[ 今夜デビューを飾る 4人組アイドルグループ Lily ]
『Lily(リリィ)って知ってる?』
『もちろん、知ってるよ』
『今夜デビューする、4人のアイドルグループだよね』
女子高生の2人は都会の中心にある、高いビルに設置されたモニターを見上げて何気ない会話を交わした。
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「えー、俺らネットニュースに出てる!」
「そりゃね。デビューの仕方おかしいし」
今日は、私達Lilyのデビュー日。
うるさいコイツが、スマホを食いつくようにして見ている。正真正銘の馬鹿だ。
「何で、ミカは驚かないの!」
机をダンダン叩いてる、うるさい。
シラーッとした目でコウを見つめると、「やっぱり冷たいなぁ」とか言ってシュンとなってる。
今からリハーサルだから、
レンはスタッフさんに話を聞きに行ってるし、あとセナは…
「あ〜、眠い。僕の睡眠足らなすぎる、だめ、イベントで寝ちゃう」
大きなあくびと共に、自販機で買ってきたであろうココアを手にして楽屋に帰ってくると、
椅子にゆっくりと腰かけてゴクゴク飲み始めた。
「セナ、あったかいの飲んだら眠くなるよ?」
「ん〜、気にしな〜い、今でも眠いもん」
コウが心配そうに様子を伺っても、セナは相変わらずだ。
うつらうつらしてるセナをよそに、未だにスマホをスクロールしまくって興奮してるコウ。
そしてそして、
それを横目で見ながら、猫のかわいい動画をネットで漁る私。
…チグハグすぎる。
にしても、
あー、猫はなんてかわいいの、天使天使、すき。
そんな感じでリハーサル前の謎な時間を過ごしていると、楽屋のドアが開いた。
「もうリハーサル始まるよ、早く準備して?」
我らがリーダー、レンがリハーサルの始まりを伝えにやってきた。
その途端に、寝ていたセナは起きて、コウもスマホを置いて、私もスマホを…、って言ったらコウと同じみたいじゃん。違うし、私は猫の動画見てただけだからね。
…、とりあえずスマホを置いて、リハーサルへの準備を整える。
猫が見たいなぁ、と思うと少し誰かに八つ当たりしたくなって、
「金髪が楽屋の電気に反射して眩しいんだけど…」とかレンに対してブツブツ言ってると、レンがニッコリと微笑んで、
「うるさいなぁ、猫野郎。」
と、たったそれだけ言った。
って言っても、顔面王子様なレンの微笑みの圧力は怖すぎるから。
そのせいで、3人はレンに逆らえないんだよ…。
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移動を終えた私達は今夜のデビューイベントを行うアリーナのステージ上にいる。
まだ私達の顔を見たことない人達が、私達のために集まるなんて…、ありがたいけれど、おかしな話。
もちろんLilyは、シングルすら出していないから、デビュー曲だって初お披露目になる。
しっかりダンスの位置を確認して、振り付けの最終確認をした。
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[ 登場人物紹介 ]
榊 美影(さかき みかげ)
高2女子。
黒髪ショートで、顔は可愛らしい。
性格がサッパリし過ぎている。
若干不良感はあるけれど、本人は至って真面目。
猫をこよなく愛している。
間宮 紅(まみや こう)
高2男子。
うるさい。騒がしい。
濃い茶髪。顔はかっこいいのに、馬鹿だから残念系男子。
運動神経だけはすこぶる良いので、大抵のことは一発で出来てしまう。
相沢 世那(あいざわ せな)
高1男子。
常にマイペースで適当。眠そう。
薄い茶髪で、ふわふわ。中性的な顔。
何事にも頑張らないタイプ。
なのに、頭は良い。
新城 蓮夜(しんじょう れんや)
高3男子。
Lilyで1番まとも。しっかりしてる。
金髪で、ただの王子様かよ、な顔。
優しくて物腰も柔らかいけど、笑顔のままキツいことを言ったりする。
_________、
「…ッあー、どうしよう、緊張する…。」
「おいセナー、何でもお前器用なのに、緊張しいなのどうにかしてよー!」
なんとなんと、時間が進むのは早いもので、時計はガッツリ6:50をお知らせしている。
7:00からはデビューイベント。
ヘアメイクもバッチリ、衣装もバッチリな私達は裏で待機中。やっぱり、全員緊張はしてる…、けど、セナだけ異常。
コウの言う通り何でも器用にこなしていくセナだけど、それとは裏腹に大の緊張しい。
それぞれメンバーカラーの、
コウなら赤、
セナなら黄色、
レンなら青、
私なら…、 ピンク。最悪だ。あー、もうどう考えても私みたいなのにピンクなんて似合わないじゃん、選んだの誰!?
……、と、まぁ、それぞれの色の衣装に身を包んでるわけだけど、ちょっと待って、
…私スカートじゃん、
もうやだ泣きたい…。
………、と、私も軽く取り乱したわけだけど、セナの話に戻すと、
たったさっきマネージャーから、
『メディアが凄い数来てるから覚悟しとけよ。明日のワイドショー、新聞、ネット、全部お前ら中心だ。』
と、それはもうつめたーく言い放たれたわけで、それでセナがあんな状態に。
だけどセナはやるときはやるし、コウの支えもあってスイッチが入ってきてるみたい。
静かに見守るレンも含めて、
暗がりの中で3人に目線をやると、不意に4人とも目があって、
誰からともなくささやかに微笑んだ。
「…円陣組もうか。」
レンの声で、肩を組んだ私達。
「デビューイベント、気合い入れてくぞ!!」
「「「おー!!」」」
_________カチッ、カチッ、……
カチッ
『こんばんは、みなさん。
…今日は僕たちLilyの為に集まってくれてありがとうございます。』
時計が7時を指した瞬間、会場内は静かに静まりかえった。
そして同時に、事前に録っておいた、レンの音声が流れ出した。
大きな画面は未だに真っ暗。
私たちは、1人ずつ順番に幕の裏にシルエットのまま登場して、曲と共に幕があがって全員お披露目。
裏で、静かにその時を待つ。
『きっと、この中にいる誰1人として僕たちの姿を知る人はいないでしょう。それなのに、こんなにもたくさん人が集まってくれたこと、本当に嬉しく思います。』
レンによる感謝の言葉が述べられていくと、いよいよ1人ずつ出ていく瞬間になる。
4人で目を合わせて、
< 良いイベントにしよう >
と最後の、声のない声かけをした。
『それでは、僕たち1人1人の簡単な紹介からです。』
______…
モニターに映し出された
『Kou Mamiya』
の文字と共に、ゆっくりと歩き出すコウ。大きな幕の裏に立った瞬間、歓声が湧いた。
もちろん、シルエットのみ。
でも、これがLilyとして最初に現されたメンバーの姿。
後ろから見つめると、いつもみたいなバカなコウの姿はどこにもなくて、
…、正直カッコよくてイラついた。
モニターには、生年月日などの簡単な説明が載っている。
『Sena Aizawa』
さっきまでの緊張した面持ちとは変わって、もういつも通りのポーカーフェイスなセナになっている。
『Renya Sinjyo』
レンが、たった1人この場に残った私に微笑みかけてから、ステージへと歩いていった。
『みなさん、これまでに出てきたLilyのメンバーは全て男です、が…』
レンの歯切れの悪いように言うアナウンスに、会場が少しざわめき出した。
それもそのはず。
ネットでも、何でも、Lilyは4人組“男性”アイドルグループだと噂されてきた。
今まで出てきている3人のシルエットも、どう考えたって男。
4人目の、私はもちろん…。
『Mikage Sakaki』
コツ、コツ、とステージ上に出ると、
お客さんから、大きな歓声が湧いた。
『彼女は、Lilyの姫です』
スカートの姿の私のシルエットを見て、そして、レンの歯がゆいくらい甘ったるい『姫』という言葉を聞いて、全ての人が理解した。
<Lilyの4人目は、女。>
…どうせ、明日の一面は私について面白おかしく書くんでしょ。
はぁ、とため息をつくと同時に、
幕が開いた_____
………キャァァァァァ
割れんばかりの歓声と共に幕が上がり、会場は目映い光で彩られる。
『それでは聞いてください!デビュー曲で、Right(ライト)。』
明るい声でコウが叫んだあと、
軽快なリズムで曲が流れ出した。
ただ踊る。ただ歌う。
緊張しすぎて何もわからないまま、楽しむ暇もなく時間は過ぎていって…,
_______
気づけば、今回のライブは終わっていた。
ちゃんと笑えてたのか、それすらもわからない。
1時間を越えるイベントが終わって、歓声の中捌けたあと、4人で少し呆然としていた。
観客の熱気と歓声。
初めて触れる、アイドルの実感。
画面の奥で微笑んで、楽しそうに歌って踊る世界…、それだけじゃない。
「…盛り上げれてたのかな、俺たち」
歌とダンスは、皆で作り上げてきたはずだった。
それでも、会場の雰囲気の作り方なんて、どこにいっても学べない。
コウが悔しそうに呟いたあと、他の3人もうつむいた。
今回は< デビュー >というハンデがついていたけれど、今度からはそうはいかない。
どこかが出来ているのに、
どこかが足りない…。
それが何なのかわからないのが、皆悔しかった。
確かに、熱気はすごかった。
歓声も大きかった、みんな私達を見守ってくれてて…、
新聞や雑誌、テレビ局などの記者の人たちから質問を受けて、
帰りの車に乗り込んだ。もう辺りは真っ暗闇に包まれている。
緊張や体の疲れからか、いつもは賑やかなはずの車内は静か。
自分も疲れているけど、なんだか居心地が悪くて
私の隣に座るコウに視線をやっても、いつものうるささはどうやら留守みたいだ。