ありがとう。
2:雨倉ユーキ:2019/05/24(金) 18:08 「はじめまして…」
消えそうな細い声が僕を包んだ。
それなのにその声は記憶に刻まれた。
物凄いスピードで。
物凄い正確に。
「はじめまして」
たった一言返した。
突然転校してきた蒼井舞月梨。
みんななんて読むかわからなかったらしいが、僕はすぐにわかった。
まつり。
珍しい名前だな、なんて言ったらお前が言うな。そう言われてしまった。
それも当然だ。僕の名前は結城釃夢璢。
りむる。
親は何も考えずにつけたらしい。もう一つの名前の候補は露夢璢(ろむる)だったらしい。
舞月梨は椅子に座り先生の話を聞いていた。
その姿をどこかで見たことがある気がした。
「おぉっしゃぁあいくぞぉおおおお!」
熱苦しい声がグラウンドに響く。
声の主は体育委員の大和卯月。
球技系も陸上系も得意な体育会系男子。
授業のサッカーでも熱くなるほど体育大好きな奴だ。
正直うるさいなとおもいながらも彼のボールを目で追いかける。
大和は9組のサッカー部に攻められてきたので近くにいた僕にボールをパスしてきた。
加減しろ、大和。
ボールは僕の顔に当たった。
その場に倒れ込んだ。
熱すぎる、眩しすぎる太陽が最後に見えた。
起きると保健室にいた。
体を起こし辺りを見ると誰かが保健室を出ようとしていた。
「待って」
その誰かは大和だった。
大和は振り向き僕に向かって頭を下げた。
「ごめん。ほんっっっとにごめん。ボール取られないようにって、それしか考えずに蹴った。ごめん。」
「別に…気にしてないし。」
「よかった」
そう言って大和は保健室を出た。
気にしてないわけない。むしろ大和のことを恨んでいる。
ベッドの隣の机に割れた眼鏡が置いてある。
眼鏡まで割りやがって。
めちゃくちゃ痛えんだよ僕は。
それでも嘘を憑いたのは、自分が弱いからだけど。
「痛っ…」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ベッドを降りて隣のベッドのカーテンを開ける。
「やっぱり舞月梨じゃん。」
聞き覚えのある声。
それはか細い、綺麗な、小さな声。
それはもう舞月梨しかいない。
「女子も体育だったね。どうしたの?」
気まずくなる前に聞いてみた。
舞月梨は僕を見て体をビクビクさせる。
「バ…バスケで…村上さんの…ボールが当たって…」
「僕と一緒かww僕もなんだよねw」
笑いながらそう返す。
んーやっぱおかしいなぁ。
舞月梨は今日来たばっかなのに名前よく覚えてるよなぁ。
村上なんているのかいないのかわからないやつなのに。
「ねえ、どうして村上を知ってるの?」
「どうして…って…わ、私も同じクラスの人くらい…覚えて…ますよ」
果たしてそれは本当か?
40人を1時間も経たずに覚えられる?
そして授業中。
聞こうと思ったが流石にやめて「そっか」といった。
あ、やべえ。気まずい沈黙タイム…
こういう時が1番嫌いなんだよなぁ…
何か話題を考えていると舞月梨が話し出した。
「あの…結城くんは…私を…私のことを…覚えていますか…?」