蝙蝠傘と三週間

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1:しょぼんR@ライ麦◆xg:2016/05/17(火) 16:28 ID:DzA



『  地球はもう、駄目みたいね 』

__地鳴りが一層酷くなり、揺れによって落ちた瓦礫が雨のように降り注ぐ

『 “外”を、死ぬ前に見たいの 』

__君は真っ赤な目を閉じ、蝙蝠傘を持ちながら僕の手を掴んだ

2:しょぼんR@ライ麦◆xg:2016/05/17(火) 16:48 ID:DzA

『 __現在地震が起こりました、住民の皆様は直ちに避難を__』

ニュースキャスターが慌てて繰り返す言葉を、僕は電源を切って遮った。
住民、なんて言葉ば富裕層にしか関係ない。
だって僕は、作られた人間、所謂人造人間だから。 

人造の心臓に臓物に脳味噌にシナプス。こんな『物』に人権なんてないらしい。
富裕層に従い襤褸切れとなり死に、臓器は再利用され肥料になり、富裕層の食糧となる、このようなサイクルがざっと250年近く続いている。

僕は地下の小部屋に住んでいるが、僕一人ではない、僕と同じ人造の少女が居る。
少女は所謂 “欠陥品” で、メラニンが欠陥しているらしく、光を好まない。
ろくに名前も知らずに、話さずに、今まで過ごしてきた。

最初は言葉を話せないのか、なんて思ったりもしたが、どうやらいつも持ち歩いている今の時代には珍しい紙の本をぶつぶつと稀に小さな声で読み上げているため、きっと話せるのだろう。

話したくないだけだ、関わりたくないだけ。
人は関わるのを徐々に嫌っていった、出生率は極端に下がった。
だから人造人間が出来た。

僕は少しカビ臭いベットに埃を立てながらも倒れ、薄っぺらい毛布を被って瓦礫の音をずっと聞いていた。

3:しょぼんR@ライ麦◆xg:2016/05/17(火) 18:13 ID:DzA

毛布越しに聞こえる瓦礫音が強くなった。
刹那、小部屋に光が差し込む、どうやらビルが崩れ、小部屋に巨大な瓦礫が落ちてきたようだ。
僕は無意識のうちに急いで少女の方をみた。
ベットの隅で、蝙蝠傘と本を抱えて蹲っている。

『 逃げるぞ、きっとここも崩れる 』

少女の細く白い手首を掴み、軋むドアを開け、走り出す。
落ちた電球に、割れたガラス。全てが壊れていた。
やっと外に出られた、そう思いドアを開けた瞬間、あり得ない光景が飛び込んできた。

家の中とは比べ物にもならない景色__ビルは倒れて、焼け落ち、人々は叫ぶ。
燃える建物を避けながらも、走る、行く宛てなどなくたって、走り続ける。

地鳴りが一層酷くなり、人が焼ける匂いと悲鳴が混ざり合う中、少女は凛と、鈴が鳴るような声で僕に言った。


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