序
「お、お前ら……全員魔王の手先だったのかよ! 」
ここは『魔王領』にある、都市『ラバレン』である。教会より魔王討伐の使命を与えられた勇者は仲間たちと共に、度重なる困難に立ち向かいやっとの思いでここまでやってきた。ところが、ここで勇者は絶望することになる。勇者が仲間だと思っていたパーティーメンバーは皆、魔王の手先だったのだ。
しかもその1人には、勇者の妹も含まれていた。
「ディ、ディアナ、まさかお前も……なのか? 」
勇者は恐る恐る訊いた。
「そうよ。私は魔王様に忠誠を誓っているの。決してお金のために、貴方を捕らえたわけではないわ」
「ど、どうして……ま、魔王に忠誠って……信じられない」
「兄さんには悪いけれど、これからは牢獄での生活になるわね」
こうして、勇者は魔王の手先によって捕らえられ、牢獄に幽閉され、心を病んだ。彼の心が晴れるのは幾分かの月日が経った後、『ある男』が彼に接触する時を待たなければならない。
序 終わり。
(1)
アーリア王国の王都カメムーシにある大聖堂で、勇者を選任するための儀式が行われていた。と言っても簡易的かつ極めて短時間で終わる儀式なのだが。
「ユミよ、貴女を勇者として選任する」
大司教がそう宣言すると、聖剣? のようなものを15歳ほどの外見の少女に授けた。と言うことは、この少女がユミなのだろう。
「勇者ユミ。貴女はこれより、魔王討伐の任務を与える。今から紹介する者たちともに、この任務を何としても達成するのだ」
半年前にも勇者が選任されたそうなのだが、噂によるとその勇者が集めた旅の同行者が皆、魔王の手先だったとされている。これにより教会が勇者の旅に同行する者についても決定するという方針になったそうだ。そして、何故か私もその1人に選ばれてしまったのである。
「では、これより3名を紹介する」
大司教はそう言うと、続けてダヴィド、マリーア、カルロ、と3人の名前を読み上げた。カルロというのが私の名前である。そして私は他の2人と同様に勇者の目の前へと移動した。
「以上が、貴女を支える者たちだ。さて、以上で儀式を終わりとする」
大司教がそう宣言し、儀式が終わると聴衆や神父及びシスターも大聖堂の間を後にする。大司教も旅に必要な金銭が入った袋をユミに渡して、ここを後にした。私たち4人を残して誰も居なくなると、ユミが自己紹介を始めた。
「あの! 初めまして、ユミと言います。これからよろしくお願いします」
ユミが自己紹介を終え、今度はガッチリとした体形の男性が口を開いた。
「俺はダヴィドだ。王宮兵士長を務めていたが、今回、国王陛下の命により勇者ユミに同行することになった。よろしくたのむ」
続いて、如何にも魔法使いのような恰好をした女性が自己紹介を始めた。
「私はマリーアと申します。攻撃魔法士として様々な仕事を請け負っていました。よろしくお願いします」
攻撃魔法士というのは、攻撃やその支援を専門とする魔法士のことである。そして、魔法士には回復を専門とする回復魔法士というのも存在する。尚、両魔法士はそれぞれの『魔法士協会』が課す試験に合格した上で、登録することで各々の魔法士としての資格を得ることができる。
「私はカルロという。攻撃、回復と両方の魔法を一応扱うことはできる。ただ、どちらとも資格は有していないから、そこは注意してくれ。まあ、これからよろしく頼むよ」
私も自己紹介を済ませて、これで一応は4人とも自己紹介が済んだ。
そしてユミの提案で一先ず、これからの旅に必要な武器・防具などの道具を揃えることにした。
王国名と王都の名前が、ふざけたままだ。
後で適当な名前を付けて訂正する。
(2)
大聖堂を後にした私たちは、旅道具が数多く揃えられている百貨店へとやって来た。この店は百貨店であることから、王都カメムーシの中でも有名な店である。
「じゃあ、金貨100枚ずつ預けておくから、各自で必要なものを揃えてね」
ユミはそう言って金貨が入った袋を取り出すと、私を含め3人に金貨を100枚ずつを、現実の引渡の方法によって占有を移転させた。そして、私たちは約一時間ほどを自由時間とし、一旦解散することにした。
私はこの百貨店には特段の用はないので、店を出て別の店へと移動することにした。何を求めているかと言えば、傭兵だ。そして何故、直接私の指示に従う『手足としての頭数』が欲しいからである。即ち私が今向かっている店は、傭兵団の雇い入れを斡旋している酒場なのである。
「いらっしゃい! 」
私が酒場に入ると、元気な店主が出迎えた。
「っと、何だよカルロじゃないか……ってことは、また傭兵団の雇い入れということかな? 」
「そうだ。金貨1万枚の支払いが約されている手形3枚を渡すから、一応信用できる傭兵団に掛け合ってくれ。もちろん、金貨3枚相当だから、危険手当等も込みだと伝えてくれよ」
実は、私はこの酒場の常連客であるのだ。何度も傭兵団を雇い入れて『色々』と活動しているのだ。危ない橋を何度も渡ったこともある。
「あんたのことだから、どうせ命がいくつあっても足りないことをやらせるだろうな? で、いつも通りの説明を傭兵団にすりゃ良いんだろ? 」
「ああ。いつも通り頼むぜ」
「で、この手形は……グランシス商会が振り出したやつか。金銭的に信用はできる商会だから支払いはこれで大丈夫だろう」
そして、わたしは適当に飲み物を注文して待つことにした。店主は飲み物を出してから、直ぐに別室へと移動した。
(3)
酒場で飲み物を飲みながら待つこと、およそ20分が経った。別室から戻ってきた店主が、如何にも傭兵というような恰好をした男を連れてやって来た。
「アンタが、カルロか。俺は20名の傭兵団を率いている団長だ。で、アンタさえ良ければ契約を締結したいどころだが……どうだ? 」
「そうですか。念のために確認しますが、命の危険が伴う可能性についてはご理解していただけましたかね? 」
「おう。元々、傭兵は金のために死にに行くようなもんだろ。金貨3万枚もくれるんだ。魔王領だって天界だってついて行ってやるぜ! 」
よし、こいつの率いる傭兵団にしよう。
「わかりました。貴方の傭兵団にお任せすることにします」
「では、これからよろしくな」
こうして、私は総勢20名からなる傭兵団を雇い入れた。その後は、とりあえずの行動方針を話し合い、私は百貨店へ戻ることにした。
(4)
旅の準備を済ませた私たちは、一晩を王都カメムーシにある宿屋で過ごした後、王都を発った。目的地は、ただひらすら『魔王領』を目指せばいいのだが、ユミが「ロムソン村」へ行きたいと言うものだから、その村へ行くことになったのである。そして面倒なことに「ロムソン村」は、『魔王領』のある方向とは全くの別方向であった。
「ロムソン村は、魔物に度々襲撃を受けているらしいの」
「なるほどな。王宮兵士長を務めている者して、自国の村の惨状を知って無視はできん! 」
ダヴィドは王宮兵士長があるが故に、ユミの提案に賛成し、マリーアはどっちつかずの態度であり、結局、反対したのは私のみであった。昨日、大金を叩いて雇い入れた傭兵団を後方から付けさせてあるため、予定外の行動は控えてほしいのである。万が一にも傭兵団が私を見失ってしまったら面倒だからだ。
「ロムソン村までは、ここから半日ほどかかるそうですね」
マリーアが道の端に立ててあった標識を見てそう言った。
「半日もかかるのか。実のところ王都に居ながらロムソン村へは一度も行ったことがないからな。まさかこんなにかかるとは知らなかった」
と、ダヴィドが言う。ロムソン村の村人が近隣の町や王都カメムーシへ行くことがあっても、王都市民や他の町の住人がロムソン村へ行くことは滅多にないと聞いたことがある。そもそも、ロムソン村のみならず『村』となるとあまり外部の人間が行く機会が少ないのだ。人の往来が激しいのであれば、必然的にそこは『町』以上の規模に発展するところ、要は人の往来がほとんど無いがために『村』のままなのだ。
しばらく進むと、次第に舗装されていない道になってきた。そして前方には獣だろうか?その獣らしき生物6匹が道の真ん中で屯していたのである。
「……あれは毒タヌキじゃないか! 」
私は、その獣らしき生物の正体に気づきそう叫んだ。あれは決して、フレンドになれないケモノなのである。
王都名がそのまま、カメムーシになってるけど、少なくとも葉っぱ天国での投稿についてはこれで統一することにした。
(5)
獣らしき生物の正体は、『毒タヌキ』と呼ばれる魔物であった。この『毒タヌキ』は魔物である以上当然に人を襲う。主に『噛付き』『引っ掻き』、そして人の気分を害するものとして『口から胃液を勢いよく吐き出す』という攻撃をしてくる。『毒タヌキ』の『毒』というのは、すなわち奴の胃液から名づけられたものであり、この胃液の匂いを嗅いだだけで徐々に眩暈に襲われて、最終的に気絶してしまうのである。
「あれが毒タヌキなのか。初めてお目にかかる」
ダヴィドがそう言った。
王宮兵士長でもあろう者が見たことがないというのは情けない……と、一瞬私は思った。しかし、本来『毒タヌキ』は森の奥地に生息しているので、こうして道中で出くわすことは滅多にない筈なのだ。
「カルロ殿は、毒タヌキと戦ったことがあるのか? 」
「何度かはある。だが、応戦した程度で倒したことはないぞ」
胃液を吐き出されたら、こちらはそれだけで不利となる。一瞬でも蹴散らせて直ぐに逃げた方が良い。
「私は勇者よ! これから魔王を倒すためには経験が必要だよね」
ユミはそう言って、剣を構えて『毒タヌキ』の群れへと突っ込んだのであった。
「ユミさん、止まって! 」
マリーアは制止したものの、それは無意味に終わった。
(6)
「はあっ!!」
ユミは、『毒タヌキ』の一匹に剣で斬りかかった。しかし多少は掠り傷を負わせたものの、『毒タヌキ』は素早い動きでよけて見せたのだ。それに続き、他の複数の『毒タヌキ』は爪を伸ばしてユミを目掛けて飛びかかってきたのである。
「くっ! 」
ユミは咄嗟に左腕で攻撃を防いだものの、その結果当然なことだが左腕から出血しているのが見えた。
「何をしているんだ。ユミ、後ろへ下がれ、早くしろ! 」
私は咄嗟に指示を出し、『毒タヌキ』を目掛けて中級火炎魔法を発動させた。これで、2匹は倒すことができたものの、まだ4匹が残っている。奴らは多少は知能があるのか、それぞれが、距離を置くようになった。纏まって行動していると魔法の餌食になるものと理解できたのだろう。
「ひっかき傷程度なら、初級回復魔法で何とかなるだろう」
私はユミの左腕に手を当てて、初級回復魔法を発動させた。
一方、『毒タヌキ』の相手をするのは、ダヴィドとマリーアの役目となった。2人はそれぞれ槍と魔法で交戦している。
「糞……また外したか」
ダヴィドは槍で突こうとするのだが、素早くよけられてしまい、またマリーアも魔法攻撃をするが、『毒タヌキ』が動き回るものだから、中々命中をさせることができないでいた。
(7)
『毒タヌキ』は攻撃さえ当たれば直ぐに倒すことができる。しかし、素早く動き回るため攻撃が中々当たらないこと、そして何より胃液による攻撃があるものだから、決して下級レベルの魔物ではなく一応は準上級レベルとされているのだ。
「ちっ、こうなったら! 」
中々攻撃が当たらず、中々埒があかないのだろう。ダヴィドは、『毒タヌキ』へ目掛けて飛びついたのであった。すると、ダヴィドの体は思いっきり地面に叩きつけられるかのような勢いで着地した。
「よっし! これで逃げられないだろう」
『毒タヌキ』の一匹が、ダヴィドの体に押しつぶされている。
そして、ダヴィドは槍ではなく、サブで装備していたのであろう短剣でその『毒タヌキ』の喉ぼとけを突き刺した。
これで、計3匹、すなわち半分の『毒タヌキ』を倒すことに成功した。
そして、私の方もユミの治療を完了したところであった。
「ユミの治療も終わった。そろそろ逃げよう! 」
私としては元々、『毒タヌキ』と積極的に戦うつもりは無かったので、そう言った。
だが……。
「め、眩暈が、うう」
とダヴィドが言いながら、倒れこんでしまったのである。よく見るとダヴィドの服は何かの液体で汚れていた。その汚れは赤色ではないので血液ではないことは確かだ。しかも、少し黄色っぽい。
先程、ダヴィドが自分の体で押しつぶした時に、『毒タヌキ』が押しつぶされた衝撃で意図せず「又は」意図して攻撃のつもりで吐いたのだろう。で、胃液を吐き出したわけであるから、ダヴィドがそれにやられた、と考えるのが相当である。
「とりあえず、治療しないと! ユミとマリーアは毒タヌキからの攻撃を警戒してくれ」
私はそう言って、息を我慢して(胃液対策……意味があるかは別)ダヴィドの元へと駆け寄る。他方、ユミとマリーアは臨戦態勢をとった。
「ん? 」
とその時、後ろを見ると、3人の男がこちらへ向かって来ていることに気づいた。
(8)
「おい、大丈夫か! 」
そう言って、男たちが駆けつけてきた。
3人の男の内、1人は私が知っている人物であった。昨日、雇い入れをした傭兵団の団長だったかたである。と言うことは、残る2人も傭兵団の一員なのだろう。
「ロムソン村に用があってな、ちょうどここを通っていたらあんたらが、魔物と戦っている姿を発見したわけだ」
と、団長が言った。あくまでも私とは他人のふりをしているが、これは私がピンチになったら他人のふりをしつつ何人かで駆けつけてきてほしいと、昨日取り決めていたからである。
「私らもロムソン村へ行こうとしてたら、毒タヌキに遭遇してしまってな……。1人、胃液にやられて気絶してしまったよ」
と私は3人に説明した。
「そうか。なら後は俺たちに任せて、あんたらは急いで離れた場所まで逃げろ」
「すまない……そうさせてもらうよ」
ユミとマリーアもこれに頷く。そして各自お礼を言って速やかにこの場を後にした。
尚、ダヴィドはどうしたのかと言うと私が背負っているので、当然置いてきたなんてことはない。
(9)
10分ほど歩き続けて、一休みを兼ねてダヴィドの治療をすることにした。私はダヴィドの体に手を当てて解毒魔法を発動する。
「これで、何とかなったはずだが……。眠い……な」
先程から私は、時間が経つにつれて眠くなってきたのである。疲れのせいだろうか? それもあるかもしれないが、一番の原因は恐らくダヴィドの服に付着した『毒タヌキ』の胃液にやられたのだろう。
「カルロさん。大丈夫ですか! 」
私が地面に座り込んでから、下を向いて俯いているとマリーアが心配したのか声をかけてきた。
「胃液にやられたのだと思う」
私はそう言ってから、まだギリギリ気が保てている内に、自分に体に手を当てて解毒魔法を発動した。
「具合は、大丈夫ですか? 」
「解毒はしたから、その内、眠気も覚めるだろう」
とはいえ、私は疲れているので眠気が覚めないかもしれないが。
「ところでユミの奴は……」
私とマリーアがユミの方を見ると、何とユミは倒れていたのである。
「まさか、ユミさんも! 」
恐らくユミも『毒タヌキ』の胃液が原因で倒れたのであろう。仕方がないので、ユミにも手を当てて解毒魔法を発動させた。そして、ユミの治療も済ませた後、念のためにマリーアにも解毒魔法による治療を行うことにした。
「まあ、ダヴィドはもろ胃液をかけられたから、直ぐに毒が回って一番早くに倒れたのかもしれないからな。本当に私のこの推測が正しいかはわからんが、マリーアもいつ症状に襲われるかわからないし、早いところ治療を済ませよう」
「ありがとうございます。カルロさんは本当に攻撃系の魔法と回復系の魔法の両方が使いこなせるんですね。すごいです」
魔法を使える者は決して多くないために(一般的にはこのように理解されている)、攻撃系又は回復系のいずれかを一定以上、使えるのであれば魔法士の資格を有していなくても、それだけで評価されるらしい。また、その両方を一定以上使えるのであれば、王宮でそれなりの地位に就くこともできるとのことなのだ。だから、私も王宮に仕官しようかと考えた時期もあったが(実際に仕官できるかは別として)、特定の国に仕えたがために、今の自由な身を捨てる気にはなれないのだ。
まあ、現在は勇者の同行者として教会から半ば強制的に選任させられてしまっているが。
「治療は終わったぞ」
私はマリーアの治療も済ませた。
しばらくして、ダヴィドとユミが目を覚ましたので、引き続き、ロムソン村へと向かうことにした。
(10)
ロムソン村に到着したころには、夕方になっていた。
私たちはとりあえず、宿屋を探すことにした。人の往来が殆どなくても、一応宿屋はあったので手続きを済ませて、各自、一部屋ずつ使うことにした。尚、魔物の襲撃の件については明日、村人から詳しく聞くことで意見が一致している。
「今日は足手まといになってしまってごめんなさい。今度から軽率な行動は慎むね……じゃあおやすみ」
ユミはそう言って、今いる一階の食堂から、二階にある部屋へと向かった。マリーアも、今日は早く休みたいとのことなので部屋へと向かい、残ったのは私とダヴィドの2人である。
「カルロ殿……。今日はすまなかった。もし解毒魔法による治療が為されていなかったらと、思うと恥ずかしい限りだ」
「困ったときはお互い様だろ」
今日、私は何度も回復系の魔法(攻撃系の魔法も)を発動したが、これは回復魔法士(私は資格は有していないので回復役とでも言っておこうか)として当然の役割であって、それを果たしたまでである。
それよりも、どうしても気になって仕方がないことをダヴィドに話すことにした。
「あの毒タヌキのことだが、本来は森の奥深くに居るはずなのに、道中で6匹とも遭遇したことが気になってね。もしかしたら……、魔王の配下による仕業かと考えてしまったりするんだ」
こう考えてしまうのは、私が疑心暗鬼な性格をしているからだろう。実際のところ、本当にそうなのかは確証を得たわけではないからだ。
「それは考えすぎでは? 」
「どうだろうかね。ただ、魔王領出身者の中には『魔物使い』もいるわけだし、こういう者たちが毒タヌキを操っていたのではないかと……ね。仮に『魔物使い』の仕業であれば、その使役する魔物の体のどこかに刻印があるから、それがあるか否かで判るんだ」
『魔物使い』は使役したい魔物に対して特殊な魔法を放ち、その体(魔物)に印を刻ませることによって自己が操る魔物を取得する。
仮に素人がこの魔法を覚えて、使ったとしても大概は失敗するのだが、『魔物使い』が発動すれば、当然ながら技量もあるわけだから、それなりに成功するわけである。
「なるほど、では仮に今日遭遇した毒タヌキの体のどこかに刻印があれば、少なくとも人為的なものと推測することができるわけか」
「そういうことだ。まあ、ダヴィドの言うとおり、あくまで魔王領出身者による仕業という推測ができるわけで、本当に魔王の配下による仕業かまではわからないが」
魔王領出身だからと言って、その出身者全員が魔王の配下、又は直接的な関わり合いは無くとも魔王に忠誠を誓っているというわけではない。
「とりあえずは、今日遭遇した毒タヌキ刻印があるか否かだけは確認したい」
前回の勇者が嵌められたという噂もあるので、今はとにかく何事も最大限に警戒すべきだろう。とは言っても素性をあまり知らない傭兵団を雇い入れたり……(ああ、これは一応、信用できる酒場の主人の仲介によるから大丈夫か。いや、そもそもダヴィドもマリーアも勇者ユミも……。これ以上考えるのはやめよう)。
まあ、とにかく毒タヌキの体を確認はして損はない。
「だから、私は今から例の遭遇現場まで向かうつもりだ。私が明日の朝までに戻ってこなければ、遭遇現場へ向かったことを2人にも伝えてくれ」
私はそう言って、宿屋を出た。
「カルロ殿。1人で行くのは危険すぎる。だから自分も付いていこう」
と、ダヴィドも外まで出てきた。
「いや、ダヴィドも疲れているだろうし、今日は休んでくれ。私は1人で旅をすることは、これまでも数多くあったから、危険を察知する能力はあるしな。大丈夫だよ」
本音を言うと、道中で野宿をしているであろう傭兵団に頼みたいことがあるので(その時ばかりは他人のふりが出来ない)、その際に私が傭兵を雇入れたことがバレるのが嫌なのである。
ダヴィドは特に追及することもなく、「では気をつけろよ」と言って宿屋へ戻った。これで何とか1人で向かうことができる。
(11)
二時間ほどかけて、再び『毒タヌキ』と遭遇した現場に戻ってくると、傭兵団が野宿していた。
「まさか、ここで野宿しているとはね」
私がそう言うと、団長が気づいてやって来た。
「お、あんたか。……で、ここまで何をしに戻って来たんだ? 」
「それなんだが、1つは毒タヌキの死骸があるなら、確認したいことがある。で、もう1つは、貴方たち傭兵団に頼みがあってね」
とりあえず、まずは『毒タヌキ』の死骸についての話を進めた。しかし、団長の話によると全部焼却の上、埋葬してしまったので、刻印の確認は出来なかった。これは仕方ない、諦めよう。
「なら、もう1つの話を進めよう」
「頼みがあるとかの方か」
私が傭兵団に何を頼みたいかと言うと、ロムソン村を襲撃する魔物の討伐である。
「私としては、とっとと『魔王領』まで行きたいのだが、昨日話したユミという勇者と、王宮兵士長のダヴィドが村の惨状を放置できないみたいでね」
『魔王領』まで急ぎたいのは本当である。とは言っても、何も魔王を倒したいわけではなく、他に色々とやらなければならないことがあるのだ。つまり、私にとってはタイミング悪く、教会から勇者の同行者に選任されてしまったというわけである。唯一、幸いなのは、勇者の使命が魔王討伐であるが故に、目的地が『魔王領』方面ということだろうか。
「あんたからは大金を支払ってもらってるし、応じないことはない。だが、あんたに付いて行く頭数は何人か必要だろ?」
「それは……4〜5人ほど頼もう」
ということで、話は纏まった。
尚、傭兵団の面々には、なるべくユミ、マリーア、ダヴィドの3人には顔を見られないように、ロムソン村に来てもらうように念をおした。仮に傭兵団全員の顔を覚えられてしまっては、後々の偶然を装った救援の際の『他人のふり』に困難が生じるからである。
(12)
翌日。
「と言うことで、傭兵団が魔物討伐の依頼を引き受けたみたいだし、私たちは早いところ魔王領へ向かおうと思うのだが」
と、私は朝食を食べながら3人に提案した。
「それに、魔王領に入ったからと言って直ぐに帝都……あ、いや魔王城に到達するわけでもないし、戦闘経験を積む面での心配もないかと思うぞ」
魔王領は決して狭いわけではない。少なくともここ、アーリア王国よりかは広い国土を有する。
「そうだね。魔物がいつ村を襲撃するのか判らないもんね。いつまでもここに居られるわけでもないし……」
魔王討伐が勇者の使命であるわけだから、ユミもロムソン村に長居が出来ないことについては理解しているようだ。私は、てっきりユミが駄々をこねるかと思ったいたのである。
しかし私が少しばかり感心していると、思わぬ人物から反対意見が出た。
「折角ロムソン村まで来たのですし、何もせずに帰るのはどうかと思います」
そう言ったのはマリーアであった。まさか、彼女から反対意見がでるとは思っていなかったが、ダヴィドは私の意見に賛成するだろうし何とかなるだろう(たぶん)。
「時分はカルロ殿の言う通り、魔王領へ直ぐに向かった方が良いと考えている」
よし。
これで少なくとも私とダヴィドの2人が『とっとと行こう派』となる。
まあ、先ほどダヴィドに対して賛成してもらうよう説得していたのだ。と言うのも『毒タヌキ』の体を調べたところ刻印があったと嘘をつき、『魔物使い』による仕業であるものと話をでっち上げたうえで、まだ経験の浅いユミがいると危ないと言って説得したのである。嘘も方便だ。
さて、後はユミさえ説得すれば3対1に持ち込めると思っていたところ、
「ダヴィドさん! 貴方はそれでも王宮兵士長なのですか」
と、ダヴィドに対してマリーアは言ったのである。しかも王宮兵士長のプライドを刺激するかのような物言いで、とても厄介なことになりそうだ。
「そ、それは……」
案の定、ダヴィドは動揺しているようだ。仕方がない、私も何か言っておこう。
「マリーア。傭兵団が討伐する以上、問題はないはずだ。ここでわざわざ王宮兵士長云々と言うのもどうかと思うが? 」
「カルロさんって冷たい人なのですね」
マリーアは直ぐに言葉を返した。私に対しても心を動揺させようと『冷たい人』などと言ったのだろうか? まあいいや。考えても無駄だ。
「これは周知のことだが、前に選任された勇者が嵌められたという噂がある以上、多少は冷酷な人間であると言われような対応をしようと、こればかりは仕方ないね」
「今、前の勇者の話は関係あります? まあ良いです。3人の判断に任せます」
ようやく、マリーアは諦めてくれたようだ。
その後ユミも説得に応じてくれたので、早速私たちはロムソン村を後にした。
「時分はカルロ殿の言う通り、魔王領へ直ぐに向かった方が良いと考えている」
↓
「自分はカルロ殿の言う通り、魔王領へ直ぐに向かった方が良いと考えている」
以上の通りに帝政。
(13)
ロムソン村付近の某所
「例の勇者の一行なのですが、村を早々と出てしまいました」
そう報告してきたのは、俺の部下である。
「ロムソン村を魔物が襲撃するという噂が広まったためか、どこか傭兵団が討伐の依頼を受けたとかで来てしまったみたいです。恐らくですが、勇者一行はその傭兵団を信頼しして村を出たのでしょう」
なるほど。部下の言う通り、勇者一行を誘き寄せようと度々ロムソン村を魔物に襲撃させたが、結果噂が広がり過ぎて余計な者たちまでもが来てしまったと見ることもできる。だが、たかが1つの村ごときに傭兵団が引き受けるような程の報酬を出した者がいるとして、さてそいつが何者なのかが俺は気になった。
「前回は八百長があったがために勇者は何とか魔王領まで辿り着くことはできた。しかし今回はそのような情報はない。そして、俺も魔王領に辿り着けないという方に大金を賭けている」
「だからこそ、勇者一行が魔王領に辿り着く前に拘束又は始末するってことですよね? 」
「そう言うことだ」
今回は使える魔物が『毒タヌキ』の6匹しか居なかったがために、あっさりと対処されてしまった。しかも、ロムソン村に長居させて時間稼ぎをする方法も失敗したのである。
しかし、勇者一行がロムソン村が魔物に襲撃されているという噂を聞き、放置できないと判断して村までわざわざやって来たのは事実だ。つまり、これからも『○○村が大変なことになった』と言った類の噂を広めて、誘き寄せることは可能ということだろう。
俺は早速、次の策を練ることにした。
(14)
ロムソン村を朝早く出発した私たちは、昼過ぎには王都カメムーシに到着することができた。そこで軽く昼食を済ませた後、早速、『魔王領』を目指して王都を発ったのであった。ここから、1日(12時間)かけて進んだところに、国境の町西ムーシがあるのだが今日はその途中にある馬車駅付随の宿屋で夜を明かす予定となった。
そして、
「これで6匹目、だね! 」
ユミがそう叫んだ。
道中に出現する魔物をユミ自身で倒したのが、今のでちょうど6匹目なのだ。ロムソン村へ行く道中で出現した『毒タヌキ』に比べれば明らかに雑魚であるから、戦闘経験の浅いユミでも容易に倒すことが出来るのだ。
勿論、ユミ以外のメンバー(私を含めて)も、各自、通行を妨害する魔物を倒している。
「カルロ殿は相変わらず、例の刻印を確認しているようだな」
ダヴィドが、ユミとマリーアには聞こえないような小さな声で、そう言った。
「雑魚とはいえ仮に刻印があれば、その意図はともかくして何者かによる行為であることは判るからな」
私も小声でそう答えた。
肝心の刻印付きの魔物だが今のところ1匹も発見していない。しかも次第に確認作業が億劫になってきたのである。さらに、ユミとマリーアが刻印の確認行為を不審に思ったのか気にしているようだ。
そして、私が刻印の確認行為を続けるか否か判断しようとしたその時、激しい頭痛が生じた。
―――――――― 気をつけろ。お前を暗殺しようと、奴らが動いたぞ。今日中にお前のもとへ来るだろう ――――――――
「うっ! 」
それは脳へ直接刺激するかのように、聞こえた。より正しく言うなれば、頭の中にその言葉が響いたとするべきか。それはともかく、私は【気をつけろ。お前を暗殺しようと、奴らが動いたぞ。今日中にお前のもとへ来るだろう】と一文一句、覚えている。こんな経験は初めてであるがしかし、ユミ、ダヴィド、マリーアの3人には聞こえてない(頭の中に響ていない)ということを『知っている』。
(15)
これは、想定よりも早く『奴ら』が動き出したということである。元々は『奴ら』を何とかしようとして『魔王領』へ急いでいたのであるが、まずは『奴ら』の内、今日中に来るらしい暗殺者への対処が先決だ。
私はそればかりを考えていた。
「カルロさん、先ほどから何か悩んでいらっしゃるようですが……どうかしました? 」
マリーアが心配したのか、そう声をかけてきた。周りを見るとユミやダヴィドも私の様子を窺っているのがわかった。皆、心配させてしまったようだ。
「カルロ殿。とても暗い表情をしながら一言も発せずに下を俯いていたが、何か深刻なことでもあったのだろうか? 」
ダヴィドも声をかけてきた。
そして、
「カルロ! 悩んでいるなら遠慮なく相談してよね」
と、ユミも言う。
まだ旅が始まってから3日目だというのに、どうもありがとうと私は心の中で礼を言った。
だが、事が本当に深刻なものだから(私が暗殺される可能性)、この悩みを安易に口に出すべきではない。口に出してしまうと、3人を混乱に陥れることになってしまいかねないからだ。よって私だけで対処する必要がある。当然、傭兵団に協力してもらうつもりもない。
さて、黙っているのも変であるからどのように誤魔化そうか?
「……あ……ううん……うっ! 」
何も思い付かず、それしか声に出せなかった。とても情けない。
「カルロ……大丈夫? 」
さらに心配させてしまったようだ。
とはいえ、私は3人に気をつかっている場合ではない。
「問題はない! 悩むのことは趣味だ」
自分でも何を言いたかったのか判らなかったが、3人はどう反応を返したら良いのか判断に困ったのだろうか、しばらく何も言ってはこなかった。
だが私はこの間、対処法を模索することに専念できる。
(16)
その後、馬車駅付随の宿屋に着いた私たちは早めに夕食を済ませた後、各自部屋で休むことにして今日は解散した。そして解散後、私は3人には気づかれないよう、馬車駅を発ったのである。目指す先は『人が一切来ないような所』だ。これから来るであろう暗殺者共をそこまで誘導し誰にも気づかれないように、こっそりと対処するつもりである。結局、思い付いた策はこれだった。
さて、どのレベルの奴が来るのか……。場合によっては即死もあり得る。20分ほど歩くとちょうど良い森を見つけたので、その森へ入った。
……。
森に入ってからさらに1時間が経った。どうやら、お待ちかねのお客さんがやって来たようである。10人前後で現れ、私を取り囲んだ。
「やっと見つけたぞ! 息子を返せ! ここでころしてやる」
1人がそう叫んだ。その者は背中に白い翼が生えており、そして頭の上にはこのものが『天使』であることの最大の証明となる『天使の輪』がある。
他の者も同じだ。
「そうか……。息子さんは死んでしまったのかね? なら、会わせてやるよ」
私はそう言った。そして、
「私をころしたいようだがどうやら君たちは、下級天使ではないか」
と、続けた。
先程はどんなレベルの奴が来るのかまでは判らなかったが、実際にやって来たのは『下級天使』であった。これは『天使の輪』の色で判別できるのだが、少なくともここに来た奴ら全員の『天使の輪』は、『紫色』に光っているので下級天使である(尚、天使の輪はその力に応じて変色するらしい)。
そして下級天使ごときであれば10名ほど居ようとも、私は楽に倒すことが出来る。
(17)
「しね! 」
私が、彼らを下級天使であると馬鹿にしたからなのか、1人がそう叫びながら槍を構えてこちらへ向かってきた。
「やはり……下級だと碌に魔法も使えないようだな。そんな雑魚のくせに人類よりも偉いってか? 」
私がそれを言い終えた時には、向かってきた天使は炎に包まれて悶え苦しんでいた。私が奴に向けて上級火炎魔法を発動したからである。仮に中級天使以上になれば、魔法攻撃から身を守る魔法を使うことができるであろうから、このように楽には倒せない。
他の下級天使たちは何もできずに、ただその場で突っ立っていた。その中には、恐怖のためか震えている者もいる。
「先の戦争で、お前ら下級天使は抵抗も出来ずに死んでいったよな? であるにも関わらず、私を殺そうとしたのか」
「だ、だまれっ! 絶対にお前だけは許さない。お前が全ての元凶だ……うっbgbgbgbbg」
また1人が斃れる。今度は口から大量の血を吐き出しながら。
私が編み出した魔法によるものであり、対象に向けて発動すると、その対象の内臓を滅茶苦茶にするという効果がある。とはいえ効果こそヤバいが、魔法攻撃を跳ね返す手段を有する者からすれば大したものではない。
「で、誰の指示だ? まさかお前らだけで動いているわけではないだろう」
今ここにいる下級天使たちに直接暗殺の指示を出したのが一体どこの誰なのか、私は気になったのである。本当に暗殺を成功させたいなら、このような著しく戦力の劣る者を使うはずが無いからである。
そしてさらに気になるのは、天使がこの世界(星)に居るということは、天使たちの世界(星)から転移魔法を使って来ているわけである。行きは他の協力者が使えば良いが、魔法を使えない彼らが、帰りはどうするのだろうか?
「お前ら……仮に私を殺したとして、どうやって帰るんだ? 」
私はそう訊ねた。
(18)
「畜生! 俺たちは使い捨てにされたのか! 」
「あの野郎、騙しやがったんだ」
彼らは己が魔法を使えず帰れないことにようやく気付いたのだろう。指示を下した者への怒りの心情を察することが出来る。
だが、
「でも、こいつを殺せばきっとエレドス様が迎えに来てくださるはずだ」
と、1人が言ったがために、皆、それに同調し再び私へ怒りの矛先を向けたのか槍を構えだした。
「あくまで、私を殺したいわけか」
私は、上級火炎魔法を連発し1人を除き皆殺しにしたのである。炎に焼かれ死にゆく者の断末魔は決して心地よいものではないが、やむを得ない。
「く、くそおおおお! み、みんな殺しやがって! お前えええ」
あえて1人は生かした。むろん指示を出した者が誰なのかを聞き出すためである。そして、私はその生かした天使を地面に抑えつけた。
「誰の指示なのか答えろ。返答が早ければ早いほど、お前がこれから失うものは少なく済む。むしろ、早く答えることで得られるものもあるぞ」
「黙れ! 」
「答えなければ、毎分ごとに手足を一本ずつ切断してやる。手足がなくなれば、今度はお前の綺麗なその白い翼をもぎ取ってやろうではないか」
拷問だ。だが、こちらも命が係わっているわけであるので、仕方がない。今回は下級天使であったから良かったものの、これが上級天使以上となると本当に危ないのだ。特に大天使となると、呆気なく瞬殺されてしまう可能性がある。
「わ……わかった。答える、答えるよ。俺たちに指示を出したのは、エレドスと言う上級天使だ。彼が俺たちを集めてお前を殺せと命じたんだ。もちろん、俺はお前を心の底から憎んでいるからな! 快く応じたんだよ! 」
エレドス……先程、誰かが口にした名前だ。
「他には? そのエレドスとやら以外に、もっと上の奴とかは居ないのか? 大天使とか」
「いや、これ以上は俺は知らない」
なるほど。とりあえず、まずはエレドスという名前は覚えておくことにしよう。そして私は金貨100枚が入った袋(ユミが初日に渡してきたやつ)を、彼に贈与したうえで、解放した(どうせ、帰れないのだと思うが)。
「さて、宿屋へ戻るとするか」
当初、『奴ら』が動き出したと聞いて驚いたがもしかしたら、その一部の連中による個人的な暗殺行為に過ぎなかったのではないだろうかと私は考えた。例えばそのエレドスとやらが私に対して抱いた恨み感情による復讐だ。仮に暗殺計画につきエレドスの上がいるなら、残るは大天使か又は、現在天使共の中で最頂点に君臨する筆頭大天使のみであり、もしこれらが計画していたなら、もっと強い戦力を以て私を排除することが出来る。
ともかく、エレドスについて調べる必要がある。元々魔王領に行き『奴ら』……もとい『天使の糞野郎ども』への対策をするつもりであったが、着いたら真っ先に先の戦争で管理していた捕虜の資料に当たってみよう。
……調べるも何も、今、お前が教えてくれれば済む話なんだがな。また頭の中に直接声を響かせてくれよ。あの頭痛は嫌だけどさ……。
(ここまでのあらすじ)
1日目。
大司教「勇者よ、魔王を倒せ」
ユミ「はい」
大司教「仲間のカルロとマリーアとダヴィドだ」
ユミ「よろしく」
ダヴィド「よろしく」
マリーア「よろしく」
カルロ「よろしく」
そして、4人は装備を整えに行く。
でも、カルロは傭兵団を雇いに酒場へ行く。何故か大金(手形)を持っているカルロであった。
王都で一晩過ごすことにした。
2日目。
ユミとダヴィドがロムソン村を魔物から救いたいと、寄り道を提案。カルロだけは反対したが結局行くことへ。
本来の生息地とは異なる場所で『毒タヌキ』と遭遇。色々あったけどロムソン村へ到着。
カルロ「毒タヌキについては誰かの仕業だ。魔物の体に刻印があれば魔物使いの仕業だ。調べてくる」
ダヴィド「自分も行こうか? 」
カルロ「いや、1人で行く」
『毒タヌキ』は焼かれてしまい、確認できずに終わった。
カルロは傭兵団にロムソン村を度々襲う魔物の討伐を命じた。
3日目。
何故かマリーアが最後までロムソン村で魔物討伐をするべきと主張。でも、無事、出発した。因みにこの3日目の夜にカルロが天使と戦闘になる。天使に恨まれるってカルロは一体何をしたのかね?
以上の通り。
尚、次はここまでのキャラクター商会でもします。
(キャラクター等紹介)
・カルロ
本作の主人公。元々『魔王領』へ赴き、とある目的達成を目指していたがそんな時に勇者の同行者として選任されてしまった。
・ユミ
勇者として教会から選任された少女。実は3人兄弟の末っ子。15歳。
・マリーア
勇者の同行者として選任された攻撃魔法士協会所属の魔法士。
・ダヴィド
アーリア王国の王宮兵士長の1人で、今回、勇者の同行者として選任された。
・魔王?
魔王領の統治者。勇者の討伐の対象となっている。
・ディアナ
兄である勇者を裏切った(元々、魔王に忠誠を誓っているので裏切ったという表現は誤りかもしれないが)。
・ディアナの兄
勇者であったが、妹らに謀られ幽閉される。
・『毒タヌキ』を操っていた名無しの魔物使い
勇者たちが魔王領へは到達できない方へ、金を賭けたがために、勇者ユミたちの旅の妨害をしている。
・エレドス
上級天使。カルロを襲撃した下級天使たちに指示を出したのがこいつらしい。
・謎の声
カルロの頭の中に響いた謎の声らしきもの。旅を始めて3日目にカルロは初めてこの現象に遭遇したものの、それがどう言ったものなのかは、事前に知っていた。
・グランシス商会
少なくともアーリア王国内では大企業である。そして、カルロはこの商会が振り出した手形を複数枚持っている。
・酒場の主人
カルロの知り合いで、カルロにとっては信用できる人物。
・傭兵団団長
カルロに雇われた傭兵団の団長のこと。
(19)
駅馬車付近の某所。
「おや? まさか勇者を謀る役割が与えられたのは貴女なのか」
俺は、目の前にいるそう女に訊ねた。
「ええ、そうです」
ほう。こんな優しそうな女が魔王の手先であると知ったら、勇者たちはどう思うのだろうか俺はその様を見てみたい。
それはさておき、今回は教会が直接勇者の同行者を選任したというのにそれを潜り抜けられるとは、この女も工作員としてかなりの腕があるのだろうか?
「今回は私も辿り着けない方に賭けましたけど、あの毒タヌキは貴方によるものですね? 」
そっちでも(賭博)、俺の仲間か。
「確かに毒タヌキは俺の仕業だが、ロムソン村を直ぐに出発してしまったようだな? 時間稼ぎをしてくれれば、俺も助かったのに」
今朝、勇者一行は直ぐにロムソン村を出たのである。そんなもんで俺も、気づかれないよう勇者一行に付いてきた。
「時間稼ぎはしようと思ったのですよ? しかし、どこかの傭兵団が討伐することになったみたいで、それを理由に直ぐ出発してしまったのです」
やはり、傭兵団の奴らが来たがために直ぐにロムソン村を出発したのか。本当に、どこのバカが依頼したのだろうか? 余計なことをしやがって。
「それと、魔物使いの貴方に言うのも失礼かもしれませんが、魔物は使わない方が良いかもしれませね」
「どういうことだ? 」
この女、本当に失礼な奴だ。俺が苦労して魔物使いになったのも知らずに。父が死に、母も後を追って、俺一人になったのだ。そして毎日辛い肉体労働で生活しつつ魔物使いのための勉強や訓練をしてきたんだよ俺は!
ともかく、理由は何なのだろうか? そこは俺としても当然に気になる。
「同行者の1人が、道中で倒した魔物を一体ずつ確認しているのですよ。あれは今思うと、刻印の有無の確認だったのではないかと思いますね」
「……なっ、なんだと! い、いや、毒タヌキだ。毒タヌキの本来の生息地を知っていやがったんだ。それで気づかれたのか! 」
仮に、そうであれば魔物使いの存在も知っているということになる。まさか、傭兵団を雇ったのもそいつの仕業なのだろうか? ……いやしかし、傭兵団を雇うには大金が必要だしこれはないか。
「まあ、しばらくは慎重になるべきかと。さて、そろそろ戻ります」
「おう」
まあ、しばらく魔物は使えないとしてもあの女が何かしらのフォローはしてくれるかもしれない。
俺もそろそろ寝るとしよう。
(20)
ここは屋敷の中庭である。
「ほらほら食えよ。これを全部食ったらご褒美をあげるぞ? 」
私にそう命じたのは天使であった。『天使の輪』は白く輝いており、すなわち大天使と言うことになる。私は大天使……彼の遊び道具として使われていた。
そして、彼の命令に従い私はそれを食べ始めたのである。これは誰かの排泄物などを混ぜた汚物であろう。間違いない。しかし、汚物であろうと彼の言うことは全部聞かなければならないから、それを全部食べる。
「ほう? 全部食ったようだな。なら約束通りご褒美を持ってこないとな」
彼はそう言うと、屋敷の中へと入っていた。しばらくして、彼が持ってきたのは死後そのくらい経っているのだろうか? ミイラ化した死体である。
「お前の姉だぜ。姉弟水入らずの時間を過ごすんだな」
彼はそう言うとゲラゲラと笑いながらどこかへと行った。
姉は天使共に内臓を抉り出されながら死んでいった。天使共はその死にゆく様子を楽しみながら、最後はその抉り出した内臓を焼いて食べたのである。天使共から見て、人類は家畜以下の存在にしか見えないのだろう。だが人類は天使が神の使いであると信じて崇めているのだ。果たしてこいつらのどこが神聖なのだろうか? そもそもこの悪逆非道なt連中を天使と呼ぶこと自体が間違っているはずだ。
「ね、姉さん……。死後の世界は幸せかな? 僕も早く行きたいけれど勇気がないんだ」
姉の死に対する悲しみは、もはやそれほど感じてはいない。もちろん姉が殺されてゆく姿を何もできずに見させらたあの時は耐え難い苦痛によって頭がおかしくなりそうであったが、月日が経ったことで薄れたのだろう。
「やっぱり勇気がないから、もう少し生きてみるよ」
※
「あれ、二人とも眠そうだね。昨日はきちんと寝たの? 」
天使をほぼ皆殺しにしたからなのだろうか、昨日は悪夢にうなされてしまい快眠とは言えない状態であった。そして、もう1人何故かマリーアも眠そうな様子である。
「悩むのが趣味だって言っただろ、だから昨日はずっと悩んでいたんだよ」
「私も少し個人的に考え事をしてましてなかなか眠れませんでした」
私とマリーアはほぼ同時にユミに返答した。
「西ムーシまではずっと歩くわけだが大丈夫か? 」
ダヴィドも私ら2人を心配したのか、そう言ってきた。私については1日中、眠らずに歩き回ったことが何度もあるから平気だ。
「私は大丈夫だよ」
そしてマリーアも、
「私も大丈夫です。ご心配をおかけしました」
と告げた。
その後、朝食を終えた私たちは西ムーシの町を目指して移動したのであった。
(21)
朝早く馬車駅を出発した私たちは、何時間も歩き続けてた。もう昼時である。尚、私は道中に出現した魔物を一体ずつ倒しては確認の作業を続けている。
「そろそろ、西ムーシにつくだろう」
ダヴィドがそう言った。
西ムーシに到着したら私は顔を出すつもりの店がある。それは西ムーシ商会と言って、商号の由来の通り西ムーシの町に本店を置く商会であり、そこの当主とは、長い付き合いがあるのだ。
「確かに町っぽいのが見えてきたね。あれが西ムーシの町なのかな? 」
「そう、あれが西ムーシの町だ。自分は王宮兵士を率いて何度か行ったことがあるんだよ」
本来、真っ先に向かうべき町が四日目にしてようやく見えてきたのであった。
「西ムーシを超えればプランツ王国なのですよね? 」
マリーアの言う通り、西ムーシの町から橋を渡り河を超えればプランツ王国側に入ることが出来る。ただ、プランツ側には町がないので、今日中に国境を超えるかはまだ決まっていない。
そして少し歩くこと数分、無事に西ムーシの町に到着した。
到着して早々に4人で話し合った結果、今日はここで一晩を過ごすことになったので、適当に宿屋を見つけて手続きを済ませ、今日は解散となった。
解散後、私は早速西ムーシ商会の本店へと向かったのである。
「おや? カルロさんではないですか。勇者の同行者として選任されたとか聞きましたから、いずれここを立ち寄ると思って待ってましたよ」
私が本店に入ると、直ぐに私だと判ったようで店主自ら私を出迎えてくれた。
「寄り道して4日も経ってしまったよ。で、商売の方はどうなのだ? 」
「お陰様で何とか安定はしているのですが……ただ、今はグランシス商会との商売争いの最中でしてね。で、カルロさんにも知ってもらいたい話があるのですが」
ただの挨拶だけで済ませるつもりであったが当主が途中から真剣な表情になっていたので、私はとりあえず話だけでも聞いてみることにした。
アーリア王国の王都の名称につきましては変更いたします。
場合によっては広く募集することになるかもしれません。
候補としてはアーリア王国王都アリムーシとしております。尚、他のサイトに投稿する際には『アーリア王国』の部分も変更します。
(22)
「西ムーシの町から見て北にあるロベステン鉱山がありますが、これを所有しているアリムーシ商会が近く競売にかけると宣言したのですよ」
アリムーシ商会とは王都アリムーシに本店を置く商会であり、主に鉱山経営にて利益を得ている。この鉱山大好き商会(アリムーシ商会)がその鉱山の1つを競売にかけるということは資金繰りが危ないのか?
「ロベステン鉱山は所謂『銅山』だったわけですが、最近になって産出が出来なくなったそうなのです」
なるほど、資金繰りが危ないのではなく銅が産出されなくなったので、単に要らなくなったからダメ元で競売にかけようとしたとも言える。しかし、西ムーシ商会とグランシス商会が、これを巡って商売争いを繰り広げているのだろうからやはり何かがあるのだろう。
「で、最近になって銅の代わりに変な鉱石が産出されるようになったのですよ。これがその鉱石です」
当主はそう言い手に取って、私にその鉱石を見せてきた。
「この鉱石は……見たことがないね」
例えばこの鉱石が広く知られている宝石の元になる原石であれば、アリムーシ商会も銅に代わり価値あるものが産出できるようになったということで、競売にかけることはなかっただろう。しかし、私はそのような宝石類は素人ながらも一通りは知っているのだが、この鉱石は全く見当がつかない。果たして、何の石なのだろうか。
「この鉱石は、まあ価値がないと向こうも判断したのでしょうね。しかし私の商会の中に好奇心旺盛な奴がいまして、そいつがこの鉱石を廃棄所から拾って来ては色々と加工なりして遊んでいたのですよ。そしたらある日、この鉱石に魔力があるのだとか奴が言い出したわけです」
なんと! 魔力がある鉱石と……これは凄い話だ。
まあとりあえず続きを聞こう。
「で、この鉱石を加工したものを杖の先っぽに装着して子供みたいに振り回して遊ぶようになりましてね、それがしばらく続いた頃、今度はこの鉱石には魔法発動による魔力消費を抑える効果があるとか言いましてね」
「魔力の消費を抑えれられると? 本当なら魔力な少ない者にとってみれば、重要なアイテムとなるではないか」
「そう言うことです。ほんの少し魔法の訓練をさせた者でも、何度も魔法を発動させることができます」
魔法は『覚える』ことと、『自己の有する魔力』を増やすことが重要なのであるが、この鉱石があれば『魔力』をそこまで増加させるほどの訓練をさせなくても(理論は不明だが、日々、魔法の発動を繰り返すことで魔力が微増する)、休ませずに何度も攻撃魔法や回復魔法を発動させることが出来るということだ。もちろんその他の魔法も同様である。
そして、これを大量に手に入れることが出来るならと考えると私は、心の奥深くから興奮という感情が沸騰したお湯のように湧き出てくることに気づいた。これを天使殲滅に使えば良いのだと。
訂正
「で、この鉱石を加工したものを杖の先っぽに装着して子供みたいに振り回して遊ぶようになりましてね、それがしばらく続いた頃、今度はこの鉱石には魔法発動による魔力消費を抑える効果があるとか言いましてね」
↓
「で、この鉱石を加工したものを杖の先っぽに装着して子供みたいに振り回して遊ぶようになりましてね、それがしばらく続いた頃、今度はこの鉱石には魔法発動による魔力消費を抑える効果があるとか言いましてね。最初は半信半疑で私らも試してみたのですが……なんと、奴の言う通りでしたよ」
以上の通り訂正。
(23)
西ムーシ商会の当主から鉱石についての説明を受けたが、さらにここからが本当に重要な話となる。というのも実はロベステン鉱山から金が産出されるという情報をグランシス商会が掴んだらしいのだ。であるが故に、グランシス商会は何としてでもロベステン鉱山を競落させたいらしい。
「ま、まあですね……我が商会が色々と人には言えない手段でこの情報を掴んだのですけど、できれば黙ってくれると助かりますね、はい」
「当然、誰にも言わない。グランシス商会が競落してしまえば、この鉱石を手に入れるのが困難になるからな。それを阻止するための重要な情報の1つではないか」
グランシス商会の競落後に、この鉱石だけを無償又は安い値段で西ムーシ商会が譲り受けるとしても、恐らくグランシス商会はこの鉱石に何らかの価値があり、であるからこそ西ムーシ商会が譲り受けを求めるのだと考えるはずだ。そうなれば、高く吹っ掛けられるか或いは、魔力を有することを知られてしまう可能性がある。
「私としては何としてでも、この鉱石の供給を西ムーシ商会にお願いしたいところだ。これが実現できれば、元帥も喜ぶだろうね」
まだ、私自身でこの鉱石の魔力の有無についてを確認したわけではないが(後でする)、当主は信用できるので魔力が有るという前提で話は進めている。
「ええ、元帥閣下も喜ばれるでしょう! まあまだ競売の日時までに余裕があれば、元帥閣下から資金を援助してもらうつもりではありましたがね。しかし、もう競売当日まで目前ですから無理な話です。で、結構いろんな金融系商会から融資はしてもらったのですが、足りないでしょうね」
つまり、このままではグランシス商会が競落して終わりとなってしまうということだ。
そして当主は、
「カルロさん! 旅の最中でしょうけれど手を貸していただけませんかね? 」
と、私に頼み込んできたのである。
「その権限は当然、カルロさんに付与いたします。ロベステン鉱山競落担当の副当主ってことで動けるよう手配しますよ」
ロベステン鉱山は何としてでも西ムーシ商会に競落させたい。この気持ちは真実だ。しかし、商売もしたことがないような私に何ができるのだろうか?
「『どんな』方法を使ってでも、資金を集めなかれば! これは貴方の大いなる目的達成にも関係するはずです」
当主はそう畳み込んできた。
なるほど、考えてみれば資金を集めることに成功すれば良い。又は何らかの形でグランシス商会がロベステン鉱山から手を引かせれるなら尚更だ。
「わかった。私も出来る限り力になろう」
私は当主の要請に応じたのである。
「では早速、この2通の書面にサインをしてください」
要約すると、副当主の地位に兼ねてロベステン鉱山競落に係る権限の付与する旨の契約書のようだ。どうやら元々、誰かに付与するつもりだったのだろう。私は2つの同一内容の書面にサインをした。そしてその2通を、それぞてそれぞて私と当主で1通ずつ保管することで契約締結が完了したのである。
旅をすっぽかすことになるけれど、大丈夫だろう。たぶん!
それぞてそれぞて私と当主で1通ずつ保管することで契約締結が完了したのである。
↓
そして、それぞれ私と当主で1通ずつ保管することで契約締結が完了したのである。
(24)
ロベステン鉱山を競落を巡るグランシス商会と西ムーシの争いに巻き込まれた私は、早速行動に出た。
まず、ユミたちには何日か旅から抜ける旨を告げたのである。ユミたちはそれを聞き、やはりその理由を訊ねてきたものの私は黙秘を貫いた。早く『魔王領』を目指そうと主張していた私が旅を抜けると言ったものだから、ユミたちは私を無責任であると感じただろう。しかし、それだけロベステン鉱山には価値があると私は判断しているのだ。
そして例の鉱石について私も確認した結果、一定の条件を充たせば確かに魔力の消費を抑える効果があった。
続いて、私は王都アリムーシへ戻ってきた。それは、王都にある金融業を営む商会からも融資をしてもらうためである。
「これは凄い! 休まずに王都まで来たが、殆ど魔力が消費されてないぞ」
さて、西ムーシの町から王都アリムーシまで戻るとなると、また無駄な時間がかかる。しかし私は快速魔法(私が編み出した魔法の1つ)を使ったのである。この快速魔法を使って走れば、馬よりも早く早さで移動することが出来るのだが、どうしても魔力の消費が極めて激しいという欠点があるので安易に使うべきではないのだ。
しかし、例の鉱石を所持していたおかげでその消費を抑えることができたのである。
「これがあれば、快速連隊どころか快速師団も何個も創設できるぞ」
感激したあまり私はそう口に出してた。
とはいえ、だからこそ何としてでも西ムーシ商会に競落させなければならない。
(25)
王都アリムーシに戻ってきた私は早速、西ムーシ商会王都支店に来ていた。王都支店の支店長とは初対面である。
「何と……。既に王都支店でも複数の商会から融資を受けていましたか」
「すみませんね。まだ本店の方には連絡してなかったのですよ」
という事は私が王都までやって来た意味が無いではないか。
「とは言え、グランシス商会がどこまでお金を積むのか……やはりこれが問題ですね」
支店長がそう言った。
グランシス商会は、西ムーシ商会の何倍もの資金力を有しているので、あちらとしては西ムーシ商会の資金力を上回る資金を簡単に用意できるのだ。よって、西ムーシ商会が競落するには必死に資金を集めて、その上で運が左右されるわけである。
「まあ、西ムーシ商会としては少しでも多く資金を集めるしか、今のところ方法はないでしょう。ですからダメ元で、一応、さらなる借入の交渉に行ってきますよ」
私は支店長にそう言って、支店を後にした。
さて、困った。もうすでに借りまくっているわけだ。これ以上の借入の交渉をして成功するであろうか? 恐らく無理である。仮にロベステン鉱山から産出される例の鉱石に価値があることを分からせれば、さらなる借入も出来るかもしれないが、迂闊に例の鉱石について話してしまってグランシス商会に知られるのもまずい。
果たしてどうするべきか…………私は悩んだ。
そして、悩みつつも金融業を営む商会を一軒ずつ回ったが、当然の結果で終わった。借入は出来なかったのである。途方にくれた私であったが、とりあえず一度ロベステン鉱山へ行ってみることにした。
再び快速魔法を発動させながら走り急いだ。西ムーシの町を経由してロベステン鉱山に到着したころにはすでに夕方になっていた。
「ここが、ロベステン鉱山か。労働者はどこにいるのだろうか? 」
すでに本日の業務が終わったのかと思ったが、しばらく辺りをウロウロしていると労働者らしき一団を見つけた。
「こんにちは。私は西ムーシ商会の者なのですが……」
とりあえずロベステン鉱山に来ただけであったので、特に用件もあるわけではなく言葉に詰まった。
「商人がここに何の用があってわざわざここまで来たんだ? ああ、ここの競売の件なら俺たちは詳しくは知らないぞ」
労働者らしき1人がそう言った。
その時、私はこのロベステン鉱山の労働者の数が少ないように感じたのであった。
「ええ、まあ競売の件で来たのですが、実は前から調べていたことがありましてね……この鉱山の労働者の数が少ないように思ったのですよ」
たった今気づいたことを、前々から調べていたかのように言った。
「おう、その通りだぜ。なあ? お前らもそう思うよな」
「そうだそうだ! 人の数は少ないくせして、過酷なノルマを課しやがって」
「本当に商人の野郎どもはムカつくぜ」
なるほど、労働者の数が少ないのは私が感じた通りだったか。これは中々、運の良いことかもしれない。
「やはり少ないのですよね。であれば、私たち西ムーシ商会が競落ができた暁には、貴方たちは楽に仕事ができるようになりますよ。待っていてくださいね」
私はそう言って、ロベステン鉱山を後にして、西ムーシの町へと戻った。
私はそう言って、ロベステン鉱山を後にして、西ムーシの町へと戻った。
↓
私はそう言ってロベステン鉱山を後にし、西ムーシの町へと戻った。
以下の訂正は(24)の冒頭
ロベステン鉱山を競落を巡るグランシス商会と西ムーシの争いに巻き込まれた私は、早速行動に出た。
↓
ロベステン鉱山を競落を巡るグランシス商会と西ムーシの争いに巻き込まれた私は、早速翌日(西ムーシの町に到着してから二日目)から行動に出た。
以上の通り。
そして以下の訂正は、(25)の途中の部分。
労働者らしき1人がそう言った。
その時、私はこのロベステン鉱山の労働者の数が少ないように感じたのであった。
「ええ、まあ競売の件で来たのですが、実は前から調べていたことがありましてね……この鉱山の労働者の数が少ないように思ったのですよ」
たった今気づいたことを、前々から調べていたかのように言った。
↓
労働者らしき一団の1人がそう言った。
そして、それと同時に私はこのロベステン鉱山の労働者の数が少ないことに気づいた。ここへ来た当初から労働者の姿を中々見つけられなかったにも拘わらず(要は数が多ければ、そこら中に労働者が居るはずだ)、それに気づかなかったのもどうかしていた。
「ええ、まあ競売の件で来たのですが、実は前から調べていたことがありましてね……この鉱山の労働者の数が少ないように思ったのですよ」
たった今気づいたことを、前々から調べていたかのように言った。これで元々用件があってやって来たかのように誤魔化せるだろうからね。
再訂正
労働者らしき一団の1人がそう言った。
そして、それと同時に私はこのロベステン鉱山の労働者の数が少ないことに気づいた。ここへ来た当初から労働者の姿を中々見つけられなかったにも拘わらず(要は数が多ければ、そこら中に労働者が居るはずだ)、それに気づかなかったのもどうかしていた。
↓
労働者らしき一団の1人がそう言った。
そして、それと同時に私はこのロベステン鉱山の労働者の数が少ないことに気づいた。ここへ来た当初から労働者の姿を中々見つけられなかったにも拘わらず(要は数が多ければ、そこら中に労働者が居るはずだ)、それに気づかなかったのもどうかしていたね。
訂正しまくってすみません。
(26)
「わざわざ、こんな時間に申し訳ありませんね」
ロベステン鉱山から戻ってきた私は今、西ムーシ町長の家にお邪魔していた。
「西ムーシ商会の副当主さんがお越しになったという事は、商売に関係するお話ということですよね? 」
町長の言ったとおりだ。私は西ムーシの町から融資を得ようと考え、町長の家にやって来たのである。
「ええ。町長さんも、近日中にロベステン鉱山が競売にかけられるというのはご存知ですよね? 」
「……なるほど。ロベステン鉱山を競落するために必要な資金を欲しているということですか? まあ何せ相手はグランシス商会ですからね」
話が早くて助かる。
「はい。融資のご相談で参りました」
もちろん、ただで融資をお願いしにきたわけではない。対価に相当するような利益を西ムーシの町に提供するつもりである。と言うのもまた幸運なことに(これを幸運と言うのも酷い話かもしれないが)、西ムーシの町には浮浪者が多くおり、能力的な問題はさておき数だけでいえば労働力が有り余っているわけである。
「まず当然、利息は付して返済いたします。その上で、我々がロベステン鉱山を競落できましたら、西ムーシの町の住人から一定数を労働者として雇用いたします」
この王国には人頭税なる税金がある。まず、王国に払う必要があるのは当然として、王都を始め町や村でも独自に人頭税を徴収することができるのだ(西ムーシの町では現に徴収している)。
しかし、西ムーシの町の住人であればその全員が町にも人頭税払わなければならない義務があるとはいえ、無一文の者が払うことは事実上不可能である(不良債権のようなもの)。そこで仮に西ムーシ商会がロベステン鉱山を競落できたとするなら、そのような浮浪者たちを雇入れて一定以上の賃金を払えば、町としては現実に人頭税を徴収できることになる。
尚、ロベステン鉱山を取得した者は競落した者は、そこで現に働いている労働者について使用者としての地位がアリムーシ商会からそのまま移転することになっている。よって、浮浪者を多く雇入れても、ド素人集団になることはないだろう(たぶん)。
「……そういうことなら、融資いたしましょう。西ムーシ商会が競落に失敗しても、それはそれでお金を払う必要はなくなるわけですから、元本だけは直ぐに返せるでしょうし」
「ありがとうございます」
この後、どうやら町長と当主が親友同士だったこともあり、当主を呼んだうえで融資に関する契約は締結することになったのである。
尚、私が町に提示した条件はそのまま当主より追認された。
(27)
「町からは金貨600万枚も借りることが出来ましたよ。我々が元々準備していた資金が750万枚ですから1350万枚となりますね」
西ムーシの町から勇士を受けることが出来たので、当主も喜んでいる様子であった。さらに西ムーシ商会の王都支店も王都中の金融系商会から借りており、それを含めれば金貨1650万枚となる。
「カルロさんのおかげですよ。まさか労働者や貧困層救済の方向から物事を考えるとは……私たちには思い付きませんでしたね」
「しかし、労働者に手厚い保護をするということは、それだけ商会に負担がかかるわけだ。今回は大口の供給先が半ば決まっているから何とかなるだけであってね」
賃金を上げれば上げるほど、当然に商会の負担は大きくなる。さらにロベステン鉱山で働く労働者のために、西ムーシの町に無償の寮などの住居も用意することも、町長に約束させたのである。
これらは全部、西ムーシ商会の負担となるわけだ。普通ならここまでは、思い付いてもやらないだろう。
「資金集めの方はともかくとして、私は明日、また王都へ戻ることにするよ」
「どうしてです? 」
「グランシス商会はどこから金を産出できるという情報を掴んだのか……私はそれが気になっていてね」
西ムーシ商会は、魔力を有する鉱石を目的として競落に臨むつもりであるのだが、この当主の話によればグランシス商会は金鉱石が目的としているとのことだ。では、この金が産出できるという情報はどこで得たのだろうか? それとも独自の調査の結果、金が産出できると判断したのだろうか(例えば独自に編み出した魔法などを使って)。
私はこの情報の真偽はともかくとして、その出所がどこなのかを掴みたいと考えたのである。
翌日、私は王都へと向かう前に宿屋で朝食を摂っていたところユミがやって来て、
「相変わらず、カルロは忙しそうにしているね」
と、声をかけてきた。
ユミたちは数日の間であれば西ムーシの町で待ってると言ってくれたのである。こればかりは本当に申し訳ないと思う。
「まあな、かなり重要な案件を抱えてしまってね。とは言え、私の都合である以上、ユミたちを待たせている責任は私にある。申し訳ない」
「旅を中断するくらいだし、相当大事な案件なんだよね? それがどんな案件なのかは判らないけど、頑張ってね! 」
「まさか……ユミから励ましてもらえるとは、ありがとう」
ユミから励ましの言葉を貰った私は、早速王都へと目指すことにした。
西ムーシの町から勇士を受けることが出来たので、
↓
西ムーシの町から融資を受けることが出来たので、
以上の通り訂正
尚、ロベステン鉱山を取得した者は競落した者は、
↓
尚、ロベステン鉱山を競落した者は、
以上のとおり訂正。
ちなみに、>>39はレスです。今頃気づきました。すみません。
>>39のレスって言いたかったんだがな。睡魔に襲われると意思無能力になるね。
今度、「睡魔と意思無能力」について、議論板にスレ建てたら怒られるかね?
後ついでに、
西ムーシの町
西ムーシ商会
↑
かなり紛らわしいよな。自分でもたまにあれっ?て、なるからね。
(28)
「おや? カルロさん……また来たのですか? 」
「ええ、少しばかり気になっていることがありましてね……」
王都支店にやって来た私は、グランシス商会が掴んだとされる『ロベステン鉱山は金が産出されるという情報』の出所について支店長や支店で働くその他の商人たちに訊ねた。しかし皆、知らなかったようである。
「グランシス商会がその情報を掴んだ上で競落に向けて動いているのは、我々も知ることが出来ましたが、出所まではまだ判らない状況ですね」
支店長が代表してそう言った。
「そうですか……わざわざすみません。では、私は独自に調べたいと思うので失礼します」
私はそう言って、王都支店を後にした。
王都支店を後にした私は、とりあえず酒場(傭兵団を雇い入れたところ)へやって来た。
「おっ? カルロじゃないか。まだ王都に居たのかよ」
酒場の店主は、魔王討伐のためにすでに私が王都を発ったものと思っていたのだろう。まあ事実、私は西ムーシの町まで移動していたわけだが。
「実は、かなり大事な案件を抱えてしまってね。で、西ムーシの町から1人で戻ってきたわけだ」
「ほう? どんな案件なんだよ」
私は一先ず飲み物を注文し、その上でロベステン鉱山の競落を巡る西ムーシ商会とグランシス商会の争い、そして私が西ムーシ商会の人間として動いていることを全て話した。
「なるほどな……。金が産出できるとかいう情報の出所が気になったわけか」
「そうなんだよ。仮に鉱山大好きのアリムーシ商会がこの情報を知ってれば、わざわざ競売にかけることなど、しないだろうしな」
「因みに、俺はその情報の出所なんぞ知らないぞ。そもそも、銅山ということで有名なロベステン鉱山から金が産出できるなんて、今初めて聞いたからな」
酒場の店主ならもしかしたらと考えて来たのだが、店主も知らなかったようだ。
「そうか。また来るから、もし情報でも入ったらその時は教えてくれ」
「おう。だが期待はするなよな? 」
私は酒場を後にした。
さて、何とかして情報の出所を掴むことは出来ないのだろうか。いっそのこと、グランシス商会の本店がこの王都アリムーシにあるので、そこへ赴いた上で素直に「情報の出所が気になっているので教えてください」……と頼む込もうか、と色々と考えながら王都の大通りを1人で歩いていた。
そして、特に意識したわけではないのだが、大通りを抜けて細い路地へと入った。
(29)
「おい、お前! 」
路地に入り少しばかり進んだ時、後ろから掛け声が聞こえてきたのであった。
「私に用があるのか? 」
私は後ろを振り向き、声をかけてきたであろう者(声からして男だった)に、そう訊ねた。
「まあな。お前さんが今、一番知りたいであろう情報を俺は持っている」
男はそう言った。
私が今この瞬間に一番知りたいであろう情報……となると、やはりグランシス商会が掴んだとされる例の情報の出所についてである。
「で、どんな情報なんだ? 是非、教えて欲しいね」
と、私は男に答えたが、男は直ぐにはその情報とやらを話すことはなかった。
「俺はつい先日まで、グランシス商会で働いていたのだけどよ、辞めちまってな。生活が苦しいわけだ」
なるほど。要は情報料を支払えと言いたいののだろう。
さて、グランシス商会で働いていたとは少々驚いたが、やはり胡散臭いので多少なりとも働いていたことを証明する何かが欲しいところである。
「グランシス商会で働いていたことの証明となるようなものは無いのか? 」
と、早速私は訊いてみた。
「あ、それ訊かれると思ってたよ。で、ちょうどいいところにさ……」
男はそう言うと、ポケットの中からクシャクシャの紙を取り出した。見たところ、どうやらグランシス商会で働く時に交わした契約書らしい。
「これ、どっかで拾ったものなのではないか? 」
「っと思った? ほれ! 」
そして男はさらに紙を取り出した。今度は、どうやらこの男がグランシス商会を辞めた旨を記した文書らしい。グランシス商会の当主のものだろうか? 押印もされていた。
「まあ良いや。とりあえず、いくら欲しいんだ? 」
契約書などがあるからと言って、この男が本当にグランシス商会で働いていたものと断定すべきではないが、それよりかは早く情報を訊きたいという衝動を抑えられそうにないので、追及はやめることにした。
(30)
「そうだね、あまり信用されていないみたいだし、とりあえず前金は銀貨50枚でお願いするわ」
「なんだ、そのくらいならタダでくれてやっても良い。ほれ、サービスだ」
私は男に金貨1枚を渡した。金貨1枚は銀貨100枚分の価値があるので、要は倍の額でサービスしたわけである。
そして、
「じゃあ早速、色々と教えてやる。まず、グランシス商会がロベステン鉱山を競落するだろう。競落のためなら幾らでもカネを積むだろうよ」
と、男は言い始めた。カネを幾らでも積まれるとなると、西ムーシ商会は太刀打ちできない。グランシス商会がそこまでして競落したい理由はどこにあるのだろうか?
男は続けて、
「で、ロベステン鉱山から金が採れるという情報は、教会から流されたものだったんだよ。と言うのも、王都にある大聖堂の大司教が自ら口にして言っていたわけだしな」
教会、そして大司教という言葉がこの男の口から出た時、私はさらにその背後にいる者がいる……そう判断した。教会と言えば神を崇拝するわけだが、その神の使者である天使たちも同時に崇められている。
天使共だ!
要は、天使共がロベステン鉱山から採れる例の鉱石が一体どういった物なのかを、知っているこということだ。
天使共が狙っているとなると、益々、落ち着いてなどいられない。
「だがな、金が採れるという情報は嘘だ。と言うのも、教会はグランシス商会がロベステン鉱山の競落のために支払った金額の5倍で買い取るつもりらしい」
5倍も支払うのか。
やはり……何としてでも天使共は教会にロベステン鉱山を管理させたいということだろう。とはいえ、現段階ではまだ私の推測に過ぎない。実は天使共はそもそも関与しておらず、例えば大司教の個人的な利益もためという可能性もあるわけで、当然そのようなケースも想定しなければならないのは分かる。
しかし、「天使共が関わっている」と一度考えてしまった私は、この考えが頭を支配していた。
「で、競落後一定期間は鉱山を放置し、結局のところグランシス商会は金を採ることは出来なかったということにして、その後に教会に表向きは安価で売るというシナリオを考えていたわけだよ」
なるほど。随分と面白いシナリオを考えてくれたじゃないか。天使共め! ……っと、この男が嘘を言っているかもしれないことを忘れるところであった。危ない危ない。
「そして、俺はその大司教と当主の密談を聞いてしまってな。義憤にかられたのとは違うと思うが嫌になって辞めてしまったんだ」
それが理由で、この男はグランシス商会を辞めたのか。てっきり解雇されたのかと思っていた。
ともかくだ、仮にこの男の言っていることが本当の話なら、西ムーシ商会に勝機はない。どうするべきなのだろうか……。
(31)
「ところで、グランシス商会はどのくらいカネを積むか判るか? 」
グランシス商会は、あえて高くカネを積めば積むほどその5倍となって返ってくるお金は増えるわけである。しかしそれは、即ち教会の負担は増えるということであって、やはり競落に係る上限値についてが教会とグランシス商会で定められているのではないかという期待が私にはあるのだ。もちろん、その上限値がとてつもなく高いものなら、本当に西ムーシ商会は終わりだが。
「俺が辞める前の話だが、密談があったその日には金貨1500万枚は準備していたいたな。だが、これはあくまで本店の金庫にあるカネだけで用意したわけだし、各支店からも集めているだろうからもっと増えているはずだ」
ああ……絶望だ。
これはもう、金貨2000万枚は軽く超えていると見るべきだ。そもそも上限値云々の話ではないよこりゃ。西ムーシ商会は頑張っても金貨1650万枚しかないっていうのに。ここまでくると、この男が言っていることが嘘であることを祈るレベルだ。
いや、嘘だとしてグランシス商会は元々カネはたんまり持っているわけで……。
どうしようもないな、これ。
「そ、そうか。どうもありがとう。とはいえ、まだこの情報を信用できるわけではないから金貨をもう一枚で我慢してくれ。後払いのつもりではないが、もしこの情報が本当であると私が確信したらその時は相応のカネを払うよ」
「お? 気前が良いな! なら後払いのカネは期待しておくぜ。ああそうそう、俺はお前が今日来てた酒場に居るから何か用があるなら、そこへ来てくれ。じゃあな」
男はそう言って、大通りへと走って行った。
なるほど「お前が今日来てた酒場に居る」と言ってたが、要は酒場で私と主人との会話を聞いてそれで付けてきたわけか。
それはともかく、私はこれから本当にどうするべきか……。何かしてこの状況を打開しなければならない。
(32)
俺は今、西ムーシの町にある酒場に居た。
「お待たせしました」
一瞬、酒場の店員が何かを食べ物でも持ってきたのかと思ったがそれは違う。待ち合わせていた女がちょうどやって来たのだ。
「おう、来たか。で、相変わらず貴女たちは西ムーシの町で待ち惚けをくっているようだな? とは言ってもまだ何日も経ってないか」
今、俺には手持ちの魔物は相変わらず0匹である。であるからこそ、どこかで勇者たちを留まらせて時間稼ぎをしたかったのだが、どうやら勇者一行の1人が勝手に旅を中断して、その他のメンツは西ムーシの町にしばらく滞在することになったらしい。
「まあ、待ち惚けは相変わらずですけど、勿論西ムーシの町でしばらく滞在しようと提案したのは私ですよ。そしたら、2人ともまんまと乗っかってくれました」
「それはありがてえ。どうもな。だが、すまないのだが俺もそれなりの戦闘力のある魔物を探しているのだが……この辺は雑魚ばかりでな」
この女の提案で、俺に時間を作ってくれたというのは本当にありがたい。しかし当の魔物はと言うと、捕らえるのに難航しているのだ。しかも今は魔物を使って攻撃をしかける最大のチャンスなのである。と言うのも、勇者一行の旅を中断して1人で勝手にどこかへ行ったのが、倒した魔物に刻印が無いか一体ずつ確認していた奴とのことらしいからだ。
奴が居ない今こそ、神経質にならずに魔物を使って一気に攻撃するチャンスと言うに。これは勿体ないことをした。
「なるほど、それなりの戦闘力がある魔物と言うと……実は昨日泊まった駅馬車の宿の付近に森があるのですが、運が良ければ毒タヌキがいたりするかもしれませんね」
ほう。まあ確かに森なら確かに毒タヌキがいないこともない。なんならとりあえず、行ってみることにしよう。
……と言ってもその森が具体的にどこにあるのか判らんな。
「わざわざすまないね。で、その森の行先なのだが、具体的にどこにあるか判らなくてな……一緒に来て森まで案内してもらえないだろうか? 」
「ええ、そういうことなら任せてください」
「重ね重ねすまない」
という事で、俺はこの女と共に毒タヌキ探しへ行くことになったのである。
>>49の(32)は、おかしな部分がかなりあるから、後で訂正しておく。
51:アーリア◆Z.:2018/05/05(土) 20:37 (33)
王都には大聖堂に私はやって来た。この大聖堂でユミは勇者として選任され、そして私はその同行者として選任されたという何とまあ、旅のスタート地点に戻ってきたわけであるが当然、ここまで来た理由はロベステン鉱山を巡る問題である。
そして、実はこの大聖堂には私の知り合いの司祭もいるのだが、その司祭は私を勇者の同行者しやがった実質的な選任者である(形式的には大司教の名において選任された)。とはいえ、信用できない奴ではないので今回は彼から話を聞こうと私は考えている。
そして大聖堂に入ると、その目的の司祭は居たので私は声をかけた。
「久しぶりだな」
「おや? カルロさんではないですか。どのような用件で参られたのでしょうか」
「実はな……ロベステン鉱山の競売に係る話で、大司教さんがどうやらグランシス商会と色々と協力し合っているという話を聞いてね。で、そのあたりの情報について何か知らないか? 」
私は司祭にそう訊ねた。
「いや……そんな話があるとは、知りませんでしたな。ただですね、最近は上級天使の奴らが何度かこの大聖堂まで訪れてはその度に大司教と何やら話しておりまして、むしろそちらの方が気になってましたよ」
「なんだと? 慣習では年に一度ほどしか大聖堂に来ないって話ではなかったか」
仮にその上級天使の奴らがロベステン鉱山絡みで頻繁にこの大聖堂に来ているとするなら、これはとても辻褄が合うお話である。
「って今、ロベステン鉱山って言いましたよね? 思い出してみると、上級天使の奴らが頻繁に訪れるようになったのは、ロベステン鉱山から銅が採れなくなったという話が囁かれ始めた頃だったような気がしますね」
ほう。上級天使共が頻繁に訪れてるようになった時期と重なるわけか。
「そうそう、銅が採れなくなったのと同時に、新しく変な鉱石が採れるとか言われだしましてね。ちょうど私は大司教からその鉱石をサンプルに貰ってくるようお使いを頼まれまして、私もロベステン鉱山まで行ってきたんですよ」
おっと! 例の鉱石の話ときたか。
となるとこれはやはり、天使共の指示の下に大司教がロベステン鉱山競落のために動いているという可能性は非常に高いと断定して良いだろう。
「実はな、その鉱石を私も狙っているんだよ」
私は司祭に、西ムーシ商会の副当主としてロベステン鉱山競落のために動いていること、そしてあの鉱石が一体どういうものなのかを伝えた。
「なるほど……。あの鉱石にそんな作用があったとは。となると、絶対に天使共に供給されてはなりませんな」
「そういうことだ」
仮に天使共に供給されたら、本当にヤバい。要は魔法が殆ど使えない下級天使の野郎共までもが、魔法攻撃を連発することができ得るからだ。
(34)
さて、私は大司教がグランシス商会と協力関係にあり、さらにその背後には天使共が控えているものと結論付けた。まだ補強証拠なるものが欲しいところではあるがこれ以上、事実確認に時間を割く余裕はないのだ。
「そう言えば、大司教用の印鑑があったよな? 」
「ええ。大司教の名で手紙を出すときは、いつもその印鑑で押印してますね」
今のところ西ムーシ商会が競落するための手段として、思い付いた策はたった1つである。恐らくはこれ以外に思い付きそうなのは無いし、ここは男らしく大博打に打って出てやろうじゃないか!
「その印鑑を、何とかして拝借することはできないだろうか」
「なるほど…………。拝借するのは簡単な話です。印鑑なら、大司教の執務室にある机の上に、不用心に置いてありますからね。何なら今すぐ持って参ります」
司祭はそう言って大司教の執務室へ行ったのだろうか? 数分して彼は戻ってきた。その手には確かに印鑑らしきものがある。
「これが大司教の印鑑です。今ちょうど大司教は外出中ですらタイミングが良かったですね」
「おお! どうもありがとう。わざわざすまないね」
私はそう言って印鑑を受け取った。
それから、その印環を使って色々とやることをやってから、私は大聖堂を後にしたのであった。
尚、大聖堂を後にしようとした際、司祭は別件でとても重大な話があると言い、ロベステン鉱山競落の件が終わったらまた来て欲しいと言った。
訂正
尚、大聖堂を後にしようとした際、司祭は別件でとても重大な話があると言い、ロベステン鉱山競落の件が終わったらまた来て欲しいと言った。
↓
尚、大聖堂を後にしようとした際、司祭は別件でとても重大な話があることでとのことで、ロベステン鉱山競落の件が終わったらまた来て欲しいと言ってたのであった。
以上の通りの更正登記を求める。
言ってた→言ってきた
55:アーリア◆Z.:2018/05/09(水) 22:03
(35)
大聖堂を後にした私は、西ムーシ商会の王都支店へとやって来た。私はロベステン鉱山競落のために動いていたが、実はその競売がいつ行われて、そしてどこがその会場となるのかを知らなかったのである。とても恥ずかしい話だが、要はをそれらを聞きに戻ってきたわけだ。
「競売の日と会場ですか。それは明後日の午前中に、アリムーシ商会の本店(王都)で行われる予定です。で、競落者はその場で直ぐに現金を支払わなければならないので、大金を運ぶのも一苦労ですね」
支店長はそう説明してくれた。
「そうですか。もう本当に時間が無かったようですね」
「もしかして、当主の方から日時と場所を伝えられていませんでしたか? 」
「ええ、私が訊きそびれたもので、申し訳ありません」
本当に私は何をしていたのであろうか。あの例の鉱石に魔力消費を抑制する作用があること知って興奮してしまい、うかっり訊きそびれてしまったのだろう。本当に恥ずかしい限りである。
「いえいえ、ここだけの話ですが、当主の方もかなりいい加減な性格をしているのでカルロさんは悪くないですよ」
「……で、ではお互い様ってことにしましょう」
厚かましいかもしれないが、私は知るべきことは知った以上、ここで無駄な責任取りショーなんぞやっても何も意味がないのでこの話は終わりにしよう。
「ところで、金が採れるという情報の件の話なのですが……」
支店長も、どうやらグランシス商会が掴んだとされる金が採れるという情報の話がしたかったようだ。
「あの情報を流したのは、実は教会関係者だったようなのですよ。ただ、すでに私の方で手は打っておきました」
私は支店長にそう答えた。
「え、きょ、教会関係者……ですか? 」
支店長のこういう反応は予想していた。
まあ、何も知らない善良な市民からすれば教会が絡んでいると聞けば不思議に感じるだろう。
「知り合いの司祭から聞いた話なのですが、教会が絡んでいるのは事実ですね。で、金が採れるという情報はデマですな」
金が採れるから競落しようというシナリオでグランシス商会が動いてたものだから、誰かがグランシス商会は金が採れるという情報を掴んだのだと勘違いして西ムーシ商会にそれを伝えてしまったのだろう。
「……釈然とはしませんが、まあ教会云々よりも我が商会が競落できるかが問題ですし、これ以上は我々が知っても何にもならないでしょう」
申し訳ない支店長。私が知ったことを全部につき貴方に教えると、逆に胡散臭く感じてしまうから金が採れるという情報に絡んだ話は、この程度でしか教えるつもりは無いのだ。
「では、そろそろ失礼しますね。また競売の当日に会いましょう」
私はそう言って王都支店を後にしたのである。
その後、私は酒場へとやって来た。例の男に報酬を支払うためである。
「さて……どこにいるのだろうか」
私は酒場を見渡して男を探した。
「何をきょろきょろしているんだ? 」
不意に後ろから声が聞こえてきたので、振り向くと探していた男がそこに立っていた。なんだろう……? この男からは後ろから声をかけられるお約束みたいなのが定まりそうだな……。
まあ、それはともかく、私はすべきことをする。
「おう、先ほどはどうもありがとう。ほれ、報酬だ」
そう言って、男に手形を渡した。
この男が辞めたグランシス商会が振り出した手形なのだが、まともな財産がこれしかないので仕方がない。まあ少々、すまないとは思うが。
「よりによってあの商会の振り出した手形か」
「すまないね。現金が無くてな」
前にユミから貰った金貨100枚については、下級天使の野郎にくれてやったの既に手元にはない。
「いやいや、額がとんでもないぜ。こんな額をもらえるなら自分で商会も立てられるよ。本当にありがとう。本当に感謝する! ……そして、文句を言ってしまってすまないな」
その後、男と軽く酒を酌み交わして酒場を後にしたのであった。
(36)
ロベステン鉱山競売の当日。
グランシス商会の本店で待機していた当主は不機嫌であった。
「当日になって! こんな手紙を寄越すとは! 失礼にも程があるだろうが! 」
当主は何度もそう叫んでいたのである。
で、何故当主は不機嫌かというと、王都大聖堂の長である大司教から、ある手紙がきたからである。というのも、要約すると『ロベステン鉱山の競売から教会は手を引くから、仮にグランシス商会が鉱山を競落してもカネは一切支払わない』というものであった。
「当主、念のため大司教殿へ確認なさった方が……」
「先程、確認のため使いを行かせたが今日は不在とのことだよ。急に用事ができたとかで朝早くに王都を発ったそうだ。その時にポストに手紙をいれたのかもしれん」
「左様ですか」
そして、当主は怒りが収まらなかったものの、既にこれから為すべき判断は決まっていた。
「さて、迂闊に競落して大損するのは避けるべきだ。競売はキャンセルするよう現場の者に伝えろ」
「承知しました」
「……教会とは結構長く付き合いがあったが、一旦見直すべきかもしれんな」
こうしてグランシス商会はロベステン鉱山の競売から手を引いたのであった。
そして、ロベステン鉱山は無事に西ムーシ商会が競落することに成功したのである。しかし実のところ一筋縄ではなかった。
と言うのも、なんと第三、第四の商会も競売に参加しており、何とか僅差で競落したのである。つまり集めた金貨1650万枚の全部を支払うことになったのだ。
そして、私は支店長らに挨拶を済ませて、重要な話があると言っていた司祭の元へと向かったのである。
(37)
「無事に西ムーシ商会が競落して良かったですね」
「おう、おかげさまでな」
競落に成功し、本当にホッとしている。もしも競落できなかったら一体私は何をしでかすところだったか……。
まあ今は競落に成功した喜びを抑えて、司祭の話を聞くとしよう。
「さて、カルロさん。そろそろ本題に入りましょうか」
司祭もそう言って、話を進めた。
「まずカルロさん。貴方は、天使共は人間を玩具にしか思っていないという考えですよね? 」
何を言い出すと思えば、そんなことか。
天使共は時々この世界(星)へやって来ては人間を捕らえ、そして嬲って楽しむのだ。つまり、当然これは人間を玩具として扱っているわけである。
「当然だ。人間を玩具と思っているんだよ……連中は」
「やはり今でもそう思っておりましたか。ですが、私は少し違う考えを持つようになりましてね」
と、司祭は言った。
「と言うのも私はここ数年、教会と天使共について色々と調べていましたが少し前に、それも偶然なのですが、とんでもないことを知りましてね」
「ほう? ということは、まだ私も知らないことなのだろうな? 」
「ええ。なんせ教会から選任される勇者に関係する話ですからね。最近ではユミさんが勇者として選任されましたよね? 」
おっ?
…………これは、勇者の選任には何か裏があるという話になりそうな展開ではないか。
「カルロさんも、魔王討伐にわざわざ勇者を選任して少数で挑ませることに、疑問をお持ちでしたよね? 」
「そりゃそうだ。各国が兵士をかき集めて数で攻めていった方が良いだろうな。しかも勇者と言ってもただの素人であるし」
まあ、各国が兵士をかき集めて数で攻めても魔王討伐など無理だろうがな。『魔王軍』の実力がどれほどのものかは知らないが、それでも短期間で国複数を滅ぼす力くらいはあると言われている。
そして、何よりも魔王領の戦力は『魔王軍』に限らない。
「それが、ただの素人ではないのですよ。実は…………強力な戦闘兵器を作り上げるための実験なのですよ。あ、まあこれは私が発見した資料によるとですけどね」
えっ?
せ、戦闘兵器……だと?
「ど、どういうことなのか、詳しく説明してくれ」
私は司祭に詳しい説明を求めたのであった。
訂正
「そりゃそうだ。各国が兵士をかき集めて数で攻めていった方が良いだろうな。しかも勇者と言ってもただの素人であるし」
↓
「そりゃそうだ。各国が兵士をかき集めて数で攻めていった方が良いだろうしな。しかも勇者と言ってもただの素人であるし」
それが、ただの素人ではないのですよ。
↑
この一文を削除。
以上のとおり訂正
(38)
「その資料によれば、どうやら勇者に渡される剣がその戦闘兵器を完成させるための鍵となっているようでしてね……。そうそう、剣には負の感情を無限に増大させるとか書いてありました」
剣……?
ああ、教会で大司教から渡されたあの聖剣のようなものを言っているのだろう。
「で、そのその資料とやらはどこで見つけたんだ? 」
勇者の選任が戦闘兵器にするためものと言う話が真実であるなら、これは本当な危険な話である。それによって完成した戦闘兵器の戦闘力次第では魔王はあっさりと殺され、さらに我々が天使に歯向かうことは、今よりも困難となる。
とはいえ、司祭が嘘の情報を掴まされている可能性もあるのでその資料どのように発見したのか私は訊いた。
「ああ、資料はこの大聖堂の地下深くにある書庫で発見したのですよ。と言うのも、そこにある本を読み漁っていたら偶然のその時読んでいた本の中に挟まっていましてね」
「ま、まて、地下深くの書庫だと……? 」
「ええ、実は図書館とは別に書庫があるんですよ。この大聖堂は」
どおりで……。
どおりで、この大聖堂の図書館にある本は役立たずなものばかりだと思っていたが、なんとまあ、地下に書庫があったとは。恐らくその書庫にある本や資料はどれも重要なものなのだろう。
「そして、そこで見つけた資料に今述べたことが書いてありましてね」
「そうか」
地下の書庫で発見された資料に書いていたからと言って、まだその資料の信憑性があるとは言い切れない。だが、一先ず資料の信憑性は保留としておこう。
そして司祭の話によると、勇者に渡される剣が戦闘兵器の鍵となるらしいが、一体どういう作用で戦闘兵器たるものになるのだろうか? 「負の感情を無限に増大させる」とも言っていたが、それがどうなるのかは具体的には判らない。
さて、司祭はそのあたりも知っているのだろうか……。
「で、具体的にはどのようにして戦闘兵器なるのだ? 」
「いえ……。実はその見つけた資料は留め金の痕跡があることから、どうやら何枚かに渡るも資料だったのかと思います。そこから抜け落ちた一枚を偶然に私が見つけたということでしょうね」
ということは、結局その詳細は分からず仕舞いか。
しかしその資料の全てを発見できれば、さらに詳しいことが判るかもしれない。それに詳細が分からないとはいえ、放っておけばユミが戦闘兵器たるものになってしまうことは分かったのだ。まずは如何にしてユミからあの聖剣を奪い取るか、そして如何にして大聖堂の地下にあるという書庫から本やら資料の全て持ち出すか、を考えよう。
「そうか。詳しいことは分からないとのことだが、それでもこれから為すべきことは決まった。ありがとう。ああ、それと夜までには地下にあるという書庫に行くからよろしくな」
私はそう言って、大聖堂を後にしたのであった。
(39)
「なるほどな。このような森であれば『毒タヌキ』もいるかもしれない。かなり期待が持ててきたよ」
俺は使役する魔物を探すため、女と共に西ムーシの町を出て、この森までやって来たのであった。
「それは良かったです。まあ早いところ『毒タヌキ』を見つけましょうか」
「そうしよう」
そして、俺たちは手分けして『毒タヌキ』或いはそれなりの戦闘力を持つ魔物を探しにしたのである。とはいえ女の方は魔物使いではないので、発見してもどうしようもない。そこで発見次第、すぐ俺に連絡できるよう互いに一定の間隔を保ちながらの作業となった。
特に時間は気にしてはいなかった。
だから作業を始めてどれほど経ったのかは判らないが、俺は一休みしようと女に声をかけようとしたところ、とても不快な臭いが周囲に漂っていることに気づいたのである。
「気分が悪くなる臭いだ…………。もしかして」
動物や魔物の死骸があるのだろうか?
ここまで強烈な臭いとなると、かなりの数の死骸が近くにあるのかもしれない。
「あの……ちょっとこちらへ来てくれませんか? 」
女がそう言いながらこちらへやって来た。何かを発見したのだろう。
「何があったんだ? こんな気持ち悪い臭いということは、どうせ不快になるようなものなのだろうがな」
「え、ええ。予め言っておきますが、吐くかもしれません。それは覚悟しておいてください」
吐くかもしれないって……ならそんなもの見せるなよと思ったが、ともかく想定通りの物体があるのだろう。
俺は覚悟を決めて、女に後について行った。
(40)
「ここです」
「な……んだと……!? 」
俺は女について来て見れば、そこにあったのは人の形をした物体であった。要は死体ということである。しかもその死体のほとんどが焼死体だ。女は、吐くかもしれないと言っていたが確かにこんなものを見せつけられれば、俺もその日の体調次第じゃ吐くだろう。
まあ、吐くまではないものの吐き気を催しているには事実だ。反対に、焼死体に集っているハエ共からすれば、嬉しい限りだろう。うまい飯が食えて。
だがな、ハエ共。こちらはお前らが集っているその光景を見て、さらに気分が悪くなるんだよ。お前らがうまそうに飯を食っているその光景がな。
「ま、まあ一目でわかるかと思いますが、死体です。幸い、まだハエが集っている以外は肉食動物や魔物たちには手を付けられていないようですが…………。死体の背中のあたりを見てくれませんか? 」
女の言うとおり俺は死体の背中を見てみると、何かが生えているのが見えた。焼死体についてはもはや原型を留めていないので、唯一焼死体ではない死体を見てみると、それが何なのか判った。それは翼だ。
「えっ? ま、まさか……な」
まさか、これらは天使の死体だと言うのだろうか?
「天使の死体ということでしょう」
「お、おう。まあ翼があるということは、そういう事だとしか言えないよな」
何故だ?
何故、このような場所に天使の死体が、それも複数の死体があるのだろうか。
もちろん、こう考えることもできる。というのも、魔王軍の一部が独自に動いており、そしてここで戦闘が起こったという事だ。
……だとするなら。
「一体どこの四天王様の部隊がやったのだろうか。まさか貴女のところの四天王様とかじゃあるまいよな? 」
というか、俺たちも賭けたカネのために勝手に動いている手前、他人が独自に動いていて批判する立場にはない。この女は命令で動いているのかどうかは知らないが。
そうそう、勇者を始末するといってもそれは嘘だ。あくまでも『魔王領』に辿り着く前に戦意を喪失させて、捕まえて魔王様に身柄を移すだけである。
「少なくても、私は知りませんよ。それに何も魔王軍の仕業とも限りませんしね」
「まあ、俺も天使の死体を直接この目で見たわけだし、俺の方の四天王様には報告しておこう。後で町に戻ったら部下に伝言を命じるつもりだ」
「そうですね。私は『魔王領』へ戻ってから報告することにしましょう。ある程度、どこの仕業なのかは見当がつきますし、その人たちの監視は貴方のところの四天王様が、貴方の部下から報告を受けて直ぐにしてくれるでしょう」
どこの仕業なのか?
あ、そうか。言われてみればこういうことをやらかしそうな連中は、俺でも見当がついていた。無論、魔王軍の仕業である可能性も否定はできないのだが、その他にも『魔王領』には相応の実力を有する組織があるのだ。
「ま、まあ。この話は一旦保留して、引き続き使役する魔物を探すことしないか? 」
「そうですね。元々、それのためにここまで来たわけですし」
という事で、俺たちは魔物探しの作業へと戻った。
・西ムーシ商会
西ムーシの町に本店を置く商会。実は当主は、旧帝国人民軍の元軍人。
・アリムーシ商会
アーリア王国の王都に本店を置く鉱山大好き商会。
・魔王軍
魔王が率いる軍勢のこと。
>>62はミス。
・西ムーシ商会
西ムーシの町に本店を置く商会。実は当主は、旧帝国人民軍の元軍人。
・アリムーシ商会
アーリア王国の王都に本店を置く鉱山大好き商会。
・魔王軍
魔王が率いる軍勢のこと。ただ、魔王領が有する戦力はこれに限らない? ……らしい。
・魔王軍四天王
魔王軍は魔王が率いる軍勢であるが、具体的には5つの部隊に分かれている。と言うのもまず魔王自身が直接率いる部隊があり、そして魔王軍四天王が部隊を1つずつ率いる。基本的に各部隊の長(魔王か各四天王)が独自に人材を登用できる。それ故に、各部隊の人員数はバラバラだ。
(41)
司祭から一通りの話を訊いた私はその後、急いでロムソン村へ向かった(快速魔法を使って)。司祭が言うには大聖堂の地下には書庫があるとのことであって、以前から教会や天使共の情報を収集している私としては、その書庫にあるすべての本や資料が欲しいのである。
しかしそれを全部1人で運ぶとなるといつまでも経っても終わらない。以前、別の町の教会から奪取した際も、傭兵を雇って行ったのだ。つまり今回も傭兵を……即ち、ロムソン村には私が雇った傭兵団がいるので、彼らを使おうと考えたのである。
ただ、関係各署にバレれば何らかの処罰を受けることは間違いないので、彼らがそれに応じるかはまだ判らない。
「さて、どこにいるのだろうか」
ロムソン村に着いた私は、早速傭兵団の場所を探した。まあ、恐らくは宿屋にいるのだう。しかし、そう期待して宿屋に入ってみたのであったが、傭兵団らしき者たちは居なかった。食堂ではなく各自部屋に居るのだろうか?
「すみません。傭兵団の者たちがロムソン村に居るはずなのですが、今どこにいるか判ります? 」
と、私は宿屋に女将に訊ねた。
「傭兵団? ああ、あの人たちなら村が魔物に襲われないように手分けして、周辺を巡回しているわよ。とは言っても、そろそろ戻って来る頃合いかもしれないわね」
「そうですか。ではその間、ここで待たしてもらいますね」
という事で、私は宿屋で傭兵団の帰りを待つことにした。
「おっ? 何故あんたがここにいるのだ」
宿屋でしばらく待っていると、傭兵団の団長が声をかけてきた。どうやら巡回から戻って来たようだ。
「それはだな……。実は今日中に王都でやって欲しい仕事があってね。で、ここまで来たわけだ」
私は、その『やって欲しい仕事』についてを団長に話した。もちろん、王都の大聖堂地下にある書庫から本や資料を奪取するという話である。
「おいおい。つまり、汚れ仕事ってことか。まあ俺たちも人には言えないようなことをカネのためにしてきたからな。今更善人ぶるつもりはないが……それに割り増し料金を請求しようにも、すでに大金をもらっちまってるし……」
反応から察するに、団長は気乗りはしないようだ。これは仕方あるまい。誰だって汚いことなどしたくはないのは当然である。以前、そのような汚いことをしたからといって、今回は喜んでその行いができるというわけでもない。
「頼む! 別途報酬も出す」
団長はしばらく口を閉ざした。色々と考えているのだろう。そもそも、この傭兵団と私は契約関係にあるから、わざわざ別途料金を払う必要はないと言えるかもしれないが、私はそうは考えない。
そして、
「わかった。では、早速王都へ向かわないとな」
交渉は成立したようだ。
(42の1)
夜九時ごろ。
私と傭兵団(一部メンバーを除く)は、王都大聖堂の目の前に居た。
「カルロさん! 待ってましたよ」
私たちの存在に気づいたのか、司祭がそう言って外へ出てきた。
「今日中にまた来るとのことでしたので、荷車3台と藁袋を大量に買っておきましたよ」
「おお? 気が利くね。ありがとう」
私たちが予め用意したのは、藁袋(1人1つずつ)のみであった。荷車があれば、大量の荷物を一気に別の場所へ運ぶことができる。それに地下の書庫にある本や資料の数量によっては私たちが用意した藁袋だけでは足らなかったかもしれない。
ナイスだ。司祭!
「では早速、作業を始めよう」
私はそう言って、司祭に大聖堂の地下にある書庫までの案内を頼んだ。今日は大司教は所用でここには居ないとのことらしい。まあ、そもそも普段からして大司教は外出しているらしく、実質bQのこの司祭が大聖堂の運営を切り盛りしているとか。
それはともかく、司祭の案内で地下にある書庫に辿り着いた。そして皆、すぐさま藁袋を広げて目についた本や資料を、なりふり構わず藁袋にぶち込んだ。
「どんどん入れていけ。本が傷んでも後で読めればそれでよい。私が欲しているのは本ではなく情報だからな」
そう言いながら、私も作業を進めたのである。
夜十一時を回るころには全ての本や資料を藁袋に入れることができた。さらに荷車への積み込みを終わり(とんでない高さにまで積みあがっているが。それに多少、人目が気にはなる)、私が王都で借りている貸倉庫へと運んだ。入りきらない分は、酒場の店主名義、そしてこの司祭名義の貸倉庫へと運んだ。尚、一旦王都に保管したとはいえさらに別の場所(実はその場所は魔王領だったりする)に運ぶのだが、それは西ムーシ商会の当主に任せるつもりだ。
そして、一仕事を終えた私たちは、酒場の店主が特別にまだ店を開けてくれるとのことで、それぞれ酒を飲むことにした。傭兵団の面々は嬉しそうだ。
「しかし、他の町にも教会から奪取した資料やらがまだ沢山あるとか言ってたよな? 」
傭兵団のノリにはついて行けないので1人で飲んでいると、そう店主が声をかけてきた。
彼の言うとおり、私は多くの教会から本や資料を奪っては魔王領へ送っているのだ。しかしその集めた本や資料の量は膨大であって、その多くが依然として一時保管場所に残ったままである。まあ、西ムーシ商会も色々な業務で忙しいし仕方はないのだが。
「仕方ないだろ。量がとんでもないのだから」
「いっそ、魔王領から応援を頼むのはどうだ? 」
「ああ、その手があったか。明日、西ムーシ商の町に着いたら当主にでもその旨を伝えておこう」
集めた本や資料を魔王領へ運び、そしてその魔王領から応援を寄越してもらう……私はまるで魔王の手先のように思われるかもしれない。それに天使共への敵対心もある。しかし、決して私は魔王の手先などではないのだ。
つまり、魔王らが我々の天使共へ対する諸々の活動を邪魔するなら、私は魔王も排除することになるだろう。もちろん、元々大昔から歴代の魔王は天使共と敵対関係にある。神の名のもとに天使共は、魔王や魔族を『悪魔』と称して滅ぼす対象にしているのだから当然だ。という事は、私と魔王は協力し合えるかもしれない……と考えることもできる。
しかし魔王が持つ天使共への敵対心と、私の持つ天使共への敵対心は果たして同一のものといえるのだろうか?
同一でないにしても、我々の天使共に対する活動を魔王は認めるであろうか? それは現状判らないのだ。さらに私と協力関係にある天使もおり(彼らは他の天使から堕天使と罵られているが)その協力者を魔王が協力者として認めるとも限らない。
故に、迂闊に魔王を信用するわけにはいかないのである。
(42の2)
「……っと。酒に酔って色々と考えて込んでしまったみたいだ」
「あんた……その考えこんでいるとやらの間に、ワインの瓶一本を飲み干しているけど、大丈夫か? 」
と、酒場の店主に言われて、瓶を見てみると既に空になっていた。
「こりゃ……後数分で眠ってしまうな」
さて、やることはやった。また、魔王討伐(個人的には討伐するつもりはないが)のための旅を再開することになる。ユミやマリーア、そしてダヴィドを待たせているのだ。改めて謝罪しなければならない……お詫びに何か適当にお詫びの品でも買うことにしよう。
そうそう、『毒タヌキ』の件を忘れるところであった。あれは魔物使いの仕業によるものと推測している。で、その魔物使いとやらは魔王の手下なのか、或いはそれとは関係のない者(とはいえ、魔王領出身者ではあるだろう)なのか。
と、こちらも色々と気になるところではある。
実は『毒タヌキ』との遭遇は、単なる偶然でしたということもありえなくはないが。
投稿量が多すぎで、二つにわけました。次は(42の3)ではなく、(43)と表記いたします。
68:アーリア◆Z.:2018/06/08(金) 20:31
(43)
翌日。
私は二日酔いで体調がすぐれなかったのであるが、午前中はユミたちに渡す手土産を買うために、王都中の店舗に立ち寄った。そして買ったのは『魔王領』に関して記述されている本と、そこそこ値が付くお菓子1袋である。
買い物や昼食を済ませた私は、王都西側にある馬車駅に向かった。今回は快速魔法を発動しての移動ではなく、傭兵団の面々と共に駅馬車を使って西ムーシの町まで行くことにしたからである。
「カルロさん。集合時間よりだいぶ早いですね? 」
確かに傭兵団との約束した集合時間は13時半であり、今は12時過ぎなのだが……何故かそこのいたのは司祭であった。
「わざわざ見送りに来てくれたのか? 」
「違いますよ。大聖堂があんなことになって、結局私が疑われることですし、逃げることにしたのですよ」
なるほど……。
グランシス商会がロベステン鉱山の競落に失敗したことや、大聖堂の地下にある書庫から資料や本が全て消え去っていること、これら2つの大事件を前にこの彼……もといブルレッド君はまず無事では済まされないだろう。
2つの事案について、ブルレッド君自身の関与自体はバレなかったとしても大聖堂の実質的bQである以上、その管理責任を問われかねない。
「すまなかった。お前の任務を妨害してしまったみたいだ」
「いや、別に問題はありません。私の今回の任務は既に完了してましたからね。今回の任務は、大聖堂が天使共に関する重要な資料などを何処かに隠しているという推測されて、その在処を見つけることが任務でした」
「ほう? 既に任務は完了していたのか」
結果論ではあるが、ブルレッド君の任務を妨害せずに済んだようだ。で、ブルレッド君の言う『その在処』というのは、恐らく地下にあったあの書庫のことだろう。
「因みに私が任務終了後もあえて大聖堂に残っていたのは、最近やたらと上級天使が訪れているので、その目的を確認するためでした。まあ、こちらはロベステン鉱山の件で頻繁に訪れていたのでしょう。あっ! そういえば…………」
(44)
「うん? どうしたんだ」
「勇者が教会から選任される際に渡される剣についての話なのですが……」
確か、勇者に渡される剣という話は、何らかの作用によって戦闘兵器にするとかいう話だったはずだ。何か新たに重大な情報でも彼は掴んだのだろうか?
「早急に、剣の回収をしておいた方が良いかと思いましてね」
「なんだよ。剣の回収の話なら、ユミを説得するかこっそり奪うか、まあその他の手段も含めて既に検討中だ」
剣の回収くらい、言われなくたってするつもりだよ。全くもう。物忘れが多い私だって、そこまで無能じゃないぞ?
「今日に至るまでに、勇者として選任されたのはユミさんだけですか? 」
「あっ! 」
そうだった。勇者は既に何人もが選任されていたのだ。それを忘れるなんて…………。
「カルロさん、既に1つはカルロさん自身が回収したじゃないですか。その上で忘れなんてどうかしてますよ? 」
「ああ、確かに私が何年か前に勇者に暗殺されそうになって、それを何とか凌いで回収してたわな。あまり思い出したくない記憶だ」
実は私は、勇者に命を狙われたことがある。相手は勇者を含めて4人で、私1人に向かって殺そうとしてきたのだ。当時、教会や天使共が私を排除したいと考えてその討伐の対象のしたのだろうと考えていたが、その意図の有無はともかくとして、やはり勇者として選任された彼らも戦闘兵器製造の実験対象だったのだろうか?
そう考えると、益々可哀想に思う。
彼らも天使共に利用されなければ…………。
いや、4人を殺したのは私だ。天使共ではない。
「まあ、とりあえず私の方でも剣の回収については出来る限り何とかする。そちら方でも何とか頑張ってくれ」
「ええ。私の方でも魔王領に戻り次第、直ぐに上司に進言します」
しばらくブルレッド君とその他にも色々と話していたら、時間もだいぶ経ち傭兵団の面々を馬車駅にやって来たようである。
「ほう? 司祭殿も居たのか」
私が馬車駅にやって来た時のように、傭兵団の団長も、司祭がこの場にいるものだから不思議に思ったのだろう。
そして14時になった頃に、私やブルレッド君、傭兵団の面々は数台の馬車に分乗し、王都を出発した。
(45)
馬車は無事に動き出し王都と西ムーシの町の中間にある馬車駅を目指して進んでいる。私は傭兵団の団長と同じ、馬車に乗車していた。
「昨日伝えるのを忘れていたが、ロムソン村を襲っていた魔物は毒タヌキであったらしい。で、我々が村に来てからは一度も襲撃は無かった」
「えっ! それは本当なのか? 」
毒タヌキの一件は魔物使いによる仕業であると推測しているが、それは毒タヌキが何故か森の奥深くを生息地とするにも拘わらず、森ではない道の真ん中で屯していたからだ。中でも特に不自然だったのは、そこでずっと立ち止まっており待ち伏せしているようにも見えたことである。
「村人がそう言っていたことは本当だ。退治しようにも胃液にやられて気絶するのは嫌なものだから、皆逃げていたらしい。まあ、そんなものだから有効な対処も出来ずに農作物はが荒らされて大変だとか言っていたな」
「そうだったのか。ところで、村に来てからは一度も襲撃が無かったらしいが、まさかな? 」
我々(ユミ一行と傭兵団)が退治したあの毒タヌキが、村を襲撃していたとなると、辻褄が合う。しかも、あの『毒タヌキ』は魔物使いに使役されているものと推測しているが、これが本当だとすると、さらに村の襲撃も魔物使いによる仕業いうことになるわけではないか。
「あの毒タヌキの死骸が、あの時残っていればな……」
私が刻印の有無を確かめようと『毒タヌキ』との遭遇現場に着いた時には、既に傭兵団がその死骸を全部焼却処分をした後であった。
「あの時も気なっていたが、やはり何らかの理由で毒タヌキの死骸が必要だったみたいだな。すまない」
「いや、あれは善意無過失による焼却処分だったと私は結論づけている。これは、仕方のないことだ」
まあ、あの時に刻印の有無が確認できていれば、はっきりしていたわけだが。
ところで、私は思った。
そもそもロムソン村が魔物に襲撃されているという話は、私は知らなかったのだ。というか、まずそんな噂すら立っていなかったと言える。ところが、何故かユミはその事実を知っていたのだ。果たして、ユミはどこでロムソン村が襲撃されているという話を知ったのであろうか?
そして、馬車は王都と西ムーシの町の中間地点にある馬車駅に到着したのであった。
(46)
今俺は、馬車駅にいた。もちろん、同行している女も一緒に居る。
「2匹しか確保できなかったが、まああんなところで作業なんて続けられないわな」
天使の焼死体(一部除く)を発見してからというもの、どうにも気分が優れずに結局のところ使役する魔物を2匹確保して直ぐに作業を中断したのだ。
この魔物はオスとメスが○○中に確保したのだが、『火炎ウサギ』と呼ばれている。
当然、そこらで年中発情中の野ウサギとはわけが違い、顎から長い角が生えておりそこから初級ではあるが火炎魔法を発動させることができ、さらにその角で敵を突き刺して攻撃することもできるのだ。尚、魔物の総合ランクは中級に分類されている(毒タヌキは準上級)。
「私は慣れていますので、あの森にずっと居ても平気ですが、死体に慣れていない人は、仕方ありません。私なんて最初のころは吐いてしまいましたし」
ほう? あんな数の死体を見て平気なくらいに慣れているとは……この女、ヤバい奴だな。殺しの経験もありそうだよ全く。
この女が、例えば連続殺人事件を起こした犯人だと言われたら、俺は信じてしまうぜ。
とはいえ、女に負けるのは何だか恥ずかしい。
「恥ずかしい姿を見せてしまって、すまないな。一応はこれでも魔王軍の幹部の末席ではるというのに。この通り、魔物の死骸ならともかく、死体を見たのはあれで2回目でな」
初めて死体を見たのは自殺した母親の死体だ。だが、俺がその死体と対面した時には葬儀業者によって綺麗に施された後であった。ハエまみれの死体を見たのは、あれが初めてなのである。
「現魔王軍の幹部で、死体を日常的に見てきたのは先代魔王が暗殺された頃に、現在の魔王様(当時は第一魔姫)に仕えていた者たちくらいでしょうね。あの頃の記憶は今でも鮮明に残っています」
まじか。
この女……いや、マリーア殿はずっと前から魔王様にお仕えしていたとは。そして、あの過酷な日々を過ごしてきた英雄殿の1人だったとは。なんて……なんて俺は馬鹿で屑なんだよ。
『例えば連続殺人事件を起こした犯人』だ?
ふざけるな! なんでこんなことを考えてしまったんだ俺は。
(47)
「知らなかったよ……。そんな昔からお仕えしていたとは」
「突然、土下座してどうしてしまったんですか? 別にその頃から仕えていたからと言って偉いわけでもありませんし。でも確かにあの頃は大変でしたね。魔王様を亡き者にしようとする奴らが多くて……私は仲間と敵に死体に囲まれて寝た日もありました」
「亡き者にか。当時は魔王様は何の力もない女子(おなご)ではあったではないか! あの天使共めっ! そういう力無き者まで殺そうとするとは、卑劣な連中だよ」
現魔王様は女性であり、まだとても若い。そして先代魔王に比べると、その力は微々たるものであると言わざる負えないのだ(当然、俺よりは強いが)。つまり天使共には到底太刀打ちなどできないわけである。
「女子だから、というのは失礼ですよ。魔王様も既に魔王たる力を有しておりますし、天使側から見れば、弱いうちに殺しておく……これは当然の話です」
「理屈はわかる。しかし、俺の感情はそんなのでは抑えられない! 」
現魔王様の、あの必死に魔王領を纏め上げようとする健気な姿をみると……いや、勇者一行がどこまで辿り着けるかにカネを賭けるような奴が言うことではないか。
「でも、私たちが苦労したのはほんの一時期でしたしたね。ある時から暗殺者やその集団による襲撃は一気に数が減りましたから」
「あの時から……? ああ、魔王領の帝政時代の幕開けがその理由だな」
「そうです。天使たちは、今まで先代魔王の子供たちを暗殺対象にしておりましたが、帝政時代が始まってからは、その暗殺対象を皇帝に変えたようですからね。余程、危険だったのでしょう。現に天使相手に戦争を始めてしまいましたし」
皇帝ね。
天使共からは悪の皇帝とか呼ばれていたらしいが、実は俺はその皇帝を見たことはない。元々、殆ど表には出なかったようで、さらに戦争が始まってからはずっと出征したようなのである。
それにしても、戦争か。
親父は、その戦争で死んだのだである。そしてその報せが届いて直ぐに母親も後を追って死んだ。
「あの皇帝がどういった人物なのかは知らないが、まあ自らが皇帝となったことによって天使共の最重要の暗殺対象になり、結果的とはいえ今の魔王様を救ったことは褒めてやっても良いかもな」
「皇帝……ですか。あまり私は好きではありませんね。天使たち相手に戦争をする意気はともかく結局その意気だけで魔王領を危険に陥れる無謀な行動をしでかしたのですから」
まあな。その戦争が原因で俺の両親は死んでしまったしな。
「あら? そろそろ西ムーシ行きの馬車が出発する時間ですし、乗るとしましょう」
「おう。そうしよう」
訂正
出征したようなのである。
↓
出征していたようなのである。
(48)
途中の馬車駅を経由して、私たちはようやく西ムーシの町に到着した。
到着してすぐに、傭兵団の面々は既に西ムーシの町に居る5人と合流すべく移動し、ブルレッド君は剣の回収の件があるため出来るだけ早く『魔王領』に戻りたいとのことで、今日中にプランツ王国の王都プランツシティまで行くとのことである。
そして私は、西ムーシ商会の本店へとまずは向かった。
「カルロさん! ありがとうございます。おかげさまでロベステン鉱山を競落できました。本当に良かったですよ」
当主はとても喜んでいるようだ。
今後の財産的利益への期待に喜んでいるのか……或いは魔力を有する鉱石を某組織(当主自身が某組織の前身たる組織に所属していた)に供給することで、天使共に対して優位な立場になれるかもしれないという期待からからか、実はその両方から来る喜びなのか、それは私には判らない。
だが、少なくとも私は『天使共に対して優位な立場になれるかもしれない』という期待はある。
「今回は色々と運が良かっただけだと思うがな。当日になってグランシス商会が競売参加をキャンセルしたわけだし……まあ、他の商会も競売に参加してギリギリで競落できた点、資金を集めつことができたのは良かったが」
今回の競売は、アリムーシ商会の私的な競売で、競落した者(商会)は直ちに現金を支払わなければならないという決まりであったので、資金を集めておいたのは正解だった。要は手形を振り出すなり、又は他の商会が振り出した手形を所持していたとしても、それを引渡すことによる決済は認めてられていなかったのだ。
「グランシス商会のキャンセルの話は……カルロさんが何とかしたからですよね? 判っているのですよ? 私は貴方のことを、あの戦争前から知っているのですから」
「何とかってなんだよ……」
この感じだと、どうやら当主は、初めらから私の商人としての能力など期待していなかったようだ(実際皆無だが)。恐らく、私が人には言えないような行為をすることを見込んで、私を副当主という役職に就けさせてロベステン鉱山の競売に係る権限を与えたのだろう。
「その何とかについてだが、王都大聖堂や天使共が絡んでいたのを知ったから謀っておいた。これだけ言えば、お前なら判るだろう? 」
「ああ、なるほど。ブルレッドさんの協力を得たりして『何とか』したわけですね? いやあ流石です」
おいおい、性格の悪さが見え見えだぞ、全くもう。
まあ、人のことは言えないが。
(49)
「そうそう。カルロさん、これは報酬です」
当主はそう言って、袋を渡してきた。
実際に受け取ってみると、ある程度の重量が感じられる。これはそこそこの額が入っているのだろう(全部銅貨や銀貨だったら話ならないが)。
「どうもありがとう。ありがたく貰っておくよ。それと、大事な話があってな……」
大事な話とは、大聖堂から盗み出した本や資料の件だ。
「私とブルレッド君、そしてテオドルさんが王都で借りている貸倉庫に、資料を運んでおいたからそれを運んでおいて欲しい。出来れば以前から溜めこんでいる分よりも、優先的にな」
「なるほど…………どっかの教会でやったんですね? わかりました。早急に済ませておきます。というか、テオドル元議長にも協力してもらったのですか。今は結婚し、細々と酒場を切り盛りして幸福を掴んでいるというのに」
「テオドルさんには、倉庫だけ貸してもらっただけだよ。さて、そろそろ宿屋に行きたいからこのへんで失礼するよ」
私はそう言って、西ムーシ商会本店を後にしたのであった。
※
私が宿屋に入ると、ちょうどユミたちが宿屋の食堂で夕飯を食べようとしているところが見えた。
「あっ! カルロだ」
ユミが、私に気づいてそう言った。声のトーンからして少し嬉しそうに感じたが……まあ、気のせいであろう。
むしろ私が嬉しい気持ちになっているのかもしれない。
「おお、カルロ殿か。久しぶりと言うには、まだ短い期間かな? 」
「カルロさん! もう用事は済ませたのですが? 」
続けて、ダヴィドやマリーアも声をかけてきた。一旦、旅を中断してからは2人とは一度も顔を合わせていなかった。
「ああ、用は済ませたが……私事で迷惑をかけてしまって申し訳ない。お詫びにと言ってはなんだが、これを買ってきたから食べてくれ」
私はそう言って、お菓子の入った袋を1つずつ渡した。3人は早速、袋を開けて中身を確認しているようである。
「おやっ? このお菓子は高級品ですよね。わざわざ貰ってしまってよろしいんでしょうか」
どうやら、マリーアはこれがそこそこ値の付くお菓子であることに気づいたようだ。私としても、このように気づいてくれた方が、それこそ高級品であるが故に申し訳なさが伝わってくれていると感じることができるからありがたい。
まあ、こうやって心の中で思うあたり性格が悪いのだと自覚はしているが、仕方ないね。
人の感情なんてものは勝手に沸きだすのだから。
(50)
「えっ! これ、高級なお菓子なの」
どうやらユミは、マリーアの発言でこれが高級品であることに気づいたようである。ああ、王家や貴族或いは商家(豪商)の子供でない限り、この年齢で高級品であるかどうかなどを自らが積極的に意識することはないだろう。
「…………」
ダヴィドはお菓子の袋の中身を見つめて黙っている。
単に高級なお菓子だから見とれている、というわけではないことは私は判っているぞ。
「何日もここで待たせてしまったのだ。むしろ、このくらいでは足らないくらいだろうな。まあ、好きに食うなり捨てるなりしてくれ」
「カルロ、何を言っているの? 捨てるなんてもったいないよ。高級なお菓子をくれてありがとね」
「ありがとうございます」
「…………あ、ありがとう」
と、感謝の言葉を私は貰った。別にそこまで計算していたわけではないがな。
さてと、もう一つ渡すべきものがある。それは『魔王領』について記された本だ。
「あと、これはユミにあげようと思って買ったのだが、『魔王領』について色々と書かれている本だ。教会付属の図書館とかには置かれていないだろうから、中々面白いと思うぞ」
まあ、そもそも読書嫌いなら面白いとは感じないかもしれないが。
「勇者として、『魔王領』がどういう場所なのか知っておくべきだと思う。ありがとね、後で時間を見つけて読んでおくね」
「おう。勇者としての自覚がしっかりとあるみたいだね」
本当は勇者としての自覚あると、こちらとしては困るのだがな。
(51)
翌日、私たちは早速、西ムーシの町を発つことにした。久しぶりに4人での旅が再開だ。今は、国境の橋を渡っているところである。
とは言っても、プランツ王国へ向かう者、さらにプランツ王国側からやって来たものとがごった返しており、中々前へは進めない。
「昨日、寝る前にカルロがくれた本を少しだけ読んだのだけど、難しい言葉がたくさんあってわかりにくかったんだ」
と、不意にユミがそう言った。
どうやらユミは、昨日私が本を渡して早々に読んだらしい。ただ、確かにあの本は難解な言葉が使われているのは事実であり、私はそれを失念したままユミに渡してしまったようだ。
「例えば、どのような言葉が難しいのだ? 」
私はとりあえず、ユミにそう訊ねた。
「……っとね、『広義の魔王領』とか『狭義の魔王領』とかそういう言葉がたくさん出てきて、意味不明なの」
なるほど。早速、『魔王領』の定義から混乱しているようだ。
さて、この場合はまず『狭義の魔王領』についてから説明した方が判りやすいだろう。『狭義の魔王領』とは簡単に言えば、魔王の王権が直接及ぶ地域という認識で問題ない。
では次に『広義の魔王領』とは、『狭義の魔王領』にプラスして2つの魔公領と1つの魔侯領を含めた地域のことをいう。
そしてこの魔公領や魔侯領は各魔公や魔侯が君主として統治しており、歴代の各魔公や魔侯が個人的に魔王に忠誠を誓っているとはいえ(この忠誠を誓うということ自体、形骸化しており、あくまでも儀礼的なものになっているが)、それらの地域に魔王の王権は及ばないのである。
ということなのだが、一般人は『魔王領』と口にした際に、それが広義の意味なのかそれとも狭義の意味なのかについて、特に意識することは殆どないので、『魔公領など』も含めて言っているのかについては、その時の話の流れから解釈するほかない。
「まあ、こういうわけだが少しは判ったかな? 」
「……ううん……ってことは、その魔公たちも魔王みたいな存在ということだよね? カルロの話だと、魔公たちはその領地の中では魔王のように振舞っているのでしょ? なら倒さないといけないじゃん」
(52)
随分と勇者という仕事に熱心なことで……。
しかし、少なくとも魔公たちまでをもが、その討伐の対象となっているわけではない。
とはいえ仮に、同時期にユミ以外にも勇者として選任された勇者がいたとして、その勇者が討伐する対象が魔公であるという可能性もないわけではないが。
「いやいや、魔公たちは討伐の対象にはなっていないよ」
少なくとも、ユミが教会から命じられたのは魔王の討伐である。
「そうですよね。カルロさんの言う通り、ユミさんが討伐すべき対象はあくまで魔王ということになります。わざわざ魔公たちまでをも討伐する必要はないでしょう」
どうやら、マリーアも同じ見解のようだ。ロムソン村では魔物の討伐について熱心に提案してきた手前、今回意見が一致したのは意外である。
まあ、私が魔公の討伐を止めて欲しい理由は、『対天使同盟』を締結している『魔公領』があるからだ。全く……こんなことになるなら、ユミには何も教えるべきでは無かったな。余計なことをしてしまった。
「自分もカルロ殿の意見に賛成だ」
ダヴィドもそう言った。
昨日、ダヴィドに渡したお菓子の袋の効果が出てきたようである。
「確かに魔王の討伐だけ命じられたけど…………それでも! それでも、魔公たちも討伐しなければならないよね? 」
おっと、ユミさん。真面目ですね。
しかし、私としては真面目になってもらって大変迷惑なのだよ。
「魔公が存在するというだけで、何か我々に悪い影響があるのか? 」
と、私はユミに訊ねた。
まあ、そもそも今私がユミに訊ねたことは、魔公を魔王に置き換えても同じことが言える。魔王が存在するというだけで果たして人類全体(特定個人又は特定組織に限って見るなら話は別だが)にどういう悪影響があるのだろうか?
そして仮に、人類全体に悪影響を及ぼすとして、それを明確に答えられる者はいるのだろうか?
名前とか都市名って元ネタとかがあるんですか?
80:アーリア◆Z.:2018/07/11(水) 23:03 >>79
元ネタがあるやつはある。
無いやつないね。
>>80
ちなみに元ネタはどのジャンルですか?
>>81
元ネタのジャンルは色々とあるけど、例えば司祭のブルレッド君はレッドブルからきているね。
後、テオドルという人物もいたと思うけど、こいつは喘息の薬であるテオドールからきている。
(53)
「何を言っているの? 魔族は悪い連中でしょ! しかもその魔族たちの上に君臨する者たちなのだから、倒すべきだよ」
駄目だ……。
ユミは完全に教会や天使共のの言い分(デマ)を信じてしまっている。今ここで、仮に私が天使共を倒すべきだと言い放ったら大変なことになるだろう。
「ユ、ユミさん……」
マリーアがそう声を出した。
ただそう声を出しただけではあるが、何かを言いたいのだろう。
さて、私はユミに対して何故、魔族が悪いのかその理由を具体的に挙げられるのか訊いてみようかとした。
しかし、気が付けば橋を渡りきっており、無事にプランツ王国に入国していたのであった。
「無事に入国したか。確かプランツ王国では夜になると吸血鬼が出没するとか聞いたことがあるな」
と、不意にダヴィドが言った。
……吸血鬼。
私も吸血鬼と言う存在は小説などを呼んで理解しているが、ただプランツ王国で出没するとは聞いたことが無い。そもそも、実在するのかどうか疑問である。
「あっ! そういえば私もプランツ王国では吸血鬼が出没するという話を最近、聞いたよ」
どうやら、ユミもダヴィド同様にこの話を知っていたようである。私が知らないだけであって、有名な話なのだろうか?
「吸血鬼は出没しては、人を襲うというとんでもない奴だから、勇者としては倒すべき存在だよね! 」
おいおい。
また、このパターンか。
「魔王討伐を忘れるなよ? 」
私はそう言った。
「さっきも言ったけど、教会からは確かに魔王の討伐だけを命じられたけど、悪い連中は皆倒さなければならないでしょ? 」
そして、この返答パターンだ。
仕方がない。ロムソン村の時のように傭兵団に吸血鬼の討伐をお願いしておこう(というか、吸血鬼が実在するのか本当に疑問なんだがな)。
(54)
「カルロさん。ここはユミさんの言う通り、吸血鬼は倒すべきだと思います」
お、おい! マリーアああああああああ!
先程は、ユミが魔公についてまでをも討伐しようと言いだしたことには、消極的だったよね?
で、吸血鬼の討伐については賛成なのかよ……。
「あ、あのさ、私はプランツ王国で吸血鬼が出没するなんていう話は聞いたことがないのだが、皆はどこでその話を聞いたのだ? 」
仮に吸血鬼が実在しないのであれば、それを倒すということで行動するとなると、ただ時間を無駄に消費するだけである。
「私は、西ムーシの町でこの話を聞いたよ。ちょうどカルロが重要な用事があるとかで、いなかった時だね」
ユミがそう言った。
「自分も西ムーシの町で聞いたぞ。まあ、西ムーシの町はプランツ王国との国境近くにあるわけだし、プランツ王国絡みの話もよく聞けると思うが」
と、ダヴィドもどうやら西ムーシの町でこの話を聞いたようだ。
「2人とも、西ムーシの町で聞いたのか……。ところで、ダヴィドはその話はいつ聞いたのだ? 確か、以前にも王宮兵士を率いて西ムーシの町まで来たとか言っていたけど、その時に聞いたのかね」
「いや、ユミ殿と同じく、カルロ殿が大事な用があるとかで、いなかった時に偶然この話を聞いたのだ」
「という事は、2人とも聞いた時期も大体同じというわけか……」
なるほど。
今聞いた話で、ある可能性が浮上した。というのは、プランツ王国で吸血鬼が出没するという噂は最近になって流れたという可能性があるということだ。
仮にこの場合、元々、プランツ王国で吸血鬼が出没するという話は存在しなかったということになる。
「ところで、マリーアはこの話は知っていたのか? 」
「ええ。実は私も、カルロさんがいなかった時に西ムーシの町でこの話を聞きましたよ? 」
ということは、3人とも本当に同時期に同じ町でこの話を聞いたわけか……。
(55)
「まあ、そんなわけだし吸血鬼は絶対に見つけて倒すべきだよね」
と、またユミがいう。全く面倒な事だ。
どうしてこう、彼女は色々と討伐したがるのだろうかね。
「ユミ殿。吸血鬼はプランツ王国の兵士たちが何とかするはずだ。わざわざ自分たちが関わる必要はないだろう」
私が再度、魔王討伐に優先すべきとと言おうとしたところ(討伐することが目的ではなく、早く魔王領に行きたいからだが)、ダヴィが珍しく自分から意見を述べたのである。
しかも、きちんと関わる必要のない理由を挙げていた。
やはり、昨日渡した「お菓子の袋」が効いているのだろうか。
「私はユミさんの意見に賛成です」
しかし、マリーアは先の通り、吸血鬼の討伐には賛成であるのだ。これでは2対2であり半々に分かれているため話が先に進まない。
……困ったものだ。
「ところで、カルロさんはロムソン村で魔物の退治に反対したときに早いところ、魔王領に行くべきだとおっしゃいましたよね? 」
と、マリーアは私に声をかけてきた。
……なんか変な返答をすると、言質をとられて不利になるかもしれないね。
「そんなこと言ったかな? 」
恐らく「早く魔王領へ行こう」的なことは言ったと思うが、ここは誤魔化しておこう。
「私はカルロさんはそう言ったと思いますけど、まあ実際言ったかどうかはこの際、問題ではありません。私が1つ言いたいのは、カルロさんは旅を一度、中断して私たちを西ムーシの町で待たせたのですから、早く魔王領へ行くべきとか、魔王討伐を優先すべきとか言う理由では反対しないでくださいね? 」
お、おおおおおおおおおお!
マ、マリーアああああああ!
痛いところを突かれた。こいつめ……。
ただ、旅の中断をしたのは確かだし、こればかりは言い訳しようがない。
「し、しかしだね……。ダヴィドが言った通り、プランツ王国の兵士たちが対処するだろうし問題ないでしょ」
私はこうなったらと、別の観点からどうにか言いくるめることにした。
しかし、ここでユミが口を挟んできたのである。
「ねえ、ダヴィド。さっきはマリーアが話し始めたから言わなかったけど、私はプランツ王国の兵士たちは何もしてないって聞いたよ? 」
と、結局、ダヴィドの理由付けはこうもあっさりとつぶれてしまった。
吸血鬼は本当に実在するのかどうかわからない。考えてみればこのような事案に兵士たちがわざわざ対応する時間はないだろう。
で、仮に吸血鬼は実在するかわからないから、無視して先に行こうと言っても、「なら、どうして噂になってるの? 」「とか実在するかどうか確実なるまで調査すべきです! 」などと言われるオチだな。
「……仕方ない。正直なところ吸血鬼討伐に何の意味があるかわからないが、私は3人の決定に任せる」
ここは仕方がないので、反対を取り下げることにした。
そして、3人に任せた以上、結局のところ賛成2、反対1で吸血鬼の討伐をするという流れになったのである。
尚、今回も駅馬車の利用を提案したが、ユミの戦闘経験を積ませることを理由に徒歩でプランツシティを目指すことになった。
(56)
俺は今、プランツ王国の王都プランツシティのとある宿屋にいる。
数日前から既にプランツ入りしており、後々来るであろう勇者一行を捕らえるために(1人を除く)、色々と準備しているのだ。
「おい、旅芸人。早速、王都のはずれにある屋敷に向かうぞ」
「そんなきつい言い方をしないでよ。というか、うちの名前はアリシャなんですけど。だからアリシャって呼んでくれないかな? 」
「そんなこと知ったことか。ほらさっさと行くぞ」
このアリシャという人物は元旅芸人である。今回、勇者一行を捕らえるための協力者なのだ(同行していた部下は、天使複数の焼死体発見(一体だけ違ったが)の件の報告で魔王領へ急行している)。
そして、今回、勇者一行を捕らえるための作戦として俺は吸血鬼という架空の存在を利用することにしたのである。これを思い付いたのは、目の前にいる元旅芸人のアリシャと出会ったのがきっかけであった。
俺たちが例の森(使役する魔物を捕まえにいったら天使の焼死体等を発見した森)から西ムーシの町に戻った時の話である。くたびれて、西ムーシの町に戻ったところ、アリシャが現れて(その時は当然、名前も知らなかったが)俺の持ち物を盗もうと悪事を働いたのだ。当然俺はそれを阻止し、逆にアリシャを捕らえた。
その後、色々と話を聞いている内に、実はアリシャが元々は旅芸人であって、さらに吸血鬼の役を演じてたことを知ったであった。
以上のことから、俺はこの話を聞いて吸血鬼という架空の存在を利用することにしたのだ。
尚、今回使用する古びた屋敷は誰かさんの物ではあると思うが、勝手に使わせてもらってるだけである(もう廃墟みたいだし、管理すらされてないから勝手に使用しても俺はバレないと思う)。
「ま、まあ盗みを見逃してくれた上に、報酬をくれるらしいし、多少我慢はするけどさ……」
「そうだぞ? 俺は見逃してやった上に報酬を支払ってやるんだからな。それはさておき、この宿屋から今から向かう屋敷までの道のりは暗記しくれよな」
「わかった。頑張って覚えるよ」
勇者一行がやって来たら、アリシャには今いる宿屋から今から向かう屋敷まで速やかに動いてもらう必要があるので、何としてでも道のりを覚えてもらう必要がある。
さらに宿屋から屋敷までは、それなりに距離がある上に、速やかに移動してもらうわけであるので走って移動してもらうことになるのだ。
「後、ここから屋敷までは走ってもらうことになるから、短期間ではあるがジョギングでもして多少は持久力をつけてくれよ」
「なら、ここからその屋敷とやらまでの道のりを走って移動を繰り返せば一石二鳥だね」
「おう。頼むぞ」
(57)
プランツ王国に入ってから2日目の早朝。
プランツ王国領内にあるウェプラの町で一泊した私たちは、プランツ王国の王都プランツシティを目指して移動を再開した。
そして、
「ねえカルロ! 大昔の魔王領には魔王がたくさんいたみたいだね? 」
ほう。
その話を訊いてくるということは、熱心に例の本を読んでいるということか。
「もうそこまで読んだのか……。となると、ちょうど大魔王という地位が大昔にはあったということも知ったところかな? 」
「うん。各地に存在した魔王のさらに上に君臨していたのが大魔王なんでしょ? 」
『大魔王』。
大昔に存在したとされる世襲の地位であったと言われており、ちょうど現在の魔王領(広義)くらいの領域を支配していたらしい。
そして、大魔王と呼ばれることもあってか、大魔王の一族は絶大な魔力を有していたと言われている。
しかしだ。
良いことばかりではないのだろう。
その大魔王一族は子孫に恵まれず3代目が没して以降、その地位は空位となったと言われている。しかも奇妙なことに3代目の大魔王は初代大魔王の祖父と言うらしいではないか。
「そうだね。絶大なる魔力に、そして各地の魔王を従えていたわけだから、まさに『大魔王』と呼ぶにふさわしい地位であったのは間違いない」
「もし今も大魔王の一族が生きているなら、これって大変なことだよね? 」
なるほど。
『大魔王』をあくまでも敵として扱うのであれば、それはとても苦労することになるのであろう。
しかし私は、仮に『大魔王』の一族が今もいるのであれば、うまいこと天使共と敵対させて自らは漁夫の利を得たいものと考えている。
「ま、まあな……仮に大魔王の一族が生きていれば、魔王討伐なんて軽々こなすくらいでなければな……」
とりあえずユミにはそう言った。
(58)
「カルロさんにユミさんも……立派ですね。魔王領についてそんなにお調べになっているなんて」
私とユミの会話を聞いてか、マリーアがそう言ってきた。確かに普通はここまで『魔王領』について調べる者はいないであろう。
「立派も何も、趣味で調べているだけだしな。マリーアも趣味には没頭するでしょ? 」
「私は勇者として知っておくべきだと思っているから、当然のことをしてるだけだよ」
私とユミはそれぞれ、そう言った。
ユミについては……相変わらずユミらしい真面目な理由で例の本を読んでいるようだ。まあ、そういう私も本当は純粋に「趣味で調べている」と言い切ることはできないが。
「私も2人の話を聞いていて、『魔王領』について色々と調べてみたくなりました。……そ、そのユミさんが手にしている本は一体どこで手に入るものなのでしょうか? 」
どうやら、マリーアも興味が沸いてしまったようだ。
「恐らくだが、王都プランツシティにある本屋を適当に巡れば見つかると思うぞ? そんなに珍しい本でもないからな」
そう。
ユミに買い与えたこの本は実際に珍しいものではなく、本屋に行けば普通に手に入れることができるものである。
ただ、珍しいものではないのだが私がチェックした教会付属の図書館には置かれていなかった。恐らく私がチェックしていない所にも置かれてはいないだろうと推測している。
そして、
「今まで言おうと迷っていたが、そのユミ殿が手にしている本は王宮の図書室にあったぞ。読んだことは無かったが」
と、ダヴィドが言った。
なるほど。王宮と言うのは教会と違って『魔王領』に対する精神的アレルギーは無いようだ。
「そうだったのですか……。普通に本屋で売られていたり王宮の図書室にもあるなんて、何だか恥ずかしいです」
と、マリーアは少し恥ずかしそうに言った。
(59)
そして、早朝にウェプラの町を出発した私たちは1日中歩き、日が落ちたころにようやく王都プランツシティに到着した。1日中歩きつづけたがためにとても疲れているので、宿屋を見つけて早く休みたいところだである。
「皆さんお疲れですよね? もし良ければ私がプランツシティに来るたびに宿泊させていただいている宿屋あるのですが、ここから割と近いですしどうでしょう? 」
王都プランツシティについて早々、マリーアがそう提案してきた。マリーアは攻撃魔法士だというし、仕事で頻繁にプランツシティに訪れるのだろうか?
それはともかく、私は正直なところどこの宿屋でも構わず特に反対する理由もないので宿屋の件はマリーアに任せることにした。ユミとダヴィドの2人もマリーアに一任したようである。
「では早速向かいましょう」
マリーアの案内でその宿屋に向かって進んでいると、宿屋の看板を掲げている建物が目に入ってきた。
「今見えてきた宿屋がいつも宿泊に利用させていただいている宿屋です」
ほう……。建物を見る限り、可もなく不可もなくといったところである。
そして、私たちは宿屋の中へと入った。
宿屋の中も可もなく不可もなくといったところである。そして手続きを済ませた私たちはそれぞれ鍵を受け取り各自部屋へと向かった。
「ここか」
私は受け取った鍵を使って部屋の扉を開けて中に入った途端のことである。
何ととんでもないことに、部屋の中から何者かが私を目掛けて突進してきたのであった。部屋の中は薄暗くて顔までは判らないが、人影がこちらへ突っ込んでくることを把握するには十分な明るさはある。
「くそっ! 」
私は自分の腹を守るよう態勢をとった。
何故かというと私は、相手が猛スピードで迫ってきて腹を短剣で刺して殺そうとしていると判断しその上で、防御魔法(物理攻撃も防げる)を発動する時間的猶予はないと判断したからである。
しかし、まさか私の暗殺を企んでいる奴らの一味とこんなところで出くわすなんて、なんと不運なのだろうか。
(60)
くそ!
狙いは私の首筋だったのか……これは終わっちまったな。……まさかこんなところで……。
私は絶望した。私にはまだやることがあるというに、ここで命を落としてしまうという現実に。もちろん、私を恨んでいる者たちは大勢いるだろうしこれは必然なのだろう。
「ちょっぴり、キミの血をいただくよ」
そして暗殺者(?)はそう言って、私の首筋に短剣でも突き立てたのだろう。首筋からチクりと痛みが感じたのである。そしてこの痛みは激しくなり、その後は出血多量で死ぬ。これで私の人生は仕舞だ。
しかし……
「痛みがそれほどでもないだと? 」
そう。
私は自分に生じた痛みがそれほどのものでは無いことに気づいたのである。むしろ想定していたものと比べると。可愛いと連想してしまうくらいの程度にも感じてしまう。
さらに不思議なことに私の意識は未だはっきりとしているのだ。
であるが故に、冷静に事実確認を行うことにした。
「まさかな……? 」
その暗殺者らしき人物は若い女であり、何故か己の歯で私の首筋を噛付いていたのである。決して短剣などではなかったのだ。
まるで吸血鬼じみた行動と言えるだろう。
「これで少しは元気なったわ! キミの血はとっても美味しかったわ。ありがとう」
そして、女はそう言って、この場を去ろうと行動に出た。
「こらまて! 」
逃がしてたまるものか!
私はとっさに腕を伸ばし、女の腕を掴んだ。
「貴様ぁぁぁぁ! 私に攻撃してくるとはな! 暗殺のつもりなのだろが、失敗して残念だったねえ? で、誰の指図なんだ? 教会か? それとも天使共から直接指図を受けたか? まさか戦死した兵士の親族か? どうなんだぁぁぁぁぁ!!!!」
私は突如として湧きだした怒りの感情をコントロールできず、畳みかけるように女に対して質問責めをしたのである。
ところが、女は私の怒りの叫びなどには一切影響されず、全くもって余裕な表情を見せていた。
「ふふ。私ばかりに気をとられていて、良いのかな? 」
「何だと!? 」
直後。
私の背中に何かが突き刺さったのだろうか、激しい痛みと凍り付くような冷たさを感じたのである。
(64)
背中に感じた痛みと冷たさが原因で、一瞬気を散らしてしまった私は女の腕を掴んでいた手を放してしまった。
それを良いことに、当然女は走って逃げだしたのである。
「くそ! まちやがれ」
私も当然女を追いかける。
「ところで……」
追いかけるための動作とほぼ同時に、ほんの一瞬だけではあるが私はチラッと後ろに振り向いた。
背中がやられた以上、先程の攻撃は後方からなされたのは間違いないからだ。
そして、茶色でフード付きのロングコートを身にまとう者の姿が見えたのである。その者も今まさに廊下の窓から飛び降りようとしていたところであった。
「どこの誰さんなんだろうかね」
と私は小声でつぶやいた。
まあ、あのロングコート姿の者も今追いかけることにした協力者なのではあるのだろう。
そう気になる私ではあったが、それよりも例の女を追いかけることを優先した。
さて例の女であるが、中々走るのが速く、そしてある程度の持久力もあるのだろう。私も走ることには自信があるとは言え、何故だか追いつきそうで追いつかないのである。
そして、
「快速魔法を使いたいところではあるが……」
と、私に感じさせるほどである。
しかしここはプランツ王国の王都であって、私にとってそんなところで安易に快速魔法を使うには心理的ハードルがあるのだ。理由としては教会に目を付けられたくないというものである。先日、快速魔法で王都アリムーシと西ムーシの町を行き来した際は、街道から少し離れたところで移動していたわけだ。
要は、せめて人通りの少ない場所にあの女が駆けこめばこれ幸いと思うところである。
(65)
「おいあんた! 大丈夫か、そんな状態で走っていて」
例の女を追いかけていると、不意に後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。ほんの一瞬、例の女の協力者かと思ってしまったが、これは私が雇った傭兵団の団長の声だ。
「良かった。団長さんたちか」
「まあ、あんたが負傷しながらも誰かを追いかけているのを部下が発見してな。だから『仕事』をしているわけさ」
「それはどうも。中々、心強い傭兵団だな」
元々、アリムーシの酒場の店主の紹介だとは言え、この傭兵団に対してそこまで期待などはしていなかった。とりあえず私の指示に従う頭数さえ揃えば良かったのだ。しかし彼らは自発的に行動してくれている。
「そりゃどうも。で、あの女を追いかけているってわけか? 」
「ああ。あの女だ」
そして、傭兵団の面々と共に引き続き、女を追いかけているとボロい屋敷が見えてきた。
「おい! あの中に入りやがったぞ」
女はそのボロい屋敷の中へと入ったのである。『吸血鬼の屋敷』というイメージ通りの屋敷の中へ。
「すんなりと中へ入ったからな。アジトとして使っているのかもしれない。恐らくあの女の協力者もいるだろう」
あの女が単に一時的に駆け込んだようには見えなかった。ボロ屋敷の門や玄関を開ける際に、最初から鍵がかかっていないことが判っていたかのように、開けたからである。
これは恐らく、我々を迎え撃つ準備が整っているという事だろう。
皆様へ。
この小説も、途中で終わっていますが、つい先日、別のサイトで投稿した次第です。
小説家になろう
エブリスタ
以上、2つの掲示板で投稿しました。
誤字脱字の修正は、エブリスタの方が逐一修正がしやすいので、こちらの方がより正確な文章になっていると思います。ただ、小説になろうの方が先行して投稿しているので、物語はエブリスタに比べて進んでいます。
以下にURLを貼っておきます
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https://estar.jp/creator_tool/novels/25705294
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