- メタボ界 -
俺たちは太ってる。太ってるから馬鹿にされる…。
つまんねえ。痩せたいけどダイエットなんてめんどくせえ。
- 人間界 -
僕はデブでブサイクだ。
どうせ痩せたって僕はブス。
…あいつらはズルい。女子にチヤホヤされやがって。バラ色の毎日。
それに比べて僕は…。
そう。これはバラ色の男に嫉妬する男の物語。
page.1 退屈
カラカラッ。
「 横髑髏(ねんねどくろ)ふたつ。
また俺の勝ちだ。 」
「 ケッ。 」
…あれから五日…。
「 そろそろ行くか。 」
「 ん?どこ行くんだリューク。 」
「 メタボ界はどこに行ったって不毛だぜ。 」
…つまんねえ。
デブだとからかわれる毎日。おかげでこいつらと同類…。
俺はもうここには居たくない。
「 デブノート落としちまった。 」
俺はあえて嘘をついてみた。
デブノートというのは俺たちメタボ界の生き物が持っているノート。
ノートに名前を書かれた物はデブになってしまうという…。
美意識が高いものには恐怖なノート。
メタボ界の生き物は一匹ずつノートを持っている。
しかし、俺たちがノートに名前を書いても何も起こらない。
ボスがなんとなくくれただけだ。
こんなのじゃつまんねぇ。
「 ギャハハー!
今度はまたすげードジしたな。 」
「 んで、何処に落としたかわかってるわけ? 」
そりゃあ勿論…。
「 人間界(げかい)。 」
「 えっ!? 」
驚く仲間たち。
…もう俺はここの奴等とか二度と顔を合わせないかもしれない…。
そう思った俺は、
「 じゃあな。 」
と呟いて人間界へ降りた。
この生き物が人間界に落とした一冊のノートから…。
二人の選ばれし者の壮絶た戦いが始まる。
- 人間界 -
僕は授業のことなんて全く頭に入っていなかった。
何故ならあいつらを見返してやりたい気持ちしかなかったからだ。
僕は窓の外をずっと眺めていた。
すると__。
黒く薄いものが落ちてきた。
ノート?
放課後、僕は落ちてきた黒い物が何かを探ってみることにした。
…あった。
僕は黒い物に近付いてみた。
…やっぱりノートだ。
僕はノートを拾ってみる。
『 DEBU NOTE 』
直訳でデブノート…。何だこれ。
僕は気になってノートを捲った。
『 これは太った者だけが使えるノートです。』
「 ぷっ。 」
僕は吹き出した。あまりにバカバカしかったからだ。
自分がバカにされたような怒りの気持ちもあった。
『 使い方…。
このノートに名前を書かれた人間は肥満になる。 』
「 はははっ。 」
…ったく。馬鹿らしいな…。
何でこんなノートが落ちてくんのかな。
不幸の手紙から全然進歩なんかしていない…。
バカらしくて捨てて帰ろうと思った。
…だが、何だか妙に好奇心がわいてくる。
僕はノートを手にして、家がある方向に行く。
通り人に一人だけイケメンを見つけた。
その表情は自信で満ちていた。
まったく…クソだな。
自分の内面がクソみたいなことに気がつかないのかよ。
僕はさっさと歩いた。
ギィー、バタン。
僕は『ただいま』も言わずに家に入る。
どうせ家には誰もいない。
いや、妹が一人いた…。
「 お兄ちゃん、お帰り〜。
…何?その顔。また嫌なことでもあったの〜? 」
僕は無視してさっさと自分の部屋に入る。
そして、持ってきたノートをもう一度開く。
『 書く人物の顔が頭に入って来ないと効果はない。
ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない。 』
『 名前の後に人間界単位で40秒以内に体型の絵を描くとその通りになる。 』
『 絵を描かなければ全てがメタボになる 』
…なるほど。怖いな。
…でもこうやって楽に人の体型を操ったりできるわけがない。
「 悪戯もよく手が込んでいる。
…名前を書くと太る…か。くだらない。 」
僕はべットの上に寝転び、貼ってある椎名心実のポスターに目をやる。
ポスターの椎名心実は僕に微笑んでくれている。
…僕もこんな風に、微笑んでくれる女子がいたらな…。
そう思いながら、ついぬい寝入ってしまった。
- 五日後 -
僕は今日も一人で家に帰る。
僕には友達なんかできたことがない。
この見た目で、誰もが目を背ける。
男女構わずだ。
男は大声を出してバカにしてきやがる。
女はこそこそとこっちを見て何かを話している。
きっと僕の陰口なんだろう。くだらない。アホらしい。
そして今日も黙って家に入る。
「 ちょっとあんた。今日テストの結果出たんでしょ?
見せなさい。 」
「 …やだよ。 」
「 …いいから見せなさい!! 」
「 うわっ…! 」
母は僕は押す。
そして勝手に鞄の中身を見て結果を見始める。
「 や、やめろっ…! 」
「 まぁ。また最下位から二番目!?
いい加減勉強しなさいよ! 」
「 …そんなことより、僕はゲームに集中したいし。 」
「 はぁ!?バカなこと言わないでよ!
あんた頭可笑しいの!?高校生にもなってゲームだなんて…。 」
母ちゃんが怒鳴ってくる。テストの結果が帰って来たときはいつもこれだ。
怒鳴ってばかり。
怒鳴るのは別にどうってことはない。
だが、殴ってくることもある。
僕は殴り返そうにもできない。
だって…母ちゃんは母ちゃんだからだ。
バタン…。
「 ふう。 」
僕は部屋に入り、すぐにノートを手にする。
そして笑う。
「 っはは…。 」
その時だった。
「 気に入ってるようだな。 」
後ろから声がした。
僕は驚いて振り返る。なんとそこには……。
見たこともない不気味な怪物がいた。
「 う、うわっ…!! 」
僕は慌てて尻もちをつく。
怪物を見たまま、身動きがとれなかった。
「 何故そんなに驚く。
そのノートの落とし主、メタボ界の怪物リュークだ。
さっきの様子だと、もうそれがただのノートじゃないってわかってるんだろ? 」
「 メ、メタボ界…!? 」
僕は最初驚いた。心臓が止まるかと思った。
…落ち着け。こいつはおそらく…。
僕を選んでノートを落としたんだ。
こいつも見ると僕と同じく太っている。
いや、こいつはデブすぎる。
…とにかく落ち着くんだ。
落ち着け…落ち着け…。
「 …メタボ界…か。 」
僕は立ち上がってこいつを見る。
こいつは真ん丸とした目で僕を見ている。
僕は眼鏡の奥の細い目をできるだけ開き、こいつを見つめ返す。
「 驚いてないよリューク。 」
僕がいった途端、こいつは瞬きを何回もする。
よく見ると、なんだか愛着がわいてきて可愛いらしいやつだ。
「 …いや…、
待ってたよリューク 」
僕はニヤっと笑い、言う。
いつもは気持ち悪がられるのが嫌で笑うこともできなかった。
もしかしたらこいつのおかげかもしれない。
「 ほう 」
「 お前みたいな奴が来てくれるとは…
親切だ…
僕は既に「メタボ界のノート」を現実だと疑ってなかったんだけど…。
こうしていろんなことを直視することでますます確信を持って行動できる 」
僕の口は勝手に動き、ペラペラと喋り始める。
普段の僕は息詰まって言葉をうまく発することができない…。
こいつのおかげだ。