ピースフルエブリデイ

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1:匿名:2021/10/02(土) 17:13

息抜きに書きます。自己満、ギャグです
なんでも許せる方はお読みくださると嬉しいです
(注意!)すごくカオス

2:匿名:2021/10/02(土) 18:05

「キャーッDくん今日も素敵!」
「髪の毛一本欲しいっ!」
「はぁ〜顔面国宝〜〜踏まれてもいい〜」

朝から教室の扉の前で屯するDくんのファンの女子達。みんな同じような髪型をしていて、スカートはこれでもかってほど短い。寒くないのかなぁ……。私も人のこと言えないけど
あ、三人ともこっち見た。え?なんで睨まれてんの?

「Dくんと同じクラスなんてずるい…」
「Dさんの髪の毛一本ほしいな」
「やっぱあなたもD様に踏まれたいですよね???」

うううん一気に喋らないでくれるかな、生憎聖徳太子じゃないんだ私は
とりあえず髪の毛が欲しくて堪らないってことは分かったよ。

「Dくんの髪の毛かぁ、そんなに欲しいなら取ってきてあげるよ」
「えっ……?!いいんですかっ!?パラダイスッッッッッッ」

そう提案すると髪の毛信者の子は「ジーザス!」と両手を広げ、その勢いで私の顔に当たった、痛い。

「うん。早急に終わらせるから待っててね」
仏のような微笑みを貼り付け三人をぐいぐいと押し除けて教室に入り、ドアを閉めた。
ピシャンッ!!!とドアが壊れそうなくらいの音を立てた。
そしてマッハで教室のドアと窓の鍵を閉め、ついでに食いしん坊のBの空いていた社会の窓も閉めた。

Dくんの髪の毛を取ってきてあげるなんていうのは真っ赤な嘘である。そもそも髪の毛取ってくるとか私が変態扱いされてしまうじゃないか!
ドアの外から「この、裏切り者がぁぁぁぁ‼︎」というすさまじい怒号が耳を突き抜ける。
ごめん、と心の中で呟いて、優雅に窓際で日の光を浴びているDくんになんか言えよ、という視線を送った。

「Aさんいつもありがとう、煩い豚共を黙らせてくれて」
「豚…」
「……はは」

目が笑ってない、目が笑ってない。あれ、いつもの爽やかスマイルは何処にいったんだろう。
5秒間の沈黙と見つめ合いが続く。
たしか7秒くらい見つめ合うと恋に落ちるって聞いた気が…

「恋愛フラグ立ててんじゃないわよぉ!!こんにゃろぉ!!」
「あ、Cさんおはよ…」

Cさんの声が聞こえたので仏のような微笑みを貼りつけて振り返ると、顔面に冷たい何かが当たった。は?
これって…こんにゃく…?
べちゃっと音を立てて床に落ちたそれは紛れもないこんにゃくだった。

「なんでだよ…なんで、そんなことするんだ…」
声を漏らしたのは食いしん坊のB。この世の終わりみたいな顔をして、床に落ちたこんにゃくを見つめている。
もしかしてだけど
もしかしてだけど
これってBのこんにゃくなんじゃないの?
なぁ…そういうことだろ…?

「俺のこんにゃくがぁぁ!!食べ物を粗末にっするなぁぁっ!!!」
「すいません」
「すみませんだろーが!!!」
「すいやせん」
「すみませんっだろーが!!!」
「しんかんせん」
BとCの取っ組み合いが始まった。驚きはしない、いつものことだからだ。そして毎度Cの必殺技『先生に言う』が炸裂し、Bは敗北に終わるのだ。弱っ
代わり映えのしない二人の喧嘩を見つめていると、教室のドアがガララッと開いた。あれ、鍵は閉めたはずなのに……

「失礼します…失礼しました」
「はぁっ!?失礼な!失礼するならちゃんと失礼しないと失礼でしょうが!!」
…。
一同困惑。Cさんのツッコミも含め全てが謎な空間 きっとみんな“失礼”のゲシュタルト崩壊を起こしている。関係ないけど失礼ってものすごく言いにくい。

「はぁ…もう、みんな仲良くしようよ、」
言ってから気づいたけど別に仲悪くなくね…?まぁいいや。
そしてさっきから右隣のDくんからの視線を感じる。え、何…?

「Aさん……」
「Dくん…」
「はーい!!誰かEさん連れてきて〜!間に入れてAEDにしまーす!!」
Cさんのその言葉と共に、どんっとDくんとの間に衝撃。

「リア充は爆ぜろっ♡Eちゃんです、わわわわ〜♡」
「え、……………………可愛い」
「え、……………………嬉しい」

間に入ってきたのはいかにもモテますって感じの可愛いツインテールの女の子。つい、可愛いという本音が漏れてしまい、その結果私たちは5秒で友達になった。Dくんは知らん。

「よろしくねっ、Aちゃん♡」
「うん……その喋り方やめたらモテると思うよ」
「あ、まじ?じゃあやめるわ」
フッ…と口の端を持ち上げ、私たちは拳と拳を合わせた。
その様子を、誰かが鋭い眼光で見ているとも知らずに。

3:匿名:2021/10/02(土) 19:08

キーンコーンカーンコーン…とお馴染みのチャイムが鳴り、担任がにっこにこな笑みを浮かべて教室へ入ってきた。
さっきまであんな状況だったのに、一瞬で席に座ってるみんなが怖い。
あ…嫌な予感がする。担任がにこにこな時は大体やばい時だ。なんでだよ、怖いよ。

「皆さん…今から円周率分以内に答えてください」
出たー。担任は数学科の男の先生で、何でもかんでも数学に繋げようとするのだ。鬱陶しすぎる
しかも円周率分って…3分14秒ってこと?案外余裕持って時間くれるね。

「学校中の消火器を奪ったのは誰ですか?」
え?消火器…?しかも学校中って。どんだけ暇なんだろ…。でもやるとしたら一人しかいないよね…

「言っとくけど私じゃないですよ!だって学級委員の私がそんなことするわけないじゃないですか!!ね!?」
ほら、やっぱりCさんが怪しい。そんなことするわけないとか言ってる時点で自爆同然だ。こんにゃく投げてくるくらいなんだから。
そんな変人のCさんが何故学級委員なのかって?やりたい人がいなかったからだ、大丈夫かこのクラス

「じゃあそのパンッパンの袋はなんですか?」
「え、これは…バッグです」
「ちゃんと答えてください」
「This is a bag! 」
バコーン!!という音が教室中、いや、学校中に響き渡った。その音の正体は、担任が教壇を叩いた音である。…いや、なんでそんな音鳴るの。

「発音がなってない!“This”は、舌の先を軽く噛んで発音しなさい!!」
え、そこ?一同困惑。なんなのこの茶番、もうツッコんでられないんだけど。
「はぁ…私が奪いました」
「だよね」

Cさんは我に返ったのか、スンッ…とすました表情で白状した。そんなすました顔されても…。担任もだよねとか、友達かよ。
というか、なんで消火器なんかとったんだろ。

「これなら、空を飛べると思ったんです」
「そっか…。消火器は約3kgあるんですよ。それプラスCさんの体重で、約73kgを消火器の噴射だけで浮かすことができる、って考えてるんですか?」
ちょっと待って、ツッコミどころが多すぎる…空を飛べる…?73キロ…?
Cさんの体重重すぎるでしょ、ていうかなんで先生知ってるんだ。

「舐めないでくださいよ、先生…私の体重は……」
「Cさん、言わない方がいいよ、仮にも女の子なんだから」
「え、仮にも?ちょ、ひどくない」
隣の席のCさんにひっそりと伝えた。体重、本当はちょっと気になるけど…。
ていうか、Dくん目が死んでるけど大丈夫そう?前の席のCさんのこと死んだ魚の目で見てるけど…いや、死んだ魚を見るような目か…?あれがあの爽やかなDくんとは到底思えなくて見なかったことにした。

「まあとりあえず、あとで返却してください。じゃないと池の周りをAさんと逆回りに走らせますよ」
「はーい」
「分かったならいいです、それじゃあHR始めましょう」
やっとか…
はぁ、とみんなが一斉にため息をつく。『ため息をつくと幸せが逃げますよ』とか担任に言われそう。

「ため息をつくと幸せと婚期が逃げますよ」
「…なんか、先生が言うと信憑性がありますね」
「…」
「ごめんなさい」
思わず口に出してしまって罪悪感でいっぱいだ。いつか結婚できますよ、ドンマイですとCさんが慰めていたが煽りにしか聞こえない…。

4:匿名:2021/10/02(土) 21:15

朝のHRが終わり、腕をぐぐっと伸ばした。朝だけでなんでこんなに疲れなきゃいけないんだ…。正直もうツッコみたくはない。体力と気力が消耗されていくから。
よし、なるべく今日はツッコまないよう心がけよう。
と思ったのも束の間、

「Dくんいますかっ?」
Dくんを呼ぶ女子の声が窓の方から聞こえてきた。ベランダを通して来たのだろう。にしてもなぜ、窓…?ドアからくればいいのに…
「…チッ」
今Dくん舌打ちしたよね?あぁもうツッコミどころありすぎて困る。Dくんは一瞬で爽やかな顔に切り替わった。この間0.5秒、こわ。いつもこうやって切り替えてるんだな…
Dくんの行方を見守っていると、窓際へと歩いていき…

シャッ、とカーテンを閉めた。

「え……」
私含め、教室中の誰もが、目の前の出来事に呆気をとられている。
「ぶっ、ははは」
沈黙を破ったのはB。口におにぎりを含みながら笑っている、汚い。だが、それにつられたのかみんなも控えめに笑い始めた。
でも、正直面白かった…顔を赤らめてDくんを待つ女子を、容赦なく視界から消す彼の姿はすごく勇敢だ。

何を思ったのか、誰かが手を叩いて拍手を送りはじめた。だんだんその数は増えていきあっという間に教室は拍手で包まれた。え、何この状況。

「ありがとう、みんな」
当の本人はまるでアイドルかのような笑顔で手を振っていて、満更でもない様子。誰かこの謎の時間を止めて…!!

バガァァン!!
と、空気を切り裂くようにドアが開き、拍手は鳴り止んだ。
まるで結婚式の最中に『ちょっと待ったぁぁ!!』と邪魔が入ったみたいに。
そこにいたのは、さっき窓からDくんを呼び出していた女子だった。微笑みを浮かべているけど、無言の圧を感じる。

「Dくん、いるかな?」
「…何の用かな?」
「伝えたいことがあります…!」
確定演出だ。もじもじとしながら照れている彼女、そして爽やかな笑顔の裏にどこか黒さを隠し持っている彼。
二人だけの世界だ…邪魔をしてはいけない…と、みんなの意思が通じ合っている。ごくり、と誰かがご飯を飲み込む音がした。絶対Bだろ。

「私と」
「ごめん、想いには応えられない。ついでに言うと、君束縛癖があるよね?俺そういう人苦手なんだよね」
「え……」
「当たっちゃった?てなわけでこの話終わりね俺の優雅な虚無虚無タイムを邪魔しないで」
女子に喋らせる隙もなく、Dくんはピシャリとドアを閉めた。…手も足も使わずに。つまり、気で閉めたということだ。
ひっ…恐るべし。

虚無虚無タイムってなんだよ…と思いながら彼の方を見ると、ふっ、とニヒルな笑みを浮かべて席へと戻っていった。
ぽかん。
Dくんを除き、教室中にいる全員が同じ表情をしているだろう。

10秒ぐらいの沈黙の後、みんなは何事もなかったかのように喋り始めた。なにも見てない、なにも聞いてない…と。

「なんだったんだろ、さっきの…」
「忘れよう」
「誰か俺のさつまいも食っただろ?」
「知らねぇよ」
「あと期間限定モンブラン風ショートケーキも食っただろ?」
「知らねぇよなんでそんなの持ってきてんだ!」
ガヤガヤと煩くなる教室。あぁ、これがいつも通りの日常だ、とほっとする。
その反面、ため息をついて虚空を見つめるDくんが気になって仕方がなかった。

5:匿名:2021/10/02(土) 22:41

「やっと昼だ!!弁当食べられる!!」
「いや…Bは常に食べてるじゃん…」
「それとこれとはまた別なんだよ」
どれとどれよ…。Bの相手をしていると疲れる。食べ物の話ばっかしてくるから胃もたれしそうになるし、あと、お腹いっぱいの時にBを見ると苦しくなる…誰か分かってくれ…。

「Aちゃんお昼一緒に食べよ!」
「あ、うん食べよ食べよ」
Eちゃんがお弁当箱を持って寄ってきた。ピンク色でコンパクトな可愛らしいお弁当箱だ。
「それで足りるの?Eちゃん」
「あぁ、うん。中身見ればわかると思うよ」
Eちゃんがぱかっと蓋を開けると、そこにはトンカツ、唐揚げ…などが入っていた。え、茶色っ、脂っこい。
意外すぎる。もっとこう…サンドウィッチ♡みたいな感じだと思ったのに。

「ダイエットしてるのに、お母さんが容赦ないんだよね。もう泣きたいよ」
「それは…お気の毒に」
ダイエットか。私もしなければ…最近横腹が出てきたからなあ…
すると、手が滑って箸で持っていたミニトマトが落っこちて転がっていってしまった。
やべ、急いで拾わなきゃBに怒られる…

べちゃっ
えっ、踏まれた…?
悲劇的にもトマトは潰れている。一体誰が…
「あ」
「うわ」
トマトを潰した犯人はDくんだった。ていうか今うわって言った?言いたいのこっちなんだけどな…。
「えっと…ごめん」
なんで私が謝ってるんだ。なんで私がDくんの上履きの裏を拭いているんだ。まるで家来みたいだ…。床を拭いてくれたEちゃん優しい好き。

「…」
Dくんってこんなキャラじゃなかったよね?なんでこんな冷たくなってるの?温度差で腹下しそう…
「…ご覧ください、ピカピカです」
血迷った私は、Dくんの上履きを脱がせ、ご丁寧に裏を見せてしまった。うわ、最低じゃん。
2秒経っても何の反応もないため、私はそっ…と上履きを履かせた。シンデレラ…と思った私を心の中でビンタ。

結局何の反応もなく、Dくんはスタスタと歩いていった。怖すぎる…、これって悪いの私の方なのかな…という考えがぐるぐると頭の中を回っている。
「Aちゃん、大丈夫?」
「うん…Eちゃんありがとう、今のところまともなの君しかいないよ…」
「あ、ハイ」
今思えば、私の周りの人…BやCさん、そしてDくんなどクセの強い人しかおらず、こうやって普通にお喋りできる相手が一人もいなかったのだ。だからEちゃんという存在に救われた。

「Eちゃんとの出会い方はびっくりしたけどね」
「ほんとだよ、誰AED作ろうととか言った人」
「呼んだ?」とにょきっと出てきたCさん。呼んでないです、と追い返すと腹いせなのかピーマンを弁当箱に入れられた。
最悪すぎる…。あとでBにでもあげようかな。
「ところで、あの人たち誰?」
「ん?」
Eちゃんの指差す方向、ドアの近くには、教室をきょろきょろと覗いている男子生徒2人がいた。どっちもこの学年の人ではない。
しかもなんか制服違くない?別の高校のスパイ?

「先輩!学校から抜け出してきちゃいましたね!」
「後輩お前、わざわざ着いてきたのかよ…」
人懐っこい笑みで“先輩”に話しかける黒髪の人と、呆れたような顔をしつつも“後輩”の笑顔に応える銀髪の人。というか、お互い先輩後輩って呼んでるの面白いな。先輩と後輩の関係…であることは分かったが…
「何しに来たんだろ…」

6:匿名:2021/10/03(日) 11:28

「あのー、何してるんですか?ていうかどこの学校の人ですか?」
ガタッと席を立って身を乗り出し、黒髪と銀髪にそう尋ねたのはEちゃんだった。その行動力、半分ください。
Eちゃんの声はだいぶ通ったので、周りの人もしんとなり、黒髪と銀髪の2人もこっちに目を向けた。
げ、なんか怖い。ヤンキーとかだったらどうしよう。そもそも他の学校から来るっていう時点で真面目じゃないのは確実だ。

「あー、俺らは南都下学園から来たんだ」
「そうですよね、先輩!」
2人組はすたすたと教室に入ってきた。何でそんな堂々としてるんだ。っていうか、なんとか学園…?え、もしかして普通にそういう名前の学校なの?なにそれ、雑すぎでしょ。
「そのなんとか学園の人がなんでここにいるんですか…?」
Eちゃん凄いよ…初対面の人に物怖じもせず堂々と喋れるの。最初ただのぶりっ子だと思っててごめんね。

「ただの暇つぶし、みたいな?」
「先輩、流石です!」
にこっと笑った銀髪。暇つぶしって…そんな爽やかに笑っても騙されないぞ…こちとらDくんによって目が冴えてるので。さっきから先輩先輩としか言ってない黒髪とは、話が通じなそうだ…。
「じゃあ、腕相撲でもしましょうかぁぁ!!」
シュタッ、と舞い降りたのはCさん。この子本当に凄いよね、色んな意味で。初対面の人といきなり腕相撲なんて。

「嫌だ」
「え」
「え」と私も声が出た。「嫌だ」と答えたのは黒髪だった。なぜ?Cさんはショックだったのか固まっている。あのCさんがだ。
「先輩と腕相撲なんて…2年早いんだよッ!!」
「うん、微妙な年数」
はっ、思わずクセでツッコんでしまった…!いつも心の中でツッコんでたのに。
「うるさいッ」
その一言で切られた。え…なんかもっと拾ってくれても良くない?悲しいな
この黒髪、先輩には従順だけどその他の人間には容赦ないタイプか…

「指相撲でもします?」
「ダメだ」
「…手押し相撲」
「ダメだ」
次々と黒髪に却下されていく。さっきまで「先輩!」とか言ってた姿は何処へ。銀髪の人もう何も喋らなくなっちゃったよ。
「じゃあ相撲でいい?」
「いいわけないだろ。先輩には指一本、いや、二酸化炭素すら触れさせない!」
Cさんはなんでそんなに相撲にこだわるの。黒髪に至ってはもう先輩のボディーガードじゃん。銀髪も何か言ってあげて…。

「俺は別に、いいよ」
「よしっ!じゃあやりましょーう!!」
先輩の一言でころっとテンション変わる後輩、チョロ…。
さっきの人格なんだったんだ。
今度はわんこみたいになってる。狂気…
「じゃあまず、僕からで」
黒髪がトップバッターだそうだ。Cさんが頷くと、腕相撲が始まった。

7:匿名:2021/10/03(日) 11:32

「ぐ…この女…強い!」
「…」
Cさん怖い。怖いよ。普段あんなにうるさいのに急に静かにならないで。
しかも黒髪は全体重かけて腕に力を込めてるのに、Cさんはびくともしない。体重70kgってもしかして本当なのかな…
「先輩!僕のこと応援してください!」
「お、おう!後輩、頑張れ」
「ハァァイ!!」
銀髪の応援により、黒髪が覚醒してCさんの腕をなぎ倒し机にヒビが入った。え、やば。Cさん腕大丈夫?
「よっし!!勝った!」
「…」
「…Cさん…大丈夫?」

声をかけても反応なし。未だに倒された右腕を見つめている。よっぽどショックだったのかな…。でもいつも元気だから、元気出してほしいな。
「し、Cちゃん…?」
Eちゃんも流石に心配になったのか、彼女の顔を覗き込んだ。するとCちゃんは顔を上げ、黒髪の人を見据えた。黒髪は怪訝な顔をして「何だよ」と漏らす。

「惚れました、付き合いましょう…嘘だけど」
「は?」
「好きです……嘘だけど」
「何なんだお前」
え、情報の処理が追いつかないんだけど。つまりCさんは黒髪に惚れた…嘘だけど。ってことだよね?何それ、究極のツンデレ?今まで散々私の恋愛フラグ破壊してきたくせに、ちょっとむかつく。

「どっちにしろ僕先輩一筋だから」
「後輩…」
「先輩…!」
見つめ合う2人。何だか既視感があるのは気のせいだろうか。もうやめて誰得なのこの絵面、誰か止めて。私もう無駄な体力を使いたくないんだ…
「後輩……どうしよう、俺12時46分27秒に体育館裏に呼び出されてたんだった。今からでも行ったほうがいいか?」
「やめてください。先輩の場合絶対告白されるんで行っちゃダメです」
「時間まであと3分しかない、どうすればいいんだ?」
「カップラーメンでも作りましょう。先輩の好きな、『チリトマト風味の豚骨シーフード〜薔薇を添えて〜』は常備してるので」
「違う、俺が好きなのはハイビスカスを添えての方だ。出直してこい」
「僕としたことがッッ」
ツッコむ隙がない。もし仮にツッコんだとしても黒髪に『先輩とのトークを邪魔するな』って睨まれるのが目に見えているから、何も言わない。
ていうか銀髪、どっちかというと体育館裏に呼び出してボコる側に見えるのに意外。
「あの…黒髪さん、髪サラサラですね。リンス何使ってます?」
2人の意味不明なトークを割って入ったのはEちゃん。女子力の高い彼女は、黒髪くんのサラサラヘアーの秘訣が知りたいようだ。確かにそれは私も気になるかも。

「ワン・ツー・スリーンスだ」
「え、名前ダサっ……ありがとうございます」
思いっきりダサって言っちゃってるし…確かにダサいけど。どっかで「俺も使ってる!友達になろうぜ!」って言う声が聞こえてきたけど無視。
「てなわけで、先輩を体育館裏に呼び出した身の程知らずを懲らしめに帰る。さらばだ」
「じゃーな。楽しかった!」
黒髪と銀髪はそう言って手を振りながら去っていった。シュンッて去ってったけど何者?速すぎるんだけど。

「まじで何だったの、あの人ら…」
「それなー、でも顔良かったよね」
たしかに、とか言いながらEちゃんとお喋りをしていると、ガクッと床に手をつくCさん。床がミシッて聞こえたけど…
「黒髪の人の連絡先、聞けば良かった……っ!!」
「あの告白ガチだったんだ」
「Cちゃんも恋とかするんだね」
「するわ!このツインテバァカ!」
0.2秒後に乱闘が始まった。私はもう知らない。「体重70キロのくせに!」って言ったEちゃんの無事を祈る。

8:匿名:2021/10/03(日) 17:13


「やっと、帰れる…」
午後の授業を終え帰りのHRも終わり、今日一日の疲れがどっときた。肩に力が入らない…眠すぎる。あ、寝そう、このまま机に突っ伏してしまおう。おやすみなさーい。
「Aちゃーん!」
「グエッ」
眠りにつくまであと5秒というところで、Eちゃんが後ろから突進してきた。お陰で目と心臓が飛び出そうになったし変な声が飛び出た。

「グエッとか……」
「言っとくけど君のせいだからね??」
「ごめんね♡」
「許さない」
きゅるん、とした目をされても困る。はぁ、とため息をついてまた机に伏せようとすると、今度はバチコーン!!と後頭部に衝撃が来た。
「痛っ…ちょっとさすがにEちゃんひどすぎるって」
あまりの痛さに後頭部を押さえながらEちゃんをキッと睨んだ。
この子こんな力あるのか、恐ろしい。

「え、何?」
「えぇっ?」
Eちゃんは腑に落ちない表情をしている。やったのはEちゃんじゃないの?
よく見ると足元に枕が落ちていた。…枕?
「なんで枕…あ、もしかして!これを使って寝ろってことかな?」
「絶対違うでしょ…ていうかそれCちゃんが投げてたよ」
「は?」
「まじ」
またあの子かよ…学級委員クビにした方がいいんじゃないかな。このままじゃクラスが混沌に陥ってしまう。秩序を保て、秩序を。
Eちゃんの証言によって判明した私の後頭部の痛みの原因、そして犯人。Cの元へ向かう。

「やっほー、A!一緒に枕投げやろーよ」
「やっほーじゃないのよ。てゆーか…枕投げ?」
「明日の勉強合宿の夜、枕投げするから練習してるだけだけど」
「ちょっと待って、勉強合宿…!?」
そんなの聞いてない…!え、明日?担任そんなこと言ってたっけ?あ、でも言ってたとしても私HRは大体寝てるから気づかないわ…。
「Aちゃんってば〜頭大丈夫?」
「傷つく!」
「先生言ってたよーあと24時間後には勉強合宿が始まりますよって」
「それって強制?」
「だろうね」
Eちゃんの言葉にがっくりと肩を落とした。勉強合宿とか…せっかくなら普通の合宿が良かったんだけどな。

「夜にはキャンプファイアーもやるらしいよ!」
「行きます」
「ちょっっろ」
おい、誰だ今ちょろいって言ったやつ、口にご飯含んでるようなもごもごした声だったぞ。あぁBか。
「しかも夜ご飯はバイキングだぜぇぇぇ!!!!」
Bはフゥー!!とおにぎり両手にジャンプしている。
…でも、ちょっと楽しみになってきたかも。

「それにしてもなんで勉強合宿なんてやるんだろーね」
Eちゃんが突如真剣な顔をしてそう呟いた。
「え、みんなの学力を上げるためじゃないの?」
「もう十分でしょ。このクラスの定期テストの各教科の平均点99点だよ」
「キモっ…」
「みんな100点なんだけど1人の99点のせいで平均点下がってるんだって」
「それ私じゃん」
平均点化け物すぎるでしょ…テストが簡単すぎるのかな、でも他のクラスでは平均50点くらいだったはず。なんでこのクラス変人多いのにこんな高いの?早弁常習犯とか消火器泥棒とか虚無虚無男とかいるのに…

「あと南都下学園との合同合宿だってね。よかったねCちゃん♡」
「じぇ?何で私?」
えっ南都下学園と合同…⁉︎
あの黒髪と銀髪もいるのか。ていうかどんだけ大人数で勉強させたいんだ…
「え、黒髪の人の連絡先聞きそびれたって言ってたじゃん」
「!!無理、貢ぐ!」
Cは貢ぐぜヒャッハー!!とか言って床を転がりまわっている。それをゴミを見るような目で見るDくん。絶対邪魔って思ってるよね。あ、蹴った。

「とりあえず…合宿、楽しみだね♡」
「まあ、うん」
なんか色々と起こりそうだけど、楽しみだなー。
さてと、早く帰って寝よ。

9:匿名:2021/10/04(月) 21:31


「じゃあEちゃん、またね」
「じゃーねー!明日は楽しもうねっ!」
「うん」
弾けるような笑顔のEちゃんに手を振って、交差点で別れた。
ツインテールを揺らしながらスキップをしているEちゃんの後ろ姿を見送り、ポケットに手を突っ込む。
今日はものすっっっごく疲れた。朝はDくんファンを上手いことかわし、Cからのこんにゃく攻撃を受け、Eちゃんと仲良くなり、他校の2人と出会い…散々だったけど、なんだかんだいって楽しかったな…

歩いていると、信号を待っているBの姿を見つけた。両手にはお菓子を持っている。転んでも知らねーぞ、と思いながら声をかけた。
「Bじゃん、やっほー」
「よう。チョコ食う?」
おっ、Bにしては珍しい。人に食べ物を譲るなんて。
「うん、食べたい」
「太るよ」
「やかましいわ」
そんな事を言いつつも、はい、と個包装のチョコをくれた。優しい。包みを開けたところで、Bからの何とも言えない視線を感じたので、「どうかした?」と尋ねると、Bは申し訳なさそうに眉を下げた。

「ごめん、それ賞味期限切れてるんだ」
「は?先に言ってよ」
「ごめんな」
「ごめんで済むなら賞味期限いらないんだよ」
「何言ってんのお前」
ほんとに何言ってんだろ私。
信号の赤が青に変わったのでBと並んで歩き出す。と、その拍子にチョコが手から転がり落ちてしまった。でも賞味期限切れてるし、拾ったところで衛生的にも食べられないから、拾わなくてもいっか。
「おまっ、拾えよ!!!」
「あ、ごめんね」
光の速さで拾いに行くB。やっぱBの目は誤魔化せなかったか…食べ物に対する執着が強いからなぁ。
「これをもし小さい子が拾って、食べて、体調悪くなって、慰謝料訴えられたらどーすんだよ!」
「………なるほどなのだ!」
「…お前とは仲良くなれなそうなのだ」
「いや地味にノってきてくれてるし、私達仲良くなれると思うよ」
横断歩道を渡り終え、なぜか向かい合う。何これ、恋愛フラグ?Cにまた破壊されるんじゃないの?

「おめでたいな」
「でしょ?だから仲良くしようよ」
「主にお前の頭が」
「最後に言い残したいことはあるか??」
「冷蔵庫にある俺のプリン絶対に食べるなよ」
よーっし!!食い荒らしてやるぞ!!とブンブン腕を回していると、Bは微笑んだ。え、こわ。
「冗談だよ。お前面白いな」
「え」
「特に顔が」
「ブッ飛ばす!!」
Bの肩を鷲掴んでぐわんぐわんしていると、通りすがったおばちゃんに「あら、仲良しねぇ」と言われた。どこが??

数秒後、「んじゃ俺ん家こっちだから、またな」と言って、Bは真っ先にコンビニへと走っていった。その途中、駐車場から出てきたバイクとぶつかりそうになったが、華麗なジャンプでそれを飛び越えているのを見て、私はBに一瞬だけ惚れたが、その後ずっこけていたので冷めた。

10:匿名:2021/10/05(火) 21:05

「あんくらい私にも出来るけどねっっっ」
「うわ出た」
背後から聞こえてきた声の主は言わずもがなCだった。腰に手を当てながら、ドヤ顔を決めている。なんか、人生楽しそうだなぁ。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「うん、何?」
「黒髪の人のどこに惚れたの?」
「ふっへ」
唐突に気になったので聞いてみた。あの変人のCが人を好きになるなんて、前代未聞だ。ちょっと失礼かもしれないけど。てかふっへって何だふっへって。
Cは口元を緩ませながら両手で頬を包み込んでいる。まさに恋する乙女だ。黒髪の事を考えているのか、ものすごく幸せそうな顔をしていて可愛らしい。

「んーっとねぇ…まず、背が高くて、かっこよくて、優しくて、料理が上手で…」
「うんうん…ん?」
背が高い、かっこいいは分かる。だが、優しい?料理が上手?もしかして幻覚でも見てるのかな…。黒髪が優しいのは銀髪の先輩に対してだけだし、カップラーメン常備はしてたけど料理が上手かは分からないし…
「とりあえず、顔がいい」
「正直でよろしい」
「かっこいいよね…」
「うん」
あれ、なんかCとまともに会話できたの初めてな気がする。今までぶっ飛んだ会話しかしてこなかった、いやできなかったから感動。これから普通に喋ろうよ。
「かっこいいよね」
「うん…何で2回言った?」
「かっこいいから」
「伝わった、伝わったからもう言わなくていいよ」
それよりも、ずっと一緒に歩いてきてるけどCの家もこっち方向なのかな。だとしたらこれから一緒に帰ってできるだけ仲を深めたいな。

「Aは?どんな人がタイプなの?」
「えっとねー、優しい人かな!」
「つまんな」
「は?」
つまんなって何だよ、とCのほっぺたを軽くつまむ。え、肌綺麗。意外すぎる。スキンケア何使ってる?と聞くと、水。とだけ返ってきた。つまんな
「なんていうか〜、好きなタイプに面白みがないんだよね」
「私に面白みを求めない方がいいよ」
「そうだね。そこが根本的に間違いだったね」
「真顔で言うのやめて下さい」
いつもふざけてる人の真顔って何でこんなに怖いんだろう。真顔で『明日世界終わるよ』とか言われたら信じちゃうかも。

「あ、そうだA、朝のこんにゃくごめんね」
「いや別にいいけど謝るならBに謝ってね…」
「謝ったよ!?」
「逆ギレやめて!?」
だけどさぁ、と不服そうに足元の石を蹴るC。結構デカイよ…?爪先痛くないのかな…え、石割れた…
「謝ったら、は?って言われたんだ」
「…それ絶対謝り方が悪かったんでしょ」
Bは基本的に食の事に関しては煩いけど、他の事に関しては温厚だからね。あ、でもこれこんにゃく関連だから食のことか。もう訳分からなくなってきたよ。

「ごめんって言った。土下座もした。賞味期限切れてたけどチョコもあげた。でも許してくれなかった」
「…うん」
あのチョコ、Cがあげたやつだったのか…。たった今点と点が繋がった。あぁ、謎が解けていくってこんな感じなのかな。チョコだけに溶けていく、なんつって…。
「えっと…つまんないよ」
「もしかして心読んだ??ノーと言って!」
「ノー!」
「よくできました」
ノリで頭を撫でようとしたら割とガチめに腕を引っ叩かれた。痛すぎる…これがパワー70kgの力か!
「殴るまでスリー、ツー、ワン」
「黒髪の人が使っているリンスの名前は?」
「ワン・ツー・スリーンス!!!!!!!!」
その間に走って逃げた。

ていうかまた心読んできたよね、怖すぎる…。身の回りの人怖い。Bはバイク飛び越えてたしDくんはこないだ気でドア閉めてたし、なんなの、超能力者なのかな?
そんな事を考えながら走っていたので、目の前の曲がり角から出て来た人の存在に気づけなかった。

11:匿名:2021/10/06(水) 22:55

「うわっ…あっぶな」
「ご、ごめんなさい!!」
角から出て来た人物には間一髪でぶつからずに済んだが、驚きのあまり尻餅をついてしまった。相手は呆れたようにため息をつき、手を差し伸べて来た。申し訳ないと思いつつもその手を握る…
スカッ
「えっ」
差し伸べられた手を握ったはずの私の手は空を切っていた。疑問に思って見上げると、さっきは暗くて見えなかったが、電灯に照らされて顔が見えた。
「……Dくんじゃん」
「鈍臭いAさんこんにちは」
にこ、と笑う目の前の人物は紛れもなくあのDくんだ。その証拠に、目は笑っていない。周りの暗さも相まって、とても不気味に感じる。
てか、今日の帰り道色んな人と遭遇してない?Eちゃんは一緒に帰ってたから別として、B、C、Dくんと次々にクラスメートと鉢合わせている。何このイベント…別に求めてないんだけど。

「ところでいつまで地面に這いつくばってんの?」
「言い方」
Dくんに見下ろされるのは怖すぎる…あと特殊なDくんファンに踏まれる…。と瞬時に察知し、スッと立ち上がった。そこでふと気になった事を聞いてみる。
「Dくんの家ってどこ?」
「そこ」
そう言って指差されたのは、これでもかってほど……
「普通の家…」
「何?悪い?」
「いえ何も」
あのモテモテ王子様(仮)のDくんの事だからもっと豪邸に住んでるのかと勝手に想像していたので、意外だと思っただけだ。
だって、窓際に腰掛けてる時とか儚すぎるんだもん…。本人曰く“虚無虚無タイム”らしいけど。
「率直な疑問なんだけど、Dくんって何であんなにモテるの?」
「さぁ。でもまあ強いて言うなら顔なんじゃないかな」
腹立つわぁ、とワントーン低い声で言うDくん。もう私の中に、純粋で爽やかなDくんはいない。
化けの皮が剥がれる、とはこう言う事なのかな。

「ただひっそりと暮らしたいだけなのにな。あの豚共が…」
思ってたけど結構口悪いよね…。ギャップがあっていいと思う。
「じゃあもう『やめて』って言えばいいんじゃない?」
「そうだね…ちょっと練習してみていい?」
「いいよ」と返事をすると、Dくんは笑みを含みながら言った。
「じゃあ、目瞑って」
言われるがままに目を瞑った。え…謎すぎない?何これなんの時間。5秒くらい経ったけど…とうっすら目を開けてみると、そこにDくんの姿はなかった。
「逃げやがった彼奴」
街灯と月の光だけがぼんやりと照らす暗闇の下にぽつんと取り残される私、可哀想。
「帰るか…」
何だったんだろ、あの時間…。
虚無感が襲ってきて、これが俗に言う“虚無虚無タイム”なのかな、と感じた。たまにはいいかもなぁ、虚無虚無タイム。
現実逃避できるし、なんか色々と考えずに済むかも。
とぼとぼと歩みを進めていると、ポケットの中のスマホが震えた。画面を確認すると、Eちゃんからのメッセージだった。

『Aちゃん!帰り道はくれぐれも気をつけてね!不審者がいたら、すぐさま奇声を発して、不審者よりも不審者になっちゃえばいいんだよ♡』
不審者よりも不審者になっちゃえばいいという暴論。でも、友達を心配してくれるなんていい子だなぁ。大切にしよう。
『うん、わかった』と返し、スマホをポケットにしまった。
明日は勉強合宿だ。混沌になることは間違いないだろうけど、きっと楽しめるはず。

12:匿名:2021/10/07(木) 22:22


家のドアをガチャ、と開け、靴を脱ぎ捨てた。お行儀が悪いのは許して下さい、普段はちゃんと揃えています。
「やーばいめーっちゃ眠ーい」
欠伸をしながら階段を上っていると、リビングからお母さんが顔を出した。
「帰ってきたらまずただいまでしょ?」
「ただいま」
「おかえり」
夜ご飯の良い匂いが鼻をかすめ、お腹を鳴らした。今日のご飯はハンバーグか。やったやった!テンションが上がって階段を駆け上っていたら、靴下が滑って、脛を階段の角にぶつけた。
「アァァァァァァッス!!!」
静寂に包まれた住宅街に、私の情けない叫び声が響き渡った。

美味しいハンバーグを食べ終わり、自分の部屋でせっせと明日の準備をする。合宿の存在をつい何時間前かに知ったばかりだから、あまり実感が湧かない。
「あ〜〜疲れた眠い寝たい」
一体何回欠伸したんだろう。それでもおさまらないこの眠気は寝る事でしか解消できないだろう。
「…ってことでオヤスミナサァァァァイ!!」
本能の赴くままに、ベッド、またの名を楽園─に飛び込んだ。
.

髪の毛を乾かさずに寝るという愚行をおかした昨夜の私を埋めたい。
目が覚めると、私は“ボンバーヘッド”になっていた。
つまり、寝癖がヤバいということである。何度水をつけても直らない。ヘアアイロンをかけようにも、寝坊したせいで時間がない、なんて日だ…。ちなみにいつもならもうとっくに家を出ている時間。
「ヘアァァァァッッ!!」
洗面所で寝癖と闘っていると、呑気にお姉ちゃんが入ってきた。
「奇声発さないと死ぬの?」
「お黙りシスター!!」
と叫ぶと、お姉ちゃんは無言で歯ブラシを咥えて出ていった。
我が家ではこれは日常茶飯事。近所迷惑でしかないから黙れとお父さんに言われたが私は黙れない。絶賛反抗期なのだ。

「あーもう時間がない!行ってきます!!」
「行ってらっしゃい、合宿楽しんできてね」
お母さんの声を背に受けながら、ドタバタと家を出た。あーもう最悪だ。パニクりすぎて左右の靴下は違うし、寝癖ボンバーだし、顔面終わってる。泣きたい。
合宿は夕方の5時から始まるので、午前中は普通に授業がある。今まで遅刻なんてしたことなかったのに…皆勤賞狙ってたのに…!!
あ、信号青のチカチカだ、今なら渡れる!良い子は真似しないでね。…と思ったのも束の間、一瞬で赤へと変わった。
「あぁぁもうりんご素手で潰したい…」
信号を待ちながらも足をその場でジタバタさせる。そうでもしないとこの行き場のない感情を落ち着かせられない。

スマホで時間を確認すると、9時11分。あぁ、HR始まってる…もうどれだけ急いでも遅刻なことは変わらない…。虚無感…
「一人でしりとりでもしよう…しりとり…りんご…」
信号を渡り終え、さっきとは比べものにならないくらいゆっくりと足を動かす。早くても遅くても結果は同じだ…
「ごはん」
「ん…ンジャメナ…ん??」
「やっほー、覚えてる?俺だよ、俺俺」
突如聞こえてきた聞き覚えのある声にバッと顔を上げた。そこにはにこやかに手をひらひらさせる銀髪の人の姿。長めの襟足が首を傾げた拍子にふわっと揺れた。
え、儚い。なんか尊い。かっこいい。惚れそう。
「覚えてます、ます!南都下学園の方ですよね」
「そうそう、君は確か丸々高校の!」
「Aです」
「Aちゃんか、昨日ぶりだね」
ふわっと笑う銀髪さん。何この人、良い人すぎるんだけど。周りに変人しかいないから泣きそう。守りたい、この笑顔…!
こりゃあモテるよなぁ、と思った瞬間、彼の背後からぬっと黒髪の人が出てきた。まぁ、さっきから頭見えてたけど。

「先輩!おはようございます!今日も素敵です!」
「おう、後輩!偶然だな、毎朝会うなんて」
それは偶然じゃないんじゃないかな…と黒髪を見つめていると、ぱちりと目が合った。その途端、無邪気な笑顔からビジネススマイルへと変わった。うわ…
「僕の先輩になんか用?」
「いや…特にはないけど」
「そう。なら早く行きましょう先輩。この人寝癖ヤバいですよ」
「お、おう」
またもや彼らはシュンッと去って行った。1分くらいしか銀髪さんと話せなかったんだけど。それとさりげなくボンバーヘッド指摘されてて辛い…。
とにかく、早く学校へ行かなければ…と、私はダッシュで向かった。

13:匿名:2021/10/08(金) 23:01

「遅れてすみませんッ!!」
焦りすぎてバーンッッ!とドアを勢いよく開けてしまった。教室の中の人達が目を丸くしてこちらを見ている。驚かせてしまって申し訳ない…。どうやら今はHR後の10分休みのようだ。授業がまだ始まっていなかったことにほっとした。
「Aちゃああぁん、どしたの心配したよ!」
私を見るなり飛んでくるEちゃん。話してたCぶっ飛ばしたけど大丈夫?
昨日友達になったばかりなのに、こんなに心配してくれるなんて。
「大荷物運んでるお婆さんがいたから見てたら遅れちゃったんだよね」
「もっとマシな嘘をつきなよ…。でもとにかく間に合ってよかったね」
散々だったよ…と途中銀髪さんと黒髪に会った事などを話していると、Cがこっちをじーっと見つめてきた。黒髪の事だろうな、と思い「どうしたの?」と声をかける。
「羨ましい…朝からあの人に会えるなんて…クソ羨ましい、ガチ羨ましい」
「分かったから、とりあえずBのワイシャツ千切ろうとするのやめて」
「こうでもしなきゃやってらんねぇーよ!!」
「C、落ち着け」
私の忠告を無視して、CはビリビリビリィッとBのワイシャツを破いた。めっちゃ簡単に破くじゃん…全く抵抗しないBもおかしいけどね。するとBは千切られたワイシャツを脱いだ。
「こんな事もあろうかと2枚重ねをした俺を誰か褒めろ、ハッハハハ」
お願いだから口にご飯を含んで笑わないでください。Dくんのあの嫌そうな顔を見てください。

「あ、そういえばHRで、カレー作りの班決まったんだよ!ちなみにAちゃんは私と一緒だよ」
「最早普通の合宿じゃん…」
勉強合宿って何だっけ。詳しいスケジュールは分からないけど聞いた感じだとほぼお楽しみ会なんだけど。そもそも南都下学園との合同とか人数多すぎて爆発するでしょ。
「あと一緒なのはCちゃんと、あと…」
Eちゃんがそう言いかけた時、チャイムがそれを遮った。あと、誰だろ。また後で聞こう。

時間はあっという間に過ぎ、今はCとEちゃんと私の3人で昼食を食べている。…のだが。
「南都下学園と合同とか神すぎる、黒髪さんに会えるなんてェェ」
「ねえCちゃんほんとさっきからうるさい、嫌われるよ?」
さっきからずっとこの状態。Cは黒髪の話しかしないし、Eちゃんも段々苛ついている様子。そしてその光景を眺めることしかできない私。3人で食べようと提案した私に責任はあるのかもしれない。そう思い、無理矢理にでも話を変える作戦を決行してみる。
「朝食こぼしてチョーショック」
「…は?」
「Aちゃん流石につまんないよ」
2人の対応が酷すぎて辛い。Eちゃんは普段あんな優しいのに…何でこんな事に…!居た堪れず目を逸らすと、Dくんと目が合った。助けてくれ、と視線で訴えたが逸らされた。そうだ君はそんな奴だったわ。

14:匿名:2021/10/08(金) 23:02

「それはともかく、Eってば黒髪イケメンさんのときめきポイント聞いてよ!」
「やだよ、どっちかと言うと銀髪の人派だし」
おお、Eちゃんとは気が合いそうだ。黒髪はちょっと、先輩に関する時に暴走するのが怖い。
「なら尚更聞いてよ!魅力をもっと知ってほしいし」
「うるさいなぁ、しょうがないから聞いてあげるよ」
「ヤッタァ」
目をキラキラさせながら黒髪の人の魅力を語るCに気怠そうにしながらも相槌をうっているEちゃん。なんだかんだ言って噛み合ってるじゃん。あれ、私いる意味ある?なんか寂しいな…。
寂しさを紛らわすためにしょうもないダジャレを言っていたら、たまたま側を通りかかったクラスメートに二度見されたので三度見仕返しておいた。

「はい、皆さん大体のスケジュールは分かりましたね?この後16時半から南都下学園が来るのでそれに備えて荷物をB棟の視聴覚室に持ってって下さい。こっちのA棟には食事、入浴などの際にしか戻ってこないので忘れ物はないように!」
夕方。担任の説明を受けながら、荷物をまとめる。今は15時半だからあと1時間で勉強合宿が始まる。みんないつもよりテンションが高い。Bはバイキング合宿だ!とか騒いでるし、Cに関してはもう黒髪の事しか頭にない。けど実はちょっとCの恋愛の行方が気になってるから楽しみ。
「この学校無駄に面積広いので忘れ物したら結構大変ですよ。だから荷物の確認はこまめにしてくださいね」
担任の言葉に各々が返事をする。荷物確認5回はしたから流石に大丈夫だろう。荷物を置きに行ったら、南都下学園が来るまで自由行動してて良いらしい。
その間何しようかな、と考えていると、
「え、雨降ってきた」
Eちゃんが窓の外を見て呟いた。その証拠に、窓ガラスにポツポツと水滴。
「ファッ!?雨!?ふざけるなぁァァ、キャンプファイヤーできないだろおお!」
貴重な恋愛イベントがァァ!と膝から崩れ落ちるC。何となく雲行きが怪しいなとは思ってたけど…残念だなぁ。

「じゃあ皆さん、16時になったので荷物を持って移動しますよー」
「はーい」
担任の言葉を合図に、みんながリュックやらを背負ってぞろぞろとB棟へ向かっていく。ちなみに私はこの学校の構造が未だによく分かっていないので、みんなについて行かないとはぐれてしまう。
5分ほどして、B棟の視聴覚室に到着した。私たちのクラス、2年α組はここが荷物置き場になっているそうだ。
「一旦ここに荷物を置いて、大広間で南都下学園の人たちと合流して勉強会を行います。その後は各班分かれて教室に移動します」
移動いっぱいするんだな、もっと効率的に出来ないのかな…。
そう思いながら荷物を下ろす。中々重かったので解放されて体が浮かぶような感覚がした。みんな荷物を下ろしてくつろいでいる。すると、Eちゃんに肩をとんとんと叩かれた。
「AちゃんCちゃんトランプしない?」
「あー、いいね」
「私もいいよ〜ん」
近くにいたBも巻き込んで、暇潰しの定番、トランプが始まった。

15:匿名:2021/10/23(土) 16:47

「はーいAダメ〜!UNOって言ってな〜い!」
「うわ忘れてた…」
Cに指摘され、渋々山札から一枚引く。どうしてUNOなのかというと、ただ単にEちゃんがトランプと間違えてUNOを持ってきたからだ。まぁそれはいいとして…
「スキップ、スキップ、スキップ!また俺のターンだぜ!!」
「E〜UNOって言ってな〜い!」
「ドロー2、8枚出しちゃお♡」
みんなクセが強すぎて本当に困る。そんなこんなで仲良くしていると、さっきから視界の端で気になって仕方がなかった、じっとこっちを見つめている女子とぱちりと目が合った。

「えっと……どうしたの?友田さん」
あまりにもこっちを見てくるので痺れを切らしてそう尋ねると、友田さんは目を逸らして離れていった。何だったんだろう…。
「友田っていっつも一人だよね。今度『私は友田の友だ』って言ってみよ」
C、やめとけ。
「なんか俺聞いた事あんだけど、あいつ自分だけがぼっちなの嫌だから友情的なもの見ると破滅させようとするらしいぞ」
「えぇ…」
でもBの言葉に思い当たる節がある。今までEちゃんやCと仲良く喋っていたりすると突き刺すような視線を感じることが多々あった。それだったのか…でも正体が分かって安心した。するとEちゃんが「あ」と声をあげた。
「そういえば言うの忘れてたけどカレー作りの班友田ちゃんと一緒だよ」
「まじか」
友田さんはぼっちだったから誘ったそうだ。
「あとCちゃん」
「なんだろ…嫌な予感しかしない」
Cは実は料理できたりとか…ないか。材料ごと鍋にぶち込んでそうだもんね。おっと、Cに睨まれた。

「皆さん、南都下学園が来たので大広間に移動しますよ」
しばらくして、担任の言葉でぞろぞろと大広間に向かった。階段を降りる途中でグリコを始めたBとCはほっとく。
「着きましたよ。では入ってください」
ピカピカに光るフローリングに、高い天井。これでもかってほど広いスペースには、等間隔で長いテーブルが置かれている。
こんなとこあったんだ…舞踏会できそう。
「α組は一番端のあそこのテーブルで勉強をしますよ」
「…え、でも人数少なくないですか?」
担任が指を差した先のテーブルにいたのはうちのクラスの半分にも満たない、10人ほどだった。他のところは40人近くいるのに…
「α組は他に比べて異常に頭脳が秀でているので、勉強相手が南都下学園の普通のクラスだと合わないんです。なのでその中でも特に優秀な生徒が集められた特別グループと勉強するんですよ。学年はごちゃ混ぜですけどね」
「なるほど」
一番端まで3分ほどで着き、特別グループと顔合わせをすることになった。あ、見覚えのある黒髪と銀髪がいる。

「あ、やっほー。奇遇だね!」
向こうもこっちに気づいたのか、銀髪さんが笑顔で手を振ってくれた。つられて笑顔になり手を振り返す。あぁ、浄化されていく…
「よう」
「よっ」
隣にいた黒髪にも声をかけられたので、手をあげて応えると、
「ぬぁぁに気軽に挨拶交わしてんじゃああ!!!」
とCが物凄い勢いで勉強道具やらを投げてきた。え、ちょ早すぎて避けれない…!すると、銀髪さんが片手でパシっとそれらを掴んだ。カッコ良すぎる……。
「こらこら、物投げちゃだめだろ!」
「スミマセン」
「おい…先輩に当たったらどうするんだよ」
「ゴメンナサイ」
Cがちゃんと謝ってる……いつもだったら『そこに立ってるのが悪い!!』『当然の報いだ!』とか言うのに…。
「あの……とりあえず勉強始めないと、周りから白い目で見られますよ。あぁ、もう見られてますけど」
今まで気配を消していたDくんが口を開いた。周りを見渡すと、みんな席に着いていて、顔を顰めてこっちを見ている人が多数。ほら、Cが暴れるから…。

おずおずと席に着くと、右隣はC、左隣がEちゃん、右斜め前は黒髪、向かいは銀髪さんになった。やったー。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったな」
問題集を開いていると、銀髪さんが思い出したように言った。
「そういえばそうでしたね…」
言われれば今までずっと名前を知らなかった。髪の色で呼んでいた事を謝りたい。

16:匿名:2021/10/23(土) 16:48

「じゃあ、自己紹介するね。俺の名前はエス。改めてよろしくね!」
「僕はアールだ。よろしく」
銀髪さんがエスさん、黒髪がアールくん。覚えやすい。
「私はCです!!以後お見知り置きを!」
Cがガタッと立ち上がり、エスさんとアールくんの手を片手ずつ掴んで握手をした。もう一生手洗えない…!とかほざいている。
「改めて、私はAで…」
「Eちゃんでーす。よろしくお願いします♡」
「Bです、三度の飯より飯が好きです!エス先輩マジかっけぇっす!!」
「みんないい名前してんじゃん!よろしくね」
とにこにこしてるエスさんにみんな心臓を撃ち抜かれた様子。あ〜、エスさん推しが増えそうだ〜。

唐突にエスさんが言い出した。
「あ、みんなは犬派?猫派?」
「僕は犬派です先輩!」
アールくんが犬に見えてきた。あんなに無邪気に笑えるなら普段からああしてればいいのに…。
「そうなんだな。俺は猫派だ!」
「僕も猫派です先輩!」
「そうなんだな。俺はウーパールーパー派だ!」
「僕もウーパールーパーです!!」
あぁ…意味不明だ、二人の世界になってしまっている。無視しよう。私は目の前の数学の問題に集中した。因数分解楽しい。
ふいに右隣のCを見ると、もう問題集を解き終わったのか頬杖をついてアールくんを見つめていた。アールくんは怪訝な顔をして「何?」と尋ねている。さっきまでの笑顔何だったんだ。

するとCさんがすうっと息を吸い込んだ。
「アール!さんの!好きな!タイプを!教えて!下さい!!」
「好きなタイプか。僕はほのおタイプが好きだ」
「……草」
Dくん草とか言うな。
C白目むいてるし、アールくんわざとだよね…意地悪だな。

Bが眉をひそめて首を捻った。どうやら分からない問題がある様子。
「なぁアール!ここが分かんないから教えてくれ!」
「え?こんなのが分からないのか?ちょっと考えれば分かるだろ」
辛辣すぎる…Bヤケになっておにぎり貪っちゃったじゃん。
「なぁ後輩、ここの問題ってどうやって解くのか分かるか?」
「もちろんです先輩!丁寧に教えて差し上げます。まずこれをこれに代入してこの値を出してそれをまたこれに代入すればこれが出ますよ!」
「おう、ありがとな」
「お安い御用です!」
やばい、温度差に風邪ひきそう。Bが可哀想すぎる…後でお菓子あげよ。

しばらくして、Cが突然バッと顔を上げた。
「アールさん、『I love you』って日本語でどういう意味でしたっけ?私分かんないんですけど」
「え?あなたが嫌いですだろ?」
「違うよ!!」
「なんで違うって分かるんだ?」
C…『私はあなたを愛しています』とか言わせたかったんだね。見え見えだよ。すると、その様子を見ていたエスさんが吹き出した。
「ははっ、Cちゃん面白いな!」
「えっ………………エスさん笑顔超かわいい、お付き合いを前提に結婚」
「身の程を弁えろ」
案の定Cの言葉はアールくんに遮られた。Cってちょろいよね。かわいい頭いい面白いって言っとけば機嫌よくなるし。

「Aちゃん〜、この問題教えて〜」
お、Eちゃんからヘルプだ。いいぞ、数学は好きだからね!
「いいよ!まずこれをここにドーンってしてシュバってやってここにぶち込んでヒュオンってして終わりだよ」
3秒くらいの沈黙が続き、Eちゃんは肩をすくめた。
「聞くんじゃなかった…」
「ごめんね!?」
ていうかEちゃん絶対この問題分かるよね?私の説明力のなさを知らしめるために分からないふりしないで。

「問題集終わっちゃった」
「俺も」
「私も終わった〜」
勉強会が始まってから30分ほど経ち、テーブルの殆どの人が問題集一冊を解き終わってしまったようだ。
他のテーブルからは「何あそこ、キモすぎる…」「こちとらまだ5ページなのに」と聞こえてくる。
「先生〜、解き終わっちゃったんですけどどうすればいいですか?」
と、伸びをしながらEちゃんが担任に尋ねた。
「そうですね…じゃあ、体力づくりにでも走ってきて下さい!」
その言葉に、2年α組は一斉に「え゛」と洩らしたのであった。

17:匿名:2021/10/24(日) 09:46

実は2年α組は、学習能力はずば抜けて優れているが、運動能力が低いのだ。運動が苦手な生徒が多く、50m走の平均タイムは10秒前後、20mシャトルランの平均は30回ほど。ちなみに通常だと8秒、60回程度である。そのおかげで、体育祭では撃沈した。
「嫌です!!走るなら難問20問解いたほうがマシです!!」
Cさんがカッと目を見開いて、ビシッと勉強道具を指差した。
「うーん…でもこのままでいいんですか?取り柄が頭脳しかないクラスになっちゃいますよ」
「そこもこのクラスの愛すべきところなんですよ!!」
と熱弁するC。担任との一騎討ちだ。担任は眼鏡をクイっと上げた。
「2年α組は今のままではいけないと思っています。だからこそ、今のままではいけないと思っています」
「欠点がないクラスなんてつまんないじゃないですかぁ!!欠点のない人は取り柄も殆どないってどっかの大統領も言ってました!!」
お、Cがなんかそれっぽいこと言ってる。「よっ、名言!」とやじると脇腹をチョップされた。この野郎…!

すると、ぐうう〜と誰かのお腹の音が鳴り、Cと担任の会話を遮った。
「先生、バイキングっていつからですか?俺もうお腹が空いて力が出ないんですけど」
と、おにぎり両手に尋ねるB。早いよ、まだ17時半だよ?でも、なんとなくお腹が空いたような。勉強以外でも色々頭を使ったから、なんか食べたい。
「バイキングは18時半からですが…それまですることがないって言うなら、貴方達のしたいことをして下さい」
え…………担任神じゃん、さっきは走らせようとしてたのに。1時間も自由時間にしていいってことだよね。最高だ。
「南都下学園の皆さんは、そちらの先生方の指示に従って下さい」
「あ、分かりました。センセー、やる事なくなっちゃったんで自由時間にしてもいいですかー?」
エスさんが離れた所にいる先生にそう尋ねると、オッケーサインが示され、エスさんはそれにグッドサインを返していた。南都下学園の先生もフランクな人だなぁ。

18:匿名:2021/10/24(日) 09:47

「では各自自由行動にして下さい。あ、それまでに荷物は各班の教室に移動して、18時半にはバイキングに行けるようにしといて下さいね」
担任の言葉に各々が返事をし、テーブルの上の勉強道具たちを片付けて立ち上がった。待って、Dくん手ぶら…何も持ってきてなくない?問題児じゃん!
「え、ちょっとDくん…問題集はどうしたの?」
澄ました顔をしてすっと立ち上がったDくんに声をかけると、さも当たり前かのように、
「え……やったに決まってんじゃん…家で」
「家で!?この合宿の主旨分かってる?」
家でやってくるとかずる賢いな。でも一人でやるより、みんなでやった方が楽しいのに…。
「仲良しこよしでお勉強しましょうって事だよね」
「間違ってないけども」
じゃ、とスタスタと歩いていくDくんの後ろ姿を何とも言えない顔で見つめていると、ぽんと肩を叩かれた。振り向くとCがうざい顔をして立っていた。

「振られちゃったんだね……ドンマイ」
「いや、どこがどう見えてそうなった」
まぁドンマイドンマイ!と嫌味っぽく笑顔を向けてくる。こいつめ…
「ちなみに私は脈アリっぽいけどね!!」
「脈アリ…?」
すると、Cはどーんと胸を張ってアールくんの方へ視線を送った。彼はそれに気づいたようだが、すぐに目を逸らし見なかった事にしていた。アールくん……。
「…どこが脈アリなの?」
「話しかけたら話してくれるもん!!」
曇りのないきらきらとした瞳でそう語るCは健気で、ちょっと可愛らしいのがむかつく。性格はちょっとクセが強いけど、根は本当にいい子なのは分かるから報われればいいなって思う。
「頑張れ!」
「え!?ありがとう、なんかAが優しい、Eー!Aが優しい!!雪降るかもぉ!」
「私はいつも優しいってば」
Eちゃんの元へ駆け寄るCの後に続こうとすると、一人でとぼとぼと歩いている友田さんの姿が目に入った。そうだ、カレー作りの班が一緒ってことは部屋も同じなんだ。この機会に仲良くしたいな。
「友田さん!班一緒だよね、良かったら一緒に行かない?」
最大限に優しく声をかけたつもりだった。少なくとも良い印象は与えられたはず。

「………邪魔、…です」
「え」
あっさりと一蹴され、私は呆然と立ち尽くすしか無かった。遠ざかっていくポニーテールをぼーっと見ていると、CとEちゃんがぱたぱたと駆け寄ってきた。
「えぇ〜、何あの態度…Aちゃん、大丈夫そ?」
「今のAは珍しく優しいのに!!気にしなくて良いからねA!」
どうやら二人も今の様子を見ていたようで、友田さんの冷たい態度に口を尖らせていた。
邪魔って……
「邪魔って!私、可哀想!!!」
「あ、いつものAちゃんだ」
「なんか安心した」
さ、行こう、と背中を押してくれるEちゃん。荷物持ってあげる、と下敷きを持ってくれるC。大好きだと思った。

19:匿名:2021/10/25(月) 20:08

視聴覚室に着き、荷物を持って指定された教室に移動する。教室と言っても、普段授業で使われることがほぼ無い空き教室の事である。α組の女子はB棟の3階の空き教室を各自使うことになっている。
「あぁー疲れた!!」
「Cちゃん頑張ってあと少しだから」
「にしてもこの学校デカすぎるね…」
息を切らしながら長い階段を上り、やっとのことで3階に辿り着いた。普段あまり使われていないこともあり、廊下も教室も綺麗だ。
「空いてるとこならどこでも良いんだよね?じゃあここでいっか」
そう言い、Eちゃんは階段を上がって正面の所にある教室を指差し、中へと進んでいった。私とCも後に続く。

「広ーい!!」
教室の広さは、Cが暴れても気にならない程の広さだった。荷物を適当に置いて見回す。下手したら鬼ごっこでもできそうだ。
「あーたしかに、鬼ごっこやるか!」
「うん。…うん?」
「はーい二人とも、とりあえず物資貰いに行こ!このままじゃ硬い床で寝ることになっちゃうよ」
物資は、布団や毛布などだ。教室には置いてないので、取りに行かなければいけない。面倒くさい。
「あ、でも待って、友田さんがいないじゃん」
友田さんがいない事を思い出した。さっきはスタスタと先に行ってしまったんだった。
「あっ!そうだった友田ちゃんが……あ、いた」
Eちゃんの視線の先を追うと、友田さんが入り口で気まずそうに立っていた。なんか言わなきゃ、と焦りが込み上げて来る。

「友田さんごめん、探しちゃった?」
「………」
返答はない。聞こえていないはずはないのに。あの、ともう一回声をかけるも、反応は無し。…なんか段々イラついてきた。何でこっちが気を遣わなきゃいけないんだ。うんともすんとも言わない友田さんにもどかしさを感じていると、Cが口を開いた。
「友田、聞こえてんなら返事しなさいよぉ!そんなんじゃ私に嫌われちゃうぞ!」
「……ごめんなさい」
ぶっきらぼうにそう言い、友田さんはスタスタと教室の端の方へ向かっていった。どうしよう、極度の人見知り…なのかな。人と話すのが苦手だったり。それならあんまり無理に話しかけない方が…。いやでも、このままだと色々支障が…
「…Aちゃん、Cちゃん、とりあえず布団とか貰いに行こっか」
「そうだね」
「なんだあいつ!!感じ悪い、学級委員として直ちに改善すべき点だ!」
そういえばC学級委員だったな…。ぷんすか!と口で言いながら憤るCを宥めながら、ちらりと教室の隅に座る友田さんを見た。綺麗な顔立ちしてるのになぁ。無愛想だから勿体無い。どうやったら仲良くなれるかな。そもそも一人が好きだったりして。そういえば、友情を破滅させようとしてるんだっけ…
「ちょっ、Aどこ行っ」
もやもやと色んなことを考えていたせいで、思っていた方向とは全く別の方向へと進んでいて、ドンッと勢いよく掃除用具入れにぶつかってしまった。そして運悪く上に置いてあったバケツがぐらりと傾き、運悪く私の頭にカポっと被さった。視界が一瞬で水色に染まった。
「ブフッ!!Aだいじょ…ブフッ!ナイスバケツ!」
「Aちゃんしんど」
ふざけるな、おいそこの二人、バレてるぞ。笑ってるの分かってるから。だからお願いだから誰にも言わないで下さい。言ったらもうお菓子あげないから
「…ま、今のは見なかったことにして、行こ」
バケツを外し、元の場所へ戻す。あーい、と二人は返事をし、私の元へやってきた。未だに隅で座っている友田さんが少し気がかりだが、教室を出た。

「あ、そういえばさっきAちゃんがナイスバケツした時、友田ちゃんちょっと笑ってたよ」
「えっ」
「良かったねA!」
「なんか嬉しくない、ていうかナイスバケツって何」

20:匿名:2021/10/26(火) 20:31

布団や毛布、カーペットなどを抱え、さっき降りた階段を再び上る。1階から3階に上るのキツすぎる…。
教室に入ると、さっきと変わらず隅に座っている友田さんと目が合った。
「あ、友田さんの分も持って来たよ」
「……ありがとうございます」
思ってたけど、友田さんは話す時いつも敬語だ。クラスメートなんだからタメ口で良いのに。
「あと、タメでいいよ」
そう言っても反応は無かったが、もう慣れてきた。…やばい、友田さんのペースに取り込まれそうだ。
カーペットを敷き、布団やらをまとめて置いたところで、Eちゃんがそうだ!と手を叩いた。

「暇だからさーぁ、軽く自己紹介でもしない?」
「自己紹介?」
「ほら、私たちあんまり友田ちゃんのこと知らないし、友田ちゃんも私たちのこと知らないだろうからさ」
「たしかに」
という事で、端にいた友田さんを呼んでカーペットに座り、自己紹介が始まった。
「私から?…あ、Aです。あー、んー、えっと…」
自己紹介って何話せば良いんだろ??好きな食べ物は言ったところでって感じだし、趣味とかも大した事ないし…あれ、なんか凄い考えすぎちゃうな。普段だったらこんなに悩むはずないのに。友田さんを相手にすると妙に慎重になってしまう…何でだ。
「んーと、Aちゃんはしっかり者に見えて結構おバカだから要注意だよ」
「ちょっとEちゃん何余計なこと言ってんの!」
「否定はしないんだね」
「Cうるさいっっ」
友田さんそっちのけでいつものように騒いでしまい、慌てて向き直ると、少し寂しそうな…それでいて妬ましそうな表情で友田さんはぽつりと呟いた。

「仲…良いんだね」
「そう?」
私はCとEちゃんと顔を見合わせた。確かに、ふざけ合ったりふざけ合ったりふざけ合ったりしているから、仲は良い方なのかもしれない。あと、友田さんタメで話してくれて嬉しい。
「まぁね!頭のネジぶっ飛んでるからね!私以外は」
「似た者同士ってことだね♡私以外は」
「Cが一番ぶっ飛んでるからね?あとEちゃんも例外じゃないから」
また騒いでいると、友田さんの表情が歪んでいった。

「……いいなぁ…いいなぁあ…!」
段々と大きくなっていく友田さんの声にぎょっとする。さっきまで大人しかったのに。
「友達がいる人みーんな禿げれば良いのに……!」
しかも結構特殊。やっぱ友達同士で仲良くしてる人達とか地雷なのかな。
「あ、じゃあ友田さん以外みんな禿げるね」
「口を慎めC」
思いっきり抉る事言うじゃんやめてあげて、Eちゃんもたしかにとか言わないの。
「もういいよ…どうせ私はぼっちなんだから…!」
ほら見ろ。友田さん拗ねちゃったじゃん。するとEちゃんは深くため息をついた。
「しょうがないなぁ、そんなに友達が欲しいなら素直に言えばいいのに。はい、これ私の連絡先」
そう言ってQRコードを映し出したスマホの画面を向けるEちゃん。私とCも同じように画面を向けた。

友田さんは嬉しさのあまりか額をカーペットにくっつけた。
「あぁ……あぁ…………スマホ忘れちゃったぁぁ…!」
「おバカーーーーー!!」
Cが友田さんの頭をぺちぺちとする。
「忘れちゃったのかぁ…じゃあ今度交換しよ♡」
「ありがとう……!」
顔を上げた友田さんは涙目だった。なんかこっちまで涙目に…ならなかった。ジャンプをしてポーズを決めているCのせいだ。
「ちなみに私の名前はC!好きなアルファベットはR!何でかと言うと好きな人の名前がアールさんだから!以上!」
「Eちゃんでーす、好きな食べ物は激辛坦々麺♡よろしくね〜」
「友田です、仲良くしてくれると嬉しいな…!」
微笑ましい。私さっきろくに自己紹介出来なかったからちょっと悔しい。
「Aさんもよろしく…!」
まだ緊張は残るものの、最初とは比べものにならないくらい柔らかい表情をした友田さん。やっぱり笑ってた方が綺麗。
「うん、よろしくね!」
目標達成だ。友田さんと仲良くなれて良かった。

21:匿名:2021/10/27(水) 22:59

雑談などをして時間をつぶしていると、そろそろバイキングが始まる時間になった。
「もうすぐバイキング始まるね。早めに行っとこっか」
「あーい」
私たちは教室を後にして、バイキングが行われるA棟へと向かった。お腹空いたから楽しみ!Cはアールさんに会えることが楽しみでたまらないのか、階段を五段飛ばしで駆け降りて行った。危ない。

「それにしても友田ちゃんって美形だよね」
B棟からA棟へと繋がる長い渡り廊下を歩いていると、Eちゃんが言い出した。確かに友田さんは整った顔をしている。キリッとした印象だ。…ただし、喋らなければ。
「えぇ…そ、そうかなぁぁ…嬉しいなぁ……!」
ご覧の通り独特な喋り方をするので、本人曰く友達がいなかっただとか。コンプレックスに思ってるみたいだけど、私はギャップがあっていいと思う。そう言ったら不満そうな顔をされたけど。
「まぁ私には劣るけど〜」
「えぇ……」
したり顔をしながら言うEちゃん。確かにEちゃんも可愛い、第一印象がそうだった。いかにも女の子、という感じだ。
「じゃあ私は?」
そう聞くと、Eちゃんはうーん、と首を捻った。友田さんも首を傾げている。可愛い。
「中の中…つまり、普通だね!」
「ふつ、う…?」
「うん、Aちゃんは普通よりちょっと可愛いくらいだと思うよ」
嘘だろ…もっと上だと思ってたのに…。せめて上の下だと思ってたのに…。

「Aに限ってそれは無いでしょ!せいぜい下の上くらいじゃなーい?」
先に走って行ったはずのCが現れた。背後からぬっと。いや、怖いんだけど…。前からならまだしも何で後ろから…
「Cちゃんってばびっくりさせないでよ〜先に行ったかと思った」
「え!私はさっきから一緒にいたよ!?」
「え?」
さっきから一緒にいた…?いや、そんなはずない。Cはさっき階段を駆け降りて先に走って行ったはず。しっかりこの目で見た。Eちゃん、友田さんと顔を見合わせていると、Cがにやりと笑った。
「うっそーん!みんなおつむが弱いなぁ!ただ単に階段降りて隠れてて今後ろから脅かしただけだよーん!」
「…………二人とも、行こっか」
「ちょっと!!無視しないでよ!」
ぽかぽかと背中を叩いてくるC。痛い痛い、普通に痛い。やっぱパワーゴリラだな

「もー、Cちゃんそんなんだとアールくんに冷められちゃうよ」
「あぁ…冷める熱もないから大丈夫、元から冷めてるようなもんだし」
開き直ってる…だと!?Cが成長している…!
「そこが好きなんだけどね!本当カッコ良すぎて困っちゃうよね、あ、ちなみに私アールさんと同じリンス買ったんだ」
「アールさんって……誰…?」
友田さんはきょとんと首を傾げている。そっか、友田さんは知らないのか。
「アールさんを知らないのかぁ!?あの顔面大優勝を!黒髪は正義だと確信するぞ!」
「黒髪……あぁ、あのかっこいい人かぁ…!」
「でしょぉお!!私の旦那がお世話になってます!!」
あんたの旦那じゃねぇよ!
「なんかそのうちCちゃん、本人の前でボロ出そう」
いや、もう思いっきり出てるから。多分大好きなこともバレてるから。だってこんなに馬鹿でかい声で騒いでるんだもん…

「お、噂をすれば」
A棟の食堂に着くと、エスさんと満面の笑みで話しているアールさんの姿が。あ、Cぶっ倒れた。
「うーん、100点中1000点!!」
「分かったから起きて」
手を合わせてぶっ倒れているCを起こして、食堂の中へと入っていく。結構みんな来てるみたいだ。BやDくんもいる。Bはもう食べてる。美味しそうな料理の香りが鼻腔をくすぐった。
「いい匂い」
「そうだね!!アールさんのいい匂いがする!!好き!!」
「あーあCちゃんやったな」
Cはお馬鹿だから、同じ空間に張本人がいても声量を調節できないんだ。お馬鹿だから。
つまり、本人にそれが届くってわけだ。
しんとなった食堂。さっきまであんなにガヤガヤしてたのにCの一言で一瞬で静寂が訪れた。
すると、アールさんは平然とした顔で言った。
「僕が使ってる柔軟剤を知りたいか?」
あ、そうだ忘れてた。この人も結構ボケ担当だった。

22:匿名:2021/10/28(木) 22:03

「知りたいです!!教えてください!」
ぺこり!!と綺麗なお辞儀をするC。アールさんの前でだけ礼儀正しいよね。
「じゃあ、バイキングでどっちが多く食べれるか勝負だ。僕に勝ったら柔軟剤教えてやる」
「望むところです!」
何この人達中学生?早速席に着いてるんだけど。しかも向かい合ってるし、仲良いかよ
「誰かぁー審判おなしゃす!あ、Aでいいや」
「“で”じゃなくて“が”って言ってよ」
まぁしょうがない、私優しいから審判やってあげるよ。後で諭吉ちょうだいね。
「で、何を食べて競うの?」
「うーん、どうしよっかな〜折角だからデザートにしちゃうか」
「それが一番タチ悪いよ…」
バイキングのメニューは豊富である。お肉やお魚、サラダにシチュー。和風から洋風まで色々ある。人数が莫大なぶん、料理の種類もそれに比例しているのだ。

「あっアールさんの好きな食べ物って何ですか?」
Cが少し緊張気味に訊ねた。さっきまで普通だったのに…ていうか対決するならさっさとしてほしいな、私のお腹が音を立ててるんだ。
アールさんは顎に手を当て、首を傾げた。
「んー…甘いものとか」
「えっかわ…甘党なんですね!」
甘党なのは想定内。なんかありがちだよね。するとCは何かを思いついたような表情に変わった。
「本当に好きなんですか?」
「あぁ、好きだ」
「ありがとうございます!!!」
??…あ、もしかしてわざと聞き返して“好き”って言わせたのか。告白させた感じにして。うわぁやりよる。

「よし、いただきます!!」
対決が始まった。ミートパスタを多く食べれた方が勝ちということになった。両者ともフォークを華麗に回し、パスタを絡め取っていく。私は何を見せられているのだろうか。
そして2分ほど経ったところで、 Cが手を止めた。
「どうしたの?」
「いや、私気づいちゃってさ………パスタって…ずっと食べてると飽きるって…」
そこ…?まぁ分からなくはないけど…まだ2分しか経ってないのに。アールさんも手を止めている。
「もしかして…二人とも少食?」
返事はなかった。無言は肯定と見るぞ。
するとそこに、料理を取りに行っていたエスさんが戻ってきた。ワクワクした顔をしていて可愛らしい。

23:匿名:2021/10/28(木) 22:06

「エスさんこんばんは!」
「Aちゃん、こんばんは!」
そう声をかけるとにこっと笑って返してくれるエスさんに心がときめいた。何だろ、一家に一人欲しい。
「先輩!何取ってきたんですか?」
さっきとは打って変わって明るいアールさん。いつも切り替えが早すぎて怖い。
「あぁ、コロッケとカレーよそってきた!コロッケカレーにするんだ」
「かわいい」
「かわいい」
「かわいい」
エスさん以外の3人の声が揃った。もう癒しでしかないな。本当に先輩かな、年下に見えてきた。いい意味で。
「へへっ、ありがとな!でもかっこいいの方が嬉しいな」
にこっと笑ったエスさんの笑顔により心をやられた者が数名。胸を押さえています。幸い、命に別状はありません。
「エスさんかっこいいです」
「さすが先輩かっこいいです!」
「かっこE超えてかっこDですよ!!」
こいつらちょろいなって思われてそう。全然いいけど。それにしても毎回お礼言ってくれるエスさん優しすぎる。

「それで、後輩たちは何してたんだ?」
アールさんの隣へと腰掛け、コロッケカレーをもぐもぐしながら訊ねるエスさん。アールさんはデザートのチーズケーキを口に運びながら答えた。
「Cが僕の使ってる柔軟剤を知りたいって言ったので、パスタ大食い対決で勝ったら教えてあげるって言ったんです」
「えぇ、大食いとかお前の苦手分野じゃんか!」
無理すんなよー、とエスさん。やっぱりアールさんは少食なんだ。ただ、甘いものは別腹、といったところだろうか。
「結局アールさんの使ってる柔軟剤って何ですか?」
Cがチーズケーキを頬張りながら訊ねた。アールさんがチーズケーキを食べるなら私も食べる!と取っていた。
「ウルトラフローラルだ」
必殺技の名前みたい…なんか弱そう…。ダサッ…と呟くEちゃんの声が聞こえたぞ。
「絶対同じ匂いになるんで待っててください!!」
Cのお財布事情が心配だ。ワン・ツー・スリーンスも調べたら結構良いお値段してたよ。大丈夫?
「そうだったのか。てっきり、ドルチェアンドガッバーナかと思ってた」
「エスさん!?素ですかボケですか?」
香水かと思ってた、と独りごちるエスさんに訊くと、チーズケーキを食べ終えたアールさんが代わりに答えた。
「素だ」
「うん、知ってた」
どっちにしろかわいいから良し。

24:匿名:2021/10/29(金) 23:28

「コロッケカレー美味しいぞ!Aちゃんも食べなよ!」
「えっ、いいんですか?」
もぐもぐしながら笑顔のエスさん。もしかしてそれってあーんってしてくれるってことですか??最高!
喜んで口を開けていると、右斜め前に座るアールさんが顔を顰めた。
「何で口開けてんだよ」
「だってエスさんがあーんってしてくれるから…」
「そんなこと一言も言ってないだろ」
た、たしかに…!てっきりやってもらえるのかと思っていた。勘違い恥ずかしいし、口開けてるの親鳥から餌もらう雛鳥かよって感じだし最悪。がっくりと肩を落としていると、エスさんがきょとんと首を傾げた。
「やってあげないとも言ってないぞ?」
「え!最高!!」
「ちなみにやらないけどな!」
「泣いていいですか?」
清々しい笑顔でそんなこと言わないでくださいよ。あとアールさん、勝手に泣けよとか辛辣すぎる。悔し紛れにチャーハンを口にかきこんだ。お行儀悪くてごめんなさい。

そんな私を見て、隣に座るCが言った。憐れむような表情をしている。
「…私が代わりにあーんしてあげるよ」
「地球が360度回転してもやだ」
なんだと!?とフォークで刺されそうになった。怖すぎるんだけど。避けれたはいいものの、のけぞった反動で丁度近くに来たEちゃんにぶつかってしまった。
「ぎゃっ」
「わっ!Eちゃああんごめん!」
その拍子に、Eちゃんが手に持っていたサラダの入ったお皿がぐらりと揺れ、上に乗っかっていたミニトマトがころんと落ちてしまった。ただ、被害はそれだけでは済まなかった。そのミニトマトは逃げ出したくてしょうがなかったのか止まらない。ころころと転がっていき、ある人物の足元で止まった。
そう、Dくんである。確か前にも似たようなことがあった気が…嫌な予感しかしない、早く拾わなければ…!

25:匿名:2021/10/29(金) 23:29

「Dくん、足元に気をつ…」
そう言いかけた瞬間、Dくんが歩き出し、右足の爪先がミニトマトに当たった。つまり、蹴られたのだ。本人に悪気はない。全てのタイミングが悪かったのだ。蹴られたミニトマトは走り出し、デザートを取ってテーブルに戻ろうとしているBの足元へ。Bのトレーには、ショートケーキ、カステラ、ゼリーなど様々なスイーツが乗っかっていた。何としてでも死守せねば!!!
「B!!止まって!歩かないで!動かないで!」
「なんだよ、びっくりした」
いきなり大声を出した私にびっくりしたのか、Bは肩を跳ね上がらせた。
「とにかく、足元のトマト踏まないように気をつけてね」
「え?トマト?何のこと…」
べちゃっ。
私の忠告も聞かず、足を踏み出したB。その左足によって、ミニトマトは潰されてしまった。

「ああ!折角教えてあげたのに!」
そう嘆く私とEちゃん。事の発端となったCは呑気にエスさんと話をしている。ずるいほんと許さん。棒立ちしているBの元へペーパーを持って向かう。
「Bは悪くないよ。元はと言えばCが刺そうとしてきたから悪いんだよ」
「え、何それこわ」
隣にいるEちゃんがぎょっとしている。Cはそういう子なんだよ…。
「あの…本当にごめん、俺早くデザートが食べたい一心で足元なんて気に留めてなくて…」
ごめんな、と頭を下げるB。そんな…!
「Bは悪くないって言ってんでしょ!悪いのはお馬鹿なCと帰巣本能が高いトマトだから!」
と宥めても、食べ物を潰してしまったという罪悪感からかBは頭を上げない。
「…早くしないとショートケーキ冷めるよ」
「そうだな早く食べよっと」
そう言うとケロッとテーブルに戻っていくB。ショートケーキは元々冷めてるけど、単純でよかった。床を拭き終わると、Bはお礼にショートケーキの上のいちごをくれた。私は?と隣のEちゃんが言うので、はんぶんこした。

元のテーブルへ戻り、エスさんとCの話に混ざる。
「何の話してたの?」
「Aの話だぜ、ベイベー」
Cうざいからエスさんと話そ…。
「エスさんって彼女いるんですか?」
試しに訊いてみると、アールさんがくわっと目を見開いた。
「いるわけないだろ!」
「いないけどさ⁉︎そんな言い方しなくてもいいだろ⁉︎」
そう言い、エスさんはぷんぷんしながら水をぐびっと飲み干した。いないんだ、嬉しいな。
「え、違うんです先輩、そういう意味じゃなくて先輩と釣り合う人がいないって事ですよ」
なので安心してください、と慰めにならない言葉をかけている。今思ったけど、なんでアールさんはこんなにエスさんの保護者みたいなんだろう。

26:匿名:2021/10/31(日) 22:02

「アールさんってなんでそんなにエスさんを慕ってるの?」
「え、なんでって…先輩の命の恩人だからだ。僕が」
訊ねてみると、アールさんはけろっとした顔で言った。“命の恩人”?“僕が”…?普通逆じゃない?
「命の恩人って…?」
「エスさんが車道で動けなくなっている猫を助けた時、車にドカーンってされそうになったところを僕が助けたんだ」
なるほど……?と首を傾けている一方でCは素敵!かっこいい!とうっとりしている。
「あの時の後輩マジでカッコよかったんだよなぁ〜」
しみじみと呟くエスさん。アールさんは照れたように頭をかいている。まるで乙女みたいに。

エスさんの話によると、猫を助ける事しか頭になく、向かってくる車に気がつかなかったらしい。そこを、アールさんが風の如く助けてくれただとか。ざっくりとした説明だが、印象的な出会い方をしたのだと分かった。
「『一生ついていきます!』って言ったら、まさかの自分より年下だったっていうね!」
エスさんはハハハ!と笑い声をあげ、すでに空っぽのグラスをぐいっと口元に持っていった。案の定、お水入れますね、とアールさんが水を注いだ。本当はアールさんが年上なのではないか、と錯覚させられる。

「危なっかしいから、って一緒にいてくれるんだ」
いつもありがとな、とアールさんに向かって微笑むエスさんに、Cがごちんと頭を下げた。
「どういたしましてぇ!!」
「あんた宛てじゃないよ」
本当に頭ん中お花畑だな。むしろ羨ましいくらいだ。
「先輩は本当に危なっかしいので…この間なんて不良に煙草を吸わされそうになってたし、校舎内で全力鬼ごっこする馬鹿どもにブッ飛ばされそうになってたし…」
治安悪くない?南都下学園大丈夫?うちの高校平和だよ、来る?
とにかくエスさんは巻き込まれ体質であり、天然なので巻き込まれるまで気づかないそうだ。
猫を助けたりだとか、学校を抜け出したりだとか、基本的に気分屋なことも分かる。
「その度に後輩に助けてもらって、もうどっちが先輩かってね」
「自分にとって、かっこいいと感じる人が先輩ですよ」
だから、僕にとっての先輩は貴方です。アールさんはそう言い、エスさんに微笑みかけた。そんな風に笑えるなんて、と何度目か分からない事を思った。
「じゃあ、俺にとってはお前が先輩だな!」
屈託のない笑顔で、エスさんは言った。
どうしよう、惚れそう…!ちらっとアールさんを見ると、胸を押さえていた。

27:匿名:2021/10/31(日) 22:04

「僕にとっての先輩は先輩だけです…!先輩にとっての先輩は僕だけですか?」
胸を押さえながら、ちょっとややこしい質問をしてじっと見つめるアールさん。それに対して、
「当たり前だろ!」
と笑うエスさん。なんだろ、朝ドラに出れそう。ヒロインは私でお願いします、ギャラはいりません。
「やっぱ先輩かっこいいです!」
「だろ?」
二人は立ち上がってお皿を片付け、食堂の出口へと歩いていった。明らかにオーラがある二人に、周りの視線は釘付けだ。それを見たCはグラスを握りしめた。
「あぁ、また同担が増える…!ぐぬぬ…」
「C落ち着いて、グラス割れるから…てかちょっと待ってそれさっきエスさんが飲んでたやつ!何で持って…飲むな!」
結果、周りの視線を独り占めしてしまった。ハズカシイ。

「なーんか、エスさん落とせそうにないなぁわたし」
黙々とサラダを口に入れていたEちゃんが、ぽつりと言った。唐突に耳に入ったその言葉に、私とCは間抜けな声を洩らした。
「…え?」
「は?ひ?」
落とす…?と首を傾げる私たちを見て、Eちゃんは苦笑いを浮かべた。
「冗談冗談」
「ぜんっぜん冗談に聞こえないんだけど!?」
Cは混乱している。ついでに言うと私も混乱している。エスさんは私も好きだ。だけどそれは恋愛的な意味ではなくて、憧れとかそういう範囲。付き合いたい、とかは本気で考えたことは無い。Eちゃんも同じだと思っていた。だがさっきの声音、表情からして………………

いや、本当に冗談っぽいな。
「あ…嘘か」
Cもどうやら察したのか、一気に冷めて肩を落とした。Eちゃんは嘘をつくとき、瞬きが多くなるのだ。
「えー、つまんないの〜、もっと騙されてよお」
見破られたのが気に入らないのか、Eちゃんはむすっと頬を膨らませた。Cも負けじと口を尖らせる。
「今度アールさんの事好きって言ってみろ、あんたの命はないぜ!」
「アールさんのことだぁい好き♡」
「キエエェェ!!」
キエエェェじゃないよ、馬鹿なの?フォーク振り回さないで。周りからの視線に耐えられず、私は近くのテーブルにいる友田さんの元へと避難した。

「友田さん助けて、不審者がいる」
「えぇ…えと…じゃあ、これで…」
そう縋り付くと、友田さんはフォークを差し出した。これで…じゃないのよ。Cと同じになっちゃうよ。
「あ…こっちに向かってきた…」
「いや来んなし」

28:匿名:2021/11/07(日) 16:18

片手でEちゃんの首根っこを掴んで引きずりながら、ずんずんとこっちに向かってくるC。Eちゃんは死んだ目をしている。
「みんな食べ終わった事だし、教室戻ろー!」
「そうだね、Eちゃん離してあげて」
あっけらかんと言うCに、Eちゃんの首根っこから手を離させる。友田さんにも声をかけ食堂を出ようとした。

「グエッ」
出ようとしたのだが、出入り口のところの段差に躓いてこけ、みっともない声を出してしまった。Eちゃんと友田さんが心配そうに声をかけてくれた。
「Aちゃん大丈夫?」
「いっ、痛そう……!」
恥ずかしく思いながら起き上がると、Cが吹き出した。
「ブフォ!ドジ!」
「後で覚えてろよ」
ケラケラと笑うCの頭にチョップを入れていると、スッと影が落ちた。この影は…Dくんだ!影からも虚無感を感じる!答え合わせも兼ねて振り返ると、案の定Dくんがいた。光のない目に急かされ、声をかける。
「Dくんごめんね、今退くから」
「早く俺に道を開けろ!」
…いつもと声違う気がする。ていうかそもそもそんなテンションの台詞言わないでしょ。
「出てきなさい!そこにいるんでしょ!」
Cが声を出すと、Dくんの背中からひょっこりとBが顔を覗かせた。よう、と呑気に手をあげている。BがDくんにアテレコをしてたってことだ。Dくんは鼻で笑うと、先に歩いて行ってしまった。せっかくなら一緒に戻れば良かったのに。
Bは肩をすくめた。
「あーあ、行っちまったよ、お前のせいだ!」
そう言い、Cに向かって指を差すB。刺されるぞ。

「はぁぁ?人に指差すなバカ!」
「バカって言うなバカ」
「この…カスが!」
「トゥース!!」
始まったよ…意味不明の取っ組み合いが。口が悪すぎる、もう止められない、逃げよう。
呆れた顔をするEちゃんと、困った表情をしている友田さんを連れ、退散。
戻る途中にも、二人の言い合いは耳に届いてくる。
「お前、アールに言うぞ!!」
「!!それは卑怯!そしたら私だってエスさんに言うから」
「言ったらお前の食料全部奪うから」
「関係ないけど喉カラカラ」
結局、二人は飲み物を飲みに食堂へ戻って行った。仲良いかよ。
とりあえず、私達は先に自分たちの部屋、教室へと戻った。

「美味しかったね〜♡特にキムチと麻婆豆腐と…」
「ね、美味しかったね」
教室に着き、しばらくお喋りをしていると、同じクラスの女の子、萌無美ちゃんがドアをコンコンして入ってきた。
「あ、もぶみちゃんどしたの?」
Eちゃんが訊ねると、萌無美ちゃんはふふっと笑った。笑い方女の子だなぁ。Cなんてブフォだぞ。
「お風呂の時間まで暇だから、良かったらお話ししない?」
「え、全然いいよ。なに話そっか」
私の問いに、萌無美ちゃんは一層顔を綻ばせ、人差し指を口の動きに合わせて揺らした。
「こ・い・バ・ナ・!」
「おぉ!イッツファンタスティック!」
いつの間にか戻ってきていたCがパチンと指を鳴らした。発音良いのがむかつく。
「よし、みんなで恋バナしましょ!」
無邪気に笑う萌無美ちゃん。
恋なんてしてないからネタ提供は出来ないけど、やっぱりJKにとって恋バナというのはときめくものだなぁ、みつえ。
あんまり気にしてなかったけど、Eちゃんや友田さんも好きな人いるのかな…もしくは気になる人とか。
そうして、私とC、Eちゃんと友田さん、そして萌無美ちゃんの五人で円を作り、恋バナが始まった。

29:匿名:2021/11/07(日) 16:21

「司会は私、萌無美が務めさせていただきます。どうぞ宜しくお願いします」
ツッコみたく思いつつもグッと堪え、拍手を送る。もっとラフなのを想像してたんだけど。
「じゃあまず、Aさんからどうぞ」
司会に促され、特に恋のネタもない私がトップバッターに。まぁ引き立て役にはなれるかもね。
「んーと、Aです。どうも」
「知ってる」
「Cうるさい」
うーん、と考えを巡らせる。そこでパッとエスさんの笑顔が思い浮かんだ。
「好きな人、とまではいかないけど…話してて楽しいなって感じるのは、」
そこまで言いかけたところで、左に座るCからの視線を強く感じた。きっと全て見透かされているけども構うな。
「エスさ…」
「知ってる」
「お黙り」
Cに軽めに一発入れ、三人に向き直る。なんで正座してるんだろ、もっとラフにいこうよ。そう思いつつ口を開く。

「エスさんラブかな」
「えっ?」
やばい口が滑った。なんて滑り方だ。しかも結構大きめの声で言ってしまった。C、いや、アールさんに殺られる。
今校舎揺れなかった??気のせいか……
Cが私の肩をぽんと叩いた。漫画で見るような綺麗な弧を口元に描いている。
「A、アールさんからの攻撃は全て私が受け止める。だから500円あげる」
「どういう事だよ」
はい、と500円玉が右手に乗せられた。よく分かんないけどラッキー。
「さあ!恋!私のダーリン!」
「なにこれ」と困惑するEちゃん達。ごめん私にも分からない、と首を横に振る。
すると、階段を上る足音が聞こえてきて、それは段々と大きくなってきた。あ…終わったかもしれない。でもCが盾になってくれるらしいし…とホッとしたのも束の間、私たちがいる教室の前でその足音は止まった。
Cはドアの前で仁王立ちをしている。その背中から、勇敢さは感じられない。ただ単にアールさんからの攻撃を受けたい、そう伝わってくる。
そして、ガラガラ、とドアは開かれた。

途端に、安堵した。
そこにいたのはアールさんではなく、同じクラスの女子だった。Cはちぇ、と口を尖らせ元の場所へ座った。
「みんな〜、食堂爆発したから近寄らないでね〜」
「了解…え?」
平然とした口調で述べる彼女に、私達は目を丸くした。
“食堂爆発”だと?
「なんかピーマン苦手な生徒が間違えてピーマン入りの料理食べちゃって〜、その悲鳴で爆発したらしいよ〜」
じゃね〜、とひらひらと手を振り、彼女は去っていった。
ピーマン…悲鳴…爆発…
今日も平和だなあ。
「えー、どんな悲鳴だったんだろ気になる」
Eちゃんは興味津々。友田さんは眉を下げて笑っている。
「ってか…その場にいた人たちどうなったの」
どんな感じの爆発だったのかは分からないけど…。疑問に思って口に出すと、Cがおどけたように言った。
「多分、みんなどうにかして避けたでしょ!」
「そのどうにかを知りたい」
α組の生徒がそこにいたとしても多分唐突すぎて何もできないだろうな。もちろん私も。ただ、ごく稀にCやBの読めない奴らが何か奇跡を起こすかもしれない。

「確か今って南都下学園が食べる時間でしょ?」
「え、時間分けられてたの?」
そうだよ、とCは説明をしてくれた。どうやら、丸々高校と南都下学園が同じ時間に食べると人数が多くて混雑してしまうため、時間で区切られていたらしい。そして今は南都下学園が食べる時間だということだそうだ。じゃあなんでエスさんとアールさんあの時間にいたんだよ…。
「南都下学園は身体能力がずば抜けて高いから、突然の爆発でも多分対応できると思うよ」
「すご…」
フッ!とドヤ顔をするCは置いといて、心当たりのある事を思い出していた。
昨日、そして今朝。エスさんとアールさんは去る時、物凄く速かった事を。辻褄が合ったことに感動する。
「それで、Aさんの好きな人ってエスさんなんだっけ?」
「あ、いや!恋愛的な好きとまではいかないけど、話してて楽しいなぁって」
萌無美ちゃんが純粋な瞳で訊いてきたので、慌てて説明する。話してて楽しいし癒される。そして何より優しくてかっこよくて可愛い。
好きだけど、恋愛としての好きではない、が一番相応しいと思う。
さっきは口が滑ってトリプルアクセルをして“エスさんラブ”とか言ってしまったけど。

30:匿名:2021/11/07(日) 16:24

「かっこいいよね、エスさん」
「わかる〜あれは絶対モテる」
「話してみたいなぁ……!」
萌無美ちゃん、Eちゃん、友田さんと意気投合してエスさんの話で盛り上がっていると、Cが身を乗り出してきた。
「はーいじゃあ次、私ね!私の好きな人はアールさんでーす!」
うん、知ってる。
口に出したかったが、遮ったら殴られそうだったのでやめた。私偉い。
Eちゃんと友田さんも同じような表情をしている。萌無美ちゃんはいい子だから、純粋な瞳で「何処に惚れたの?」と訊いている。Cはよくぞ訊いてくれました!と言わんばかりの笑顔。
「顔!!」
潔くてよろしい!
「確かにかっこいいよね!」
「一目惚れなんですぅ〜」
にこにことしている萌無美ちゃん、照れ照れとしているC、それを見守る私たち。
「ギャップがあってかっこいいんだよね」
Cはうっとりと語る。
いや…あれはギャップがありすぎる気がする…エスさんの前ではわんこみたいに従順なのに、他の人に対しては塩対応すぎる。もはや塩の味すらもしない、水。

やれやれと言うようにEちゃんが肩をすくめた。
「女子ってギャップに弱いよね〜Eちゃんには分からないや♡」
「エスさん舌ピ開いてたよ」
それを伝えると、Eちゃんは目をかっ開いてぶっ倒れた。人のこと言えないじゃん。
萌無美ちゃんの目線は友田さんへと移った。
「友田さんは、気になる人とかいるの?」
「えっ…わ、私……?」
突然話を振られ、友田さんはおどおどしている。わずかに頬を染め、友田さんは口を開いた。
「私は…ええと………び、Bくんが気になってて…」
「B!?」
予想外の人物に思わず大きな声を出してしまった。Bってあの食いしん坊の…?
「うん、…いっぱい食べるとことか、誰とでも気さくに話せるとことかいいなって……」
語尾はどんどん尻すぼみになっていき、恥ずかしそうに俯く友田さん。恋する乙女って可愛い。
「いいじゃん!応援するね♡」
「ありがとう……!」
なんて微笑ましいんだ!眩しい、眩しすぎる!と、あまりに微笑ましすぎて両手で目を塞いでいると、何やってんの、とCに引かれた。真顔で引かないで。

「あ、ちなみに私はエスさんが好きぃ〜付き合いたいとかじゃないけど!」
小さく手を挙げ、Eちゃんが言った。わかる、エスさんは付き合いたいというより話していたい。
「一家に一人欲しいよね」
「それなぁ、全肯定してくれそう」
二人で盛り上がっていると、萌無美ちゃんがふふっと笑った。その笑い方好き。
「二人とも、姉妹みたい」
「だよねー!浅はかさが似てるっていうかーなんかそんな感じー!」
よし、Eちゃん、C懲らしめるぞ!オー!
拳を作ったところで、友田さんが時計を見上げた。
「あ……もうすぐお風呂の時間だ」
時計は19時50分を示している。私たちは20時からお風呂。浴室はA棟にあるので、着替えやタオルなどを持って移動しなければならない。また移動か、面倒くさいな…。
浴室があるなら、宿泊する用の部屋もあればいいのに。
「萌無美ちゃんのグループは何時からお風呂?」
「20時半からだよ。最後だけどのんびり出来るから嬉しいな」
またね、と微笑んで萌無美ちゃんは出て行った。
そういえば好きな人聞いてないな、後で聞こう。

「行こっか」
「ラジャー!」
お風呂セットを準備して、A棟の浴室へと向かった。
その途中で、風呂から上がってきたBのグループとすれ違った。Cが手を振り、Bが立ち止まる。
「やっほー」
「おう、これから風呂?」
タオルでガシガシと髪の毛を拭きながら訊くB。
「そだよ!ね、友田!」
「えっ、はっ…うん…!」
Cなりの配慮だろうか、友田さんにも話を振り、間接的にBと会話できるようにしている。多分、友田さんの性格だと直接話すのは難易度が高いと分かっているからだ。そういう所しっかりしている。
「めっちゃお風呂場綺麗だったぞ、あと出入り口の近くに自販機あったし!」
俺はコーヒー牛乳買った、と片手に持って見せている。話が弾んでいるようだったので、私とEちゃんは先に向かうことにした。

31:匿名:2021/11/14(日) 09:01

「みんな恋してんだね〜」
「そうだね」
Eちゃんと会話をしながら、お風呂へと向かう。かなりゆっくり歩いているけど、二人はまだ来ない。よっぽど会話が弾んでいるんだろう。
「それにしてもすごいよね、Cちゃんて」
Eちゃんが感心したように呟いた。褒めるなんて珍しい。
「いつも頭おかしいけど、案外しっかりしてるよね、頭おかしいけど」
「まあ…たしかに」
ま、私のしっかりさには劣るけど!とEちゃんは笑った。まぁ…たしかに。
「ところでさぁ〜」
ぴたっと足を止める私たち。
「お風呂って……どこ?」
Eちゃんの言葉だけが、暗い廊下に響いた。

雨が降っているせいで、校内は暗い。
そもそも、電気がついてない時点でおかしいのだ。使われる場所なら、真っ暗なはずはない。
つまり、お風呂に行くのはこの道ではない。
私たちは迷子になったのだ。
「この学校広すぎるんだよね、こんなとこ来たことないし、フラメンコ教室とか、なにそれ…」
項垂れるEちゃんを励ます。
「とりあえず戻ってみようよ。そしたらCたちとも合流できるかもだし」
ね?と声をかけると、こくりとEちゃんは頷いた。
どうやら、Eちゃんは暗い所が苦手らしい。手は小刻みに震えているし、声もいつもより小さい。私はホラーとか大好きだから任せて。
「怖かったら私にしがみついててもいいよ」
「いや、それは遠慮しておく」
「なんでよ!」
遠慮しておくとは言ったものの、やっぱり怖いのか、Eちゃんは私の服の裾を掴んだ。

「やっぱ怖いんだ」
思わず笑うと、Eちゃんはむっとした。
「Eちゃん女の子だからこういうのも怖いんですぅー」
「私も女の子ですぅー」
ふざけ合いながら歩いていく。さっきよりは暗さに目が慣れたし、よく見える。
私とEちゃんの足音が廊下に響く。暗いのにどうしてここにきてしまったのかというと…ただ単に方向音痴、判断能力の低下、早くお風呂に入りたいぜ!という気持ち、これらが原因だ。
きっと普通なら、こっちは暗いから行かない方がいいよ、となるだろう。だが私たちは話に花を咲かせすぎて、意味のわからんフラメンコ教室まで来てしまったのだ。

「この学校なんなの、なんでこんなに迷路みたいなの?」
眉間に皺を寄せるEちゃんに返す言葉も見つからない。
この学校、丸々高校は色々と変なところが多い。偏差値がとても高く、ここ付近の公立高校では飛び抜けて頭がいい。だがしかし、運動神経が悪すぎる。
まぁそれは置いといて、とにかく敷地が広い。噂によると、昔三つの学校が合併してできた高校だとか。詳しくは知らないけど。
「学校を作った人が迷路好きだったんだよ!たぶん!」
「そっかぁ!」
私たちは今思考停止状態である。多分、今テストを受けろと言われたら2問ほど落としてしまうだろう。

「なんか足音が…足、足音が聞こえる」
「落ち着いて」
友田さん化しそうなEちゃんを落ち着かせて、角を曲が
「ばあ!!!」
「は……!?」
突然の大声。全身に鳥肌が立ち、足がすくむ。
ドッドッと心臓が脈打つ。驚き、それとともに感じる怒り。
Eちゃんはあまりの怖さにぽろぽろと涙をこぼしている。ふざけんな。Eちゃんの背中を優しくさすり、安心させた。ぐっと歯を噛み締め、怒りを堪える。拳を握る。爪が手のひらに食い込んで痛いけど構わない。
顔は微かにしか見えないが、多分男子。髪型はマッシュのような丸みのあるシルエット。手元には、棒付きのアメ。そしてぶかぶかのカーディガン。
間違いない、この子は1年生の、
「ゼロでーっす、お見知り置きを〜!」
やっぱり、そうだ。
暗い廊下に似合わない明るい声。それが、更に私を苛立たせた。

32:匿名:2021/11/20(土) 18:50

ムカつく。その感情が私を支配した。今すぐに悪態をつきたい、が、それをしてしまったら負けな気がする。
謎のプライドから、私は言葉を呑み込んだ。
胸がもやもや、イライラしてしょうがないけど、相手にしたくないタイプだ。
「自己紹介されたらし返すのが常識ですよ?」
馬鹿にしたような表情で、“ゼロ”は顔を覗き込んできた。
なんなんだこいつ。
「別に非常識でいいよ」
そう返すと、ゼロは「ふーん」とアメを口に入れてボリボリと噛んだ。虫歯になっちまえ!
「それにしても、人を脅かすのはどうかと思うな」
ましてや初対面の人間に対して。驚かしてきたのがCとかならまだ許せるけど。
Eちゃんは泣き止んだっぽいが、まだ不安げな表情をしている。
「ごめんなさーい」
ゼロの面白がったような謝り方に、下唇を噛んだ。もういい。私はEちゃんの手を引きその場を後にした。

たしか彼は1年α組の生徒。校内で何度か見かけたことはある。髪色が派手とか、制服を着崩しているとか特別な見た目をしている訳ではない。だが、特殊な雰囲気から、普通の生徒ではない事を感じ取っていた。
予想は、当たり。
へらへらしている様に見えて、隙がない。何を言っても上手く躱され、話にならない。
だから相手にするのはやめた。
「Aちゃん…なんであの子、あんなとこにいたんだと思う?」
しばらく進み、電気のついているところまで来て、Eちゃんが口を開いた。
「さぁ…でも、迷った、とも考えにくいよね」
私たちはお風呂に向かう途中だったけど、彼は何にも持っていなかったし、ましてや焦っている様子もなかった。

するとEちゃんが思い付いたように手を叩いた。
「わかった、私かAちゃんのどっちかに一目惚れして、後をつけてきたんだよ!」
「なわけあるか!」
てへぺろ♡とEちゃん。大体一目惚れなんてされるほど私は華やかな見た目してないし、ごくごく普通の女子生徒。
そもそもゼロって子はそんな単純そうに見えない。偏見だけど、計算高くてずる賢そうだし。
「はあ〜ぁ、とんだ災難だったね」
「ね…」
ようやくお風呂場へと辿り着いた。レトロな雰囲気の旅館風なところだ。なんでこんなとこにお金かけてんだよ。
とりあえず、私とEちゃんは女湯の方へと入っていった。


「二人とも遅ーい!何してたの!」
「よかったぁ…来ないかと…」
「ごめんごめん、迷っちゃって」
浴室の扉を開けると、Cちゃんと友田さんの二人はもう先にお風呂に浸かっていた。私達が迷っている間にもう先に来てたんだ。
急いで頭などを洗い、お風呂に浸かる。

「もー迷うとかどんだけ方向音痴なのさ」
「Cに言われたくないわ」
「私は野生の勘ってやつで秒で着いたし!へっ!」
むかついたので水をばしゃっと飛ばすと、Cはどこから持ってきたのか水鉄砲を取り出した。
「ちょっと、二人とも!小学生じゃないんだから!」
Eちゃんが口を尖らせてバスチェアを投げようとしてきた。Eちゃんが一番破天荒!
「来い!私は洗面器で防ぐ!」
「こら!」
ホワチャー!と声を上げるCに堪忍袋の緒が切れたのか、友田さんが顔を顰めながら口を開いた。

「みんないい加減にして。ここは私たちだけのお風呂じゃないんだよ」
いつものおどおどした友田さんはおらず、ハッキリとそう告げた。同一人物とは思えないほどに印象が違う。
圧に押され、ごめんなさい、と三人揃って頭を下げると、友田さんは我に返ったのかおろおろしだした。
「あ、ご、ごめん…あんなに強く言うつもりはなくて…!」
「ねえ本当に同一人物??」
Cが水鉄砲を友田さんの頭に突きつけた。やめなさい。
「もう少しで上がんないと、次のグループ来ちゃうよ」
「そうだね、上がろっか」
Eちゃんに続き、私たちはお風呂場を後にした。

自販機の前で、CとEちゃんが何か喚いている。飛び出して行ったと思えば。
「絶対絶対ぜーったいコーヒー牛乳!!」
「いちごミルクしか勝たん!」
私の目の前ではCとEちゃんの争いが繰り広げられている。お風呂上がりに飲むのは何か、で揉めているらしい。しょーもな。
「そこぉ!しょうもないとか思わない!」
「すみませんん」
Cの指摘にぺこり!と友田さんが頭を下げた。友田さんも思ってたんかい。
「…行こっか」
友田さんを連れ、私は去ることにした。付き合ってられない。
Eちゃんツッコミだと思ってたのに案外ボケるから大変。

33:匿名:2021/12/10(金) 16:27

友田さんと先に教室へと戻り、カーペットに座る。今は20時35分。21時からまた軽く部屋班のメンバー同士で勉強をすることになっている。
とにかく21時まで時間ができた。特にすることもないので、友田さんに質問でもしようかな。
そう思い、髪の毛をタオルで拭いている友田さんに訊ねる。
「友田さんってモテないの?」
「へ…わ私?」
「うん」
頷くと、友田さんはぶんぶんと首が取れそうなくらいに首を横に振った。髪の毛がぐしゃぐしゃになっている。
「モテるわけないじゃん……こんな根暗な私が…」
「えー、陰ながらモテたりとかしてそうだけどなあ」
「私のこと?だよね!どちゃくそわかる!」
ぬっとCが姿を現した。両手にはコーヒー牛乳を持っている。
「いつの間に戻ってきたんだよ…」
「ちなみに君たちの分はないよ!残念でした!」
「うっっっざ」
Eちゃんもいちごミルク片手に戻ってきたところで、くつろぎタイムが始まった。

「じゃあ私からね!
マジカルバナナ!バナナと言ったら黄色!!黄色といったらレモン!レモンといったら酸っぱい」
「暴走すんな」
もういいや、Cは一人でマジカルバナナしてろください。私達は仲良くマジカル恋バナナするんで。
すると友田さんが「あ」と声を上げた。
「……………なんでもない」
「いや気になるやつ」
「どうでもいいけどいちごミルクおいしい♡」
「本当にどうでもいいやつ」
そんなこんなで時間は過ぎ、時計の針は21時を指していた。一応、学校としては“勉強する時間”となっているが…。
「へっ!誰がやるかっ!!」
「早寝遅起きこれぞ至福♡」
「えぇっと……べ、勉強しよ…?」
「やろうよ、自分の命の為にも」
勉強したくない派のCとEちゃん、したいという訳ではないがやらなきゃいけないのでやろう派の友田さんと私。
いや、やれよ。
「いーやーだー!!私はだらけてたい!」
おもちゃをねだる子供のように転げ回るCと、もう布団をひいて寝る体勢になっているEちゃん。
反抗期かな?
「もういいよ、二人とも……そんなに勉強したくないなら好きにしなよ……先生に言うから」
“先生”の部分を強調して言うと、二人はそそくさと勉強道具を取り出した。単純で何より。

乱雑に勉強道具を放り投げるC。なんと往生際の悪い!
「ま、勉強道具さえ机に置いとけばいいっしょ!!」
「いけないんだー先生に言うよ?」
「チャントヤリマス」
すっとシャーペンを持ってワークに取り組むCを確認し、優越感に浸る。するとEちゃんが軽く笑った。
「なんか小学生みたいだね」
「Cが?それな」
「いや両方」
「えっ」
Eちゃんはウインクをして何事もなかったかのようにペンを動かした。ウインク上手いな。じゃなくてふざけるな私は正真正銘華のJKだってのに

34:匿名:2021/12/12(日) 09:45

「勉強って何分まで?」
「多分、30分まで」
そう答えると、Cは項垂れた。勉強したくないよぉー!!と嘆いている。その気持ちは分からなくはない。むしろうんうんと頷きたいくらいだ。だが、“勉強合宿”だから仕方ない。
「もー、退屈なんだよなぁ。簡単な問題しかないし」
ぺらぺらと問題集のページをめくるC。わたしも同じようにめくっていく。表紙には『超難問!厳選問題集+α!』と書いてある。普通なら頭を抱えるほどの難問なのかもしれない。Eちゃんがくるっとペンを回した。
「とりま5分で終わらせてあとは遊ぼ」
「さんせーい」
「あるかりせーい」
ピッ!と手を上げる私とC。友田さんも控えめに返事をしている。
「ただ、それだけじゃつまんないから〜、」
悪戯っぽく笑ったEちゃん、嫌な予感がする。

「終わったのが一番遅い人がみんなにジュース一本ずつ奢るってのはどう?」
「なんか……平和だね」
「Eおま、やさすぃーね」
「じゃあ二本ずつにしちゃおっか♡」
そうして、私達はジュースを賭けて問題集を終わらせることにした。ちなみに私は勝つ気しかしない。何故なら学校で配られた時に半分くらいまで進めておいたからだ。ワイルドだろ?
勝ち確で思わずにやりと口元が緩んでしまい、それを見たCが怪しげに首を傾げた。
「……A、失格」
「えっ!?」
Eちゃんと友田さんも目をぱちぱちしている。
バレた!?バレたのか!?でも私は問題集開いてないしCに分かるはずがない……
…………あ、こいつ心読めるんだっけ。
「馬鹿だねぇ!Aってば!私を甘く見るなよ!!ばーか!」
「口わっる」
「えっえっ、な、何の話…?」
「もー、私達にも分かるように説明して!」
突然馬鹿馬鹿叫ぶCに焦る友田さんと、頬を膨らますEちゃん。Cが誇らしげに笑みを浮かべた。
「なんかぁ、Aがニヤニヤしてたから心読んだら、先に問題集進めてましたぁー!てことでコーヒー牛乳二本ご馳走様!!」
「はーい、いちごミルク二本よろしくね♡」
「わたしジャスミンティーと…レモンティー、お願いします」
「もうちょっと遠慮があっても良くない?」
三人はご馳走様です!とにこにこしている。
しょうがないなぁ。
財布を取り出して立ち上がる。中身を確認すると、千円札が五枚、五千円札が一枚入っていた。おっけー、十分足りる。
行ってくるね、と教室を出た。

確か自動販売機は、この階段を降りてしばらく行ったところにあったはず。
階段を降りていくにつれ、喧騒が遠ざかっていき、自分の足音だけが響いている。誰もいないなぁ。
まぁ、今は勉強する時間になってるから当たり前か。先生に見つかったらどうしよ…。
やけに大きく聞こえる自分自身の呼吸音と足音が私を緊張させた。
廊下を進んでいくと、並んで設置されている青い自販機と白い自販機に辿り着いた。
「えーっと、コーヒー牛乳があるのは…こっちか」
白い自販機の投入口に千円札を差し込むと、ぴかっとボタンが光った。
ボタンを押して、取り出し口からコーヒー牛乳を取り出す。
これをもう一回繰り返そう、と思ったが、ボタンには『売切』と表示されていた。
「えぇっ、運悪」
Cには悪いけど、もう一本は別の飲み物を…。そう考えていた時、
「あ…ごめんさっき俺が買った」
突然聞こえてきた声にびくっと肩が跳ね上がった。

35:匿名:2021/12/12(日) 18:49

「びっくりした……Dくんか」
振り返ると、そこにはコーヒー牛乳を右手に持つDくんがいた。
全く気がつかなかった…気配を感じ取れなかった。流石虚無虚無Dくん。
「Aさんはなんでここに?」
「あー、飲み物買ってきてって頼まれて」
かなり省略した。Dくんはお疲れー、と絶対思ってない事を言ってくれた。
「Dくんはなんで?」
「喉渇いたから」
「そっか」
そういえばDくんの部屋の班はBと一緒だったっけか…まともに勉強してんのかな。飯食ってそう。
「勉強は順調?」
「とっくに終わったよ。暇だからジェンガとかダウトとかやったりしてた」
「めっちゃ楽しそうじゃん」
なーんだ。仲良いじゃん。Dくんって勝手に常に冷めてる人だと思ってたけど、違ったみたい。
「じゃ」
Dくんはスタスタと歩いて行った。案外普通に話してくれるな。トマト踏んだ時とかめちゃくちゃ怖かったのに。

とりあえず、Eちゃんのいちごミルク二本と、友田さんのジャスミンティーとレモンティーを順々にボタンを押して取り出した。
これ、持って戻るの結構きついぞ?
今腕に抱えてるのは五本。自分の分は諦めるとして、Cのもう一本を加えると六本。
「うーん…………いっか!」
Cのもう一本はドンマイということで。そろそろ腕が限界だし、早く戻らないと先生に遭遇するかもしれない。
自分を納得させ、腕に五本抱えながら来た道を戻った。

「ただいまー」
「おっかえりぃぃ!!」
教室に入るや否や、Cがコーヒー牛乳目掛けて飛びついてきた。
「ごめんC、コーヒー牛乳売り切れちゃって一本しか買ってこれなかった」
「あーおけおけ!」
意外にもCはすんなりとそう言ってくれた。てっきり『全国の自販機走り回ってでも買ってこい!』とか言われるかと思ってた。
「Aちゃんありがと〜!」
「ありがとう…!」
「どういたしまして」
Eちゃんと友田さんにも飲み物を渡すと、ニコニコとお礼を言ってくれた。さて、私はみんなが飲むのを眺めてようかな…。
「Aちゃん、ミルクティー…飲む……?」
「えっ!いいの?」
「うんっ…!」
友田さんが察してくれたのか、ミルクティーを差し出してくれた。しかもAさん呼びからAちゃん呼びになってる…!
「やったー!ありがとう」
ありがたく受け取り、蓋を開けて飲む。甘くてお洒落な味が広がった。美味しい!
Eちゃんが時計を見上げた。
「ちなみにもう30分になったけど、次は何するの〜?」
「えーっと次はー」
四人で予定表を覗き込むと、『21:30~22:00 自由時間』と記されていた。班のメンバーと過ごすもよし、校舎内を歩き回ってもよし、だそうだ。

「やったぁ!自由時間だ!!」
「あ、でもここに、班のリーダーはカレー作りの説明を聞きに大広間に集まるって書いてあるよ」
Eちゃんが指をさしたところには確かにそう書いてあった。私たちの班のリーダーは………
「私じゃん!やばい、早く行かないと」
「Aちゃん大広間の場所分かる?」
Eちゃんに答えるより先に、私は教室を飛び出して大広間へと走って行った。


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