川上奈緒の事件簿 リターンズ <お嬢様学園のいじめ>

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1:りさ:2019/02/24(日) 16:49

***************キャスト***************
いじめられる側

・川上 奈緒(かわかみ なお)
普通の学校からお嬢様学園へ転校。
のちに罠にはめられ退学になる

・修倉 未南(しゅうくら みなん)
奈緒が転校後にできた最初の友達。
いじめによって自殺未遂に追い込まれる

いじめる側

・姫川 椿(ひめかわ つばき)
日本有数のお金持ちの一人娘。
未南の元大親友

・和田 萌奈(わだ もえな)
椿の親友。男子にモテモテ。
可愛くてお金持ちだが素行が悪い


・野村由香子(のむら ゆかこ)
姫川椿に忠誠を誓う家来のような存在。
父親は椿の会社の重役

2:りさ:2019/02/24(日) 16:53

(1)

「転校生を紹介する。川上奈緒さんだ」
担任の先生が私を紹介した。

教室の女子生徒全員が私のことを見つめる。

「よろしくお願いします!!」

元気よく挨拶した。
その瞬間。
さっきまでザワザワと、にぎやかな
教室がシーンと静まりかえった。
うわ・・・・・。やっちゃった?

クスクスクスと静かな笑い声が聞こえる。

「え・・・・・・・・」
私の挨拶に誰も反応しないので
きっと失笑されたのではないかな?

「みんな、拍手」
先生がそれをフォローするかのよう
にみんなに拍手を促した。

そうすると、まばらだがパチパチと
拍手が起こった。

あれ?
なんだか、みんな嬉しくなさそう。
もしかして歓迎されてない?
そんなの気のせいだよね……。

「川上さんは親の仕事の都合で
 転入してきました。みなさん
 仲良くしてあげてくださいね」

3:りさ:2019/02/25(月) 21:52

挨拶が終わったあと。
先生から窓際の一番後ろ
の席に座れと言われた。

隣の席には、飛切りの美少女がいた。
びっくり!
まるでアイドルみたい!
うわぁー。かわいい。
この子と友達になりたいな。

そう思い。
ホームルームが終わるとすぐに
隣の席の美少女に話しかけた。

「川上奈緒です。よろしくね」
「あ、修倉未南です。よろしく」
急に話しかけられたからか
彼女は驚いた表情を見せた。

「この学校のこと何も知らないから
 いろいろ教えてね」

私が、そう、お願いすると。

「うん、困ったことがあったら
 何でも聞いて」

未南は、やさしくほほ笑んでくれた。
まるで天使のような笑顔だ。
かわいいだけでなく性格もいい感じ。
これは絶対、友達になるべきね。

「私のこと奈緒って呼んでね。
 ねえ? 未南って呼んでもいい?」

「いいよ」

「あとで私のこと、友達に紹介してね」
「あ……。私ね、いま、一人ぼっちだから」

未南は、小さな声で
そう言って顔を伏せた。

「え……。友達いないの?」
「いたよ。親友がね。でもいろいろあってね」
尋ねられた未南は表情を曇らせた。

「そっか。それじゃあ。私達、友達にならない?」
「うん、いいよ、私なんかでよかったら」

「ありがとう、すごく嬉しいよ」
「こちらこそ。ありがとう」
未南に笑顔が戻ったのがうれしかった。

やったね。

すぐに友達ができた。

友達ができなかったらどうしよう

という不安から一気に解放され

清々(すがすが)しい気分で

新しい学校生活が始まった。

4:りさ:2019/02/26(火) 21:29

(2)

キーンコーン・カーンコーン
チャイムが鳴った。
それと同時に先生が来た。

一時限目は数学の授業だ。
先生は、いかにも数学教師って
感じがする中年の男性教師だった。

先生は出席を取ったあと
「問題出すから解いてみろ」と
いきなり黒板に問題を書き始めた。

いきなりかよ……。

「難しいが良く考えれば解けるはずだ。
お前らは選抜クラスなんだ。これくらいは
解けるようになっておけ」

そう、このクラスは二年生の成績上位者
だけを集めた選抜クラスなんだ。

私は転校する前の学校で成績トップだったから
このクラスに入ることができた。
て、今朝、校長先生が言っていた。

「解答時間は15分!」
と先生が言ったので
問題を解き始めた。

私は無言でシャーペンを走らす。
夢中になっていると15分なんて
あっという間だった。

「誰か解けたやついるか?」
先生の問いに反応する人はいなかった。

手をあげようかな?
私は恐る恐る手をあげた。
自信はないけど一応解けた。

「おっ。お前、たしか転校生だったな?
 できたか? 前に出て答え書いてみろ」

「はい!」

前に出て、黒板にスラスラと解答を書く。

「できました」
「よし、正解だ」
即行、正解って言われた。

「よく勉強しているな」
先生に褒められた。嬉しい。

とてもいい気分で、席に戻ると
隣の席の未南と目が合った。
未南は嬉しそうに、ほほ笑んでくれた。
私も同じように笑い返した。


(3)
終了のチャイムが鳴る。
一時限目が終了して休憩時間になった。
さっそく、未南に話しかけようとした時。

「あなた、スーパールーキー川上奈緒でしょ?」
「はっ、はい」

不意に誰かから声をかけられ、慌てて返事をした。

「やっぱりそうだ。テレビで見たことある。
女子の高校バスケ界じゃ、ちょっとした有名人だよね」
「有名だなんて、そんなぁ……」

そうそう。そうなんだ。
私はスーパールーキーの異名を持ってる。有名人かな?
なんか、私のこと知ってる子がクラスにいた。

「私は柄谷央弥(からたに おうみ)。私たち友達にならない?
 あっちに私の友達がいるから。あっちで一緒に話そうよ」

央弥ちゃんはショートカットでよくしゃべる活発そうな子だ。
うん。大歓迎だよ、私も友達になりたい。

「え! いいよ! 未南も一緒に行こう!」
未南に声をかけた。
「未南は来なくていいよ」
しかし、未南の返事を聞く間もなく
なぜか央弥ちゃんに拒否られた。

「なんで未南は来ちゃダメなの?」
「私、未南のこと嫌いだから」
「ええ? なんで?」
「その子いじめられてるから一緒にいない方がいいよ」
央弥ちゃんは小さな声でポツリと言った。

「はっ? いじめ? どういうこと?」
私が、そう聞き返すと
「チッ」
央弥ちゃんは急に険しい表情になり舌打ちをした。

あれ? 怒った? と思ったら……。

「はじめまして、川上さん」
私はその声に振り返る。
超美人でスタイル抜群な子に声をかけられた。
この子は誰だろう?

5:りさ:2019/02/27(水) 20:47

「私は学級委員の姫川椿です」

わっ。この子は。
クラスのリーダー的存在の子かな?
そうかもしれない。そんな雰囲気ある。

この子。顔がすごく整ってて綺麗!
めっちゃ顔ちっちゃい! 
それに細くてスタイルいい!
姫川椿は、いかにもお嬢様って感じ
がする気品に満ちた美女だった。

そこから、ひょこっと、またまた美女が現れた。

「和田萌奈でーす。椿の大親友だよ! よろしく!」
「フフッ。萌奈っていつもこうなのよ」

和田萌奈の印象は……ギャル。
まず、はっきりとした茶髪がひときわ目を引いた。
メイクはバッチリとギャルメイクだし。
それと、大きな胸と、くびれたウエスト。
すらりとした細い足。さらに超ミニの
スカートからは大胆に太ももが露出していた。

清楚な椿とは、まったく対照的な印象を受けた。

「姫川さん、和田さん、これから二人のことなんて呼べばいいかな?」
「私は普通に椿でいいわ」
「私も、萌奈でいいよん」
「フフフッ。萌奈はね、私達のムードメーカーなのよ」
イメージ通り。たしかにそんな感じがする。

「私のことは奈緒って呼んで。仲良くしてね」
「こちらこそ、よろしくね」
椿は、そう言って上品に、ほほ笑んだ。
その美しさは、まるで女優やモデルのようだった。

私って、超幸せ者じゃん!!
転校初日から。こんな可愛い子
と友達になれるなんて!!

6:りさ:2019/02/28(木) 20:38

「さぁ、そんな子、放って置いて別の場所で話しましょうよ」
「そうそう。未南の奴は相手にしなくていいよ」

だが突然。
椿と萌奈の態度が豹変した。

「ええ? なんで? みんなで、ここで話せばいいじゃん」

「ダメよ。未南と友達になっては」
「そうだよ。不幸になるよ。コイツといるとね」

椿と萌奈のひどい言葉に
一瞬、自分の耳を疑った。

なんだか、わけがわからないよ。
未南のどこがダメなの?
かわいいし、性格も良さそうなのに……。

そんなことを言われている未南は
「椿…………どうしてそんなこと言うの?」
と今にも泣き出しそうだった。

「ふん。あんたとは絶交って言ったでしょ?
 口も聞きたくないわ、話しかけないで」
椿の辛らつな言葉に、さっきまでの
よいお嬢様なイメージが一瞬で崩れ去った。

「椿……? どうしてそんなひどいこと言うの?」
私は、ちょっと咎(とが)めるように言った。

「ああ、この子はね。クラスのみんなから
 嫌われているのよ。だから、みーんなで
 無視してるの」

未南が嫌われている?
無視されている? 
どうして?

横を見ると、未南はうつむいていた。
涙を流しながら……。

7:りさ:2019/03/01(金) 20:07

「あーあ。また始まったよ。もう、うんざり。じゃあね」

央弥ちゃんは呆(あき)れた様子で、この場から離れていった。

ああ、さっきまでの幸せな気分が崩壊していく。

「私が転校してくる前。
このクラスで何があったの?」

私は椿と萌奈に聞いた。

「ね? 椿。転校生の小人ちゃんに
 何があったか、教えてあげたらー」

「そうね。教えてあげてもいいわね。
 教えてあげて、由香子」

椿が由香子と言うと、椿と萌奈の間から
小柄な女の子が現れた。

ツインテールに幼い顔立ちの女の子は
一見すると中学生と錯覚するほどだった。

「この学校のテニス部の監督だった、こいつのお父さんはね。
 電車内で中学生に痴漢して警察に捕まったんだよ」

由香子が、未南を指差しながら語気を強めて言い放った。

「え……。マジな話?」
それが、本当なら嫌悪感を持たれてもしょうがないけど……。

「未南。あなたも学校を辞めるべきじゃない?
 責任を取りなさい! そうでしょ? みなさん!」
と椿が言うと、教室にいた生徒から
一斉に未南を非難する罵声が飛び交った。

「椿さんの言う通りよ」
「犯罪者の娘は学校に来るなぁー」
「学園の恥だわ!」
「あんたなんか、この学校に通う資格ないよ」

「お父さんはそんなことしていません……」
未南は消え入りそうな声でそう言った。

それでも、その言葉はしっかりと椿の耳に入った。
「は? あんた今、何て言った?
 嘘つき。あなたのお父さん、まだ
 警察から帰ってきてないじゃない」

「お父さんは間違えて逮捕されたの。
 犯人は絶対にお父さんじゃない!」

「もしかして、犯行を否定するわけ??」
由香子が、そう聞くと
たちまち、あちこちから
未南を非難する声が上がった。

「でも、痴漢したって言う目撃証言もちゃんとあるのよ?」
由香子が、さらに未南を問い詰める。

大勢のクラスメートが一人の生徒を責める。
教室は異様な空気に包まれていた。
ダメだ!
このまま傍観者になってはいけない!
止めなければ……。

8:りさ:2019/03/02(土) 08:19

「待った!!」

私が、そう大声で叫ぶと
騒がしかった教室が
静かになった。

「ちょっと、やり過ぎなんじゃないの?
お父さんのことで傷ついている未南を
全員で責めるなんて、どうかしてるわ。
こういうときは、クラスメート全員で助けて
あげるべきじゃない?」

「ハァ? あなたは偽善者だわ」

椿は呆(あき)れた様子で首を左右に振った。

「私達にとって痴漢とかの性犯罪は
最も卑劣で最低な行為よ。だから
非難されるのは当然のことじゃない」

「それは違うわ。確かに痴漢は許せない。
 でも罪を犯したのは未南じゃない。
 こんな風に集団で無視をしたり
 悪口を言うのは、人を深く傷つける
 卑怯な行為だわ」

9:りさ:2019/03/03(日) 07:27

「今日、来たばかりの転校生のくせに。
 私の意見に反論するなんて生意気よ」

椿は不愉快そうな顔をする。

「この学校は地位が上の人に逆らってはダメなの!
 もし逆らったとしたら、いろんなきつくて
 辛い罰が下されるのよ。覚えておきなさい!」

椿は私を、にらみつけた。

「……?」

「ねぇ、奈緒。今の私とあなたは
 どのくらい地位が違うのかしら?
 会社だったら私は社長、あなたは
 今日、会社に入ってきた新入社員
 じゃないかしら?」


「私が新入社員っていうたとえは分かるけど
 あなたが社長っていうのは納得がいかない。
 だって同じ学年の生徒じゃない?」

「言ったそばから、また反論?
 素直にハイと言えないのかしら?
 私はね。至極特別な存在なのよ。
 普通の生徒と一緒にしないで。
 いいわ、教えてあげる。
 由香子! 私がどんな存在か
 この子に説明しなさい」


由香子が、すかさず「ハイ」と
歯切れの良い返事をした。

「ええい! 頭(ず)か高い。
 この方をどなたと心得る!
 日本有数の巨大企業である
 姫川グループ社長の御令嬢で
 あらせられるぞ!」

由香子は誇らしげに語った。

「…………?」
「驚いて、声も出ないみたいね。ハハハッ」
椿の、せせら笑いが教室に響く。

「……えっ。あの有名な企業のヒメカワ?」
「そうよ。超が付くほど有名のね」

「マジで? すごっ」
「お父様の年収は、十数億円で総資産は数千億円と
 言われているわ。一人娘の私はその跡取りで
 将来は日本の経済界の頂点に立つ存在よ」

なんだかすごい。
この人は本物のお嬢様なんだ。
目の前にいる椿が、よりいっそう
美しく高貴な人に見えた。

10:里奈:2019/03/04(月) 20:27

「すごい、すごい。美しい上に、お金持ちだなんて」

本音を言うと。正直、うらやましいや。
私なんて、見た目も、生活も普通なんだもん。

「フフ、私がどういう人間がわかってもらえた?
 これを聞いたら友達になりたくなったでしょ?」

「え……ああ、うん」
私は戸惑い気味に答えた。

「そう。それでいいのよ。仲間に入れてあげるわ」
「あっ。でも私、未南とも友達になってて……」

「あのね。そんなの破棄しなさい。いますぐ」
「…………はぁ」

ど……どうしよう?
ハイなんて言えない。
でも反論したらまたキレるかも……。

「これはあなたにとって、大変重要な選択よ。
 奈緒の今後の学校生活を大きく左右するわ。
 私と友達になってバラ色の道を進むか
 未南と友達になってイバラの道を進むか
 ここが天国と地獄の分かれ道よ」

「…………?」

未南と友達になることが地獄だなんて思わない。

むしろ、ここで未南を無視したり、みんなと
一緒になって非難したら一生後悔するだろう。

「簡単な選択肢じゃね? 迷う必要がどこにあんの?
 未南なんて無視して私達と友達になればいいだけじゃん」

萌奈がギャルっぽい言葉使いで口をはさんだ。

「で、……でも、無視するのよくないと思う」

「こんな奴、無視すればいいんだよ! キャハッハ」

突然。萌奈が、そう言ったあとで
平手で未南の頭を力いっぱい叩いた。
頭をパーンって叩く音が、ハッキリと聞こえた。
未南は叩かれたのに硬直したまま微動だにしない。
なんで怒ったりしないの未南???

私はマジでキレそうだよ。
いや…………。
我慢できねえ。
マジギレしなきゃ友達じゃねーだろう!

11:里奈:2019/03/05(火) 20:17

「やめなさいよ!!」
私は思いっ切り机を叩くと
同時に立ち上がった。
椿たちとクラスメイトの
視線が一斉に私へ集中する。

「未南を傷つけるのは、友達の私が許さない!」
そう言い、萌奈をにらみ付けた。

「椿―――!こいつ、私達に逆らう気だよ!どうする?」
萌奈が椿に、すがるように言う。

「まあ、いいわ。今日のところは大目に
 見てあげましょう。転校生だからね。
 でも、一つだけ忠告しておくわ……・。
 私を本当に怒らせた者は、この学校から
 居なくなるってことをね。覚えておきなさい」

は……? 居なくなる? どういうこと……?
椿が言ってることの意味がわからなかった。

「もう行きましょう」
椿は、そう言うとクルリと反転して歩き出した。

「馬鹿な奴! せっかく椿が友達になってやるって言ってんのに!」
萌奈は吐き捨てるように言ってから椿のあとを追った。

「しつれいします」
由香子は丁寧に頭を下げると教室を出る二人のあとを早歩きで追った。

ああ、なんかショックだった。
いろいろあって、私も傷ついたなぁ。
自分のことより……いまは。

「未南、大丈夫??」
心配になり声をかけた。

「大丈夫だよ……ごめんね……」
「謝らなくていいよ。悪いのは未南じゃないから」
「でも……みんな……私が悪いって……」

泣きながら途切れ途切れに
話す未南を見ていると。

なんとしても、この子を
守ってあげなければという
気持ちが込上げてきた。

「私は未南の味方だよ。なにがあってもね。
 もう誰も未南を、これ以上、傷つけたり
 しないように、私が守ってあげる。だから
 もう泣かないで」

私は必死に思いを伝えた。
未南はハンカチで涙を拭いた後
無理やり笑顔を作った。

「ありがとう。奈緒は本当に優しいね」
「当然だよ!このくらい」

ありがとうって感謝してもらえたら
なんだか心が暖かくなって嬉しくなる。

小さい頃に亡くなったお母さんも言ってたなぁ。

お母さんが好きな言葉は、ありがとうかな……って
お母さん。私もそうだよ。ありがとうって言葉が好きだよ。
私は小さい頃のことを思い出していた。

12:里奈:2019/03/06(水) 19:40

(4)
おなかは鳴る。
恥ずかしくなるほど大きな音
で教室に鳴り響いてしまった。

四時限目が終了するまで。
あと数分。
耐えてくれ!
私の胃よ!
再び鳴ったら恥ずかしいじゃないか!

どうして おなかが へるのかな
おやつを たべないと へるのかな
いくら たべても へるもんな
かあちゃん かあちゃん 
おなかと せなかが くっつくぞ

キーンコーン・カーンコーン
こんな歌を歌っているとチャイムが鳴った。

はー,お昼だ。
なんとか、おなか鳴らなかったよ。

「ねえ? 奈緒は食堂でお昼、食べるの?」
未南が私に声をかけた。

「うん」
「じゃー。一緒に食堂行こう」

未南に誘われ食堂に行くことにした。
場所もわかんなかったから、ありがたい。


私と未南は教室を出て
食堂に向って歩き出した。

「だれかと一緒に昼御飯食べるの久しぶり
 奈緒と友達になれて良かった」
未南は嬉しそうに言った。

そうだった。
未南は一人ぼっちって言っていた。

でも友達って誰なんだろう?
仲直りできるなら、させてあげたい。

「未南の友達って誰だったの?」

名前を聞いても分からないかもしれないが
思い切って聞いてみた。

「椿だよ」

「椿って姫川椿?」

「そうだよ。椿は私の親友だった」

ここで予想外の名前が出てきた。
あの姫川椿が未南の親友とは驚いた!

未南の話によれば、椿と未南の両親が友達で
未南と椿は赤ちゃんの頃から友達だったようだ。

また、野村由香子は幼稚園からの友達で
和田萌奈は中学からの友達だと言う。

先ほど、未南に向って、あんなひどいことを言った
人たちが友達とは意外だった。

ところで、未南が一人ぼっちになった原因は
あの痴漢事件なのかな?

それを聞く前に食堂についてしまったので
また、あとで聞くことにした。

13:里奈:2019/03/07(木) 20:16

(5)
ここが高校の食堂?
すごく豪華で、だだ広い。ここは
まるでリゾートホテルのレストランだった。

ここらへん、さすが名門お嬢様学園って感じがした。

さらに中に入ってビックリした。
ホテル並みのクオリティーの
バイキング形式になっている。

ハイテンションで浮かれながら
お皿にたくさん料理を盛ったあと。
二人で空いているテーブルに着き
しばし料理を堪能した。

しばらくして。
先ほどの話の続きを切り出した。

「さっきの話、途中だったけど
 椿たちと何があったの?」

未南は暗い表情を見せ黙ってしまった。

言いにくいことなのかな?
絶交されるほどの理由ってなんだろう?
やっぱり気になるなぁ。

「私と椿、萌奈と由香子はね」
しばらく沈黙が続いたあと
未南は口を開いた。

「中学の頃からテニス部で同じだったの。
 みんな仲が良かったわ。でもね
 私のせいで今はこんな風に」

「やっぱり原因は、痴漢事件?」
「違う、テニス部のいじめだよ」

「いじめ?」
「テニス部は先輩によるいじめが慣例化してて
 1年生の頃、私も椿もいじめを受けていたんだ。
 でもね、2年生になると、先輩に強要されて
 私達も1年生をいじめることになったの。
 テニス部内では、かわいがりって言うんだけど
 実質、いじめと変わらないものだった」

「未南もしてたの?」

「私は、断固拒否していた。いじめは絶対にダメだと思っていたからね。
 でも椿達は楽しんで後輩をいじめていたような気がする。練習を口実にね。
 みんなにやめようって言ったら、先生に告げ口をするなって言われた。
 ねえ奈緒?私のお父さんが、テニス部の監督だったこと知っている?」

「うん、由香子が言ってた」

「新学期から、お父さんが、この学校に転任して来て
 テニス部の顧問になったの。そのとき、いじめのこと
 相談するチャンスだと思ったんだ。お父さんが
 どうにかしてくれると思って。でも私のお父さん厳しくて
 いじめをした全員を退部処分にしちゃったの。
 椿や萌奈は、かつては自分達も、いじめの被害者だったと
 お父さんに訴えたらしいけどお父さんは聞き入れなかったわ」

「絶交されたのは、その逆恨み?」

「そうだと思う、突然もう私は友達じゃないって言われた」

そうか……・そんな理由があったのか。
未南は悪くない!
勇気を持っていじめを止めようとしたんだ。
友達として、その勇気に心から敬意を表する!

14:里奈:2019/03/08(金) 20:12

(6)
食べ放題だから、ついつい。
「食べ過ぎちゃったよ」
「次の授業、体育だよ、そんなに食べて大丈夫?」

未南に言われて、ハッとした。
そうだった、次は体育、しかもバスケット。
ほどほどにしないと…体調悪くなりそう。

でも皿には、さっき取ってきたばかりの
ケーキが、まだ乗っている。
ええい、甘いものは別腹だ! 食べちゃえ。

思う存分、バイキングを楽しみ、私は昼食を食べ終えた。
食後は。
未南と一緒に、食堂から教室に戻り
体操服を持って更衣室へ向かった。

「次、バスケだよね? バスケ得意なんだ。
 実は、私、バスケで全国大会に出たことあるんだ」

私は、ちょっと自慢げに話した。

「私もあるよ。うちのテニス部はね。毎年
 全国大会に出場するような強豪校だったの。
 椿や萌奈もレギュラーで、もしいじめが発覚
 しなければ、今年のインターハイにも出場
 してたかもしれない」

へえー。未南もあるんだ。
まぁ、私は準優勝したんだけど自慢していると
思われるかもしれないから、今は黙っておこう。
それにしても。あの椿たちが全国大会に出場
するような選手だったとは、意外だった。

(7)
私達はいろいろ話しながら廊下を歩き
やがて女子更衣室に着いた。

女子更衣室に入った瞬間。
女子特有の甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐった

初めて入った更衣室の中を興味深げに見回す。
第一印象は広いって思った。
ロッカールームはたくさんあって、鍵が付いていなかった。
ドレッサーは贅沢にも20台ほど。
ドライヤーや扇風機もある。
さらに、奥にはシャワールームがあった。
設備、充実。

「ここで着替えようか」
「うん」
未南に言われたとおり、ここで着替えることにした。
すると、奥の方から

「転校生、生意気だよね! 椿さんに逆らうなんて」
「それが、どんなに無礼なことか分からせてあげないとね」

なにやら悪口っぽいことが聞こえてきた。

「どうする?あたしたちでやっちゃう?やって欲しい?」
「やって欲しいでーす」
「でも椿さんの許可がないとねー。勝手には動けないよ」

15:里奈:2019/03/09(土) 21:41

物騒な話をしていた。
話の内容からして私のこと?
って思ったら怖くなった。

「うん、転校生には手を出すなって言われた」
「転校生より、やってやらなきゃならない奴、いるよね」
「うん。あいつ、うちらで、こらしめてやろう」
「賛成。そうしよう」

話してるの誰だろう? クラスメート? 
椿たちじゃないと思うけど。まだまだ
クラスの子って、よくわからないや。

私は聞き耳を立てながら、体操服に着替えた。
「行こうか?」
着替え終わった未南が私に声をかけた。

「そうだね」
未南にも、あの会話が聞こえていただろう。
だが、そのことについては何も言わなかった。
だから、私もその話題には触れないことにした。

私達は一緒に更衣室を出て
更衣室から目と鼻の先にある
体育館へと足を踏み入れた。

クラスメートの女子生徒が、所々に
グループを作って固まっていた。

特に入れるグループもないので、未南と
他愛ない話をして授業の開始を待った。

やがて体育館にチャイムが鳴り響いた。

(8)
授業の冒頭、チーム分けをすることになった。

「チームのキャプテンを決める。
 バスケ経験者いるか? 
 いたら手をあげろ!」

男性教諭が私達に聞いてきた。

別にキャプテンをやりたいわけではない。
と思いつつ、私は右手をあげた。

もう一人,手を挙げたのは央弥ちゃん。
この子、バスケ部だったのか……。
それで私のこと知ってたんだ。

「二人か? 柄谷と、お前ダレだ?」

「川上奈緒です」

「川上? 例の転校生か? 俺はバスケ部監督の星野だ。
 お前には期待しているからな。早く部活に参加しに来い」

この人、監督だったのか?
なんか怖そうな人だなぁ。

このあと八名のキャプテンが決まった。
「残りのメンバーは、自分達で決めていい」
キャプテンの私達に星野先生が言った。

私は一瞬、動揺する。自分で選べと
言われても今日、転校したばかりで
あまり知ってる子いないし。
困ったなぁ。

16:里奈:2019/03/10(日) 07:05

私が最初に声をかけたのは未南だった。
クラスで唯一、友達と呼べる存在。
予想通り二つ返事で応じてくれた。

最初のメンバーはすんなり決まったものの。
そのあとのメンバー集めには苦戦する。
何人か誘っても、すべて断られた。

私が途方に暮れていると
「こっち、人数が余ってるんだけど?」
そう声をかけてくれたのは央弥ちゃんだった。

「こっち、足りてないから誰か入って」
都合がいい、渡りに船というものだ。

これですんなりメンバーが決まると思いきや
みんな険悪な表情になっている。

「誰がいく?」
「私は、やだ。あなた行けば?」

みんな、いやがってる。
な、なんでだろ?
私、そんなに嫌われているのかな?

「なにしてるの? 早くしなさいよ」
じれったいのか、央弥ちゃんが少しキレてる。

「未南と一緒になりたくない……」
ボソッと誰かが言ったのが聞こえた。

その瞬間、なんでこのチームに入りたくないか
わかった気がした。

未南に対して、またそんなことを……。

怒りを、ぐっとこらえて沈黙していると。

「はぁ? 何を言ってるの? いったい
 この子が何をしたって言うの?」

周りの態度に央弥ちゃんが憤慨した。

「ねえ、知ってるでしょ? あの話」
「ああ、アレでしょ? ……きもいよね……」
「先生が痴漢とか最悪じゃない?」
「マジありえないよね」

皆、未南の父親を軽蔑するような態度を見せた。

「いいかげんにしないさいよ! 
 こんなのただの、いじめじゃない
 おかしいよ、あんた達がやってること!」

央弥ちゃんが激怒する。
央弥ちゃんはクラスの中で唯一
いじめに反対してくれる生徒だった。

17:りな:2019/03/11(月) 20:03

(9)
央弥ちゃんの一喝で、なんとかメンバーが決まり
バスケの試合が始まった。

だが、未南の悲劇は、これで終わらなかった。
バスケの試合中、足を引っ掛けられ転ばされたり
勢いよく突き飛ばされたりした。

しまいには、ボールを顔面にぶつけられ
コート上に倒れてしまうのだった。
「痛い、痛い、痛い」
痛そうに顔面を抑えて、うずくまる未南。

「なにしてんのよ! こんなプレー許されるわけないでしょ!」

マジギレ発動!

「わりぃ、わりぃ、手元が狂った」 
わざとやったのでは? と詰め寄ると
相手チームのメンバー達は、しらばっくれた。

ぶつけたのは、茶髪のヤンキー女だった。
「わざとぶつけたでしょ?」
彼女に詰め寄った。

「ちげえよ」
ぶつけた子の声、さっき更衣室で
しゃべっていた子の声じゃない?
こういう意味だったのか?
そうだとしたら許せない!

「あんた、他にも、足引っかけたり
ぶつかったりしたよね。あんたの
プレーは退場ものの悪質プレーだ!」

「あんだよー。うるせえなぁ。いいがかり付けんなよ」
一触即発の険悪ムードとなった。

「おい、どうした? なに揉めてんだ? おい。
ケガしてんじゃねーか! 大丈夫か?」
星野先生の声で我に返った。

未南を見ると、鼻から微小の出血があった。
鼻血だ。
「顔面にボールが当たったんです」
星野先生に報告する。
「おい、誰か保健室に連れてってやれ!」
「私が行きます。行こう未南」

私はこの時、未南が、みんなから日常的に
いじめられているのではないかと感じていた。

18:りな:2019/03/12(火) 21:02

(10)
未南は保健室で鼻血の処置を終えた。その後。
軽い頭痛があるため、ベッドで休むことになった。

「大丈夫、吐き気とかない? 頭痛ひどくなってない?」
私は横になって寝ている未南に尋ねた。

「平気……心配かけてゴメンね」
「ホント、災難だったね」

「最近、ツイてないなぁ。次々に不幸な目に遭う。
 なんか、なんでこんな風になっちゃうんだろう」 

未南は流れ落ちた涙を右手でぬぐった。

「辛かったね。でも未南は、なにも悪くないよ」
「そうかなぁ? 悪い方、悪い方に考えちゃう」

「思いつめすぎないで!」
「最近、すごく気分が落ち込むの。
 それにね。毎日、夜、眠れなくて……。
 ほんとうに辛くて辛くて。もう死にたい……」

ええー! 死? 死にたいって?
それを聞いた私は激しく動揺した。

「死んじゃあダメ!」
焦った私は、そう声をかけた。

「ごめん、思わず変なこと口走っちゃった。
 別に自殺しようとか考えてないからね」

辛いとき、思わず死にたいとかって
思うことは、あったりするかもだけど。
今の未南、なんか心配、すごく心配。
なんとかしてあげたいなぁ。

19:りな:2019/03/13(水) 20:56

(11)
この日、最後の授業は英語だった。

春のうららの教室。
体育の授業のあと。
ゆえに睡魔が襲ってくる。

とっ。思っていると、スーピースーピー。
あれれ。どこかから寝息の音が聞こえる。

隣を見ると、未南が突っ伏して寝ていた。
はっ! やばっ! まさか顔面にボールが
当たった影響で脳にダメージでもあったのか?
ちゃう。
ちゃうちゃう。夜、眠れないって言ってたやん!
あかん。先生にバレたら怒られるっしょっ。

「未南、起きて」
私は小さな声でささやいた。
しかし、未南は目を覚まさなかった。

「起きて。ねえ、起きて」
と言いながら肩を揺らしても未南は目を覚まさない。

「修倉、居眠りか? 起きろ!」
ゲッ、いつの間にか先生が目の前にいた。

「はっ、はい。すみませんでした」
急に大声がして未南はびっくりし目を覚ました。

「学年トップのお前が居眠りしてどうする?
 夜遅くまで勉強でもしていたか? 勉強
 熱心なのはいいが、俺の授業もちゃんと
 聞いてくれよ」

「はい、いえ、最近、寝不足で……」

「まぁ、いい。教科書の26ページ。
 最初から読んでみろ」

先生に、そう言われると立ち上がり
英文を読み始めた。未南はスラスラと
ネイティブな発音で読み上げていく。
うわっ。なんか先生よりも,うまいや。
学年トップだって言うし,才色兼備やん。

(12)
この日の放課後。

教室で未南と談笑したあと。
二人で下校することになった。

未南は電車通学をしていた。
他の、お嬢様みたいに高級車で
送迎ってわけではないようだ。

一階の下駄箱へ着く。

上履きを脱いで自分の下駄箱へしまい。
通学用のバスケットシューズに履き替えた。

そのあとで、後ろを振り返ると
未南は、まだ下駄箱の前にいた。
しかも、なんだか様子がおかしい。

少し心配になってきて……。
私は未南に声をかけた。
「どうしたの?」
「クツがないの……」

未南は涙声だった。

私は、思わず「えっ?」となって
未南の所へ駆け寄った。

20:りな:2019/03/14(木) 20:24

修倉未南ってシールが貼ってある下駄箱を
覗き込むと、確かにクツが無かった。

「朝、ここにしまったのに、ないの……」
「それは大変だ。一緒に捜(さが)そう」

「うん……」
「掃除の時、どこか別の場所に移動
 したのかも? どんなクツ?」

「黒色のローファーだよ」
「黒のローファーだね。サイズは?」

「36。日本の23だよ」
「メーカーは?」

「グッチ」
「グッチって、あの高級ブランドのグッチだよね?」
「うん、そうだよ。おばあちゃんが買ってくれたの。
 ビットローファーって言って靴に金具が付いてる」

通学用のクツがグッチなんて
さすがはお金持ちって感じだ。
でもグッチってことで捜しやすくなった。

未南と共に下駄箱の中や、その上
周辺も、くまなく捜した。

しかし、簡単には見つからなかった。

「別の場所も捜してみる」
未南がふいに言った。

もし誰かがクツを隠したとしたら
みつけるのは困難を極める。
ましてや、盗まれでもしていたら
まず発見できないだろう。

しばらくして、未南は下駄箱から
ちょっと遠くにあるゴミ箱の中を
捜し始めた。

まさか?
あの中にあるわけないよね……。
そう思った。

「あったよ!」

未南が声を上げた。
その手には、黒のローファーがあった。

あわてて未南の所に駆け寄る。
「見つかって良かったね」
「誰かに捨てられちゃったのかな……」

泣くのを我慢していたのか、未南の目から
涙がとめどなく、あふれてきていた。

ひどい! ひどすぎるよ!
誰が、こんなことを……。
もし……これがいじめだとしたら……。
そう考えれば考えるほど腹が立ってくる。

未南…………。

このいじめは、私が必ず解決してみせる!
川上奈緒の名にかけて!

私は、強い意志を持った。
それは、いじめから絶対に未南を
守るという意志を持ったのだった。

21:りな:2019/03/15(金) 20:23

(13)
この日の夜。
自宅でお父さんと夕食をとっている時。

「友達が、いじめられているみたい」

私は、いじめのことを相談することにした。

「いじめ? その子は何をされたんだ?」
お父さんが食べる手を止め、私に聞いた。

「親友に絶交されたり、みんなから無視されたりしてた。
 下校の時は、クツをゴミ箱に捨てられて可哀想だった」

「それは大変だ。奈緒が助けてあげなさい。
 その子はすごく辛い思いをしているはずだ」

「うん。そのつもり」

「先生にも協力してもらった方がいい。
 きっと力になってくれるだろう。それで。
 誰がいじめをしているのか分かっているのか?」

「まだよくわからない。今はクラスのほとんどって感じ。
 その子のお父さんが痴漢で捕まったみたいで……」

「痴漢? たとえ、どんな理由があったとしても
 いじめは絶対にしては、いけないものなんだ。
 すぐにやめさせるべきだ」

「そうだよね。私もそう思う」

「いじめは早急に解決した方がいいよ。
 不登校や自殺の原因にもなりかねない。
 新聞やニュースでよく目にするだろ?
 いま大きな社会問題になっているんだ。
 お父さんも協力するから何でも相談しなさい」

心強い味方を得た。
お父さんに相談して少しだけ心が軽くなった。

22:りな:2019/03/16(土) 07:54

(14)
食事を終えて部屋に戻ると。
ネットで調べ物をするため
すぐにパソコンのスイッチを入れた。

未南のお父さんが痴漢で捕まった。
それは、本当なのか? と思い。

事件を調べるため、修倉、痴漢と入力した。
そしたら検索結果に記事が出てきた。

5月。
電車内で女子中学生の体を触ったとして
迷惑防止条例違反の現行犯で
高校教諭 修倉大造容疑者(43)を逮捕した。
何もしていないと容疑を否認しているという。

「ハァー」
事実を知ってしまい……。
ショックのあまり、大きなため息が出た。

痴漢で捕まったのは事実だったのか?
誤認逮捕の可能性が、まだあるものの
仮に痴漢が事実だとしたら、ものすごい
嫌悪感がわいてくるのも、わからなくもない。
クラスメイトが未南をいじめる理由は
この事件が原因であることは間違いない。

次に、修倉未南、テニスと検索した。
テニス部は全国大会に出場するような
強豪校だったって未南が言っていた。

「あった。あった。」
サイトには、未南が一年生のときに
全国大会で優勝したと書かれていた。

「優勝かぁ。すごいなぁ」
私は思わず感嘆の声を出してしまった。

団体戦には姫川椿と和田萌奈の名前もあった。

テニスのことを色々調べたあと。
姫川グループのことやセントマリア女学園の
ことを、ちょっと調べてパソコンの電源を切った。

あとは一学期の中間試験も近いので
寝るまでの間、勉強に励むのであった。

23:りな:2019/03/17(日) 00:06

(15)
新しい朝を迎えた。
朝食を終え、真新しい制服に袖を通す。
「いってきまーす!」
リビングに居たお父さんに
大きな声で挨拶して家を出た。

外に出ると、小雨が降っていた。
私は傘を広げ、徒歩で学校へ向かった。

自分が住んでるマンションの敷地を出ると
道路をはさんだ向かいには豪邸があった。
ここらは高級住宅街。道中
行く先々に豪邸が立ち並んでいた。

みんなお金持ちなんだろうな……。
ふと、そんなことを思った。

二年生になって一ヶ月が経った。
転校は急な出来事だった。

最初はお父さんだけが引っ越したのだが
食生活や家事が、崩壊しまくっていたため
遅れて前の学校から転校してきたのだった。

ここに引っ越してきた理由は
弁護士のお父さんがタレントとして
こっちのテレビに出演するから。
もう一つは弁護士事務所を開業
するためだった。

お父さんが、この町を選んだ理由は
お金持ちが、たくさん住んでるとこで
開業したいっていうのが本音かな……。

そんなことを考えながら歩くこと数分
立派な門構えの学校正門に到着した。
右側の門柱には、石製の看板で
セントマリア女学園と書いてある。

このまま正門を抜けると
高級車が列を成していた。

車の後部座席から降りてきたのは
この学校の女子生徒だった。

昨日の帰りも随分、迎えの車が来てたなぁ。
高級車で送り迎えって、さすがはお嬢様学園だね。
その子たちが、ちょっぴり、うらやましかった。

24:りな:2019/03/18(月) 00:07

(16)
教室に入ると生徒の姿は少なく。 
まだ半数以下しかいなかった。

入口近くのクラスメイトに
「おはよう!」
と声をかけるも

「……」
その子から返事はなかった。

あれれ?
無視されているのかな?
少し落ち込むも、まあいいやと
なかば開き直り、自分の席に向かった。

隣の席に、まだ未南の姿はなかった。
「なにこれ?」
未南の机に違和感を覚え
思わず、つぶやいてしまった。

「ひどい……」
私の目が、まるで信じられないものを
見るようにカッと見開いた。

誰がこんなことを……。
未南の机には、チョークで落書きがしてあった。

心身を切り裂く、まるで凶器のように、文字が躍る。
早く辞めてください、ちかん、変態教師、即退学しろ!
被害者に謝れ、きもい、学校に来るな……など。
机には誹謗中傷する言葉が、ビッシリ書かれていた。
未南が見たら、どれも傷つく言葉の数々だった。

25:りな:2019/03/19(火) 00:12

「早く消さないと……」
雑巾(ぞうきん)で消そう。
そう思ったとき。

「おはよー」
背後から声をかけられ
身体がビクンと跳ねた。
しまった!
消す前に未南が来てしまった。

「おはよう。大変だよ。机に落書きされてるよ」
「本当だ。誰がこんな、いたずらするんだろうね」

未南は、怒ったり泣いたりせず、なぜか笑顔だった。

「先生が来たら言おうよ。これ。ひどすぎるよ」
「先生に言わなくてもいいよ。このくらい平気だから」

未南は、そう言って、右手でチョークの
落書きを全部、消してしまった。

「絶対、先生に言わないでね」
さらに念を押された。

え……?
なんで?
先生に言った方がいいのに……。

いじめは一人で悩まず。
誰かに相談した方がいいよ……未南。

(17)
終業のチャイムが鳴る。
三時限目が終了して休憩時間になった。

しばらく未南と会話をしていたら。

野村由香子が、こっちに向かって、歩いてきた。

「椿が、話があると言っている。
 だから、奈緒。一緒に来てほしい」

突然の申し出に、ちょっとビックリ。
いいけど、話って何?
椿のところに行くあいだ。
胸のドキドキが止まらない。
トイレとか誰もいない教室に連れていかれて
リンチとか? って、そんなぁ? まさかね。
あるわけないしょっ。漫画やドラマじゃあるまいし。

26:りな:2019/03/19(火) 20:59

でもリンチはイヤ。ぜっ、た、い、イヤだ 
もし、そうなら全力ダッシュで逃げよう……。

結局、取り越し苦労した。
行き先は、椿の席だった。

「来てくれて、ありがとう」
椿は私の到着を喜んでくれた。

「あなたにあげたいものがあるの」

椿の右手には、青い小箱があった。
いや、青と言うより空色。スカイブルーに
ホワイトリボンが結んである箱だった。

何かと思い、差し出された箱を受け取った。

「開けてごらん」
椿が優しい声で言った。
椿に言われた通りにして、リボンをほどくと
箱の上には英語でティファニーと書いてあった。

「椿、これは?」
「私から、あなたへの転入祝いよ」

「こんな高価な物、もらえないよ」
「遠慮しないで、ぜんぜん安物だから」

安物? でもコレ、ティファニーだよ?
5千円とか1万円くらいのもあるのかな?

箱を開けると、きらきらと輝くゴールドのペンダントが入っていた。

ヤバッ! これ何万すんの? 
いくらするか想像もつかないや!

「椿? やっぱ、こんな高価なもの、困るよ」
私は返すつもりで、椿に箱ごと差し出した。
椿はそれを受け取ると。
箱からペンダントを取り出した。

「私が、つけてあげるわ」
椿は、そう言って。
吐息を感じるくらいまで私に大接近してくる。
椿ってば、超美人で、女の私でも、ドキドキしちゃう。

「似合っているじゃない、とても素敵よ」

首につけられてしまうと、もう返すとは言えなかった。
困惑しながらも、高価なペンダントをもらってしまった。
椿って案外、いい人なんだね。リンチされるかも,とか
被害妄想していた自分を全力で恥じた。

27:りな:2019/03/20(水) 22:00

(18)
昼休み終了まで、あと五分。
私と未南は食堂から教室に戻った。
私たちが席に着いて、まもなく。

突然……。
「きゃっ」
未南がハズキ・ルーペをお尻で
つぶした時の様な声を上げた。

どうしたんだろう?
視線をやると。
未南は顔を真っ赤にして
恥ずかしそうにしている。

「どうしたの?」
「変なものが机の中に入っている……」
「変なもの? 何?」

私は未南を見て首をかしげた。
むむ、まさか? 
またイタズラされたのかな?
虫とか? 虫とか大嫌い! マジ怖いよ!

未南は、ゆっくり、それを取り出した。
「こんなものが机の中に……」
虫じゃない。なんと!未南が遠慮がちに
取り出したのは痴漢もののDVDの箱だった。
パッケージの表には女子高生姿の女性が見えた。

「ええ? なんでこんな物が入っているの?」

未南は顔を赤らめ、小さく首をふった。
「私の物じゃないよ。 ホントだよ」
そう言った未南は、耳まで真っ赤だ。

「わかっているよ。いったい誰が
 こんな悪質な、いたずらを!」
「これ、どうしよう?」
未南は、めちゃくちゃ困っている。

「いいよ。私に、ちょうだい。私が捨ててきてあげる」
私は未南からDVDの箱を受け取った。
「捨ててくるね」
本当にヒドイいたずらだ。怒りプンプン。こんなもの
教室の後ろにあるゴミ箱に捨ててきてやったわ!

28:りな:2019/03/21(木) 21:47

それから間もなく。

「だーれ? こんなの捨てたの?」
「たぶん、あいつじゃね?」
「まぁ、いやらしい」

ゴミ箱の周辺で話をしている女子生徒の
声が、こっちまで聞こえてきた。
私は彼女たちの話に聞き耳を立てた。

「コレさぁー。修倉先生の所持品じゃない?
 警察にバレたらヤバいんで証拠隠滅とか?」
「ああ! そうかもね! 大事な証拠品! 発見!」
「はぁ? ヤバイからって学校で処分すんじゃねーよ」
「ねえねえ。コイツ。持ち主に返しにいこう!」

大声で話をしている女子生徒の声が
教室中に響いて、ハッキリ聞こえた。

たった今、私が捨てたDVDケースを持って
そいつらが未南の目の前までやってきた。

その子たちは地味であんまり目立たない外見の
地味子ちゃん 三人組だった。

お嬢様が聞いてあきれる、品のない言葉使い
だったけど。とてもあんなこと言わない様な
真面目な子たちに私の目には映(うつ)った。

29:りな:2019/03/22(金) 23:08

「これ、あんたのでしょ?」
眼鏡をかけた子が、厳しい口調で聞いたと同時に。
未南の机にDVDケースを叩きつけた。

未南は首を大きく振った。
「私のじゃない」
未南の声は少し涙声だった。

「本当に? 痴漢の証拠。処分したんじゃないの?」
「違うよ」
未南は泣きそうになっている。

「フッ。私、わかっちゃったわ。私の推理では…………」

おいおい、眼鏡の子。
名探偵、いや、迷探偵みたくなってきたぞ。
それでも彼女は得意げになっている。

「あなたの家に今朝、捜査のために,警察がやってきた。
 それで修倉家は大パニックよ。あなたはお父さんの部屋で
 事件の証拠となる、このDVDを偶然みつけてしまったのね。
 それであなたは、これを通学カバンに隠し持って学校に
 きたってわけね。大事な証拠品を処分するために……」

毛利、小五郎のおじさんレベルの推理じゃん!

「朝、警察なんて来てないし、私の家に、こんな物ありません」

未南は全面的に否定した。  

30:くらん◆bY:2019/03/23(土) 10:02

実は、最初の方から見てたもので、すごい面白いな、と思ってました。
今更コメントしたのは、眼鏡の子の推理が面白かったからです。
迷惑だったらすみません。

31:りな:2019/03/25(月) 21:14

(18-続き)

「ふーん。違うの? いい推理だと思ったのにさ。
 それじゃあさぁ! この、いやらしいDVD!
 あんたのお父さんに差し入れしてあげたら? 
 先生、大喜びするんじゃない? ハハハっ!」

眼鏡の子が、そう言うと。
地味子の三人は大声で笑った。

く、くやしい……。
友達が侮辱(ぶじょく)されている。
キレそうだよ! 怒りを抑えきれない。
マジギレ発動!
マジキレしなきゃ友達じゃねーだろ!

「いいかげんにしなさいよ! 未南の机にコレ入れたのあんた達でしょ?」

「ちげーよ!」
「勝手に決めつけてんじゃねえよ!」
「ちょう、うざいんですけど!」
三人が一斉に逆ギレした。

負けないもん!
マジギレ発動中!

「未南を辱(はずかし)めるために、あんたらが仕組んだんでしょ?」 

「うっせーんだよ! 転校生!」
「お前は関係ないんだよ! 出しゃばるな!」
「てめーは黙ってろ!」

イラ、イラ、イラ。
一回言うと三倍になって返ってくる。
互いの怒りはヒートアップしていき。
あわや喧嘩が勃発する事態になっていた。

「もう、やめて。ケンカしないで」
未南が、あいだに割って入る。

すかさず。
「やめなさい!」
しかりつけるように言ったのは、仲裁にきた椿だった。

「でも椿さん、こいつ生意気な奴で」
地味子ちゃんの一人が,とりなすように椿に言った。

「この私がやめなさいって言ったのよ、聞こえなかったの?」
椿の声には威圧感があった。

「す、すみませんでした」
眼鏡の子が、パシッってDVDケースを手に取ったあと。
三人は椿に頭を下げ、そそくさと逃げるように、席へ戻っていった。

私のこと助けてくれたのかな?
「椿、ありがとう」

「ケンカしちゃダメよ」
椿がやさしい声で言った。

32:りな:2019/03/26(火) 19:53

(19)

帰宅して一時間が経過した。
あのあと、下校まで、何も事件は起こらなかった。
心配していた未南のクツも今日は無事だった。

放課後は未南とデート!
おしゃれなカフェでケーキを食べた。

そして。
この日の夜。 夕食の支度を終えて
お父さんと夕食をとっていると。

「いいネックレスしているなぁ?
 それ買ったのか?」
お父さんに聞かれた。

「クラスメイトに、もらったんだよ」

「昨日、話していた子にか?」

「違うよ。姫川椿っていう大金持ちのお嬢様から。
 あの超有名な会社、ヒメカワの社長令嬢だよ」

「ヒメカワ? あのヒメカワか?
 お父さんが出演している番組の
 スポンサー企業になってるぞ」

「ああ! ヒメカワのCM流れていたね」

「いい子と友達になったな」

「まだ友達ってわけじゃないけどね」

「その子とは仲良くしとけよ」

「うん、そのつもり」

椿と友達になれるといいなぁ。
今日は、椿の好感度が大きくアップした。
このペンダント、ネットで調べたらすごく高価な物だった。
転校生の私に、こんな高価な物をくれるなんて驚いた。
椿の気持ちが、ホントにうれしかった。これ毎日つけようかな?
このペンダントは私の宝物だ。一生大事にしよう。

(20)

新しい朝が来た! 希望の朝だ!
今日も元気に登校した!
翌日は昨日の朝よりも早く学校に着いた。
机の落書きをどうにかしようと思っていた。

教室に入る。登校しているクラスメイトは
昨日より少なかった。未南も居なかった。

机の落書きは?
脇目も振らず、未南の机を見に行った。

内心、落書きが無ければいいが……。
そう思っていた。

だが、その期待は見事に裏切られた。
もう落書きがあったのだ。

33:りな:2019/03/27(水) 12:32

昨日と同じように未南の机には
チョークで落書きがしてあった。

これ、誰がやったの?
きっと犯人はこの教室の中にいるはず!
でも犯人を特定する証拠が何も無かった。

だからといって、このまま落書きを消しても
なんの解決にもならないかもしれない?

少しでも問題解決の糸口を得るため考えてみた。

キョロキョロと教室を見渡すと、落書きをした
容疑がかかる人物は登校しているんだよね。

転校初日、未南の顔にバスケットボールを
ぶつけた、茶髪のヤンキー女、榊田真紀!

昨日もめた地味子、三人娘!

それから、姫川椿と和田萌奈。

未南の机に落書きした犯人はこの中にいる!?

ケンカしちゃダメよって、椿から言われているから
なんか、榊田真紀や地味子には聞きずらいなぁ。
どうしよう? 椿って学級委員だよね?
そうだ、姫川椿に相談しよう!

34:りな:2019/03/27(水) 20:44

そう思って、椿のところへ行く。
椿は友達の萌奈と、楽しそうに話していた。
それをさえぎって、遠慮がちに椿に話しかけた。

「話したいことがあるんだけど……」

「何? どうしたの? 仲間に入れて欲しいの? いいよ」
椿が、私に向かって,優しくほほえんでいる。

「あっ。そうじゃないんだ……」
そうでもいいけど、今は違う話をしにきたんだ。
よし。本題に入ろう!

「椿。未南の机がチョークで落書きされてるよ!
昨日もされてた。しかもひどいことが書いてある」

「あら? そうなの? 気が付かなかったわ」

椿は落書きのことを知らない素振りを見せた。

「え?」 
て、ことは。
椿たちは犯人じゃないってことか?
ちょっとだけ疑ってたけど……。

「本当だよ。見に来て」

私は椿と萌奈を連れて行き、未南の机を見せた。

「ほらね」

椿と萌奈の二人が落書きを見る。

「ふふふ、ははは、ははは」

椿が突然、笑い出した。

「あの子、嫌われているからね。
 いい気味だわ」

私は予想外の言葉に唖然(あぜん)とした。

「どうして、こんな態度を取るの?
 二人は親友だったはず……」

「親友……。確かに未南は親友だった……。
 でも、それはもう過去の話よ…………」

椿は悲しげな表情を見せた。

35:りな:2019/03/28(木) 20:28

「過去じゃないよ! 今もだよ! 今も
未南は椿のこと、親友だと思っている」

と真剣に訴(うった)えかけていた。 

「もう戻れないわ、昔の関係には……。
 あいつがいけないのよ、あいつが……」

はっ? 
なに昔の恋人みたいなこと言ってんの……。

「それってテニス部のこと?
 退部させられたって聞いたよ」

「あ、あいつ、そんなことまで
 あなたにしゃべったのね」

「あれ、悪いの椿なんじゃ?」

「あなたまで、そんなことを言うの?
 理不尽な理由で退部させられて
 大好きなテニスを奪われたのよ。
 あなたにその苦しみが分かって?」

「気持ちは分からなくもないけど。
 部活を辞めるのも親友を失うのも
 両方、大きいと思うけどな」

「プライドをズタズタにされたのよ。
 あの親子にね。あの二人、もう
 絶対に許すことができないわ」

「まぁ、椿も苦しんだんだね」

「未南には私以上の苦しみを与えたいの。
 倍返しよ! 倍返し。地獄を見るがいいわ」

地獄って、そんな……。
椿って敵にまわすと……怖い。と思った。
――――?
この瞬間……。
椿が、このいじめに関わってんじゃねぇ?
そんな疑惑を持ってしまった。
そんな、まさかね。

36:りな:2019/03/29(金) 21:00

だが二人が落書きをした可能性もゼロじゃない。
非礼を承知で、単刀直入に質問した。

「これやったの椿と萌奈じゃないよね?」

机の落書きを指差して二人に聞いた。
瞬時に二人の表情が変わる。

「やったの、うちらじゃねーよ」
萌奈はイラッとしたのか
怒り気味の口調で答えた。

「無礼者! この私を犯人扱いするなんて
 失礼よ! 謝りなさい! いますぐに!」
椿はひどく憤慨して謝罪を要求している。

うわー! 失言だったかも……。
「ごめんなさい」
椿の迫力に負けて、すぐさま謝罪した。

「まぁ、いいわ。許してあげる。特別にね」
椿は怒った顔をしたが、すぐ笑顔に戻った。

生まれて初めて、無礼者って言われた。
プライドの高そうなお嬢様をこれ以上
怒らせるのは得策ではない。
方向転換しよう。

「でも、これ誰がやったんだろう?」

「さぁー? 誰がやったのかしらねー?
 修倉親子は、学校全体の敵だからね」

椿の言う通り、犯罪者の家族が
学校や世間から敵視されることが
実際にあるらしい。オウムの教祖の娘や
毒物カレー事件の息子など、親がしたこと
で子供が責められ、いじめられたり,差別
されたりする場合が実際にあったみたいだ。

37:りな:2019/04/01(月) 00:10

「あのさ、椿は学級委員なんだから
 立場上、クラスで問題が起きたら
 注意しないといけなくない?」

「あら? そうかしら?
 でも犯人が分からないから
 注意することができないわ。
 しかも、このクラスの子が
 やったとは限らないじゃない?」

「きっと犯人は、クラスの人だよ」
私はなおも食い下がった。

「違うかもよ? 証拠でもあるの?」
椿の答えは、そっけない。

「なんか、めんどくさっ」
萌奈の唐突な一言で、思わず「え?」となった。

「自分で言えばいいじゃん?」
萌奈の予想外の言葉に私は戸惑った。

「私が言うの?」
とっさに言い返したあとで。
他人に注意してよ、と言っておきながら
自分では言えないのか? と自問した。

「わかったよ。自分で言うよ」
私は意を決した。
勇気を出して言わなくちゃ!
未南と約束したんだ……守るって……。
だから言わなくちゃ! 

38:りな:2019/04/01(月) 20:22

「この落書きを書いたのは誰ですか?
 もし、この中に書いた人がいるのなら
 こういうことするの、やめてください」

教室にいるクラスメートに向かって
言ったが、誰からも反応がなかった。
みんな無視してる?

もう一回言おう。
「ひどい落書きは、やめてください!」
少しばかり語気を強めて言った。
私の言葉に茶髪のヤンキー女、榊田
地味子、3人娘たちも無反応だった。

私は、徹底的に無視されているので。
まるで独り言を言っているみたいで。
なんだか恥ずかしくなってきた。

やっぱり、先生に言おう。それがいい。
お父さんも言った方がいいって言っていた。
善は急げ。職員室へレッツゴー。

おっと! その前に、落書きの証拠写真を撮って。
それから、ハンカチを使って落書きを消した。
だって未南に、こんな落書き見せたくないもん!

「ごめん。ちょっと、急用を思い出した!」
椿と萌奈に、そう、声をかけた。
あまり時間がない……。急いで教室を出て
廊下を小走りして、階段を駆け下りた。

39:りな:2019/04/02(火) 20:17

(21)
「ハァ、ハァ、ハァ」
職員室の前で、弾んだ息を整え、中に入る。
入り口でキョロキョロと首を動かし担任を探した。
担任は眼鏡をかけている若い男の先生だ。
あっ! 高木先生! みつけた!

「先生! ちょっといいですか?」

「川上さん? なんでしょうか?」

「実は相談したい事があって」

「相談ですか? いいですよ。
 あまり時間がありませんが……」

「うちのクラスの修倉未南のことは
 わかりますよね? 今日学校に来たら
 チョークで机に落書きがしてありました」

「修倉さんの机に落書きですか? 
 なんて書いてありましたか?」

「早く学校を辞めてください、ちかん
 犯罪者の娘、きもいから学校に来るな
 よく学校これたね、学校から消えてほしい
 とか書いてありました」

「えっ? そんな、たくさん、ひどいことが……」

「これは、先ほど撮った証拠写真です」

私は高木先生にスマホを渡した。
先生はスマホの画面を凝視する。

「これはいけませんね。誰が落書きを
 書いたか、わかっていますか?」

「誰か書いたのか、わかりません。
 でも二日連続で書いてありました」

「今日だけではないのですね」

「はい。未南は、痴漢の容疑で、父親が逮捕
 されたことが原因でいじめられています」

「僕も同僚が逮捕されたので、すごく
 ショックを受けていましたが……。
 いじめのことは知りませんでした。
 いじめられているって本当ですか?」

「いじめは本当です。
 いじめがなくなるように
 先生、協力してください」

「わかりました。全面的に協力します。
 二人で一緒にいじめをなくしましょう」

「はい!」

「あっ。そろそろホームルームの時間ですね。
 一緒に教室に行きましょう」

「そうですね」

私は高木先生と職員室を出て教室へ向かった。

40:りな:2019/04/03(水) 21:05

(22)
廊下には、すでに人けが無く
辺りには静寂が漂っていた。

自分の教室に向かう途中
教室の中をチラリと覗く。
ここは女子高だから中は
女子生徒ばかりだった。

教室の前に着くと、先生は前の扉
私は後ろの扉から教室に入った。

教室にはクラスメイト全員が揃っていた。
空席は自分の席だけだった。
急いで自分の席に着席すると。
私は顔を未南に向けて
「おはよう」
未南に小声で挨拶をした。
「おはよう」
未南も、つられて小声で返事をする。

高木先生は教壇に立ち、出席簿を開いた。
「おはようございます。出欠を確認します。
 えーと……。全員揃っていますね」
高木先生は挨拶したあと出欠を確認した。

「今日は皆さんに残念なお知らせがあります」
そう前置きしたあと一旦、言葉を詰まらせた。

「先日。逮捕された修倉大造先生は
 とうぶん学校に来られないようです。
 着任早々、本当に残念です」

警察に捕まったまま
家に帰ってきてない
と言っていたなぁ。

「みなさんショックだと思いますが
 中間試験も近いので、余計なことは
 考えず、勉強に集中してください」

高木先生の話を聞き、クラスメイトがざわつく。

高木先生は、しばし沈黙した後。
「それと、もう一つ!」と怒気を込めて言い
出席簿を机に思いっきり叩き付けた。
バンという大きな音が教室に鳴り響く。
騒がしかった教室が急に静まり返った。

41:りな:2019/04/05(金) 20:34

高木先生は怒っているみたいだ。

「修倉さんがいじめにあっていると聞きました。
 それが事実であれば、非常に怒りを覚えます。
 誰がやったんだ? という犯人捜しはしません。
 だが、いじめは絶対に許されない行為です」

最初は、おだやかな口調だった。

「いじめは悪だ! 悪そのものだ!
 君達は恥ずかしくないのか?
 高校生にもなって善悪の区別が
 付かないわけがないだろ?」

徐々に強い口調となり

「このクラスは成績優秀者だけを集めた
 選抜クラスだぞ! 他の生徒の模範に
 ならなければいけないクラスだ。
 そのクラスの生徒がいじめとは
 情けないにも程があるぞ!
 金輪際、いじめはするな!
 わかったか?」

しまいに高木先生はブチ切れた。
教室が重苦しい空気に包まれる。

「返事は?」

怒りがおさまらない高木先生は
机に拳を思いっきり叩き付けた。

その音に一瞬ビクッとする私。
その直後。

「はい」
「はい!」
「はーい」
生徒達はバラバラに返事をした。

「はい」
ほんの少し遅れて、私も返事をした。

これをきっかけに
いじめがなくなればいい……。
そう願わずには、いられなかった。

42:匿名:2019/04/08(月) 20:32

(23)
授業が終わって、休憩時間になった。
あのあとの一時限目は、考え事ばかりで
授業に、まったく集中できなかった。

これでいじめがなくなるの? とか
先生の行動は正しかったの? とか
いじめが続いたら、どうすればいいの?
とか、いっぱい悩んでしまった。

そんなことを考えつつ、机の上にある
教科書とノートを片付けた。

「奈緒? 一緒にトイレ行こうよ!」
未南から、ふいに声をかけられた。

「いいよ。いこう」
私は誘いに応じて、トイレに行くことにした。

教室を出て、二人で肩を並べ、廊下を歩いていると

「チクってんじゃねえぇよ!」
という声と共に、後頭部をパチンと叩かれた。

「痛い! 何するの?」
私が振り返ってそう言うと、二人の
女子生徒が背中を向けて猛ダッシュで
逃げていくのが見えた。

「痛い……」
未南も後頭部を押さえ痛そうにしている。
どうやら未南も叩かれたようだ。

私はとっさに追いかけることができず。
犯人を捕まえることができなかった。

クソう……。ホント腹が立つ……。
やり場のない怒りを覚えた。

43:りな:2019/04/09(火) 20:02

「先生にチクったの奈緒でしょ?」
「う、うん」

私が答えると未南は、厳しい
目つきで私を、にらんできた。

「なんで先生に言うの? 
 絶対に言わないでって
 言ったのに」

「ごめん、でも先生に言った方がいいと
 思って……。先生ね、いじめがなくなる
 ように協力してくれるって言ってたよ」

「なくなるかなぁ? なくなればいいけど
 またみんなを怒らせて、もっと嫌われたら
 どうしよう……」

不安そうに言う未南の手を
私はギュッと握った。

「大丈夫、何があっても私が守るから
 一緒にがんばろう」

そう言ってる私も、本当は不安だった。
嫌われるのも、いじめられるのも怖かった。
でも今、未南を守れるのは私しかいない。
自分に、そう言い聞かせていた。

44:りな:2019/04/10(水) 20:21

(24)
トイレから教室に戻り、席についた。
次の授業の準備のため
英語の教科書とノートを
出そうとしたが、英語の
教科書が見つからなかった。

「おかしいなぁ」
さっきまであったはずなのに……。
机の中身を全部だし、英語の教科書を探した。

未南が私の異様な行動に気が付いた。
「どうしたの?」
「英語の教科書がないの」

「忘れてきたんじゃない?」
「ううん。きちんと持ってきたはず」

「じゃあ、なんでないんだろう?」
「わからない」

なんでだろ?
もしかして。
誰かに盗られた? 
そうかもしれない。

さっきは頭を叩かれ、今度は教科書を盗まれた。
そう思うと激しい怒りが込上げてきた。
怒りで自分の体が震えるのが分かるほどだった。

「誰よ!! 私の教科書、盗ったの!」
思わず立ち上がって叫んでいた。

「私の英語の教科書返してよ!」
誰からも反応がなかった。

「犯人はクラスメイトでしょ?」
もう頭にきた!

さらに怒りが増した私は、自分のイスを蹴っていた。
イスが後方へ飛ぶと壁にぶつかり大きな音がした。

「知らねーよ、お前の教科書なんて」
「あいつ、頭おかしいんじゃね?」
「あの子、馬鹿?」

クラスメイトの冷ややかな言葉に
怒りと共に涙が出そうになった。

45:桃瀬&◆hw:2019/04/11(木) 19:56

この小説、すごく好きです!更新されるのいつも楽しみにしてます!これからも応援してます📣

46:りな:2019/04/11(木) 22:21

「お願いだから返してよぉ……」
先ほどまでの威勢は失せ、弱気になっていた。

なんで、みんな笑ってんの?
そんな私を見てクラスメイトたちは
ニヤニヤしている。妙だなぁ?
何かがおかしい……。

「どうしたの? 奈緒? 何で怒ってるの?」
気が付くと目の前に、姫川椿が立っていた。
椿は私に向かってやさしくほほえんでいる。
それを見て少し冷静になった。

「教科書、誰かに盗られた……」
「ん? 盗られた? 証拠もないのに
 盗られたって決め付けるの、良くないわ」
私が困っているのに、椿は嬉しそうな表情を見せた。
それには少しだけ違和感を覚えた。

「そうかもしれないけど実際に
 教科書がなくなったんだ」
私が切羽詰まった気持ちで、そう言うと

椿はふきだして笑い。
「教科書無くしちゃったの? しょうがないわね」
と、せせら笑うような口調で言った。

「私、学級委員だし、みんなに聞いてあげるわ。
 みなさーん、奈緒が教科書なくしたみたいだけど
 誰か知らなーい?」
椿は教室内のクラスメイトたちに向かって言った。

「知らないよ」
「知りませーん」
「私も知りませーん」

聞かれたクラスメイトたちは、素っ気無く答えた。

47:匿名さん:2019/04/12(金) 20:04

思ったことがあるんですけど…>>30のレスや>>45のレスで、応援が来てますよね??
それに対して何も応えないんですか?

48:りな:2019/04/15(月) 23:34

「み--んな。お前の教科書なんて
 知らないって、キャハハハハ」

大声で笑ったのは萌奈だった。
それにつられて教室中から笑いが起こる。
目の前の椿も、笑みを浮かべている。

「残念。誰も知らないって……。
 力になってあげられなくて
 ごめんねぇー」

椿が、ちょっと幼い口調で言った。

「誰も知らないわけないじゃん!
 犯人はこの中にいるはず!」

「犯人捜しは、やめましょう。
 クラスの雰囲気が悪くなるわ
 私がお金あげるから、これで
 新しいの買いなさい」

椿はポケットから財布を取り出した。
高級そうな財布の中には札束がギッシリと
詰まっていた。そこから五千円札を取り出し
そのお金を、私に差し出した。

「え……。そんなの受け取れないよ」

「いいじゃない。もらっておきなさい。
 遠慮することはないわ。入学早々
 誰かさんのせいで、とんだ災難ね」

椿から差し出されたお金を受け取れずに困っている
と座っていた未南が席から立ち上がった。そして
教室の隅にあるゴミ箱まで歩いて、立ち止まった。
その行動を不思議に思い、ずっと目で追い続けた。

まさか? あの中に教科書が! と思った直後。
未南がゴミ箱の中に手を突っ込んだ。

「汚い!」
「何やってんのあいつ」
「ゴミ、あさってんじゃねーよ!」

クラスメイトは未南に軽蔑した言葉を浴びせる。

私の教科書がゴミ箱の中にあるのだろうか?
このまえ未南のクツがゴミ箱に捨てられていた。
それを考えれば、その可能性は十分にありうる。

しばらくたって、未南が探すのをやめた。
身体を起こして、こちらを向くと、未南の
手には英語の教科書があった。
あれは私の教科書なの?

未南は私のもとに駆け寄り教科書を差し出す。
「未南、それ私の教科書?」
私は教科書を受け取って未南に聞いた。
私の問いに未南は黙ってうなずいた。
みつけてくれたんだ! ありがとう
と言おうと思ったその時、椿が大きな声で笑った。

「アッハハハ、あーら。犯人は未南だったの?」

私はすぐに反論した。
「何言ってんの? 未南が犯人なわけない。
 休憩時間、ずっと私と一緒にいたんだもん。
 この前、未南のクツがゴミ箱に捨てられてた。
 教科書だって、そいつらのしわざに違いない」

「あっそう……それはお気の毒ね。ねえ?
 どうしてこんな目にあうかわかる?」

は? 先生にチクったから?

「未南の友達だからよ。嫌われ者の未南のね。
 だから 早く友達をやめた方がいいよ」

「はぁ? なにそれ? 意味わかんない」

私が椿をにらみつけると

「私のことは嫌いになってもいい。でも
 奈緒のことは嫌いにならないで……お願い」

未南が涙を流してそう訴える。

「いいよ。そのかわり未南は消えてよ。
 私の目の前からいなくなってよ!
 これ以上、私に嫌な思いをさせないで」

それに対し、椿が耳を疑うような
ひどい言葉を投げかけた。

「えっ?」

目を大きく見開き、驚いた表情の未南。

49:りな:2019/04/16(火) 21:02

追い打ちをかけるように
周囲から汚い言葉が飛ぶ。

「椿さんの言う通りだわ。消えて!」
「もう学校くんな!」
「学校やめちゃえよ」
「未南、さようなら」
「いっそ、しねば?」

こいつら最低だ
傷つく言葉を平気で言ってる。
これは言葉の暴力だ。
こつらは、お金持ちのお嬢様で
世間には立派かもしれないけど
やってることは最低なヤツらだ!

「そ、そうだよね。私なんか消えちゃえばいいよね」

未南は涙ながらにそう言うと。
教室から飛び出していった。

「待って! 未南!」
私は教室を出て未南のことを追いかけた。

みんな、ひどい

ひど過ぎるよ……。

未南が何したっていうの?

「未南!」

私の必死の叫びは未南の耳には届かなかった。

走って階段を昇って最上階まで来てしまった。

どうしよう?
まさか?
飛び降りたりしないよね?
最悪のケースが脳裏をよぎった。

未南が突き当りにある教室に入った。
ここ、音楽室?
あとを追って私も教室に入った。

ああ! うそでしょ? 
教室には未南の姿が、もうなかった。
ギャアアアアアアアアアッ!
私は心の中で絶叫してしまった。

あの開いている窓から下へ飛び降りてしまったの?
そんなあ……。
まさか……。
そう思うと、恐怖で全身がブルブルと震(ふる)えた。

いやだ
死んじゃあ、いや。
まだ友達になったばかりだよ。
これからいっぱいおしゃべりしたり
遊んだりするはずだったんだよ。
それなのに……。

「どうして?」
涙腺が崩壊して涙が止まらない。
絶望に打ちひしがれながら。
フラフラと窓に向かって歩いた。

50:りな:2019/04/17(水) 20:09

あれ? どっかから、声がする。耳を澄ますと。

「うう、ハァ、ハァ,ハァ。うう、ハァ、ハァ、ハァ」

泣き声交じりの荒い息づかいが聞こえる。
どこだろ? と声のする方まで歩いていく。

「未南?」

泣いているのは未南だった。
机の陰(かげ)に、しゃがみこんで
未南は泣いていた。

ホッ……。
飛び降りてなかった。
早合点だった。
生きててよかった――――。

私の声に反応して未南は顔を上げた。

「あっ。奈緒……。来てくれたんだ。
 怖くなって逃げてきた。心がすごく痛くて
 私、辛いよ……。もう学校やめようかな?
 こうなったの。全部、私が悪いんだよね?
 いじめは、その人に原因があるんだよね?」

私は、大きく首を振った。

「未南は、何も悪くない。これだけはハッキリしてる。
 未南をいじめていい理由なんて、ひとつもないよ。
 いじめは、いじめてる人が100パーセント悪い。
 いじめは、しない、させない、くわわらないだよ」

「なんか標語みたいだね。でも私は
 これから、どうしたらいいんだろう?」

「周りの人に助けてもらおう。友達や先生
 家族に頼ろうよ。私も未南の助けになりたい」

「迷惑じゃない? 私のせいで奈緒まで辛い思いをするかも」

「迷惑じゃないよ。だって友達だもん。未南のこと大好き。
 何があっても私は未南の味方でいる。約束するよ」

「ありがとう。私、がんばる。がんばるね」
「うん。がんばろう……。ね、教室、戻ろうか?」

「ごめん、もう少し、ここに居てもいいかな?」
「あっそうだ! 英語の授業さぼっちゃわない?」

「えっ? 大丈夫かな?」
「たまには,いいんじゃない?」

「そうだね。たまには、いいかな?」
ニコッと、未南の口元からほほ笑みがこぼれた。


結局、授業をさぼり、誰もいない教室で
ずっと、おしゃべりをしていた。
会話に花が咲き、授業の終わりを告げる
合図のベルが鳴るのを早く感じた。

51:りな:2019/04/18(木) 20:49

(25)
私と未南は、二人しかいない音楽室で
二時限目を終えた。
私たちは教室に戻るため、音楽室を
出て、階段を下りていく。

結局 英語の授業には出席しなかった。
罪悪感がないと言えば、嘘になるけど。
まぁ、いいか!
一度くらいは、なんてことないさっ。

ああ、そうだ! 
未南に、ひとつ聞きたいことがあったんだ!

「未南ってどうして、あんなに英語が上手なの?」
「小さいとき、アメリカに住んでたからだよ」

「ええ? 未南は帰国子女なんだ?
 でもお父さん、学校の先生だよね?」

「でも昔はプロテニスプレイヤーだった。
 日本とアメリカを行ったり来たりしてたよ。
 でも聞いたことないでしょ。修倉なんて名前」

「ごめん、ぜんぜん記憶にないや」
昔の人で知っているのは松岡修三とか伊達公子とかかな? 
修倉なんて選手の名前、まったく聞き覚えがないや。

「ケガが多くて、あんまり活躍してないからね。
 三十前に引退して、その後は教師になったの」

「へー。元プロなの。テニス、上手なのはお父さんの影響?」
「うん。小さいときから、お父さんにテニスを教わってた」

そーか。そーか。それでテニス、上手なんだ。

未南がテニスの高校生チャンピオンなのも合点がいく。


(26)
未南と一緒に教室に戻った。私と未南に
クラスメイトから向けられる視線が突き刺さる。
教室内が、ざわざわと、ざわついてくる。

「未南、帰ってきたよ」
「本当だ。奈緒もいる」
「あの二人、授業さぼったの?」
「また先生にチクりにいったんじゃね?」
「チクり魔だな、あいつ」

私たちに対する容赦ない悪口が聞こえる。

「クラスメイトの言葉なんて何一つ気にする必要はないよ」

私は未南を励ますように語りかけた。

未南は、こっちを向き、無言でうなずいた。

52:りな:2019/04/19(金) 21:35

クラスメイトの声を無視して
席に向かって歩いていくと。
野村由香子が、こっちへやって来た。
由香子は椿の友達の一人だ。
未南に、何か言うつもりか?
私は思わず身構えた。

「椿が、話があると言っている。
 奈緒だけ、一緒に来てほしい」
「私だけ?」
「未南は来なくていい。いくぞ、奈緒」
「うん、ちょっと行ってくるね」

由香子から、そう言われたので
由香子の後ろからついていった。

行き先は、椿の席だった。

椿は、手と足を組んで座り
ちょっと不機嫌そうにしていた。

「どうして英語の授業に、でなかったの?
 まさか、先生のところ、行ってたの?」

椿が少々強い口調で聞いてきた。

「違うよ、ずっと未南と音楽室でしゃべってた」

私がそう言うと、椿が安どの表情を見せた。

「そうなの? それなら、いいわ。
 私ね。奈緒をいじめてはダメって
 クラスのみんなに言っておいたわ」

椿は真顔でそう言った。

「ありがとう」
私は、とりあえず、お礼を言った。

「私もいじめは良くないって、思うの。
 もし、またいじめにあったら、私に
 相談しなさい」

椿の意外な申し出に、ちょっとビックリ。
椿って私には、案外やさしいんだよね。
そうだ。ついでに。
「相談と言うか、ひとつ、お願いがあるの」
「なあに?」
「未南と仲直りして!」

「あのね。何度も無駄に言わせないで!
 未南とは絶交したって言ったじゃない!」

椿が怒りだしてしまった。
なかなか頑固な性格で一筋縄ではいきそうもない。

「そんなことより、今日の放課後、暇かしら」
椿が、唐突に話題を変えてきた。

「うん、まぁ、暇だけど」
「お暇? じゃあ、二人っきりで、なにか
 おいしいスイーツでも食べにいかない?」

え? え? 椿から誘われちゃった。
「う、うん。いいけど……」

「じゃあ、放課後、帰らないで教室で待っててね」

あっさりOKを出してしまった。
だって、断ったりしたら……。
よくも私の誘いをことわったわね!
許せないわ! キーー! 
とかなりそうだし……。それに
椿とは仲良くしたいと思ってる。
でも、ちょっぴり不安だなぁ。
椿と二人きりで何を話せばいいんだろ? 

53:すぴか☆彡キサラギ◆y2:2019/04/20(土) 12:35

言葉の使い方?が上手で読んでて面白いです!
これからも頑張ってください!

54:りな:2019/04/20(土) 20:07

(27)

校内の掃除を終えると、放課後になった。
帰宅の途につく人や、部活動に行く人が
次々に教室をあとにする。

「これから椿と一緒に食べに行くの」

「いいなぁ。うらやましい」

未南が可愛くすねる。
やっぱ、未南ってかわいい!

「一緒に行こうって、言えばいいじゃん?
 私、椿と二人っきりって、なんだか不安」

「それ、無理だと思う……。私、先に帰るね。バイバイ」
未南は、悲しい表情を浮かべたあと。
私に手を振りながら教室を出て行った。

私は人もまばらとなった教室で
約束通り椿が来るのを待っていた。

鏡で顔を見たり、髪の毛を直したり
なんだか、さっきから落ち着かない。

「奈緒! お待たせ!」

椿が手を振りながら教室に入ってきた。

「椿!」

私も笑顔で手を振り返す。

「さぁ行きましょう。すぐ行くから入口で待ってて」

椿は席からカバンを取ると。
すぐに私が待つ入口にきた。
私たちは一緒に教室の外に出た。

55:りな:2019/04/21(日) 07:20

私と椿は、肩を並べ、廊下を歩き出した。

うわぁー。なんか、ド緊張する。

こんな超美人でお金持ちのお嬢様と
いままで友達になったことないもん!

もし椿を、人気の美人女優と例えたら。
私の立場なんて、珍獣ハンターとか
雪山登山させられる、お笑い芸人だよ。

いやいや、そんなことより。
とりあえず、なにか話さなきゃ!

「今から、どこへ行くの?」

「姫川プリンセスホテル。
 私のお父様の会社が
 経営するホテルよ」

「知ってる。知ってる。
 全国展開している。
 高級ホテルだよね」

まあ、泊まったことないけど……。

「スイートルームが空いてたから
 その部屋で、有名パティシエが
 作ったスイーツを食べましょう」

スイートルームでスイーツですと?

夢のような話だ。
いや、まてよ?
まさか、罠? お金はどうすんの?
割り勘ね、とか言われて、あとから
何十万も請求されたらどうしよう?
これは、ちょっと、まずいかも……。

「私、お金、そんなに持ってないよ。どうしよう」

「心配しないで、費用は全部、私が払うから」

なんという神対応!

「外に送迎の車が用意してあるから
 それに乗ってホテルに行きましょう」

椿の言葉には、何度も驚かされてしまう。
椿って、やっぱり、ただ者じゃないのね。

56:りな:2019/04/21(日) 19:16

(28)
私たちは制服の格好のまま
ホテルに向かう車の中にいた。
送迎の車は、まだ新しい高級車だった。

「この車ってロールスロイス?」
「そうよ。六千万円くらいする車よ」

六千万? 消費税だけで車が買えるじゃん!

「すごーい。こんな車に乗るの初めて」
「フフ、驚いた?」

「うん、椿は本当にお金持ちなんだね」

「そうよ。姫川グループは大企業だもの。
 お金持ちになると、いい思いができるのよ。
 今つけているネックレスは百万くらいかな?
 この時計も同じくらいね」

椿は自慢気な顔をしている。

そうだ! この機会に、この前もらった
ペンダントのお礼、ちゃんとしないと。

「ペンダントありがとう。毎日つけてるよ」

「そんな安物で満足してちゃダメよ。
 もっと、いいものを身に着けたい。
 そう思わないといけないわ」

「これでも十分高価なものだよ」

「常に今より、もっと上を目指しなさい。
 上昇志向の無い者は、成功しないわよ」

「はぁ」
「私と仲良くなれば、もっと高価な物あげる」

「そんな、私なんかに、もったいないよ」
「私は、あなたを高く評価している」

「え?」

「あなたには特別な才能があるわ。
 私、あなたを応援したいと思ってる」

「そんなあ、私は、そんなにすごくないよ」

「聞いたところによると、バスケで準優勝したってね。
 フィギュアスケートの紀平ちゃん、将棋の藤井くん
 私は、同世代で頑張っている人が大好きなの。
 うちの会社にバスケのチームがあるの知ってる?」

「うん、知ってる」

「将来、高みを目指すなら、あなたのこと
 お父様に紹介してあげる。うちのバスケ
 チームに入れるように頼んであげるわ」

「私なんかが、バスケ選手に?」

「全国大会を目指しなさい、そこで活躍することね。
 あなたは、そのためにこの学校に入ったんですもの。
 どんどん上を目指して、学校の名声を高めてね」 

「うん、がんばるよ」

バスケット選手か……。
この場の雰囲気に流されてしまったけど。
私は将来、お父さんや死んだお母さんみたいな
弁護士になりたいと思っているんだけどね。本当は。

57:りな:2019/04/22(月) 19:56

(29)
ホテルにチェックインしたあと。
すぐにエレベーターに乗り込んだ。
スイートルーム専用のカードキーを
差し込んだエレベーターは、最上階
に到着した。このフロアの利用者しか
来ることができない仕組みのようだ。

「うちで最もグレードの高い
 ロイヤルスイートよ」
椿は、そう言って、入口のドアを開けた。

部屋に入ると、まず目に飛び込んだのが
この街を見渡せる、最上階の大パノラマ!
「うわー! すごい! 景色!」
もういきなり、テンションアゲアゲだよ。

「スイーツの用意が、できてるから
 こっちへいらっしゃい」
景色を眺めている私に椿が声をかけた。

広いリビングスぺースには、立派な六人掛けの
テーブルとイスがあった。テーブルの上には
有名パティシエが作ったと思われる、極上の
スイーツが盛大に並べられていた。

「こんなにたくさんのスイーツ、二人分なの?」
私は椿に聞いた。

「あなたの好みが、わからないから、スタッフに
 指示して、たくさんのスイーツを用意させたわ」

感激! 私のために、すごい気配り!

「おなかすいたでしょ? 食べましょう」

そう言って椿は、イスに腰を下ろした。
私は椿と向かい合って席に座った。

「スイートルームでスイーツって
 なんかダジャレみたい。そもそも
 スイートルームって甘い部屋?
 って意味なのかな? ハハハ!」
私はギャグのつもりで言った。

「奈緒。スイートルームのsuiteは
 甘いって意味のsweetとは違うのよ。
 それにスイートルームは和製英語。
 英語ではホテルスイートって言うの」

「そうなんだぁ」

ああ、なんか恥かいちゃった。
ハハハ。
椿って物知りだなぁ!

58:りな:2019/04/23(火) 20:57

(30)
食べ始めて三十分くらいたったかな?
スイーツも半分くらいは二人で平らげた。
もう、おなか、いっぱいだ。

食事も一段落したところで。
椿はケーキフォークを皿に置いた。

「そろそろ本題に入りましょう」
椿は冷たいグラスを飲み干すと
そう、話を切り出した。

「――?」
本題って、なんだろう?

椿は私の顔をじっと見た。

「あなたに、ツバキ会の、メンバーになってほしいの」

つばき会?
何それ?
悪の組織?
私は首をかしげた。

「ごめん。ちょっと、説明が足らなかったわね。
 芸能人にも、なんとか会とかってあるでしょ? 
 仲のいい人が集まる……。それと同じものよ」

「ああ! なんだ! 女子会のことか!」

「そうそう。このツバキ会の会長は、私、姫川椿よ。
 まだ発足して1年足らずだけどね。今は学校の
 友達が中心だけど。将来は財界人とか著名人。
 タレントなんかもメンバーに入れたいと思ってる」

「私みたいな普通の人が、入ってもいいの?」

「もちろんよ。これがツバキ会の入会用紙ね。
 入会できるのは、私が認めた人だけよ」
椿は私に入会用紙を手渡した。

「今は週末に集まって、食事したり
 遊んだりするだけの会だけどね」

私は入会用紙に目を通しながら、椿の話を聞いた。

私は、わからないことがあったので、椿に質問した。
「会費とか、かかるの?」

「そういうのは一切ないわ。それに食事代や遊ぶお金は全部、私持ち。
 つまりタダで、食事したり、遊んだりできる、とってもお得な会なのよ」

マジすか? めちゃめちゃ。いい会やん。

「これに名前書けばいいの?」

「ええ、それだけでいいわよ」

入っちゃおうかな? 特にデメリットもなさそうだし。
将来、有名人ともお友達になれるかもしれないし。

59:りな:2019/04/24(水) 20:40

ツバキ会の入会に気持ちが傾いた。

「あっ! そうだ!」

椿が突然、何か思いついたように手をパチンと叩いた。

「特別に、一つだけ条件を付けさせてちょうだい」

「え? どんな?」

「未南の友達をやめること。
 あの子とは縁を切ってね」
椿はニヤリと笑いながら、そう言った。

「えー!」
驚いて声を上げてしまった。
なんて意地悪な条件なんだろう。

「あの子は、ツバキ会の前副会長だった。でも
 今はツバキ会を除名されたメンバーだからねー。
 そんな子と友達では入会させることはできないわ」

未南を学校で孤立させること。
最初からそれが目的だったの?

私は少し頭にきていた。

「ひとつ質問していい?」

「なあに?」

「椿の目的は私と仲良くなること? 
 それとも未南との仲を引き裂くこと?」 

「両方よ! 私の友人になることと。
 未南の友達をやめさせることは。
 あなたのためになることだから」

「ごめんね。残念だけど、その条件はのめないよ」

「じゃあ、入会できなくてもいいの?」

「いいよ。友達を裏切ってまで入りたくない」

「あなたも頑固ね」

それは、さっき私が思ったことだよ。
どうして未南のこと、そんなに邪険にするの?
未南は友達だったんだよね?

椿は、話を続けた。

「私と未南を天びんにかけて、未南を選ぶと言うの? 
 愚(おろ)かだわ。未南と友達でいると、あなたも
 いじめにあうわよ。それでもいいのかしら?」

「いい。私は未南をいじめから守る」

「ハハ、母親ゆずりの自己犠牲ね」

「私の母親を知っているの?」

「ええ、あなた、川上法子弁護士殺害事件の被害者遺族でしょ?」

「……。そうだよ」
私は目に涙を浮かべた。

そう、私のお母さんの死には、いまわしい事件があった。

「後輩だった弁護士や信者を脱会させようとして死んだ
 可哀そうな弁護士。それがあなたの母親だったわね」 

椿は事件のことを知っていた。

オウム事件は私が生まれる前に起こったことで
よく知らないけど。お母さんが死んだこの事件は
ネットでは第二のオウム事件になるのでは? 
と言われている。事件は、もう10年くらい前の出来事だ。

「この話と未南のことは、なんの関係もないじゃない?」
さっきまでの楽しい雰囲気が、一気に吹き飛んでしまった。

「母親と同じ轍(てつ)を踏むつもり?」

意味は、先人が失敗した同じ失敗を繰り返すこと。

「それでもかまわない。私には正義の血が流れている」

「私なら他人のために自分を犠牲にしない。
 自分のためなら友達だって盾にできるわ。
 他人よりも、もっと自分を大切にしなさいよ」

私は、これ以上言い返すことができず泣いた。

「ごめん、余計なこと言ったわね。
 謝るわ。反省してる……」

椿は、素直に謝罪してくれた。
私の目から大粒の涙がこぼれ落ちていた。

60:りな:2019/04/24(水) 21:04

(31)
時刻は夜の七時半。
もうホテルから家に帰ってきていた。
私は服を着替えたのち、父親と夕食を食べ始めた。
スイーツを食べたから、夕食は、いらないと思いつつも
ちょっとでいいから、何かを食べようと食卓に着いていた。

しばらくするとスマートフォンが鳴った。

「あっ。電話かかってきた」
ポツリとつぶやいた。

相手は未南だった。
急いで電話に出た。

「あっ、未南、もう家に帰ってるよ」
「いま何してるの?」

「お父さんと、ご飯、食べてる」
「ごめんね、食事中だった?」

「いいよ、どうしたの?」

「明日ね。学校休むから
 電話しようと思って」

え? まさか、登校拒否?

「う、うん。どっか、体調悪い?」
私は、動揺しながら未南に聞いた。

「あっ。そうじゃないの。
 学校休んでお父さんに
 面会しようと思って。
 お母さんも一緒にね」

面会? あっ! そうか……。

未南のお父さんは留置場にいるのかな。

「面会は、土日祝日できないから
 それで明日、学校を休むんだね」

「うん。午後からは弁護してくれる
 弁護士の先生を探さないと」

「え? 弁護士、呼んでないの?」

「呼んだけど、示談とか罪を認めれば罰金で済む
 とか言われたらしく、怒って追い返したみたい。
 裁判してでも、痴漢の無実を証明したいって。
 お父さん、絶対やってないって言っている。
 私も、それを信じているから」

弁護士を探しているのか……。

私は目の前にいるお父さんを見て思った。

「私のお父さん、弁護士なんだけど
 もし良かったら相談してみる?」

「うん、実は、そのために電話したんだ」
「開業したてだから。いま暇だと思うよ」
「お願いします」

「じゃあ、お父さんに確認してみる
 いま目の前にいるから……」

私は一旦、スマートフォンを耳から離した。

「ねえ、お父さん。友達が弁護士を探してるの。
 明日の午後から相談ってできる?」

「ああ、いいよ。午後から空いてるから。
 友達に待ってるって伝えてくれ」

私は再びスマートフォンを耳に当てた。

「あっ、未南。お父さんオーケーだって。
 待ってるから事務所に来てって言ってた」

「そうなんだ。助かるよ。ありがとう。
 今から奈緒のお父さんと、話しがしたいけど
 いいかな? ちょっと聞きたいことがあって」

「いいよ。すぐ代わるね。お父さん
 友達が電話で話したいって」

私は、お父さんにスマートフォンを渡した。

61:りな:2019/04/25(木) 20:59

すぐ会話が終わると思い、しばらく待つものの。

お父さんと未南の会話は思いのほか長く続いた。

「午後2時に来所ということで……。はいはい。
 娘に代わります。奈緒、電話終わったぞ」

「はーい」

お父さんからスマートフォンを渡された。

「どうだった?」
未南に聞いた。

「お父さんに頼むことになりそう。
 刑事裁判の経験も豊富らしいから。
 できれば裁判をする前に、お父さんの
 無実を証明できたらいいけど」

「そうだね。そうなることを願ってるよ」

「奈緒、まだ食事中でしょ? あんまり
 長話すると迷惑だから、そろそろ切るね」

「ああ、うん。またね。ばいばい」
「ばいばい」

電話が切れた。

「お父さん、絶対に無罪にしてよ。
 紹介したの私なんだから、有罪に
 なったら顔向けできないよ」

「確約はできない。日本の刑事裁判の
 現状はお前も知ってるだろ?」

少しくらいは知っている。
有名なのが、有罪率が99.9%という現実。
つまり、日本の刑事裁判は、ほぼ有罪判決なんだ。

逆に言えば無罪判決が出る確率は0.1%。
無罪は1000件に1件しかないことになる。

「有罪になったら、許さない。
 絶対に、無罪にしてよね」

お父さんに理不尽な要求を突き付けた。

62:りな:2019/04/27(土) 07:49

(32)
その夜。いつもの時間に就寝するも……。
ベッドの上で色々と考えてると眠れなかった。
「マジで寝むれん」
時計を確認すると、深夜2時を過ぎていた。

「もう寝よう」
これ以上悩んでも、どうにもならない。
寝不足で、明日が辛くなるだけだ………………。


あれ? ここは学校? 

教室で。 

未南が泣いてる。

「そうだよね。私なんか消えちゃえばいいよね」

未南は涙ながらにそう言うと。
教室の窓まで走って、窓を開けると
すぐに、その窓枠の上に飛び乗った。

「飛び降りちゃ! ダメーー!」
私は絶叫した。

「ごめんね。奈緒。もう辛いの。
 生きている価値、ないから」

「死んじゃあヤダ! 生きてて欲しいよ」

「さようなら」

未南は窓枠から、外へ飛び降りた。

その数秒後に。
人が地面にたたきつけられる音がした。
私は狂ったように「あーーー!」と絶叫した。

なぜか、教室からは歓喜の声が上がる。

なんで喜んでるの? 人が死んだんだよ?

「許せない!」

こいつら、全員許せない!

「未南を殺したのは、あんた達だよ!
 人殺し! 私が全員、ぶん殴る!」

私は拳を握りしめた。

そして教室の中心に立っている姫川椿の
顔を目がけて、渾身の拳を振り下ろした。

しかし、顔に当たる寸前で。

誰かが私の腕をつかんだ。

誰? と思い顔を見ると、お母さんだった。

死んだはずのお母さんが、なんでここに?

「奈緒! 暴力はダメよ。あなた、私の娘でしょ? 
 弁護士の娘なんだから、裁判で戦いなさい!」

お母さんにしかられた。やさしいお母さんで
怒られた記憶なんて、ほとんどなかった。

「お母さん、生きていたんだ」
胸に飛び込んで、泣こうと思い
お母さんを抱きしめにいった。


あれ? ここは家?

私はベッドの上で寝ていた。

目が覚めて。

突然、目に飛び込んできた光景は、私の部屋だった。

お母さんは? 未南は飛び降りてないよね?

ゆ、夢? だったのか……。怖い夢だった。

63:りな:2019/05/03(金) 23:54

(33)
転校四日目の朝を迎えていた。
学校に行く準備をして家を出る。

今日の天気は、私の憂鬱な気持ちが
うつったかのような、どんより曇り空。

空を見上げた視線を、正面に戻すと。
マンションを出て、すぐ見える、道路を
はさんだ向かいの豪邸が、気になった。

表札には柄谷って書いてあった。
柄谷って? クラスメートの央弥
ちゃんの家かな? とか考えつつ。

ちょっぴり出かける時間が遅かったから。
そこから少し早歩きで、学校へ急いだ。

途中には、からたに美容クリニックがあった。
豪邸の柄谷さんとクリニック、関係があるのかな?
機会があれば、央弥ちゃんに聞いてみよ。

央弥ちゃん、バスケ部だから、友達になれるかも?
転入するとき、校長が提示した条件は、バスケ部に
入部することだった。だから、もうすぐ、央弥ちゃん
とはチームメイトになるんだ。友達になれるといいな。

64:りな:2019/05/04(土) 11:15

(34)
急いだおかげで、早く学校に着いた。
その分、教室までの廊下をゆっくりと歩く。

教室が近づくにつれ、机の落書きが気になった。
また書いてあったら、どうしよう。ううん。
昨日、先生が怒ってくれたんだ。
今日は落書きがしていないと信じたい。

教室に入って席に向かうまでのあいだ。
心臓の鼓動が、ドキドキと高鳴った。

あっ!
今日は書いてない!

未南の机を見て、ホッと胸をなで下ろす。
自分の机にも落書きはない。よかった。
そう安心して、イスに座ると。
間もなく、教室にぽつんといるよで
寂しい気持ちになった。

今日は未南は休みなんだよね。
てっ、ことは、今日はひとりぼっちだ。
だって、まだ他に友達いないもん。

寂しいな……。前の学校なら。
学校に行けば、誰か友達が居て。
朝からワイワイガヤガヤって感じだった。
毎日、すごく楽しかったな。
この学校に転校する前のことを考えて。
少しセンチメンタルになってしまった。

65:りな:2019/05/04(土) 20:10

(35)
朝のホームルームが始まり。
高木先生が出欠席を確認している。

「今日のお休みは、修倉さんだけですね」
先生が教卓に出席名簿を置いた。

未南は登校拒否なんかじゃぁないからね。
欠席理由を、誤解されないかと心配になった。
私は事情を知ってる。けど、他の子は知らない。

「みなさん、来週から,テスト週間に入ります。
 それにともない。一年生のときの、全生徒の
 成績が載った順位表を配りたいと思います」

へー。そんなことするんだ。珍しい。

漫画なんかでは、たまに成績上位者が
掲示板に貼り出され、”またお前が1位かよ”
とか、”すごいね、○○くん、1位だよ”
とか、そんなセリフがあったりするけど……。

高木先生から配られたプリントが手元にきた。
来るや否や興味津々で目を通す。

1位 修倉未南
2位 姫川椿
3位 柄谷央弥
4位 野村由香子

成績トップは未南だった!

39位 榊田真紀
40位 和田萌奈

下位は、ヤンキーっぽい二人だった。

「1位は修倉さんです。全試験で1位でした」

わぁー、未南すごーい。

「成績40位までの人がこのクラスに入れました。
 来年の選抜クラスの定員も、40名です。
 41位以下の生徒は、選抜落ちになります。
 他のクラスの生徒も選抜入りを目指しているので
 負けないように、頑張って勉強してください」

そうなのか? がんばらないと……。
目指せー、1位。マリ女のセンター!
てっぺん取らせていただきます。

66:りな:2019/05/05(日) 08:07

(36)
ホームルームが終わって、先生が退室する。
その直後、一気に教室が、にぎやかになった。

話題は成績のことかな?
私だって未南がいれば……。
1位なんて、すごいね! とか言ってたと思う。

ひとり、物思いにふけっていると。

「あれあれー? 未南は登校拒否なのかなぁ?」

一瞬、自分が聞かれたのかと思い、顔を横に向けた。
未南の机の前には、二人の女子生徒が立っていた。
一人は、茶髪のヤンキー女、榊田(さかきだ)だった。

「じゃあ、もう学校来ないかもよ? だったら受けるうー」
もう一人の黒髪の子が、そう返事した。

「ねえ? 花瓶でも置いとく?」
榊田が聞いた。

「おお! それ、いいねー」

教室の隅にある、花の飾ってある花瓶を
榊田が持ってきて、未南の机の上に置いた。

「キャハハ。最高ー。マジ受けるんだけど!
 これじゃあ、亡くなりましたじゃね?」
榊田の声が教室中に響き渡った。

「ホントだね。アハハハ!」

はあ? ふざけるなぁーーー。
榊田たちのやりとりに、ムカッときた。

信じられない。小学生じゃあるまいし。
やっていいことと、悪いことの区別がつかないの?

怒りを抑えられず。私は口出しした。
「悪ふざけは、やめなさいよ!」

67:りな:2019/05/05(日) 19:26

「あ?」
二人が私をにらみつけた。

榊田が眉を吊り上げるのを見て
私も負けじとにらみ返した。

「ウザッ。なに怒ってんの? 冗談よ、冗談」
榊田は、悪びれる様子もなく、そう言った。

「ホント、マジでウザい。生意気な奴ね。
 なんで、あんたは、転校生のくせに
 選抜クラスにいるの? おかしくない?」
黒髪の子は、逆ギレしている。

「決めたのは学校だし、それに……。
 前の学校では成績トップだったからね」
負けまいと毅然とした態度をとった。

「あなたが1位? どうせレベルの低い学校でしょ?」
榊田が、私を馬鹿にしたような態度をとった。

68:りな:2019/05/07(火) 21:17

その態度に多少、ムカッとくるも
冷静に! って心の中で思った。

「特進クラスだったし、偏差値は良かったよ」
トップクラスの進学校ではないが。
とりあえず、そう返事した。

「そうなの? そうは見えないけど? 頭悪そう」
お前に言われたくねえよ!
お前が一番頭悪そうだろ!

もう、売り言葉に買い言葉だ!

「この学校って、お嬢様学園って言われているから。
 上品な子ばかりだと思ってたら、下品な人ばかり」
皮肉をたっぷり込めて言った。

「あん? あんま、調子乗んなよ! ぶっころすぞ」
挑発的な物言いにカチンときた榊田にすごまれてしまう。

ヤバい。キレたな。マジでヤバいことになりそう。
険悪な 雰囲気となり、これ以上、変なふうに
こじれるのを嫌った私は、花瓶を手に取った。

「こういう、幼稚なことはしないでください」
冷静に、そう言って、花瓶を元の位置に戻した。

もうこれ以上何も言わず、二人は席に帰って行き
この場は丸く治まった。

69:りな:2019/05/08(水) 22:00

(37)
その後。最初の授業が終わって、休憩時間になった。
一人ぼっちの休憩時間はとても寂しく、辛かった。
みんなが楽しそうにしていると、余計に寂しい。
机に、じっと座って、黙って待ち続けるのって
たった10分でも苦痛に感じた。

「学年トップとか自慢かよ?」
「調子に乗ってるよね、あいつ」
「むかつく、いい子ぶってるしー」
「あの子、みんな嫌ってるよね」
「シカトだね。話しかけられても無視しろって」
「ああ、そうだね。無視、決まったもんね」
「全員、賛成だよね。」
「反対できるわけないじゃん。あの人には逆らえない」
「そうだよね。嫌われるの怖いよね」
「シッ! あの人に聞こえたらどうするの?
 ヤバイよ。もうやめよ。この話……」

あれ?
クラスメートの会話に耳が反応していた。
この声は地味子の三人かな?
なんの話だろ? 私のこと話してる?

話は途中で終わってしまったけど
気になるな……最後の方の会話……。
まるで、このクラスに、いじめを主導する
リーダーが存在するかのような会話だった。

70:りな:2019/05/09(木) 20:50

(38)
次の授業が始まった。授業中も
さっきの会話が気になってしまう。
あの人って、誰のことなんだろう?
私のことを無視しろって言ったのは。
未南をいじめてる人と同一人物なの?
それって? 椿? 萌奈? 榊田?
パッと頭に浮かんだのは、この名前。

椿はクラスのリーダー的存在だから。
ひょっとすると、彼女かもしれない。
でも椿って時々、私に優しいよね。

萌奈はどうだろう? 椿とは違って
私のことを、嫌っている気がする。
私や未南をいじめる動機もあるし
萌奈がいじめのリーダーかもしれない。

由香子は? 急に名前が浮かんだ。
由香子の可能性は低いかな?

それだったら榊田の可能性の方が高い。
地味子たちが恐れていたのは榊田か?
ヤンキーにビビッているのかもしれない。
でも未南をいじめる動機ってあるの?
ああ! 痴漢事件があるか?
ヤンキーなりの正義ってのがあるのかも。

なんにしても、まだ未解決のいじめ事件
があるから、早く犯人をみつけないとね。

「川上さん!」
先生に呼ばれた?

「はい!」
「答えてください」
「――?」
何を答えるの?
ヤバっ! 問題、聞いてなかった。
ハハ、授業に集中しないとね……。

71:りな:2019/05/10(金) 20:44

(39)
授業が終わった、自由時間だい。
一気に教室がにぎやかになる。
でも私には……。
誰も話しかけてこないや。
みんな嫌ってる?
完全に孤立して。
ぼっちになった私に。
孤独が襲ってくる。

涙が出そうなほどの寂しさが込み上げてくるから。
どうにか、周りにさとられないようにしようと思って。
スマホを取り出した。
寂しさをまぎらわすためにね。

孤独という魔物と必死に戦う。
スマホは孤独と戦う、現代の神器だ。
スマホは盾か? それとも剣か?
いやいや、魔法かもしれない。
スマホよ! 十分間でいいから。
孤独という魔物から、私を守ってくださいな。

なーんて、なに言ってんだか……。それより
自分から誰かに話しかけようかな?
それがいい! って……誰に? 
パッと目に入ったのは椿だ。そういえば。
昨日の食事のお礼、きちんと言ってないや。
そうだ! いまから言いにいこう。

椿は、萌奈、由香子と一緒に教室にいた。
テクテク歩き。椿たちに話しかける。

「おはよう、椿! 昨日は、ありがとう。ごちそうさまでした」

「おはよう、昨日は楽しかったわね。
 また機会があれば、一緒に食事しましょう」

「うん、また誘ってね」

「それよりツバキ会には入る気になったの?」
椿はいきなり、その話題を持ってくる。

それ、昨日、断ったばっかりじゃん。

「ごめんなさい。ツバキ会には入りません」
未南の友達はやめられないからね。
私は、そう返事した。

「うちらの仲間に、なりたくねーのかよ」
萌奈がヤンキー口調で言った。

「入らないなら、仲間に入れて、あげないから」
椿は冷たく言うと、口元に笑みを浮かべる。

そんなぁ……なんで、そんな意地悪するの?
うつむいたまま、沈黙していると。

「いきましょう」
え? え? 椿? もっと、話をしようと思ったのに。
椿たちは、席を立って、教室を出て行ってしまった。

あらら、なんだか、すごく寂しい気持ちになってしまった。

72:りな:2019/05/11(土) 23:13

(40)
時刻は、昼の12時30分をまわっていた。
食堂は、たくさんの生徒で、ごった返している。
毎日、混雑してて、ちょっと大変です。

ビュッフェ形式なので。
自分で料理を皿に盛り
空いている席に着いた。

周りの生徒は楽しそうに会話を
しながら食事をしている。
未南がいないため、私は一人で食事。
正直、すごく寂しいなあ。

でも私が転校しなかったら。未南は
ずっと、ひとりぼっちだったのかな?
それを考えると、いいタイミングで。
私は転校してきたってことだよね!

食べ始めて、しばらくたったあと
「ここ、空いてる? 座ってもいい?」
と、ふいに尋ねられた。
「いいよ」
と返事をして、顔を上げる。
あっ! 央弥ちゃん!
私の正面の席に座ったのはクラスメイトの
柄谷央弥ちゃんだった。

「央弥ちゃん。友達も来るの?」
「こない。私だけ。あなたと二人で、話したかったから」

「え? 私も、そう思ってた。友達になりたいって」
「ああ、そんなんじゃないから、ただ話がしたかっただけ」
活発そうに見えたけど、案外クールな印象を受けた。

73:りな:2019/05/12(日) 17:14

「私、あなたのこと知ってる。転校してくる前から」
「え? どっかで央弥ちゃんと、会ったことある?」

「会ったことないけど。ウインターカップの
 あなたのプレーを、テレビで見てた」
「ああ、そういうことか!」
納得って感じで思わず、手を叩いてしまった。

「テレビの中でしか見られない人が、まさか
 目の前にあらわれるなんて、ビックリした。
 私、あなたのファンだったのよ」

ファン? 
いや、いや。私なんて、ポッと出のルーキーだよ。

「同じ一年生なのに、すごい選手だなって思ってた。
 あなたのチームも強かった。それなのになんで?
 うちの学校なんかに、わざわざ転校してきたわけ?
 前の学校よりレベルの低い学校に来る意味あるの?」

転校してきた理由は……。

「お父さんと一緒に暮らすためだよ。
 最初にお父さんが単身で引っ越して
 親子、別々に暮らそうとしたけど。
 お父さんが悲惨な生活してたから  
 私も、あとから引っ越してきたんだ」

「それだけの理由? そんなことのために
 転校してきたの? 馬鹿げてる」

馬鹿げてるって……。

「私ね。お母さんが、子供の頃に死んじゃったから
 お母さんの分までお父さんを支えようと思ったの」

「ああ、そうだったの? 事情も知らずに
 ちょっと言い過ぎかも。ごめんね。
 でもまだ間に合うなら、前の学校に
 戻った方がいいわ」

74:りな:2019/05/13(月) 20:08

「戻れって言われても無理だよ。
 バスケはこの学校でも続けられる。
 セントマリアって結構強いんでしょ?
 去年のインターハイ予選ベスト4って
 面接の時に、校長先生が言っていた」


央弥ちゃんが、即座に首を左右に振った。
「問題はバスケだけじゃない。
 むしろこっちの方が問題ね。
 あなた、今のクラス、どう思う? 
 正直に答えて……」

「どうって? そりゃ。いじめとかあって
 よくないとは思うけど……」

「私から言わせれば。正直、最悪のクラスね。
 だって姫川がいるから。あいつ、大嫌い。
 親が大企業の経営者っていうことを
 利用して子供の頃から女王様きどりよ。
 この学校の子はね。親が社長って子や
 重役って子がたくさんいて、その多くが
 姫川の会社と関係してて、そういう立場を
 利用してクラスを支配しようとしている」

「親が偉いからって、関係なくない?」

「私は姫川と中等部でもクラスメイトだった。
 昔ね。中学時代の姫川と大喧嘩した子がいたわ。
 横暴な態度で同級生に接する、あいつにキレたの。 
 そのうち、姫川の親まで出てくるほどになった。
 姫川の親は怒って、相手の親は平謝りだったそうよ」

ほう。子供の喧嘩に親がね・・・。

「その子の親は姫川の会社と取引していた小さな会社の
 社長だった。それを知った姫川は、取引をやめるように
 親に言ったらしく。その子の会社は、のちに倒産したわ」

えっ? マジ? それが本当ならひどい話だ。

75:りな:2019/05/14(火) 20:41

「ひっどい話だね」

私が、少し怒り気味に言うと
央弥ちゃんは唇を噛みしめた。

「その子……。私の親友だった」

え?

「この話は、親友のことだったの?」

央弥ちゃんはコクリと、うなずいた。

「その子は、もうこの学園にはいない。
 お金がなくて高校に進学できなかったの。
 中学時代はバスケ部で。セントマリアの高等部に
 行って一緒にバスケをしようって約束したのに。
 でも、中学三年の終わりごろ会社が倒産して多額の
 借金を負い、あの子は遠い町へ引っ越して行ったわ。
 私は、今も姫川が憎い。絶対に許せない」

「そうか、過去にそんな悲しいことがあったんだね」

「あいつは、今、自分の友達さえも、いじめ。
 この学校から消し去ろうとしている……。
 誰からも優等生と思われてる奴がいじめよ。
 優等生が聞いてあきれる。騙されないで
 あいつは邪智暴虐の最低な人間なのよ」

「えっ? いじめは、椿が?」
未南は親友だった椿に、いじめられてるってこと?

76:りな:2019/05/15(水) 21:09

「そうよ。いじめのリーダーは姫川椿よ!」

「えええっーーー」
謎は解けたって感じがした。
朝から疑問に思っていたことの
答えをあっさりと出してくれた。

「そうなんだ。すごいショック……。
 椿は未南の親友だったんだよ」

「二年生が始まった、最初の頃は仲良くしていたよ。
 ある日、突然ハブられて、いじめられるように
 なった。そのあと、修倉先生が痴漢で逮捕されて。
 あっという間に、クラス全員から、いじめられる
 ようになっていった」

「未南が仲間はずれになったのは、テニス部の
 いじめを、修倉先生に、告発したからだよ!
 それで恨みをかってしまったみたい」

「それは、噂で聞いてる。あいつはテニス部でも
 後輩、いじめてたってね。退部させられて当然」

「若干、可哀想な気もするけど。逆恨みだよ。
 未南は、なにも悪いことしてないんだよね。
 会社でも正義のために内部告発をした人が
 いじめられたり、左遷されたりすることがある。
 もっとひどいと、解雇なんてこともあるらしい。
 まったく理不尽な話だよ」

77:りな:2019/05/16(木) 20:23

「悪いことやっている奴等には、いずれ天罰が下る。
 今、未南を、いじめてる奴も、そうなるよ。
 姫川、それと、いじめてるクラスメイトたち……。
 私が必ずいじめの事実を、おおやけにしてみせる」

「うん、私も協力するよ」

「あなたは、前の学校に戻りなさい。
 いじめの被害者になりたいの?
 大変なことになるよ」

「私もいじめと闘う!」

「あなたも、いじめの標的になっているのよ」
 
「私は、未南の友達だから、一緒に闘う」

「友達って昨日今日なったばかりじゃない?
 逃げたって、だれも卑怯だと,思わないよ」

「何があっても逃げない。だって約束したから。
 未南と約束したんだ……守るって……」

「わかったわ、あなたに、それほどの覚悟あるなら
 もう戻れ、なんて言わない。でも無理はしないで
 私も仲間よ。本当に辛いときは、頼ってね」

「うん」

私と央弥ちゃんは、固い握手を交わした。
闘おう、いじめと……。私達は、負けない。

78:りな:2019/05/17(金) 20:09

(41)
この日の学校が終わる。
帰りのホームルームのあとの
清掃が終わって放課後になった。

この学校では清掃後に
自主解散するみたいだ。

清掃は、名簿でグループ分けされ
私は席順から2班に入った。
同じカ行の、柄谷央弥ちゃんとは
同じグループだった。

掃除が終わって解散後
央弥ちゃんに声をかけた。
「央弥ちゃんは、これから部活?」

「うん、部活だよ。バスケ部。
 奈緒はいつ入部するの?」

「中間試験が終わってから」
 
「試験期間中は部活ないからね。
 そのあとの方が、いいかもね
 なんなら、ちょっと見学する?
 それとも帰る?」

「ああ、うん。ちょっと別の用事が……。
 テニス部のこと少し調べようと思って。
 いじめと闘うと言ったけど
 知らないこと、まだ多くて」

79:りな:2019/05/18(土) 08:08

「意外と行動力あるのね。
 テニス部の場所わかる?」

「わからない……」

「ちょっと待って、ここから
 見えるわ。おいで」
掃除していた中庭から、一緒に
歩いて、グラウンドに向かった。

「あそこよ、あの大きな建物が
 テニスコート」
央弥ちゃんが指差す方向を見る。
「室内練習場?」

「そうよ。姫川の父親の寄付で建設
 された。親バカよね。娘のために
 普通あんなの作る? あの子。
 ほんと甘やかされてるわ」

「すごいな。やっぱお金持ちなんだね。
 ありがとう。あとで行ってみるよ」

80:りな:2019/05/19(日) 00:05

(42)
それから教室に戻って、再び校舎を出た。
時刻はすでに15時50分を過ぎていた。

テニス部のいじめのこと。もっと知りたい。
被害者に会って直接、話を聞きたい。
そんな目的があって、テニスコート場に向かった。

テニス部! いじめ事件!
とりあえず、まぁ、整理してみよう!

丸1! 未南と椿は、親友で、同じテニス部員だった。

丸2! 椿たちと先輩が一年生(新入部員)をいじめた。

丸3! 未南は、いじめをやめるように言ったが、無視された。

丸4! 未南が、監督であるお父さんに告げ口した。

丸5! いじめた人達は、テニス部を退部させられた。

丸6! 椿たちは、それを逆恨みして。未南を仲間外れにした。

まぁ、ざっと、こんなもんかなぁ……たしか。

81:りな:2019/05/19(日) 07:17

校舎から少し離れた場所にある大きな建物。
「ここだよね?」

央弥ちゃんが教えてくれた場所には
立派な室内テニスコート場があった。

入り口には寄贈と書かれたプレートが貼られ
姫川椿の父親による寄付で建設されたことが
書いてあった。

関係者以外 立ち入り禁止 と書いてあって。
中に入るのを、少し躊躇(ちゅうちょ)するも
意を決して建物の中に入った。玄関を抜けたら
ロビーがあって。そこから練習場に入ると
テニスコート7面分の広々とした空間に驚く。

あれれ? 
ほとんど人いない……。
来るの早すぎた?
話を聞くには丁度いっか。
部活が始まってたら話も聞けまい。

声を掛ける相手を、少し迷って

「ちょっと聞きたいことがあるけど
 いいかな?」

テニスウェアを着た少女に声を掛けた。

「はい、なんですか?」

おそらく一年生ではないかと思われる
その少女は、まだ、あどけなさが残る
ポニーテールの似合う可愛い子だった。

82:りな:2019/05/19(日) 19:43

えーと。まずは自己紹介から。

「あの私、修倉未南の友達で
 川上奈緒って言います」

「修倉先輩の友達なんですか?」
少女は、頬(ほお)をほころばせた。
笑うと、途端に子供っぽい顔つきになる。

「うん。クラスメートだよ。立ち話もなんだから
 まずは、そこのベンチに座ろうか?」

「あっ、はい。そうですね」
そう言って。
少女がくるりと体の向きを変えると
白いテニススコートがひらりと舞った。

壁際に置いてある長イスに、二人並んで腰掛けた。
なんて切り出すか、少し迷うも、単刀直入に聞いた。

「聞きたいことは、テニス部であった
 いじめの話なんだけど……。
 それは本当の話なのかなぁ?」

「え……」

少女から急に笑顔が消えて、うつむいてしまった。

83:りな:2019/05/20(月) 20:00

「無理しないで。話せる範囲でいいからね」
優しく声をかけた。

「いじめは……いじめは、ありました。
 先輩から、いじめられて、いました」

少女は、ゆっくりと途切れ途切れに話した。

「先輩から、どんなことされたの?」

「先輩から腕立てを50回やるように言われ。
 それができない子は、大声で怒鳴られたり
 ラケットで、お尻を叩かれたりしていました。
 私は、腹筋連続50回ができなくて
 何さぼってるの?しっかりやりなさい
 って言われて、わき腹を蹴られたり
 おなかを、足でふまれたりしてました。
 泣いちゃう子とかいて、泣いてると
 泣けば許されると、思っているの? 
 とか怒られて、もっと厳しくなったり
 もう帰っていいよとか、言われたり
 すごく可哀想でした。毎日。とにかく。
 練習が厳しかったです。まだ入部した
 ばかりなのに、すでに何人かは辞めたい
 とか言っていました」

私は、精一杯しゃべっている少女の言葉に、
何度も何度も、うなずきながら真剣に聞いた。

84:りな:2019/05/21(火) 21:21

「辛かったね。もう今は、いじめ、なくなった?」

「はい、いじめはなくなりました」

「テニス部、全体がそんな雰囲気だったのかな?」

「先輩も同じようなことを、されていたみたいです。
 厳しいのは、テニス部の伝統って言ってました」

「いじめは先輩、全員が関与していたの?」

「いいえ。まったく、しない先輩もいました。
 今、このテニス部にいる先輩がそうです」

「いじめが原因で退部させられたって聞いたけど
 退部した姫川さんや和田さんもやっていた?」

「いじめは姫川先輩と和田先輩もやっていました。
 二人とは中等部の時も、チームメイトでした。
 昔は、やさしくて、面倒見のいい先輩でした。
 テニスは上手だし、お金持ちで綺麗だったので
 私達、後輩にとって先輩達は憧れの存在でした」

「そうなんだ……」
やはり、二人もいじめていたのか……。

「野村由香子は? あっ、野村さん」

「野村先輩は、自分から率先してやるんじゃなくて
 姫川先輩や和田先輩に促されてやってる感じでした。
 二人に言われたら逆らえないって感じに見えました」

「未南、いや、修倉さんは、どうだったのかな?」

「修倉先輩は、ほとんどいじめに関与してない
 と思います。ただ見ていただけでした。いや。
 むしろ、いじめを止めようとしていました」

ふぅ――――……。
心に大きな安堵感があった。
未南は後輩をいじめてなかった。

ここで、話を終えようとも考えたが
さらに質問を続けた。

「先生に言ったの、修倉さんみたいだけど
 自分達からは先生に相談できなかった?」

85:りな:2019/05/22(水) 19:47

「はい……。先輩達が怖くて言えませんでした。
 勇気がなかったんです。先生にも、先輩にも
 何も言えませんでした」

 少女が、目を伏せた、かと思えば
 今度はその大きな眼(まなこ)で
 私をじっと見つめてきた。

「言わなくちゃ、いけなかったんですよね?
 もう私は、絶対にいじめを、許しません。
 もうこんな辛い、負の連鎖は、私達で
 終わりにします。もし誰かが、いじめを
 してたら、絶対に止めます」

少女は、はっきりと言い切った。
その言葉、一つ一つに強い決意を感じた。

「そうだね。いじめは絶対にダメだね。
 あなたの言うとおりだよ。これから
 テニス部が良い方向へ向かうように
 祈ってるよ」

私は少女に優しくほほ笑みかけた。

「はい! 頑張ります! 自分達で
 テニス部を変えます!」
少女は目を輝かせて言った。

「あの私、これから部活の準備のために
 ボール運んだり、ネット張ったり
 仕事が色々あるんですよ…………」

「ああ、そうなんだ。忙しいのに、ごめんね」
 
「いえ、それでは失礼します」

「本当にありがとうね」

少女は私に一礼してから、仲間の所へ
走って行ってしまった。

私は、しばらくしてイスから立ち上がった。
「さあ、帰ろう」
出口に向かって歩き出した。

86:りな:2019/05/23(木) 20:46

練習場を出て、しばらく歩くと。
おや、これは……。ロビーの一角で足を止めた。
そこは、ちょっとしたギャラリーになっていた。
私は興味深げに覗き込む。
そこには賞状やトロフィーが多数並べられ
テニス部の功績の数々を物語っていた。  
あっ! 未南だ。未南の写真だ。
テニスウェア姿の写真パネルに目を留める。
その下には全国大会優勝の賞状やトロフィーがあった。
写真パネルの横に書いてある、説明書きを読んだ。
シングルス全国優勝はセントマリア女学園テニス部に
とって初の快挙のようだ。
すごいなぁ……未南。
感心して眺めていると……。
「あんた、何やってんの?」
女性に声をかけられた。
誰? と思い、顔をそちらに向けた。
声の主は姫川椿だった。
椿、萌奈、由香子の3人はテニスウェア姿で
肩にはテニスラケットのバックをかけていた。

87:りな:2019/05/25(土) 07:22

「ちょっと、用事があって。そっちこそ
 なんでここにいるの? テニス部を
 退部になったんじゃないの?」

「今日からテニス部に復帰するのよ。
 インターハイ予選も近いし、これ以上
 休んでいられないわ」
椿が、そう答えた。

「ん……? 退部処分は?」

「そんなの、なしなし。関係ねえよ。
 取り消しだ。未南のクソ親父が
 勝手に決めたことだからな」
萌奈は可愛いけど、相変わらず口が悪いなぁ。

「10年以上連続で出場してきた
 インターハイに、危うく出場
 できなくなるところだった。
 そんなことになったら、私に期待
 してテニスコートを作ってくれた
 お父様に申し訳がないわ」
椿が不満そうに口を尖らした。

「退部させられたのは、いじめをしてた
 椿たちが悪いんじゃないの?」

「もう。いいかげんにしてくれない?
 いじめてないって言ってるでしょ?
 そんなふうに言われるのは不愉快よ!」
椿が、ひどく憤慨している。

おかしいなぁ?
先ほど、少女は、椿や萌奈もいじめてたって
言っていた。少女の証言と矛盾する……。

88:りな:2019/05/25(土) 23:04

「さっき、部員から話を聞いたら
 いじめを受けたって言ってたよ」
椿に、あらためて、その事実を突きつける。

「誰よ? そんな嘘を言ったのは?」

「嘘じゃないと思うよ? いじめの
 具体的な内容も聞いたんだけど」

「私たちはね。厳しく指導してただけよ。
 去年、先輩たちがしたことと同じことを。
 厳しいのは、このテニス部の伝統なの。
 定年退職した前監督も厳しい人だった。
 私たちは去年、厳しい練習に耐えたのよ。
 あの程度でいじめとか、軟弱すぎるわ」

「そうかもしれないけど、された後輩の
 方は、いじめられたと認識してるんだよ。
 自分達がやったことを素直に反省し
 改善しようという気持ちはないの?
 名門野球部だっていじめや暴力が原因で
 廃部になっているところだってあるのよ」

「私は先輩に言われたとおりに後輩を指導
 してただけ。その行為は一点の曇りなく
 妥当なものだったと思ってる。強くなる
 ためには、しごきや体罰だって必要なん
 じゃないかしら?」
椿には、反省の心が、微塵も無いように感じられた。

「椿……その考えには賛同しかねるよ。
 私は、しごきや体罰が必要だと思わない
 あなた達は腕立てが出来ない子のお尻を
 ラケットで叩いたり、腹筋ができないと
 おなかを蹴ったりしてたそうじゃない。
 それのどこが妥当な指導と言えるの?」

「ずいぶん詳しいのね。でもそれやったの
 私じゃないわ、私は、ただ見てただけ」

「見てたなら、なんで止めないの?」

「なんで? 正直、面白いじゃない。
 もっとヤレって思ったわ。痛がる
 後輩を見るのが楽しかった」
椿は無邪気な笑みを浮かべた。
予想外の返事に、私は戸惑いを感じた。

89:りな:2019/05/26(日) 10:34

面白いだと? 面白いとは、なんだ!
被害者の身にも、なってみなさいよ!
いじめられた方は、どんなに苦しんで、
悲しんで、傷ついていると思ってんの?

ここは怒るべきか?
いや、冷静になるべきか?
どうするか? 迷った。

「もう行こうよ、椿。こんな奴、ほっといてさぁ」
私と椿のやり取りに萌奈が、じれた。

「そうね。もう行きましょ。これ以上
 奈緒と話しても、時間の無駄だわ!」

「ちょ……待って」

まだ話の途中なのに……。
椿が行ってしまう。
引き止めよう!と思い。

「未南も練習に参加していいの?」
とっさに思いついたことを口走った。

未南はお父さんが逮捕されてから
一度も部活に出ていないと言っていた。

「はぁ!?」
椿は、なに言ってるの? 
って感じの表情で私を見た。

90:りな:2019/05/26(日) 16:54

「ほら、未南。全国大会で優勝したってね。
 すごい、すごいよね。尊敬しちゃう」
私は、優勝の写真パネルを指さし
少し大げさに、はしゃいで見せた。

「なんで、あの子なの? 私じゃなくて……。
 個人戦の代表に、なんで未南が選ばれるの?
 実力は伯仲してたはずなのに……。監督が
 私を選んでくれていたら、優勝してたのは
 私だったかもしれないのに。すごく悔しい。
 未南なんか消えちゃえばいいのよっ!」
椿は目を潤ませ、ヒステリックに叫んだ。

「――――?」
本音を吐露され、私は、たじろいだ。

「そうだよ。椿の言う通りだよ。
 優勝した時、おめでとうって
 言ったけど、本当はすごく
 すごく悔しかった。周りから
 チヤホヤされて有頂天になる
 あいつを見てるとムカついて
 あいつのいないところで悪口
 言ってた……」
椿の考えに萌奈も同調した。

「そんな、ひどいこと言わないでよ!
 優勝したこと、素直に喜べないの?
 未南は、友達でしょ?
 親友だったんでしょ?」
私は二人の考えに異議を唱えた。

91:りな:2019/05/27(月) 20:21

「このさいだからハッキリ言っておくわ。
 あいつはもう、親友でも友達でもない
 あいつは私達を裏切って、傷を付けた。
 大嫌いよ! もう仲間でもなんでもない。
 未南に伝えておいて……テニス部には
 もう来ないでね、てねぇ」

「椿の意見に賛成――! 未南なんか
 もう友達でもないでもねーし。正直
 早く学校やめてくれって感じだよ」

そんな風に言わないで欲しい。
椿たちの、その言葉で……。私の胸は……。
ズキューンと弾丸が貫いたくらい痛かった。

「未南は、私の友達だから、悪く言わないで!」

こんな気持ちになるくらいなら。
余計な事、聞かなくてもよかったな。

「友達やめなよ。あいつは疫病神だ。
 あの子には近づかない方がいいよ。
 きっとお前も、未南に裏切られるわ。
 あとで後悔しても知らないからね。
 ハハハ、ハハハ、ハハハ はぁーあ」 
椿は声高らかに笑った。

「フッ。さあ、もう行きましょう。」

笑い顔から急に真顔で、そう言うと
椿は萌奈、由香子と一緒に、テニス
コート場の方へ行ってしまった。

最後に言った事、どういう意味?
意味がわからず、しばらくのあいだ
その場に呆然と立ち尽くしてしまった。

私は、ふと未南のことを思い浮かべた。
未南の笑顔が思い浮かんだ。
奈緒と未南は、ずっと友達だよ!
何も迷うことなんてないよね。
信じたその道を 私はゆくだけ!
意を決した、私は、歩き始めた。

92:りな:2019/05/28(火) 20:11

(43)
校門を出たときには、16時30分を過ぎていた。

未南が、私のお父さんに会うのって
午後2時の約束だったよね?
……ということは……
まだ法律事務所にいるのかも?

そう思い、足早に家路を急いだ。

数分後、自宅マンションに帰って来た私は
自宅には行かず、一階にテナントしている
川上正義・法律事務所に入った。

入ってすぐ。
「あっ。奈緒ちゃん。お帰り」
細身で利発そうな若い女性に声をかけられた。

「ただいまー、美鈴さん。お父さんに
 用事があって、直接来ちゃいました」

「あっ、そうなんだ」

「おじゃましまーす」

若い女性は、松岡美鈴、25歳
父の事務所で働く新米弁護士だ。
私の好きな女優に似ていて
超美人で、スタイルの良い。
華のある可憐な人だった。

気さくな人だから、すぐに友達になっちゃた。
お姉ちゃんができたようで、すごく嬉しい。

93:りな:2019/05/29(水) 20:18

中に足を踏み入れると、新築特有の匂いがした。
コピー機やパソコン、机やイス、書類の棚など
ありとあらゆる物が、新品で揃えられていた。

この空間に二人だけでは、やや広く感じた。
まだスタッフは、お父さんと美鈴さんだけで
美鈴さんは弁護士兼事務員として働いている。
現在、事務員は募集中との事。

「お父さん!」
お父さんは、美鈴さんの向かいの席に居た。

応接室にいないから、もう未南は帰ったのかな?

などと考えつつ。

「未南、来た?」
お父さんにいきなり本題を切り出す。

「来たよ」
「何時ごろ帰った」
「4時頃、帰って行った」
「どうだった?」

親子らしい素っ気無い会話が続いた。

「ああ……」
お父さんは両手を目の前で組み、鋭い眼光を見せた。

「二人とも、物凄く、美人だった……」
いつになく真剣な表情で、的外れな返事をした。

「はぁ?」
ばーろー! そんなこと聞いてねーんだよ!

ちょっとコナンくんっぽく、心で叫ぶと。
毛利小五郎にキレる、毛利蘭の心境になった。

「未南ちゃんって、すごく綺麗だったなぁ。
 お母さんが、これまた、美人でさぁ。
 二人とも清楚で品が良くて、素敵だった。
 いやあ、もう、感動したよぉ」

打って変わって。一転、ハイテンション。
お父さんはパァっと明るい表情に変わり
早口でまくし立てた。

「ちょっと、お父さんっ! そんなこと
 聞いているんじゃないよっ!」

94:りな:2019/05/31(金) 19:51

「おお、すまん、すまん。もちろん
 依頼は受けたよ。美人の依頼は
 断らない主義なんだ」

父の態度に、ちょっとだけ、イラッとした。

「あんまり、ふざけないでよ!
 未南の家族にとっては深刻な
 大問題なんだから」
 
「ああ、かつて痴漢事件の裁判を
 したことがあるが、本人とその
 家族は随分、辛い思いをして
 いたな。まあ、その裁判は無罪
 になったからよかったけど……」

「裁判で無罪になったの?」

「目撃者がいてね。裁判で証言して
 くれたのさ。彼は痴漢をしてない
 とね」

無罪判決の事例を聞いて。
希望の道が開けたような気がした。

「今回の事件は目撃者はいないの?」

「未南ちゃんの話では、無実を証明
 してくれる目撃者は、今のところ
 いないようだ」

あらら。一気に道が閉ざされた気がした。

「いない?」
「ああ、未南ちゃんは、そう言ったぞ」


あれ? 誰か目撃者がいるって言わなかった?

由香子だったかなぁ?

由香子の証言を……思い出せ……。

あれは、たしか、転校初日……。由香子はこう言った。
でも、痴漢したって言う目撃証言もちゃんとあるのよ?
あっ、これだ! 思い出した!

95:りな:2019/06/01(土) 07:47

「痴漢を目撃した人はいるって!
 クラスメイトが言っていたよ」

「そうなのか? まだ、そこまで
 詳しいことはわからないんだ」

「ふーん。そうなんだ」

そうか……。
これは、無罪を証明する目撃者じゃなくて
有罪を証明する目撃者だ。それじゃあダメだ。
今、必要なのは無罪を証明してくれる目撃者なんだ。

「探した方がいいよね。目撃者。
 どうやって探せばいいの?」

「ビラを作って、配るのが一番
 手っ取り早いかもな」

「おお、それだ! 私が作るよ。
 早めに行動した方がいいよね。
 無実を証明して、一刻も早く
 留置所から釈放させてあげたい」

「やる気満々だなぁ」
「友達の家族が困ってるんだ。助けてあげなくちゃ」

「試験が近いんだろ? あんまり無理するなよ」
「大丈夫! 勉強も、ちゃんとするから!」

私の言葉に。お父さんは笑顔で、うなずいた。

「ここで作ってもいいでしょ? パソコン貸して」

「俺の机のパソコン、使っていいよ。
 俺は今から外出するから……」
そう言って、お父さんはイスから立ち上がった。

96:りな:2019/06/02(日) 07:02

「どこ行くの?」
お父さんに聞いた。

「警察だよ。未南ちゃんのお父さんに、接見してくる」
「面会時間、終わってない?」

「俺は弁護士だから問題ない。逮捕されてから
 日数が経ってるし、早めに会っておきたい」

あっ! そうか!
弁護士であれば24時間、いつでも接見できるんだ。

弁護士以外では、たとえ家族であっても被留置者は
一日一回、15分から20分程度しか面会できない。

しかし弁護士だけは、曜日や時間にかかわらず
何度でも、時間の制約なしで接見ができる。

「そうだね」
納得した私は、お父さんのイスに、腰掛けた。

「と、いうわけだ。美鈴さん、留守を頼んだよ」
お父さんが美鈴さんに声をかけた。

「はいっ! 川上先生。いってらっしゃい、お気をつけて」
美鈴さんは明るい声で、歯切れ良く言った。

私は、お父さんに大きく手を振り
「いってらっしゃい」と声をかけた。

お父さんは、小さく手を振って答え
さっそうと法律事務所を出て行った。

97:りな:2019/06/03(月) 20:53

事務所は、私と美鈴さんだけになってしまった。
しばしパソコンを操作する音だけが室内に響く。
室内の静寂を打ち破ろうと、私は沈黙を破った。

「痴漢で捕まったら、その後どうなるんですか?」
痴漢事件のことを美鈴さんに質問した。

「ん? そうねえ」
美鈴さんは、顔をあげ、私を見た。

「痴漢で逮捕された場合、警察署に
 連行され取調べを受けることになるわ。
 その後、警察官の取り調べによって
 司法警察員面前調書という調書が作成される」

私は、うんうんと、相づちを打ちながら話を聞いた。

「それは、あとで裁判の証拠になったりするから
 間違って作られた場合、被疑者本人によって訂正
 を求める必要がある。痴漢事件は無理やり痴漢の
 事実を作られてしまうこともあるからね」

「結構、強引な取り調べをするって話ですけど」

「警察による強引な取調べや、自白の強要。
 都合のいいように作られる調書は大きな
 問題になってるわね」

「ドラマでも、お前がやったんだろ! って
 シーンありますもんね」

「強要された自白は証拠にならないし、冤罪事件
 を産むことになりかねない。袴田事件では1日
 平均12時間、最長で17時間の取調べを受け
 自白を強要する暴行や威圧があったそうよ」

「ひどい話ですね」

「痴漢事件の問題点は、物的証拠がなくても
 被害者の証言のみで、逮捕、起訴、有罪に
 できてしまうことかしら」

98:りな:2019/06/04(火) 20:48

「間違えられて捕まるケースもあるよね?
捕まってから、本当にやってないって
無実を訴えても、ダメなんですか?」
美鈴さんに質問した。

「犯行を否認してもね。勾留されてしまうわ。
 その後も、犯行の否認を続ければ、最長で
 23日間、身柄を拘束されることになるのよ」

「逆に、罪を認めた場合は、どうなるんですか?」
さらに質問した。

「罪を認めた場合は、示談が成立すれば
 不起訴処分になる場合もある、たとえ
 示談できなくても、迷惑防止条例違反
 であれば罰金で済む場合もあるわ」

「それで釈放ですか?」

「そうね。釈放になる可能性はあるわね」

「痴漢を否認してた場合、いつ釈放されるの?」

「不起訴になれば、勾留満期後に釈放ね。
 もし起訴されてしまった時は、その後
 2、3ヶ月、勾留されることもありえる」

「えー! そんなに長いこと!」
思わず大きな声を出してしまった。

「人質司法って言われていてね。
 長期に渡る身柄の拘束が,日本
 の司法制度の問題となっている」

「大変なんだなー。逮捕されると……」
「そうね……」

ここで一旦、会話は途切れた。

ワープロソフトを立ち上げたものの
気が付けば、ほとんど入力してなかった。

未南のお父さんを、救うことを
新たに決意して、痴漢冤罪事件の
ビラを作るため、入力作業を続けた。

99:匿名:2019/06/05(水) 20:24


(44)
翌日の早朝。私は登校時間より
早く家を出て、駅に来ていた。昨日
作ったビラを、未南と一緒に配ろうと
約束し、駅で待ち合わせをしたのだ。

朝の通勤通学でごった返す駅。人波を縫って
待ち合わせの場所に向って、歩いて行く。
金有駅は、私鉄、JR、地下鉄が乗り合わせる大きな駅。
この駅で未南のお父さんは痴漢の疑いで逮捕された。

待ち合わせ場所には、未南が先に待っていた。
私は、手を振りながら、未南に駆け寄った。

「未南。おはよー。待った?」

「ううん、今、来たところだよ。ホント、ありがとね。
 ビラを作ってくれただけでも、ありがたいのに
 一緒に配ってくれるなんて、感謝感謝だよ」

「ううん、気にしないで」
挨拶もそこそこに、かばんの中からビラを取り出した。

「これがビラだよ」
未南の前にビラを一枚、差し出した。

受け取った未南は、マジマジとビラを見つめ
「すごい。良く出来ている」と褒めてくれた。

「どこで配ろうか? 昨日からすごい悩んでた」

「どこがいいんだろ?」
聞かれた未南も首をかしげた。

どこで配るかを二人で、しばらく話し合った。

事件が発生した車内やホームとの意見も出たが
改札から出てくる人に配ることが決定した。

駅員に、そのことを確認すると、短時間で
乗客の通行の妨げにならないことを前提に
ビラ配りの許可がおりた。

100:りな:2019/06/06(木) 22:55

駅員が、いい人で良かった!
ダメなんて言われたら、困っちゃうもん!

その後。しばらくして。
事件が起きた同時刻、同方向の電車が
到着したのを、電光掲示板で確認する。

「未南のお父さんが乗ってたの、この電車だよね?」

「そうだよ。この人たちが、改札を出て来たら配ろう」

用意したビラ200枚を、100枚ずつ、手に持ち
私は右に、未南は左に、分かれてスタンバイした。

私、ビラ配りなんて、生まれて初めて!
なんか、メッチャ、ドキドキするやんか!

101:りな:2019/06/07(金) 19:43

しばらくして、人の群れが押し寄せてきた。
そのプレッシャーに胸の鼓動が高鳴る。

先頭の集団が、勢い良く改札を抜けた。
「痴漢冤罪事件の目撃者を探していまーす!」
このタイミングで声を張り上げた。

スーツ姿の中年男性にビラを差し出すも
あっさりとスルーされた。

ショックだ! でも、めげないぞ!

「痴漢冤罪事件の目撃者を探していまーす!」

それから、あとは、必死だった。
絶えず声を出し、ビラを差し出す。

その甲斐あって1枚、また1枚と
ビラがもらわれていく。

改札を出る人は、5分もすると少なくなって。
やがて……。ほとんどいなくなってしまった。

配れたのは、20枚くらいか?
未南の方はどうかな?

私は、自分の反対側にいる
未南のもとへ駆け寄った。

「ちょっとしか配れなかったよ。未南はぁ?」

「私もぉ……。そんなに配れなかった」

「まだ、たくさん余ってるね」

「もう一本、次の電車も配っていい?」

「いいよ。まだ学校、始まるまで時間あるし」

「ありがとう」

「でも、いま配った人の中に目撃者がいる
 可能性ってかなり低そう。一日だけじゃ
 ダメだね。また配らないと……」

「うん、でも、私達がビラを配ることが
 お父さんを、勇気付けることになりそう。
 お父さんは、いま、孤独な戦いをしてる。
 一人ぼっちで。今度、面会に行ったら、
 ちゃんと伝えるね。私達、お父さんを
 救うために、頑張ってるよってね」

「うん」

102:りな:2019/06/07(金) 20:18

(45)

ビラ配りを終えて……。
金有駅から学校まで直行。

学校へ到着するやいなや
下駄箱の前で立ち尽くす
未南がつぶやいた。

「上履きがないの……」

ええ? また、やられたの?

未南の上履きが紛失する事件が起きた!

先日のクツ紛失未遂に続いての嫌がらせ。

こんなことをして何が、おもしろいの?

ちっきしょー! 猛烈な怒りが込上げてきた。

「また、ゴミ箱かもよ?」
即座に、そう声をかけた。

「そうかも……」

二人で、以前クツが捨てられていたゴミ箱を見に行った。

しかしゴミ箱の中はカラッポだった。

「昨日の掃除で、中身を捨てたのかも?
 ゴミ捨て場はどこ? 探しに行こう」

「いい。そこまでしなくても。新しく買うから」

未南から返ってきたのは意外な返事だった。

103:りな:2019/06/08(土) 07:35

買えばいいって……。
そういう問題? 
未南はお金持ちだから
いいかもしれないけど……。

「それでいいの?」

「もう一年、使ったからね。それに、ゴミをあさるの
 奈緒にさせたくないし、私もしたくないから……」

そう言われてしまい。返す言葉を失った。
そうだよね……。
これ以上の屈辱を味わいたくないよね。

「まだ捨てられたと決まったわけじゃないよ。
 時間もあるし、もう少し下駄箱、見てみよう」

未南の返事を聞かずに、下駄箱を見に行った。

いま下駄箱に残っている上履きの名前を
一つ一つ、目で確認する。

「名前、書いてあるよね?」
未南に尋ねた。

「う、うん、修倉って書いてあるはず」

未南の返事には、乗り気が感じられず
一歩引いて、私を見ている感じだった。

104:りな:2019/06/08(土) 17:43

「あんた達、何やってるの?
 人の下駄箱、覗きこんで」

「あっ、椿」

声に振り向くと、眼前に姫川椿がいた。

登校は一人で? 送迎の車で来てるから。
いつも三人、一緒って、わけではないようだ。

「まさか? いたずらしようって思ってないよね?」
椿が、嫌みったらしく言う。

くぅー。いやな奴。そんなことするもんか!

「違うよ! 未南の上履きが、なくなっちゃったんだよ!」

「あらそう。それは、お気の毒。朝イチから悲惨ね」
言ってる言葉とは裏腹に、椿は、ほほ笑みを見せる。

そんな椿に、いままでも何度か違和感を覚えた。

105:りな:2019/06/09(日) 21:06

「まっ。がんばって探してね」
椿は、そう言うと、手伝う素振りも見せずに
脱いだクツを下駄箱にしまって、上履きをはいた。

「そうだ、奈緒? 未南に伝えといてくれた?」
椿が、何かを思い出したかの様に言った。

「はぁ? 何を?」
私は、意味が分からず聞き返した。

「その様子だと、言ってないようね。
 だったら私が直接、言ってあげるわ」
椿の視線が、私の横を通り過ぎて、未南に向けられた。

「未南、私達ね。テニス部の活動を再開したの」 

「え? そうなんだ」

椿が笑顔でやさしく語りかけると
未南が嬉しそうな笑顔を見せた。

「また、一緒にテニスができるね!」
未南が笑顔で言った。

「何を言ってるの? お父さんが
 逮捕されたんだから、連帯責任で
 あなたもテニス部、辞めなさいよ」

未南の笑顔は、一瞬で絶望に満ちた表情に一変する。

「ちょっと! そんなこと言う権利が、あなたにあるの?」
私は横から口をはさんだ。

「部外者は黙ってなさい!」
椿から、すかさず言い返される。

私の意見を聞き入れる様子は微塵も無いようだ。

もう、なんも言えねえ。

106:りな:2019/06/10(月) 21:52

「それと、もう一つ。大事なことを言わなきゃね。
 あなたのお父さんね。学校、首になったのよ」

ええ? もう? 解雇されてしまった?

「え? お父さんが首に?」
それを聞いて、未南が驚いた表情を見せた。

「そうよ。当然のことよ。あいつ、性犯罪者だからね」

「そんなぁ。やだよぉ。ほんとうに? どうしよう」
未南は、パニックになり、今にも泣き出しそうな声を出した。

「早く、示談にすることね。そしたら、すぐに釈放
 されるわよ。まぁ、教師やめても、いいじゃない。
 あなたのお爺様は、とってもお金持ちなんだから
 その会社に入れてもらって、どっかの会社で後々
 社長になればいいのよ。教師なんてねぇ。長時間
 働く割に給料の少ない、しんどい仕事なんだから。
 大企業に転職した方が、絶対に、お得よ!」

「お父さんは、教師という仕事に誇りを持っている。
 大変な仕事だけど、やりがいがあるって言ってた」

「そうなの?でもお気の毒ね。性犯罪で捕まったら
 教師なんてもうお終いでしょ?そんな教師に誰が
 教えてもらいたいもんですか!」

椿は今にも泣き出しそうな未南に、容赦ない言葉を浴びせる。

「ううっ、うっうっ、あっあっ」

両手で顔をおおい、とうとう未南は泣き出して。
そのまま、うずくまってしまった。 

「もう終わりね、あなたも、あなたのお父さんも」

椿は冷酷な言葉を吐き捨てたあと。
未南を置き去りにして、行ってしまった。

「未南! 大丈夫?」
私は、未南を抱き起こそうと屈(かが)みこんだ。

「うん、大丈夫、平気」
未南は、自力で、ゆっくり立ち上がった。

「でも先に教室に行ってて。購買で上履き買ってくる」
未南は泣きながら言った。

「一人で大丈夫?」

「大丈夫だよ……」

「あ、うん。じゃあ、先に行ってるね」

正直、心配だった。一緒にって思ったけど。
一人になりたい、という意味だと解釈して
私は、先に教室へ向かうことにした。

107:りな:2019/06/14(金) 20:06

(46)
どうして、未南が、こんな、ひどい目に遭うの?
教室に入ってからも、腹の虫はおさまらなかった。

上履きとったの間違いなくクラスメイトだよね?
上履きをとるのって、完全に犯罪行為でしょ!
そう考えると、怒りが腹の底から突き上げてくる。

許せねえ! 一発、ガツンと言ってやらなきゃ!
とうとう我慢できず、私の怒りが、爆発した。

「誰よおお?! 未南の上履き、とったの!
 この前、先生が、いじめは、ダメだって!
 言ったじゃない! いい加減にしなさいよ!」
私は教室の中央で、怒鳴り散らした。
騒がしかった教室が一瞬で静かになる。

「やめなさいよ。朝からなんなの? 迷惑よ」
いち早く、反応したのは姫川椿だった。

椿と私の視線が、ぶつかり合う。

いじめのリーダーは姫川椿よ、という
央弥ちゃんの言葉が脳裏をよぎった。

「未南の上履きが、なくなったんだよ。
 これは、間違いなく、いじめだよ。
 いやいや、もう、犯罪行為じゃん!
 あなた学級委員でしょ? だったら
 みんなに注意しなさいよ!」

「はぁ? 学級委員だから何なの?
 そんなの関係ない。なんで私が
 それを言わなきゃなんないの?」

挑発的に言われ、バカにすんなよ、と
私は、完全にブチギレた。

「言いなさいよ! いじめはダメだって!
 学級委員として、クラスメイト全員に!
 いじめをしてはいけないと、はっきりと
 明確に、言いなさいよ!」
私は、すごい剣幕で まくし立てた。

椿は鬼の形相で、わなわなと身体をふるわせる。

ねえ? 怒ってる? って思った。

「転校生の分際でえ! 私に命令するなぁあああ!」
次の瞬間、椿は怒り狂ったように叫んだ。

「なんで私が、そんなこと言わないといけないのよ?」

「あなたが、いじめのリ……」
リーダーと言いかけて、言葉に詰まった。

「はあ? 何? 聞こえません!」
椿は、やばいくらいキレている。

「あなたが学級委員だからよ」
さっき言おうと思ったことと、違う返事をした。

「学級委員だからって、いじめの責任まで私に
 押し付けられたら、たまったもんじゃないわ」

「あなたが、みんなに、いじめ、やらせてるんじゃないの?」
やばい、思わず、本音を言ってしまった。

108:りな:2019/06/17(月) 20:48

「何、言っているの? 違うわよ」
椿は急に、素の顔に戻り、平然としている。

あれれ? やけに冷静だ。
もっと動揺するかと思ったけどなぁ……。

「いじめのリーダーは、あなたじゃないの?」

「いじめのリーダーとか、意味がわからないわ。
 いったい、誰が、そんなこと言ったのかしら?」

椿にそう聞かれたが、央弥ちゃんとは答えられなかった。

「姫川! あんた、よくも、まあ、ぬけぬけと
 いけしゃあしゃあ、としていられるわね!」
 
一瞬、誰?って思ったけど……。
その声は央弥ちゃんの声だった。 

「いじめのリーダーはあなたでしょ! 姫川!」
央弥ちゃんが、怒気を込めて言った。

109:りな:2019/06/19(水) 23:24

椿は大きくため息をつき、央弥ちゃんに視線を向けた。

「いいがかりは、よしてくれない、央弥。
 奈緒に変なこと吹き込んだのもあなたね」
さすがに、いじめのリーダーは私よ、と椿が言うわけない。

「しらばっくれんな! ぜったいにそうよ!」
央弥ちゃんが大きな声で反論する。

「馬鹿馬鹿しい。空虚な妄想ね。何か証拠でもあるの?」
証拠とか、推理漫画の犯人が、いかにも、いいそうなセリフだ。

「証拠はない。でも、あなたがどういう人間か、私は知ってるもの」
証拠はないんかい……央弥ちゃん?
ここは、カッコよく、証拠はあるって言って欲しかった。

110:りな:2019/06/28(金) 21:51

「証拠がないのに、いい加減なこと、言わないでくれる?」
椿は央弥ちゃんを威圧するように、胸の前で腕を組んだ。

いじめのリーダーは椿かもしれないのに、証拠がない。
なにか? 証拠ない? あっ! あれは、どうかなぁ?

「これ。証拠じゃないかもしれないけど……」
私は遠慮がちに言った。

「未南が榊田にボールをぶつけられた日ね。
 更衣室で着替えてるとき、こんな会話が
 あったんだよね。転校生、生意気だから
 やっちゃう? でも椿さんの許可がないと。
 そんな、やりとりを、私と未南は聞いたの。
 その会話の声は、榊田の声に、似ていたよ」

あれ? なんか、うまく説明できないや。

「それがなんなの? そんなの私がいじめの
 リーダーだという証拠じゃあ、ないじゃない」
思い付きで言った私の証言が、椿にあっさり却下された。

111:りな:2019/06/29(土) 09:19

「そうかしら? 真紀に命令して、いじめてるって証拠じゃない?」
央弥ちゃんが横から口をはさむ。

「ひどいわ! ひどいわ! 二人して私のこと、いじめっ子にしようとしてる」
椿が、私たちを悪者扱いする。

「そんな演技には、だまされないよ! あなたには、いじめる動機があるでしょ!」
央弥ちゃんが即座に見破った。

「動機? ないわよ。私と未南は友達だったのよ」
まぁ、確かに。椿と未南は友達だったらしいけど……。

「今は絶交してるじゃない」
央弥ちゃんが言い返す。

そうなんだよね。二人は元親友だった。
そう言われた椿は。

「まぁ、そうだけど。それは関係ないでしょ?
 いじめられるのは、あの子のお父さんが
 痴漢で捕まったから、いけないのよ」

「あなたが、いじめる理由は、別にあるんじゃないの?
 テニス部を退部させられて、未南を恨んでるからでしょ!
 それに加えて成績が一位なことや全国大会で優勝した
 ことが、本当は面白くないんじゃないの?」

うん。央弥ちゃんの言ってること、当たってるかもしれない。

112:りな:2019/07/05(金) 20:39

「央弥! てめぇ! さっきから黙って聞いてりゃあ!
 椿さんに向かって、失礼なこと言ってんじゃねえぞ!」
うわー! 突然の大声に、びっくりした! 榊田?
「調子に乗って、好き勝手! 言ってんじゃねーよ!」
いきなり、榊田が央弥ちゃんを恫喝(どうかつ)してきたのだ。

「いいのよ! 真紀。あなたは黙っていなさい。央弥、その考え方
 根本的に間違ってるわ。私はね。未南のこと。いじめてないから」
椿は取り乱す様子もなく、一貫して冷静に、いじめを否定する。

「あくまでも認めないつもり? 事実が、あきらかになったとき。
 あなたは、罪に問われることになるから、覚悟しときなさい。
 あなただけじゃない! 未南をいじめてるクラスのみんなもね」
クラスメイト達に、央弥ちゃんは言い放つように言う。
央弥ちゃんの毅然とした態度が、かっこいいと思った。

「もう! たかが上履きを、とられたくらいで何よ」
椿は少し怒ったような声になった。

「自分の上履きがとられても、同じことが言えるの?
 いじめなんて言い方すると、軽い感じがするけど
 やっていることのほとんどは、犯罪行為だからね」

「私の上履きを取る人なんて、この学校には一人もいないわ」

いや、いや、椿。そういう意味で言ったんじゃないよ……。

113:りな:2019/07/08(月) 22:52

(47)
この後。一時間目が終わった休憩時間の直後。

「みなさーん! 聞いてください!」
榊田が、クラスのみんなに向かって、大きな声を張りあげた。

なんだ? なんだろう?

「痴漢で捕まった修倉先生が、学校を首になりました!」
榊田のサプライズ発言に教室内が急に騒がしくなった。

それ! 私と未南が、今朝、下駄箱のところで椿に聞いた話じゃん!

「あいつは二度と学校に来ませんので、安心してください!」
榊田は、言い終わると。
こっちに向かって歩いてくる。
榊田は未南の目の前で止まった。

「おい! 未南! 学校終わったら、親父に。
 学校、首になったって、言いに行けよ!」

榊田は、そう言うと。
きつい視線で、未南をにらんでいる。

「う、うん。でも……お父さんは、痴漢してないもん……」
未南は下を向いたまま、か細い声で答えた。

「嘘、ついてんじゃねーよ」
榊田はバアンと机をおもいっきり叩いた。

「ちょっと、やめなさいよ」
私は、たまらず口をはさんだ。

「お前も先生が痴漢したこと非難しろよ!
 一人だけ味方になってんじゃねーよ!」
榊田が私に言う。

「私は、中学の頃、性犯罪の被害に遭ったことがあるんだ。
 だから、そういうことする奴が、絶対に許せねーんだ!」

へー。そうなんだ……。別に私だって痴漢は許せないよ。
でも未南が、お父さんはしてないって言うから、今はそれを信じてる。

(48)
テスト週間をへて。
一週間後、テストがあった。
そこで。
未南にカンニング疑惑がかけられてしまう
なんとか、証拠不十分で無実になったものの。
だれかがしかけた、恐ろしい罠に恐怖した。

(49)
「テストどうだった?」
美南が私の顔を覗き込む。

「いい感じかな?学年1位の
未南には遠くおよばないけどね」

私は、ちょっと意地悪なこと言う。

「そんなことないよ……」と謙遜し
未南は照れくさそうな顔を見せた。
そんな仕草がちょっと可愛かった。

1学期中間試験が無事に終わり
続々と試験結果が返ってきた。
全教科、上々の出来に自己満足。
転校の不利はあったが、我ながら
よく出来たと思った。結果が
楽しみだなぁ。

114:りな:2019/07/09(火) 20:18

(50)
数日後の帰りのホームルーム。
担任の先生が成績表を携えて教室にきた。
それがわかって私の心臓がドキドキと高鳴る。

「これから成績表を渡します。
 学年順位の下の方から呼ぶので
 呼ばれた人は取りにきてください」

先生が、そう、私たちに告げると
教室がざわざわと騒がしくなった。

「はいはい、静かにしてください。
 それでは、第44位 和田萌奈」

先生が最初に呼んだのは萌奈だった。

萌奈が席から立ち上がり、取りに行く。

「和田さん、44位は選抜圏外ですよ。
 来年、このクラスに残りたかったら
 もっとがんばってください」

「はい……すいません」
成績表を受け取って席に帰る。萌奈は
明らかに、肩を落とし落胆していた。

「第41位、榊田真紀」

萌奈に続いて、榊田も下位だった。
ふふ。ざまあみろって人の不幸を喜ぶこと
なんてあまりないけど、思わずそう思った。

115:りな:2019/07/09(火) 20:23

(51)
続々と名前が呼ばれていき
とうとう第5位まできた。
まだ私の名前は呼ばれていない。

残るは、未南、椿、央弥ちゃん、由香子、と私だった。

「いよいよ。ここからベスト5の発表です!」
なんだか楽しそうな先生の声のトーンが上がる。

「第5位は、野村由香子」
先生に名前を呼ばれ、由香子が成績表を取りに行く。

「よくがんばりましたね。ここからは、一言
 コメントを言ってから席に戻ってください」

ええ?  コメントって……何?
ノリがAKBの総選挙っぽくなってきたぞ。

「前回より順位が一つさがりました。たぶん
 転校生の川上奈緒に負けたんだと思います。
 くやしいです。今度は負けないように
 もっとがんばります」

教室が拍手に包まれた。
由香子は拍手の中、席に戻る。

「つづいて、第4位 川上奈緒」

おお、名前、呼ばれたぞ! 4位か・・・。

「はい」と大きな返事をして
 成績表を取りに行った。

「転校直後で、この成績は立派です
 今後も、がんばってください」

先生に褒められたのが、すごく嬉しかった。

えーーと。
コメントは何を言ったら良いのやら・・・。

なぜか松井珠理奈の顔が浮かんだ。
あれだ。あれしかねー。

「えーと。順位が4位(よい)だけに
 良い順位。良い成績。なんちゃって……」

シーーンと教室が静まり返った。
ダジャレが、まったく受けなかったのだ。
私は失意の中、とぼとぼと歩いて
自分の席へと戻った。

「さぁ 残すはベスト3の発表です。
 はたして順位の変動はあるのでしょうか?」
なんか先生が一番楽しそうに見える。

「第3位は……柄谷 央弥」
クールな感じで成績表を取りに行く央弥ちゃん。

「今後も、目標に向けてがんばってください」

「はい」
成績表を受け取り、クルリと振り返る央弥ちゃん。

「私は医学部を目指しています。
 両親は美容形成外科医ですが
 跡継ぎは兄貴に任せて、普通
 の医師として、たくさんの命
 を救いたいと思っています」

教室に大きな拍手が沸き起こった。
すごい、立派だなぁ 央弥ちゃん。

116:りな:2019/07/09(火) 20:25

「さぁ。いよいよ残すは1位と2位の発表です!」
先生のテンションはマックスになった。

「1位は修倉さんか? それとも前回2位の
 姫川さんか? 運命の結果発表です」

私はゴクリと唾を飲み込んだ。

順位の発表は進み、まだ名前が呼ばれて
いないのは、1位争いを続けていた未南と
椿のみとなった。そして先生が2位の名前を
発表しようとした時、教室の生徒の一部から
「未南」「未南」という未南コールが起こっ
てしまった。それは、未南が2位になれと
いう意味だった。

「発表します……第2位は姫川 椿」

発表と同時に、教室から一斉に
落胆の声があがった。

椿は先生から成績表を受け取り、生徒の方を見る。
椿の顔に喜びの表情はなく、綺麗な顔に険しい表情
を浮かべていた。

「みなさんの期待に応えられず。残念な結果に
 なりました。今度はもっと努力して、1位に
 なりたいと思います」

表情とは裏腹に謙虚なセリフを残して
椿は席に戻っていった。

「2学年。1学期中間考査。第1位は
 修倉 未南さんです。おめでとう」

先生の発表と同時に、私は大きな拍手をした。
あれ…………。気が付けば……。
たった一人だけ。私だけが拍手をしていた。

「よく頑張りましたね」と言って
先生が成績表を未南に手渡した。

「ありがとうございます」
そう言ってから、振り返った未南は
口に手を当てて泣いていた。

「今回いろいろなことがあって
 勉強が手につきませんでした。
 お父さんのせいで、みんなに
 大変迷惑をかけました。でも
 お父さんは無実だと私は信じて
 います。うう......ああ......」

未南は両手で顔を覆い
嗚咽して言葉にならない。

「私のことは……嫌いでも……嫌いでも……」
それでも未南は必死になって声を絞り出す。

「嫌いでもいいから、無実の罪が晴れて
 もし、お父さんが学校に帰って来れたら
 父のことを嫌いにならないでください」

未南は私達に向かって深々と頭を下げて
から泣きながら自分の席へ戻っていった。

「僕も修倉先生が無実であって欲しいと
 思っていますし、困っていることが
 あったら修倉さんを助けてあげたいと
 思っています。みなさんも、このことで
 修倉さんを中傷したり、嫌がらせなどを
 したりしないようにしてください」

真剣な顔で先生は話をした。

「少し長くなりましたが、これで終わります。
 あとは掃除を終えておのおの帰宅してください」

先生の言葉を最後にホームルームが終わった。

117:りな:2019/07/10(水) 20:13

(52)
お嬢様学校でも掃除はやる。
今週からは教室の掃除だ。

私は、床をホウキで掃きながら
近くにいた央弥ちゃんに話しかけた。

「今日から部活に参加しようと思ってる。
 顧問の先生にも、そう伝えてあるから」

「この前、中間試験が終わってから
 入部するっとか言ってたよね」

「うん。よろしくね」

「うちの監督、星野って言うんだけど
 超怖いから覚悟しといてね」

「ええ! 怖い監督はヤダなぁ」

私は、そう言って、顔をこわばらせた。
その後も雑談をしながら掃除をしていると……。

突如、ずぶ濡れの未南が教室に入ってきた。
未南は髪の毛からスカートまで、全身水びたしだった。

その異様な光景に、私は自分の目を疑った。
今日は晴天だし、突然の豪雨ってわけじゃないし
未南にいったい何があったのだろうか?
私は事情を聞くため、小走りに未南に駆け寄った。

まさか、アイス・バケツ・チャレンジ?
ちょっと? 昔に流行(はや)った……。
氷の入った水を頭からかぶるか、寄付をするか
ってやつ……て……そんな、わけないし……。

考えるより聞いた方が早い……。
私は未南に尋ねた。

「何があったの? びしょ濡れじゃない?」
「トイレで水をかけられちゃった」

「え?」
どういうことなの?

いじめドラマみたいに……。
いじめっ子に。
お前、汚いから洗ってやるよ。
バケツの水をバシャン。

モップでゴシゴシみたいな
ことをされたってことか?

118:りな:2019/07/11(木) 19:55

だとしたら、そんなの許せない。
激しい怒りがこみ上げてくるのを感じた。
「誰がこんなひどいことをしたの?」
私は怒った声できいた。

「真紀だよ……」
「まきって、榊田のこと?」
「うん、掃除中に水、かけられちゃった」

さ・か・き・だのヤローー!
またしてもヤリやがったなぁー!

マジで怒ったぞ。マジで怒らなきゃ。
本当の友達とは言えねーだろっ……。

もうゆるさないぞ!  バイキンマン! 
って言うアンパンマンの気持ちになって
私は、教室を、飛び出すと、女子トイレ
に向かって走った。

未南をいじめてるのは、あいつだ!
謎は、すべて解けてないけど……。
まだ犯人のわかっていないいじめも
きっと、あいつがやったに違いない。

掃除場所の女子トイレに着いた。
私はトイレの扉を開けるのと同時に
「榊田! 榊田真紀はいるか!?」
と大声で怒鳴った。

「うざっ。なんなの? 急に大声出して」
真紀が私を、するどい目でにらみつける。

「あんた、未南に水かけたでしょ!?」
アンパンチを喰らわせることはできないが
そのくらいの勢いで、真紀に詰め寄った。

119:りな:2019/07/13(土) 08:26

「わざとやったんじゃねーよ。お前は
 被害妄想が激しいから 勘違いしてる
 だけなんだよ。ホースで水まこうと
 思ったら、未南がトイレの中に居て
 水が、かかちゃったんだよ。」
真紀が私に向かって、興奮気味にまくし立てた。

「偶然かかったって言うの?そんなの嘘だ!
 たかが水って思ってるかもしれないけど
 水をかける行為が暴行罪に該当して逮捕
 されるケースだってあるんだよ!」

「すごいねー。お父さんが介護士だと
 娘も法律に詳しいんだねぇー」

「介護士じゃないよ。弁護士だよ」

「少し間違えただけだろ!調子に乗んな。
 どっちも似たようなもんだろ?」

「ぜんぜん違います」
私は少し馬鹿にした感じで言った。

120:りな:2019/07/13(土) 21:43

真紀が、すごいきつい目つきで、にらんでくる。

「いま、私のこと馬鹿にしただろ?
 さっきは嘘つき呼ばわりするし」

真紀はヒステリックにそう叫ぶと
いきなり私の胸倉に掴みかかってきた。

「ごめん、ごめん」
そく、謝る。

言い間違え? を馬鹿にしたの、ちょっと反省……。
それに、はなから真紀を犯人だと決めてかかってしまった。

「マジで、ムカツクなぁ! テメー」
足を蹴られて、パシッと乾いた音がした。

「いっった」
思わず声を上げてしまった。
真紀が、私のことを蹴ったのだった。

「ちょっと! やめてよ!」

「怖いの? やめて欲しければ土下座して謝れ」
真紀が謝罪を要求する。

「別に怖くないよ。私だって強いんだから……。
 名探偵コナンの毛利蘭に憧れて、空手習ってたから」

「ウソくせえ。もう少しマシな、ハッタリかませよ?」
うそじゃないよ。

私はファイティングポーズをとった。
「なんなら、試してみる?」
負けず嫌いな私は好戦的なセリフをはいた。

土下座なんかしたら、いじめっ子を調子に乗せるだけだ。

121:りな:2019/07/14(日) 08:39

真紀は私の毅然(きぜん)とした態度に
かなり戸惑っている。

「あすか? どうする? 
 この子やっちゃう? 
 やっちゃっていい?」

真紀は隣にいた酒井あすかに目配(めくば)せした。
黒い髪の少女で、真紀と、いつも一緒にいる子だ。
あすかは、ぶんぶんと、首を横に振った。

「やばくねぇ? あのおかたは、奈緒には
 まだ手を出すなって、言ってたじゃん」

「くっ。あの人の言ったことには逆らえねえ」
やはり、この声は更衣室で聞いた声と同じだ。

あの時は、椿さんの許可がないと
とか、はっきり言ってた気がする。

あのおかたと椿は同一人物なのか?
優等生の顔の下に隠した、冷酷非情な
いじめっ子の正体を必ず暴いてみせる。

真紀の顔から、急に緊張が解けた。
「そうゆうワケだ。喧嘩はヤメだ。
 運が良かったなっ。お前が、あの
 おかたのお気に入りじゃなければ
 一戦交えても、よかったのになぁ」
真紀が思い切り、上から目線で物を言ってくる。

「未南を傷つけたら、許さない!
 そのときは覚悟しときなさい」
私は強がりを言って、ニヤリと笑うと
無愛想な顔をしてトイレから出た。

未南はどうしたのかな? 心配だなぁ。
即座に教室へ戻る。トイレから出たあと
内心では心臓がバクバク、音を立てていた。
本当はね。ちょっとだけビビってたんだ。
でも負けてたまるかって思ったから一歩も
引かなかった。

122:りな:2019/07/15(月) 08:49

(53)

教室へ戻ると、未南の姿はもうなかった。
私を待っていた央弥ちゃんに尋ねると
「帰ったんじゃない?」と返事をした。

服? びしょ濡れのまま?
未南、電車通学だよね? 可哀想……。
未南のことが心配になってポケットの
スマホを手に取り、電話をかけた。

「もしもし? 未南? 大丈夫?」
「あ……ごめん。大丈夫だよ。心配しないで。平気だから」
「今。どこ?」
「更衣室にいるよ。体操服に着替えようと思って」
「ああ、そうか。今日体育あったもんね」

そう聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。

「奈緒、突然、教室を出て行ったけど。どこ行ってたの?」
「榊田真紀に会いにトイレに行ってた」
「え? 真紀ちゃん、なんか言ってた?」
「わざとやったんじゃない。誤って水をかけてしまって言ってた」
「そうだよね。わざとじゃないよ。だから気にしないで」

「う、うん」
なんとなく、納得していなかったが
私は、あれこれ言わずにいた。

証拠もないのに、あーだ、こーだ、言っててもね。
本当は、まだ、わざとやったんじゃないかと
疑ってるけど、あえて口にはしなかった。

「でもまた何かあったら、すぐに相談してね。
 私は、いつだって未南の味方だよ」

「ありがとう。奈緒はやさしいね。
 奈緒と友達になれてよかった」

「こっちこそ。未南が、転校してすぐに
 友達になってくれて嬉しかったよ」

「うん……。奈緒には何でも隠さずに
 話すよ。奈緒も困ったことがあったら
 いつでも私に相談してね」

「うん、そうする」

この先、大きな困難があるかもしれないが
二人で力を合わせて乗り越えて行こうね!

123:りな:2019/07/19(金) 20:40

(54)
放課後。今日からバスケ部の練習に参加します!

央弥ちゃんと一緒にバスケ部の部室で着替え。

央弥ちゃんと私はご近所同士で。
央弥ちゃんは私の家の道路をはさんで
向かいにある大きな豪邸に住んでいる。

両親は美容整形外科を経営しているお金持ち。

お嬢様なんだけど、ぜんぜん普通の感じな子で
クラスの中で唯一イジメに加担していなかった。

この子なら安心して友達になれる。
バスケ部員だし、仲良くできるといいな。


(55)
体育館に着いた。時刻は午後四時頃になっていた。
体育館はバスケットコートが3面とれるほどの
広さがあり、バスケ部とバレー部の部員たちが
ウォーミングアップを始めていた。

「奈緒のことキャプテンに紹介してあげる」

央弥ちゃんから、そう言われ、体育館にいる
キャプテンに挨拶へ行くことにした。

央弥ちゃんは、ひときわ目を引く大柄の
女性に声をかけた。
「大谷先輩! この子が今日から
 バスケ部に入部する川上奈緒です」

座ってストレッチをしていた女性が立ち上がる。
かなりの長身。キャプテンは
190cm近い大柄の人だった。
ビックリして思わず、大きいと口走りそうになった。

「川上奈緒。2年生です。よろしく
お願いします」

「キャプテンの大谷優子だ。よろしく
 転入生でしょ? どこから来たの?」 

「令和学園です」

「バスケの強豪の令和学園?」

「はい」

「ポジションはどこ?」

「ポイントガードです」

「うちでレギュラー取れるように頑張ってね」

キャプテンがニッコリほほえんだ。

しばらく談笑した後、キャプテンは部員全員
を集め、私のことを紹介してくれた。

央弥ちゃん以外は、知らない人ばかりだけど
仲良くできるといいな。

新たなチームメイトとの出会いに
私は期待に胸を躍らせた。

124:りな:2019/07/19(金) 20:42

バスケ部は、顧問の先生が来るまで
ウオーミングアップすることになっていた。

ランニング、ストレッチ、ダッシュ、ドリブル
パスやシュートの基礎練習などをした

わきあいあいとした雰囲気だった。

先輩後輩も仲が良かった。

だが問題は顧問の先生。

央弥ちゃんからは、すごく怖い先生だと聞いている。

バスケ部顧問の名前は星野真一(45歳)

ガッシリした体格で体育教師をやっている。
学生時代は大学屈指の 強豪バスケ部に所属
していたようだ。

やがてその星野先生が体育館に
やってきて本格的な練習が始まる。

125:りな:2019/07/20(土) 08:56

(56)
熱血監督は……バカヤロー、と。

練習でミスをした選手には
容赦なく怒号を浴びせる。

やはり評判どおりの怖い監督だった。

特にキャプテンに対して厳しく接することが
多く、練習でミスをするたび大声で怒鳴りつけた。

「いいぞ! 川上! ナイスシュートだ!」
けど私だけは、怒られず、たくさん褒められた……。
私、ミスはしないので!(嘘) 


やがて練習も終盤に近づき
5人対5人での試合が始まった。
私はポイントガードで出場する。

私は試合序盤、ボールをキープして
チームメイトの大谷先輩にパスを出した。
だがボールを手で弾いて、ラインを割ってまう。
「あっ!」
大谷先輩はボールを取り損ねると
しまったって感じで声をあげた。

「おい! 大谷! ちょっと来い! なんだ今のプレーは?
 キャプテンのクセに、あんな簡単なパスも取れんのか?」

星野先生がミスをした大谷先輩を、ライン際に呼びつける。

「すみません」
大谷先輩は巨体を揺らしながら
猛ダッシュで先生の前まで来た。

私はハラハラしながら、この成り行きを見守る。

「お前はミスが多いんだよ!
 キャプテンがこんなことで
 全国大会に行けると思っとんのか?
 キャプテンが、うんあんなミスしとったら
 チームのプレーにも影響あるやろ?
 なあ、大谷? お前、もう
 キャプテンをやめるか?」

星野先生が叱るように大声で言う。

「やめたくないです。キャプテンを続けさせてください」
大谷先輩は、そう返事した。

126:りな:2019/07/20(土) 09:04

「キャプテンを続けたいんだな? 
 よーし、お前の気持ちは分かった。
 ミスをするのは集中力が足らんからだ。
 だから、練習に集中できるように気合
 を入れてやるから、歯を食いしばれ」

星野先生は、右手を振り上げると
おもいっきり大谷先輩の頬を平手打ちした。

その衝撃に大谷先輩は大きくよろめく。

もしかして、これって?
体罰ってやつ? 社会問題になってる。
だとしたら、許せない。
教師がいくら偉くても、生徒に
暴力を振るう権利などない。

弁護士の娘として、この事態を
見て見ぬふりができようか?
いや、できない。
私に流れる正義の血が許さないのだ。
勇気を振り絞り、先生に向かって言い放つ

「学校教育法の第11条において、校長および
 教員 は、懲戒として体罰を加えることは
 できないとされています。体罰は、学校教育法で
 禁止されている、決して許されない行為です」

先生が、こいつ何 言ってんだ?
見たいな表情で私をにらむ。

「新入りのくせに俺に文句言うのか?
 生意気な奴め! これは体罰じゃない。
 指導だ! 覚えておけ」

「異議あり!」
私は強い口調で、そう声をあげた。

「たとえ教師による指導であっても
 平手打ちという行為は犯罪ですよ。
 それによって怪我にいたらない場合
 刑法第208条 暴行罪となるし。
 もし怪我をした場合には
 刑法第204条 傷害罪となります」

「はぁ? 何の話だ? バカバカしい。
 私が、学生の頃なんて、先生や先輩から
 何度も叩かれたものだ。たかが平手打ち
 程度のことで偉そうな講釈を並べるな」

「たかがって? 体罰を受けた生徒の辛さを
 先生は考えたことがありますか?痛くって
 怖くて、悲しくて。相手が先生だから、
 逆らえなくって。みんな辛いのを我慢して
 るんですよ?体罰や暴力は絶対反対です」

「競技レベルを上げるのに有効な手段だと私は
 思っている。なんでもかんでも反対とか。
 そんなことを言ってるから、日本のスポーツは
 弱くなるんだ。今の子は軟弱過ぎるんだよ。
 昔は、スパルタ教育と言って、この程度の
 ことは当たり前だったんだ」

「弱くなってないですよ。国際舞台で大活躍して
 るじゃないですか?今のスポーツ界は指導者も
 競技者も良く勉強し理論的にトレーニングして
 いる。昔より競技レベル上がっている競技は、
 たくさんありますよ」

「いちいち教師の俺に意見するな……。
 そんなことは、お前に言われんでもわかっている。
 だが俺には俺のやり方がある。俺のやり方に
 ケチを付けるな」

「だからと言って、体罰は容認できません。
 教師の体罰によって、自殺に追い込まれた
 生徒もいるんですよ? その先生は、学校を
 懲戒免職になり裁判では有罪の判決を受けて
 います」

「ん? まあ、そんな事件もあったなぁ」
先生が動揺する様子を見せながら
「だがなぁ、川上。俺は自殺に追い込む
 ほどひどいことはしとらんぞ。たまぁに
 つい勢いで手が出てしまうだけだ。
 それに俺が手をあげるのキャプテンの
 大谷だけだぞ」
と、しどろもどろに言う。

「本当ですか? 大谷先輩?」
今までずっと黙っていた大谷先輩に質問した。

「なっ? そうだよな? 大谷?
 俺の言ってる通りだろ?」
大谷先輩が口を開く前に、星野先生が
都合の良い証言が得られるように誘導する。

「私は大谷先輩に聞いているんです。
 先生は静かにしていてください。
 さあ、大谷先輩? どうなんですか?」
そんな星野先生を黙らせて
改めて、大谷先輩に質問する。

127:りな:2019/07/25(木) 23:15

「私は……」
大谷先輩は口を閉ざしてしまった。

「正直に、真実を、答えてください」
という私の問いに、大谷先輩は
コクンと一度だけうなずいた。

「体罰を受けていました。私だけが
 先生から体罰を受けています……」

やはり体罰は事実のようだ。
「先輩?」
さらに質問を続けようと思った時だった。

「もうこの話はいいだろう? 
 これ以上は練習時間の無駄だ。
 とっととプレーを再開するぞ」
星野先生があせった様子で
唐突にこの話をさえぎる。

「もう一つだけ、質問させてください」

「ダメだ、ダメだ、ダメだ。
 インターハイ予選も近いんだ。
 これ以上、時間を無駄にできない」
星野先生が声を荒だてた。

「先輩? もう一つだけ聞きます。
 体罰は、どのくらいの頻度で
 行われていたのですか?」

「いいかげんにしろ!
 もう話は終わりだ!
 大谷! コートに戻れ!
 川上! お前もだ。早くしろ!
 プレーを再開するぞ!」
星野先生は、ひどく憤慨している。

「はい!」
大谷先輩が、大きく返事をして。
駆け足でコートに戻っていく。

これは、とても重要な質問なのに……。
ここは……。あきらめるしかないのか。

「先生の言っていることはウソよ! 」

突然、そう発言したのは、央弥ちゃんだった。
私はビックリして央弥ちゃんの方を振り返る。

「たまに、なんて言っているけど。
 体罰は日常的に行われていた!
 叩いたり蹴ったり、肩を押して
 突き飛ばしたり、毎日のように
 先生の体罰は行われていたわ!」
央弥ちゃんは、星野先生をにらみ付けた。

「黙れ柄谷! よけいなことは
 しゃべらんでいいわ!」
星野先生が大声で怒鳴る。

央弥ちゃんの身体が小刻みに
震えているように見えた。


先生のことを許せない。
央弥ちゃんの真実の叫びを聞き。
私は決心した。
校長に、ありのまま報告しよう。

128:りな:2019/07/25(木) 23:19

(57)
と、いうわけで校長室に来ました。
とりあえず、ノックをして校長室に入った。
まるで大企業の社長室のような豪華な校長室だ。
「失礼します」
挨拶をしながら後ろ手でドアを閉める。

ふかふかの絨毯の感触が気持ちいい。
巨大なシャンデリアが光り輝き、
部屋の真ん中には、テーブルがあり、その
周りには高級そうなソファが置いてある。

だだっ広い部屋の奥の大きな机の前に
落合ひろこ校長は座っていた。
「あら、川上さんじゃない?」
「ご無沙汰してます、校長先生」
校長と会話するは転入してきた最初の日以来だ。

落合校長は優しくほほ笑んでくれた。
歳は50くらいだろうか?風貌や口調は
校長と言うより、幼稚園の園長のような
雰囲気がある。

「新しい学校生活はどう?」
「まだ色々馴染めなくて……」
転入してからのことに思いを巡らす。
いじめの問題に部活動の体罰
痴漢で捕まった未南のお父さん。
と、問題は山積だ。

「そうなの? お友達はできた?」
「はい、修倉未南と友達になりました」
「ああ、修倉さんと……。彼女。
 お父様が痴漢で捕まって大変みたいね」
「ええ……そうみたいです……」

しかも、いじめにあってるんです。
と思わず言いそうになってしまった。でも
今日はこの話をしにきたわけじゃないし。
絶対、先生に言わないでねって約束を
また破るのも忍びない。お父さんのことで
お母さんが憔悴(しょうすい)しきってる
からこれ以上心配かけたくないって言ってた。

先生を通じてお母さんが知ったら悲しむって。
だから今は話題を変えよう。
体罰のこと話さなきゃ。
「それより相談したいことがあるんです」
「いいわよ。なにからしら?」
「その」 
「立ち話もなんだし、そこの
 ソファに座って話さない」
「……えっ、ええ」

あの話を切り出そうとすると
校長から座るように促された。
私が同意すると、校長が席を立った。
二人でソファに向かう。
私がフカフカのソファに座ると
校長がその対面に座った。

129:りな:2019/07/25(木) 23:21

「それで? 相談って何かしら?」
「今日、部活に初参加しました」

「どうかしら? うちのバスケ部は去年の
 インターハイ予選でベスト4に入ったのよ。
 川上さんみたいな優秀な生徒さんが来て
 くれたから、今年は、念願の全国大会
 出場かしらね?」

「いえいえ、そんな……」
私は両手を振って否定する。
そんな私を見ながら
校長がニコニコ笑っている。
これから、この笑顔を曇らす話を
することに少し心苦しさを感じた。

場合によっては責任を問われて
校長が更迭されるかもしれない?
バスケ部が活動停止になったり
星野先生が懲戒免職になるかも?
そんな不安が頭をよぎる。

だが意を決して話を切り出した。

「練習初日で、星野先生がキャプテンに
 体罰を行っていることが発覚しました。
 キャプテンへの体罰がひどく、今日も
 練習でミスをすると怒られ、頬に平手
 打ちをされました。 私は、この暴力
 行為を校長へ訴えることにしました」

思いもよらない話の展開に
校長は驚いて身を乗り出した。

「ええっ? あの星野先生が体罰を?
 土日も返上して部を指導する大変
 熱心な先生だと聞いています。
 指導が熱を帯び、無意識に手が出て
 しまったってことではないかしら?」

「いいえ。体罰は日常的に行われている
 と別の部員が証言してくれました。
 叩いたり蹴ったり、肩を押して
 突き飛ばしたり、毎日のように
 先生の体罰は行われていたそうです」

「そ、そんなぁ……」と弱弱しい声で言うと
校長は絶望的な表情でがっくりとうな垂れた 。

「いじめ、裁判。痴漢の次は体罰ですって?
 なんでこう次から次へ問題が起こるの?
 苦労して、やっと校長になれたのに……」

かすかに聞こえる声でブツブツつぶやく校長に
私は「校長先生?」と声をかける。

私の声で我に返った校長は顔を上げた。

「困った問題だわ……。即刻、星野先生を
 顧問から外します。あとの処分は調査の
 のち決めます。このことは私に一任して
 くれないかしら? 川上さん」

「よろしくお願いします」

「バスケ部の顧問へは新たに
 浅尾先生に就任してもらいます」

「え? あのイケメン先生?
 アシスタントコーチの?」

話が早いな……でも、なんだか……。
体罰も解決しそうだし、今日ここに来て
本当に良かった。

私は校長に深々と頭を下げ
校長室をあとにした。

130:りな:2019/07/26(金) 19:54

(58)

学校から帰宅すると

| 奈緒へ
| 夕食は法律事務所で食べるから
| 帰宅したら食べに来い      父より

と置手紙があったので、素早く
セーラー服から普段着に着替え
足早に階段を駆け下りた。

外はもう薄暗くなっていた。
寂寞(せきばく)とした思いに駆られて
急いで父のいる法律事務所の中へ入った。

中には父と美鈴さんがいて
すでに食事を食べ始めていた。

「遅かったから先にいただいたぞ」
父は片手にワイングラスを
持ちながら私に声をかけた。

「この時間まで部活?」
父の正面に座っている美鈴さんが尋ねた。

「部活はもうちょっと早く終わったけど
 用事があって校長とお話してました」

「お前、なんか悪いことして校長に
 呼び出されたんじゃねえよな?」
意地悪な父が、馬鹿にしたように言う。

「違うわ」
私があっさり否定すると美鈴さんが
クスクスと可愛く笑った。

「今の校長ってだあれ? 私が
 現役の頃とは違う人だよね?」

美鈴さんって……。
セントマリア学園の卒業生なんだよね。
実家は超お金持ちってお父さんが言ってたなぁ。

「落合ひろこです」

「落合?? まさか落合先生??」

「知ってるんですか?」

「ええ……でも、なんで、あいつが? 
 あんな奴が校長先生になれるのよ」

「え?」

どうしたの? なんか怖いよ。
美鈴さんが急に怖い顔になった……
こわいよーみすずさんー。でも顔は美人だ。

「どうしたの美鈴さん? 怖い顔しちゃって?」
父が首をかしげながら、心配そうに聞く。

「ごめんなさい。でも。
 あいつはね。最低の教師よ!
 裁判でいじめを隠蔽した。
 絶対に許せないわ!」
美鈴さんが、語気を強めて答える。

「そう言えば、昔。この学校で?
 いじめ自殺の裁判あったよなぁ」
父がポツリと言う。

「その裁判。私も原告側の証人
 として証言台に立ちました。
 自殺したのは私の双子の姉です」

美鈴さん目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

この状況に、父も私も言葉を失い
しばらくの間、部屋がシーンとなる。

131:りな:2019/07/27(土) 08:17

自殺? 美鈴さんのお姉さんが? 
過去にそんな事件があったのか……。
そういえば、落合校長が、いじめ。
裁判。とか、つぶやいていたような。
いじめってテニス部のことじゃないのか?

「この事件、知りませんでした。
 教えてくれませんか?
 過去に何があったのか?」
私は泣いている美鈴さんにお願いした。

美鈴さんは涙をぬぐい、私と視線を合わせた。

「うん……。姉の美玲が死んでから
 もう10年くらいが経つかなぁ?
 15歳。高校一年生のとき、姉は
 自ら命を絶ったの……。原因はね。
 いじめだった。」

「お姉さん。可哀想……」

「姉のクラスの担任が落合先生、今の校長だった。
 当初、落合先生は協力的だった。いじめの相談に
 乗ったり、加害者に注意したり、姉が自殺した直後
 も先生は加害者を連れて謝罪に来た。でも学校側が
 いじめはなかったと調査報告してからは、一転して
 落合先生と加害者はいじめを否認した。それで私達
 遺族は学園、理事長、校長、担任、加害者を訴えた。
 でもね。裁判では、全員がいじめを否定したわ」

「全員、自己保身のためにウソを
 ついたってことですね?」

「そうよ。真摯に謝罪にきたときは
 先生だけは許せるって思ったのに
 あいつは私達、遺族を裏切り傷つけた」

「それで裁判は、どうなったんですか?」

「ダメだった。必死にいじめの事実を訴えたけど
 敗訴した。敗訴確定まで7年もかかったわ。
 長くて辛い裁判を戦っても、何一つ良いこと
 なんてなかった」

美鈴さんに、こんな過去があるとは知らなかった。

落合校長は、すごく人が良さそうな人だった。
今日の帰りぎわも困ったことがあったら何でも
相談してね、力になるからってやさしく言って
くれた。嬉しくって心が暖かくなったのに……。
体罰も隠蔽(いんぺい)されちゃうのかなぁ。

132:りな:2019/07/28(日) 23:30

(59)
そんな心配をよそに、次の日から
星野先生は部活に出てこなくなった。
後日、新たな顧問には浅尾先生が就任した。
25歳のイケメンで性格も良く部員達から
は大好評だった。

次の月曜日の放課後は、部活はお休みで。
未南の家に行く約束してあるんだ。
未南は何度が私の家へ遊びに来て
くれたことあるけど未南のウチへ
行くのは初めて、すごく楽しみー。

(60)
そして月曜日の放課後。
担当する場所の掃除を終えた私は
浮かれ気分で教室の中に入った。

あれ? 
机が教室の一端に寄せられたままだ。
まだこれから運ぶの?
いつもなら終わってるのに。

私は教室に居た未南に声を掛けた。

「未南、私、掃除終わったよ」
「ごめん。まだ、掃除終わりそうもないや」

よく見ると未南は一人で
教室の掃除をしていた。
どうして? 

未南に尋ねた。
「なんで一人なの? 他の人は?」
「みんな用事があるみたいで先に帰っちゃった」

「???」

偶然、同じ日に。
みんな用事があるなんて、おかしくなーい? 
榊田真紀のいじめ? 
まさか彼女の仕業(しわざ)では?
私と未南が遊ぶの知ってて。
こんなムゴイ仕打ちを……。
だが。その証拠が今はない。
それよりも今は手伝わなければ!

「掃除、一緒にやろう」
「えっ?」
「二人でやれば、早く終るよ」
「ありがとう、一人で大変だったんだ」

二人で40人分の机を運んだ。
とても時間がかかり、しんどい作業だった。

榊田の野郎め、明日学校で会ったら
問い詰めてやろうかな?
あっ……。でもまた前みたいに
一触即発の状況になったらイヤだなぁ。

133:りな:2019/07/28(日) 23:34

(61)
掃除が終わった。
普段は電車通学の未南だけど
今日はお手伝いさんが車で
迎えに来てくれるらしい。

私達は校門へと歩き出した。
校門の前には、ドイツの高級車
メルセデス・ベンツが止まっていた。

ベンツに乗るのは初めてだった。
まさかこれに乗れるの!?

「奈緒、この車だよ」
未南が私に声をかけた。

やっぱり! この車だ。

「さあ、乗って」
未南が先に乗るように促す。

「おじゃまします」
運転手さんに一声かけ後部座席に乗車した。
続けて未南も乗り、私の隣に座った。

「お嬢様の友達の川上奈緒さんね? 
 私は家政婦の三田でございます」

運転席にいる女性が振り返り、私に挨拶した。
見た目は、あき竹城似のおばさんだった。
「三田って名前なんですか?」
おもわず聞いてしまった。

「そうですよ」と三田さんが答えると
隣にいる未南が楽しそうに笑った。

「フフ、面白いでしょ? 
 家政婦の三田さんだよ。
 私が、今の家に住む前から
 もうウチで働いていたのよ」

「修倉家に仕えて、もう30年くらいになります。
 最初の旦那様はお嬢様のお爺様でした。
 今はお嬢様のお父様に仕えております」
三田さんが誇らしげに答えた。

「三田さんは、私にとって家族みたいなもんですよ」
修倉家との付き合いはずいぶん長いようだ。

「未南ってアメリカに住んでいたんだよね?」

「プロテニスプレイヤーだったお父さんが
 フロリダを拠点にしてたからね。テニス辞めて
 教師になるときに日本に帰ってきたんだよ」

「お嬢様。奈緒ちゃん。そろそろ出発しますね」
そう言うと、三田さんは車を発車させた。

「旦那様は、大学卒業後に渡米し、親の猛反対を
 押し切ってプロテニスプレイヤーになりました
 現役引退後は、グループ企業の社長になるべく
 入社を勧められたが、それを固辞なさって。
 もう一つの夢である教師になったんですよ」

「へーそうだったんですか」

三田さんはよくしゃべる人で女子3人の
車内は終始明るい雰囲気で会話が弾んだ。

134:りな:2019/07/28(日) 23:36

(62)
車に揺られること40分ほど
で未南の家にたどり着いた。

「わあ、すごい大きな家だね!」

私は感激のあまり、大きな声をあげた。

「ここはお爺ちゃんの別荘だったんだよ」
家は広大な敷地に建つ、洋風の豪邸だった。
庭にはテニスコートやプールなどもあり
祖父がお金持ちであることが想像できた。

誰でも知ってるような大企業の社長さん。
それが未南の祖父。その次男が未南の父親だ。
日本へ帰国した時、住むところなかったから
ここに住めってお爺ちゃんに言われたみたい。

やがて。
車は広い敷地を通り抜け
豪邸の玄関前に停車した。

「到着しましたよ」
三田さんの一声で、私達は車を降りた。

「すごい、家だね」
「さぁ、中に入って」
豪邸に足を踏み入れる時は、まるで社交界に
デビューするシンデレラのような気分だった。

「お嬢様? どうします? 
 応接間を使いますか?」
私達を追って降りてきた三田さんが聞いた。

「いいわ。私の部屋で。奈緒? おやつは
 洋風がいい? それとも和風がいい?」
未南が私に聞いた。
「洋風かな?」
どちらかと言えば、やはり洋風が好きだ。

「三田さん、おやつは洋風でお願い」
「はい。承知いたしました」
そう言うと三田さんは準備のために。
奥の部屋へ行ってしまった。

私達は豪華な螺旋階段を上り二階へ向かう。
上りきったところで、すごく綺麗な女性が声を
かけてきた。

「あら、未南。お友達?」
「ああ、お母さん。今日遊びに
 来るって言ってた友達だよ」

未南のお母さんだ。
女優のように綺麗で、モデルのように細い、
美しい人。でも、かなりやつれた印象がする。
旦那が痴漢で捕まった直後はふさぎ込んだり
寝込んだりしていたと未南から聞いていた。

「おじゃましてます。川上奈緒です」
私は深く一礼をした。

「川上弁護士のお嬢さんね。
 夫があのようなことなり
 お世話になっております」

「いえいえ、早く無実の罪が晴れるといいですね」
 
未南のお母さんが悲しい表情を浮かべた。

「教師の父親が、痴漢で逮捕だなんて……。
 みんな年頃ですもの。やな思いをさせてるわ。 
 最近は、椿ちゃんもウチへ遊びに来ないのよ。
 未南、学校でいじめられていないかしら?
 私、心配で心配でたまらないわ」

いじめられています。とは言えず。
「……………………」
言葉に詰まってしまい困っていると

「心配ないよ、お母さん。私は、
 いじめられてなんかいないもん。
 椿も最近は忙しいだけだよ」
私の代わりに未南が答えてくれた。

「そう? ならいいんだけど……。
 お母さん、ちょっと出かけてくるわ。
 奈緒ちゃん、ゆっくりしていってね」

未南と私に声をかけ、未南のお母さんは
螺旋階段を下りていった。

135:りな:2019/07/29(月) 20:45

(63)
絵画とか壺が飾ってある廊下を歩き、部屋の前で立ち止まる。
「ここが私の部屋だよ。入って」
未南はガチャリとドアのノブを
まわしてドアを開けた。

「うわーー。広ーーい。すごく素敵な部屋だね」
思わず、大声を上げちゃった。

まるでヨーロッパの貴族のようなお部屋!

「ちょっと古いけどね。昔の別荘だから」
「少し古い感じがするけど、また、それがいい!」

アンティーク調な雰囲気に古き良き時代を感じる。
こんなお部屋に住んでみたい! と思って……。
ついキョロキョロ、お部屋を見ちゃう。
グルって見回すと、広い部屋の一角に
トロフィーやら賞状が山ほど飾ってあった。
棚には写真のアルバムがビッシリと収められていた。
壁には、いくつかの写真が貼られていて、それが
どんな写真か見たい衝動に駆られた。

「トロフーとか賞状とかすごいね。見に行っていい?」
「いいよ。テニス関連の物が多いかな? お父さんの
 方針で、表彰で貰った物は飾ることにしているの」

私は未南と、二人で見に行った。
賞状の横には、テニス部員の写真パネルがあった。

これ? 未南と椿だよね?
仲良さそうにピッタリとくっ付き……。
肩を組む未南と、椿?
最高の笑顔で写真に納まっていた。
その隣には、優勝楯を持つ萌奈?
と賞状を持つ由香子? の姿もあった。

私が写真をマジマジと見つめていると

「これは中学の全国大会で優勝したときの物だよ。
 思い出すなぁ。勝った瞬間みんなで抱き合って
 大喜びした瞬間を」

未南が目を輝かせて嬉しそうに語った。

「これが未南で? 隣が椿? こっちが萌奈で?
 これは由香子? で合ってる?」

私は写真に写る一人一人を指差して確認した。

「正解だよ。昔から本当に仲が良かったんだ。  
 私達はね……。つい最近までは……。
 あの楽しかった頃に、もう一度戻りたい。」

未南は落胆してがっくりと肩を落とした。

136:りな:2019/07/29(月) 20:46

「もう私なんていなくていいのかなぁ?
 私がいなくなっても誰も困らないよね?
 ホント、死んじゃいたい気分……」

「そんなこと言わないで!」

うつむいている未南の肩に私は両手をかけた。

「私は未南のこと必要としてるよ。
 大切な友達だと思っているよ」

「ありがとう、馬鹿なこと言ってゴメンね」

「元気だして。きっと、戻れるよー
 昔の未南と椿の関係に。がんばろー
 きっと仲直りできる日がくるよー」

「そうだね、なんか元気でた」

「うん、がんばって。私、未南と椿たちが
 仲直りできるように全力でがんばるよ。
 約束する」

そう言って。肩から手を離すと
私と未南は固く両手を握りあった。

自信満々に、そうは、言ったものの……。
不安だった。だって、どうやって仲直りさせ
たらいいのやら?それに仲直りできたら未南は
椿のところへいってしまうの? そうなったら
犬猿の仲の椿と……椿と私は友達になれるの? 
それともなれなくて一人ぼっちになっちゃうの?
それも怖いよ!

って、そんなこと考えてもしょうがないよね?

そう思って。
とりあえず話題を変えることにした。

「それにしてもすごい数のトロフィーだね。
 あっ。これは、国際大会の優勝のやつだ。
 未南って、ホントすごいんだね!」

「私ね。笑われるかもしれないけど。本気で
 プロテニスプレイヤーを目指してるんだ。
 四大大会に出たり、オリンピックでメダル
 を取りたいって思ってる」

「未南なら、がんばれば叶うかもしれないよ。
 私はね。本気で弁護士目指してるんだ!
 そんなに簡単になれるもんじゃないけど
 お父さんとお母さんも弁護士だったし
 親と同じ職業に就きたいと思っている」

「へー奈緒のお母さんに会ったことないけど
 弁護士だったんだ。今も弁護士してるの?」

「ううん。お母さん、私が小さい頃 死んじゃった」

「若くして亡くなったんだね? それは悲しいね。
 私もろいろあって。なんでこんなに不幸なんだろ?
 親友を失ったり、お父さんが逮捕されたりね。でも
 自分だけが辛いと思っていたのが恥ずかしいよ
 世の中にはもっと辛い思いしてる人いるよね?」

「そうだよね。だから辛いときは支えあって生き
 ていこうよ。未南も私に頼っていいからね!
 何でも相談して。力になるから……」

「ありがとう」
そう言った未南の目は涙でうるんでいた。

「なんかしんみりしてきちゃった……」
未南がポツリと言ったあと。
「あっ。そうだ!」
何かを思いついたようで、両手で拍子を打った

「写真見ようか? アルバムでも一緒に見ない?」
目の前にはフォトアルバムがずらりと並んでいる。

「見たい! 見たい!」
と私は、はしゃいで見せた。

「じゃあ。あそこに座って見よう」
私達は、何冊かアルバムを持って
部屋の高級ソファの上に腰を下ろした。
 
アルバムを広げ、ワイワイとおしゃべりしながら
二人で一緒に見る。途中、三田さんがおやつを
持ってきてくれた。それをほおばりながら、なお
も見る。どのアルバムにも椿たちと仲良く写る
写真がたくさんあった。

このとき私は思った……。いじめをなくすことが
ゴールじゃないんだ。やっばり、未南と椿たちを
仲直りさせなければいけないんだ。それがスタート
始まりなんだ。仲直りがいじめをなくすことにきっと
つながるに違いない。

と……このとき、そう思ったんだ。

137:りな:2019/07/30(火) 00:11

(64)
それから未南の家で夕食をごちそうになり帰宅した。

リビングでTVを一人で見てたお父さんに
「ただいまー」と元気に挨拶をした。

「おう。遅かったなぁ。お嬢様のお家はどうだった?」

「夢のようなひとときだったよ。ああ!
 私もあんなお金持ちの家に生まれたかった」
私は少しおどけてみせた。

お父さんは無邪気に笑い。
「ハハハ。残念だったな。普通の弁護士の家庭で。
 お金持ちになりたければ、お金持ちのボンボンと
 結婚してくれ」

「ハイハイ、頑張ってそういう彼氏を作ります」
いま彼氏募集中ですよ。

「そうだ。そんなことより、聞きたいことあるんだ。
 あのね。未南のお父さん、もうすぐ勾留期間が
 終わるじゃん。未南のお父さんはどうなるの?」

「不起訴になれば釈放なんだが……。
 検察には起訴しないように掛け合ってるよ。
 まだ、どうなるかわからん、五分五分だ」

「それじゃあ。困るよ……。お父さんを
 紹介した私の立場がないよ。なんか
 ずばっと、無実を証明できないわけ?」

「やってないことを証明するには、やったことを証明
 する以上に難しいって言ってね。今回は、痴漢を
 したという客観的な証拠もないが、していない証拠
 もない。あるのは被害者の証言だけだ」

「否認してるのに被害者の証言だけで起訴するの?
 無罪推定の原則は? 疑わしきは罰せずでしょ?
 証拠がないなら、不起訴でいいじゃん!
 被害者が犯人を勘違いしているか、示談金
 目当てで嘘を付いてるかもしれんし!」

138:りな:2019/07/30(火) 20:08

「被害者の証言も立派な証拠なんだよ。
 多くの性犯罪は被害者の証言だけで
 起訴され有罪になっているんだよ」

「じゃあ。未南のお父さんも起訴されたら
 ヤバイってこと? なんとかならないの?
 防犯カメラの映像とかは? 目撃者は?」

「ああ、電車には監視カメラはないそうだ。
 目撃者もいない。というか被害者の友人
 が一緒に電車に乗っていて、その友人が
 修倉さんを捕まえたらしい」

「友達は犯行を目撃してたってこと?」

「いいや。被害者から車内で痴漢されたと聞いて
 電車から降りてから、捕まえたらしいぞ」

「電車を降りてからなの? その場じゃなくて…。
 それなら誤認逮捕……真犯人が別にいる可能性
 もあるってこと?」

「まあ、可能性はあるなぁ」

「未南は探偵を雇って事件のこと
 調べてもらってるらしいよ」

「ほう。それはありがたい。いっそ探偵さんが
 名推理で真犯人でも見つけてくれたら、おお
 助かりだがなぁ」

「ちょっと! お父さんは、ちゃんと調べてるの?」

「俺だって被害者に会ったり、駅員に会ったり
 最初に呼ばれた当番弁護士に会ったりで
 いろいろやってるよ」

「被害者に会ったの? なんて言ってた?」

「示談でもいいって。加害者が反省してるならね。 
 まぁ修倉さんは最初の当番弁護士に会った時点
 で示談の意思をきっぱりと否定したみたいだ」

「そりゃあ、そうでしょ? やってないなら
 示談なんかしたくないよ。まぁ、でも示談
 したら、それで不起訴になるの?」

「痴漢ならほとんど場合、そうなるかな?」

「示談金っていくらくらい?」

「まぁ、決まりはないけど……今回の場合
 30万から50万くらいだろう」

「けっこう、もらえるんだ……」
と、いうことは、まさか?

「お父さん! 謎はすべて解けたかも?」

「解けたか? 名探偵さん。
 あんま期待してないけど。
 お前の推理、聞いてやろう」

「いいわ。聞かせてあげる! 私の名推理!
 被害者と友人、二人は共犯者よ。一人が被害者役で
 もう一人が捕まえる役ね 二人は共謀して痴漢を
 でっち上げ、示談金をふんだくろうって魂胆ね」

「さすが名探偵と言いたいところだが。
 それを立証するには証拠が必要だな。
 証拠がないのに、それを言っていても
 まったくの無意味だ。示談金と言っても
 被害者は未成年なんだ。そうなれば、お金は
 親の手に渡る。そのまま、被害者の手に入る
 わけじゃない。それに被害者はなかなかの
 お嬢様で家庭は裕福そうだ。そんな悪いこと
 をするかな?」

「まさか? セントマリアの生徒ってこと?」

「それは言えない……」

「どこの学校? 被害者の名前はなんていうの?」

「悪いな。弁護士には守秘義務があるから、
 相手の同意なしに、これ以上は話せんよ」

「私も弁護士事務所の一員だい! だから教えてよ」

「ダメだ」

「もう、わかったよ! なにはともあれ!
 起訴されないように全力を尽くしてよね!」



(65)

「私、これで帰るね」

次の日。

3時限目の授業が終わると

未南は学校を早退していった。

昨日、探偵に会ったり

お父さんに面会に行くとか

言っていたから、その用事だろう。

あっ! そういやあ、昨日……。

未南と約束したんだ! 未南と椿たちが。

仲直りできるように全力でがんばるって……。

139:りな:2019/07/30(火) 20:11

だから。私は思い切って椿たちと

話し合ってみようと思った。

話せば分かってくれるかもしれない。

椿たちは教室の前の方で、たむろしている。
椿、萌奈、由香子の3人……。
勇気を出して声をかけた。

「話したいことがあるんだけど……」
椿に向かって、遠慮がちに言ってみる。

「何? 私達の仲間になりたいの?」
椿から予想外の返事がきて少しビックリした。

「ええー? マジでこいつ仲間に入れんの?」
萌奈もビックリしている。

「えーと その。いや、そうじゃなくて」

「は? じゃあ、なんなの?」
椿が眉間にシワを寄せる。

あらら、どうしよう? それでいいのかな?
まず仲直りさせる前に、自分と椿が友達に
なればいいのかな?

「あっ やっぱり。友達になりたいなぁ、なんて……」
 
「いいわよ。私、あなたに興味があるし……」
あらっ あっさりOKなん?

「ただし……。一つだけ条件があるわ。それは
 未南とは一切、口を利かないこと。守ってね」

ええ!? そんな条件困るよ……。
そんなことできない。未南、無視したら
私もいじめっ子の一員になってしまうよ。

「悪いが椿、そんな約束はできないよ。
 未南は私の大切な友達だ。裏切れない!」
私は首を横に振り、椿の提案をきっぱりと断った。

「お前! 椿と友達になりてえんじゃねえのかよ?」
珍しくしゃべった由香子が攻撃的な口調で責めてくる。

椿はムッとした表情から、すぐにニヤリと笑った。
「楽しい学園生活を送るか、地獄を見るか!
 ここが分かれ道よ。よく考えて答えを出しなさい」

その言葉の意味を考える間もなく、私は声を発した。

「私は、椿とも、萌奈とも、由香子とも。
 仲良くしたいと思ってる。でも違うんだ!
 椿……。本当は未南と仲直りして欲しくて
 みんなに声をかけたんだ」

椿はキツイ視線で私を睨むと。

「いやよ! あいつだけは絶対に許せない。
見てるとイライラするの! 私とあいつの
 人間関係は、もう終わったのよ!」
私に向かってヒステリックにそう叫んだ。

「過去のことを思っちゃダメだよ。
 何であんなことしたんだろう……。
 って怒りに変わってくるからね。
 大事なのは今でしょ? それに。
 もう終わったとか早すぎるでしょ?
 私達は、まだたったの17年しか
 生きてないじゃない? この先の
 人生の方が、まだ長いのよ!
 17年間の友情もすばらしい物
 だったと思うけど、これから続く
 何十年もの友情はもっとすばらしい
 物だと思う」

私は熱く熱く、椿に語りかけた。

140:りな:2019/07/30(火) 20:16

「うざいわ! あんたに何が分かるのよ!」
椿が、わなわなと肩を震わせながら叫んだ。

「確かにそうね……。出会ったばかりで
 まだ何も分かってないかもしれないけど。
 でも昨日ね。未南のおウチへ遊びに行ったの。
 そこで中学時代のテニス部の写真やアルバム
 を見た。そこには嫉妬しちゃうくらい仲の良い
 椿と未南の姿があった。それを見て! 絶対
 仲直りさせなきゃ、って思ったんだ! だから 
 お願い! 頼むよ椿!未南と仲直りしてあげて!」

私は深々と頭を下げ、椿にお願いしていた。

「随分、必死じゃない ああ、そうだ! あんたが
 土下座したら、少しは考えてあげてもいいわよ」

そんな私を見下すような感じで、椿は言った。

「おお、それいいねーーー。 やれよ、奈緒!
 そんぐれーやれんだろ? DO GE ZA!」
萌奈が手を叩き、馬鹿にしたように言う。

え? 土下座なんて……。

いくらなんでも、そんなことはしたくない。

でも、でも。ここで尻尾を巻いて逃げるわけには
いかないんだ。みんな闘ってるじゃないか!
未南も! 未南のお父さんも! お母さんも!
美鈴さんも! 私のお父さんだって!

私だけ逃げちゃダメだ! 

私も闘わなくちゃ!

「やるよ……土下座します……」

そう言って私は正座をして。
一呼吸置いてから。
地面スレスレまで頭を下げ
椿に向かって土下座した。

「椿の条件が土下座なら、私は上履きを
舐めてもらおうかな!」

この声は萌奈の声だ。
目の前に、萌奈の右足が踏み出される。

「そ、そんなぁ……。いくらなんでも、それは」
私は、消え入るような涙声で、萌奈に訴えた。

「やらねえんだな!? やらねえなら、私は
 未南とは仲直りなんかしねえよ!」

「ちょっと待ってよ。 だって普通に考えたら
 そんなことできるわけないじゃん!」

「そうかぁ? ペロッとひと舐めすりゃーいいんだよ!
別に舌で舐めまわせとか、言ってんじゃねーしなぁ。
この程度のことができない奴の願いなんか聞けるか
未南との仲直りはそんぐれー無理ってことだよ!」

萌奈に罵倒され、私の心は激しく動揺する。

くっ……。覚悟を、覚悟を決めなければ……。

決めた! やる! やってやる! やるぞーー。

私は萌奈の上履きに顔を近づけ舌を出した。

すでに正常な判断力を失っていた。

「キメえ こいつマジで私の足、舐めようとしてる
 こいつ、頭おかしいんじゃね? キャハハハ!」

萌奈の言葉で我に返り、身体を起こす。

「本当ね! プライドのないクズ女だわ!」

椿は吐き捨てるようにそう言い
私のことを侮辱した。

くやしい、くやしい、くやしーーい。

ショックのあまり教室を飛び出していた。

141:りな:2019/07/31(水) 23:50

辛いよ…………泣けてきた。
だが、人前で泣くのが、恥ずかしかったから
泣く場所を求め、急ぎ足でトイレに駆け込んだ。
個室に入ると同時に目から涙があふれ出てきた。
しばらく泣いたあと、流した涙をハンカチで拭き
トイレから教室に戻った。

教室に戻ると何人かがクスクスと笑った。
不思議に思って、自分の席に戻ってみると
机とイスが水浸しになっていた。
誰が、こんなひどいことしたんだよ!
私の胸に烈火のごとき怒りが込上げてきて
一気に解き放たれた。

「ふざけんなぁー! 誰がこんなことしたのよっー!」
教室全体に響き渡るような声で、私は絶叫した。
とたんに、ザワザワとざわつく教室の生徒達。

その中の一人、榊田真紀が私の前に歩み寄ってきた。
「うるせーんだよ! 大きな声をだすなっ 馬鹿女!」
ヤンキー風の口調で榊田真紀が怒鳴る。

さ・か・き・だーー。オマエがヤったのかーーー!
「榊田真紀! これはオマエのしわざか!?」
私は、ずぶ濡れの席を指し、大声で問い詰めた。

「はぁ? なんのこと? 知らねーよ!」
榊田のやつーー。トボケやがってっ。

「しらばっくれんなー。どうせオマエがやったんだろ!」
私は、そうと決め付けるように言った。

「ちげーよ。アタシじゃねーよ!
 証拠あんのか? 証拠は、よっ!」
証拠だと? あるさっ! 
ここに居るクラスメート!
全員が証人だっ!

「証拠ならあるよっ!」 
私は榊田真紀に自信満々な態度を見せた。

「あるんなら、出してもらおうじゃねーか? その証拠を!」
榊田真紀が私をにらみつけて言った。

「これだけ人がいれば、当然! 
 目撃者がいるってことよ!」

「ばーか! オマエの味方なんて
このクラスに一人もいないんだよ」

「――――! そんなことないもん……」

「おめでたい子ね。自分がどんだけ
 嫌われているかも知らないなんて」

「くっ……。犯人は、絶対この教室の中にいる!
 誰か教えて! 犯人を知ってる子がいたら!」

私の呼びかけに応じる生徒は一人もいなかった。

「ねぇ、知らない?」
近くにいた大野さんに聞いた。
「ごめん、知らない」
と大野さんは返事した。

「これ誰がやったか知らない?」
さらに杉山さんにも聞いてみる。
「知りません」
と杉山さんはそっけない返事をした。

「あっ!」
央弥ちゃんと目が合った。
央弥ちゃんなら、教えてくれるかも?

だが央弥ちゃんは目をそらす。 なんで?
なんで、央弥ちゃんまでそんな態度とるの?
奈緒の味方になってくれないの?

「どっちにしてもアタシがやったんじゃねーけど」

榊田真紀の言葉が素直に信じられなかった。
榊田真紀は犯人じゃないのか? 椿達の仕業か?
そうかもしれないけど、その証拠がない。
あいつらに聞いても、しらばっくれるだけだ。

たとえクラスに目撃者がいたとしても
誰も真実を語ってくれないだろう。
だって、このクラスは、全員がいじめの
共犯者なのだから……。

「わかったよ。のちに真実が分かったときに
 あなたのウソがバレるかもしれないけどね」
私は、しばらく考え込んだのち発言した。

「だ・か・ら。ウソなんて付いてねーよ。
 しつけーなぁ、オマエ」
榊田真紀は、あくまで否定するつもりだ。

そういえばコイツには……。
もう一つ聞きたいことあった.

「それは、そうと、アンタ、昨日
 掃除サボって帰ったでしょ?
 未南、一人に掃除させてぇ!
 知らんとは言わせないよ!」

「ああん、用事があったんだよ」

「ウソ付け! なんで全員、帰るんだよ」

「知らねーよ、そんなん。
 アタシは仕事があったんだ」

「仕事って? バイトのこと?」

「家の手伝いだ! 父親がガンで入院してなぁ
 親の代わりに私が働いてんだよ。ウソじゃねーよ」
榊田真紀が悲しい表情を見せた。

「ホント? それは、大変だね……」
てっ あれ また、だまされてるのかな?
トイレで未南をびしょ濡れにした件もあるし
簡単に信用してもいいのかなぁ?

「それより、それ早く拭いた方がいいんじゃね?
 もうすぐ授業が始まるぞ。アタシは拭くのを
 手伝っては、やれねーけど」
榊田真紀が私の机を指差して言った。

「ああ、そう言われてみれば、そうだ……」
私は雑巾を取りに、慌てて掃除ロッカーへ向かった。

142:りな hoge:2019/07/31(水) 23:52

(66)
午後六時過ぎ。
部活が終わった。
疲れた、疲れた。
早く着替えて帰ろう……。
部室で着替えを始めた。

「お疲れ様です」
着替え終わって、一足先に部室を出ていく大谷先輩に挨拶をした。

星野先生の体罰がなくなって以来
キャプテンは、いきいきとしている。

練習中のミスも少なくなった。
きっと、星野先生に怒られるから
緊張してミスを連発してたんだと思う。
何はともあれ、良かった、良かった。

「お先……」
なんて考えてると、央弥ちゃんが
ポツリと一言、言って帰ろうとする。

「待って! 一緒に帰ろうよ!」
制服に着替えずにジャージーを着たまま
帰ろうとする央弥ちゃんに声を掛けた。

「いいけど……」
央弥ちゃんは足を止めた。
聞きたいことあるんだ。
央弥ちゃんに……。

私は央弥ちゃんのあとを追うように
部室の外に出た。それから。お互いの
自宅に向かって、二人で肩を並べ歩き出す。

「何か話したいことがあるんでしょ?」
央弥ちゃんが話を切り出した。
「う、うん」
お察しの通りです。

「私の席に、水をぶちまけたの誰か知ってる?」
「知ってるよ」
やっぱり知っているのか!
誰がやったか見ていたってことだよね?

「誰がやったの? 榊田真紀?」
「やったのは真紀じゃない」
「じゃあ? 誰?」
「それ聞いてどうするの?」

どうするって? そりゃあ……。
「怒るに決まってんじゃん! 
もう最高に腹立ったもん!」
「なら、教えない!」
「???」
なんで?

まっ、まさか? あなたも? 
もしかして? あいつらの仲間なの? 
椿たち、いじめっ子組織の一員なんじゃぁ?
仲良くするフリをして、こっそりスパイとか?

「教えてよ! どうして教えてくれないの?」

「喧嘩になるじゃない、知ったら」
って……違った……。あのイタズラを誰がやったか
知ったら、喧嘩の火種になるからか……でも。

「いいんだよ。一度ガツンと言ってやらないと」

「あなた、自分がいじめの標的になってるの、
 わかってる? あなたのやってることは
 正しいかもしれないけど、他人のために
 犠牲になるなんて馬鹿らしいわ!」

「馬鹿らしいって何よ! 困っている人を助ける!
 いじめられてる子がいたら助けるのは当然じゃない!」
私は興奮気味に言った。

「私にはできない。他人のためにそこまでは……」

「央弥ちゃん。将来、医者になりたいんだよね?
 病気で苦しんでる人を助けたいって言ってたよね!
 それなのになんで? ウソだったの?」

「医師は、それが仕事だから! 当然のことを言っただけ。
 他人のために自分が犠牲になることとは別問題だよ。
 放っておけばいいのよ。いじめがエスカレートして
 大問題になれば、あいつらに大きな罰が与えられるから」

「その考え方は間違ってるよ。
 どうしてキャプテンが体罰を受けてたのに助けないの?
 いじめを受けてる子を助けないの?
 自分には関係ないからって助けないのは卑怯だよ。卑怯者だ!」
私は強い口調で責めた。

「あなたにそんなこと言われたくない! 
 私は卑怯者じゃない!卑怯なのは
 体罰をおこなった星野や、いじめをしてる姫川よ」

「いじめの傍観者は共犯者だ」

「人を犯罪者みたいに言うな! 私だって怖かったの。
 体罰に反発したらレギュラー外されたり、自分も体罰を受けるかもしれないし
 大好きなバスケを辞めることになるかもしれない。いじめを止めようとして
 自分がいじめられたり、クラスから孤立して一人ぼっちになるのも怖かった」

央弥ちゃんは目に涙をため、そう言うと、私を置いて走り去っていった。

うわー! どうしよう?
すごく傷つけてしまったみたいだ。
これから……央弥ちゃんとは……。
どうなってしまうの?
私は後悔と自責の念に駆られ、しばらく
呆然とその場に立ちつくしてしまった。

143:りな hoge:2019/08/01(木) 22:11

(67)
それから。
とぼとぼ歩いて帰宅した。
法律事務所に顔を出し。
お父さんに声をかける。
「ただいま」
「おかえり」

「元気ないなぁ、なんかあったのか?」
お父さんが心配そうに聞く。
「うん、まあ、ちょっとね」

わたしは、今日あった出来事を
振り返って、はあ、と溜息をつく。

「まぁ、その話はあとでゆっくり聞いてやる。
 それより、こっちは大変なことになったぞ! 
 悪い知らせだ」 

「え? 何?」
今日は厄日だから怖いよ。 

「修倉さんが起訴されてしまった」

「ええっ!」
私はびっくりして叫び声を上げてしまった。

なんで? なんで? なんでー?

「なんで起訴されちゃうの?
 客観的な証拠も少ないし、
 痴漢の被害者の証言だけじゃ
 起訴できないと思ったのに」

「俺もそう思ったんだがなぁ」

「なにやってんの? しっかりしてよ!
 起訴されないようにするのがお父さんの
 仕事でしょ?」

「まあ、そうだが。起訴するかしないかを決めるのは
 検察で、俺が決めるわけじゃないからなぁ」

「それじゃあ。さあ? これから
 痴漢事件の裁判になるってこと?」

「ああ」

「未南のお父さんは、いつになったら
 家に帰って来られるの?」

「保釈請求が認められればいいんだが
 認められなければ、裁判で被害者の
 証言が終わるまで保釈されんかもしれん」

「それって、どのくらい?」

「3ヶ月後か4ヶ月後か、どのくらいになるかわからん」

「げっ。そんなに長くっ」

痴漢で捕まると大変なことになるんだなぁ。
やってないって言ってるのに、起訴されて
裁判になるんだもん。それに何ヶ月も家に
帰れない可能性があるなんて……。

未南、落ち込んでるだろうなぁ。心配だ。

「私、ちょっと、未南に電話してくる」

私は、法律事務所を出て、家に戻り
未南に電話をかけた。

御飯どきだけど未南は出てくれるかな?

「はい」
未南の声だ。

「あっ、奈緒だけど。さっきお父さんから
 未南のお父さんが起訴されたって聞いて
 心配で電話かけてみたんだけど……」

「そうなんだよ……。私もお母さんもショックで。
 お母さんなんか、御飯も食べずに布団で寝てるし
 私も、食欲なんくて、ほとんど御飯食べてないよ」
未南はしょんぼりと、低いトーンで弱々しく話す。

「ごめんね。私のお父さんの力不足で。
 未南たちには本当に申し訳ないよ」
私は電話越しに頭を下げた。

「ううん。奈緒のお父さんのせいじゃないよ。
 でも……でも……。どうしてこんなことに
 なっちゃったんだろう……」
未南は涙声だった。

「そうだよね。いつもどおり通勤してただけなのにね」
私も同情して、ちょっと泣きそうになった。

「もしかしたら お父さん…………。
 ほんとは痴漢しちゃったんじゃないのかな?」
思いがけない未南の問い掛けに。

「えっ? と……そんなことないと思うけど?」
一瞬、戸惑って言葉に詰まった。

「でも、そうじゃなきゃ、捕まったりしないよね? 
 もし、本当にしたんなら、私は許せない……。 
 お母さんも、もしお父さんが痴漢してたら離婚
 するって言ってるし」

「待って、冷静になって考えよう!」
動揺する未南を落ち着かせるように言った。

「世の中には間違えて逮捕されたり。
 してないのに裁判で有罪になったり
 する人がいるのよ。TVや新聞でも目
 にするでしょ? お父さんがしてない
 って言うなら、信じてあげようよ」

「うん。信じたいよ。お父さんに限って
 そんなことするとは思えないもん」
未南がハッキリとした声で言った。

「私も協力するからガンバろう!
 裁判で無罪判決を勝ち取ろう!」

「うん」
未南は力強く返事をした。

144:りな hoge:2019/08/01(木) 22:15

(68)
翌日、朝練を終えた私は、教室の
自分の席でぼんやり考え事をしていた。

「おっはようっ!」

ボーとしている私の背後から。
未南が元気に挨拶してきた。

突然、声をかけられ。
どきんっ!
うわー! 
ビックリしたっ!

あわてて振り返り。
「あっ。おはようっ」
と挨拶を返す。すると
未南は笑顔になり明るい表情を見せた。

それを見て、ほっと一安心する。
昨日の夜は、すごく落ち込んでいて元気
なかったけど、今日は元気そうでなりよりだ。

「昨日は、ごめんね。長電話しちゃって。
 まだ御飯を食べてなかったんだよね」

「いいよ。いいよ。気にしなくて」

昨日は、かれこれ一時間ほど電話してたんだよなぁ。

「また色々と相談にのってね」

未南は、そう言いながら。
私の横の自分の席に座ると。
カバンを机の上に置いた。

「早退した分の授業のノート貸してあげるよ」
私は、とっさに数冊のノートを手に持ち
未南に聞いてみた。

「ありがとー。ほんと助かるよー」
ノートを手渡すと
未南から、おもいっきり感謝された。

そのあと、いつものように談笑していると

「未南。おはようっ!」

私の正面から。女性があらわれ
気品のある美しい声で挨拶をした。

誰だろう? 
と思って顔をあげると……。
そこには。
姫川椿が立っていた!  しかも
私達に向かって、天使のようにほほ笑んでる。

椿って本当に綺麗!
顔は整っていて、めちゃ綺麗なの!
髪はサラサラで、顔、小さいし。
すらっとスタイルが良くて。まるで
少女漫画から飛び出てきたような
本物のお嬢様って感じがするんだ。

145:りな hoge:2019/08/01(木) 22:16

「おはよ……」
未南は少しおびえた様子で挨拶を返す。


椿は軽く笑みを浮かべてみせてから。
「もう仲直りしましょう!」
と思いもよらない言葉を口にした。

椿の、あまりに突然の申し出に。
「えっ?」
未南も、私も、驚いて固まってしまう。

「昨日ね、奈緒が土下座してきたのよっ!
 未南と仲直りをしてくださいってね」

いや、正確には土下座させられたんですけど……。

「奈緒が私のために、そんなことを。
 ありがとうっ! 私なんかのために」

未南は目をうるうるとさせている。

私は軽く首を振る。

「いいよ。そんなこと気にしないで。
 仲直りできてよかったねっ! 椿と」

未南……。本当に、本当に良かったね。
これで、めでたし、めでたし、かな?

「待って、仲直りする前に、あなたはやらなきゃ
 いけないことがあるんじゃないの?」

ん? 私が、そう思った矢先。
椿がなにやら注文を付けた。
「???」
意味がよくわからなくて目が点になる。

「えっ? なんだろ?}
未南もわかっていないようだ。

椿の目つきが、きつくなった。

「修倉先生、痴漢で起訴されたようね。そのこと
 みんなに謝罪しなさいよ、いますぐにっ!」

戸惑う未南をにらみつけると

「名門セントマリア学園の名を汚したこと
 この場で、みんなに詫(わ)びなさい!」

椿が、かなりきつい口調で言い放った。

ああ、そのことか……情報、早いなぁ。
 もう、それ知ってるのか……。でも
それ今、言わなきゃ、あかんの?
また、なんか、たくらんでる?

「それ前にも謝罪したじゃん」

「だから,あらためてしろって言ってんのっ!」

椿がイラッとした口調で言葉を返す。

椿のきつい言い方に、未南が顔をこわばらせる。

「そうよね。みんなに謝罪しなきゃ……」

「そうよ。そうと、決まったら
 教壇へ行きましょうっ!」

椿は、未南の手を強引に引っ張り 
席を立たせると、二人で教壇へ向かった。
私も、慌てて席を立ちに
後を追うように教壇へ行く……。

146:りな hoge:2019/08/02(金) 21:08

椿と未南は並んで教壇に立った。

「みなさーん! 未南がお話があるそうよ!」
椿が、大声で言うと教室の生徒全員が
一斉に教壇の前へ集まってくる。

恥ずかしそうにうつむく未南が、顔を上げ
意を決したように口を開いた。

「痴漢で逮捕された父が起訴され
 裁判を受けることになりました。
 このような事態になり、みなさまには
 多大な迷惑をかけ申し訳ありません。
 心よりお詫び申し上げます」
未南は深々と頭を下げた。

「おいっ! 未南! その程度の謝罪で
 許されると思うなっ! 土下座しろっ!」
汚い口調で、罵声を飛ばしたのは、萌奈だった。

「土下座! 土下座! 土下座!」
さらに萌奈は手拍子をしながら土下座コールをする。

そうすると教室のあちこちから
同様の土下座コールが沸き起こった。

「土下座! 土下座! 土下座!」
クラスメートが声を合わせ土下座コールを繰り返す。
「土下座! 土下座! 土下座!」

なんだ? この異様な光景。 
ドラマじゃあるまいし。 何かがおかしい……。
まさか……。最初から仕組まれたシナリオなのか?

そうだ! 罠だ! 
これは罠なんだ! 
最初から仕組まれた! 
罠なんだ!

「未南、やめて! その謝罪で十分だよ!」
私は、未南の土下座を阻止しようを大声を上げた。

しかし声は届かず、未南はガックリと膝をつくと
両手を付き、床に頭を付けて土下座したのだった。
土下座したまま微動だにしない未南。

教室の土下座コールがやむと同時に
未南には多数の罵声が浴びせられる。

汚い言葉で罵(のの)る女子生徒たちは
未南に向かって容赦なく 紙クズなどを
叩きつけるように投げつけた。

未南を、めがけて誰かが投げたペットボトルが。
未南の頭部を直撃した……。

「痛いっ!」と未南は悲痛な声を上げる。

転がったペットボトルを見ると。
まだ中身、かなりの量が
入ってるじゃん!すごく痛そう……。

147:りな hoge:2019/08/02(金) 21:11

「もう! やめてー!」
私は、両手を横に広げ、その身を盾にした。

「未南をかばうなら、お前も敵とみなす!」
萌奈が脅すように言った。

「全クラスメイトが私たちに弓を引くなら
 その矢! この身で全部受けて止めてみせる」

「はぁ? お前なに言ってんの?」
萌奈が怪訝な顔で言う。
カッコつけたつもりが意味不明になってしまった。

それより未南は大丈夫かな?
私は急いで未南のもとに駆け寄った。
「未南? 大丈夫? 痛くない?」
私の問いに、未南は「平気だよ」と笑顔で
返事したが、目からは涙がこぼれ落ちていた。

「許せない……こんなひどいことするなんて」
いじめ行為に腹を立てた私は、みんなをにらみつけた。
「もうやめて! こんなことして何が面白いの?」

「面白くないわよ……。でも。
 ざまあみろって思うわっ!」
そう答えたのは椿だった。

「未南は友達だったんでしょ? それなのになんで? 
 なんで、そんなこと言うのっ?」
私の問いかけに椿は少し寂しげな表情を見せた。

「ずっと前から、未南こと憎んでた。
 自分より優秀なことにムカついてた」
椿は未南を見つめながら言った。

148:りな hoge:2019/08/02(金) 21:12

「えっ?」
どういうことだ?

「この子。 成績はいつも一番で、私が
 遊ぶのや寝る間を惜しんで勉強しても
 一度も勝てなかった。テニスだって
 そうよ。高校の全国大会で優勝したとき。
 笑顔でおめでとうって言ったけど。
 すごく嫉妬して、意地悪してやりたい
 って思った。だからと言って、その時
 何かしたわけじゃないけどね……」

切々と語る椿の声が教室に響く。
未南は激しく動揺していた。

「椿っ! ごめんね。私、そんなことに 
 ぜんぜん気がついてなかった。
 椿の気持ち、考えずに無邪気に喜んでた。
 私が、勉強やテニスで一番になることで
 椿は、いっぱい傷ついていたんだね。
 ほんとに、ほんとに ごめんなさい」
未南は錯乱したように髪を振り、号泣し始めた。

「お前なんか、いなくなればいいのよ!」
椿が未南に向かって叫んだ。

「今すぐ、この学校から出て行け!」
感情的になった椿は、容赦なくキツイ言葉を浴びせた。

ちょっと! 待ってよ!
さっき仲直りするって言ってたのに……。
ぜんぜん、そんな雰囲気ないじゃん。
友好ムードゼロ。まるで地獄だよ。

「もうやめて! 仲直りしようって
 言ってたの! 忘れてなあい?」
私は二人の間に割って入り、椿に向かって叫んだ。

「忘れてたわ……。でもこの状況見たら
 そんなの不可能ってわかるでしょ?」
椿は私に向かって、冷たく言い放った。

「真の友情って、こういうときに
 発揮されるんじゃないの?
 苦しんでいる友達を助けるのが
 見せかけではない本当の友情だよ。
 意地を張って永遠の親友を失うか
 仲直りして永遠の友情を得るか。
 ここは、大きな分岐点だと思うよ」

椿はしばらく沈黙したあと
「友情って? 先に裏切ったのは未南じゃない?
 勘違いしないでくれる? 私は被害者であって
 加害者じゃないのよ? 友情を破壊したの未南だから」

もろもろの事情はわかっている。
確かに椿の言うことも一理ある。
だが、しかし……。

「椿の言うとおりよ。 もうすぐ
 先生来るし、ここ片付けなきゃ」
未南がゴミの片付けを始める。
私も一緒に掃除を手伝い
せっせっと掃除して綺麗にした。

もう椿と仲直りなんて無理だよ!
口には出さなかったが、心の中で
そう、思った。

149:りな hoge:2019/08/02(金) 21:52

(69)
その後、担任が来て。
なんも事情を知らない先生が
「朝のホームルーム終わります」
あっという間に終わらせた。

ああ、言いてぇ。
さっき教室で起こったこと……。
先生に言いてぇ。
でも未南が先生に言うなって言うし。
ああ、マジで! 
先生!!!
未南が、いじめられてますって、大声で叫びてぇよ。

「先生! ちょっといいですか?」
「何ですか柄谷さん?」 

央弥ちゃん? なんだろう?
彼女が先生をことを呼び止めた。

「修倉さんが、いじめにあっています」 

えー!?  驚愕した!
央弥ちゃんは予想だにしない言葉を先生に投げかけた。

先生が、すんごく驚いた表情を見せる。
「え? 修倉さんがいじめられている?」

「はい。私は、それを知りつつ傍観者でいた卑怯者です」

「誰ですか? 修倉さんをいじめているのは?」

央弥ちゃんは、すっと立ち上がると
一人の生徒をゆっくりと指差した。

「そこにいる姫川椿です」
央弥ちゃんは、椿の名前を挙げた。

その瞬間、教室が静かになる。

「違います! 私はいじめなんてしてません!」
静まり返る教室で、誰よりも早く
声を発したのは姫川椿だった。

「嘘つくな! 今朝だってクラス全員で
 未南いじめてただろ? あっ、私と川上さん
 を除くクラス全員ね」
央弥ちゃんが椿の発言をあっさりとくつがえす。

「姫川さん、本当ですか?」
先生が椿に聞く。

椿は立ち上がり。
「柄谷さんの誤解です。今朝は、痴漢で捕まった
 修倉先生の件で未南が謝罪したいと言ったので。
 クラスメートに謝ったところ。激しいお怒りを
 受けただけのこと。それをいじめだと柄谷さん
 は勘違いしているだけです」
先生に向かって必死に釈明した。

150:りな hoge:2019/08/04(日) 10:36

「そのとおりです! 椿は私をいじめてなんかいません!」
私の隣の席に座っている未南が
椅子から勢いよく立ち上がって
大きな声をはり上げた。

椿は驚いた表情で未南を見た後、口元に笑みを浮かべると。
「そうよね! 未南。私、いじめてないよね!
 当然よね。私たちは親友だもんね……」
 
どういうこと? 親友じゃないじゃん!
先生の前では、そうやって、いい子振るわけ?
なんだんだー、こいつは! 信じられない!
 
結局、椿は巧みな話術で、このピンチを乗り切ってしまった。

151:りな:2019/08/08(木) 21:54

(70)

一時限目の授業が終了した直後。
私は未南を教室の外に連れ出した。
未南に聞きたことがあったからだ

未南?
「さっき。なんでいじめられていないと言ったの?」
央弥ちゃんの勇気ある行動を踏みにじる行為に
不信感を抱き、やや責めるような口調で聞いた。

「う、うん。ごめんね……」
未南が沈んだ様子で答えた。

「椿のこと、かばっちゃったんだ……。
 あんな風に言われて、困っているから
 助けてあげなきゃって思って。でも椿。
 私のこと親友って言ってくれたよね?
 私ね……すごく嬉しかったんだ……」
急に、未南の表情が明るくなった。

はぁ? 未南のこといじめてるかもしれない奴に
都合のいい時だけ親友って言われて何が嬉しいの?

「もう、椿の言うことなんか、簡単に信じたらダメだよ!」

「でも! 朝だって、仲直りしましょうって言ってくれたよ!」

「あんなの嘘に決まってるよ」

私だって最初は信じてしまったけど
あのあとの展開を考えたら、椿が
嘘をついたと、言わざるを得ないよ。

152:りな:2019/08/31(土) 22:55

(71)

椿と未南の仲直りなんて無理だよ!
と思っていた矢先……。
予想だにしない出来事が起こった!

「なにぃ? 椿たちと仲直りしたぁ?」

私は、すごくビックリして、おもわず大声を出した。

「椿がね。今までのことは全部水に流して
 仲直りしようって、言ってくれたの!」
未南は目をキラキラと輝かせて、嬉しそうに言った。

「それ、ホント? また、あいつら、なんか
 企(たくら)んでるんじゃあないの?」

153:りな:2019/09/03(火) 00:11

未南の表情がガラリと変わり
不安そうに私の顔を見上げる。

少し間があってから。

「大丈夫よ! 私たち、ずっと友達だったんだよ!
 今度こそ、本当に仲直りできる。してみせる!」
未南は、そう言って、笑顔で両拳をぐっと握りしめた。

「う、うん。そうなればいいんだけど……」
正直、そんなに簡単にうまくいくのかな?

154:りな:2019/09/18(水) 22:40

「ただ、ひとつだけ条件があってね」
未南は困った表情になった。

「条件?」
椿の出した条件って……まさか?

「奈緒の友達をやめること。口も利いちゃダメって」

「なぁ、なによ! それ!」
椿は以前、私にも同じ条件出したよね?
その時は、もちろん断ったけど……。

「まさか、その条件! のむつもり?」

「うん……」
未南は目をそらし、どこか後ろめたそうにしている。

155:りな:2019/11/06(水) 23:03

マジかよ! 未南に裏切られた!

私たちの友情って……。
この程度の物だったの?

未南の背信行為に怒り心頭だよ!

だいたい、いつ? 椿と話をしたっていうの?
休み時間、私とずっといて、椿とは会話してないじゃん!

156:思兎@白雪姫体質 白雪姫体質ってなんだよとか言わないで:2019/11/12(火) 20:52


未南、今までイイ子やなぁこいつって目で見てたけど今回のは草

未南とんでもないモンスターだった件について

これあとから裏切られるパターンだと思った
いつもそのタイミングで、今回の奈緒的な立場の子は
相手側つきゃいいのになんで許すんかって思う草草の草

やばたにえんの麦茶漬けなんだが

157:りさ hoge:2019/11/12(火) 22:10

本当のモンスターは姫川椿だけどね
未南の父親が捕まったのは、彼女が陰で糸を引いてます。
そのことがいじめ裁判であばかれると、事件に関与してない、親友の萌奈に
罪をなすりつようとする悪人ぶりです。当然、萌奈は罪をかぶるわけもなく
友情は崩壊します。
ちなみに。
未南は最初から最後まで悲劇のヒロインですが、ラストシーンでは
彼女がプロテニスの四大大会で優勝するシーンで幕を閉じます

158:りさ:2019/12/16(月) 21:46

(71-2)

「だいたい、いつ? 椿と話をしたっていうの?
 休み時間、私とずっといて、椿とは会話してないじゃん!」

心の中で思ったことをそのまま口に出す。

「スマホだよ……」
未南はすぐに答えた。

まぁ。そうだよね。
スマホあれば、会わなくてもコミュニケーションとれるもんね。

仲直りもそうだけど、愛の告白なんかも、最近はスマホってときもあるからね。

面と向かって言うのは気まずいときや、恥ずかしいってときには便利な道具だ。

とりま、謎は解けた。

でもでも、話はこれで終わりってわけにはいかない。

私、未南に言わなきゃいけないことがある。
未南のこと、本当に友達だと思っているなら、なおさらのこと。
私は椿の魂胆を見抜いている……つもりだから。

159:りさ:2019/12/27(金) 18:19

「スマホで仲直りしたの……。今から椿のところに行ってきていい?」
未南の声にハッとする。

しまった! 黙っていたら、未南がしびれを切らしてまった!

「待って!」
あせって、大きな声を出す。

未南! 椿のところへは行っちゃダメだよ!

160:匿名:2020/04/01(水) 09:59

「椿に呼ばれているの。早く行かなきゃ」
「で、でも! 行かない方がいいよ!」
私は必死で引き止めた。

「行くなって言うの?」
「いじめられるだけだよ」
「いじめられる?」
「そうだよ! 仮に仲直りしても、友達のフリをしていじめるつもりなんだよ」

161:匿名:2020/04/02(木) 22:11

「友達はいい人、クラスのみんなは優しい。将来はいい高校、いい大学に入り、いい会社に入りたい。勉強は大切、成績は上げたい」

162:匿名:2020/04/02(木) 22:12

間違えてかきこんじゃった

163:匿名 hoge:2020/04/02(木) 22:39


(71)未南が椿と仲直り。
(72)未南に絶交され、奈緒はぼっちに。
(73)同じく友達から絶交されて、ぼっちになった央弥と奈緒が友達になる。

(74)未南がいじめられてないか?奈緒は、いろいろさぐる。いじめの証拠みつけられず。
(75)未南、成績が一番から陥落、性格もどんどん暗くなっていく感じになる。

そうして、このまま一学期が終わり、学校は夏休みに入ります。 パート1 終了。

164:匿名 hoge:2020/06/11(木) 22:14

(76)インターハイ出場。結果はベスト8。転校前の学校と対戦して敗戦する。

165:匿名:2020/06/11(木) 22:16

(77)

8月10日 【AM10時 裁判所】

バスケのインターハイが終わって、結果はベスト8。

バスケロスみたいなのを感じてる今日この頃。

今日は、夏季補習を休み
未南のお父さんの裁判を
傍聴するため裁判所へ来ていた。

被告人の弁護人は私の父、川上正義。
弁護士事務所を開設して初めての
刑事裁判となる。

法廷の前に着くと
そこに、未南の姿があった。

未南はセントマリア学園の制服を着て
まだ開廷していない法廷の前に立っていた。

未南とはあれ以来、ほぼ口を利いてなかった。

会話するのは何だか、気まずかったが
こちらから声をかけてみることにした。

「未南……」
「あ...奈緒....」
声をかけると未南が気が付いてこちらを見た。

「お父さんの裁判、見に来たの?」
「そうだよ」

166:匿名:2020/12/05(土) 13:16

出会った当初とは打って変わり
未南は疲れ果てた様子でやせ細り
まったく覇気が感じられない。

いろいろ大変だったね。
でも……事件は解決するからね。
謎は、すでに解けた。

今回の事件の背後にいる真の黒幕は
やっぱり、あいつらだったんだ。

「安心して……。お父さん、痴漢の犯人じゃなかったよ」
「えっ? どういうこと? 真犯人みつかったの?」
未南は自分の耳を疑うように聞き返してきた。

167:匿名 hoge:2020/12/20(日) 09:03

もう終わりでいいかな

168:匿名 hoge:2020/12/20(日) 09:04

一度でも読んでくれた人、ありがとうございました。

169:匿名:2021/05/26(水) 22:09

さあ、ここから。
名探偵!奈緒の謎解き開始だ!
と意気込んだ瞬間。

目が覚めた……。
目に飛び込んできた光景は、私の部屋だった。
あれ? ここは家?
私はベッドの上で寝ていた。
なあんだ夢だったのかよ。

170:匿名:2021/05/27(木) 16:33

もしかして? すべて夢だったの?
そんな錯覚に陥る。いやいや。
そんなわけないよね、きちんと記憶があるもん。

転校してきたこと。
未南と友達になったこと。
そして、いじめにあったことも……。
しっかりと覚えている。

未南は椿たちと仲直り。
私は未南から絶交されてしまい。
のちに央弥ちゃんと友達になる。
ってところまではっきり記憶があるぞー。

(裁判シーンも書いたけどおもしろくないので終わり)

171:匿名:2021/05/27(木) 20:16

(78回)(未南がおごらされているところを目撃)

夏休みも終盤にさしかかった8月20日。
高級スイーツで有名な、とあるレストランに央弥ちゃんと二人で来ていた。
目の前には、店員が持ってきたバースデーケーキがあってテーブルを華やかに彩っている。
今日は私の誕生日なのだ。

「おいしい。さすがスイーツで有名なお店だね」
高級な甘味が、私の舌いっぱいに広がる。
「私からの誕生日プレゼント、喜んでくれて嬉しい」
「本当に、おごってもらっていいの?」
「いいよ、プレゼントなんだから」

172:匿名 hoge:2021/05/28(金) 20:10

それから、私たちは2時間ほど食事をして楽しい時間を過ごした。

「じゃあ会計は私がするね」
会計伝票を右手に持ち、央弥ちゃんが席を立った。
私も席を立ち、二人でお店の入口付近にあるお会計に向かう。

173:匿名:2021/05/29(土) 23:41

視線の先には自分と同じ年頃の女の子4人組がいる。
雰囲気的に、この四人組も今から会計に向かうのかな。

あれ? もしかして? 
この四人組は椿たち? だよね?
椿に、萌奈に、由香子に、未南だ。

「最悪、姫川たちじゃん」
ぼそっと低い声で央弥ちゃんが言い放つ。

央弥ちゃんも椿たちの存在に気が付いたようだ
正直、このレストランにいるの気が付かなかったわ。

174:匿名 hoge:2021/05/30(日) 13:07

椿たちも、恐らく私たちに気がついてないだろう。
話しかけようかな? どうしようかな? 迷う。

クラスメイトでも仲がいいわけじゃないし
最近は未南も、私のことをガン無視してるし。

今は話したくないかな……。
央弥ちゃんも同じ考えなのか、無言のままだ。

ここは、とりあえず様子見ってことにして。
ちょっとだけ歩調を緩めて歩く。

175:匿名 hoge:2021/05/30(日) 20:24

私たちに気が付くことなく
椿たちが先にレジに到着した。

「会計、お願いします」
未南が会計伝票を渡すと
「お会計15980円になります」
店員が明るい声で言った。

一人当たり4000円か? 高い!
まあ、この人たちはお金持ちだもんね。
このくらいは普通かぁ……。

176:匿名:2021/05/31(月) 14:38

面白いですね頑張ってください

177:りさ hoge:2021/05/31(月) 17:08

ありがとうございます

178:りさ hoge:2021/05/31(月) 18:58

未南が店員とやりとりをして
現金で支払いを終えると
4人は出口へ向かって歩いていく。

もう友達でいられないのかな? とか思いながら
私は、寂しげな視線を未南の後ろ姿に向ける。

「ごちそうさま」
椿が未南にお礼を言ったように聞こえた。

「ゴチになりまーす」
萌奈が、とても嬉しそうな声をあげた。
これは未南に向けられた言葉なのだろうか。

由香子が先に店のドアを開けて状態をキープ。
4人は、そのドアを抜けて外へ出て行った。

179:りさ:2021/06/01(火) 19:15

「ん?」
未南がおごってあげたの?

何気ない会話の中に出てきた、”おごり”
を連想させる言葉が妙に心に引っかかる。

少額ならいいけど万を超える金額だ。
まだ、おごってあげたならいいけど
もし、おごらされてるなら大問題だ。

いじめの可能性も考えられるし
どうにかしなきゃいけないような。

過去のいじめでは、小学生や中学生が
何百万もおごらされた実例だってある。

勘違いかもしれないけど
追いかけて事実を確かめなくちゃ。

「央弥ちゃん、ちょっと椿たちと話してくるね」
「はぁ? あんな奴ら無視しとけばいいでしょ」

「ちょっとだけ用事があるの。ごめん、いくね」
今、事情を説明している時間はない。
急いで椿たちを追って店の外に出た。

180:りさ:2021/06/02(水) 16:30

外は猛烈に暑くて真夏の熱気が体にまとわりつく。

「どこいった?」と周りを見渡すと……。
少し先を歩いている椿たちの後ろ姿をみつけた。

「居たっ!」と慌てて追いかけていき。
「待って!」と背後から声をかけた。
声に気が付いた4人が一斉に後ろを振り返る。

「奈緒! こんなところで会うなんて偶然ね。
 いま暇? 暇してるなら一緒に遊ばない?」

予想外の反応だった……椿が喜んでいる。
正直のところ、ムカつかれると思いきや、椿は
友好的な笑顔を見せ高圧的な態度を取らなかった。

「えーーー。こいつ仲間に入れるの反対!!」
萌奈が不満そうに唇を尖らせた。

「いいじゃない。私、奈緒のこと好きよ」
え? 椿の言葉にちょっとだけ照れる。
いっそ、一緒に遊びに行っちゃおうかな?

「私も嫌。奈緒を仲間に入れるのは反対だよ」
ここで意外な反応を見せたのは未南だった。
この前まで友達だったのにそーゆー態度なのかよ? 
私は一時期、ぼっちになってすごく辛い思いしたんだよ。

181:りさ:2021/06/02(水) 20:29

「……」
まあ恨み節を言ってもしょうがない。どっちみち
央弥ちゃんを裏切って、椿の仲間にはなれないし
未南は椿に、私と絶交する約束してるんだよね。

「みんな、奈緒のこと嫌ってるのね、どうしましょう?」
椿は困ったような表情を浮かべた。

「あのね。それより」
遊ぶ、遊ばないの話は置いといて本題を切り出したかった。
「ちょっと別の話がしたいの? いいかな?」

「なあに?」
椿が聞き返す。

182:りさ hoge:2021/06/03(木) 19:05

どういう風に話そう? ちょっと迷ったけど。
ここは単刀直入に話を切り出した。

「さっきの食事の料金、未南のおごりなの?」

「なによ、急に……」
「私、見てたんだから、いいから答えて」

「そうよ、今日は未南のおごりってことにしたの」
「全員分を1人で払ったの?」

「ええ……」
「なんで未南がおごらきゃいけなの? かなりの金額だったよ」

「なんでって? 今までのツバキ会では全部
 私がおごってたのよ。たまにはいいじゃない」

ツバキ会とは椿が主催する女子会のようなもの。
ツバキ会のお金は全額出しているとは聞いていた。

それなら、たまに未南がお金出すのは道理が通っているのか?
未南も納得してるなら、それでいいのか? 判断に迷った。

「無理やりおごらせたんじゃないの?」
そんな疑惑が消えなかった。本当は強要しているのでは? 

「何が言いたいわけ? 話を聞いてなかったの? 
 わたしは、あの何百倍もおごってきたのよ」
椿はあくまで自分の正統性を主張している。

「う、うん」
納得してないけど、即座に反論できない。

183:りさ hoge:2021/06/03(木) 19:16

ならば、未南はどう思ってるの? 本当は嫌じゃないの?
未南のお父さんは、お金に厳しく贅沢させてないらしいし。
そんなお金はあるの? 直接本人に気持ちを聞いてみよう。

「未南は、どう思ってるの? おごらされて嫌じゃなの?」
「別に嫌じゃないよ。仲間が喜んでくれたら嬉しい」

「もし嫌なら、ハッキリ断るべきだよ、どうなの?」
「嫌じゃないって言ってるでしょ、しつこいよ」

「私は未南のことが心配なんだよ、いじめられてないか」
「心配してくれなくてもいいよ。もう友達じゃないんだから」

「成績も落ちてるし。性格もどんどん暗くなっていく感じだし。
 無理して椿たちと友達続けなくてもいいんじゃない?」

「無理なんかしてないよ。成績とか気分が沈むのは
 お父さんのせいで友達はぜんぜん関係ないんだよ」

「ここ抜けて、もう1回、私と友達になろう? そうしよう。
 悩みも聞いてあげるし、未南を裏切ったりしないから」

「結構です。奈緒とは絶交するって言ったじゃん」

未南の態度が、辛く悲しいと同時にイライラっとした。

184:りさ hoge:2021/06/04(金) 20:22

どうせ、私の誕生日も忘れているんでしょ?。
友達なら一緒に祝ってたかもしれないのに……。

「強引に絶交させるとか、それ自体がいじめでしょ」
「違うよ。奈緒をグループに入れたくないだけだよ」

「なんかイライラすんなぁ! そんな話どうだっていいんだよ」
萌奈の唐突な一言で、思わず「え?」となった。

「そうね。なんか、いろいろ不愉快だわ」
椿は、そう言うと。きつい視線で私をにらんでいる。

「ごめん、椿、奈緒がいろいろ言ってるけど
 奈緒とは、もう友達とかじゃないからね」
未南が椿に釈明している。

「私は今でも友達でいたい。無理やり絶交させたのは椿たちでしょ?」

「萌奈が奈緒のこと嫌って言うからそうしたのよ」
私の質問に答えたのは椿だった

「そうだよ。だれがお前なんかと友達になるかよ」
萌奈は私を、ひどく毛嫌いしている。

「未南と私の仲を裂いて、いじめるのが目的じゃないの?」

「そんなの被害妄想だよ。私は椿たちといると楽しいよ!」
未南が横から口をはさむ。

「いや別に妄想とかじゃなくて、仲直りしたのだって
 いじめが先生にばれそうになったからじゃないの?」

「違うよ。なんの根拠あって言ってるの!」

「未南の言う通りね。ほんと奈緒の妄想ってひどいわ!
 こんな子、ほおっておいて、もう行きましょう!」
結局、怒った椿たちは、私を置いて、いってしまった。

心配で、不安で。いろいろ疑ってしまう。

いじめられてないならそれでいいんだけど……。

友達グループ内でのいじめってのもあるしなぁ。

のちのち大きな問題にならないといいけど。

185:りさ:2021/06/05(土) 10:50

(79回)(痴漢裁判)

8月25日、ここは裁判所。今日は
未南のお父さんの痴漢事件の裁判が始まるから
お父さん、美鈴さん、未南と裁判所に来ていた。

再び、裁判所にやってきたような感覚!
夢で見た光景と似ている。
まるで、デジャビュー!
違うのは、何も事件が解決していないということ!
夢じゃあ、真犯人をみつけていたのにね。

「そろそろ中へ入ろうか」
時計を見た父かそう言った。開廷の時間が近づいているようだ。

186:りさ:2021/06/06(日) 08:49

法廷に入ると弁護人席に父が座る。
隣には、父の事務所で働く新米弁護士
松岡美鈴、25歳が着席する。
二人は被告人(起訴された者)を弁護する役割だ。

弁護士席の正面奥には検察官。
検察は犯罪を立証する被害者の味方だ。

私と未南は傍聴席の中央に並んで座った。

定刻になると
奥の扉から未南の父親である被告人が
刑務官2人に付き添われ法廷に入ってきた。
両手には手錠を付けられていた。

続いて、裁判官が入ってくる。
それと同時に、検察側にいる女性が
「起立」と言った。

私と未南は一瞬、戸惑ったが、
立ち上がり裁判官に礼をした。

187:りさ:2021/06/06(日) 22:20

「開廷します。被告人は前へ」

裁判官に促され未南の父が証言台に立った。

まず裁判長が被告人に対し人違いでないことを確認するため
氏名、生年月日、職業、住居、本籍等を確認した。

「名前は?」

「修倉大造です」

職業は教師。
年齢は偶然にもお父さんと同じ43歳だ。

次に、検察官が起訴状の朗読を始めた。

「公共の乗物において、被害者に対し
 着衣の上から臀部を触り、人を著しく羞恥させ
 又は人に不安を覚えさせる行為をしたものである。

 罪名、および罰条。公衆に著しく迷惑をかける暴力的
 不良行為等の防止に関する条例違反」

わかりにくいが、これは俗に言う、迷惑防止条例違反だ。

次に、裁判長は被告人に対し黙秘権等の権利を告げる。

「これから、今、朗読された事実についての審理を行いますが、審理に先立ち
 被告人に注意しておきます。被告人には黙秘権があります。従って、被告人は
 答えたくない質問に対しては、答えを拒むことができるし、また、初めから
 終わりまで黙っていることもできます。もちろん、質問に答えたいときには
 答えても構いませんが、被告人が、この法廷で述べたことは、被告人に
 有利・不利を問わず、証拠として用いられることがありますので、
 それを念頭に置いて答えて下さい」

長い……、ようは自己に不利益な供述を拒否する権利のことだ。

188:りさ hoge:2021/06/07(月) 17:48

続いて罪状認否。
「公訴事実、つまり検察官が読み上げた起訴状に
 事実と違うことがありますか?」

「あります。痴漢をした事実はありません。
 これは間違いなく冤罪です。」

未南の父は裁判官から聞かれた、公訴事実を否定した。

「被害者と同じ電車に乗っていたことは間違いありませんか?」

「間違いありません。しかし着衣の上から臀部を触る行為はしてません」

「弁護人のご意見は?」
裁判官が私のお父さんに聞いた。お父さんは立ち上がり

「被告人と同意見です。被告人は痴漢行為をしておりません。
 しかし被害者と同じ電車に乗っていた事実は認めます」
と述べたあと、イスに座る。

「被告人はお戻りください」
裁判官に言われ、未南の父が席に戻る。

「証拠調べに入ります。検察官は冒頭陳述をどうぞ」
裁判所書記官が検察官に冒頭陳述を求める。

189:りさ hoge:2021/06/08(火) 17:11

冒頭陳述とは刑事訴訟で、証拠調べのはじめに、検察官が証拠によって証明しよう
とする事実を明らかにする陳述。そのあとで、被告人側も同様のことができる。

【検察側の冒頭陳述】

「1、午前7時ごろ。被告人の乗る車両に、被害者の当時14歳の女子中学生が
 同級生の友人と一緒に乗車した。被害者は、被告人の真横に立つことになった。

 2、電車が発車した直後、被告人は真横にいた被害者の臀部を着衣の上から触り
 下車する10分間、執拗に撫で回し公訴事実記載の犯行に及んだ。被害者は生涯で
 初めて痴漢に遭遇し、恐怖のあまり、声を出すことも抵抗することもできなかった。

 3、被害者と友人は被告人と同じ駅で下車。下車直後に被害者は、痴漢されたことを
 友人に相談した。相談された友人は、被告人を捕まえると、被害者に言い、被告人は
 改札に向かって歩いているところを、被害者の友人により現行犯逮捕された」

190:りさ hoge:2021/06/08(火) 23:13

検察側の冒頭陳述が終わった。
「弁護側は冒頭陳述をどうぞ」
裁判所書記官から声をかけられると
お父さんが立ち上がり冒頭陳述を始めた。

【弁護側の冒頭陳述】

「痴漢した事実はない。被告は無罪。過去に性犯罪、犯罪の事実もありません。
 被告は教師となって13年間。常に法規を順守してまじめに取り組んできた。

 犯行を目撃した人物や微物検査(容疑者の手に被害者の衣服の繊維が付着して
 いないかの検査)などの人的、物的証拠もなく。本人も犯行を否認している。

 痴漢が事実であれば被害者の犯人、犯行の誤認であり、真犯人が存在すると思われる。
 そうであった場合 この事件は犯人を誤認逮捕した冤罪事件であると考えられます」

弁護側の冒頭陳述が終わった。
 
その後。証拠(書証・物証・人証)提出 ← 証拠認否

(続く)

191:りさ hoge:2021/06/09(水) 19:57

(80回)(痴漢裁判2)

「次に証人の取調べを行います」

証人尋問が始まる。
証人尋問とは,検察官や弁護士が証人に対し質問をして
証人の供述から証拠を得る証拠調べです。

「それでは証人尋問に移ります。証人を入廷させてください」
女の子が入廷し、証言台の前に立つ。

証人尋問をするには、まず証人の人定質問が行われる。
人定質問では証人の氏名、年齢、住所、職業等を質問する。

人定質問は、裁判官が証人カードを見ながら質問する。

「住所,氏名,職業,年齢は証人カードに記載したとおりですね?」

「はい,間違いありません」

友人は女子中学生で被害者のクラスメイトらしい。
事件があった日、通学のため同じ車両に乗っていた。

192:りさ hoge:2021/06/10(木) 16:49

人定質問の後は,すぐに宣誓書の朗読。

「宣誓書を朗読してください」

「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず
 偽りを述べないことを誓います」

裁判官に言われて、証人によって宣誓が読み上げられる。

続いて裁判官は証人に偽証罪の告知をし、そのうえで尋問を開始する。

「証人は今、宣誓したように、本当のことを証言してください。
 もし宣誓したうえで虚偽の証言をすると偽証罪で処罰される
 ことがあります。では、そこに座ってください」

被害者の友人が証言台のイスに座る。

「それでは、検察官、尋問をどうぞ」

193:りさ:2021/06/11(金) 17:09

【証人尋問(証人=被害者の友人)主尋問】

宣誓が終わると検察官の尋問が始まった。

「5月8日。あなたは痴漢事件があったこの車両に乗っていましたか?」

「はい」

「あなたは、そのとき誰かと一緒にいましたか?」

「友人と一緒にいました」

「その友人は、この痴漢事件の被害者の少女ですか?」

「はい」

少女は少し緊張気味だがきっぱりと返事をする。

194:りさ hoge:2021/06/12(土) 08:25

「被害者は、あなたから見て、どの位置にいましたか?」

「私の右隣りにいました」

「友人が痴漢の被害にあっていたときも一緒にいましたか?」

「はい、車内ではずっと一緒でした」

「痴漢をした被告は同じ車両に乗っていましたか?」

「乗っていたと思います」

「被告が下車した駅は、金有駅です。あなたと被害者も同じ駅で降りましたか?」

「はい、同じ駅で降りました」

少女に、おどおどした様子はなく。
ハキハキと検察官の質問に答えていった。

195:りさ hoge:2021/06/13(日) 09:37

「駅のホームで。被告を痴漢の犯人として私人逮捕したのはあなたですね」

「はい」

「そのときの経緯を説明してください」

「金有駅に降りた直後、友人が、痴漢をされたと言いました。
 友人は、スーツを着た男に、痴漢されたって言いました。
 二人で犯人を捕まえよう、ってことになって……。
 私は友人が指さした男性を追いかけて、捕まえました」

「痴漢の犯人を捕まえた際の具体的状況を教えてください」

196:りさ hoge:2021/06/13(日) 19:08

「私は、男性が逃げないように腕を掴み、痴漢したでしょ?と聞きました。

 男性は痴漢なんてしていない、何かの間違いだ、と言ってきました。

 友達が痴漢されたと言っているので。罪を認めるように言いました。

 でも犯行を認めないので、私は友人に、駅員を呼んでくるように言いました。

 男性は自分が教師で、学校に行かなければならないと言い、逃げようとしました。

 私は逃げないように男性を必死に捕まえました。やがて友人が駅員を連れてきてくれて。

 駅員は男性が逃げないように捕まえて駅事務所まで連れて行きました」

少女は事件当時のことを思い出すように話した。

197:りさ:2021/06/14(月) 17:51

「駅事務室へは、あなた達もいってますね。そのときの様子を説明してください」

「はい。4人で事務室に入り、事情を聴かれました」

「あの? 4人とは、あなた、被害者、被告、駅員でいいですか?」
検察官が少女に質問した。

「はい」

「続けてください」

「はい。男性はずっと痴漢していないと言い続けていました。
 友人は痴漢された お尻を触られたって駅員に話しました。    
 しばらくして、駅員が警察に通報して、警察が来ました。

 警察にも二人は同じことを話していました。話し合っても
 男性は罪を認めませんでした。それで私は学校に遅刻するから。
 もういいですか? と警察の人に聞きました。警察の人は。
 警察署で事情聴取するから、君たちは学校に行ってもいいよ。
 と言うので、私たちは駅事務所を出て、学校へ向かいました」

198:りさ hoge:2021/06/15(火) 16:51

「はい、わかりました。それでは犯人と、被告人の同一性の
 確認のため。証人に甲15号証の犯人の写真をしめします」

検察官が少女のところまに歩み寄る。

「この写真の人は、5月8日、友人が痴漢の被害にあったとき。
 あなたが捕まえた犯人ですか?」

「はい」
少女は間をおいて返事をした。

「以上です」

検察官の主尋問が終了した.

199:りさ hoge:2021/06/16(水) 17:56

【証人尋問(証人=被害者の友人)反対尋問】

続いて弁護側による反対尋問が行われた。

「反対尋問をさせていただきます」
お父さんが弁護人席から立ち上がった。

「被害者は電車が発車した直後に痴漢に遭い、下車するまでの
 10分間、執拗に、臀部を着衣の上から触られたようですね」
お父さんが証人の少女に視線を向ける。

「あなたは車内で友達の異変に気が付きましたか?」

「いいえ」

「それはおかしいですね。10分間も痴漢の被害に遭っていれば。
 何かしら、様子がおかしいと思うはずですが……。それに?
 なぜ被害者は、あなたに助けを求めなかったのでしょうか?」

「怖かったり、恥ずかしかったりで、声に出せなかったんだと思います」

「被害者は抵抗したり、嫌そうな顔はしていませんでしたか?」

「はい……」

「そのほか、なにか様子がおかしいとは、思いませんでしたか?」

「はい、でも、わたしが鈍感で気が付かなかったのかもしれません」

「そうですか。では被害者は、その場から逃げたりはできなかったのでしょうか?」

「満員電車で、簡単には移動できなかったと思います」

200:りさ hoge:2021/06/17(木) 17:51

お父さんの尋問は続く。

「あなたは? 電車内で犯人を見ていますか?」

「見ていません」

「犯行も目撃していませんよね?」

「目撃してません。痴漢を目撃してたら、すぐに助けるか、犯人を捕まえてます」

「そうですよね。では、自分の周囲に、だれが乗っていたのか、覚えていますか?」

「あまり覚えていません」

「重要なことです。時間をかけて考えてください。
 被告人は、被害者の真横、右側に居ました。でも。
 痴漢は、被害者の背後に居た乗客にも可能ですよね」

「はい。でも、あの日。後ろに誰が居たのか覚えていません」

201:りさ hoge:2021/06/17(木) 21:10

「では痴漢じたい、嘘だった可能性はありませんか?」

「あの子は、そんな嘘を付くような子じゃありません」

「痴漢の事実はあったと、あなたも思いますか?」

「はい」

「被告人は、一貫して犯行を否定してます。それでも犯人だと思いますか?」

「……。思います」

「事件後に被害者から、痴漢の犯人を間違えたかも。
 事件は嘘だったなどの発言はありませんでしたか?」

「ありません」

「二人で共謀して、でっちあげたという事実もありませんよね?」

「絶対にそんなことはありません」

「失礼しました。質問を変えます。あなたは被害者が指をさした人を捕まえたんですよね?」

「はい」

「あなたは被害者の言葉だけを信じて、被告人を逮捕した。間違いありませんね」

「はい」

「被害者が犯人を間違えた場合、被告人が犯人ではない可能性があります」

「はあ、まあ」

「では駅事務室での様子についてうかがいます・・・・・・・
「〇〇〇〇〇〇」
「〇〇〇〇〇〇」

その後もなんとか無罪のために、証言を引き出そうと尋問を続けたが。
決定的な証言が得られず、この証人尋問が終了すると法廷は閉廷された。

(推敲不足でぐだぐだですがサブ​プロット終。メインプロットに戻ります)

202:りさ hoge:2021/06/18(金) 16:53

第二章 (〜 未南 自殺未遂)

203:齋藤:2021/06/20(日) 23:58

はじめまして。

204:りさ:2021/06/21(月) 16:23

はじめまして。

205:りさ:2021/06/21(月) 16:28

第二章(1回)(椿たちに恋愛を強要され、未南に彼氏ができる)

「あいつ、会わないって言ってるのに、また連絡してきたよ」
椿の自宅の寝室で、萌奈は親友である椿に向かって言った。

夏休みも終盤。萌奈は、椿と夜遊びした後、泊まりに来ていた。

「誰? こないだの合コンの男? いいじゃない。遊びで付き合っちゃえば?」

「こいつ、結婚してるんだよ。私はそういう人とは付き合いたくないの」
萌奈は、男遊びは派手だが、浮気や不倫は嫌っていた。

「嫁がいるのに、JK(女子高生)と遊びたいとか最低だよね」
 
椿は言ったあと、しばらくして、思いついたように口をひらいた。
「そうだ! いいこと思いついた! こいつ未南に紹介しちゃおうよ」

「付き合わせるの? あいつ、彼氏いたことねえじゃん。無理っぽくね」

「いまならちょっと強く言えば、断れないんじゃない?」
 
「おもしろそう、あの未南が不倫野郎と交際とか、きゃはは、ウケル」
萌奈は、真面目な未南が傷つくことを確信して言っていた。

「私が未南に連絡してあげる」
そう言って、椿は未南に電話をかけた。

206:りさ:2021/06/21(月) 20:44

「はい」

未南は、スマホの着信音にハッとして、ベッドから起き上がり、電話にでた。

疲れてベッドに横たわっていると、いつの間にか眠ってしまったようだ。

「いまどこ、いえー?」

椿がなんのために電話してきたか、未南にはわからなかった。

「家だよ、横になってたら、いつの間にか寝ちゃった」

「最近、いつも眠そうで、疲れてるよね」

実際、父親が痴漢で捕まったことは、未南の精神を落ちこませ、眠れない夜も多々あった。

「うん、まあ」

未南は力なく答えた。

「そんなことより」

椿はすぐに本題に入った。

「萌奈の知り合いなんだけど、あなたと付き合いたいって男性がいるんだけど、どう?」

「急にそんなこと言われても、困るよ」

未南は、ほとんど考えることもなく、即座に返事をした。

「元気ないんだし、恋愛でもしてみたら? 最近の未南、暗い話ばっかりで、つまんない」

「ごめん、いま、恋愛とかする気分じゃないんだ」

207:りさ:2021/06/22(火) 19:38

「私が紹介してるのに、断る気なの?」

「……」
未南は椿に嫌われるのが怖くて、不安な日々が続いている。

断ったら嫌われるんじゃないか、そんな心理状態に陥っていた。

「黙ってないで、何か言いなさいよ」
椿は思い通りにいかないと、機嫌を悪くした。

「恋人になるか、わらないけど、とりあえず会ってみる」
未南は、ひどく当惑し、動揺している。

「それじゃあ、相手に連絡先教えるね」

「うん」

「あとは二人で話し合って、どうするか決めてね」

椿は、そう言って電話を切った。

208:りさ:2021/06/23(水) 18:13

「やった! うまくいったわ」

椿は、部屋で息をひそめていた萌奈に話しかけた。

「あいつに連絡する。私より可愛い子、紹介してあげるって」

萌奈はスマホをいじり始めた。

「ふふ、なんだか、おもしろいことになりそうね」

椿はクスリッと笑った。

209:りさ:2021/06/23(水) 20:36

(2回)
男の名前は西出冬馬。大企業の御曹司であった。
妻が妊娠中にも関わらず、女遊びをしようしていた。

そんなこととは、つゆ知らず
未南はメールやLINEでやりとりした。
やがて西出の提案で、電話で話すことになった。

初対面の男性と話すと思うと緊張感が高まり
未南の心臓の鼓動がバクバクと速くなる。

じっとスマホを見つめていると、電話のベルが鳴った。

「はい」
未南が電話にでる。

210:りさ:2021/06/24(木) 16:42

「はじめまして」
男の優しい声だった。

「はじめまして」

「冬馬です」
男は苗字を名乗らず下の名前だけを言った。

「修倉です」

それから、しばらく、二人は、たわいもない会話を続けた。

「会ってくれる?」
唐突に冬馬が本題を切り出す。

「……」
未南は、別に会いたいわけじゃない、と思った。

「ね、金曜の夜、ドライブしよ? 俺が家まで迎えにいくからさ」

「…………」
未南は戸惑った。見知らぬ男性とは、会ってはいけないと思っていたからだ。

「ええ」
だが、椿との約束を守るために、しかたなく会うことにした。

「決まりだね。詳しいことは、あとで連絡するよ」
そう言って、冬馬は電話を切った。

未南は、ひとつため息をついたあと
倒れこむように、ベットに横になった。

好きでもない男性と会って、デートすることが。
なぜかとても悲しい。さまざまな感情が入り交じって。
全部なかったことにしたいほど、悲しかった。

211:りさ:2021/06/24(木) 21:50

(3回)(ギャル化させられる未南)

夏休みが終了して、2学期が始まった。

教室は大勢の生徒たちで、にぎわっている。

未南は髪の毛を茶髪に染め、ミニスカート姿で教室に入ってきた。

未南の外見の変化に、教室がざわついた。

清純とばかり思っていたクラスメイトは驚きを隠せなかった。

「似合うじゃない」
椿が未南に声をかけた。

「スカートそれくらい短い方がいいよね」
ミニスカートから飛び出した細くて綺麗な未南の足が妙に色っぽかった。
萌奈が満足げな笑みを浮かべる。

「彼氏を作るなら、そのぐらい派手な方がいいよ。未南、地味だったもの」
椿が無邪気な笑顔で言った。

校則の緩い学校であったが、未南が派手な格好をすることは一度もなかった。

未南の意志ではなかった。地味な女はモテないと言って

未南をギャル化させたのは椿たちのしわざだった。

「似合うかな……」

私を思って言ってくれてる、未南は自分の心にそう言い聞かせていた。

212:りさ hoge:2021/06/25(金) 21:09

(奈緒、未南に話しかける)

未南の姿には、奈緒も驚いていた。

「どうしたの? その格好(かっこう)?」
奈緒が尋ねた。

「別に……」
未南の返事はそっけなかった。

「誰かに強制されてない?」
「……」

「もし椿たちに、そうしろって命令されたなら言ってほしい」
「ただのイメチェンだよ」

「困ってるなら相談してよ」
「好きでやってるんだから、ほっといてよ」
未南は冷たく言い放つ。

「心配してるんだよ」
「……」

未南は、泣きたくなった。
目に涙がにじんで、こぼれ落ちそうになるのを、必死にこらえた。

213:りさ:2021/06/26(土) 15:09

(奈緒、担任に相談)

朝のホームルームが終わったあと。奈緒は担任を追いかけて話しかけた。

「先生、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう?」

「修倉さんのことで相談があるんです、いいですか?」
「ええ、どうぞ」

「この前、偶然、目撃したんですけど修倉さんが、姫川さん、和田さん、野村さんの
 4人で食事をしたとき、食事代、15980円を、おごらされてました」

「かなりの金額ですね。それは強要されたということですか?」

「いえ、合意の上とか言ってました」
「合意したとはいえ、あまりいいことではありませんね」

「あと髪を染めてたの、気が付きましたか?スカートもミニスカートになってました」
「髪の色は気が付きました。私も少し驚いています」

「あれも自分の意志じゃないかもしれません」
「そうなんですか?」

「あと、修倉さんと姫川さんが仲直りするかわりに、私と修倉さんは、絶交させられました」
「それは、ひどい話ですね」

「いじめの可能性があるので先生に話しておこうと思って」

「そうですか、いろいろ話してくれて、ありがとう。
 あとで修倉さんに話を聞いてみます」

214:りさ:2021/06/27(日) 18:44

(担任に呼びだされる未南)

放課後、担任は未南を職員室に呼びだした。

「最近、元気がなさそうなときがありますね」
担任が優しい口調で未南に話しかけた。

「悩み事はありませんか?」

「特にないです」
未南は嘘をついた。

「その髪の毛はどうしたの?」
担任は未南の髪に目を向けた。

「うちの学校は校則が厳しくないので、問題はありません」
頭髪や服装に関する校則はほとんどなく、校則で禁止なのは無断アルバイトくらいである。

「急に茶髪にしたり、スカートを短くしたのはなぜですか?」

「別に……こうしたかったからです」
未南は、ぶっきらぼうに答えた。

215:りさ hoge:2021/06/29(火) 22:16

「まあ、それならいいんですが……」
担任は、この件について、これ以上追求しなかった。

「友人関係はうまくいってますか?」
担任は話題を変えた。

「はい」

「姫川さんたちと仲良くしてるようですね」

「親友です。あの子たちと一緒にいると楽しいです」

「川上さんは?」

「……。いまは友達じゃありません」
未南は正直に話した。

216:りさ hoge:2021/07/01(木) 16:25

今朝、奈緒が言ったことと一致する。

担任は、いじめの可能性を疑った。

「修倉さん、いじめられていませんか?」

「いじめられていません」

「もしいじめを受けているなら、正直に話してください」

「椿のおかげで、クラスメイトからの嫌がらせがなくなりました」

「本当にないんですね」
担任は念を押した。

「はい」
未南はきっぱりと答えた。

217:りさ:2021/07/01(木) 16:53

いじめの可能性を払拭できず。

担任は別の質問をぶつける。

「姫川さんたちに、食事代をおごったと聞きました」

「……そんなこと誰から聞いたんですか?」

「川上さんです」

「奈緒が……」

「事実ですよね」

「はい」

「高額だったようですね。相手の言われた通りに、行動するのではなく。
 嫌なことは、嫌だと、ハッキリ言った方がいいですよ」

「別に嫌じゃありません。好きでやったんです」

「高校生が、おごったりするのは、いいことではありません」

「椿は、いつも私におごってくれました」

担任の言葉に、未南は、かすかな反発を覚えた。

218:りさ hoge:2021/07/02(金) 19:57

「そういうのはやめましょう。のちに金銭トラブルになるかもしれません」

「……。先生、椿たちにも話をするつもりですか?」

「まだ予定してません」

「やめてください、変なこと言って、仲が悪くなったら先生のせいですよ」

「トラブル解決も、教師の仕事だと思ってます」

「私は、もう子供じゃありません。自分でどうにかします」

「まだ子供です。大人に頼っていいんですよ。
 自分だけの問題だと思わないでください。
 悩みごとや、困ったことがあったら
 一人で苦しまず、周りに相談しましょう」

219:りさ hoge:2021/07/03(土) 12:12

「周りに迷惑かけたくありません」

「親が困るとか、先生が困るとか考えなくていいです」
担任は少し大きな声で言った。

「特に親にとって、相談してくれなかったことが
 あとで、大きな後悔になることがあります」

担任の言葉に、未南の胸が強く痛んだ。

あの痴漢事件後。両親は、苦しんでいる。
未南は、そう思うと辛くなった。

「はい」
未南は返事しつつも、誰にも相談できないと考えていた。

220:りさ hoge:2021/07/17(土) 21:58

(4回)

(未南、望まない交際を強要されて、悩み、苦しみ、傷つく)

221:りさ:2021/07/17(土) 22:23

金曜の夜がきて。
大企業の御曹司、西出冬馬と女子高生、修倉未南がデート。
西出は結婚していることを隠し不倫状態に。

デートを終え、車を降りようとする直前に
未南は、いきなり唇にキスをされた。
未南にとってはファーストキスだった。

未南は放心状態のまま車を降り、西出と別れるが
パニック状態に陥り、部屋で泣きじゃくる。
その後、精神的不安により過呼吸を起こす。

222:りさ:2021/07/18(日) 00:05

”呼吸しているのに酸素が入ってこない。苦しい”

呼吸が止まってしまったのではないか? このまま死ぬのか?

未南は、死について強い不安を抱く。

しばらくして。症状は軽くなり、過呼吸は止まった。

心が少し落ち着いた未南は、椿と話がしたくて電話をかけた。

”あの人と交際したくない”

不安や辛さから、交際中止を求めるつもりだった。

223:りさ:2021/07/18(日) 16:25

「デートどうだった? 楽しかったでしょ?」

未南の耳に、明るい声が飛び込んできた。

”全然楽しくなかった”

正直、苦痛ですらあった。

椿への後ろめたい気持ちで、未南の心が重くなる。

同時に、親友だった椿に助けてもらいたい気持ちにもなった。

「なんか辛い、もう会いたくない」

未南は本音を打ち明けた。

224:りさ:2021/07/19(月) 17:51

聞いて、椿は激怒した。

結婚している男性を、未南と付き合わせるつもりだった。

これでは、せっかく上手くいきかけていた計画が台無しになってしまう。

椿は、それを認めるわけにはいかなかった。

「だめよ! 彼を紹介した私の顔に、泥を塗る気なの? それは許さないわ」

椿は、未南に望まない交際を強要する。

「あの人のことを思うと苦しい」

「なんか変なことされたわけ?」

椿が、非難がましく問いつめた。

「キスされた」

「たかがキスくらいで、なに言ってるのよ。いいじゃない」

「男の人とキスするの初めてだったんだよ」

「あっそう。よかったじゃない。キスできて」

椿が、さげすんで笑う。

「そういうことは、結婚したいと思える人としたかった」

未南は泣き出しそうな声だった。

225:りさ:2021/07/27(火) 00:06

「そういうこと言ってて、今まで彼氏いたことないよね」

椿が言ったように、未南に恋人がいたことはなかった。

しかし未南に恋人ができる機会がなかったわけではない。

知り合った男性から交際を申し込まれたことが何度かあったが

恋愛するには年齢的に早いと思い、付き合うことはなかった。

「せっかく、初彼氏ができたんだから、簡単に別れちゃダメよ」

椿は念を押すように言う。

226:りさ:2021/07/30(金) 23:48

「うん」

未南は渋々承諾することにした。

仲直りして以来

未南は椿に嫌われるのが怖くて従順になっていた。

友達が離れていってしまわないか不安になると

無茶な要求でも簡単に受け入れてしまうのである。

初めから、まったく望んでいない恋愛であったが

椿は未南の意志に反して無理矢理に付き合わせることに成功した。

「またデートしたら、何があったか、いろいろ、報告してね」

椿は、思惑通りになって大いに喜んだ。

227:匿名 hoge:2021/08/30(月) 21:03

(5回)

初デート後も、未南への行為は、さらにエスカレートする。
何度もドライブに誘い出し、キスをする、抱きしめる。
スカートの中に手を入れて太ももを触る、胸やお尻を触る。
ホテルに誘い体を触る。などの行為を西出は繰り返していた。
未南はわいせつ行為を受けた直後から自殺願望をいだくようになった。

228:匿名 hoge:2021/09/03(金) 15:46

(デートのあと、西出の偽の自宅に連れ込まれる未南)
(自宅は独身を偽装するために借りたそこそこ高級なマンション)
(西出は恋人気分で、未南と接する)
(未南はかなり嫌な様子。でも椿との約束を守るために我慢して耐える)
(未南は正直、好きじゃない。別れたいと思っている)

229:匿名 hoge:2021/09/03(金) 16:08

(6回)ガールズトーク

(学校で、未南と椿たちが会話)
(萌奈が、西出との関係がどうなったか?聞く)
(未南は別れたと言うが、椿は付き合うを続けさせる)
(椿、炎上させるのが目的で、未南にインスタを始めさせる)
(未南は父親からSNSを禁止されているが、渋々、始める)

230:匿名:2021/09/03(金) 16:23

「彼とはどうなった? もう最後まで、やっちゃったとか?」
萌奈が興味深そうに聞く。

「そんなわけないでしょ、私はまだ高校生なんだよ」
腹立ちを覚えながら、平静を装って未南が言う。

「ふーん。でも、キスはしたんでしょ?」
私は高校生でも、もう経験済みだけどね。萌奈は心でそう思った。

「まあ、キスは……」
これ以上この話をしたくない、思い出したくない、と感じながら未南は答えた。

231:匿名 hoge:2021/09/09(木) 19:34

(7)インスタ いじめ
椿から恋愛のことをSNSに投稿すること強要される。
未南のSNSにスクールカースト下位の地味子とかから
恋人ができたことによる非リア充の妬みとかも原因で。
誹謗中傷のコメン投稿されるようになる。それに未南は傷つく。

232:匿名 hoge:2021/09/09(木) 19:42

(8)未南、酔った西出に襲われかける
西出の部屋に連れ込まれ、しきりに酒をすすめられるも断固拒否。
ひどく酔った西出にベッドに押し倒され身体を触られる。
服も脱がされそうになった未南さんは、激しく抵抗。
もみ合ったあと、突き飛ばして、部屋から逃げて、その後は疎遠になる。

233:匿名 hoge:2021/09/09(木) 19:49

(9)不倫暴露
椿と萌奈が、未南のSNSに西出が結婚してて
未南と不倫してることを投稿する。
未南はようやくその事実に気が付く。

234:匿名 hoge:2021/09/09(木) 19:52

(10)SNS炎上、いじめ再燃。
SNSも炎上。未南の不倫はクラス中の噂になり
いじめも再燃。未南は死にたくなるほどのショックを受ける。

235:匿名 hoge:2021/09/09(木) 20:12

(11)
不眠、食欲不振、自殺願望など。未南、重度のうつ状態になる。
でも精神科などには行けず、誰にも相談できず一人で苦しむ。

236:匿名 hoge:2021/09/16(木) 20:53

(12)
椿たちは西出のわいせつ行為を、警察に訴えて、西出を奈落の底へ落とそうとする。
そう言われた未南は、西出の家庭を壊したくないと、何もされてないと嘘をつく。

237:匿名 hoge:2021/09/17(金) 17:39

(13)
未南の不倫は学校中の噂になり、担任の耳にも入る。
担任が未南を呼び出して事情は聞くと。未南は不倫を認めた。
真面目な生徒と思っていた担任は大きなショックを受ける。

238:匿名 hoge:2021/10/01(金) 20:03

(14)奈緒と未南の会話
不倫の噂は奈緒の耳にも入る。
心配して声をかけるも冷たくあしらわれる。
「椿たちにハメられたんじゃあ」と奈緒が
言っても、未南は聞き耳を持たず。

239:匿名 hoge:2021/10/04(月) 05:05

(15)合コン
椿は落ち込む未南を励ます名目で合コンをすることになった
未南は合コンで飲酒をすすめられたり、王様ゲームとかで
はずかしくて、できないことを命令をされて、嫌な思いをする。

240:匿名 hoge:2021/11/06(土) 08:24

(〜2章おわり)

それからはいろいろあり、季節は冬になっていた。

未南は、いじめなどの影響で突然パニック症状が現れるPTSDを発症していた。

病気を治療中の登校時に発症してしまい、学校の校舎から飛び降りを決意してしまう。

241:匿名 hoge:2021/11/06(土) 08:34

第三章 (未南 飛び降り〜奈緒 退学まで)

242:匿名 hoge:2022/01/04(火) 07:13

・大雪の日に、未南が校舎から飛び降りる。

243:匿名 hoge:2022/01/29(土) 13:50

飛び降りる直前、奈緒と電話で話す未南。

244:匿名 hoge:2022/01/29(土) 13:55

・奈緒の制止をふりきって飛び降りてしまう未南

245:匿名 hoge:2022/01/29(土) 13:58

・奈緒と複数の生徒が校舎から飛び降りた未南を目撃して、教室はパニックに。

246:匿名 hoge:2022/02/05(土) 10:46

未南が飛び降りたとは信じられず、奈緒は電話で必死に呼びかける。
電話の応答がなくなり、パニックになった奈緒は教室を飛び出す。

247:匿名 hoge:2022/02/05(土) 10:52

「校内で事故が起きたので全員教室で待機してください」
とのアナウンスが流れる中、奈緒は駆け足で階段を降りる。

248:匿名 hoge:2022/02/06(日) 11:24

(2)

249:匿名 hoge:2022/02/13(日) 12:27

「………………無事でいて」

私は未南の無事を祈りながら、1階まで駆け下りた。

250:匿名 hoge:2022/02/14(月) 20:06

走って、渡り廊下を通って中庭へ出る。
外は大雪であった。

251:匿名 hoge:2022/02/18(金) 20:03

私は上履きのまま凍てついた雪の中に踏み入った。
中庭には、すでに大勢の生徒がいて。
未南の周りには、野次馬の人垣ができていた。

252:匿名 hoge:2022/02/18(金) 20:09

「救護の邪魔になるから教室へ帰れ!」
男性教師の怒号が聞こえる。

「教室へ戻りなさい!」
女性教師が叫ぶように言ったのが聞こえた。

253:匿名 hoge:2022/02/19(土) 17:22

「すみません、通してください」
私は、野次馬をかき分けて前に出た。

254:匿名 hoge:2022/02/20(日) 16:48

出てみると、雪の上に、うつ伏せに倒れている少女がいた。

「あっ!」
未南だ! 未南が血を流して倒れていた。

255:匿名 hoge:2022/02/21(月) 19:44

信じられない光景を目の当たりにして身体が震える。

「未南!」
パニックになった私は、未南の名前を大声で叫んでいた。

256:匿名:2022/02/24(木) 18:53

呼び掛けても、未南は、ピクリとも動かない。

どうしてこんなことに?

未南が、そこまで思いつめていたとは、知らなかった。

257:匿名 hoge:2022/03/25(金) 22:41


(3)

258:匿名 hoge:2022/04/17(日) 16:11

意識はないものの、未南の生存を確認。
未南は救急車で病院へ搬送される。

(4)

259:匿名 hoge:2022/05/13(金) 19:44

怒った奈緒が教室でクラスメートと言い争いになるシーン

260:匿名 hoge:2022/07/02(土) 16:23

私は激怒した。

たとえどんな理由があっても絶対に

未南を自殺に追い込んだクラスメイトを許してはいけないと決意した。

261:匿名:2022/07/26(火) 20:08

教室に戻ると、中は騒然となっていた。

教壇に立った私は、1回深呼吸してから話を始めた。


「未南が飛び降り自殺しました」

262:匿名 hoge:2022/09/06(火) 19:37

……その後。
担任の先生が来るまで、クラスメートと言い争いになる。

(5)

263:匿名:2022/10/13(木) 19:47

教室のドアが開き、担任の先生が入ってきた。

「全員、着席してください」

高木先生が教室を見まわし、全員、席に着くように促した。

「みなさん、ご存知だと思いますが……校内で事故が起きてしまいました」

高木先生は、ゆっくりと話し始めた。

264:匿名:2022/10/17(月) 18:54

「転落事故に遭い、救急車で搬送されたのは。
 ……うちのクラスの修倉未南さんです。
 事故の原因は調査中ですが、なんらかの
 理由で校舎から転落したものと思われます。
 みなさんも事故に遭わないように、
 充分に注意して行動してくださいね」

先生は、未南の転落を単なる不慮の事故のように説明した。

265:匿名:2022/11/06(日) 16:04

「あれは単なる転落事故じゃありません」

担任の話を途中で遮(さえぎ)るように、私は口を開く。

266:匿名:2022/11/06(日) 16:14

「ま、まさか? 巧妙なトリックを使い
 事故に見せかけて殺そうとした犯人が
 この学校にいる、というのですか?」

先生、それ本気で言ってるの?
先生は真面目な顔で、とぼけた返事をした。

267::

削除

268:匿名 hoge:2022/12/24(土) 12:16

その後、臨時休校となり全校生徒、帰宅することになった。

269:匿名 hoge:2023/01/03(火) 10:52

(6)

友達の柄谷央弥と帰宅。
未南をいじめじさつに追い込んだ、
椿たちやクラスメイトを批難しながら帰る。

270:匿名 hoge:2023/01/06(金) 09:04

(7)

柄谷央弥と別れた奈緒は、自宅へ向かわず
父の弁護士事務所を訪れた。

271:匿名 hoge:2023/02/12(日) 11:38

奈緒は、未南が校舎から飛び降りた経緯を父に話す。


(8)


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