小説の練習です
2:雨辻草:2020/10/13(火) 18:05 序章@
生まれた頃から、世界は暗闇に包まれていた。
空を見上げると、常に黒々とした曇天の空が広がっている。太陽光を受け入れる特定の領域から少し離れると、文字通り、真っ暗闇の空間が、陽の光を拒絶して永遠に続いている。そこは到底、人が生存できるところではない。
世界は、もうじき暗闇に飲み込まれてしまうのだろうか。この街も、人々の思いも、希望も未来も何もかもが暗闇に取り込まれ、全てが失われてしまうんじゃないか。そんな人々の不安と恐怖は、暗闇の膨張と共に日に日に増すばかりだった。
「 …おい」
男から声がかけられる。
「 …おいっ!何ぼっーとしてんだ!!」
その声が明瞭になった時、ようやく自分が今何をすべきかを自覚した。意識が少しずつ戻ってくる。横には仲間である茶髪の男が、オレの肩に手を回して支えている。
そして、オレたち目の前は自身の体から炎を放つ魔物が立ち塞がっていた。
その魔物は、2メートルを優に超える巨大な肉体に、カジキマグロのようなとんがったツノを持ち合わせ、爬虫類のような鋭い視線をこちらに向けていた。
「 …わりぃ…数秒間、気を失っ」
オレの声をかき消すように爆発音が鳴った。
瞬間、オレに声をかけてくれた茶髪の男の身体が、炎と共に細切れの肉片となってあたり一面に炸裂した。耳鳴りがきーんと響き、目の前へと振り返った時には、すでに何もかもが手遅れだった。
「 痛っ…っ、てェェァァェェッ!!」
腹部から込み上げる激痛の対処法は叫びを上げることのみだ。オレの腹部には、炎の魔物の岩石の如き拳が、骨肉構わずにメリメリとめり込みつつあった。
「六合クンッ、イタイイタイしようなぁッ!!ギャハハハハハハハハハハッ!!!」
楽しそうに笑い出す魔物に対して、オレはなす術なく、ズドンっと拳の打ち込まれた方向の直線上に凄まじいスピードでぶっ飛んでいく。
「 あ…ッガァァ………」
バコンッ!!と音を立てて、背中から壁に打ち付けられる。
あたり一面の炎の熱気のせいで、意識がかろうじて残存する。体内の臓物が圧迫された重い鈍痛が生命の危機を探知する。今すぐ逃げなくちゃ確実に殺される、そう反応しているのだ。
しかし、自分の身体は、壁にめり込んで動けなかった。それだけではなく、僅かでも動こうとするものなら、腹部からドロリとした何かが溢れ出てきそうな予感がした。
恐る恐る、視線を下に向けるとオレの下半身は、既になかった。
「 …あ…っあ、あ……う、嘘だ…そんなわけない…」
A
その瞬間に意識がゆるみ、断面から垂れていた臓物が地面にこぼれた。到底、正直ではいられない。頭ん中がぐちゃぐちゃになる。
人間の脆さ、悪魔の強さ、世の不条理。
正義という理想論。悪魔という現実。
急激な嘔吐感覚にオレはありったけ血を吐いた。
今になって記憶が明らかになる。現在、炎に包まれているここは製鉄工場で、オレたちは、悪魔狩りだ。そして、30分ほど前に、緊急で上級悪魔を狩りに仲間と共にここにきた。
さっき炎で細切れにされた茶髪の男が、隆盛。あのぶっ壊れたベルトコンベア上で、槍を腹を貫かれながら死んでる女がアリシア。天井付近で鎖で首吊りにされている男が式隊長だ。そして、今こうしてバカでかいドラム缶の壁面にめり込んで、下半身を失った間抜け野郎がオレ、桐島燎人(きりしまやくと)。
下級の悪魔狩りである俺たちは、愚かにも高位の悪魔に挑んだ結果、惨状に終わるのだ。
「 テメェをクッテ、オレサマはサラ二進化スル。イマ、空蝉ノ王が、コレカラ六合を食うオレサマを見テイルッ」
「 クッソぉぉぉお…ッッ」
オレはここで死ぬんだ。隆盛、アリシア、式隊長。それだけじゃなくて、今までに死んでいった仲間たちの無念を晴らすこともできずに、あっけなく殺されるんだ。逃げようとした自分が許せない。そして悪魔、お前らが許せない。
「 ギャハハハハハハっ、六合、テメェはヨエェ。ダカラ、ソウヤッテ叫ブ。無様無様無様ァァァッ!!!」
悪魔の口が開かれる。その口は、縦に開かれるのではなく、横に開かれる。ザクロのようなグロテスクな口はトゲトゲしく、オレを喰らうのに微塵も苦労しないだろう。
B
「…イタダキマァァー……」
俺は食われたーーそのはずだった。
その出来事はほんの僅かな瞬間に起きたことである。悪魔の開かれた口が俺の体を、カラスのようについばむほんの手前に迫ったその時、突如、真横からまばゆい糸筋の光が閃光したのだった。
スパリ。そして悪魔の頭が滑らかに落下し、首の断面を見せた。
「 …あ?」
あまりにも予想外な出来事に理解が追いつかず、光が放たれた方を見ると、銀の剣を構えた男がいた。その男は、黒い制服を着て、何やら同じ悪魔狩りのように見えた。長身で、表情一つ変えず、片目の瞳には歯車の模様が浮かんだ奇妙な様相だった。そして、静まった空間の中で、その男はこちらに視線をやった。
「 ……お前、人間か?」
「…えっ?」
仲間が殺された。そして自分の番になると、あんなに強かった高位の悪魔はあっけなく、ほんの一太刀で討伐された。感情の起伏に、加え肉体の苦痛で、頭の中がただでさえ混乱しているのに、その男の発言は、俺の脳内をさらにかき乱した。
「 ……どういうこと…ですか?」
「 だから、お前は人間なのかと聞いている。そんなに惨状にあってなぜ生きている?そんなに負傷していてなぜ普通に話せる?あまりにもおかしいと思うのだが」
そうだ、そうだよ、あまりにもおかしい。オレは下半身を失って、臓器は地面にぶちまけている。なのになぜ痛みが消えていく?なぜ息をしている?
「 お前は悪魔だな?」
「…い、いえ…オレは人間……のはずです」
男は、歯車の浮かんだ片目を含め、左右の瞳でこちらを睨んだ。そして、炎を淡く反射する銀剣を握り手に僅かに力みが入るのが分かった。
「嘘だ。悪魔という生き物は嘘つきだ。人間を欺くものだ。況してや、自分が殺されそうな死際においては尚のこと、嘘をつくだろう」
「……そう…ですか」
オレはめり込んだ身体を精一杯、前のめりにして、相手に斬首を促すようにうなじを見せた。
「 …オレの仲間はみんな死んだ。悪魔に殺された。オレは守られるばかりで守れなかった。何もできなかった。オレは無力で、無価値で、無意味で、何の成果も挙げられなかった…。……オレの人生なんて仲間に迷惑をかけるばかりで、百害あって一利無しだったんだ。…どうか…どうか、お願いします。オレを殺してください。……ただし、オレを人間として殺していただけませんか?」
炎に照らされた地面。そこに映る男の影から、うんともすんとも反応することなく、静かに刃を振り上げたのを確認した。オレは下を向いて、うなじを相手に見せていたため、彼の表情は分からなかったが、無表情のまま軽蔑しているに違いない。
オレは目を閉じた。
「ごめんなぁ、母さん……。オレぇ、何もできなかったよ。仲間を無駄に殺してばっかで…こりゃあ地獄行きだなァ…」
片目が歯車の男は、振り上げた剣で斜めから斬る。静寂の中で、バキバキという歪な音が聞こえた。気づけば、オレの中途半端な身体は地面に倒れていた。男は、オレの首を斬ったのではなく、巨大なドラム缶を斬ったのだ。
「…あれ、どうしてオレ……」
「 お前が人間か否かは、俺が判断できる立場にはない。それにもしかするとお前は、学問的に価値のある存在なのかもしれないからな。サンプルとして持って帰るのも悪くない」
男は剣を腰に戻しながら、オレの反応を待つことなく言葉を続けた。
「 お前を協会に運ぶ。話はそれからだ」
こうして、仲間との別れと彼との新たな邂逅が、
終わりの始まりであることをオレは知る由もなかった。
イトモ豪華ナル前触レ@
オレと隆盛(りゅうせい)は、埼玉の最貧困地区に生まれた。ゴミ溜めで見つけたガラクタで作った秘密基地のような、カマクラサイズの建物がオレたちの家だ。オレたちには親がいない。
「 ヤクトー?」
頬から僅かな痛みがした。
「 おいっ、ヤクトってばぁ!!ぼーっとすんなよ」
その痛みは明確になり、オレの意識もまた明瞭になった。どうやら隣の男の子から頬を軽くつねられていたようだった。その男の子は、茶髪でオレよりも少し身長が高い。彼は13で、オレは12だ。
「わるい、リュウセイ。ちょっと考え方をしてて…あはは」
「なんだよヤクト、大人の真似事かー?」
「ちがう!あんな奴らと一緒にするな!」
オレたちは、この崩壊しきった街の中で毎日を過ごしている。ゴミ溜で拾った本によると、かつて、この街のみならず全国の地面には「道路」なるものが舗装されていたらしいが、今ではほとんどが砂利や草原になっている。あとは、三つの円状のものが取り付けられた長々しい棒は、「信号」というやつらしい。機能していた時は、赤黄青の色で何かを合図していたそうだ。
「 なー、ヤクトー?」
「んーなんだよ、リュウセー」
「もし、この街を出て、東京に住めるんだったら、お前はどうする?」
隆盛はどこか遠くを見つめていた。少し笑みを浮かべながら。
「えー、オレは一生ここでいいよ」
隆盛はこちらを振り向き、大きく眉を潜めた。
「ええぇ!なんでだよっ」
「…うーん、だって東京って怖そうじゃん?キゾクっていう人たちもいるらしいし。オレ、リュウセーとリア(隆盛の妹)と3人で暮らせるんだったらこのままでいい〜」
オレの返答に隆盛は頭を掻いた。
「あのなぁ、ヤクト。東京に行けば美味いもん食えるし、清潔な服も着れる。それに、綺麗な女ってやつもいっぱいいるらしいぞ」
「え、ほんと?」
「ほんとほんと」
「でも、東京ってそう簡単に入れないらしいけどなぁ〜」
少し得意げに隆盛は、あるボロボロの紙を見せてきた。
「ヤクト、お前これ知ってるか?オレたち3人、東京に住めるぞ!」
「おおっ〜。ねーなんて読むのこれ?」
「これはなー、ヤクト。異能って読むんだよ」
イトモ豪華ナル前触レA
「 …いのお? 」
「 違う違う。い・の・う 」
「 いのう 」
そうそうと言いながら隆盛は笑った
「 意味わかんないけど 」
「 ヤクト、おまえ変な力持ってんじゃん。オレは熱を少しだけ加えることができるし、リアもオレと同じようなの使えるじゃん?それのこと 」
隆盛は得意げにそういった。
「 ふーん、でもオレのはなぁ… 」
「 オマエのやつの方がすげぇのに。もっと自信持てよなぁ、ヤクト。オレたちがやばくなったら、オマエのその力で守ってくれよなー?」
「 …うー、まあ努力はするけどさ 」
不元気ナル少年ノ話。
ーー下崎千夏(シモザキ チナツ)
16歳。教室の中で、ボクがずっと観測している運命の存在。身長は166センチで女子にしては、やや高めだ。体は上から下までほどよい肉付きで、どこがとは言わないが、ある部位は発展途上段階にあると言える。
体重は最後に観測したものだと53.1キロ。艶のある黒髪は肩にかかるほど。
丸々とした顔。ふっくらとした頬。丸びを帯びた各パーツ。大きな目に、上向いた長々しいまつげ。結論、容姿は高スペックというわけだ。おそらく、キミも彼女を一目見たらその晩は困らないだろう。性格については……おっと、彼女についてはどこまでも語ることができるが、今は、ちょうど緊急事態のため、この語らいは別の機会にしておこう。
「 ……クソ野郎が 」
今ボクから、ボソッとこぼれた言葉は、この席から数メートル前方にいる『クソ男』に向けたものだ。あのクソ男ーーボクの大事な大事な運命の人に、自分が何者かも知らずに図々しく話しかけている下心丸出しのクソ男。
日下部蒼(くさかべあお)という名前だが、ボクにとってアイツの名は覚えるに値しない。
ともあれ、その男の眼前にいるのは、数人の女グループ。そして、その女子たちの中で、最もかわいらしい風貌の女の子がさっきキミに語ったボクの運命の人、下崎千夏(シモザキチナツ)だ。
「 チナツちゃん、今日予定ある? よかったらさ、俺と遊び行かね?もちろん他んやつもくるよ 」
しねしねしね。ボクの運命の人にちゃん付けしやがった。ボクの運命の人を誘惑しやがった。お前は悪魔だ。しね。
「 んーーー… 」
迷っている彼女に手招きする隣の女友達。
「 チナツー耳貸して」
何やら千夏の隣にいた女友達が彼女の耳元で何かをささやいた。おそらく「 断った方がいいよ」の助言だろう。そうだ、断るべきだ。
しかし、千夏は腕組みをしながら口元をへの字に曲げて迷っている様子だ。今日も、彼女は相変わらず、自分の内面が表情や動作にすぐに現れていることに気づいていない。そこがとてもかわいいんだが、相手の誘いに迷っているのは少し残念だ。
「 んんんーーー… 」
断れ断れ断れ断れ。迷う必要なんかない。即座に断るんだ。さっきから、クソ男が、キミの校則規定よりも短いスカートから見える太ももをチラ見しているぞ。
「 オレ、何でもおごるよ?こないだツテで日雇いバイトで3万稼いじゃったからさ 」
チナツちゃん、ボクは信じてるぞ
「 うんいいよっ、それなら行きた」
「 なんでよお!!!! 」
思わず席を立ってしまった。そして心の声を無意識に口にしてしまった。しかも大声で。
ボクはきっと病んでいるんだ。元気がないんだ。
当然、教室が静まり、視線がこちらに集中する。ーーそうして
「うわ、きも… 」
とある女子生徒の声。
「 あれーキモガミがなんか叫んだぞ 」
とあるヨウキャ男子の声。
「 そいえば今日、白神くん来てたんだー。あんなことがあったのによくこれたよね 」
とある運動部女子の声。
「しっ!やめなよ優」
その隣のとある女子の声。
そういった囁きに近いボリュームで、ボクに関する嘲笑的な会話が、あちこちで始まる。
慣れているから問題ない。
それより、チナツちゃんがボクを見ている。
嬉しいなあ。ボクの不元気はキミに解消される日は近いかもしれない。だが、キミはクソどもを呼び寄せる体質のようだ。
ーーボクがそのクソどもから守ってあげなくちゃね。
「 ビックリしたけど、チナツちゃん行こっか」
あの男がチナツちゃんの肩に触れることで、チナツちゃんの視線はボクから外れた。
アイツが秩序を脅かしているのだ。
「 え、あーうん 」
二人は教室の外へと歩き出した。ボクはその二人を教室の外に出るまで見届けることにした。
「 てかさ、あいつやばくね 」
「 うん…… 」
2人は出て行った。
クソ男、日下部青。せいぜい束の間の幸福を享受するがいい。ボクはキミを破滅させる。
続き待ってます。がんばって下さい!
9:雨辻草 hoge:2020/12/21(月) 19:39 無価値な少年
「 ボクは無価値です。死んだ方がいいんです 」
17か、18ぐらいの青年は言う。
その青年に対面する形でいくらかの空間を境に、「ペン」と呼ばれる精神科医は、疑問を投げかけた。
「 どうしてかな。どうして君は、君自身が死んでしまった方がいいと思うのかな 」
「 ボクは空っぽで、苦しいからです 」
精神科医はタブレットに文字を打ち込んでいく。
「 じゃあその理屈で言えば、キミが空っぽじゃなくなれば、死ぬ必要はないってことかな?」
「 そういうことになりますね 」
青年の特徴ーー無表情、落ち着いた声、最小限の振る舞い、そのどれもが、省エネで、「言葉を伝えさえすれば良い」という青年の冷めた考えが伝わってくる。青年にとって相手にどう思われるかは、もはや諦めの領域で、自分には何もない空っぽだから、相手の自分への印象を操作できる能力すらない、そういう思いなのだろうと精神科医は、自らの分析をタブレットに打ち込んでいく。
「 分かった。キミの思いは分かったよ。じゃあ別の角度から質問してみよう。キミのその空っぽは、どうすれば埋められるのかな?」
「 ……んー 」
「 ゆっくりで構わない。思いつきでも 」
「 役割… 」
「 うん?」
「 みんなからすごいって言われるような役割が自分にもあれば、空っぽがなくなるんじゃないのかなと思います 」
精神科医はタブレットにテーブルの上に置いた。
「 例えばヒーローみたいな?」
「 …はい、恥ずかしいですけど、ヒーローみたいになりたかったです 」
エゴ • ヒーロー
ある少女は叫んだ。
「 私、めっちゃ頑張ってんのに、橋本環奈の方が可愛いんだよ!!??意味わかんない!!
ぴ曰く、『 ぶふふ。橋本環奈は性格も完璧だから、そこはお前の努力不足。ぶふふ、お前の顔が橋本環奈でもオレはやだなww 』って 」
カチ、とカッターからナイフが、一段分突き出る。
「 は?何言ってんの?そりゃあ、橋本環奈ぐらい可愛くて愛されて、可愛い可愛いって周囲の人たちから言われたら、私だってこんなひねくれないし、性格だってはなまる100点なんだけど!?だからさ……分かった口聞いてんじゃねえ!!!!」
カチカチ、とさらにナイフはさらに出てくる。
「 こういうところがひねくれてるんだよね。分かる。だから結局、どうどう巡りなんだ!!もーーめんどくさ!誰か助けて!」
カチカチカチカチカチカチカチ
ナイフが溢れ出てくる。
「 私だってお前が好きなような顔で生まれたかったわばーか!!!まだ16年しか生きてないけど、人生くそほどめんどくさい。学校行きたくない。ずっと自粛したい。てか眉毛整えんのだるい。生理つらい。もーー死にたい!みんなみんな消えちまえ!!」
『 刃 』『 切 』 『 赤 』『 流 』 『 快 』『 伽 』
気づけばそこには、屍の山を踏みつける血まみれのバケモノがいた。全身から無数のカッターナイフが飛び出したおぞましいバケモノ。それら一本一本、先端に行けば行くほどこびりついた血肉の量が増してゆく。そのバケモノは、おぞましいその口を開いた。
「 この世界なんてクソ食らえ 」
エゴ・ヒーロー
三人のスーツ姿の男性一同は、円盤テーブルの周りに座って会議を始めた。
「 いわずもがな、東京は大変なことになってる。ウの対策課ではもうムリだ。最近現れた、新たな加護者。例のカッターナイフのせいだ 」
「 クロベさん。アイツは特殊ですよね。あの加護者は渋谷一体に『傷の樹海』を創り上げたんですから」
「 傷の樹海? 」
「 マカベさん、知らないんすか?傷の樹海っていうのは、文字通り、樹海なんですけど、そこにある木々や草花の全てが、カッターのナイフでできてるんです。不思議でしょ?それで、ひとたびその樹海に入ると、無傷では帰ってくることができない、だから傷の樹海です 」
「 はぇ〜 」
「 マカベ、感心している場合か。我々は何としてでも、ヤツを止めなくてはならない 」
「 クサカベさん、無理じゃないですかね。加護者っていうのは、人の願いや意志、喜怒哀楽が直接的に投影されたもの、言うなれば自然現象ですからね 」
「 クロベ、そうは言ってられんだろ。今月だけで2000人以上が亡くなっている 」
「 でも、クサカベさん、3000人はカッターナイフに救われてます。いや、正確には3000人の社会不適合者たちが……… 」
エゴ⚪ヒーロー 『 思 』
ボクは空っぽでした。
でも、ボクにも役割が与えられました。
聞こえてくるんです。
困っている人たちの声が。
ボクと同じ空虚にいる人たちの声が。
金もクソ。政治もクソ。愛もクソ。人生もクソ。
この世界は腐りきってる!!
だから、ボクは助けます。
彼らの願いを叶えます。
なんでかって?彼らがボクを好いてくれるからです!褒めてくれるからです!感謝してくれるからです!
「 東京傷団。ここに結成!」
「 傷の王様、いつもありがとう!!!」
ボクは人々から傷の王と呼ばれています。
というのも、ボクは傷を自由に改竄することができるので、それが名前の由来となっています。
つい先日、貧しいお婆ちゃん足首の「 傷 」も政治家の足首に張り付けてやりました。そうすると、喜んでボクを抱きしめてくれました。ボクは泣きそうになりました。
ボクは「 助けてと叫ぶ声 」に従ってこれからも頑張ります。
誤字うざ
14:雨辻草:2020/12/21(月) 20:55 エゴ・ヒーローの中での世界。
・ボーダーきゅん
境界を確定する力を持つ少年。
その境界の内外では物理的にも空想的にも往来ができなくなる。ただし、ボーダーと、ボーダーの作ったパスポートがあれば行き来ができる。
・ログ
世界のあらゆる記録「全記録」を集積していて、米英独中日の五カ国に設置されたログ図書館に行くと、全記録を見ることができる。
・フタ
日本は巨大なフタで、太陽光を遮断されている。だから、365日ずっと暗闇。
・加護者
誰かに力を与えられた元人間。