戴」
「えー、その名字ちょっと言いにくいし……貴咲って可愛いじゃん」
「なっ……まぁいいわ。私も生徒会長に立候補したのだけれど。あなたには絶対勝つわ。それだけは宣戦布告しておく」
彼女は自信満々の笑みで私を見ると、スカートを翻して早足で行ってしまった。
あまり話したことがないから、もっと話したかったのに、残念。
「気にしなくていいよ。金剛寺さん、ちょっとキツイところあるから……」
「めがみんに闘争心があるんだよきっと」
「えっ?何なに、なんのこと?」
ミっちゃんや絢香はヒソヒソと眉をひそめているけれど、私はなんのことだかサッパリだ。
ただ、響輝君が訝しげな表情で貴咲ちゃんを見据えていた。
なにか不審に思っているのか、疑っているのか。
私にはよく分からないけれど、響輝君が貴咲ちゃんをあまりよく思っていないということは分かった。
今度貴咲ちゃんの良いとこを言ってあげようかな。
「あー、早くもらわなくっちゃ……」
私は立候補用紙をもらうために職員室へ行こうとすると、おじいさんが職員室前で腰をさすっている。
茶色いスーツに、緑のネクタイ、カーキ色のズボン。
校長先生だった。
「校長先生、どうかなさったんですか?」
彼の元へ歩み寄ると、校長は私を見て「丁度いいところに」と言った。
その時、金剛寺さんも通ったけど、私と校長の横を冷たい目で見ただけで、素通りして行ってしまった。
「いやぁ、注文した教材を受け取ったのは良いが準備室に運ばなくてはならないのだがねぇ。この通りぎっくり腰で動けんのだよ」
「そうでしたか。では、私が代わりに運びますよ」
「おぉ助かる。このダンボール10箱を向こうの第一準備室まで頼む」
校長は「あー痛い痛い」と嘆きながら腰をさすり、職員室へ入っていった。
「わ、結構……」
重い。
ダンボールはひと箱だけで私の顔面をも超え、視界が見づらい。
一歩一歩進むたびに体が左右へとよろけた。
なんせ、このダンボールの横には『辞書』と記載されていたのだから。
「あー……重い……思った以上に……」
よろめく体を支え、何とか体勢を整えて歩いていると、背後から「おい」と声をかけられた。
私のよく知る……響輝君の声。
「ひ……響輝君っ!」
「何してんだよ。立候補用紙もらいに行ったんじゃねーのかよ」
「あ、うん。行く途中に校長がぎっくり腰で荷物運べなくて困ってたから手伝ってるの」
私は応答しながらひと箱目を準備室へ置いた。
ドスン、と豪快な音がし、床のチリやホコリが一気にぶわっと舞う。
「俺も手伝ってやんよ……ったく手間のかかるやつ」
響輝君は私と違って軽々とダンボールを持つと、私の倍の速さで歩き、ひと箱を置いてしまった。
「あ……ありがとう!あと8箱あるんだけど、手伝ってくれないかな?」
「8箱もかよ……まぁいいけど」
「ありがとう!」
うわぁ、響輝君と喋ったぁ!引き受けて良かった!神様サンクス!
――職員室にて。
「いやぁ、先程以外な人物が生徒会立候補用紙を取りに来ましたよ」
2-D担任の外田は、コーヒーを優雅に啜りながら呟いた。
「えっ?誰です」
2-B担任の百田は小テストの丸つけをする手を止めて問う。
「2-Dの石堂女神ですよ。特別成績が良いというわけでもなく、かといって運動もできるわけではない。ハイスクの指揮もあるというのに」
外田は少し呆れ気味に嘲笑した。
「そうですねぇ。今のところ有力なのは、金剛寺貴咲でしょうか。彼女は成績も良いですし、リーダーシップもありますし」
百田は丸つけを再開し、金剛寺の答案を採点した。
満点だった。
一枚めくると、石堂女神の答案。
半点だった。
「ま、全校生徒も成績トップの金剛寺を指示するでしょうね」
「それは分からんぞ」
外田と百田の笑いを制したのは、校長だった。
「生徒会長に必要なもの……明晰な頭脳や運動能力、リーダーシップでもない。それ以前に必要なものが欠けている者が多い」
それがなんのことだか、外田と百田には分からなかった。
「ふぅーっ……立候補用紙記入完了!書く事多いなぁ……あとはこれを生徒会担当の百田先生に提出すればいいんだよね」
放課後、私は立候補用紙を記入し終わり、生徒会担当の百田先生に提出しようと思ったのだが。
教室にいつもいるはずの百田先生は、今日ばかりは居なかった。
英語準備室も見てみたが、見当たらない。
「百田せんせーい!って居ないかぁ……職員室かな」
丁度職員室へ行こうとした時、響輝君とすれ違った。
エナメルバッグを肩に下げ、青色のユニフォームを着ている。
きっと今からサッカー部の練習に行くのだろう。
「あっ響輝君!百田先生見なかった?捜してもどこにも居なくって。立候補用紙提出しなきゃいけないのに」
これから部活に行く響輝君をそう長く足止めしちゃダメだ。
そう思ったけど、百田先生はサッカー部の顧問だから響輝君ならなにか知ってるかも……
「えー、百田ー?確か今日出張つってたぞ」
「ええぇっ!?出張なの!?そっか、ありがとう!」
「おう」
まさか出張だったなんてぇー……
聞いてないよおぉ!
しょうがない、明日の放課後提出しよう……
「うーん……持ち帰るとぐしゃぐしゃになったり忘れちゃうかもだし……置いていこう」
今日の提出は諦めて、立候補用紙を机の中にしまった。
「ふふっ……念には念を……ですわよね」
女神が教室を立ち去ったあと、誰かが彼女の立候補用紙を机から抜き取っていった……
「やっべ、水筒忘れた」
一方その頃、響輝は水筒を忘れたため一旦教室へ戻っていた。
教室前の廊下まで来ると、反対側のドアから女子生徒が出ていくのを目にした。
片手にプリントを持って、慌てて走ってる。
まるで人目を拒むかのように。
「あれって確か……金剛寺貴咲、だったよな……」
響輝は少し不審に思ったが、今はそれどころではない。部活だ。
急いで水筒を持ってグラウンドへ駆けていった。
翌日、朝の会が始まる前、昨日の立候補用紙を提出しようと思った時だった。
「あれ……あれっ!?ないないないないないいいいぃ!?」
あるのは冷たい鉄の感触。
紙は1枚も入っていない。
「何が無いんだよ」
「どうしました?」
千冬が心配そうに問いかけ、隣席の響輝君が呆れながら言うけれど、今はそれどころじゃない!
「昨日……っ!生徒会立候補用紙を机に入れたまま帰ったの!それで今日の放課後か朝の会終了後に提出すればいいや……って。どうしよう、用紙もう貰えないよね!どうしよう、どうしよう!ええぇ!確かに入れたのに!」
「は?立候補用紙の配布は確か昨日までで、提出は今日まで……やべぇじゃん」
「まぁ、それは大変。本当に昨日机に入れたのですか?」
「そーだよ!昨日確かに……!」
響輝は机の周辺を見回したが、立候補用紙らしき紙は落ちていない。
が、少し不審な者は見つけた。
こちらを見て、くすくすと意地悪く嘲笑う者。
金剛寺貴咲――確か昨日の放課後、なにか紙を持って出て行ったな。
響輝はキッと鋭い視線で貴咲を睨みつけた。
千冬も響輝の視線の先に気がつき、顔をしかめる。
「そんなぁ……」
きっとそうだ、私が響輝君と一緒に居たいなんて不純な動機で生徒会に志望したからだ。
みんなの役に立ちたいって気持ちもあったけれど、純粋にそれだけじゃない。
クラスが分かれるかもしれないから、響輝君と繋がりを持っていたかったなんて気持ちが少しでもあったから……だから……
「やっぱり、私が生徒会長なんて無理なんだよ。きっと神様からの忠告なんだ……っ」
自分でも訳の分からない愚痴をこぼす。
鼻がツンとして、視界が水彩画のようにぼやける。
「何言ってんだよ。ぜってー誰かが抜き取ったに決まってんだろ」
「その可能性が濃いですよ」
「そんなことする人なんていないよぉ……居たとしたら、私が生徒会長になることに不満を持つ人がいるってことでしょ?私、そんなんだったら入りたくない」
生徒会はこの学園をまとめて、ハイスクの代表として出て、みんなの役に立つことをするって聞いた。
そんな素晴らしいことができるのなら、やってみたいと思った。
「ハイスクで勝つには明晰な頭脳と抜群の運動能力、絶対的歌唱力が必要なんだ……やっぱり私、自分で立候補するとか言っておきながら……」
「俺は――っ」
響輝くんが、私の愚痴を遮るようにして言った。
真剣な顔もかっこいい……じゃなくって……
「お前が一番、生徒会長に適任だと思っている。俺は知っているんだ。頭脳とか運動能力がいくらあっても、一番必要なものが欠けていればそいつはダメなんだってことがな。お前には、それが一番あるんだよ」
そう、俺は知っているんだ。
アルファ学院元生徒会に足りなかったものが。
あの時の俺はまだまだ未熟で、自信に足りないものなんて無いと思い込んでいた。
比喩を用いると、他が欠けていたり亀裂がある玉とするのならば、自分は丁寧にミス一つなく磨かれた珠であると信じ込んでいたものだ。
学習面ではもちろん、運動面、芸術面全てに秀でていると。
だから人を見下し、ハイスクで失敗した者は切り捨て、冷淡な態度をとっていた。
……愚かだった。
いつのハイスクだったろうか。
試合中生徒会内での亀裂が発生し、惜しくも2位に転落したことがあった。
辛すぎて思い出したくもないが、確か俺が原因だったはずだ。
「いつもそうやって人を見下して!」
「私たちは貴方の操り人形じゃないんです!」
「もう……生徒会長としての資格なんか貴方にありません!」
その時、メンバー全員が言った言葉一つ一つが俺の心を抉った。
そんな錯覚に襲われた。
生徒会長の資格、とは。
それから俺は考えるようになった。
親の都合で転校するということになり、両親は心配したが俺にとっては好都合だった。
ドラマのような涙の別れのシーンも無く、寧ろ冷血生徒会長が居なくなってせいせいする、という視線を向けられた。
先生方は優秀な指揮が居なくなるため、少し惜しんでいただろうが。
そして転入した先が現地点、デルタ学園と言う訳であって。
自己紹介だの何だのした後に席を案内され、隣席にはあいつ……石堂女神がいた訳で。
「宜しく!あ、教科書持ってないよね?貸そうか?あ、ノートも無い?てか授業ついてける?あーでもアルファ学院だもんね、もしかしたらもうやってるかもー!」
……騒がしいヤツ、俺と正反対のタイプ……というのが率直な感想。
だが、初対面なのに不思議と安心感があって、好感は持てた。
誰かが忘れ物をすれば貸し、誰かが何かの疑いをかけられれば庇い、誰かが転べば真っ先に気づいて保健室へ連れて行く……
教師先輩後輩、老若男女関係なく、困っている人が居れば助ける。
しまいには、嫌がらせにあっても笑顔で神対応。
俺はあいつが怒ったところを転入して以来一度も見たことがない。
恐らく、今回立候補用紙を盗まれて犯人を見つけても、こいつのことだから怒らないだろう。
だからあいつは、学年一……いや、学園一信頼されている人物に値する。
俺に最も足りなかった『信頼』を無自覚に得ていたというわけか。
「お前には、俺にないものを持っている」
だから、自信持って立候補しろよ。
早くその犯人を見つけて……
「え、私にあって、響輝君に無いもの?響輝君にあって私に無いものならたくさんあるんだけどなぁ……あ、創造力?私こう見えても小説家なんだよ!」
「それもあるが……まぁいい。とにかく立候補用紙を見つけ出せ。俺も出来る事は手伝うから……」
「もちろん私も協力しますよ」
「響輝君……千冬!いい人たちだあぁ!」
抑えていた涙が、蛇口から迸る水のごとく溢れ出す。
以前の俺ならきっと他人を手伝うなどしなかっただろう。
でも、誰かを助けるのも案外良いかもしれない。
あのダンボールの重みと――……
『響輝君!ありがとう!』
お礼の笑顔は比べ物にならない。