こんにちは。ヴァニラと言います。
長く続くかわかりませんが頑張ります。
アドバイス、感想、ご指摘を頂けると幸いです。
--------プロローグ--------
人々が行き交う交差点、信号が赤から青に変わると
一斉に足を踏み出す。
その中には、スマホに夢中な若者もいれば、
近くの女子高の制服を着た子たちがキャッキャとはしゃいでいる。
車の走る音、信号の音、喋り声––––––––
凡ゆる音が混ざり合い、雑音と化していた。
私はその音を酷く不快に感じていた。
まるで全ての音が、声が、私に訴えかけているように聞こえるからだ
「消えてしまえ」
「いなくなれ」
「邪魔臭い」
そう訴え欠けてくる。
ふと、ポツリと冷たい雫が頬に垂れる。
雨だった。
私は近くのコンビニでビニール傘を買い、傘を開く。
透明なビニール越しに見る空は、綺麗とは言いがたい
薄い灰色だった。
まるで今の世の中みたいに汚い。
頭に浮かんだその言葉はきっと、誰にも理解されないのだろう。
遠くの方で雷がゴロゴロと唸りをあげている。
私は雨足が強くなる前にと、早歩きで駅に向かう。
時折人とすれ違う時に表情を伺って思う 。
「どうしてこんなにも生苦しいのだろう。」
私は今までの事を振り返り、考える。
例えその問いに答えがなくても。
第1章「死にたい理由、生きる意味」
ピピピピッ…ピピピピッ––––––––
目覚まし時計の音で浅井 美玲(あさい みれい)は目を覚ます。
重い瞼をこじ開け、気怠い体で洗面所へと向かう。
静かなアパートの一室に、足音だけが木霊する。
洗面所で顔を洗いキッチンに行くと、母からの置き手紙があった。
何度も使い回されたようなクシャクシャの紙には、丸字で
「今日も帰りが遅くなる」
とだけ書かれている。その上には
いかにも「これで飯を買え」とでも言うように千円札と500円玉が置いてあった。
私はそれを手に取り自室へ戻る。
部屋に入ると勉強机の上にある真っ白い貯金箱の中に千円札だけ入れる。
500円玉は財布の中に入れ、鞄に入れた。
ふと時計を見ると6時を回っていた。
急いで制服を着て髪を梳かす。肩にかからない程度のボブが私のお気に入りだ。
最後に鞄の中をもう一度確認してから靴を履き家を出る。
ガチャリと鍵を閉めると鞄に鍵を入れ部屋から離れていった。
鉄製の錆びた階段を駆け下り、駅への道を駆けて行く。
6時24分発の電車に乗り。そのまま1時間ほど電車に揺られた所に、
私の通う学校はあった。駅から20分ほど歩き、学校に着く。
「1-A」と書かれた下駄箱の1番に靴を入れ、上履きを履く。
既に部活できている人が数名いる事を確認した後私は階段を上がった。
四階まで上がるとすぐ目の前に教室がある。
ガラリと教室の扉を開けると、ポツンと鞄の置かれた机がいくつかあるだけで
それ以外は何もない。
吹奏楽部のチューニングの音が静寂を掻き消し、賑やかに感じさせてくれる。
外からは運動部の声が聞こえてくる。
時刻は8時を回り、そろそろ多くの生徒が登校する時間だった。
ジャージに着替え、1時間目の用意をするとドアが
ガラガラと開く
「お、みれちゃんじゃん!おっはー」
そう明るい声と輝かしい笑顔を見せる彼女は、クラスのムードメーカー
加藤 鈴(かとう すず)だった。私はたまに話す程度という、
タメ語か敬語かを悩む曖昧な距離感だった。時間が過ぎる前に、と笑顔で
「おはよう」
と返した。すると彼女はニカッと無邪気な笑顔を浮かべ
自分の席に着く。その時は既に廊下がガヤガヤと騒がしくなっていた。
次々とクラスメイトたちが揃って行き、8時半になっても空席だったのは
古町 久美子(ふるまち くみこ)と不登校の渡邊 翔(わたなべ しょう)、
柚月 千代(ゆずき ちよ)の席だった。
久美子は人当たりがよくモテているが、先日自分のツイッターのアカウントがバレてからは、来なくなってしまった。
なんでも病み垢で病みアピをしていたらしく。
DMでも
「えwあの久美子がこんな事書いてるとかウケルゥーw」
「うわ…失望しました。好きだったけどもう無理だわ」
などという内容が送られるようになった。きっとこれが原因だろう。
翔は原因不明で、一学期は元気に来ていたが二学期から一切来なくてなった。
噂によれば、交通事故にあったらしく。足のリハビリじゃないかと囁かれている。
千代は生まれつき体が弱く。中3までは辛うじて学校に来れていたが、
高校に上がると、病状が悪化したらしく来れなくなったようだ。
そんな昨日と変わらない教室を見渡していると、教室に担任である
佐々木 樹(ささき いつき)が入ってきた。
「おはようございます。ホームルーム始めるよー」
そう先生が言うと、号令係の鈴が「起立」と言った。
ガタガタと椅子をしまう音がし、それを確認した鈴は
「礼」とさっきよりも大きな声で言った。
「「「お願いします」」」
少し間が空いた後全員がそう言うと、「着席」
と言う声が聞こえてくる。
ガタガタと席に着く音を聞き終え、先生が口を開いた。
「今日は授業参観の日です。皆さんの日頃の様子を見てもらう大切な日ですので気を引き締めてくださいね」
先生がそう言い終えると教室がざわついた。
そのざわつきを振り切るように
「静かに。出席とります。浅井さん」
急に呼ばれて驚きながらも
「はい」と答えた。
「上野さん––––––––」
次々と呼ばれる名前を聞き流しつつ、私は窓の外を眺めた。
澄み切った空には雲ひとつなく、眩しい太陽の光が差し込んでいた。
こう言う空をきっと冬晴れと言うのだろう。
そう考えていると先生が
「えーっと…浅井さんは放課後残って下さい。以上です」
そう言った。その後の言葉はあまり覚えていない。
いつの間にかホームルームは終わっていた。
続きます。
帰りの会が終わり、教室からパラパラと人が出て行く。
その中でただ一人、私は席についていた。
ついには私と先生だけになり、廊下側から吹奏楽部のチューニングの音が聞こえるだけだった。
それを見計らった先生は、私の目の前に来て、
前の席の千代の椅子をこちらに向け座った。
開口一番の一声は
「何か悩んでいる事はある?」
だった。大抵の人はこの手の質問に
「いいえ、特にありません」
と答えるだろう。実際私も今こうして答えた。
それはきっと、一般的な他者に心配を掛けたくないというものでなく、
この人を信頼していないという方が大きいのだろう。
じゃあ、と言い腕に目をやる姿を見て私は悟った。
「腕を見せてもらえる?」
そう言って曇った表情でこちらを見るのは、心配しているからではないのだろう。
教師という仕事だから、生徒という弱い立場を心配する、義務的対応なのだ。
少し考えた後、私は腕まくりをして先生に腕を見せた。
切られたような線が沢山ある。赤く血が固まってかさぶたになっているものもある。
そんな傷だらけの腕を見て先生は少し考えた後に
「これ、どうしたの?」
と聞いてきた。言い訳をするか迷ったが、考えることが面倒になり事実を口に出す。
「切りました、カッターで」
そう言っても表情一つ変えない姿は現実的で心地よかった。
大袈裟な反応でも控えめな反応でもない。丁度いい反応だった。
「どうして切ったの?」
そんなありきたりな質問に対して、私は土間取った。
言いたくないのだ。
少し黙り込むと、先生はいつもの様に優しい笑顔を浮かべる。
「言いたくないかな?」
そう聞かれてコクリと頷く。
「じゃあ…また話したくなったら言って?あと、もしも死にたいと思っても絶対死んじゃダメ。あなたの事を大切に思ってくれてる、家族や友達がいるんだから。今日はもう帰っていいよ。」
そう言うと先生は席を立ち教室を出て行った。
廊下からパタパタと誰かが走る音が聞こえる。きっと先生だろう。
それを聞いて私は鞄を持ち教室を出る。
ふとさっきの先生の言葉が頭に過ぎる。
“死んじゃダメ”そんなの誰が決めるんだ。
そう思いながら4階から1階を駆け下りた。
学校からも、家からも、いっそ自分からも逃げたいなら
人生から逃げたっていいじゃない。
でも現実はそうは行かず、
無責任な『生きろ』と『死ぬな』に押しつぶされて
逃げる事などままならなかった。
それが悔しくて、私はまた一段と自分を嫌いになった。
口箱から靴を取り、手放した時にふと我に帰った。
パタンッ
と、ローファーが音を立て不揃いな方向を向いている。
丁寧にそれを直し履いた。
なんだか居心地が悪く、私は駅までの道のりを駆けて行った。
その後は、いつもと何ら変わらなかった。
家の前までつくと、ポケットから錆びた鈴のついた鍵を鍵穴に挿し回した。
ガチャリと音がした事を確認しもう一度回し、
ドアを開ける。
するとその瞬間、鉛のように重い空気が一気に襲いかかってくる。
まるで入る事を拒んでいるように感じて、
少し深呼吸をした後に家に入り靴を脱ぎ捨てた。
玄関から一番近い自室に入り、
ベットにダイブした。
その瞬間何かストッパーが外れたように、
疲れがドッと溢れてきた。
瞼が落ちようとするのを必死にこらえ、
何とか起き上がりポットでお湯を沸かした。
ふとリビングに近い部屋を覗き込む。
母の部屋だ。
ごちゃごちゃとした汚い部屋で、母の好きなラベンダーの芳香剤の匂いが
立ち込めていた。
そこに母はいない。
確認などしなくてもわかっていた。
年頃の娘を朝から晩まで1人にする、そんな最低な親なのだと。
認めたくはないが、それ以外に何とも言えないのだから。
パチっとポットのお湯が沸いた音がした。
カップにインスタントのカフェオレスティックを入れ湯を注いだ。
湯気と甘くほろ苦いコーヒーの香りが私を癒した。
私はそれを部屋に持って行き、勉強机の上に置いた。
一息つきたくベットに寝っ転がる。
瞼が重く、今にも眠りにつきそうだった。
私は耐えることを放棄し、眠りについた。
もう耐えるのは嫌なのだ。
目がさめると時計は11時20分を指し示していた。
私はやってしまったという罪悪感と背徳感と、空腹に見舞われた。
ふと思い出したようにカップを手に取ると、
もう既に冷めていた。
動く気力も特になく、最後の力を振り絞るように部屋着を手に取り、
服を着替えた。
掛け布団を手に取り横になる。
今日の言葉が頭から離れない。
「どうして切ったの?」
なんて聞かれたって答えたくない。
でも、それ以上に自分でも疑問に思っていた。
何の為にしているのか、意味はあるのかと。
私が初めてそれをしたのは中一の春だった。
最初はただの寂しさからだった。
もっと自分を気にかけてほしい。
もっと自分を見てほしい。
そんな承認欲求のようなものに駆られた、馬鹿な行為だった。
でも、何も変わらず私はもっと傷をつけた。
その頃は深くは切らず少しだけだった。
でも、段々とそれが続くと、
より深く、より多くとなって行った。
そしてそれに伴って意味も変わり、
愛されない自分への自己嫌悪になっていた。
形にできない自己嫌悪が、
自分を痛めつけるという衝動に走らせた。
何だか寂しさと虚しさと、色々な感情が込み上げて涙が出た。
声を押し殺して、
気づいたら泣き疲れて眠っていた。
私の価値がもし、あの青天井のように素晴らしいものだったら。
なんて思うと、また虚しさで傷を作りそうで怖かった。
唐突ですが、別サイトで投稿する事にしました。
今までのものも少し修正しています。
http://otameshipost.gonna.jp/novels_original/novels_original.cgi?mode=view&no=1&id=vanillaessence