ピピピピ……そんな音をたてるのは、枕元にある目覚まし時計だ。
それが聞こえるということは、もう朝なのだろう。
「ううん、もう少し寝かせて……」
私は、のんきなことを言いながらも、目覚ましを止めた。
「ふぁあぁぁぁ……」
大きなあくび。自分でもわかるくらいの。
そんなわけで、今日も一日が始まるのだ。
「おはよ、ママ」
「いのり、おはよう」
リビングに降りると、ママが朝ごはんを作っているところだった。
「もうすぐ出来るから、他の準備済ませちゃいなさい」
「はぁい」
私は寝起きだったので、まだだるそうに返事をする。
「準備……顔洗ったりとか」
そうつぶやくと、洗面所に向かった。
「ぷはぁ……ふう」
顔洗ったり、歯を磨いたり、とりあえずやることはやっただろう。
目が覚めてきた私は、もう一度リビングに向かうことにした。
どたっ……
「……ん!?」
ドアの前で、足を止める。
何か、足音みたいなのが聞こえた気がしたからだ。
「な、なに?」
耳を澄ませてみるけど、何も聞こえない。
大きな音のはずだったけど、洗面所には私以外誰もいなかった。
「きの……せい?」
まだ目が覚めてないのかなって思ったので、
もう一度顔を洗ってから戻ることにした。
「ふうっ……ふうっ……ぷはあ……」
二回目は顔を洗うだけだったので、少し回数を増やした。
小学生でここまで顔洗ってるの、私くらいだろうな……なんて思いながら、
顔をタオルで拭く。
「……もう、何も聞こえないよね?」
顔を洗う回数を増やしたのは、さっきの出来事が怖かったからっていうのもある。
……だけど、もう大丈夫だろう。
頭の中で言い続けながら、私は洗面所のドアに手をかける。
……その時だった。
どたっ どたっ
「え……」
さっきの音が、また聞こえてきた。
どたって、床を踏む音みたい。
……つまり。
「だれか、居るの……?」
洗面所に、誰かがいる。なんかそれしか思いつかない。
どたっどたっ……
「……また!」
どたどたって音。どこから聞こえてくるんだろう……?
そして、誰が居るんだろう……
誰か、居る……こういうのはママを呼んだほうが良いはずだ。
泥棒さんなら、警察に110番してもらえるし。
「よし……」
ママを、呼ぼう。そう思った私は、ゆっくりと後ずさりながら
後ろにある洗面所のドアを開ける。そして……
「マ―――」
大声で、ママを呼んだ……はずだった。
「……ちょっとだけ、静かにしててほしいキラ!」
「ん、んー……!?」
なにかに、口をふさがれる。
それは、泥棒さんじゃなくて……うさぎのぬいぐるみだった。
「……転送!」
てんそう……ぬいぐるみがそう言うと、目の前が真っ白になっていく―――
「……はっ!」
目が覚めた私は、周りを見渡してみた。
「ここ……どこ?」
黒目の青っぽい色があって、それが続いている場所。
アニメで言うと、いくうかん?
「起きたキラね」
「あ、ぬいぐるみ……」
声のしたほうを見ると、さっきのうさぎのぬいぐるみが、
ちょこんと立っていた。
「きららはぬいぐるみじゃないキラ。妖精キラ」
「ようせい……ようせい!?」
朝のアニメでやってるような、魔法少女のおとも……
それが今、私の目の前にいる……のかな?
「妖精キラ。きみには、魔法少女になってほしいキラ」
「え……!?」
本当に、魔法少女のおともだった。
それよりも、私が魔法少女に……?
夢だ。わたし、まだ起きてないんだ。そうに決まってる。
「……えいっ」
夢なら覚める。痛くない。
そう思って、ほっぺたをつねってみた。
「ッ……!!」
痛かった。
「……何してるキラ?」
「あはは……」
困った表情でこっちを見る妖精さんに、わたしは
苦笑いしか出来なかった。
「妖精さん、なんで私なの?というか、どうして私の家にいたの?」
わからないことがいっぱいなので、色々聞いてみることにした。
「順を追って説明するキラ。まずきららは、この地球の反対側にある
妖精の世界からやってきたキラ」
「地球の反対側?そんなのがあるの?」
「妖精の世界と地球、何百年も前からバランスをたもってるキラ」
「へぇ……」
地球の反対側の世界……難しい宇宙の話はよくわかんないけど、
なんとなく興味が湧いてくる。
「で、その世界は滅んでしまったキラ」
「ほろんだ!?」
興味をもたせておいて、今度はこんなことを言うなんて……
「こっからがちょっと長いキラ。心してきくキラ」
「う、うん……」
「平和な妖精の世界に、また別のところからの闇の組織が現れたキラ」
「ほろんだって……そいつらがやったの?」
私が聞くと、きららはこくりとうなずく。
「名前は、ブラックダーイ。世界を暗黒に染めるとか言ってたキラ」
「すっごく悪そう……」
「悪いってレベルじゃないキラ!きららの仲間たちは、みんなあいつらに捕まって……」
きららの言葉が、なんだか激しいと感じた。
お友達が捕まるなんて話、しないほうが良かったのかな……?
「ごめん!そこまで話させちゃって……」
「良いキラ。そこまで説明しないといけないキラ」
そう言うと、きららは続けた。
「きららだけ、なんとか逃げられたキラ。
そして、ブラックダーイを倒すために、人間界へ……」
「で、わたしの家に……」
「実を言うと、一週間前から家の中にいたキラ」
「そんな前から!?」
一週間……全然気づかなかった。
というか、家族の誰も気づいてなかった。
「今日も近くにいたのに、あまりにも気づいてもらえなかったから……こう、ドッタンバッタンと」
「あれ、ちょっと怖かったんだから」
あのときは、ほんとに怖かった。
しかもそのまま口塞がれるし。
「キミ……なんでそんなに冷静キラ?」
「えっ?」
「だって、きららのこととか魔法少女のこととか、普通はこんらんするキラ」
混乱してないわけじゃ、ないんだけどな……。
だけど、そこまで慌ててないのは自分でも……なんでだろ?
「……わかった!」
「キラ?」
「ほっぺたつねって、夢じゃないって思ったからだよ」
「夢じゃなかったら、余計こんらんするキラ!」
「しないよ?」
「えっ」
私の言葉に、きららは目を丸くした。
「なんか、納得しちゃって」
言葉が出なかったから……こんな答えになっちゃった。
でも、いいよね?
「そうだ。なんで私が、魔法少女なの?」
私の質問に対して、きららは首を横に振る。
「そこは細かい事情が色々あるキラ。聞くなキラ」
「えー」
……そこ、いちばん大事なところだよね?
そう言いたい思いをぐっとこらえた。
「妖精の世界からなんとか持ち出した、魔法の変身アイテム……渡しておくキラ」
きららはそう言うと、どこからか長い棒を取り出してきた。
「これ……」
ただの棒じゃない。
キラキラとした飾りがついた、魔法のステッキだ。
「これで、キミも魔法少女キラ!」
……魔法のステッキを、手に入れた。
「魔法少女になったけど……私、どうすればいいの?」
「そうキラ!生き残ったきららを追いかけて、あいつらがこの世界に入ってくるキラ。絶対!」
「えっ!」
口に出さなかったけど、もともとこれ……きららのせい?
「というわけで、よろしく頼むキラ!」
「よろしくって―――」
次の瞬間また、目の前が真っ白になって……
「あ……」
気がついたら、洗面所に戻っていた。