立ち上がれ!世のヒッキー&ニート達よ!
2:弓吉:2016/07/17(日) 21:44
「私、恵まれてなさすぎだよ…。」
少女は呟く。音のない、たった六畳の暗く電気もつけない世界で。ストレートの黒いロングの髪も、真っ青なコンタクトレンズをつけただけの偽りの瞳も、太陽に当たらず育ったために白い肌も、爽やか系の色でまとめられた花柄のワンピースも、何にも役に立ちはしない。少女にあるのは、世界的なオンラインゲームの《ユーザー名「シアノ」ファイター LV97》という偽りの肩書きだけ。このオンラインゲームだけではない。片っ端から言っていくと彼女のゲームのユーザーデータは、100などという数字は軽く超えるという。
「本当にそう思っているのなら、僕が君を変えてあげるよ。本来ならではの君にね。」
「…え?」
少女以外には人はいないはずの六畳の世界にもう一つの声が響いた。
「だ、誰!?」
少女は電気を慌ててつける。声の主は誰だと、辺りを見渡す。
「本当に君は見えないんだね。ん?君はというのは適切ではないな…。うん、人間は、だね!」
黒い猫はしゃべりだす。正確には独り言と普通に話しているのが混ざっている感じだ。そんな情報はいらない。一目で、一言で予想はついていたが、この猫は、変な奴だ…!危ない感じで、めっちゃやばいことに巻き込まれそうな、少女は後ろに二歩後ずさる。
「私、を食べるの…!?」
「はい?そんなこと僕は言っていないけれども。勝手に食人猫にしないで欲しいなあ。」
猫はやれやれと人間の真似事をするように首を横に振った。
「僕は君が今の君にもう飽き飽きしていると思ってここまで出向いてやったんだぞ。」
無駄に偉そうな口の聞き方をする猫の首根っこを少女はつかんだ。
「ねっ、猫さんと遊んでいる暇はないのおおお!」
と何年も開けていないカーテンを開き、窓を開け、外に放り出した。ー匹の黒猫を。少女は急いで窓とカーテンを閉めた。はあ、と溜息をつくとすぐにパソコンに向かう。
「僕は、君に話があってきたんだ。君にも僕にもきっと村にはならないことだと思うのだけれど。」
黒猫だ。さっきの。少女はパソコンに向かった時に座った椅子ごと後ろに倒れ込む。
「な、ななな!なんで猫が喋る上に密室の空間に入れるわけ!?」
少女は黒猫を指差し、言った。
「ねえ君、僕と組む気にはならないかい?」
黒猫は多分、人間でいえば黒いブラックスマイルとかいう奴で笑った。
「僕は、君ぐらいの年頃のヒッキーとニートの男女に新たな力を授けることが仕事なんだよ。」
黒猫は私のパソコンのキーボードの上に乗ったまま言葉を並べる。
「新たな力って、家から出たくなるとか…?」
少女はよほど家…というかこの狭い六畳の世界から出たくないらしく小刻みに震えていた。
「外に出ることはあるだろうね。君たちは力に目覚めれば出たくなるものだよ。どんな子でもね、新たな力を手に入れれば自信がついてしまうんだよ。」
「地震?」
「いやいや、自分を信じるって書いて自信。」
ややツッコミを担当し始める猫、そしてやや似合わぬノリを始めた少女。
「自信、勇気、希望、優しさなんかが新たな力のおまけかな。わかる?」
「そんなもの手に入れてどうするの?綺麗事を並べただけじゃない。自信はともかく勇気、希望、優しさなんて少なくとも私の中ではただの嘘、憎悪、苦しみにしかならないの!」
少女は息が切れてしまうほど早口で言った。無神経で人の事などこれっぽっちもわからない黒猫に。
「さすが、僕が見込んだだけあるね。そんな言葉を待っていたんだよ!本当にこんな少女がいるなんてね。まったく驚きだよ。」
黒猫は、スキップでもするのではないかと思ってしまうほど笑顔で待っていたことを告げた。
「あ、ところでなんで君はこの日本国の生まれで母も父も君と同じで日本国の生まれ育ちだ。なのに君はなぜ瞳が真っ青なんだい?」
少女の肩がビクっと飛び跳ねた。
「こ、これはその、趣味でやっているだけで…」
少女は顔を真っ赤にして黒猫に問いの答えを述べた。
「そっかそっか。じゃあまず青い瞳っていうやつを現実にしよっか。…夢と理想を現実に。」
黒猫が何かに祈る姿勢をとり、呪文らしきものを唱えると少女の瞳に淡く青い光が集まり始めた。
「さ、そのコンタクトレンズとかいうハイテク?なものをとって鏡を見てみて。」
少女は黒猫に指示された通りに鏡を覗き込みながらコンタクトレンズを両目から取った。
「うわあっ!綺麗…。」
「気に入ってくれた?僕なら君の種族や性別、そんなのまで変えてあげられるよ!その瞳はプレゼントってことで。ね?僕と組まないかい?」
黒猫は先ほどから顔色一つ変えずに言葉を並べる。少女は黒猫に問いを投げかけようとした。
「僕に質問するなら組んでからがいいな。」
「く、組むってどういうこと!?」
「へ?それの説明してないけれど、聞いてきたのは君が三人目だよ。用心深いっていうかなんというか。組むっていうのはね、僕と君が契約の魔法を使い、互いをパートナーとして認め合うってことさ。」
「私、恵まれてないと思っていたけれど、あなたと契約をするわ。パートナーとして認め合うっていうのが少し気になるけれど、勇気や希望、優しさも悪くないと思うの。」
「フフ、じゃあこの紙に君の名前と年齢なんかを書いてね。」
「ええ。」
少女は紙を受け取る。
【契約】
名前:白石 藍乃
フリガナ:シライシ アイノ
生年月日:2002年三月七日生
歳:14歳
は、黒猫の使い魔ダイヤとパートナーになり、魔法少女になることを誓う。
「へ?魔法少女になる?」
「そうだよー。君と僕はもうパートナー。これからよろしくね。自己紹介って言っても名前は分かっているね、まあ、僕は黒猫の使い魔ダイヤ。闇属性を専門として魔法を扱えるよ。」
そう言って書きたてほやほやの契約書を勝手に自分の手に握りしめて肉球でぽん!と自分の印鑑なのだろうか、印鑑ぽく肉球で印鑑を押す。
「はい、君との契約は成立。君はもうただの引きこもりなんかじゃない!」
「なんか軽くないでしょうか…?」
少女は焦り気味に黒猫ダイヤに文句を言ったのだった。