不思議なことに。
この世には世界が゛2つ゛、在るらしい――……
✽。*
>>02登場人物
登場人物
✽夢部✽
・一関 夢斗(いちのせき ゆめと) ♂
なぜか覚醒して、なぜか『夢の世界』と干渉できるようになってしまった少年。
高校1年生 成績優秀 イケメン 唯一の欠点はスポーツだよ。
・双美 亜女 (ふたみ あめ) ♀
『夢部』部長を務める、『夢の世界』を研究中の少女。
高校1年 寝ることと食べることと夢斗のことが大好きだよ。
・光橋 昴 (みつはし すばる) ♂
『夢部』副部長を務める、しっかり者でメガネが似合う美少年。
高校3年生 いつも部員に振り回される苦労人だよ。
・紫田 創美 (しだ そうみ) ♀
『夢部』部員で、可愛いもの大好きなギャル少女。
高校2年生 本当は真面目ちゃんで、昴のことが好きなんだよ。
『夢の世界』
大抵の人は朝起きると忘れてしまう、もう一つの世界。
普段見る夢というのは、この世界の記憶が破片となったもの。
普通は夢の世界ではこっちの記憶がなく、こっちの世界では夢の世界の記憶がない。
よって夢の世界の自分は、現実と違う人間関係だったりする。
たまに双方の世界の記憶を自由に持ち込むことができる人がいる。
現実世界の肉体を休める際、魂だけが別世界に移動する。
それが夢の世界。
逆に夢の世界の体を休めるときは、魂が現実の世界に移動する。
-01-
最近、俺はよく夢を見るようになった。
夢を見ているというよりは、別世界に行っているような気分に陥る。
寝た感じがしないのに、身体は回復している。
そんな不思議な現象が、ここ1週間毎日続いている。
「……またか」
俺は10分前にベッドで寝たはずなのに、もう朝になっていた。
多分、これは夢の世界。
目覚めたのは俺の部屋……ではなかった。
でも一応この世界では俺の部屋ってことらしい。
部屋が狭い。
現実世界より簡素な造りになっていて、みずぼらしい。
そして遠くから鳴り響いているのは――銃声だった。
俺が見る夢では、なぜかいつも戦争が起きている。
今まで怖くて外に出られず、この部屋の中で過ごしていたが、今日は外に出てみようか。
どうせ夢なんだ、死んでも差し支えないはずだ。
外に出よう――と言ったものの、この格好はまずい。
着心地の良いダボっとした灰色のトレーナーだ。
適当に服がないか見回してみると、壁にハンガーで学ランがかけてある。
現実世界の俺は、中学校からYシャツだから、学ランを着たことがない。
何かの小説で読んだが、確か卒業する際に意中の女性に第二ボタンをあげるだとか。
「さーて、どうすっかな」
学ランに着替え、どこに行こうか考えていた時だった。
――カッカッ
軽くドアをノックする音が数回。
ここの家の持ち主だろうか。
ドアを開けると、キイィと軋む音がする。
「……はい……」
そしてドアの向こう――そこには一人の少年がいた。
「よっ!大丈夫か?」
栗色のくせっ毛の髪。
童顔……というよりかは、女顔と言ったほうが近いだろうか。
「……どちら様?」
俺は見たこともないその少年に、戸惑っていた。
「どちら様って……酷でぇなあ〜伊辻翔也(いつじ しょうや)だよ!記憶喪失にでもなったか?」
伊辻翔也と名乗った少年は、冗談めいて言う。
俺は黙りこくったまま、首を横に振った、
しかし顔はおろか、名前にすら聞き覚えが全く無かった。
「ったく。一週間前からずっと休んでるし、死亡通達も無いから敵軍に捕虜として連行されたのかと思ったぜ?心配させんなよ〜」
死亡通達だとか、敵軍の捕虜だとか、可愛い顔してサラッと恐ろしいことを口にしている。
状況がよく飲み込めないまま突っ立っていると、翔也は俺の手を引いた。
彼は玄関に置いてあった俺のスクールバッグらしき鞄を持つと、俺に手渡す。
「さ、行こうぜ?遅刻するし」
「お、おう……?」
まぁ、所詮夢だ。
ここは言われるがままに従おう。
外に出てみると、街は寂れていた。
商店街の店は全てシャッターが閉まっているし、廃墟になったビルが立ち並んでいる。
ネオンサインの看板が地面に落ちていたり、無人ではあるが高層ビルが並んでいることから、以前は活気があったということは推測できる。
人影は疎らで、俺と翔也、その他俺たちと同じ制服を着ている少年少女がチラホラ居るだけだ。
「変わっちまったよなぁ。日本分裂紛争の始まった、あの日から」
唐突に、翔也がしみじみと言った。
「日本……分裂紛争?なんだそれ」
俺は聞き慣れない言葉に、思わずオウム返ししてしまった。
「な……お前、いくら前回の社会の小テスト0点だからってそれはねーぜ!?今起ってる紛争だろーが!」
「紛争?日本で……か?というか、俺が社会の小テストで0点だと?」
俺はいつも現実世界では主席をキープしている。
0点だなんて、夢の俺は何をしているんだ。まぁ、夢だからなんだっていいんだが。
「そうだよ。お前先生に大声で点数公表されて笑い者にされてただろ?先週」
どうやら夢の中の俺はバカってことらしいな。
「今日は理科と数学のテストあるけどよー。お前大丈夫か?1週間も授業受けてねーだろ」
「あぁ。ダメかもな」
俺は早くこの夢が覚めてくれないかと、必死に思った。
面白いです!
8:缶詰 (ノ>_<)ノ ≡:2016/09/25(日) 13:20 >>07 紗霧さんありがとうございます!
まだ序章ですが、これからも読んで頂ければ幸いです^^
しばらく歩くと、学校らしき建物に着いた。
俺の普段通っている学校と同じような感じだ。
学ランのバッジを見る限り、翔也と同じクラスらしい。
彼に着いていけば大丈夫だろう。
「おはよー」
「……おはよう」
翔也に続いて俺も小声で軽く挨拶する。
「あ、翔也君!夢斗君、おはよう!」
翔也の時と同じく、顔も名前も覚えがない女子が挨拶を返してきた。
なんで俺は彼女の名前を知らなくて、彼女は俺の名前を知っているのだろう。
夢だからだろうか。
幸いにも教室に座席表が貼ってあったから、一関と印字された場所に座ることができた。
「どうしたの、夢斗君。普段と様子が違うけれど……というか、一週間も休んでたよね」
隣席で話しかけてきた女子は……双美亜女だ。
現実にもいる、唯一見覚えある人。
にしても、夢に出てくるほど彼女と俺は親密な関係だったろうか?
「……別に。変わんねーよ」
「ふーん。ま、いいけど」
やけに目ざといな……
多分、俺が違う俺だってことに、少し感づいているかもしれねぇ。
まぁ俺の夢だし、バレたところでどうってことないがな。
「じゃあ今日はー、予告通り理科の小テストだ」
授業が始まり、小テストの解答用紙が配られる。
教科書が鞄に入っていたので授業前にザッと見たが、現実でやっている内容で特に心配することもなさそうだ。
問題は10問、一問10点か。
気圧の問題、楽勝だな。
にしても、この夢一体いつまで続くんだろうか……
「テスト終了。後ろから回収しろ」
テストの解答用紙が前に回されていく。
確かこの夢の中では、俺はバカってことになってるんだったな。
「いーちのせきぃ〜、お前また珍回答書いたか?」
「だってお前、この前の社会のテストでペリーのこと豊臣秀吉って書いてたもんなぁ〜」
「今回も期待してるぜ、珍回答」
「あはははははっ!」
クラスの全員がこっちを見て大笑いしている。
完全に舐められているんだ、一関夢斗は大バカだってな。
けれど証明してやるよ。
本当の一関夢斗はバカじゃない……ってな。
――キンコーン……
終業のチャイムが鳴ると、先生が今日やった小テストの束を持って「返却するぞ」と言った。
「今回はデキが悪いぞー!平均点52点!このクラスが最後だが、学年で満点はこのクラスで一人だけだ」
「うっわー、満点って誰だろ」
「俺やべぇよ、赤点だわ〜!つーかhPaって何?」
「ま、最下位になることはないだろ。一関がいるんだし」
次々と名前が呼ばれ、悲鳴や歓喜の声があがる。
「一関夢斗…………満点、だ。よくやったな」
先生が優しい顔で、俺に解答用紙を手渡した。
悲鳴や歓喜の声が、水を打ったように静まり返り、視線が一気に俺に集中する。
ほら見たかよ、一関夢斗はバカじゃない。
花丸のついた解答用紙を受け取る。
「上出来」
俺は口角を釣り上げ、二ヤッと不敵な笑みを浮かべた。