葉っぱ天国 > 小説キーワード▼下へ
1:蘭面◆66:2020/02/24(月) 14:07

青空を遮る高架橋。その下で僕は、電車に負けじと全力で走っていた。肩にかけたカバンを揺らしながら、そして制服のズボンからはワイシャツが大きくはみ出ていることにも気にせず、時に、散乱されたゴミ袋の山々を蹴散らしながら、僕は一直線に進む。しかし、僕はこれが僕自身の運命を大きく変える行動だとは疑いもしなかった。それの始まりを表したのが、次に足を踏み出した時に、こめかみに加えられる鋭い衝撃と共に目の前が真っ暗になったことだ。


ーーあれから、どれだけの時間が経過したか分からない。僕は重い瞼を開け、薄っすらとした空間の中で、すぐにその異常な光景に出会った。

「 えっ 」

痩せ細った男が背を向けている。どうやら作業をしているらしい。そして、しゃがんで何をしているのかと思えば、その男が振り上げた刃物らしきものを見て分かった。これは殺人だ。よく見れば、その男の周りには赤い液体、血が飛び散ったような跡がある。これは疑いようのない事実。僕は、一刻も早く身体を起こさなくちゃいけないことを悟った。

「 ん?起きたのかぁ? 」

男は刃物を握る手をピタリと止めた。そうして、切れ長の横目でこちらを見ながら、声をかけてきたのだ。僕は、上体を起こし、吐き気と目眩に襲われた。逃げなければ、絶対に殺されてしまう、そんなことは、今日告白に失敗したマヌケな高校生の僕ですら分かる!

「 待てよぉ。そんなに警戒してどうするんだぁ 」

僕は立ち上がっては、身体を翻して男の方から逃げてゆく。ここはどこなんだ?僕は一体どうして…!そんな疑問には答えも出るはずなく、僕は恐怖に突き動かされたまま、薄っすらとした空間の中を駆け抜ける。「 ハァハァ 」と息を切らしながら走り続けた末、ようやく扉らしきものを発見した。

「 誰か助けてぇっ! 」

僕は叫んだ。しかし次の瞬間には、ザンっという鋭利な音ともに、足がつるような激しい感覚に見舞われ、とっさに地面に倒れ込む。

「 いててっ… 」

自然と、痛みの爆心地へと手が向かった。すると、そこから(ふくらはぎ)は無温度の液体が出ていて、本来あってはならない異物感があった。僕は泣いた。足に何か貫かれている。

「 あぁぁぁ…!ひっ…ぁ、た、助けて…誰か…っ!助けて!! 」

助けてと言っても誰もこない。本来これが、ドラマなら今頃ヒーローが到着している頃なのに。僕は仕方なしに、肘を付きながら下半身を引きずる形で扉へと向かうも、その動きは即座に止まる。恐る恐る、最大限首を回して後ろを見ると、さっきの男が、僕の背に足を乗せている。そして、バコンッと何かが振り下ろされた。肩が砕けるような激痛。

「 いたぁぁぁぁあ…!ぁぁ…ぉ、ぁっ、やめて…ください…お願いっ、ぉ願いし…ます… 」

「 いやぁ。ダメだね 」

「 どぅ…して…ぇ、」

「 ダメだからさ!」

「 そ、んな… 」

男は、冷酷なる宣告をしたのち、槌のような重々しい何かを、薪割りでもするかのように、僕の肩に振り下ろした。バコンバコンと何度も何度も。そのうち僕は、自分の両腕の感覚が消えてゆくのを着実に実感していった。おそらく、大量の血も流れている。だから、痛みすらも無感覚になってきた。あぁ、僕は、ここで死ぬんだ。今日はなんて最悪の日なんだ。凛花ちゃんにはフられるし、室山羊くんにはイジメられるし、僕は殺されるし。まぁもういいや。僕はどうせ死ぬんだからね。


書き込む スレ一覧 サイトマップ ▲上へ