ラズの冒険記

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1:Rika◆ck:2018/09/01(土) 16:10

 暖かい春風が吹き、周りは村人の笑い声に包まれている。怒声は一切聞こえてこないし、事件らしい事件も全く起きない。それがあたしの住むアラダ村。一言で表すなら、“超平和”だ。……こんなの、こんなのさ……

「つまんない!」

 天井に向かって、一人そう叫ぶ。

 変化のない毎日。平和な方がいいって大人は言うけど、それじゃ面白みの欠片も無い。あたしはつまんないのは嫌い。ここまでつまんないと、人生何もしないで過ごしている気分。現に今も、何も無さすぎてベッドの上でぼーっとしてるだけだし。……いっそのことさ、

「抜け出してみたり、なんて」

 つまんないものに囚われる人生、無駄すぎて笑えてくる。……いいよね、あたしの人生なんだもん。人様に迷惑かけないなら、自分の生き方くらいは好きにしてもいいよね。

 抜け出してから一瞬で死んじゃうのもアリ、めんどくさい事に巻き込まれたりするのもアリ、誰かに捕まって牢屋に入れられるのもアリ。とにかく、変化が欲しい。……そう思ったら、早速行動に移さないと。

 カーテンを開けて、それから窓も開けた。荷物? そんなの要らない。ノープランの方が楽しいし。さ、窓から身を乗り出して……ゴーアウト!

「―――グッドバイ、アラダ村」

2:Rika◆ck:2018/09/02(日) 06:02

「……さすがに、手ぶらはキツいね」

 まさか、森に迷い込むとは思ってもいなかった。いつの間にか周りは暗くなっていて、何も見えない。お腹はすいたし、喉もかわいた。水は湧き水があるからどうにかなるとして、食料。あと寝床。あ、替えの服も欲しかったかも。

「ま、こういうのもアリかな」

 色々とハードモードだけど、家でダラダラしてた時よりは刺激があって楽しいかな、うん。もしこのまま餓死したりしても、それはそれでいいんじゃない?

 そんなことを思いながら、あたしはひたすら前に進む。力尽きるまで、進むつもり。もしかしたらここから抜け出せるかもしれないし、あるいは何か面白いことがあるかもしれない。

「……あ」

 あたしは、目の前が少しだけ明るくなっていることに気付く。それから、前を進めば進むほど明るくなって、暫く歩いた時にそれは光だと確信した。……ということは。

「この先に、何かあるかも?」

 気がつけばそう確信していて、その“何か”を見つけるために、あたしは動かなくなってきた足を引っ張りながら、まだまだ前進していく……。

3:Rika◆ck:2018/09/03(月) 21:01

「うっわ……」

 もう本当に近いみたいで、思わずそんな声を漏らしてしまうほどの眩しい光だった。服も破けてきたしお腹はすいたし足は痛い。前言撤回、こんなのちっともアリじゃない。

「今更戻れないよねー……」

 それでも、仕方ないので進む。今がどんな状態でも別に構わない。何も行動を起こさずにじっとしているよりは、マシになる……はず。

 そんなことを考えている時だった。

「……えっ?」

―――突然、辺りが明るくなったのだ。

 夜明け……なわけない。本当に突然だったから。しかも空だけは真っ暗で、余計に不気味に感じてしまう。あたしは、何がどうなってるのか分からなくて、その場に突っ立っているだけだった。

 その時。さっきまで光の見えてた方向から、ガサゴソと音が聞こえてくる。音はどんどん大きくなってきて、耳をすませば呼吸音も聞こえてきた。……誰か、来るね。

「あ、やっぱり人いたんだ」

 近づいてきていた人物は、ようやくあたしの目の前に姿を見せて、そう言った。その人物は……あたしと同い年くらいの、奇妙な格好をした少年だった。

4:Rika◆ck:2018/09/06(木) 17:57

「……誰?」

 真顔でこちらを見つめてくる少年に尋ねる。こんなに見られるの、あんまり気分良くないし。

「ん? ああ、俺はメナー。落ちぶれ勇者ってところさ」

 少年もといメナーは、寂しそうに笑いながらそう答えた。
 落ちぶれ勇者の話なら聞いた事ある。ラクア王国の現勇者がそう呼ばれてるらしい。……ということは、メナーは……

「え、ラクア王国の……」

「その通りでございます」

 真相を確かめるために尋ねようとすると、彼は恥ずかしそうな顔をしながら遮ってきた。これは相当自分でも情けないと思っているんだろう、なんて失礼なことを考えてみる。

「……そういう君の名前は?」

 あたしの思考が顔に出てしまっていたのだろう。彼が話を逸らすようにしてあたしの名前を尋ねてきたので、あたしは素直に「ラズだよー」と名乗った。

「ラズ、ね。オッケー。服ボロボロだけど何してんの? あと今夜中だし」

「つまんない世界から逃げたの。今は人生ハードモード……なんちゃって」

 メナーの質問に笑いながら答えると、彼は呆れたような表情をしてため息をついた。……「やれやれ」というポーズ付きで。そのしぐさがわざとらしくて若干イラッとしたのは内緒。

「とりあえず……」

「ん?」

 彼の小さな呟きにあたしは聞き返す。彼はあたしの顔を少し見たあと、背負っていたバックのチャックを開けて中を漁りだした。

「はい、上着。宿までこれで我慢して」

 ……え、宿?

「どうせ行く宛も無いんだろ。手伝ってくれない?」

 あたしの動揺を察したのか、彼はリュックを背負い直しながら言う。……えーと、めんどくさい事になっちゃったね。まあ面白そうだし別にいいんだけど。

「じゃ、こっち」

「あ、待って」

 歩きだそうとするメナーを引き留める。まだ聞いてなかったことがあったのだ。

「ね、あの光なんだったの? メナーが来たところから出てたけど」

「光……ああ、あれは導きの呪文。近くにいる人間を唱えた本人の元に導く」

 メナーはあたしの言葉に対し、一瞬不思議そうな表情をしていたけど、すぐに思い出したようにして答えた。……導く、ね。もしかして……


 あの時無意識に光を追ってたのも、あたしが呪文に操られてたから?


 詳しく聞いてみたかったけど、敢えて聞かないことにした。答えを知らない方が面白そうだしね。

「……ま、そういうことさ。じゃ、行こうか」

「うん。楽しませてねー」

 あたしのふざけた言葉に、彼はまたため息をつく。……こうして、あたし達は森の中から出るために、動き出した。

5:Rika◆ck:2018/09/09(日) 17:15

「はぁ……はぁ……着いた?」

「ん。夜明け前で良かったな」

 それから、どれくらいだろう……体感時間的に1時間は歩いたような気がする。とにかく、結構な時間をかけてあたしとメナーは森から出た。
 そして辿り着いたのが、『ネロ城下町』。人の少なかったアラダ村とは違って人が多く、この時間でも何人か人が彷徨いていたのが印象的だった。

「とりあえず、宿入ろうぜ。服は宿主がくれるはずだし」

「うん」

 わざわざ名前も知らない人に服くれるなんて優しい宿主さんだねー。
 あたしはそう思いつつメナーの後ろをついていく。アラダ村は結構そういうとこ警戒してたから、旅人とか追い返してたんだよね。

 そうして少しの間歩いていると、あるオシャレな雰囲気の建物の前でメナーが立ち止まった。建物の入口の前に置いてある看板を見てみると、『アスミの宿』と書いてある。

「……よっと」

 メナーが重たそうな扉を開けて中に入るので、あたしも彼について行く。……大丈夫なのかな、こういうの。ほら、もうこんな時間だし、宿主さんも寝てるんじゃないの?
 あたしが困惑しているのにも構わず、メナーはどんどん先に進む。

「……」

 すると、彼は受け付けらしき場所で立ち止まり、天井から下げられたベルを鳴らした。奥の方から、ガタガタと音が聞こえてくる。

「―――いらっしゃい。こんな夜遅くに、珍しいね」

 ……どうやら、あたしの心配は杞憂に終わったみたい。、


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