僕はどちらかと言うと春が好きだ。
誕生日あるし、新学期だし、何かとワクワクする季節だから。
でも。今僕は夏が好きになりそうだ。
ミーンミーン、と蝉が鳴いている。
ずいぶんとうるさくて、耳を塞ぎたくなる。
ただでさえ、白丘寺からの坂道はキツいのに。
もう6年も登り続けている坂をぜぇぜぇと歩きながら、僕___宇野宮 蓮(ウノミヤ レン)___は考える。
ぴらり、と電柱のポスターが揺れる。
見てみると『白丘夏祭り』開催のお知らせが貼ってあった。
夏祭りかぁ。今年は誰と行こう。一樹とでも行こうか。でも人前であの中二病出されたら敵わないしなぁ、と脳内で一人考え込む。
陽介と、空誘うか?うん、聞いてみよう。
僕は坂道を登っていく。
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「おはよう宇野宮!暑いな毎日!そうだ、先生タンクトップにしようと思うんだが、宇野宮もどうだ?」
廊下を通ってすぐに話しかけられるのは決まってこの人___梅原先生。
先生。暑いのはあなたなんではないでしょうか。と心のなかで意見しておく。
____と。
「・・・あ」
美冬さ、ん。
長い髪の毛をひらりと翻して、僕の前を通っていく。美冬さんが通るところはいつも涼しいというが、本当のようで、一気にひんやりとした空気になる。
・・・おはよう、言えたら良かったな。
少しそう思ったのは、何で?
カラリ、と乾いた音を鳴らして、教室に踏み込む。
___が、入った途端に後ろから「邪魔」と声がかかった。
「・・・邪魔はないんじゃない?陽介」
後ろを振り返ると僕より少し小柄な、市原 陽介(イチハラ ヨウスケ)が立っていた。
「ん、はよ」と陽介は返す。
陽介はこのクラスのいわゆる裏ボス的存在だ。
なんといっても『眼力』がすごい。
バスケのときなんか、相手と目を合わせると
例え相手がボールを持っていても体が固まり、その隙にボールをとる___…
と言う、まるで異能力並の眼力を出す。
そのため、裏では『陽介様』なんて呼ばれている。
「あ、陽介夏祭りのポスター見た?」
「ん、あぁ見た見た」
「一緒に行こう」
「親に聞いとく」
・・・なんて他愛もない話をしながら、用意を整えていく。
「今年は女子も呼ぶか…」と陽介が呟く。
女子・・・か。美冬・・・さん、誘おうかな。