中二病の先輩と現実主義者の後輩がいちゃつくだけのたいして面白くもない小説っぽいなにか
▷超不定期更新
▷板もとい葉っぱに違反する行為は通報
▷なんかてきとう
▷オムニバス方式
▷アドバイス感想くれたら嬉しいです
▽キャラ紹介▽
▷後輩
高校二年生。学級委員長を務める優等生で、頭脳明晰な現実主義者。
セミロングの髪を下の方で二つ結びにしている。
先輩が気になるが相手は自分のことなんて眼中にないと思っている。
▷先輩
高校三年生。高3にもなって中二病真っ盛りのやべーやつだが、器用でなんでも卒なくこなすので他の学生達からはある種の尊敬を集めている。
後輩が好きなので告白や少女漫画の真似事を積極的にやってるが全部ガチスルー。かなしい。
『異世界の旅人』
「...なあ後輩」
「なんですか、先輩」
「僕は、異世界の旅人なのだ」
夕陽に照らされて、昼とは異なる様相を呈す教室に、男女二人の影が落ちている。
西の空を染める黄昏の光が窓から射し込むのを傍目に、私と先輩は二人きりで帰り支度をしていた。
運動場から響く運動部の掛け声や、音楽室から反響した吹奏楽部の合奏の音色が、こじんまりとした教室の静寂を乱している。
私は目を細めた。
もちろんこの表情は先輩への呆れみからくるものであり、それ以外の何物でもない。
むしろ他の要因が思いつかない。
「あれ、なにやら不満気だね?」
「いや...先輩....唐突に何を言いだすかと思えば...」
先輩は、邪眼系中二病がメディアで専ら痛い奴の代名詞として取り上げられ世間一般にも周知されて久しい現代、時代錯誤も甚だしい絶滅危惧種の純・邪眼系中二病患者である。
それこそ、その言動は中二病当事者たる中学二年生も裸足で逃げ出す代物で、自らを中世欧羅巴を股にかけた謎多き貴人・サン=ジェルマン伯爵だと吹聴したり、やたら難解な言葉を並べた理解に苦しむような詩を呼吸の如く撒き散らしたり、日頃からその中二病的膂力を磨き上げることに余念がない。
「先輩、事実無根という言葉をご存知です?」
「失礼だなあ...知っているさ」
「先ほどの先輩の発言はこれに当てはまります」
頬杖をついてむすっと先輩を見据える私に、先輩は切り返す。
「いいや、もちろんこの発言は事実に則ってのことさ。
キミは知っているかい、とある哲学書の眼は異世界の窓であるという一節を」
「は、はぁ....」
先輩特有の不可思議中二病ワールドに当惑の念を募らせて唸る私に、先輩は濡れ烏色の髪を揺らし、その整った顔立ちに不敵な笑みを浮かべた。
認めるのは悔しいものの、先輩は眉目秀麗である。それこそ先輩が先輩たる所以であり、彼が纏う胡散臭くもミステリアスなオーラの源泉だ。こんな箇所にまで顔面偏差値の影響が及ぶとは、世の中は不公平なものである。
「....毎回言ってますが、先輩がそうおっしゃるのであれば明確な証拠をご提示くださいよ」
「ふふん、証拠がほしいの?」
眉間に皺を寄せて不満気に喋る私に、先輩がニヤリと口角を上げた。
束の間。
唐突に、私の頬に大きな手が触れた。にわかに訪れたひんやりとした感触に驚く。それは先輩の手であった。
そして、あろうことか、先輩は蛇に睨まれた蛙の如く硬直した私に、身を乗り出して顔を近づけてきた。
先輩と私の顔が、おでこが当たりそうなほどに接近する。
人間の脳というものは複雑怪奇であるが故に、想定外の出来事に対し咄嗟に情報を処理できず、固まることがままある。
私もその例に漏れず、私の思考は停止状態に陥っていた。結果、いつもの回避行動が取れず、私は先輩の瞳に映る自分の惚けたような表情を見続ける羽目になってしまった。
....私が先輩を突き飛ばしてしまうのも無理はないというものである。
「ギャー!!なな、何をするのです!先輩のヘンタイ!」
「えー...ヘンタイとは失礼な」
「い、いきなり、き、きす、なんて....」
「.....ん?フフフ、キスじゃないぞ?君に実演したまでさ。つまり、僕は君の世界を覗いたんだ」
「は、はあ?」
先輩は目を細め、私の反応に口を覆い隠してケラケラと笑った。顔が赤くなるほど面白いらしい。当の私も、勘違いの恥ずかしさと、いきなり根無し草理論で軽率な行動を取る先輩への怒りを逸らすように、先輩を視界から外す。
運動場で走り込みをしていたサッカー部が、いそいそと後片付けを始めるのが窓越しに見えた。
「....君自身は堅苦しい真面目ちゃんなのに、君の世界は随分と桃色なんだねえ」
「な、何ですかそれ!...大体私の世界とか意味わかりませんし...」
先輩の言う桃色がなにを指すのか要領を得ず、私は明確な反論も出せず口ごもる。
「...先輩、突き飛ばしたことと先程の勘違いは謝ります。ですが、まさか女の子にみんなこんな事やってるんじゃ」
「あはは、僕はそこまで破廉恥漢じゃないぞ。」
先輩が、再び私をまっすぐ見据えた。
「こんなこと、特別に思っている子にしかやらないよ」
軽率に口走る先輩の声色は日頃より散見される通り歌うように軽やかで、真剣味のカケラも見当たらない。先輩があまりに恥ずかしげも無く言うものだから、私が二倍の恥ずかしさを背負わねばならないのが癪に触って、私は溜息を漏らした。
先輩の真意は分かりかねるが、一連の言動がどうせ私をからかってのことであるのは先刻ご承知である。
腹の底に沸々と湧く寂しさを押し潰しつつ、私は言った。
「...先輩、閑話休題です。もう、帰りましょうか」
黄昏時が終わりを告げ、地平線に沈む太陽が空を紅に満たしている。天頂には仄かに夜の色が滲み、一番星の金星が輝いていた。夜の帳が降りて、満天の星空が私達の街を覆うのも近いだろう。
先輩が本当に異世界の旅人であるならば、私の世界を旅できるのであれば、私はここまで苦悩することもない筈だ。つくづく突飛なお話である。
視界の端に映る先輩は、何故だか俯いている。
私は先輩の手を取った。
文句なしの名文です。応援しています。
6:羊◆.o:2018/12/30(日) 21:39 『恋慕の吸血鬼』
「フフフ....僕をそんなに熱い眼差しで見つめて...どうしたんだい、僕の天使ちゃん☆」
「そのむず痒くなる物言いやめてくれませんか....先輩は受験生なんですからもっと真面目に勉強して下さい」
勉強会の真っ只中、先輩は勉強に飽きて私をからかうことにしたらしい。
先輩の歯の浮くような中二病発言、主に“僕の”周辺に、苛つきながらも胸が締め付けられるような感覚に陥って、私は羞恥心と自分に対しての罪悪感に苛まれつつため息をついた。
昼下がり、天高く浮かぶ入道雲に夏の気配を感じて寂寥の念に駆られる。
私は座ったまま数個のぬいぐるみが置かれた寝台に背中を預けて、時計の短針が二時を指しているのを確認した。
何故ベットがあるか、それはここが私の部屋であるから他ならない。先輩と私の家は近隣に位置しており、気軽にお互いの家を行き来できる私達にとって、休日にこうして二人で勉強会を開くのが私達の通例と化していた。
二人で勉強会を開くまでの顛末を語るとすればそれは四年以上前にまで遡らねばならない。
頬杖をついてボンヤリと私を眺めていた先輩とふと目が合った。先輩は黙然と私から目を逸らし、自らの背後の本棚を漁り始める。
一瞬ヒヤリとしたが、あの日記は机の引き出しにあったのだった。それを思い出して、私は先輩を柔らかい口調で咎めた。
「もー先輩、私の本棚勝手に漁らないで下さいよ」
「え〜ほら、勉強飽きたしさ」
「ついさっきお昼休憩したばかりじゃないですか...」
やる気無さげに欠伸をする先輩に英語の教科書を押し付け、自分も席に座りなおす。先輩は意地でも勉強したくないのか、英語の教科書を鬱陶しそうに机の隅にどかした。
「フッ...僕は吸血鬼だからね...最近日照時間も増えて勉強する体力を持っていかれて難儀しているのさ」
「いや先輩....この前は別世界の旅人だのなんだの言ってませんでしたか?せめて設定を統一して頂きたいですよ」
「ふふん....僕は異世界を旅できる吸血鬼のサン=ジェルマン伯爵なんだよ」
「なんかもう混ざりすぎてめちゃくちゃじゃないですか」
こじつけも甚だしい先輩の戯言に呆れつつ、私は席を立つ。きょとんとする先輩に「飲み物を持ってきます、吸血鬼さんの為にカーテンは閉めておきますから」と言い、それから私は繊細なレースの意匠が施された純白のカーテンを手に取った。
視界に映った窓の外の若草色の葉をつけた街路樹が、さわさわと音を立てて揺れていた。
気まぐれに、肌に心地よい初夏の一陣の風が部屋を吹き抜け、カーテンの裾が突風に揺られて舞い上がる。それは、初夏の日光を反射してにわかに煌めいた。
「....もう初夏ですね」
「うむ、初夏の君もかわいいねえ」
「かっ.....先輩、からかうのはやめて下さいってば」
私は、先輩の唐突な気障な発言を受け流しつつ、閉めたカーテンを手放し、仄暗くなった部屋に明かりをつけた。
初夏の風で思い出すのは、先輩と初めて話した中学のあの夏の日のことだ。先輩は当時と何一つ変わらず中二病真っ盛りで、心の底に仕舞われてたまに顔を見せる優しさもあの時のままだ。
あの時握られた手の感触を思い出しながら、私はドアノブに手の平を置いた。
___その時、私はいつも掛けている机の引き出しの鍵を、つけ忘れていることを失念していた。
>>5
そんなこと言われたのは初めてです..!!
ありがとうございます!
>>7
ただ、小説としては直しておいた方がいい部分があります。
・☆などの記号は使わないこと(例外あり)
・心情表現の際は_(アンダーバー)ではなくー(ハイフン)を偶数個使うこと
・三点リーダは偶数個使うこと
・感嘆符や疑問符の後ろは一マス開けること
ここらを押さえておいたら小説としても充分なものとなるでしょう
>>8
なるほど..そういった小説の書き方に関する知識には疎かったのでご指摘助かります!ありがたく参考にさせていただきます..!
ーーーーガシャン!
ことの発端は、先輩が私の日記を読んでいた。それだけのことである。
驚いた拍子に持っていたお盆を落とした、と気づくには時既に遅し、ガラスコップの割れる派手な音がけたたましく耳を貫いた。
「あっ、あ....いたっ」
状況処理が追いつかず条件反射でガラス片を片付けようと試みて、指先に鈍い痛みが走る。ガラス片で指を切ってしまったらしく、中指にできた切れ目からぷっくりと血液がのぞいた。
私が怒ると思ってでも思っていたのか、先輩は激しく動揺する私に目を丸くした。
妥当な反応である。
私自身でさえ、自分の動揺ぶりを飲み込めずにいた。当人が席を外している間に勝手に他人の、しかも異性の部屋を漁る先輩の非常識さに対する怒りよりも羞恥心が優っていたことが、私の動揺に一層拍車をかけて、私はその場で停止してしまった。
口もとをきゅっと結んだ先輩が、散らばるガラス片には目もくれず私に歩み寄る。
「....先輩? 」
「ちょっと失礼」
先輩は言うや否や、私の手を握り、指先に滲んだ血を舐めとった。
先輩の温度を持った柔らかい舌の感触に、背筋をくすぐったいものが通り過ぎ、自分の体温が上昇するのが手に取るように分かる。もっとも、今の私は手を取られているが。
「せ、せんぱ....」
先輩は、他の女の子にもこんな事をしているのだろうか。先輩ならやりかねない。ふと浮かんだその考えに危うく落涙しそうになって、私は先輩の肩を緩やかに押した。
「....先輩、なにするんです」
「....ふふふ、僕吸血鬼だし? 」
微笑む先輩は悔しいほどにいつも通りだった。私の傷口に細かなガラス片が残留せぬようそうしてくれたのを、私は知っている。
「先輩、あ、ありがとうございます....洗面所は一階にあります、から、」
震えた声で礼を言い、すぐさま散らばったコップの残骸を片付けるための掃除道具を取りに行こうとしたが、少女漫画よろしく足がすくんで言うことを聞かない。自分でも意味が分からない。
何故私が日記に動揺するか、それは日記に先輩への想いを綴っていたからが最たる理由であろう。こうしていつか見られる時が来るかもしれないと名前は書いていないが、勘の無駄に鋭い先輩であれば察するのも秒読みであろうことは簡単に予測がつく。
ただただ、私の指を舐めていた先輩が、いつものヘラヘラした笑顔をどこかに置き忘れたような表情をしていたことだけが、脳裏にこびりついていた。
居心地の悪い沈黙を破ったのは先輩だった。
「....ルーマニアの伝承に伝わるストリゴイ=ストリゴアイカという名の吸血鬼はねえ、片想いの末に結婚出来ずに死んだ者が成るらしいよ」
「それが....なんでしょう」
「..君は、ストリゴイ=ストリゴアイカになっちゃうかも」
ドクンと鳴る心臓の音がした。
東欧を発祥とした吸血鬼の伝承は、非常に多岐にわたる。
だが、概ねの現代人の吸血鬼に対する認識は、バイロン卿をモデルにしたジョンポリドリの著書にある魅惑的な吸血鬼だ。
コウモリや狼に変ずる力を持ち、魔術を巧みに操り、首筋に牙をつきたてて人の生き血を吸う。
そして、吸血された犠牲者を吸血鬼に変える。
先輩は、何を言いたいのだろうか。単に彼が勘違いをしているだけか、それとも。
先輩の真意を掴み損ねたまま、私は唖然と屹立していた。
「ごめんね、日記見ちゃって」
先輩は微笑みをはりつけたまま、私の手を握っている。しばらくして、先輩は私を撫でてから部屋を出た。
初夏の蒸し暑い日差しが、先輩と私の頬を火照らせていたのを覚えている。
わんく
12:羊◆.o:2019/01/04(金) 22:20 『エデンの園』
早朝の日差しは醒めたばかりの目に痛く、私は手のひらで朝焼けを遮った。
自室の窓から一瞥すれば、青く輝く海に面した私達の街が見える。薄い金色の朝日が街を覆う朝靄を透過して、眼前の風景は神秘的な雰囲気を帯びていた。
小さな窓に切り取られたその情景は、まるで額縁に飾られた一枚の絵画のようだ。
「おはよう後輩! 」
「あ、おはようございます....先輩 」
ふと投げかけられた声に驚き、声の方に視線を送る。声の先には、自宅の屋上庭園から手を振る先輩がいた。どうやら先輩もこの幻想的な朝焼けを拝みに来ていたようだ。
ーーーーこれは外面上私にも言えることであるが、先輩は、あの吸血鬼発言以降も一応にして変わったような素振りを見せることはなかった。
否、先輩は基本的に変人じみた素振りしかしないので、この表現は適切でないかもしれないが。
先輩は相変わらず滑らかな頬に気障な微笑みを浮かべている。先輩の黒髪が金色の暁光を反射して美しい。
いつもの先輩の笑顔に安心させられる一方で、それが同時に私の中に蓄積された不安を一層駆り立てていることは、自分でも目に見えて自覚できた。
「後輩、今日は暇かい?」
「....ええまあ、お勉強会ですか?」
私の返答に先輩が弾んだ声で言う。
「ううん、違うよ」
「はい? 」
私は首をかしげた。
「僕とエデンの園に行かないかい?」
「......はい? 」
唐突に襲い来る先輩の中二病発言に面食らって間の抜けた声を漏らす私に、先輩はケラケラと笑っていた。どうやら今日の先輩の妄想に据えられた主題は、エデンの園であるらしい。
「ふふん、なんだかデートみたいだねえ」
「先輩、片想いの方がいるのにそんなことを軽々しく仰るのは不適切であると思います」
「え〜片想いの人がいるのに僕と二人っきりで買い物....ああ、エデンの園に来ちゃう君も君だろ」
いちいち言い直す先輩の訳の分からないこだわりには敢えて触れず、人で賑わう店内を見渡す。この街唯一の大型ショッピングモールは確かにエデンの園と表現できなくもないが、些かこじつけ感を感じざるを得ない。先輩の中二病発言に慣れている私でなければ、その理解のし難さはそれこそ世界で最も難解な暗号の一つと名高いドイツ軍のエニグマレベルである。
隣を歩く先輩は目を輝かせて、やたらと楽しそうだ。何気に歩幅を合わせてくれる先輩の謎の紳士的側面におなかのあたりがもやもやする。
「あっゲームセンターあるよ! 遊んで行こうよ!」
「わ、引っ張らないで下さい先輩!それなんだか本末転倒な気がします!そもそもこれはお互いの恋愛の手助けを目的に」
「いいじゃない、その片想いの人とのデートの練習だと思ってさ」
....練習というならば、実践練習もいいところである。好きな人ってあなたのことなんです、と言えたらなんて楽だろう。
謎の入れ違いが起きているこの談笑をするに至った顛末について、私は説明をせねばならない。
ことは先輩の発言から始まった。
「ねえ、前のヴォイニッチ写本のことだけどさ」
「ヴォ....だからあ、私の日記に妙なあだ名つけるのやめていただけません?」
あれから数日後に、半ば二人間でタブーと化しだしていた私の日記の話を持ちかけたのは、先輩であった。
「君、片想いしてる人がいるでしょ」
「えっ」
話を振られた時点で想定内であったはずの言葉にもかかわらず、豆鉄砲を食らった鳩よろしくその場に静止してしまった私を傍目に、先輩はやたらと格好付けたような表情で、そう言って見せた。
−−−−在ろう事か先輩は、日記の人物が自らであることに気づいていなかったのだ。普段は色々と鋭い先輩がまさか自分だと分かっていなかった事実に、安心と僅かな落胆の入り混じった感情が心を支配する。
ここで私は考えた。
以前のストリなんたらかんたら発言と照合すると、先輩には片想いの相手がいる。
そして、わざわざこの話を持ち出した理由は、一般的な女の子の好みを調べ、その子との距離を近づけるべく同じく片想い中で交流のある異性たる私の協力を得ようとしているから。
それが最適解だ。
この解を導き出すに当たって胸のうちに苦い感覚がよぎったが、それは出来る限り金輪際無視していきたい。
「....もしかして、先輩にも片想いの方がいらっしゃるのでしょうか」
「ん、よくわかったね。両想いだと思っていたんだけどなあ、この前僕の片想いだった事が判明してしまったところだよ」
先輩の内に恋愛感情なんてものが存在していた事自体が仰天ものだ。先輩がやたら嬉々として「誰か教えてほしい? ねえねえ? 」と聴いてきたが、お相手は誰なのか考えるだけで胸が酷く痛むので、詮索は自己保身も兼ねて遠慮した。先輩は変人だが、なんだかんだ器用で飄々として、他人を惹きつける雰囲気を持っている。先輩が告白すればお相手もイチコロ間違い無しだろう。
....ちょっと涙出てきた。
「ねえ、他に回りたいところはないかい? 」
私が太鼓の◯人で遊んでいる先輩の横顔を眺めてしんみりしていると、先輩が私の視線に気付いたらしい。先輩はこちらに視線を落とし、にこりと微笑んで見せた。後々先輩の彼女になる人はこんな体験を当たり前に享受するのかと思うと、心の奥に暗雲が立ち込めた様な心地がする。
「服、買いにいきたいです
浴衣買いたいので」
元来近々催される夏祭りのために買いに行く予定であったものの、夏祭りで見知らぬ女性と楽しそうにする先輩が脳裏によぎり、僅かに声が震えた。
心中をさとられぬよう凛然に努め言うが、先輩には私の動揺が丸わかりであるらしく、束の間不思議そうな表情を浮かべた先輩は私の頭を撫でた。
「ふふ、わかるよ。意中の人に気に入ってもらえるのか心配なんだろう? 僕が責任持って選んであげるからさ」
「....ありがとうございます」
先輩が大仰に格好つける。
先輩こそ意中の人その人であるので、先輩に選んでもらえるのは願ったり叶ったりであり、論自体もあながち的外れではないが、どうも釈然としない。先輩に片想いの人がいると判明してからの私は、なんだか変だ。
「うわぁ、随分と人が増えたなあ....」
「仕方ないです、休日のこの時間帯は、一番来客数が増えますから」
ゲームセンターの一角を出てみれば、モール内は尋常でない人だかりができていた。今日は特別なイベントでも開催されるのか、連日より混み合いは酷く、黒々としたおびただしい群衆の波が満員電車よろしく店内にごった返し、前方すらもまともに見渡せない。
二人して溜息をつく。
「あ、」
ふとこちらを覗き込んだ先輩が、なにを思いついたか表情を明るくさせた。
「仕方ないね、手繋ごうか」
「な、なな、なんでです! 」
「迷子になったら困るでしょ?」
そう言って先輩は、動揺する私の手を優しく握った。
−−−−旧約聖書の創世記に記された失楽園の物語は有名であるが、アダムの最初の妻はイブではない。彼の最初の妻であったリリスという女性は、アダムの元を離れてしまって悪魔と成れ果てた。
先輩が幸せになる事は良いことであるはずなのに、私の頭は先輩とこうして遊べなくなる事ばかりを反芻している。今の私は自らの幸せを優先してばかりで、人間だか悪魔だか検討がつかない。
今はただこの先輩の温度を感じていたいと、私は先輩の手を握り返した。
わんく
推敲の甘さが目立つ
ここぞという時以外は平易な文章を心がけた方がいいですよ。
17:羊◆.o:2019/01/06(日) 11:21 >>16
ん〜、やっぱり冗長になっちゃって読みにくいですよね....
ご指摘ありがとうございます、がんばります!
『ヴァルプルギスの夜』
少女は金糸雀色の帯を締め、二つに結わえていた髪を解いた。微かに香る芳香を纏う彼女の髪は、小花の髪飾りで彩りを増している。
「はぁ、なんで断っちゃったんでしょうか....」
私は重苦しい溜息を吐き出した。
私達の街で夏祭りが催されるこの日は、隣町からも多くの人が押し寄せる。雑踏に紛れ、私達三人も屋台を見回っては買い食いをした。
“私達三人”の内訳は、私と同級生の女友達二人だ。
−−そう。この場に先輩は、いない。
こうも人混みの中ぎゅうぎゅうに詰め込まれていると、脳裏に先輩と手を繋いだ日のことがよぎる。私は手元のイカ焼きを噛り、強引にあの思い出をかき消した。
「あれ〜委員長顔が赤いねえ?」
「あ、もしかしてあの彼氏先輩のこと思い出してたんじゃね?」
「彼氏じゃないです!誤解!」
隣を歩く友人二人に図星を突かれた上でからかわれ、頬がさらに紅潮する。正直自分に備わっているとは言い難い“女の勘”というものの的中率は、毎度ながら畏怖と尊敬の念を持たずにはいられない。
「....てかさ委員長、なんで今日はあたしらとなん?
いやもちろん委員長が遊んでくれんのは嬉しいけどさ、いつもあの先輩と二人で行ってたじゃん、夏祭り」
「ま、まさか委員長、失恋しちゃったの...?」
「ちが、そ、そもそも、先輩のことなんて別に好きじゃないですし!あの人ならきっと今頃好きな子を誘って楽しくしてますよ」
後半の言葉に、友人二人の顔が曇る。
今の発言で二人に先輩のあらぬ悪評を広めてしまったことに気がつき、私は慌てて二人にことの成り行きを説明した。
そもそも、私にはこの日の先輩の動向について頓着する資格はないのだ。
何せ、私を夏祭りに誘ってくれた先輩に、自分ではなく片想いの相手を誘うように促したのは私自身なのだから−−−−
突然失礼します…、凄く物語が好きです。
表現が丁寧でとても綺麗な文章だと感じました。
これからも読ませていただくので頑張ってください!
ウワァア〜〜コメント嬉しいです(´;ω;`)
正直自信なかったので励まされました....!更新頑張ります!
「先輩、お誘いは嬉しいですけど、今日の夏祭りは私ではなく片想いの人を誘ってください。先輩ならきっとうまくいきます」
「えっ、僕の好きな人って....」
私がそう言った時、先輩は当惑したように苦笑いを浮かべていた。先輩のことだから、意中の相手を誘うのは造作もなく、むしろ嬉々としてやるだろうと考えていた私は、少し寂しそうな先輩の反応に若干動揺してしまった。
先輩をあそこまで手こずらせるとは、お相手は相当の魔性の美女に違いない。
あまりにも勝ち筋の見えない恋路を疎ましく思いながら、先程出会った友人の姉が、私達三人に差し入れてくれたいくつかの飲み物のうちの、缶ジュースと思しきものをあおった。
....と思えば、口の中に炭酸、苦味と酒の匂いが広がる。
予想外の味に、思わずむせ返った。
「げほっ!これお酒じゃないですか」
「ええ、大丈夫か委員長!姉さんまさか間違えやがったか....って委員長?」
「あちゃー....なんだか定番なカンジだね」
呆れたように笑う友人二人を横目に、なにがおかしいのかよく理解できぬまま、私は突如訪れた熱の籠もってふわふわと浮くような感覚に酔いしれた。なんだか、頭が回らない。
お酒のせいだろうか。
「....なんかおかしいれす」
「あっまって委員長!どこ行くの!」
「あーあーあーちっちゃい委員長が人混みに紛れたら見つかんなくなっちゃうって」
私がふらふらとした足取りで歩き出したのは、先輩に会いたくなったからだと思う。
そもそも、あの友人二人が私と先輩の関係について変な誤解を起こしているのは、私のクラスで横行している先輩と私の恋愛的噂のせいに他ならない。
最も、毎日一緒に登下校している上に偶然会うとめちゃくちゃ絡まれるので、色恋沙汰の大好きな高校生間で噂が立つのも仕方がないかもしれないが、大抵誘ってくるのは先輩だし、いつも少女漫画に出てくるようなセクハラまがいのことをしてくるのも先輩だ。私をこんなにもその気にさせておいて、片想いの人がいるなんてあんまりだ。
そんなことを考えながら歩いていると、紺色の浴衣を着た男性に真正面からぶつかってしまった。
謝ろうとして、何故だか先輩のにおいがしたので思わず見上げる。
「わ、お酒の匂いがするし....後輩、一体どうしたの」
そこには、心配そうに私を覗き込む先輩が立っていた。