桃源中学校、通称桃中。ごくごく普通の町立中学校だ。
そんな桃中には不気味な校則がある。
___北校舎の「開かずの一年一組」には近づくな
登場人物(今のところ)
雉間 ケン(きじま けん)
桃中一年二組。クラスで一番影が薄く一番私服が派手な男。手先が器用で美術部に所属している。あだ名「キジ」
猿渡 空(さるわたり そら)
桃中一年二組。表情がコロコロ変わってなんか大変そうな男。とりあえずうるさい。バスケ部に所属している。あだ名「猿」 「犬」と仲が悪い。
狗飼 真白(いぬかい ましろ)
桃中一年二組。クソ真面目でいわゆる「先生の良い子ちゃん」。それと隠れオタ。吹奏楽部に所属しており担当する楽器はサックス。あだ名「犬」「猿」と仲が悪い。
『三人の共通点』・・・夜にやたらテンションが上がる
1日常(キジ)
今日は目覚ましが鳴る前に目が覚めた。時計を見るとまだ4時30分だ。
「もう一度寝るか」
そう考えて再び目を閉じた。が、中々眠ることができない。
右へ左へ寝返りをうち続けると、とろんとようやく瞼が重くなってきた。
__その時だった。
突然自分の身体が動かなくなったのである。
動かせるのは視線だけで声を出そうにも出すことができない。
耳鳴りも酷くなってきた頃、
トットットットットットッ
ダレカが軽快なリズムで階段を登る音が聞こえた。
その音は自分の部屋の前でピタリと止まりどうしたのだろうと疑問を抱く刹那ドアがガチャっと開く音がした。
入ってきた
荒くなる自分の呼吸を必死に抑え固く目をつぶった。
ふと自分の胸の上にかすかな重みを感じた。眉間あたりが嫌にぞわぞわする。
自分の身体の上にダレカが乗っているのだ。
そう分かった瞬間今までクッションのような軽さであったダレカが急激に重くなるのを感じた。
僕はあまりの恐怖と胸の苦しみで気を失ってしまった。
リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ
6時30分に設定したはずの目覚まし時計が6時40分に鳴る頃、僕は目を覚ました。
全身が汗と涙でグッチョリしていて凄く気持ちが悪かった。
とりあえず目覚まし時計を止めようとスイッチを押したがアラームは止まる事なく鳴り続ける。
ヒュッと息を飲み冷静に止める方法を考えた末、電池を抜く事にした。
電池を抜くと時計は死んだように鳴るのを辞めて秒針の音も聞こえなくなった。
「ケン、早く食べないと遅刻するよ!」
下で僕を急かしている母さんの声がする。
僕は深く深呼吸をしてさっきダレカが通った階段を降りて行った。
僕は重い足取りで所々ひび割れた歩道を歩く。
今朝の出来事は一体何だったんだろう。普通の金縛りにしては異常だ。
それに鳴り止まない目覚まし時計も僕の恐怖心を煽り、外に出る事が死ぬほど怖く感じた。
僕の横を自転車で通り抜けるカップルを横目に見ながら曲がり角を曲がった。
その時背後から「よぉ。」と聞き慣れた声が聞こえ、振り返ると褐色の顔が家の角から現れる。
「あ、猿。」
猿と呼ばれた男は家の陰からひょっこり出てきてニッと笑った。
そして僕に近寄ると急にギョッとした表情を浮かべ、
「なんかお前顔色悪くねぇ?」
そう言われ自分はそんなに疲れているのだろうか、と近くにある家の窓ガラスで自分の顔を見た。
確かに少しやつれているような気がする。目の下にはうっすらクマがあった。
「本当だ…」
よく通らない声で呟くと猿は茶化すような口調で
「どうせ夜中までネットサーフィンしてたんだろ?」
「いや、別に。猿には関係ないし。」
なるべく顔を見ないようにして急な坂道を登る。
素っ気なく返されたのが癪だったのか猿は
「あっそ…」
と言ったきりそのよく喋る口を閉ざした。
途中北校舎がフェンスから見えた。
北校舎の周りにはボロボロの柵がたててあって昼でも化け物が出てきそうな禍々しい雰囲気が漂っている。
すると急に猿が
「あ……」
と掠れて何かに怯えるような声色で呟いた。
不思議に思い振り返って
「どうした、さ…」
と言いかけ息を呑んだ。
さっきまで居たはずの猿の姿が見当たらないのだ。
「猿…?」
と呼ぶと突然自分の顔面に凄まじい突風が襲ってきた。
『猿』…猿渡空は春の風とともにその姿を消してしまったのである。