「痛い、痛い、痛い、痛い....」
血反吐を吐き俺は倒れていた。
体には幾度となく刃物で刺された様な跡が残っている。
なんだこれ...痛い。
初めてだ。死に際に追いやる様な傷を作られたのは
許さない。お前ら全員殺してやる。
絶対に殺してやる....
その瞬間俺は意識を失った
遡ること3ヶ月前
俺はベルナルド王国国王であるベル ベルナルドの命によって魔王サタン討伐に向かうことになった
魔王サタンとはこの世界に1年ほど前に異界の地、ゲルナ(魔界)から突如現れた魔族の王の総称だ。
人間界に攻めて来た魔王は瞬く間に人間界を支配していった。
今や魔王サタンの支配下に下った国は大国、小国を含め合わせて5ヶ国に及んだ。
魔王の支配により人々は狂ってしまっていた
盗みを侵す者、殺人を侵す者、自ら命を絶つ者、この世はもはや無法地帯と化した。
そんな中ベルナルド王国国王ベル ベルナルドが秩序を保つ為[勇者]という人類の希望の象徴を自ら作り上げた。
それが俺だ
俺は王国内にある国王軍精鋭組織
聖十字騎士団の団長をやっていた
そんな俺に勇者という役職が回って来たのだ。
王に使える者からすれば王からの命令は絶対だ。従う他なかった。
聖十字騎士団は神に使われし組織と言われていた為その事から人々は皆俺を疑わなかった。
その後国王の勇者という希望に縋らせて秩序を保たせようという考えがうまく収まり勇者という存在のおかげで秩序は徐々にだが保たれつつある。
だが言っておく
[[俺は勇者であっても勇者ではない。]]
何故か?理由は簡単だ
俺は人為的に国王から選ばれた勇者、
神からの加護等何もない。
これが俺が勇者であっても勇者ではない答えだ
国王ははなから魔王を討伐する気などない。
民衆の暴動を抑え込む為だけに勇者を誕生させたのだ
街を歩けば人々は勇者に縋り付く、希望の眼差しで俺を見る。
勇者という存在に安堵する。
本当に嫌になる
勇者になって3日後の事だ国王の命令が俺に下った
「勇者シオンよ お主にこれより魔王討伐に向かってもらう」
魔王討伐?馬鹿げている。
俺は仮の勇者だ。魔王を討伐できるほどの力は持っていない。
だが、何故王がそんなことを言ったのかは大体察しがつく
国民の圧力だ。
勇者の仕事は魔王を倒すこと
一刻も早く魔王を倒して平和な世界にしてくれと国民が一丸となって言って来たのだろう。
「分かりました。必ずや魔王を討伐して参ります。」
魔王を討伐できるなど思っていない
それだけ魔族と人間の力の差は圧倒的だ。
たった一年ほどで5カ国もの国を支配した魔王相手に俺1人が太刀打ちできるはずがない。
魔王討伐に行けってことは要するに俺に死にに行ってこいと言ってるも同然だ
だが仕方ない。王の命令は絶対だ。
俺はすぐさま国を出た
魔王は王国より東に1000キロほど離れた広野に魔王城なる拠点を作り居座っている。
俺が今から向かうのはそこだ
それから俺は幾度となく歩いた
雨の日も風の日も雷が鳴る日だって歩いた
そして1ヶ月と7日目にして俺はようやく魔王城に到着した
「ここが魔王城か でかいな」
デカさ的には王国の城を軽々と超えている。
その圧倒的佇まいに対して俺は萎縮する
だが、来てしまった以上やるしかない
俺ならできる俺ならできる。やれる。やれる。
何度も自分の心に言い聞かせ、魔王城内へと潜入した。
魔王城内はただひたすらに一本道があるのみだった。
俺は先に進んだしばらく歩いた後魔物らしき存在に出くわす。
「お前が勇者か 魔王様がお待ちだこい」
魔物は俺を襲ったり攻撃して来たりする訳ではなかった
俺は魔物に案内され1つの部屋に入る。
そうそこは魔王の部屋だった。
「魔王様連れてまいりました。
こいつが勇者です。」
魔物は片膝をつき右手を胸の位置に当て忠誠の姿勢を見せていた。
その魔物が向ける視線の先に奴がいた。
真っ黒な鎧に身を包み玉座に座る
その魔王からはものすごくドス黒い不のオーラを感じる。
「ルシフェロご苦労 下がれ」
魔王の言葉と共に魔物は部屋を離れた。
よく見ると魔王の右横に1人の女の姿をした魔族がいた
これが俗にいう魔王の側近格の魔族だろう。
「さて、勇者よ 我と勝負をしよう」
魔王はニヤリと不気味に微笑みながら俺に話しかけてくる。
「貴様が勝てば我は人間界から手を引こう しかし我が勝てば人間界は即刻滅ぼさせてもらう」
魔王は恐らく勝利を確信している。
いくら勇者という称号があろうと魔王からすれば勇者はただの人間に過ぎない。
だが、その魔王の油断に俺が勝つ勝機が限りなく薄いがある。
「いいだろう魔王。勝負だ」
迷う意味などない
ここでやらなきゃやられる。
俺は魔王の提案を受け入れ勝負をすることになる。
「行くぞ勇者よ ダークバレット」
玉座に座り続けたまま片手を俺に向け攻撃をしてくる
魔王の手から複数の黒い弾丸が撃たれる
俺はその弾丸を剣で弾き飛ばす
弾き飛ばした後突っ込もうと魔王の方を見る。
だが、そこに奴は居なかった
「グハッ!」
魔王は俺の影から目の前に突如現れた
魔王は渾身の右フックを俺の腹に打ち上げる。
俺の体がへの字に曲がり天井を突き破る。
これはまずい。内臓を潰された。
すると今度は魔王が打ち上げられた俺の上にいた。
魔王は再び向かってくる俺に対して構える
「つまらん、興ざめだ偽りの勇者よ」
魔王が腕を振りかぶる
瞬時に魔法陣らしきが列をなして魔王の腕から伸ばされる
魔王が俺に目掛け腕を振り下ろした
「ごふっ!」
ボキボキボキと骨が折れたような音がした。
魔王の一撃に俺は地上に猛スピードで叩きつけられる
魔王は気づいていた俺が本当の勇者ではないことを
「終いだな偽りの勇者よ 人間界は我がもらうぞ」
魔王は俺の顔を見らず玉座の方向に歩いて行っている。
だが、俺はこの瞬間を待っていたのだ
魔王の油断、人間という下等生物に対する絶対的勝利を確信していた魔王
それこそが最大の弱点。
俺はボロボロの体に身体能力上昇の魔法をかけ無理やり体を動かす。
これで終わらせる。俺の全魔力を注いだ一撃を食らわせてやる。
俺は走る魔王目掛けて、突っ走る。
だが、ふと視界に入った者がいた
魔王の側近だ
側近は俺と目が合っているだが俺の攻撃を魔王に教えようとはしていない。
何故だか分からなかったがこれはチャンス
これで終わらせる。
「終わりだ魔王!」
俺は後ろから魔王の心臓目掛け最大火力の突きを食らわせる。
俺の攻撃に気づかなかった魔王は呆気なく俺の剣で心臓を貫かれた。
「なんだと、キサマ...ゴホッ」
魔王は血反吐を吐きながら倒れこむ。
「倒した、やった、やった!!魔王を倒したぞ!!」
俺は1人で歓喜した。
人類が未だ成したことがない大偉業を俺はやってのけたのだ
だが、忘れてはいけない
あと1人倒さなければならない相手がいることを
「そうだ、お前も倒さないとな」
正直言って俺の体はもう限界だ
だが、ボロボロの体にムチを打ち側近に向かって構える。
こいつをやれば本当に終わる。
意を決して突っ込もうとしたその時
側近らしき魔族は俺に口を開いた
「この勝負はあなたの勝ちです。私達は負けました人間界から手を引きます。」
魔王の側近らしき魔族はそう言い残し姿を消した
絶対なる最強の王の死は軍の統率を不可能とさせるそのため引いたのだろう。
何はともあれ戦わずして勝ててよかった
もう一戦交える余力はもはや既に俺にはない。
俺は緊張がほぐれたのかその場に倒れた
これで終わりだ やっと終わった
「俺が魔王を倒したんだ。」
まだ腕に魔王を刺した時の感触が残ってる
これで人間界はようやく平和になれる。
魔王を討ったその後俺はベルナルド王国へ帰還する
傷ついた体は今まさに悲鳴を上げている。
「王国に戻って国王に報告したら治療だな。」
その後俺は転移魔法を使いベルナルド王国に無事帰還することができた。