ルナ

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1:ミルフィーユ:2018/08/06(月) 09:41




あなたとわたし

2:ミルフィーユ:2018/08/06(月) 09:42



『5段階評価の3』___平均的を意味する別称を持つ私たちC組は、良くも悪くも教師からの干渉が少ない。そんなど平凡クラスならではの恩恵にあやかって、私たちは今日も好き勝手にやりたいことをやりまくる。

本来『学習に不要物』として没収されるはずの七輪を持参した私たちは今、焼きあがったばかりの餅に噛り付いていた。

「ん、ジャム意外とイケるねぇ」
「ちゃんと餅米から作った甲斐があったね」

ちなみに言うと今、隣のB組では分子干渉の授業が行われている。主に水分子についての実験なんだけど、失敗したらすぐ酸素と反応して発火しちゃうからさっきから爆発音が絶えない。おまけに反対隣のD組ではなにやらパーリーピーポーな音楽がガンガンかかっていて、まともな授業もできていないようだ……これでもまだ「E組よりよっぽど良い子ちゃん達だ」と言われるのが驚きだ。2軒隣を除く勇気もない。

『つまり、だ。両サイドがうるさいので、こちらが立てる騒音は気にされない筈だ!」

流石アンドリューだ。彼の言う通り、今日のこの時間を選んで炭焼き大会をして良かった。
いつもなら、ちょっと笑い声が聞こえただけでイチャモンつけてくるB組も、特に理由はないけど(多分嫉妬かなぁ……)イチャモンつけてくるD組も、今日ばかりはなにも言ってこない!自分たちが一番うるさいもんね!

「お前ら〜せっかく自習時間くれてやってんだから、一番良く焼けたのを先生に奉れよ〜」
「あ、すみません。これどうぞ!」
「炭じゃねーか」

出された瞬間に私を殺さんばかりの勢いで睨みつけてきたので、慌ててもう片方の手に用意していた本物のお餅とすげ替える。なんだ、そんなに食いたかったなら自分で焼きにこれば良いのに。

「俺は人が懇切丁寧に作った物を何もせずに食いたいの!」
「クズかよ」

まあ先生が自習時間くれるくらいには融通が利く人だったから良かったけど。というかこの計画の話した時むしろ乗り気だったよね。他の先生だとそうも行かないから、今日は本当に運が良かったっていうか。

3:ミルフィーユ:2018/08/06(月) 09:42


「リタ、そろそろ片付け始めよっか」
「あれ、もうそんな時間……?やばい!!」

食いかけの餅を置いて、慌てて叫ぶ。「みんな、A組戻ってくるよ!」

「え、うそ!」
「そっか体育だあああ!!」

みんなが一斉に立ち上がったと同時に、廊下が騒がしくなったのが分かった。うそ、もう帰ってきた!?
とりあえず七輪を外に…でもさっきまで炭火が入れられていた七輪は熱くて、運ぼうにも上手く動かせない。おまけに灰も舞うので、余計に一気には動かせない。

外から、叫び声が聞こえてきた。いつものように移動教室帰りのA組にE組が喧嘩をふっかけて、やっぱりけちょんけちょんにされているんだろう。時間稼ぎありがとう、とはいえ持っても1分くらいだけど。たかが1分、されど1分だよ!粘れE組ぃいい!!
期待を込めて扉を少し開けて廊下を除くと、今日に限って30秒も持たなかったようだ……倒れこむE組の生徒と、何事も無かったかのように悠然とこちらに歩いてくるA組の生徒たちが見えた。

「ああああああああああああもうだめだああああああああああああああこっちきてるよううううううううん」
「おおおえちつけえええリタ!!カーテン!カーテン閉めろ……こないだ燃やしたばっかりだったあああああ」

廊下側の壁はほとんどが窓になっているため、教室の中は廊下から丸見えだ。おまけにこないだ今B組がやってる分子干渉の授業をやったところ教室が半焼してカーテンも灰になったため、A組の目を塞ぐ手段が無い。
この惨状がA組に見られたら……私の頭の中を、生徒指導、ペナルティ、退学の文字がぐるぐると駆け回る……


「!そうだ、灰を……灰をA組の目に!」
「だから落ち着けっつってんだろうがあああああああ」

全員半泣き、灰は舞うし七輪は熱いしで阿鼻叫喚の地獄絵図である。中には錯乱して死んだふりを始める奴もいる。
A組の先頭の影が見えた。誰もがもうだめだ、と誰もが諦めた時だ。


「……デリート」

一瞬にして、教室の濁りが消えたのがわかった。

教室内で泣き暴れていた私たちを、A組の生徒達は動物園のゲテモノコーナーを見る目を向けながら歩いていく。でも、それだけだ。
慌てて周りを見ると、置きっぱなしの餅だとか、七輪とかまで消えていた……こ、これはまさか!!

「てぃ、ティーチャァあああああ!!!!」

そうだ!そういえばこの人分子干渉のプロだったあああああ!!!!!!
「解除」と言うだけで元どおり、粒子から七輪やらなんやらが再構築される。
神を見つけた思いで先生を見つめると、呆れたようなため息が帰ってきた。

「お前ら仮にも魔法学校の生徒なんだからよ。魔法でなんとかしようとは思わねえのか」

4:ミルフィーユ:2018/08/06(月) 09:43


「いやぁ、リタってほんとにバカだよね」

学校で炭焼き大会しようと思ったその発想がすごい……いや、一周回って天才のような気がしてきた。なんてボロクソ言ってくるこの男は、私の大切な幼馴染且つ親友の1人だ。

彫刻を思わせる中性的な美しい容姿からは、想像もできない罵詈雑言の数々を受けてきた私だが、それはなんでも言い合える仲である私にだからこそできることだということを私は知っている……というかそう思うようにしている。じゃないとやってけないよね。

「しかも粒子分解と異次元保存とか…結構前に習ったよね?」

言うなり彼が手元にあった本を指でつつく。冊子が空間から消えた。
見事である。かなり難しいと言われた、粒子分解と異次元保存の組み合わせ___通称消失魔法を易々とやってのけてしまう、流石A組様様のなせる技である。

「いやぁ、それがみんな慌てててさ……魔法使えることも忘れてた」
「俺はC組の未来が心配でたまらんよ」

彼が何もない空間を再度指で叩くと、すぐに本が構築される。私がやったら確実にどこか欠けて戻ってくるのだが、彼によって再構築された粒子は1つ残らず完璧に移転されてきていた。

「よくできるなぁ……粒子組成に移ったら私のためにパフェ出してくれたりしない?」
「そうだね、今俺がやったことをリタが校舎使って出来るようになったら良いよ」

にっこり笑って言われた。容赦ねえな。

5:ミルフィーユ:2018/08/06(月) 09:46

『6割の力で人生を』_____これ、私たちC組の基本理念である。
これだけでもうお分りいただけるだろう。私たち、とにかく面倒臭いことが嫌いだ。
苦労して勉強してまでクラスを上がりたいとは思わない…とはいえ、成績が下がってとやかく言われるのも嫌だ。
じゃあさ、そんな人間が集まっているこの学級にとって、再来月に迫る体育祭ってどういうものだと思います?

「リレー走者5人決めまーす。やりたい人ー」
「藤田でいいと思いまーす」
「さんせーい」
「さんせーい」
「はいそれじゃあ民主主義に基づき藤田君を走者に任命致しますう〜」

半泣きで拒否権を求める藤田は気の毒であるが、ここは見て見ぬ振りだ。毎年のことであるが私まで指名されたらたまったもんじゃないからな…どんまい、俊足に生まれたことを悔やむんだね。

体育祭の大トリに行われる学年別クラス対抗リレーは、加算点が多いこともあって大人気の競技だ。今年もその出場権を巡り、各クラスで盛大なジャンケン大会が開催されている。現に両隣のクラスで行われているのだが、よっぽど白熱したものらしく、そんなに気合い入れますかー?ってぐらい大声で「あいこでしョォ!!!」が繰り返されたのち、一拍の間を置いて歓喜と無念の悲鳴が入り混じって届いてくる。ジャンケンあるあるである。

それに対して私たちは……ただでさえ面倒くさがり、おまけに目立つのが嫌いである。リレー?棄権で良いですかね??

とはいえ1人1種目は絶対だ。一番楽なものにありつかねばな、と早速今年の競技種目欄を見てみる。んー、今年もパン食い競争が妥当かなぁ……

「あれ?競技増えてる……?」
「そうよ〜、20人21脚と借り物競走」
「キィエエエエエエエエエエエエエエ」

突如奇声をあげた私に普通ならみんなビックリするところなんだけど、私以外にも何人も同じ反応を示した人間がいるから多分みんな考えてること一緒なんだと思う。やっぱこのクラス好きだわ。

6:ミルフィーユ:2018/08/06(月) 09:47


「2人3脚の大所帯バージョンとかただの一軍パリピ共の友情お確かめイベントじゃん!!!それでSNSで『最初纏まらなくて泣いちゃった時もあったけど、最後はみんなで団結できたね(*^o^*)にのよん最高のクラス』とか書かれるやつでしょ!!!!わかってんだよおおおおおおおおお!!!!!!!」
「見える、見えるぞォ!!『借り物のお題を見たイケメン君に突然掻っ攫われて、ゴールした後にお題を見たら『好きな人』って書かれてる!…じゃ、じゃあタカシ君の好きな人って……!!!』ってなる未来がァアアアアアアアアア!!!!!!アアア!!!!ァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

泣き、叫び、狂いながら僻む。ひたすら僻む。僻みの嵐である。
ただでさえ、ただでさえ紫外線に晒されて肉体的にもダメージが大きいのに!!そこを精神的にも追い詰めてくるってどうなの!?!?どうなのよ生徒会!!!!頭おかしいの!!!!!!??????

「いやあいつらも一軍パリピだからさ……」
「神は死んだ!!!!」

なんと言うことだ。いらぬ競技が増やされてしまったせいで、下手したら2競技に出なくてはならない状況に陥ってしまった……!しかしリレーに出ることと比べて、どちらが嫌かと問われれば断然リレーである。仕方ない、もし2つになってしまった時のためにもう1つ選んでおこうか。

「あ、障害物競走もあるんだ」
「これ地味な上に疲れるから割と人気ないよ〜」
「ま?」

去年出たらしいエリナはバランス感覚が皆無で、勢いよく平均台から転がり落ちたが誰も見ていなくて良かった〜、しかしそれはそれで後から考えれば本当に虚しくなったよ……と語る。……すまんな、多分私その時みんなと校舎でコッペパンしてたわ。

しかし「誰にも見られない」というのはなかなかの利点だ。手を抜いてやっても誰にも怒られないからね。あと、私が第一候補にしているパン食い競争と立て続けってのもツボだ。この2つが終わったらすぐサボりに行ける!
この2競技は午前中にあるので、これが終わったら後は何しても良い。こっそり抜け出してお菓子買いに行ってもよし、保健室で寝ててもよし。一軍パリピは太陽の下で一生懸命応援するらしいが、私たちは生憎そこまで他者愛に満ちていない。自分>クラスメイトという圧倒的クズ不等式が成り立っているからだ。そんなところも好きだけどね。面倒臭くないから。

それにしても今年は何をやろうか。そうだ。せっかく高等部に上がったんだし、念願のお菓子パーティーはどうだろうか。なんなら暇な奴も呼んで、教室でひっそりと行おう。去年のコッペパンは見つかりかけて危なかったからな……ふぅ。

なーんて、取らぬ狸の皮算用してたのかいけなかったか。

「はいリタ話聞いてないね!リレー決定!!」
「はっ?」

7:ミルフィーユ:2018/08/06(月) 09:48

「どうしようどうしようリレーなっちゃったよよよよ」
「リタの話聞かない癖ってどうにかなんないわけ?……どうせ何してサボろうかとか考えてたんでしょ」
「ウッハァどビンゴだよ」

伊達に長年幼馴染やってる訳ではないのだ。流石である。
以心伝心だ、やっぱり心が通じ合っているんだねと伝えると、全く嬉しくなさそうな顔で「全く嬉しくないんだけど」と返された。少しだけ悲しい。

「あーぁ、今年はお菓子パーティーしようと思ってたのに。私一人だけだから寂しいじゃないか……」
「待ってリタ!リレー走者そんなに少ないの?あんた1人で何周すんの?」
「走者5人だから……4周かな」
「バカなの」

バカなの、バカなのC組……なんて言いながら頭を抱える幼馴染を横目に、チョコバーを掴んで口に運ぶ。軽くヤケ食いである。
前回の話で疑問に思った方も少なくはないんじゃないだろうか……クラス対抗リレーで、しかもそんなにも人気競技ならば、なぜ出場人数が5人なんだ……?と。
念のため言っておくが、上限は5人ではない。逆だ。必要な最低人数が5人なのだ。ちなみに最高は20ね。他クラスは20人ギリギリまで入れて残りの競技を掛け持ちするらしいが、私たちはあまりにもリレーの人気が低いため、毎年最低人数が入ったらもう満員なのだ。

「他のところはリレーに命かけてくるからなぁ……今年は特に大恥晒すよ……」
「リタ足おっっっっっそいもんねぇ……」
「なにもそこまで強調しなくても……」

リレーに選ばれなくてホッと一安心していた者共も、殆どが新競技の20人21脚に強制参加と決まって絶望していた。ただでさえ無いC組の指揮が完全消滅した瞬間である。

「いらん仕事すんじゃねぇよぉ〜生徒会〜……」
「ほんとにね〜。まぁ俺なんだけどね〜」
「クソかよ〜」

そういえばそうだ。このスーパーウルトラ優秀幼馴染様は、生徒会にも所属しているのだ。しかも副会長。
会長でも良かったんじゃないの?と思ったのだが、いかんせん人前に出たがらない彼にとっては副会長だって大きすぎるくらいの役割だ。本当は降りるつもりだったそうだが、現会長にしつこくお願いされて渋々この席に腰を下ろしたらしい……しかし自分のサポート役に彼を選ぶとは…なかなか見る目のある会長である。

「提案したのは俺じゃないからさァ、怒んないでよリタ」
「……反対だってできたんじゃないのか」
「俺みたいな陰キャが何言ってもだよ〜う」
「えぇ〜…思うんだがさ、だったら学校でも今みたいに……」

言いかけて、不意に胸の中に芽生えた何かが、私の次の言葉を遮ったのが分かった。

「……ん、いやなんでもない」
「え、なにリタ」

キモいんだけど。気になるから言ってよ。なんて催促してくるけれど、何故だか口にする気にはなれなかった。

……だって、だってもし彼がその気になってしまったら。

『芽生えた何か』には、気づかないでおこうと思った。

8:ミルフィーユ:2019/03/20(水) 23:53


『優勝____いや、3位以内に入れたら!………お前らに焼肉を奢ってやる!!!!』

事の発端は、我らがC組担任・相良氏の余計な…しかしとても魅力的なこの言葉だった。

ーーー

「いいか、俺はムカついたんだ!」

曰く、最近職員室で平凡なこのC組を『個性ナシ』と揶揄る声を聞くようになったと言う。

…まぁ、間違ってはいない。
でも生徒たちは別に気にしてないし、むしろそれを盾に好き放題やってるからなぁ…なんて口には出さなかったが。極力聞き流すようにしていたらしい。

……なんとなーく思い当たる節があって、隣の席をちょんちょんと叩く。こっちを向いたアンドリューも、面倒臭そうな顔をしていた。

「……シェパのことだよね」
「多分、てか絶対そうだな」

アンドリューが溜息をつく。やっぱりなぁ…相良は口には出さなかったが、私たちはなにかとC組を目の敵にしているその教師を知っている。

コージス・シェパード、通称シェパは、D組担任兼物理科魔術を担当している。この小説で初めてフルネームが出た人間でもある。前述した通り私たちC組を嫌うD組の筆頭みたいなやつで、事あるごとにC組にケチつけてくる。D組のC組嫌いに収集がつかないのは、彼が率先してC組いびりを行なっているからだ。

がーがー怒りを発散させる相良の話をまとめると、

・昨日職員室で体育祭の出場名簿を教頭に提出しに行ったところに颯爽とシェパが現れ、例のごとくC組の怠慢さにケチをつけ始めた。
・いつものことだとスルーしようとしたらら、あろうことか教頭が受理の判子を押そうとした書類がリレーのもので、あまりの出場人数の少なさに驚いた教頭にまでお叱りを受けてしまった。
・やっと解放されたところでシェパが一言

「来賓の前で恥を晒さないでくださいね?」

「はああああ〜〜???馬鹿にしてんのか〜〜〜????」
「してるだろうね……」
「マジ腹立つあのしたり顔……俺らのこと簡単に捻り潰せるクソザコだと思ってないか〜〜???」
「思ってるだろうね……」
「別にね?お前らのことどうこう言われても気にしないよ?だって事実だし!!でもそれで上の人間に叱られて、格下のやつに馬鹿にされることがどれだけ恥ずかしいか!!惨めなことか!!!」
「クズじゃん……」

温度差が。温度差が激しい。
何度も言うけどマジでこの手の嫌味や皮肉は言われ慣れている。言われすぎて最近はシェパ語で「こんにちは」って意味なんだろうなって考えてる。だから私たちは気にしないし相良も普段はスルーなんだけど……

「まあ今回ばっかりは……私だってそんな場面に合ったら退学覚悟でシェパの首狩りに行くわ……」
「ドチャクソ物騒やん……」

しかも退学どころじゃないんだなぁ……

「みんな静かに」

委員長の泰藺の言葉ですっと騒がしさは止み、みんなの視線が彼女に向く。
ほんと、こう言う時だけ結束力が高い。まあそういうところが好きなんだけど。

「取り敢えずみんなの中での方針は決まったね?」

泰藺の言葉に一人一人がコクコクと頷く。早よ言えって感じだ。
あえて勿体ぶって、泰藺は満足げに頷いた。

「それじゃ先生………予約は紫苑亭でお願いします」
「バカ高いやん……一撃ヒートにしてくんない?」

そんなわけで私たち1年C組、体育祭に向けて一致団結頑張ります❤

「てな訳で得点源のリレー達今日から特訓な」
「ふぇぇ……」

予想はしてたけど白羽の矢が立ったのは私たちだったよねって……


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