ノリで書く
2:カレ:2024/11/20(水) 04:40 極端な話、人の性質というのは、美徳を好むか、悪徳を好むか、それだけで大きく変わる。
美徳を好めば善良な人間で、悪徳を好めば残酷な人間で……。まあでも、並大抵の者達は、中途半端である。優しくなりきれず、悪にもなりきれず。
さて、それで、私は生まれつき額の骨が露出していて、親にも捨てられ、周りからも嫌われ、孤児院を転々としながら
孤独に、生きてきていた。
16歳の時、私はとある見世物小屋で道化師として働く事になってだね。それまでは、「マイケル」だとか「ジョン」だとか、孤児院の籍を変えるごとに名前がコロコロ変わっていたのだが、そこの見世物小屋の商品になってから「エレガート」という、この先一緒背負う事となる名前と出会ったのだ。
エレガート。
ピアノの表現記号で「優雅」という意味らしい。
今までずっと泥を啜るようにしながら生きてきて、これからは血を啜るような生き方をする事になるのだが……なんとも皮肉だね。
私は見世物小屋の一員になってから、汚物のように接された今までとは想像がつかない程、仲間達に囲まれて過ごす事になった。
もちろん、観客は物珍しい目で私を見るが、同じ見世物小屋の商品達は、私を歓迎してくれた。暖かい言葉をかけてくれた。
本当にうれしかった。
この見世物小屋に来るまでの経歴は人それぞれで、借金で売り飛ばされたり、私の様に孤児院から来た者もいた。
ただ、全員共通しているのは、生まれながらの嫌われ者という事らしい。
犯罪者の息子や、1時間でも食べるのをやめてしまうと餓死してしまうという少女もいた。
社会からの悪意の視線を浴びながら、檻の影で私達は干からびた傷を舐めあっていた。
だが……まあ、あれだ。
魚の群れを水槽に入れると、必ず1人除け者が出るという話がある。例えるならここは除け者を集めた水槽ではあるが、そうすればさらに『除け者の中の除け者』が生まれるのは、分かるだろう。
それが、アジタードという、少女だった。
私と同じ部屋で暮らす彼女は、人殺しの娘だという。
生まれながらに目付きが悪く、群れようとせず、私にも態度はそっけなかった。
アジタードがこの見世物小屋の商品達に嫌われているのは、彼女の父親に負わされた傷が原因でここに来てしまったカタービレという女がいるからだった。
彼女は観客からの暴言の他に、仲間達からの暴行や嫌がらせにも耐えなければならなかった。
私はぶっちゃけ、彼女のイジメには無関係である。
彼女を庇おうとした事は無いし、彼女をさらに苦しめようと企てた事もないからだ。
孤児院時代、『見て見ぬふりは共犯と一緒』だのなんだの言われてきてはいたものの、1番見て見ぬふりしているのはそれを言っている大人であるし、こんなセリフを吐くだけなら責任はいらないのだ。
もちろん、アジタードを見て可哀想だと思った事はある。
カタービレの痛々しい顔の傷跡を見て、アジタードの父親が憎らしくなった事はある。
ただ、私は中途半端なのだ。
いや、それは間違いか。みんな中途半端なのだ。
きっと、アジタードを虐めている奴らは、アジタードの父親が人殺しじゃなければ、カタービレが事件に巻き込まれなければ、カタービレがそんな事を口外しなければ、アジタードをいじめず、水槽の中の除け者を作らなかったのかもしれない。
ただ、今アジタードを懲らしめる理由ができたから、日々のストレスを、社会から向けられた物と同じ視線を彼女へと向け、悪徳に耽っている。
もし、ここに被害者がいなければ除け者は生まれない。罪のない者を虐める程、みな残酷ではないから。除け者たちが傷を舐めあう美徳がここにあったはずだ。
つまりは、みんな優しくなく、鬼でもない。正当な理由の元、悪徳を嗜んでいるだけである。
私もそれとほぼほぼ一緒だが、悪徳の中に罪悪を見つけてしまうのだ。
見ているぶんには平気なのにね。
どちらかというと、私には会話下手の人間不信という言葉が似合っているか。
人と話したことがない故に、人の気持ちが分からず、人の気持ちが分からないからこそ、どこまで傷つけていいのか分からないので、悪徳の中に罪悪をみつけやすい。
だから、人より少しだけ悪徳に興味が無い。それだけで、別に美徳がより好きという訳でもない。本当に、自分はただそれだけだ。
だが、少しマシだろう。
醜悪な仲間達と傷を舐め合いつつ、薄暗い闇を見過ごす日常は数ヶ月続いた。しかし、ある日を境に終わりを迎えた。
見世物小屋のオーナーに、突然私を含めた4人が馬車の荷台へ連れ出されたのだ。
カタービレとグラーべという男、そしてアジタード。
オーナーは一言こういった。
「今日からお前達は、ヴィクトワール公爵の館に使える道化師になる」って。
私はそのヴィクトワール公爵の事を知らなかったんですけど、話に聞くと黒い噂の耐えない貴族だという。
さすがにこんな状況で、アジタードに何か言う奴は誰もいなかった。
(ピアノの表現記号で優雅を表すのはエレガンテだけど、エレガートでこのまま進めます)
(カンタービレをカタービレって間違えちゃったのもこのままいきます)
10:カレ:2024/11/20(水) 13:53 ヴィクトワール公爵の館は、人も寄り付かぬ暗い森の中にあり、まるで古城の様に豪華であり、幻の様にもみえた。
彼女と、そしてその館からは、不自然ななにかが感じられた。なんなんだろうか。その答えは見つからなかった。
私達はヴィクトワール公爵の館へつくなり、いくつかのルールが箇条書きされた紙を渡された。
・この館の情報は、絶対にバラさない事
・この館から逃げてはいけないし、そう企む事もしてはいけない事
・反逆やボイコットもいけない事
・ヴィクトワール公爵の命令を聞かない事は反逆とみなす事
・上記のルールを破ったり、反逆行為とみなされる事をした場合、懲罰が加えられる事
そして私達は早速お仕着せに着替えさせられ、最初の道化師呑としての仕事を働く事になった。
ヴィクトワール公爵は、悪徳を好む悪辣な人格であると共に、卓越した美貌の持ち主であった。
私達は、そんな彼女の悪徳を満たす為に、見世物小屋でやっていたいじめを、今ここでやってみせろと、言われた。
勿論、私はアジタードをいじめた。背中を蹴ったり、髪をひっぱったり、そんな程度の暴力であるが、まあ詳しくは必要ないだろう。
グラーべも、カタービレもしたが、彼女らの手には躊躇という物があった。
ただ、私にはそれがなかった。なぜか。いつもいじめている彼女らとの差はなんだ。
私はこう結論つけた。
『いじめ』という悪徳であると第三者に言い決められたからこそ、彼女らはこの行為に罪悪をみつける事ができた。
じゃあ私は悪徳を楽しんでいるのかと言うと、難しいところである。
主人を満足させる為にしている事、という前提があったから、私はこの行為を美徳だと感じているのかもしれない。
あるいは、ヴィクトワール公爵のより巨大な悪徳を隠れ蓑に、悪徳を楽しんでいるのか。きっと、アジタードは誰でもない、ヴィクトワール公爵を恨むだろうから。
うーむ。
美徳と悪徳が混在しそうな時こそ、人の精神の危うい時である。
私はつまり憎まれないいじめの言い訳が欲しかったのだ。と、そう、納得することにした。
私達4人は、豚小屋で睡眠をとる事となった。
13:PCカレ:2024/11/20(水) 21:27 アジタードはずっと黙ったまま眠りについて、私とグラーベとカタービレも、気まずく、何も話せないまま、いつの間にか眠っていた。
グラーベとカタービレは、あの見世物小屋の中ではかなり幅を聞かせていたのだが……なんだか怖気づいたな。アジタードへの罪悪感からだろうか、それとも、群れというほどの仲間を失ってしまったからか……。
さて、彼女が望む道化師の仕事というのは、このいじめだけではなかった。
というのも、その翌日。
私達は手足を縛られ、地下室へ連れていかれたかと思うと、想像を超えるような拷問を彼女からかけられた。
痛みよりも、死んでしまうかもしれない恐怖と、彼女の笑い声の不気味さが一番の苦痛であった。
そして時々、ヴィクトワールの家族や友人が私達に芸をさせたり、八つ当たりする事もあった。
ヴィクトワール、そしてヴィクトワールの家族や友人、そして私達道化師の紹介を下に示しておく。
エレガート
この私である。生まれつき額の骨が丸出しで、孤児院を転々としながら育ち、16の時に見世物小屋で働いて、その数ヶ月後にヴィクトワール公爵の道化師となった。顔立ちは……美しい訳が無い。人格はどうだろうか。自分で言うのもなんだが、大人びてる気がする。あと、人の顔色を気にするばかりに色々腹黒い物を貯めているだろうか。
アジタード
人殺しの娘で、私と同じ道化師。3歳の頃に父親が逮捕されると、しばらく施設で育ち、10で見世物小屋へきて、18で道化師となる。カタービレの顔に傷をつけたのは彼女の父親であり、それ故にいじめられていた。ただ、ヴィクトワール公爵の館へきてからは、いじめが和らいだか。目付きが非常に悪く、鉄仮面の如きポーカーフェース。てっきり20代後半くらいだろうと思っていたから、意外と若くてビックリである。性格は、話さないからよく知らない。彼女がカタービレについてどう思っているか、個人的に気になる所である。
カタービレ
元々はとある印刷会社の箱入り娘だったらしいが、20歳の時に家を飛び出し、25で父親の分からない双子を妊娠して、出産。女手1つで働きながら子育てしていたものの、買出し中にアジタードの父親がナイフで人を殺めようとしているのを発見。阻止しようとしたものの、逆上され、頭から刺されて、子供は目の前でミンチにされたらしい。仕事も首になり、生きる為に見世物小屋にやってきた所、憎き男の娘であるアジタードど再開した……らしい。育ちの良く、まともに学校に通えていない見世物小屋の中ではぶっちぎりに頭がよいので、人気だった。顔立ちは痣だらけでよく分からない。ただ、生えている髪もまだらで、今の姿はお世辞でも美しいとはいえないだろう。性格は、顔に傷を負った事が大きく影響しているのか、自分勝手という程に正義感が強い。ただ、私が見世物小屋にやってきたばかりの頃、誰よりも私に優しくしてくれたのは彼女であった。
(PCで書き込んだりハンドルネームはがれちゃったりすみません……紹介ゾーンまだ続きます)
17:カレ:2024/11/20(水) 22:40 グラーべ
見世物小屋の商品と商品の間に生まれた子で、アルビノという先天性の病気……とは言っても軽度で、肌なんかは少しクリーム色に近い。顔立ちも美しく、見世物小屋で1番人気があった。負けず嫌いで、昔から貴族を忌み嫌っていたが、それをヴィクトワールに示した事は無い。
ヴィクトワール公爵
悪徳を好む麗しき女貴族。デリア家の次女で、姉・兄・弟・妹がいる。女性も男性も好むバイで、サディスト。犯罪に手を染めたり、汚職する事もしばしばある。知識欲が強いが頭はあまりよくないらしく、何事も自分が優位ではなくては気が済まない。ただ少し飽き性気味か。我々道化師を痛めつけ、優越に浸かる事もある。
ピエール
ヴィクトワールの父であり、妻が3人いる。
クリスチャン
ピエールの弟。ヴィクトワールの伯父にあたるが、実は彼が本物のヴィクトワールの父ではないかと話しているのをよく聞く。
セゴレーヌ
ピエールの妻であり、フランソワーズとエレーヌの母である。
マリー
ピエールの妻であり、ジャンとヴィクトワールの母である。クリスチャンと密かな関係がある。
アンヌ
ピエールの妻であり、フィリップの母である。不妊と呼ばれており、フィリップを無事で埋めたのは奇跡的な確率だったらしい。
フランソワーズ
ヴィクトワールの姉である。真面目で、努力家で、せっかちで、少しお世話を焼きすぎる様な、傍から見ればよい姉だ。
ジャン
ヴィクトワールの兄である。ヴィクトワールと同じく悪徳を好む為、仲が良い。
フィリップ
ヴィクトワールの年の離れた弟である。年齢は10歳ほどで、自分の家族に少し違和感を持ち始めている……。
エレーヌ
ヴィクトワールの妹……とは言っても、まだ3歳児。この先、フランソワーズに似るであろうか……。
ジャック
サナス家の長男で、ヴィクトワールの恋人である。品行方正、ハンサムで筋肉質な勇ましい体つき……完璧な男である。
ステファン
ヴィクトワールと悪徳を共有する友である。
カトリーヌ
ステファンと同じく。
アンドレ
フランソワーズの恋人だが……不良という物で、賢そうには見えない。
ルイーズ
ジャンの恋人で、なぜだか彼にメロメロであった。
モーリス
フィリップの友人である。
ロベール
豚のように太ったヴィクトワールの遠い親戚で、エレーヌとよく遊んでやる。
覚えて頂かなくても、登場するたびに説明しよう。
21:カレ:2024/11/20(水) 23:11 この仕事について、様々なエピソードがあるので、ここでいくつか話そう。
まずは、ヴィクトワールが3人の母に私達を紹介した時の物を。
私達道化師が、この館に来て、3日後くらいの事だった。
ヴィクトワールが3人の年老いた女性を連れてきたのだ。
初めて見た時はもちろん彼女らが誰なのかも分からないし、ヴィクトワールは彼女達に「ママ」と話しかけるので、3人のうち1人が彼女の母親で、あと2人はその友人なのかと思っていた。まさか全員が母親とは。
まず、ヴィクトワールの姉と妹を産んだというのが、セゴレーヌである。背筋をピンと伸ばした、真っ白な髪の淑女であった。
ヴィクトワールとその兄を産んだのが、マリーだった。年はセゴレーヌと同じくらいだが、少しばかり露出が高く、メイクも濃い。
そして、ヴィクトワールの弟を産んだのは、アンヌである。彼女は2人よりも若い。それには、貴族の闇という物を感じざるを得なかった。なぜなのだろうか、気になる所である。
セゴレーヌは我々をジッと凝視した後、重々しくヴィクトワールへこう言った。
「貴女、なんのつもり?」
私にはこの言葉の真意が分からなかった。
セゴレーヌは我々を見てどう思ったか。