大福怖い

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1:加藤比呂子◆PiM:2018/06/29(金) 22:30

手に乗せるだけで溶けていきそうなほど柔らかい求肥。求肥からひっそりと顔を覗かせる餡と、隠しきれない存在感のある苺がふっくらと包まれている。
その大福を食べるには、手を伸ばして頬張るだけだ。しかしそれができない。

大福に逆らえない青年の物語!
ゆーーーるゆる更新予定。

2:加藤比呂子◆PiM:2018/06/29(金) 22:30

 「一口ちょうだい」
 ふっくらとなだらかな曲線を描き、食べてほしいと言わんばかりに苺が主張する大福。それをまさに今、口に入れようとした瞬間だった。
 「まだ言うとるの。いい加減、諦めってものを覚えんさいな」
 だって、と井村は口をすぼめて言う。
 この大福、元々は帰省した井村が家に余っていたからと貰ってきたものであった。しかし、数に余りが出たので、賭けをして勝った方が食べると決めていた。
 双方の話し合いの末、数取りゲームをすることになり、結果、勝ったのは小野田であり、大福は小野田の物になったはずであった。
 「今回で最後やからな」
 「小野田なら、そういうてくれると思ってたよ」
 にっこりと笑い、小野田の手から大福をもぎとる。
 美味しそうにぱくつき、手に付いた片栗粉まで舐めとる。白くてふっくらとした指は大福のようだと、小野田はいつも思う。
 結局1人で丸ごと平らげてしまった井村を見て、小野田はため息をついた。
 カーテンに目を向けると、風で揺らめくカーテンからさ庭に生えるグミの木が覗いている。真っ赤なグミの実が、それみたことか、やっぱりねと笑っているようだった。
 「あっ。全部食うてしもた。ごめんね」
 確信犯であろうに、たった今気付いたかのように謝る姿を見ていると、小野田は何も言えなくなるのだった。

 小野田と井村はいわゆる腐れ縁である。小学5年の夏、小野田が住む田舎町に井村が転校してきて以来、家は隣同士。もちろん登下校も一緒。中学も、高校も、大学まで共に進学した。特に理由があるわけではないが、そのままずるずると同居しているのであった。


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