「―――どうしよう、迷子になっちゃった」
薄暗く、樹々の生い茂る森の中。
カゴいっぱいの薬草と古びた杖を持ち、赤いローブを纏う少女は、
道であるのかもわからないような草の上で、立ち往生していた。
「ま、魔物とかに出会しちゃったら、いやだな……」
そんな思いを裏切るかのように、目の前の大木が真っ二つになって
少女の目前で倒れた。
「え……ま、まさか……!」
木を切り倒すような魔物は、少女の知る限りでは森の中に一種類しかいない。
「キシャー……お、人間か?まだ幼子じゃないかァ!こりゃ大手柄だな!」
少女の目の前に現れたのは、緑色をした巨漢の生物。ゴブリンであった。
「こ、来ないで!」
ゴブリン相手に、杖を振り回して牽制を図ろうとする少女。
しかし向こうはそれを物ともせず、手に持った木棒を見せながらじりじりと距離を詰めてくる。
「このままじゃ、私……!」
万事休す。少女が半ば諦めかけた、その時だった。
「キシャァ!お前も大ゴブリン様のところへ……痛ッ!な、なんだ!?」
ゴブリンが、突然悲鳴を上げて動きを止めた。
背後から誰かに殴られたらしい。
「あれは……」
ゴブリンが頭を押さえる背後を、ローブの少女は見た。
「……あれ、おかしいなぁ?この剣、切れないんだけど……」
そこには、長い髪を後ろで一つ結びにし、
装備としては軽めな物をつけた別の少女が立っていた。
「な、何なんだオ前!」
ゴブリンが少女に、名前を問う。
そして少女は、高らかに答える。その手に持った剣を振り上げて。
「あたしはステラ!この大陸で、一番の剣士になる女の子!」
……それは、数時間前。
ステラが12歳の誕生日を迎えた朝のことである。
「おかーさんおかーさんおかーさんおかーさん!!」
「あら、ステラ。朝からそんなに慌ててどうしたの?」
ベッドから飛び起きたステラは、台所で朝食を作っている母の元へ駆けて来た。
「あたし、冒険に出たい!夢に出てきた女神様が言ったんだ!そろそろ旅にでも出なさいって!」
「冒険……女神様……ふふっ」
釜戸の火を止めると、母はくすくすと笑いながらステラの頭を撫でた。
「わっ……おかーさん?」
「もうそんな年頃なのね。わかったわ……お父さんお父さんお父さんお父さん!!ステラが冒険に出るそうよ!!」
先ほどのステラと同じように、とてつもないハイテンションで、
まだ起きていない彼女の父親を呼ぶ母。この親子、似ている。
「んー……ステラが冒険に……なんだとなんだとなんだとなんだと!?いつ出るんだ!祝食を上げなければ!
村全体で!これはめでたいぞ……!」
この家族、似ている。
父親も飛び起き、娘の宣言を歓迎していた。ハイテンションで。
「えっと、今から出ようと思ってるの。武器と防具、たしかこの辺に……あった!」
ステラは、タンスにしまわれた木製の鎧や布の服を取り出した。
なぜタンスに防具や武器がしまわれているんだ。
「あれ、でも武器がないなぁ。おかーさん、知らない?これくらいのナイフ……」
「ステラ、それなら……包丁代わりに使ってるわ。ごめんね!」
「えっ!」
なんとこの母親、娘の愛剣であった小型のナイフを、
料理に使っている。
「はっはっは、お前もしょうがないなぁ。ステラ、旅支度を整えるなら隣町に行きなさい。
3000G(ゴールド)やるから。十分な装備が買えるはずだ」
「こんなに!?お父さん、ありがとう!でもおかーさんは許さないからね」
お金を受け取ったステラは、捨て台詞を吐いて自分の部屋へ戻っていった。
「あはは……。あの子、一人旅させて大丈夫かしら?」
「平気さ。剣の腕だったらこの村で敵う奴は居ないんだ。外の世界でもやっていけるさ」
「それじゃ、行ってくる!」
旅支度を終えたステラ。防具をつけて金袋と荷物を持ち、家を出た。
両親の見送りに手を振りながら、元気よく駆け出していく。
彼女が最初に目指すのは、近隣の隣町。素手で戦うのは厳しいので、武器を調達するためだ。
ーーー通り道の林ーーー
隣町へ行くにはこの道を通る必要がある。
小さな頃から何度も両親と通っているので、ステラには慣れた場所だった。
「さて……武器屋さんは初めて行くなぁ。どんな剣が売ってるのかな」
そんなことを考えていると、目の前の茂みがガサガサと揺れ出した。
「ぐるるるる……」
「あ、野犬だ。噛みつかれたら二度と離れないって言うし、逃げたほうがいいかな……でも危ないから倒しておいたほうが……」
ステラの脳内に、選択肢が浮かび上がる。
倒す←
倒さない
「倒そう!」
なぜ選択肢が出た瞬間から答えが決まっているのだステラよ。
「よーし、剣はないけどかかってきなさい!」
「ガウッ!!」
臨戦態勢を取るステラに、野犬が飛びかかる。
「一発パンチをお見舞いすれば……!」
ステラは拳を引き、野犬に向かって突き出した。
しかし野犬はびくともせず、ステラは一旦下がった。
「えー、嘘!何で!?」
ステラ レベル1
ちから 3
まもり 6
はやさ 10
野犬 レベル3
ちから 4
まもり 8
はやさ 9
「そんな!あたしの力ってそんなものだったの!?剣があったら誰にも負けないのに……」
ステラの能力値は、片手武器ありきの物だった。
剣やナイフを持てば、敵う大人たちは居ないが……素手ではモンスターにも敵わなくなる。
「ぐるるる……」
「こうなったら……逃げるが勝ちね!」
ステラは野犬の上を飛び越えると、すぐさま出口目指して駆け出していった。
戦えなければ逃げてもいいのだ。
「はあ……はあ……ちょっと走りすぎたかも」
モンスターとの戦闘を避けたい。その想いが彼女の足を動かす。駆り立てる。
疲れるまで走ったその時、林の出口が見えた。
「出口だー!隣町だー!」
ガサガサと草の根をかき分けていくと、
大きな町がそこにはあった。
隣町と言っても、質素な場所ではない。
村が小さく見えるほど、発展している町。
「わー……相変わらず広い町だよね、ここ」
ーーー栄えた隣町ーーー
「よし、早速武器屋を探そう!」
ステラは人混みを掻き分けるように、
町の散策を始めた。
「武器屋ー!どこだー!」
ステラよ、武器屋は呼んでも答えてはくれないぞ
「武器屋……あ、あった!」
呼んだら都合よく現れる展開。どうにかならないものか。
しばらく歩いたステラの目前に、剣の看板の建物が見えた。
武器屋とはっきり書かれている。
「よーし、強そうな武器買っちゃうぞー!」
戸を押し、ステラは武器屋へ入っていった。
それから、数分後……。
「な、なんだあの子……」
「あれ、お店の飾りよね……」
店から、小柄な鎧騎士が出てきた。
しかしなぜ周りの人々は、それが子供であると分かったのか。
……表しか鎧のない、スカスカのハリボテ。
鉄製の兜らしきものも例外ではなく、裏側からは黒い一つ結びが垂れていた。
そう、ステラである。
店内では、こんな出来事が起きていた。
「おじさん!これください!」
「あいよ……は?」
武器屋の店主は、客として現れたステラの申し出に非常に困惑した。
なぜなら、ステラが指差した武器防具が、
……よく武器屋に飾ってある鎧そのものだったからだ。
店主は思った。
ーーー何故?何でこの子は鎧ごと欲しがってるんだ?
普段なら金を取るところだがこんな若い子相手に商売したことあんまりないしな……
色々な考えが厳つい店主の頭を巡る。
迷うのには、もう一つの理由があった。
それは……
ーーーこの鎧騎士、実はハリボテ同然の置物なんだよな……
武器屋よ、そこは何故本物ではない
「ねえっ、この鎧とっても軽いね!」
「って着てるし!」
あろうことかステラ、そのハリボテの鎧を身に纏っていた。
「お嬢ちゃん……それはその、タダだ。着るなり好きにしてくれ」
「いいの?じゃあ鎧が持ってる剣も!」
ステラはさらに、同じくハリボテな剣を持っていた。
ハリボテなので切れない。
「あ、ああ……いいよ。持っていきな」
「うれしい!鎧一式でタダなのね!ありがとう!」
ルンルンとした気持ちで、ステラは店を後にした。
店主は、とても複雑な気持ちでそれを見送るのだった。
「よろいーよろいー軽いよろいー」
呑気に歌を歌いながら、ハリボテの鎧を着込んだステラが街中を歩いていた。
それを見つめる人々の目は、それなりに暖かかいようだ。
「あの子、冒険者かしら?」
「微笑ましいわ……!」
「でもあれ絶対ハリボテ……」
いろんな声がステラの耳に入ってくるが、反対側から全て流れ出ていた。
「冒険するんだったら、もっと先へ進んでもいいよね……。何が待ってるんだろう?
この町の外には行ったことないから、楽しみだなー!」
必要な装備……全てハリボテだが一式着込んだステラは、街を出て先へ進むことにした。
その直前、とある家の前ですすり泣く女性を見かける。
「ううっ……娘が戻ってこないわ……」
「どうかしたんですか?」
ステラに話しかけられた女性は、涙を拭いてから答えた。
「騎士様……騎士様?それはともかく、森に薬草取りに出かけた娘が戻ってこないの……」
ステラ、すすり泣く女性にも困惑されている。
「ううっ……でも子供に探しに行かせたら一緒に迷子になってしまうわ……」
女性はまた涙を増やしながら、すすり泣くのをやめなかった。
それを見たステラは決心する。
「女の子を探してくればいいんだね?じゃあ、見つけて一緒に帰ってくるよ!絶対!」
「でも……」
「あたし、剣を持ったら誰にも負けない自信があるから!」
ハリボテの剣片手に、ステラは町の外にある森へと駆け出していく。
彼女の自信の源を探るには、少しばかり前へ戻らなくてはならない。
遡らなければいけないが、この時点でも回想シーンなのに
さらに回想を加えてしまうと……なので、森へと入っていったステラへ話を戻そう。
「どこー!女の子ー!……名前聞き忘れてたよー!」
最後のそれまで叫ぶ必要があるか
森に入ったステラは、名前も知らない少女を探していた。
中は薄暗く、ロクに整備もされていないので芝生の上を歩いて進むしかない。
「うーん、こんな森があったなんて……世界は広いわ」
安心しろ、もっと広い。
しかし旅に出たばかりのステラは、
この世界がどれだけ広いかもよく知らない。だからハリボテの鎧一式を買っちゃうほどの天然バカなのである。
「ーーーこ、こないで!」
「えっ?……今の声って……あっちか!」
ステラは、女の子らしき悲鳴を聞いた。
わりとすぐ近くなのだろうか、ステラの走りは確信を持った真剣なものだった。
……それ故だが、
「多分、もうすぐ会えるんだけど……!」
走りを続けるステラ。彼女の体の動きに鎧が耐えきれず、
どんどんばらけて脱げていく。
そしてついに、元の軽い防具の服装になった。
「……っ!?」
木々を掻き分け、鎧を全て取っ払い広い、場所へ抜けたステラは、
緑色の巨体とそれに対峙する少女を見つけた。
緑色の巨体……ゴブリンは、今にもローブを着た少女に襲い掛かろうとしている。
あと3歩、2歩……
「キシャァ!お前も大ゴブリン様のところへ……痛ッ!な、なんだ!?」
殴りかかろうとしたゴブリンは、その場で頭を押さえて動きを止めた。
「……あれ、おかしいなぁ?この剣、切れないんだけど……」
ゴブリンの頭部に、見事一撃を命中させたステラ。
しかし血飛沫など一切出ておらず、鈍い音が響いただけであった。
ハリボテなのだから殴れただけよかろうて。
「あたしはステラ!この大陸で、一番の剣士になる女の子!」
ステラはそのハリボテ剣を高らかに振り上げ、少女の盾になるように割って入る。
「大丈夫?怪我はしてない?」
「う、うん。……あ、来るよ!」
少女の声に反応し、ステラは振り返った。
「うおおおおおオオオ!」
襲う邪魔をされたゴブリンは怒り、その根源であるステラを優先的に倒そうとしている。
そして、大胆に木棒を振りかざしながら、ステラに迫ってきた。
「切れないけど、剣は剣だーッ!!」
直後、ごつん!と言う激突音。(バコーンとも聞こえるが)
ステラの構えたハリボテ剣が、ゴブリンの木棒とぶつかり合ったのだ。
「ググ……何故子供にそんな力が……!」
高い筋力からくる攻撃を0で止められたことに、ゴブリンは焦りを隠せない。
ステラ レベル1
ちから 20
まもり 6
はやさ 10
ゴブリン レベル5
ちから 11
まもり 7
はやさ 6
「お、お前……なんでそんなに力が強いんだよ!?
俺これでもゴブリンなんだけど、子供に防がれるなんて……」
「言いたいことはそれだけかー」
「………は?」
ゴブリンが投げかけた質問は、とても冷たい目であしらわれてしまった。
「次……、こっちからいくよ!」
「はあっ!」
ステラが一歩踏み出し、ゴブリンの腕を剣で薙ぎ払う。
「く、ら、えー!!」
「う……うおおおお!?」
怯み、剥き出しになった相手の胴体。
ステラはそれを見逃さず、力強い剣の一撃を叩き込んだ。ただしハリボテだが。
ばきゃっ!と、とてつもない音が響く。
「え、折れた……!」
それは、ステラの剣が折れた音。武器がなくなり、まずいと思った彼女だが、
それと同時に−−−
「が、あ……」
ゴブリンが、泡を吹いて倒れた。力尽きたようだ。
「す、すごい!ありがとう、助けてくれて!」
折れた剣を眺めるステラに、ローブの少女が駆け寄る。
「うん、無事でよかった。だけど、せっかくの剣が無くなっちゃった」
あちゃーと言う顔をするステラ。
気楽な顔をしていたが、次の瞬間それは焦りに変わる。
「ぐる……」
「ぎゃおお……」
四方から聞こえてくる、不気味な鳴き声。
森に潜んだ、野犬のものだ。
「あ……囲まれちゃった?」
「ええっ!どうしよう……」
ステラとローブの少女は、お互い困った顔をしながら窮地に陥るのだった。
「剣士さん!もう一回助けて……」
ローブの少女の、切実な願い。
それを聞き届けたいステラだったが、今の状況ではそれは難しい。
素手では歯が立たない野犬が、四方八方から襲い掛かろうとしている。
逃走……も、少女を引き連れてでは無理だろう。
「剣が折れちゃったしなぁ……」
ステラの腕力は、剣があってこそのもの。
その特異な力に異名をつけるなら、「剣に愛された少女」
彼女は剣を愛し、剣に愛された。
剣がステラの想いに応え、彼女を強くしていく。
ゴブリンに勝てたのも、そのおかげであった。
……しかし今は、剣がない。
「わおぉぉぉん!」
一匹が、茂みから飛び出した。
「っ! 危ないっ!」
ステラはローブの少女を庇い、野犬に噛みつかれる。
ごりっと、鈍い音が響いた。
「うああああっ!」
ステラの右腕を、野犬は食いついて離さない。
牙がどんどん、腕に食い込んでいく。
「あ……逃げ……て……」
「そんな、でもあなたが……!」
ローブの少女は、立ち尽くすばかりで動けない。
そんな少女を、ステラは必死に逃がそうとした。
悲鳴を上げて、血を流せば、他の野犬は自分の方によってくるとステラは考えた。
チャンスは今しかない。少女を逃すには今しかないのだ。
「も……う……っ!」
少女は、何かを決意したか一声上げると、
持っていた杖を地面に突き立てた。
「この子は、私を助けてくれた。だから今度は、私が助ける番なんだ!」
大きく息を吸うと、少女は叫んだ。
この状況を打破できる、力を。
「咲け、炎よ! −−−炎蓮華(えんれんげ)!!」
ふたばさん、こんにちは。猫又と申します。
剣士ステラと七つの宝玉、読ませていただきました。
読んでみた一番の感想としては、かなり綱渡りな作品だなーと感じました。
今のところ誰か分からない人物がセリフ以外の部分でツッコミを入れているという、人格込みの神視点(三人称)で書かれているわけですが、キャラクター以外の人物が好き勝手喋っているわけで、これは下手をすると物語全体の雰囲気を壊しかねない危ない手のひとつです。
しかし、ストーリー構成が非常に上手い。
加えて全体的にギャグテイストな少女冒険譚のためこの描写に違和感が無い。
全体を通して、かなり奇抜な描写ではありますが素晴らしい作品だと感じました。
もっと安定して書ける手法は色々あるのですが、この書き方はふたばさんしか出来ないものと思いますので、余計な指摘は避けます。
あえて言うのであれば、もしセリフ以外の描写に困ったら、天の声を何かしらストーリーに絡ませて、天の声も登場キャラクターの一部にしてしまう、擬似3人称方式で書いてみるのも手かなと思いました。
何はともあれ、素敵な作品をありがとうございました。続き、楽しみに待ってます。
それでは〜。
火花。……いや、炎の花が森林に咲き誇った。
あたり一帯に広がった炎は、地面を燃やさない。
しかし的確に、奥に潜んだ野犬たちを攻撃している。
「わおおおお!」
「きゃうううう!」
重なる、野犬の悲鳴。
この状況では、どちらが敵か。
「その人から、離れろ……!」
少女は、ステラに噛み付いていた野犬にも炎を飛ばした。
「ひぎゃんっ!」
腹部に熱傷を負った野犬は、ステラを離すと森の奥深くへ消えていった。
他の野犬と共に……。
「ねえ、剣士さん!しっかりして!」
「う……あんま、大丈夫じゃないかも……」
炎が止み、一つの戦闘が終わった。
しばらくは魔物も、こちらに近づくことはない。
だから少女は、ステラの介抱に当たっていた。
「ひどい怪我……」
ステラの右腕は、食いちぎると言うよりは噛み潰すように傷をつけられていた。
肉や骨が潰れているかもしれない。
「どうしよう、持ってる薬草じゃ治せない!助けてもらったのに!」
少女は悔やんだ。野犬は追い払ったが、ステラの怪我を治せない自分の無力さを。
薬草では、出血を止めるほどしか効果がなく、
骨までの修復は難しかった。
「あー……いい人生だった……」
ステラは疲れたように、ゆっくり目を閉じる。
主人公がそれでいいのか。いや、本当に起きない。
これでは物語が完結しないぞ。
何よりその台詞は、年寄り臭かった。
「−−−大丈夫か!ん、その子は!?」
「お、お父さんっ!助けて、この女の子死んじゃう!」
その時、騒ぎを聞きつけた少女の父親が駆けつけた。
いや、描写的に間に合っていない気がするが……
−−−ステラ、起きなさい?ステラ……
「う、ん……あれ、女神様?」
−−−そうです。女神です。
よく頑張りましたね。貴女のおかげで、魔法使いの少女は救われました。
「でも……あたし大怪我しちゃって……もしかして、死んじゃってない!?」
−−−ええ、今は生と死の狭間を彷徨っている最中なのですが……
そこを私が無理やりここに呼びました。
ステラ、よく聞きなさい。森の奥深くに、小さな遺跡があります。
そこで……宝玉を得るのです。
「宝玉……うん、わかった!やってみる!」
−−−それでこそ、私が選んだ……
さあ、目を覚ます時間ですよ。
「……はっ!?」
飛び起きたステラは、まず辺りを見回した。
レースカーテンのついた窓。装飾の施された豪華な部屋。
自分の寝ているベッドは、とてもフカフカとしている。
……まあまず、自分は生きているということを、彼女は実感していた。
「どれくらい眠ってたんだろ……」
腕の痛みは消えていて、ぶん回しても少しも痛くはない。
治るまでに何日かかった?何時間寝ていた?頭の中はそれでいっぱいだった。
ぶんぶん、ぶんぶん……
「いたっ!」
「いたっ!」
調子に乗って振り回していると、何かにぶつかったようだ。
か弱く甘い声が二つ、部屋に響いた。
片方の声の主は、ステラが助けた少女だった。
どうやら、枕元にいたらしい。
「あっ、大丈夫!?」
「うん……って、もういいの?怪我は……」
ステラが元気そうな様子を見て、少女は少し慌てているようだ。
「もう治ったよ!看病してくれてたの?ありがとう!」
慌てる少女に、ステラは笑顔で礼の言葉を述べる。
同時に、お辞儀も欠かさない。
「よかったぁ……怪我が大きくて、このまま死んじゃうんじゃないかってみんな騒いでて。
でもね、私は信じてたよ。絶対に起きるって。だから、よかった……!」
−−−少女の案内で、ステラは大部屋へ足を運んだ。