なんだこのタイトル。
昨日からのよく分からない深夜テンションと恨みで出来上がってしまった小説。
ちなみに主人公は男。よろしく。
「先生、よろしくお願いします!!」
「え、えーっと……でもね、この部活、どこに需要があるのか…」
___市立蓬艾高校の入学式から約一週間。
俺こと、飯桐傘菅は、職員室で血眼になりながら懇願していた。
目の前の椅子に腰をかけるのは、我が担任である双葉まもる先生。
口元のほくろが色っぽい、艶めかしい黒髪をかきあげるどこか妖艶な女性だ。
なにを懇願しているのかというと、「リア充撲滅部隊」を設立させてくれという事である。自分でも分かっていた。こんなふざけた部が、申請される訳がないと。だが、ほんの一欠片の希望と期待(あと恨み)を双眸に宿していた。
「そこをなんとか!!お願いします、おねが___」
「そろそろチャイム鳴っちゃうから、教室に戻りなさい。その話は、また後で考えてあげる!」
「…………はい。」
先生の笑顔に気圧され、虚しく返事した。憤りを感じながら、おぼつかない足取りで職員室を出る。
いや、考えてみれば普通に無理だよな…。需要ねーよ、つくって何すんだよ、この部活…。俺みたいなちっぽけな奴が立ち向かったって、リア充という名の精神破壊兵器に勝てる訳でもないのに。そう、これは嫉妬と羨望にまみれた薄汚い試みだ。ちくせう。
胸中穏やかではないまま、階段を下ろうとすると、何者かにぶつかる。
「って……」
尻餅をついて、反射的に相手を見上げる。あれ、二人__?
「さっきの話は聞いていた!よく言った、よく言ったぞ飯桐!!我が同盟よ!!」
「その計画、手伝おうか!」
「ぅえ__?」
そこには、頭トゲトゲのいかつい顔したデカイ奴と、金髪碧眼の残念そうなイケメンがいた。思わず呆気にとられて、間抜けな声を漏らした。どうやら、先程の職員室での会話を盗み聞きしていた様だ。
つーか怖ぇよ。階段下ろうとしたら誰かにぶつかって、その誰かがいきなり心の友よ的なことを言い出したら誰だってビビる。
「いや、まず誰…」
「よくぞ聞いてくれた!僕の名前は、鈴茅皐月!僕ってば、こんなにイケメンなのに全くモテない!分からんよね☆」
「名前かわいいなおい。というかモテないのは多分お前が星飛ばしまくってる残念イケメンだからだろうな。」
「俺の名前は錦木鳩麦!女子にモテないのは、このイカつい顔のせいだと思ってる。」
「お前は麦茶なの?モテない理由はその顔以前に、えげつないほどトガってるその頭だと思うけどな。」
こうして、モテない男三人が三つ巴になった。最悪のメンツじゃねーかこれ。
だが、三人集まったらなんたらの知恵みたいな言葉があった気がする。そう、もうやることは歴然として然り。
「「「リア充撲滅しようぜ…!」」」
俺らは、とてつもなく下衆い笑みを浮かべていた。
【主人公】
飯桐傘菅 いいぎりかさすげ
姉がいる。とにかく目立つ特徴もなく、ひたすらリア充に羨望しているどうしようもない非リア。
容姿は普通。黒髪で童顔、中性的な顔立ちをしている。
【残念イケメン星飛ばし】
鈴茅皐月 すずがやさつき
金髪碧眼のハーフ。顔立ち自体は整っており、勉強も運動もできるが、いちいち格好つけすぎて魅力が半減している残念系非リア。
【頭トゲトゲ麦茶】
錦木鳩麦 にしきぎはとむぎ
頭があり得ないほどトンがっている。茶髪。高身長で、性格は熱血漢だったりする。だが、その頭と悪い目付き(ついでに名前)のせいで、モテない非リア。
__放課後。職員室での件以来、まるで初対面と思わせないほどに俺達は親睦を深めていた。そして、今日職員室で断られたあの件。あれを俺達に諦めることなんて、到底不可能だった。
意気が投合した俺達は、放課後に空教室でこっそり会議をしようと結論付けたのだ。
「…ってことで、第一回!リア充撲滅会議はじめー!!」
「「オー!!」」
熾烈で真摯な雄叫びを、拳とともにあげる。今この場にいるのは全員非リア。そんな俺達の、需要もない会議。いや、俺は需要があると信じたい。
「まず、先に言っておこう。__今の俺達では、あのリア充という頭の中が青春カラーでいっぱいのキャッキャウフフ野郎共には、真っ向から立ち向かっても、勝てない。…そこでだ。」
「「そ、そこで…?」」
二人が、固唾を飲む。俺は、そんな中で息を吸い込む。あ、やばいこの部屋埃多い。蒸せそう。
「げほっ、げほぉっ!!んん……簡単な話だ。真っ向から立ち向かわなければいい。それだけだ」
「でも、どうやって__ッ」
そこまで鈴茅が言って、ようやく真意に気付く。それは、錦木も同様だった。
「…そう、少々影鬱な手段だが、影から奇襲を仕掛けるんだ。一瞬の隙を逃さず、あいつらの弱味を握れるようにな。」
「天才かい、君は☆」
「つーか若干中二っぽくねえか、スギ。」
「うっせ。そういう雰囲気演出したかったんだよ。あと…一つ俺が危惧していることがある」
場に、緊迫の空気が鎮座する。俺は、額に汗を浮かべながら重く口を開いた。
「____橘椿。あいつが、一番危惧してやまない奴だ。」
「橘、椿…」
「そうか、あいつが…」
この空気なんなんだよ。いつから中二の集まりと化したんだ。
それはそうと、俺が危惧している橘椿というのは、この学年で超絶有名人だ。
奴は、文武両道イケメンだ。しかも、チャライと見せかけて実は優しかったりと、その性格の良さにギャップを感じる女子も多い。そう、あいつこそがリア充の親玉。あいつを打破しなければ、俺達の非リアという慢性的な状況は変わらないのだ。
「…ということだ、橘椿を打破する為にも、策を__」
ガラッ
「策を考慮する」そう言いかけて、突如として、空教室の木製の重い扉が開いた。誰だ__そう思い、後方へ振り返った。
「もう、下校時間は過ぎてるよ〜?」
「ふ、双葉先生……ッ」
いつもの笑顔に、影が差した双葉先生がそこに立っていた。
【先生】
双葉まもる
美人で、どこか妖艶な黒髪の先生。1-A担当、理科教師。この先生に実験をさせたら、確実に終わると生徒に言わしめるほどのドジ。ちなみに巨乳。
妹がいるらしい。
【イケメンの親玉】
橘椿 たちばなつばき
茶髪イケメン。文武両道、ギャップ萌え。典型的なリア充野郎。サッカー部。彼女はいないらしい。どうせならさっさと作れよ。
「あ、いや、その……ちょっと、話を、ね…へへ」
「見せられないよ☆」
「おい鈴ちょっと黙れ。」
どうやら、目の前の双葉先生は大変お怒りの様だ。少し騒がしくしすぎたか…。いいや、後悔している暇はない。本気と書いてマジって読むくらいに頭トチくるってんだ今は。
「くっ……俺達、モテないから…どうやったら、モテるんだろう……って…!うっ、ぐすっ…すびばぜん…!!」
「ファー。」
「(マジかよスギぃぃぃぃぃ…!!)」
嗚咽と共に、拙い言葉を漏らす。影が差して見えない双眸からは、心なしか光る滴が畳の床にポタポタと落ち、まばらな斑点をつけていく。
双葉先生は、その涙に気付き、おろおろと狼狽し始める。かわいいなこの人。
「え、えっと…飯桐くん。実はね……先生も、モテないの。ずっと彼氏ができなくて。だから、その気持ちはすっごく分かる。」
双葉先生の衝撃のカミングアウト。嘘は良くないぜ先生。貴女みたいな胸があってドジっ娘で女の子らしい女性がモテない筈ないじゃないですかヤダー。もしかして気付いてないだけか…?
俺は、幾度なく涙を流し続ける。双葉先生は、その涙を見て、自分のふくよかな胸にきゅっと手を当てる。
「うん、だから__この部活のことは秘密にしておいてあげる。」
「ずきゅん!」
「ずきゅん☆」
「ずきゅん!」
そう言って、双葉先生は片目を閉じて口元に人差し指を当てる。
その仕草が、愛らしい。だけど、どこか妖艶だ。思わず、ピュアボーイ三人諸ともハートを射抜かれてしまった。
なんて甘くて優しいんだ、双葉先生…ッ!!
「「「ありがとうございます!!」」」
全員が揃って、感嘆と感謝の声を漏らす。双葉先生は、その艶めかしい黒髪を揺らして、えくぼを作りながらふっと微笑んだ。
「どういたしまして。さ、もう下校時間だから、今日はそろそろ帰らなくっちゃね!」
「「「はい!」」」
双葉先生の言葉を合図に、俺達非リア三人衆は立ち上がる。
俺達は、慣れない女の人に微笑まれて、内心ご乱心だった。それと同時に、ご満悦。
双葉先生の優しさに感謝しなければ…そして、俺は先生に謝らなければいけない。
さっきの涙、目薬なんですすみませんでした。
こっそりと、目薬を鞄にしまった。