20XX年。
僕らは生まれた時から月に行くことを夢見ていた。
いよいよ、その夢が叶いそうだ。
僕ら「月虹探査団」は、早速ロケットへ乗り込んだ。
Gの重みをひしひしと感じる。
体験したことのない苦しみが探査団を襲う。
僕らは生まれも育ちも貧乏だったので宇宙に行く訓練は受けられず宇宙服も買えなかったが、どういう訳か仲間の1人がロケットを持っていた。
これで月に行って石を持って帰れば、地球で高い地位を得られるだろう。そう、これは僕らの逆転劇の始まりなのだ。
そんなことを考えているうちに、仲間の1人が潰れて死んだ。ロケットが少し広々としたみたいだ。
宇宙では時間は分からないが、僕らのお腹がそれを教えてくれる。宇宙初の茶話会が始まった。
みんなで夢を語った。その目は希望に溢れていたが、僕は違っていた。
隊長であった僕は皆の未来を見ていた。
君たちの願いを叶えてあげられなくて残念だ。
掃除係の僕は探査団の中でも一番地位が低かった。
今日も隊長の部屋を掃除しているだけだ。
しかし、大変なものを見てしまった。
隊長は僕達を処分するつもりだった。
皆に伝えに行こうとしたその時、僕は目眩がした。
最初に処分されるのは僕だったようだ。
彼が死んでしまったことは、誰も気に留めなかった。
それよりも、犯人探しの方がずっと重要だ。
自分と同じことを考える奴がいるなんて、夢にも思わなかったのである。
最早このロケットには、夢など無かったのだ。
皆は犯人だ何だと言っているが、そんな訳無いだろう。
全てを共に歩んできたのに、裏切るだなんて、そんな非道い事をする奴がいるのか?
きっと彼は月の精霊にでも殺されたのだろう。
そう思った瞬間、僕は首に熱さを感じた。
最期に見たのはあいつの顔だった。
だが、月の精霊だと思っていた方が幸せなのだろう。
ロケットから整備係は消えてしまった。
このロケットには僕以外にも同じ考えの奴がいるようだ。
当然だ。皆で石を持ち帰るより、一人で持ち帰った方が良いに決まっている。
もううかうかしていられない。
僕は早速あいつの頸に縄を掛けた。
まさかあいつも縄を持っていたなんて。
本当に人間は不思議なものだ。
息が苦しい。宇宙空間だからなのか、今日の宇宙食に毒が入っていたからなのかは分からない。
ああ、もう月が目の前に見えていると言うのに。
僕はすぐさまロケットの生命維持装置を切った。
その内に、僕の命も事切れたようだ。
誰か僕の代わりに生命維持装置を切ってくれたようだ。
おかげでロケットにはもう3人しか残っていない。
僕は隊長として一足先に月へ降りた。
その際ロケットの扉を塞いたので、他の奴らは二度と出て来られなかった。
一週間もすれば根絶やしに出来そうだ。
僕は持ち出した宇宙食を食べながら暇を潰した。
後は地球に帰るだけだ。
もう僕を殺そうとする奴など一人もいない。
ロケットに乗り込んだ瞬間、僕は胸を刺された。
まだ彼らは生きていたのか?とんだ誤算だった。
そして僕は月から帰る事は出来なかった。
あいつらは馬鹿だなあ。
僕らみたいに、二人で協力すれば助かったのに。
あいつらは自分だけの事を考えていたが、僕らはお互いのことを考えた。
さあ、一緒に地球に帰ろう。
僕らの地球へと。。。
どうやら、馬鹿なのは僕の方だったようだ。
君が裏切る可能性を考慮していなかった。
逃げなくちゃならないのは分かっているが、恐怖で足が動かない。こうして僕は恐怖に呑まれたまま死んだ。
全ての犯人はあいつだったのか?
これは何事だ。全て僕がやったのか?
頭が割れそうだ。きっと僕は月の精霊にでも囚われていたんだ。僕は星空に飛び込んだ。その内火玉となって消えた。
こうして「月虹調査団」はその役目を終えた。
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