一つ、小さな影が素早く森を駆け抜けた。
纏った布を揺らし、小さな相棒を連れ、いつもの場所へ向けて足を動かす。
木々の隙間を、大きな雑草を掻き分け、ぼんやりと見える光を目指し、その人影は走っていたはずだった。しっかりと、光から目を離さず。
____ ふと、視界が切り替わる感覚に瞳を揺らす少女は、自慢の黒髪に触れた。変わらない。いつも通りの黒髪と、目の前に入るのは
いつも通りの、教室の扉だ。
・感想とか書いてくれるとモチベ上がります
最高
3:百合◆xs:2018/08/10(金) 20:31
教室の扉を開き、少女は誰もいない部屋に足を踏み入れる。
確か、昨日も一昨日も、一番乗りでこの教室に入った。
そして、昨日も一昨日も、一番最後に教室を出た。
それをずっと前から繰り返している気がする。
自分の席にそっと近づき、荷物を置いて何時もの様にベランダに足を運ぶ。
扉を開いて上を見上げれば又去年と同じ空が広がる。
去年と似た蝉の声。
全部繰り返した着た夏と似ている。
空は青く輝いているはずなのに、気分が明るくならないのは何故だろう。
あの頃と空は同じ色でみんなあの頃より少し成長しただけで楽しそうなのに。
私の時は止まったままな気がする。
『 いっそ逃げてしまえ 』
甘い考えでしかないそれは甘い私の心を動かす。
一番乗りで教室について一番乗りで教室を飛び出す。
もともと頑張るのは好きではない。
もともと好きなものにしか努力ができないのが私だ。
好きなものがないなら努力をする価値がない。
そう決めつけて、今までの努力を捨てて逃げ出した。
今が嫌いだったからだ。過去ばかりを見つめているから。
時は止まったまま、動くことなく、停滞を続ける。
呟いた悲観的な言葉は、私にしか届かなかった
あたしに、届いた。
何か物音がして、薄っすらの目を開く。
記憶の中ではずっと走っていた。
帰路を。何度も繰り返した道を。
…いつの間に寝たんだろう。
記憶がない。
痛む頭に片手を添えながらゆっくりと硬いベッドから起き上がる。
白いベッド、保健室にある様なやつだ。
「 でも、帰っていたはずなのに… 」
そう呟きながら辺りを見渡せば其処が普通ではないことがわかる。
木の壁、窓の外は草原と続く森。家じゃない。
急に様々な感情が押し寄せてくる。
多分、本屋アニメである異世界、というのが此処のことだろう。
“ …帰りたい ”
それが一番最初に思い浮かんだ願望だった。
停滞していようと、過去しか見れなかろうとあの世界には大切な人だっていた。
「 …消えたい 」
布団を巻き込んで膝を抱きしめる。
孤独感が否めなかった。振り切れなかった。
絶望しか、なかった
クオリティ高いですね
6:百合◆xs:2018/08/10(金) 23:11 >>5
ありがとうございます
楽しみにしてます!
8:百合◆xs:2018/08/11(土) 14:20
涙をこらえ、膝に顔を埋めていると、ふと、誰かに肩を叩かれて顔を上げる。
「 __Y.どうしたの? 起きたと思えば膝抱えて 」
そう言いながら私に向かって首をかしげるのは、妖精の羽らしきものを生やし、パタパタ途中を飛ぶ小さい猫。
その猫が目の前に来たのにハッとして、慌ててベッドの上に座りなおす。
「 あ、なた…は? 」
震える手を伸ばし、相手を指差してそう問えば、普通の猫のように毛繕いする姿を見せてんー、と伸びをした後こちらへ向き直し、
「 Y.君、頭壊れちゃった? 」
「 は? 」
唐突に心に刺さることを言われ、素で返答すると、猫は愉快に笑って早々、と小さく呟く。
「 その返しが何時もの君だね、何か起きたと思って心配しちゃったよ 」
その何気ない一言と、今までの会話に何か引っかかりを感じて、猫に視線を向ける。
猫は、自然に気づくなり体制を変えて、次の発言を待つように私を見つめる。
私は、恐る恐る口を開いて、猫に問いかける。
「 Yって、貴方が指す “ 君 ” って____誰のこと? 」
そう、私の問いを聞くと、猫は何も答えず表情も変えずその場に固まる。
凡そ数秒で気まずい雰囲気が流れ始め、猫は空気を読んだように咳払いをした。
「 ごめ、どう言うことかわからないんだけど 」
猫は困ったような表情を浮かべ、私に近づけばまじまじと姿を見つめて続ける。
「 容姿も別に変わったところはないし、性格も____ まぁYにしたらおとなしいくらいで… 」
猫曰く、私と “ Y ” と言う名の少女には余り性格的違いがないらしく、信じきれてないことを実感させるような視線で私を見つめた。
「 まぁ、もっと緊張が解けたのが Y って感じかな 」
…肉体。
ふと、この身体が少女の物だと思い出して髪に目を向ける。
私は確かに黒髪…だった。はず、なのに、
「 …な、んで 」
瞳に入った金色の髪は、確かにその身体が “ Y ” と言う少女の物だと突きつけられる、十分な証拠だった。
知らなかった、トリップする恐ろしさを。
グッと唇をかみしめて、猫を見つめれば、猫は少し息を整えてから、わかったよ、と零す。
「 君の言うことを信じ、他の人にはこのことは黙っておこう。…だから、君もバレないように気を付けて。ある程度は僕が教える 」
猫の真剣なその瞳を見つめてゆっくりと頷けば、猫は安堵のため息をこぼしつつ私に “ Y ” と言う少女のことについて、語り始めた____
猫が言うことが正しければ、私の素と Yと言う少女の性格は似ているらしい。
「 一人称、性格、気をつけてね 」
猫の注意にコクコクと頷きながら出された衣装を見に纏い、立ち上がる。
「 うわ、かる 」
Yの身体はそう言葉がこぼれるほど軽々しかった。
「 嗚呼、その子の身体は風の加護を受けているからね 」
「 …ふぅん、凄い子なんだ? 」
そう言いながら猫に視線を向ければまぁね、と小さく呟きながら私に後をついてくるように仕草を見せる。
後に続きながら外に出れば辺りは緑色が覆い尽くしていた。
天才じゃん