書きたいものを好きなだけ書いていきます
近くにいたせいで、こんな感情が芽生えただとか。
そんな単純じゃない、思い。
君にとって、
重すぎる思いだと分かっていたはず。
毎日、毎日。
すぐ近くにいる権利のある僕。
一生、ずっと、
近くにいられない、僕。
_________、
「なに、菜知。…目ぇ真っ赤」
目も、鼻も、頬も真っ赤に腫らして帰ってきた君の寂しげな瞳に、
僕が映し出されることが酷くひどく嬉しくてたまらないと思う、最低な僕。
「……ッ、……男の人って、あんな人しかいないの?…もう嫌だ……ッ」
僕の顔を見るなり苦しそうに顔を歪めて、
その瞳から今の君に皮肉なほど綺麗な、涙が流れ始めた。
それと同時に、立ち尽くしている僕の横をスルリと通り抜けて部屋へと戻っていく。
君の世界に、
君の辿る道には、
男の人、っていう存在に僕が含まれることはない。
僕が、ずっと守ってきた。
可愛い、可愛い妹を不安にさせないでほしい。
「…ほんと、馬鹿」
気がついたら、電話をかけていた。
可愛い妹にお似合いの、かっこいい彼氏に。
_______、
ガチャリ、
扉が開いた音がする。
勉強する手を止めて、玄関まで行った。
すごく、すごく、幸せそうに微笑んで。
華奢な君じゃ持ちきれないほどの、花束を抱えて帰ってきた。
靴を静かに脱いで、僕の前までやってきて。
君は、少し照れたように下を向きながら
「勘違い、してた。彼がやましいことしてるんじゃないか、とか。
お兄ちゃんが、私のこと嫌いなんじゃないか、とか。
お兄ちゃんのおかげで、幸せ。
ありがとう。
私のお兄ちゃんで、ありがとう。」
笑って見せた君は、急に大人になったみたいだった。
「…馬鹿。僕が、嫌うわけない。
むしろ、愛してる、くらい。
とか、言ってみたりして。」
冗談っぽく笑えば、君も
「私も愛してるよー」
なんて、返してくれる。
「…手洗いうがいしてきな。ケーキ、冷蔵庫だから。」
その言葉に、目一杯顔を輝かせて、
「誕生日、良いこといっぱーい。
お兄ちゃん、重ね重ねありがとね!」
と丁寧にお礼を言いながら、
手を洗いに行った菜知。
へたり、と足の力が抜けて、
床に倒れこんでしまった。
「…愛してるって、そういう意味じゃない、のに。」
君の欲しい『愛してる』は、
あの、彼氏の口から発せられるものだけ。
「…昨日、電話しないほうが良かった…、…ことはないか。」
彼に電話して、後悔してないよ。
菜知の誕生日のためにヒソヒソとサプライズを考えていたのを、
やましいことしていたと勘違いされるなんて、どんな馬鹿野郎だ。
誠実で、優しい彼氏で。
そんな彼に馬鹿だなんて言う権利、僕は持ち合わせてない。
でも、僕は
一生、菜知のお兄ちゃんでいれる。
一生、菜知の幸せを見守っていられる。
_______、
『僕が菜知に本気で愛してるなんて言ったら、菜知は苦しむ。
でも、君が言えば、
安心するし、幸せに出来る。
僕の重い重い気持ちの分まで菜知を幸せに出来なかったら、
………、別に、怒るとかじゃなくて。
何回でも、菜知までつれ戻してやる。
今みたいに。
導いてやるから、だから、
幸せにしねぇと、だめ。』
>>2-3
愛よ、僕を導いてゆけ からの創造
…が いなくなるくらいなら…、
こんな世界なんて 、……いらない。
「…うっわッ、びっくりした、海蹴ってくんなって!」
「仕方ないでしょ?可愛い可愛い海果(うみか)ちゃんが、こうやって蹴り飛ばさないと起きないんだから!」
中学3年生、受験を控えた真夏の今。
夏休みというのに、毎日腐れ縁の幼馴染みに勉強会を設けられる。
「誠(まこと)のお母さんに頼まれてんの!お金も払わずに秀才の家庭教師雇えるってなかなか無いからね!?」
…、いつも通りの煩さの海にそう言われると、何も言い返せない。
海は、常に成績トップ。
俺は、成績上位ではあるけれど海ほどではないし。
それから、リビングへ行って用意されていたオムライスをもぐもぐと食べてからは勉強会が始まった。
腐れ縁で、生まれてからはほぼずっと一緒にいる海は美人。
何処かの男子が海を好きになる度に、
「宮野(みやの)、お願い!これ海果ちゃんに渡してきて!」
と、ラブレターを渡されてきた。
俺も俺で、まぁまぁモテる部類。
仲良くなったら奴等には、お前は顔だけだな、と言われるようになるくらい中身はアホだけど。
そしてそして、そのアホ具合は勉強にも影響してるっぽいです。
「あー、もうッ!さっき言ったでしょ馬鹿!代入するとこ違うの!」
「えー、ここに代入しても頑張れば何とかいける「わけないでしょ、やり直し!」
あぶない、海のイライラが爆発する前に正解にたどり着かなくては。
これからもこうやって、平凡で単調で、それでいて楽しい毎日を送っていくはずだった。
夏休みが終わり、学校が始まってからのある日のこと、幼馴染みに好きな人が出来る。
「どーしよう誠!今日、手紙渡しちゃったんだけど!」
「どうしようって言われても、俺はどうにも出来ないです、さーせん。」
「…もう、使えないな!」
放課後の海の部屋で延々と満更でもない笑みを浮かべる海。
ここで本来なら、そんな海を見て嫉妬するパターンが恋愛小説での王道。
だけど、ここで全くそんなことも思わない。まぁ、俺だから仕方ない。
某有名海賊王に俺はなる漫画を読みながらゴロゴロしていると、海が顔を赤くしながらスマホをイジっていた。
漫画を読もうにも、あまりに赤すぎる顔の海が視界に入ってどうも読みづらい。
「海どうした、顔赤すぎない?」
俺が視線だけをやりながら海に聞くと、待ってましたと言わんばかりに、
「圭くんがね、今から家に来て言いたいことがあるんだって!
メイクしないといけない!」
恋する乙女感満載で慌てて動き出した海を見て、
何ともいえない、妙な感じが心の内から広がってきた。
この感じ、知っていないのに、知っているような。
何処か遠くから、この光景を見たことがある気がする。
……、 が来ちゃう! ……急いで準備しないと、… …。
途切れ途切れの記憶が、俺をおかしくさせるみたいで。
チャイムの音が微かに聞こえてきて、
噂の圭って人が来たんだなーと思いながら、
気分転換に水を飲みにいこうと、部屋から出て階段を下りた。
俺の家も海の家もお互い出入り自由。
飲み物くらいなら勝手に飲んでも良いという暗黙の了解、というかなんというか。
きっと、玄関のところで話しているからと思い呑気にラフすぎる私服でリビングの扉をガラッと開けると、
「…ッ!ちょっと、誠!」
ソファに座ったままこちらをジロッと見て俺を見た途端小さく怒鳴る海と、
不思議そうな顔をする爽やかなイケメンの圭さんがこちらを見ていた。
「…すいませんでしたー。」
やや棒読みに告げてから、直接玄関に行き家を出た。
それからの日々は、まだ単調に進んでいた方なのか、俺の感覚が麻痺していたのか。
毎日“圭君”を追いかけて、熱烈なアプローチをする海のお手伝いをしていたり。
海の好きな人は俺ではないことが学校全体に知れわたったせいで、
怒涛の告白ラッシュが俺に降り注いだ。
「炉(ろい)ー、これどーしたらいい?」
ネタかと思うほどのラブレターが靴箱に詰められる毎朝。
開けた途端、バサバサバサと落ちてくる例のアレになってしまっている。
「…、自慢はやめてってば。俺だってわかんないよ、ラブレターなんてもらわないからね!?」
男友達の炉に助けを求めるけど、あまり使えない様子。使えないと言うと、またムキーッて怒りだすから言わないでおく。
炉、男なのに色白で可愛いからコアなファンいるのに、鈍感だから気づかないらしい。
「……あほどん。」
「あぁっ?誠、自分が頭良いからって、それは良くないぞ!俺だってな、毎日宿題真面目にして3ケタ…」
シュン…と項垂れる炉の頭をふわふわと撫でてから、席についた。
あほで鈍感だから、あほどん。
ぴったりじゃんか。
先生が教室に入ってくるのを横目に見ながら、窓の外をジィッと見つめるともう木々は寒そうにしている11月。
俺の心の中にひっそりと生えた木は、平凡でいて単調という名の葉を枯らし始めていた。
___________、
季節を越えて、3月。
俺も海も、志望校に合格出来た。
炉も、一生懸命頑張ったおかげで何とか合格を掴みとれて、泣きながら喜んでいた。
1番のニュースである、海と圭君が付き合ったという話は、
実は12月の出来事。
海が半端じゃない喜び加減で俺の家に報告しにきた時は、
何となく自分も嬉しくて、海の好きなお店のチョコケーキを買ってきて、おめでとうと手渡した。
地味に恥ずかしかったけど、姉のようで妹のようで、…お母さんのような海には感謝しかないから。
だけど俺は、家族みたいに大切な海から“大切”を奪ってしまう。
________、
卒業式前日。
海に借りた漫画を返そうと、いつかの日のようにラフな格好で海の家へ行った。
俺の両親も海の両親も同じ会社で、共働き。だから、休みの日でも親はいない。
寂しいかと言われたら寂しいけど、もうお互い気にしていないこと。
だから今日も、いつもみたいにうるさい海の声で「入ってーっ!」と迎えられるはず。
でも、今日は違ったらしい。
「……ま、こと…!………ぐす、…………、つらい、…」
インターフォンを通してではなく、ドアの向こうから聞こえる声。
俺は目を見開いて、急いで玄関を開けた。
靴を履いたまま、地べたで崩れ落ちて泣いている海。
こんな海は、幼い頃に見たくらいで。
その時は、お父さんとお母さんにあげたかったケーキを落としたとか、そんな些細な話。
今回は……、きっと違う。そんなことじゃない。
「…圭君関連?」
背中を擦りながら、小さく呟いて聞くと、うるんだ海の瞳が大きく揺れた。
「……そっか。」
どうしようも出来ない俺にむしゃくしゃする。
女の子なんて、海くらいしか仲良い人いないから。
何をするのが正解か、全く分からない。
「……………、ふ…っ、う…」
とめどなく溢れる海の涙を不器用にすくいとって、
____控えめに、抱き締めた。
彼氏がいる女の子に、そんなことしちゃダメなのは分かってた。
だけど、こうする以外どうしたら海を落ち着けられるかって、
そんなの、選択肢は無いに等しいから。
右手で背中を擦りながら、左手を海の首元に回す。
どうにか、落ち着いてほしい。
どうにか、元の海に戻ってほしい。
どうにか、
幸せだった海に、戻ってほしい。
急に抱き締めた俺に動揺しながら、
それでも泣き続ける海の耳元で
「…俺を、圭君だと思って。
落ち着いて、深呼吸して。
圭君は、海を見捨てたりしないから。
圭君は、海を大切にしてる…。」
そう、言い聞かせるように優しく嘆く。
どうして、海がこうなったかなんて分からない。
でも、幼馴染みを15年もやってたら海がこんなに弱る理由、少しくらい分かる。
海は、人が自分から離れていくことにめっぽう弱い。
だから、女友達も少ししかいない。
幼いころ、女子の裏切りにあってからはずっとそう。
圭君と喧嘩でもして、距離をおくことにでもなったか、一方的にどちらかが離れたか…。
「……落ち着いて、落ち着いて」
きっと無意識に手を伸ばしたであろう海の手を取って、俺の首へ回す。
圭君への罪悪感は少しなんてものじゃないけど、家族くらいに大きな存在の海の為にこうするしかできない。
「…俺は圭だから。…そう、圭。
離れていかないよ、絶対に。」
何とか少しずつ涙も引いてきた海。
ゆっくり深呼吸をし出して、冷静になったのだと悟る。
良かったと、海から離れようとしたその刹那、
__________、どうして
ガチャッ、
荒々しく開かれた玄関のドアから覗いたのは、
「……どうして、海果…。」
俺たちを見て立ち尽くした、
海の彼氏の、圭君。
彼の瞳は色をなしていないように黒が永遠に続くようで。
急いでお互い離れたけど、
当たり前のように手遅れだった。
「…海果の横には、いつも宮野さんがいるね。宮野さん、頭も良くて顔も良くて、俺なんかと大違いだ。」
絶望に染まる彼の心の内には、
間違いなく[宮野誠]という俺の名が深い闇を作る手助けをしてしまっている。
「圭、圭、あのね、私が悪いの。誠も悪いし、私も悪い。
圭が好きで…、「もういいかな。」
優しいような、呆れたような、諦めたような、声が響く。
「…俺ね、無理だ。海果みたいに魅力のある人は、俺の元にいちゃいけない。
俺とは、世界が違う。
宮野さん、ごめん。
海果……、ごめんな。」
泣きそうな瞳は、海と同じように揺れていた。きっと、心と同じ。
ぼんやり,ぼんやりと辛うじて画面をみつめた。
もう、無理だ。私が馬鹿だった。
彼を好きになったときから、何万人もの人が自覚していたじゃないか。
_______『恋』を買ったんだから。
普通の高校生の私は、普通に学校へ行き、普通に日々を過ごしている。
私に友達がいなくて、1人っていうのを除けば…普通なはず。
今日も今日とて、イヤホンをして曲を聞く。
大切に大切に、少しの音も聞き逃さないように胸へ響かせる。
だって精神安定剤だから。この曲が、音が、
……こんなに美しい声が。
アシメのショートカットの私がイヤホンをしてても、そもそも髪に隠れてイヤホンは見えないだろう。
私が、あのアイドルが好きだなんて、バレたくない…
髪型も、友達がいないのも、全ては『あの人』のためにある。
今の私を造る全ては、彼が中心だ。
好きだなんて言葉じゃ足りるわけない。
そして、その感情を彼に抱くことが許されているのは私だけ…なわけがない。
周りの女子だって話している、テレビも雑誌も特集をする、熱愛報道だって出る…。
私のものじゃ、ない。
うるさく、騒がしい朝の教室の隅で、そっと目を閉じた。
あぁ、
叶わない恋なら捨ててしまいたい。
気づかない愛なら壊してしまいたい。
「猫田さん、起きて」
「…え、あ」
ここは、保健室、かな?
白い天井、白いカーテン、硬めのベッド。
あぁ、ここは保健室で…、
「誰、ですか」
目の前に座るのは、綺麗な顔をした男子だった。
不意に、なんて綺麗なんだろう、と思った。
私の好きな人は、茶髪で、いかにもアイドルみたいなキラキラした人だけれど、
目の前の男子は黒髪で、綺麗な人…。
「同じクラスの…、蓮夜。」
「名字は、何?」
名前まで綺麗なだとも思ったけれど、下の名前を知っても、ね?
「…教える気無いよ。それより、どうしてここにいるか気にならない? 」
何で名字を教えないの…と少し苛立ったけれど、別に知りたくもないから質問に答えることにした。
「だって、これでしょ? 」
そういって腕のほうに目をやると、やっぱり包帯が巻かれていた。
自分を傷付けるその行為は、駄目だとも知っていても止まらない。
「…やめないのか」
哀しそうに眉を潜める蓮夜。
優しい人、なんだね。
「やめないよ。だって私は、ひとりだか、」
ら…、
優しい石鹸の香りに包まれた私は、とにかく冷めていた。
抱き締められているとわかっていても、
「あはは、何?初めて話して、可哀想だったら抱き締めるんだね。」
そんな、少女漫画みたいな話、私は、
「だいっきらいだ…」
少しの沈黙が続いた後、
「嫌えば良いよ…」
少し弱々しい声がこの白い部屋に響いた。
「…意味わかんない、何で、何で蓮夜が悲しんでるの、
悲しいのは私だよ、親もいなくて、やっと本気で好きになった人は……、」
完全な八つ当たり。わかってるよそんなこと。
蓮夜に抱き締められながら、私はぼろぼろと泣き崩れた。
こんなに良いところなかったら、彼と会えていたとしても、
私は選ばれるはずがない。
そう、大好きでたまらない彼の名前は…
「亜蓮、?」
「な…んで、知ってるの…」
蓮夜は、私を抱き締めるのをやめて、私の両肩に手を乗せるようにして言った。
初めて、バレていたらしい。
もうどうしようもないと悟った。今さら何を言っても、バレたものはしょうがない。
………そして私は、神様の悪戯としか思えない事実を知る。
「俺猫田さんのことが好きです。」
突然の告白に私は固まった。私なんて人に好かれるたちでもない、その上アイドル好きもバレている。
何で、好き…?
「俺の、兄の名前、知りたい?」
脈絡のないことを言い出す蓮夜は意味不明でしかない。
「何が言いたいの、」「亜蓮だよ、橘亜蓮。」
「アイドルやってる、橘亜蓮。」
…………神様は意地悪だ。
_________
「今日もかっこよかったよー?
良かったね、真ん中行かせてもらえて」
ソファに座って、猫のクッションを抱きながら彼に向かって言った。
「…俺のパートであの歌詞って、完全な当て付けだよ」
長身でスタイルの良い彼は、ため息混じりに呟きながら、長い足をうざったそうに曲げて私の隣に座った。
「それはさ、ずっと前の話でしょ。
今は、みんなと同じだよね?」
目指す、方向が。
見ている、景色が。
彼らの目線の、もっと上にある頂へ向かうにはあなたが必要。
「……まぁね。」
そう言って、少し誇らしげに微笑んだあと、綺麗な声で私の名前を呼ぶ。
「なぁに、………_____。」
彼は、誰もが羨む素敵な人、そんな言葉では片付けられないくらい。
大きな、存在。
「秘密を守ったご褒美、あげる」
ずっと、私だけ見ててね…。
私の持つ、猫のクッションに力がこもった。
ねぇ、猫ってさ。
誰かが、好きだったよね…?
__________……。
「…好き、めっちゃ好き」
重めの前髪は、そのたれ目にかかってて。たまにチラリと覗く男らしい眉毛がたまらない。
光を反射するほど美しい白の王子が、まさか私に虜になるなんて。
「ねぇ、俺のものになって?」
鼻にかかった高めの声に、クラクラする。
私は普通の一般人。
たまたま彼が地方に来ているときに、道ですれちがっただけ。
『お姉さん、良い匂いするね?俺、君みたいな子タイプよ』
念願の彼に会えて嬉しかったけど、
チャラいな、リップサービスかな、そう思って対応した。
そうじゃないと、境界線が見えなくなってしまうから。
「してほしいこと、ぜーんぶしてあげる」
気づいたら、私の名前も連絡先も、全て把握されてて、
『甘やかしてあげるよ』
そう、とろけそうな笑顔で言われたの。
ごめんなさい、好きです。
「やめてやめて、男2人でカフェはキツイよ〜」
天気の良い木曜日、
つかの間の休日を可愛らしいカフェにて、男同士で過ごすおかしい2人組を見つけてしまった私。
黒いサングラスにおしゃれな帽子…、おまけにセンスの良すぎる私服。
「ったく、もう。うるさいなぁ、そんな言い方するけどね?俺ら昨日までコンサートでキラキラしてたわけよ」
「まぁまぁ、別に良いじゃん〜、普通おかしいよ」
彼らは正真正銘、人気絶頂のアイドルで…、
何気なく入ったカフェで、仲の良い男友達と会った…、ついでに彼らがアイドルってわけ。
そこで私、名案を思い付いた。
「ってことは、アイドル様に奢ってもらえるチャンスですかね〜?」
ヘラヘラしながら、ズイッと強引に窓際のソファへ腰かけた。
「…は、お前ほんと図々しすぎ!」
美しい顔がグニャリと歪められて、暴言をはかれました、私悲しい。
英国紳士くんに
「いいじゃん、女の子には奢ってあげるもんだよ」
とにこやかに微笑んで、「何にする?」と首をかしげられたので、
「モンブランと、カフェラテ!」
と叫びながら、暴言野郎にニヤリと笑ってみせた。
「ったく、お前は優しすぎるんだよ」
「女の子には優しくして当たり前〜」
「いや、男にも優しすぎるわ」
「…人には優しく接するべきなの!」
「動物にも優しいわ」
「………いいじゃん。」
あれ、口喧嘩なのか、誉めてんのかわかんないぞ。
暴言野郎→コウ
英国紳士くん→ヒスイ
_____
私がモンブランを食べはじめても、
変わらず、悪口という名の誉め言葉をヒスイに投げ掛け続けているコウを見つめて、少し昔のことを思い出した。
私とコウは、中学生のときに出会った。
その時のコウは、アイドルになるために毎日必死にレッスンや仕事に取り組んでいて、まともに学校に来れたのは週に1日や2日ぐらい。
当然、常に学校にいられないコウはいつも1人だった。
でも…、私は毎日来ているにも関わらず、1人だった。
『女子』という輪の中で、
例えば、常に特定の誰かと行動するとか、休みの日には遊ぶだとか、
縛られてしまうのが、堪えられなかった。
そうして、教室という世界の中で塞ぎこんでいくと、
望んでいた通り、誰も話しかけてこなくなった。
でも、思っていたより人間は我が儘。
居心地はとても良かった。
だけど、
このまま誰とも話さず中学校生活を終えるのかと思うと、途端に怖くなって、
『…国語のノート、貸そうか』
しょうもない理由をつけて、
『あぁ、ありがとう。助かる』
特定の友達がいない、コウに話しかけた。
それからは、コウが来たときはどうでもいい話をして、たった2人で盛り上がって。
コウが休みの日は、ただ1人で勉強か読書をする。
そうやって休み時間を乗りきって、私たちが中学生を卒業する頃に、
『今日になったら教えてくれるって、何のこと?』
放課後の教室、耳元でコウに告げられたのは、
『デビュー、することになった』
それは、コウがずっと目指していて、
私も願っていたものだった。
高校生になると同時にコウは引っ越して、その1年後にデビューを飾った。
________
「いやぁ〜、モンブランは美味しいね!」
「人の金で食うモンブランは、そりゃ上手いだろうな」
フッ、と口角をゆるりとあげて微笑むコウ。
今の私があるのは、紛れもなくコイツがいたからだなぁ、とぼんやり考えつつ、
口の中をモンブランでいっぱいにしながらモゴモゴと、
「ゴチになりますッ」と叫ぶと、
2人に笑われた…、まぁ良いか。
______
カフェを出てすぐの道にて、
コウは、電柱の影でひっそりとマネージャーに電話している。
「奢ってくれてありがと〜う、今日の収録も頑張ってくださいなっ」
コウ待ちのヒスイに対して、
ピシッ、と似合うはずもない敬礼をしてふざけた。
変装バッチリ、不審者モードなヒスイは黒尽くめ。うん、怖い。
結局払ってくれた男前な2人…、
あ、アイドルだから、実際男前なのか。
ふむふむ、なるほど、と感嘆していると、
「ふふふ、いいよ、収録頑張るね。」
と、優しい返答。
サングラス越しに目を細めて微笑んでいるのが見える、ヒスイ。
「大天使…」と小さく呟きが溢れた。
「近くにマネージャー呼んどいた、
おい、マシロ。」
電話を終えたなり、私に話しかけてくるコウ。
…大天使から大魔王になっちゃったよ。
「なに?」
「おまえ、ここで一緒に待ってろ」
唐突に告げられたそれに、
飄々とのらりくらりをモットーに生き…、るようにしている私も、流石に驚いた。
「…いや、それはおかしいでしょ。
奢って、とか言った私も悪い、けど。
流石に、外でそんなことしちゃ、撮られたらどうする…、「ミズキだよ」
…なんでミズキ、?
「お前、ミズキがいちばん好きだろ」
そう、淡々と言われた。
確かに、コウのグループで誰が好き?って言われたら、
全てにおいて、ミズキがいちばん好きだ。
「…うん?そうだけど、…え?」
「そうなら良いから、待ってろ。
もう来るから、あ、来た」
…人気アイドルの迎え、早いよ。
______
____ガラッ
黒いカーテンで窓が遮られている、
いかにも有名人を隠すかのような大きい車。
その車のドアが唐突に開くと、
「マシロ、久しぶり!」
どこぞの王子様ですか、なミズキが、笑顔を覗かせた。
黒髪がサラリと目元にかかっている。
うん、爽やか。
いつの間にかいそいそと乗り込んでいたコウとヒスイに視線をやっても、
…あいつら、こっち見ないぞ。
どうしたら、この場を切り抜けれるのかな…。とりあえず、
「あ…、うん。私帰るね〜」
いつも通りな感じでひらひらと手を振ると、
鋭く睨まれて、
「マシロ、早く乗って。撮られたら大変でしょ。」
そう言われて、ひらひらさせていた手首ごとグイッと引かれ、
______ガチャリ
ミズキにもたれかかるようにして
車チェックイン完了してしまった様子の私を乗せて、
ついでに、
「酔わないように、ちゃんと座りな?」
ニコニコとする色白王子様と、
「…ミズキ怖ぇ」
「大丈夫かなぁ」
ふざけんなこの野郎な2名を乗せて、
…車、出発進行……。
__________
「きゃー、きゃー、もうコウ君かっこいい〜、握手してくださいっ」
「ありがとう、俺のこと応援してくれて。そんなに好きでいてくれるなんて…、君のこと…」
そういうと彼は私の耳元まで口を近づけ、
「愛してるよ」
……
「きゃー!かっこい、へぶしっ、ちょ、コウ!!叩かなくても良いじゃん、今リンと楽しくさ、
『街中を颯爽と歩くプライベートのコウと、彼を見つけたファンの女の子ごっこ』してたのに!」
コウが持っていたドラマの台本の角で叩かれた、痛い、酷い。
「名前長すぎるし、俺そんなこと言わねぇし。」
「いいじゃん、こっちは楽しく遊んでるだけなんだから〜」
は?と私を一睨みしてから台本に視線を戻したコウを睨みつつ、
「コウいじるの楽し!」と、もうソファに座ってケラケラ笑っているリンの隣によいしょ、と腰掛けて、
「あれ、何で私ここにいるんだろ〜、と考えた」
「いや、口に出しちゃってるから!」
ぺしィッと、ツッコんでくれるリン、ありがとうよ
「でも、本当なんで?」
SsOW(エスエスオーダブル)の楽屋で1人場違い女がアイドルに問うております。
車で連行されて、車内でミズキに聞いても、「なんでだろうね?」とはぐらかされてしまった。
楽屋の奥でモグモグとおにぎりを食べているヒスイが、ゴクン、と飲み込んで、
「俺とリンは知らないよ、何でなのか、ね?」
ヒスイが首かしげて聞くと、をリンも隣で、「そうそう」と頷いている。
「コウか、ミズキ…、あ、そうだ、マシロちゃん、来て」
ちょいちょい、と手招きされて、
なんだなんだ、とヒスイに寄っていった。
ヒスイの前まで行くと、座っているヒスイと目線が合うようにしゃがむと、
「わざわざごめんね」
と、それだけのことで謝ったヒスイ、なんと優しさが…。
「ミズキね、今隣の部屋で雑誌の単独インタビュー受けてるの、ほら、今度の映画のやつで」
ヒスイにそう言われ、あぁ、あの映画ね、と頷いた。
「だから、もうすぐ戻ってくるから、廊下で待っといて、『何で連れてきたか教えてくれないと帰るよ』って、言えば良いんじゃないかなって。」
「なるほどね、ありがとーう「ヒスイ、俺のことからかわないでよ」
手を合わせてヒスイに感謝を表した、
その時に、横から白く長い腕がスルッと伸びて、私の頭にポンっとおかれた。