何となく思い付きで書いていきます
昔、昔の話でございます。
小さな屋敷には、幼く愛らしい女主人と、一人のメイドが住んでおりました。
満月のように満ち足りた、幸せな日々。
しかし物語というものは、残酷にも、悲劇が起こらなければ始まらないのです。
この話も例外では無く、一人の少年の登場によって、悲劇が…物語が動いたのでした。
時計の短針が3を指す。
まるで見計らったかのようにカップに注がれる紅茶と、並べられた茶菓子。
庭のお茶会の席にはメイドと女主人の二人きり。
女主人…少女はそわそわと辺りを見回す。
「そろそろ彼が来るわ…」
「アリスお嬢様、紅茶が冷めないうちに飲んで下さいな。あの人は時間にルーズですから、待っていたら冷めてしまいますよ。」
「ドロシー、3人で飲むから美味しいのよ!」
アリスはにっこりと笑った。
仕方がありませんね、と肩をすくめるドロシー。
紅茶が猫でも飲めるくらいに冷めた頃、彼、あの人と呼ばれた少年がやって来た。
「あれ、遅かったのかな?」
「待ちくたびれまし…」
「ドロシー!いいえ、全然待ってなんかないわよジャック。」
席をすすめられ、アリスの隣に座ったジャックの視線は向かい側のドロシーに注がれた。
「うわあ美味しそう。これ全部ドロシーさんが作ったんですか?」
「そうですよ」
淡々と答えたドロシーは、さも美味しそうにクッキーを頬張るアリスを見て、微笑んだ。
「美味しいわ。流石私のドロシーね」
「ありがとうございます。」
『私のドロシー』
アリスにとっては何気ない賞賛の言葉だったのだろうが。
その言葉を頭の中で何度も繰り返してはにやけるドロシーと、複雑な思いでクッキーを頬張るジャック…
幼いアリスはそこに蠢く醜い化け物が見えていない。いや、きっと、見ようともしていなかったのだろう。