【どうも初めまして】
【このスレはこの私カイバーがなりきりのオリキャラ作ろうぜで投稿した自分のオリキャラの東方小説を投下するスレです】
注意事項
【基本的には1キャラにつき1つだけの一話完結の短編という形式を取ります】
【そのオリキャラのおーざっぱな性格、信条、日常、過去などを描写していく予定です】
【原作の設定などとはなるべくすりあわせますが素人故雑な部分や矛盾がある場合がございます】
【異変、弾幕ごっこ、バトル描写は少なめになる予定です】
【投下速度はドンガメ。停止する可能性もあります。たまに気が向いたらちょっと覗いていく位の気持ち推奨です】
以上です。いたらないところも有りますがよろしくお願いします。
では始めます。何も考えるな。投下…、投下するだけ機械になるのだ(震え)
3:カイバー:2016/10/28(金) 00:42 ID:waY あくる日、妖怪の山にて…
VI−z「うおぉぉぉぉぉぉ!?」
死角から突っ込んできた城壁のごとき巨大な『それ』にVI−zの体が跳ね飛ばされる。
「ゲハハハハハァァァァ!!人間ンンンンンン!!」
それは牛だった。いや正確には二足歩行で直立し獅子の如く頭に剛毛と角を生やしている牛っぽい顔の妖怪であった。
牛っぽい顔の妖怪「ヒサシブリノ人間ダァァァァ!オイキサマ人間ダロ!!人間ナンダロ!?ナア人間ダロォオ前!!!」
VI−zの体にのしかかり一方的にわめき散らす。
VI−z「うっせー!!顔近づけんな寄るな息臭いんだよ変態牛野郎!!私は人間じゃ…」
牛「置イテケ!肉置イテケェェェェ!!テメエノ肉オイテケヨオォォォォ!!」
VI−zの存在はまだ妖怪の山全体に広まってはいない。人間と勘違いされ襲いかかられても不思議ではなかった。
故にちょっとした散歩か探検気分で主人の工房を抜け出し一人で山を彷徨いていたのは間違いだったと彼女は後悔する。
VI−z「話聞いてくれない!?だからちげーって!……っ、あーもー!!」
牛っぽい妖怪の腕を彼女はあいた腕でガシっと抱え込む。
VI−z「調子のってんじゃ…、ねえぇぇぇぇぇ!!」
そしてのしかかる牛妖怪の勢いと重量を利用して巴投げの要領で投げ飛ばした。
牛「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?ナンノオ!!」
しかし相手は巨体に似合わない俊敏さと器用さで姿勢を持ち直し、地面に激突すること無く着地する。
そして瞬時に再び飛びかかってきた
VI−z「いっ!?でかくて器用で早いとか反則だろ…!ってうわぁ!!」
牛っぽい妖怪は勢いのまま起き上がりかけだったVI−zの左肩に食らいつく。
牛「ハッハア!人ニシテハヨクヤルガナア!マズハ左手ェ!トッタァァァァァ!!」
が、
メキバリゴキメリィ!!と人から発するとは思えない金属の破壊音が響いた。
牛「ンン!?」
牛妖怪は思いがけない固い感触に戸惑った声をあげる。
VI−z「こっ…!こっんのぉ!離れろ、よおおおおお!!」
肩が引きちぎれるのにもかまわず、VI−zは蹴りを牛妖怪の頭部めがけて浴びせかける。
牛は口をVI−zの肩からはがし、飛びしくように躱して距離をとった。
牛「ナンジャアキサマ。人間デハナイノカ」
驚きと言うよりむしろ落胆が籠もった声色で牛妖怪は言った。
VI−z「最初からそう言ってるだろーが!!」
VI−z「どうしてくれんだよこの腕ェ!こっそり工房から抜け出してきたのがばれるだろーが!!」
ほぼちぎれてコード一本でぶら下がっている状態になった左腕を見せてVI−zはいきり立つ。
牛「…ナンジャ河童の所ノガラクタダッタカ。マタ紛ラワシイモンヲ作リオッテ」
フン、と鼻を鳴らして牛妖怪は途端につまらなそうにしてVI−zを見やる。
VI−z「誰ががらくただ!勘違いで他機(たにん)のこと襲った詫びのひとつでもないのかよ!」
牛「知ランワ。妖気モ纏ワズ人ト見間違ウヨウナナリヲシトルオマエガ悪イ。アー、シラケタワイ」
そう言うと牛妖怪はさっさと背中を向け地面を蹴り空に飛び立っていく。
VI−z「そんなナリで飛べるの!?反則だろ!チクショーこんな時じゃなかったら…!」
普段なら自分も飛んで追いかけるのだが、メンテの途中で抜け出したため彼女は今飛ぶことも能力を使うこともできない。
誤作動を防ぐため、主人の側から機能を切られているのだ。自分では起動ができない。悲しいかな機械故の融通のきかなさである。
唇をかみしめながら地上から負け犬のように文句を吠え散らかすしかできないのかと諦めかけていたその時、
牛「マッタクアンナポンコツノブリキ人形で遊ンドルトハ、河童共モ墜チタモンジャノウ」
VI−z「…………あ゛あ゛!?」
向こうからすれば何気ないぼやき。しかしそれは彼女の逆鱗に触れていた。
「あの牛やろーもう許さん…!ポンコツ呼ばわりの上にご主人の悪口とはいい度胸だ!」
VI−zはおもむろにちぎれかけた左腕を右手でひっつかむ。そして
VI−z「どうせ動かないならジャマだし、壊したのあいつだし、私悪くない。だから仕方ないセーフセーフ」
ブチンッ!と。
左腕をちぎり取って完全に胴体から分離させた。
そして姿勢を横にして右腕で左腕を上段に構えた…投球するようなポーズをとる。
VI−z「とばーせー、てーっけーん…」
かけ声と共に。
VI−z「ロケットパンンンンンンチィィィィィィィィィィ!!!」
思いっきり左腕をぶん投げた。
ドコ゛ォォン!!…と、
風を切る音に振り返った牛妖怪の顔面にVI−zのロケットパンチ(手動)が思い切りめり込んだ。
…ちなみにVI−zは精密機械の塊である。その見かけによらず体重はそこらの人間などよりも遙かにヘビーだ。腕一本だろうと。
腕力に関しても鬼のような力自慢の妖怪には及ばずとも図体が自分よりでかい妖怪を投げ飛ばせるくらいにはある。
故に彼女の投げたそれはもはや一種の砲弾といってもよいものでありメジャーリーガーの投球などというようなかわいい領域にはない。
牛「グゲっ!!」
そんなものが空中でクリーンヒットした牛妖怪は必然バランスを崩し地面に真っ逆さまに墜落した。
VI−z「うっしゃー!大当たりー!!どーだこのやろー!!!」
墜落した牛妖怪にVI−zは近寄って勝ち鬨をあげる。
VI−z「ねーねーどんな今どんな気持ちー?さんざんこけにしたポンコツにたたき落とされるってどんな気持ちー!?」
VI−z「せっかく強者ムーヴしてたのにかっこわるーい!ハッズカシー!お顔真っ赤っかな赤っ恥だなー!」
墜落した牛の前、ゲス顔でかろやかなステップで小躍りしながら煽りまくるその姿はとても女性型ロボとは思えない。完全にチンピラである。
VI−z「……あれ?」
が、よく見ると牛妖怪は白目をむいて痙攣しながら気を失っていた。
VI−z「なんだよこっちをさんざボコボコにしたのに自分は一発でダウンかよ!不公平じゃね?」
憮然として文句をたれる。こちらとしてはまだぜんぜん物足りないのだがしかし…
VI−z「追い打ちかけるのはさすがにちょっとな…、こっちが悪役みたいだし」
とりあえず心音や呼吸音は探知できるので死んではいないだろうとかんがえてから
VI−z「まあいいか!7割方スッキリしたし。勝利は勝利だ!ビクトリーだ」
ひとしきりはしゃいでから
VI−z「……で、どうしよう。これ」
ふと冷静になり、肩口からえぐられてかなり痛々しい様になった左上半身と未だに痙攣している牛妖怪を見やる。
そーいや自分は主人の待機の言いつけをやぶって好き勝手に山をぶらぶらしていた身の上である。
他にも山の妖怪とむやみに諍いを起こさないようにとも命令されていたはずだ。たとえこちらに非が無くとも。
さらに思い出せば自分の体は解析不能な未知の領域が多いため、過度に損傷してしまえば修理にかなり手間が掛かるとも
言っていたような。
VI−z「………」
現状、見事にスリーアウトである。自分が。
VI−zの脳裏に般若のごとき相貌を浮かべながら迫ってくる自分の主人…、河城にとりの姿がよぎった。
VI−z「…良し!こいつのせいにしよう。こいつが工房に侵入して暴れたって事にすれば」
最初の1つはともかく、襲いかかってきたのも自分の体を壊したのもこいつがやったことだし、ついでだから
無断外出に関する罪も一緒に被ってもらおう。
VI−z「そうときまればさっそく隠蔽工作開始だ!」
牛の首根っこを残った右手でつかんで引きずりつつVI−zは自分の今の居場所…自らの主人の工房に駆け戻っていった。
…まあ、結局にとりから大説教を受けるため隠蔽工作の努力は無に帰す運命なのであるが。
終。
異伝其の一『機械仕掛けの使用人VI−zの愉快で幸福(?)な日常』
次回予告風。
「世界の秘密を暴きたい」
「ワタシと菫子…、ワタシたち二人はその目的という点では同じ」
「でも実際の所、それ以外はちぐはぐでかみ合わないのだろう」
「ワタシが思うに」
「この世界は全てを否定する。それはとても……」
異伝其の二『現代魔法使い、安武 亜留羽の世界構造考察』
ひとまず終了。
やばい投下の途中で緊張しすぎて腹痛が痛い(汗)
期待はしないで待っててねノシ
見に来ましたよ!
凄く面白いです!次回が楽しみですよー♪
あ、私はオリキャラ板の「神蓮 紫姫」ですよ
>>10
来てくれてありがとうございます!
ロボット系キャラは欠損描写をやりやすいのが強みですよね。
半壊ロボはロマン。異論は認める。
戦いに関してですが本来冷静になれば無傷で切り抜けられました。
でもいきなりで慌てていたうえ怒ってもいましたから。
感情に振り回されて性能が発揮できてないんですね。
心があることでロボ特有の精密さを欠いてしまっているんです。
今回は心があることが自分の足をひっぱったケース。
でも心がないと友人のお茶会とかで楽しいお話ししたりできませんからね。
ロボでありながら人間並みの心があることが長所であり短所っていうのがこのキャラの特徴です。
>>11
ロボットは壊れる描写でカッコ良さがさらに際立ちますよね!
もう戦闘シーンでスッゴクワクワクしてますます続きが楽しみになりました!
ヴィーズちゃんもうセリフだけで可愛いです
何とか間に合いました。
予定通り22時に二回目の手直しと見直しを挟みつつ二話目を順次投下していきます。
東深見高校。
傍目からは普通にありふれた高等学校の1つ。
その学舎の一室に彼女を含めたたった二人の会員から成る非公式オカルトサークル…、名付けて『秘封倶楽部』は存在していた。
カタカタカタ…、と部室にキーボードをたたく音だけが響く。
「……、んー」
彼女…、椅子に座りのびをして体をほぐし、安武 亜留羽は部室の隅の机に据え付けられたパソコンを前にして「とある作業」に没頭していた。
彼女は東深見制服の上から白衣をまとっている。此処だけ切り取れば資料整理のデスクワークをしている科学者に見えない事も無い。
……背中の部分にその存在を歪に主張しているものが無ければの話だが。
彼女の白衣の背にはでかでかと魔方陣が描かれている。五芒星。それも中心にいやにリアルな眼球の文様が刻まれた、
控えめにいっても「悪趣味」と言わざる得ないファッションだ。
本人曰く、特定の「悪いモノ」を遠ざける魔術的効果があるらしいが。
本人の雰囲気と容姿も問題である。はねにはねまくった黒のショートヘアは本人のお洒落に対する無頓着さをこれでもかと言わんばかりに自己主張している。
で、最も致命的な部分。それなりには整った、まぁ美少女といっても差し支えないはずの彼女の全てをひっくるめて台無しにといえるのが彼女の目つきだ。
特につり上がっていたりとかしているわけでは無いがその瞳の色はこの秘封倶楽部の会長様曰く、
「死んだマグロの目玉をドブ水で煮込んだりしたらこんな夢も希望も無いような淀んだ色合いになるかもね」
一体何処の誰の事をいっているのかしらねー。ワタシには検討つきませんよ」
あまりにご無体な表現をかましてくれた、いつの間にか座った亜留羽の隣に現れていた少女に亜留羽はとぼけた受け答えを返した。
「起きてた…、いや『帰ってきてた』なら一言いってよ。ビックリするじゃない、…おかえり。会長」
言葉と裏腹に眉1つ動かさずパソコンの画面から目を離さないままに形だけの不満をそのブラウンの髪とメガネの少女…宇佐見菫子に呈した。
「てか部室のドア開ける音聞こえなかったんだけど」
彼女は今日は教室で眠りこけて『向こう側』に旅立っていたはずだが。授業終了後のホームルーム、机に突っ伏したまま最後の起立からの挨拶
もしていなかった菫子を思い返す。
なのにクラスメイトどころか教師からすら無視されて完全放置くらうとかいよいよ色々と極まってきた感じあるよなぁと、
実際菫子と似たり寄ったりな扱いをされている自分の事を完全に棚に上げて思い返していると
「歩くの面倒だったからトイレの個室から部室まショートカットしてきたわ!」
何でも無いことのように言う菫子。それには亜留羽も鳩が豆鉄砲食らったように驚く…
「ああ、テレポーテーションね。道理で」
なんてことはなく、やはり何でも無いこと、この少女が突然部室に現れることなど当たり前だと言わんばかりに少し呆れを織り交ぜた声色でかたづける。
「にしてもせっかくの超能力でやることのスケールが小さい…」
もう少し有意義な使い方は無いんだろうかといったニュアンスを含めて手は止めずに亜留羽は苦言を呈するものの
「いいじゃない。自分が使えるモノは自分勝手に便利に使い倒せばいいのよ」
とお気楽能天気な答えを返される。生まれつき超能力などといったオカルトな力を身につけていた菫子にとって自分の力は手間無く
いつでも持ち運べる便利な日用品程度の感覚なのだろう。
「分かってても心臓に悪い。ワタシそーゆうあらかじめ予測がきかないこと苦手なの」
しかし今現在はともかく、生まれつき普通の真人間だった年数のほうが今のところは長い亜留羽からすればそれは十分に非日常たり得るモノだ。
「眉も動かさず手も止めずだったくせによく言うわねー」
「これでも驚いてるんだってば。思わす『こぶし』を喚ぼうとしちゃった位には」
いったんキーボートから手を離し、パソコンの横に表紙を開いていた『それ』のページを左手でめくりながらぼやく。
「うへぇ…。それはさすがに私も勘弁だわ」
いかにもわざとらしくお手上げといったポーズを取りつつ、
「あんな頭蓋骨をすり抜けて脳みそのど真ん中を思いっきりぶん殴られるような感覚はもう味わいたくないわね」
「うんあのときはワタシの方も悪かったけどね。反省はしてる」
亜留羽は回想する。
なぜ菫子が具体的に感想を述べられるのかといえばまあ実際体験したからだ。
そんなことになったのは二人の馴れ初めに問題があった。
転校初日に亜留羽は秘封倶楽部の部室に訪れていた。そこにはまだ菫子が居なかったわけだが…。
出会い方に問題があった。今のように菫子がテレポートで部室に転移してくる瞬間に亜留羽は居合わせてしまったのだ。
相手が一般人ならなら菫子が能力でマインドコントロールをかけるなりなんなりして忘れさせれば良かった。
が、亜留羽は魔法使い、つまり超常的な現象に関する知識とそれに対抗する手段を持ち合わせていたのだ。
そして困ったことに魔法という菫子にとって初めての自分の能力以外の神秘、それを使い自分に対して常人なら不可能な抵抗をして見せた亜留羽に菫子は興味を抱いたのだ。
さらに困った事にそれは亜留羽側にも当てはまっていることだった。亜留羽もまた好奇心旺盛な知りたがりだ。それもかなり粘着質で厄介な類いの。
亜留羽もまた自分にとって未知な事柄である菫子の超能力は興味深いものだった。
起こったのはどちらが先に相手の神秘を調べて暴くかどうかという順番と主導権の奪い合いである。
そしてお互いかなり身勝手で強引な性格をしているが故に必然それは荒っぽい手段に訴えがちになるということであり、
その時の二人のケンカはさながら外の世界風に言わせてもらえばファンタジーな対戦格闘ゲームさながらのすさまじいものであった。
決着とその後の後始末についてはあえて省く。思い出したくもない。
「振り返ってみるとアンタあのときはホントに余裕無かったわよね、今以上に目つきやばかったし」
「それはお互い様でしょ。今以上にあのときの会長もコミュ障って言葉すら可愛かった」
互いに随分と丸くなったものだと思う。そのきっかけは『あの世界』を認識してからだろう。
「うっさい。そーいえば今日は亜留羽は『向こう』行かないの?連れてってあげるけど?」
やけに早いお帰りだと思ったら自分を誘いに来たのかと亜留羽は巡回するが、
「んー、今日はやめとく。今日のノルマ済ませないといけないし」
彼女は先の黒く分厚い本を指さして言った。彼女がいまやっているのはこの魔導書の中身の翻訳と写本だ。
「また翻訳、ほんと飽きないわよねー……、あーやっぱ駄目かぁ、読めない」
は本のページをちらりと眺めてからうなり声を上げる。
「相変わらず真っ黒なページばっかで何にも書いてないようにしか見えないわ」
「『こいつ』は気に入ってる相手にしか自分の中身をみせないから」
「それになんかじっと見つめてると気分が悪くなってくるのよねー。脳みそを針でチクチクされてるような」
後ろからもたれかかってのぞき込んだ姿勢のまま菫子は目頭を押さえて頭を振りながら言う。
「こいつの発する毒気みたいなものね。まあ慣れればガソリンの匂いみたいなもんよ」
本来そんな生ぬるいものでは無いのだが、そんなことを軽くのたまう亜留羽にちょっと引きつつ菫子は思っていた疑問を投げかけた。
「なんで見てるだけでこんなに気分悪くなるのかしら。妖魔本ってそんなのばっかりなの?」
「多分こいつの中にある知識や魔法はこの世界の生物とは根本的に相性…、規格みたいなモノが合ってないんじゃ無いかな」
「だから無理に使おうとしたり理解しようとすれば精神が汚染される」
「ふーん、めんどくさい魔法もあったものなのね」
「正確にはこいつのは魔法じゃ無くてこの世界で言う魔法っぽい現象を起こす別の何かなの」
「だからワタシも厳密には魔法使いじゃない。相変わらずワタシ自身は人間のままってこと」
まあ、精神以外に悪影響がないとも限らないのであるが。それ故後にこう付け加える。
「…多分、ね。…てゆーか重い。暑苦しい」
体を揺さぶって背中に引っ付いた菫子を振り払う。菫子はのんきに「おっとと」などと言いながら亜留羽から離れて言う。
「まぁそれはともかくとして、今日は行かないって事でオーケーなわけね」
ん、と短く答える亜留羽は再びキーボードをカタカタと入力する作業に戻っていた。
菫子もそのまま『向こう』に出戻りするべく部室の中心の机に向かっていく。
「あんまり根つめ過ぎちゃだめだからねー。パチュリーや魔理沙も心配してるわよー。たまには遊ばなきゃ!」
机によじ登って寝そべりつつ遠回しに自分自身も、というニュアンスで気遣いの言葉を発する。
「分かってるわよ。でも遊びすぎるのも問題だと思うんだけど」
「この部は非公式サークル扱いなんだからレポート提出とかちゃんと普通に活動してますアピールもしとかなきゃ面倒なことに…」
どうにも最近『向こう』に入り浸りがちになっている傾向がある菫子に注意を促そうと振り返ったのだが、
「……、ん?」
「…Zzzzzzzz」
どうやら既に『出かけた後』らしかった。
「…寝るの早すぎでしょ。のびたくんもビックリじゃない。」
寝返りでスカートがまくれ上がったりしたらどうするんだ。と仕方なく立ち上がり、バッグから予備の自分の白衣を取り出し。
「そろそろ寒くなってきたんだから風邪引くわよ…っと」
机に寝そべって幸せそうに寝こけている菫子の体に毛布代わりにかけてやる。
「薄いけど。無いよりはマシでしょ」
そしてそのあとすぐに作業に戻ろうとしたのだが、
「…あー、なんか集中が一度切れたら一気に疲れが出てきた」
この子の言うとおり、はやり自分は少しばかり無理をしすぎていたのかもしれない。しかし菫子をおいてさっさと帰るのも薄情だろう。
前の自分ならそうしただろうが、今は彼女に少なからず好感を抱いている。
「まぁ、友情…友達ってやつなんでしょうね。この子が今こうして寝てなきゃ絶対言ってやらないけど」
できれば彼女にとっての自分も、そうであってほしい。
亜留羽はいつになく彼女との間に得がたいものを感じていた。
「………外の空気でも吸って休憩しましょうか。部屋の空気も悪いし」
照れくささと手持ちぶさたになった事もあいまり、亜留羽は部屋の窓際に歩いて行き、がらりと窓を開けた。
少し身震いするほど冷えた空気が部室に流れ込んむ。
季節が移り変わりつつある今の世界は日をを刻むごとに徐々に日が落ちて暗くなるのが早くなってきているのが感じられる。
寝ている菫子にも悪い。これはそうそうに休憩は切り上げなければいけないかと感じつつも、
「暗さと寒さって何でこう体だけじゃなく心も萎えさせるのかしらね」
人工の明かりが灯り始めた世界の町並みを見やり、ふと呟く。
「………この世界は夜でも明るいわね。まあ都会だし。当たり前か」
振り返り、窓際にもたれかかりながら、
「不自然だけど、これが今の常識なのよね」
普段密かに考えていたことを、
「………ねえ、菫子。あなたは深秘を暴いたとして、そのあとそれをどうしたい?」
部室の真ん中の机の上、寝ている菫子に問いかける。
「今『向こう』の人たちとやっているように一緒に遊んだりして楽しみたい?」
暗くなり始めた部室を見渡しながら
「だとしたら菫子は強いね」
相手に聞こえない本音を呟く。
「でもワタシは弱いみたい。ワタシは深秘が……分からないものが怖いの」
「ワタシは深秘が在ると知ってしまった。知ってしまったから分からないものを分からないままにしておくのはもっと怖くなった」
「ワタシは深秘を暴いた後は誰にも見つからないさらに深いところに隠してしまいたいと考えてしまう。自分の居るこの世界から怖さを取り除くために」
「多分ね、この世界はワタシみたいな弱い人たちが多くなりすぎているのよ」
「そして今のこの世界はその弱い人たちによって築かれた『常識』に縛られて、そして守られている」
「『暗闇に潜む正体不明のナニカなんているわけがない』『一人でいる時に背後に感じる視線は単なる錯覚に過ぎないんだ』ってね」
「この世界はもはや『常識』の光に照らされた人間のためだけの楽園。でも故に今の人間はもう『未知』の暗闇の中には戻れなくなった。だから」
「ワタシが思うに」
「弱い人間達が笑って日々の安息を過ごすために」
「この『世界』は全てを否定する。それはとても……」
「とても慈悲深いことなんじゃないかって」
亜留羽はふと正気に返る。単なる独り言のつもりがいつのまにか世界に対する妙な考察を垂れ流してしまっていた。
「…なに訳分かんないこと一人でまくし立ててるのよワタシは。馬鹿みたいじゃない」
思わず気恥ずかしさで赤面する。いくら今一人しかいないからって随分馬鹿馬鹿しい戯れごとを吐いたものだと。
「やっぱり疲れてるのかな」
あるいはこの肌寒さからくる心細さのせいだろうか。もう十分部屋の空気は入れ替わった。亜留羽はさっさと窓を閉め切って
ひとつ伸びをすると
「さてと。いい加減部屋も暗くなってきたし。明かりを付けましょうか」
改めて菫子を見る。
「…Zzzz」
あいかわらず彼女はぐっすりだ。もうそう遠くない時間で閉校時間なのだがいまだに『向こう』に居るらしい。
場合によってはまた自分が彼女をおんぶして下校しないといけないのかと思いゲンナリする。
もしそうなったら手間賃代わりとして明日昼食の飲み物を請求してやろう。それも購買で一番高くて争奪戦が激しいやつをだ。
そんなことを考えながら彼女は暗がりの部室を歩き、
ドアの近くの、部室の室内灯のスイッチに向かって手を伸ばした。
終。
異伝其の二『現代魔法使い、安武 亜留羽の世界構造考察』
これで二話は終了となります。…さて
あらかじめ書き溜めた分が無くなったぜ(焦)
あ、二話のイメージED曲になります。雰囲気出したいしね。:https://www.youtube.com/watch?v=LIQpiaaE6cw
26:幽化莉◆w2:2016/10/29(土) 05:31 ID:c.Y 起きました!朝早くからうるさくてすいません
こういうのも良いですね
新しいの期待してたんで、とても嬉しいです
また気が向いたら新しいの出してほしいです!
期待しています
次回予告
「はーいまいどありー!、あっ、リンゴジュース、サービスで付けときますね!」
「お代おいてけ!ドロボォォォォォ!!」
「すいませんでしたごめんなさいでしたチョーシこいてましたどうか勘弁してください」
「ククク、フゥーハハハハハ!この醜くも!美しい!!この世界こそ……まさに!!!」
「私の心のライフはもうゼロよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
異伝其の参『?原罪の咎蛇? マリータ・ヘミングウェイは地上に賛歌を謳った』
第一話イメージED曲:https://www.youtube.com/watch?v=Hb0SglHO218
なるべくその話の主人公の過去や性格とかとかみ合う感じの歌詞やメロディにしたいなあ
>>26
遅ればせながら感想ありがとうございます!
ちょっと分かりにくかったかもしれない(汗)自分も書いてる途中で訳分かんなくなったし(笑)
亜留羽がいったい何を思って何言いたかったかっていうとざっくり訳せばこんな感じ↓
亜留羽「今の外の人間って平和ボケしすぎなんじゃない?科学の進歩で確かに妖怪は数を減らしたけど
居なくなったってわけじゃないだろうし。もし遭遇したり、ましてや襲われたりしたら外の人間って勝てるの?
無理でしょ。幻想郷でさえ鬼を退治する方法が人々の間から失われて久しいって言うのに。
さらに無知な外の人間にどうにかできるわけないじゃない。
しかも今のご時世で外に存在できるって事はそれだけ洒落にならないやばいやつってことだし…。
でもいまさらそんなこと言ったって混乱を招くだけだろうし、無駄な騒ぎにしかならないわ。
知らないならその事実を知らない方が良いわよ。そっちの方が幸せ。
そのためには私みたいな知っちゃった人が事実を隠し続けるべきだと思うの。
知っちゃったら私みたいにいちいち細かいことに怯えながら生きていかなきゃいけなくなるわよ」
二話のテーマは本当は怖い幻想郷ならぬ「本当は怖い外の世界」的な。
VI-zの裏設定。捏造過多注意。矛盾あるかも
境遇に関して
・遠い遙かな未来で月の勢力を認識した地上の人類と月の勢力との戦争が勃発(最初にふっかけたのは地上の方)
・未来の地上の技術レベルは月の勢力にせまる領域に達している
・しかし地上側が劣勢。環境が荒廃し、人類は絶滅の危機に陥っている
・VI-zはそんな中作られた戦闘ロボの最後の一体(ついでに使用人もできるというだけ)
・VI-zのzはアルファベットの最後の文字、つまり最終番機という意味
・VI-zはワンオフ機ではなくただの量産機。同型機がわんさか存在していた(ジム)
・ただ、生まれつき他の同型と比べて感情は豊かだった
過去と現在について
・VI-zの幸せを願う開発者がVI-zが無意味な戦争に投入されるのを拒否
・開発者は味方から粛正をうけるが、VI-zが開発者を庇い交戦
・多勢に無勢で袋だたきにあい深刻な損傷を受ける(ポンコツになった原因)
・逃げ延びたあと開発者の提案により能力で時代をさかのぼり現在に未来の現状を伝えるためタイムスリップ
・しかしその最中先の損傷により能力が暴走。想定よりも遙かに過去の、現在の妖怪の山となる場所の地中に転移
・開発者は能力の暴走に巻き込まれ死亡。意図せずVI-zは親を手にかけている
・自分も能力の暴走で記憶データが壊れて記憶喪失に
・後に現在の妖怪の山の妖怪たちによって発見、発掘される
・記憶喪失なうえ、幻想郷は外の世界と隔てられているため、本来の目的を果たすのは絶望的
・しかしVI-zの存在自体はいずれ外の世界に露見する運命にある
・そして彼女の存在が未来の技術力の雛形になる(因果輪廻)=「OPERATION・Z=A〜終局にして魁」
・未来にVI-zが外に出るということが確定している
↓
しかし一体どうゆう経緯でそうなるのかは分からない
↓
未来に異変が起こる可能性。幻想郷の妖怪はそれを理由にVI-zを警戒している
能力に関して
・本来のVI-zの能力は感情や思考を現実の現象にする、いわば思ったことを実現させるもの
・ざっくり言うなら願いを叶える程度の能力、能力を作り出す程度の能力
・VI-zを含めたすべての量産型戦闘ロボの基本装備の1つ
性能に関して
・現在は全体性能の約99.9%が機能停止。復元不可能(重要。それがロマン)
・幻想郷の技術でもかろうじて復元可能なのが約0.09%
・現在のVI-zは全体の0.01%の性能
・フルスペックなら依姫相手でも単機で互角にやり合える(多分)ヘカ様はさすがに無理です
ちなみにVI-zのロボとしてのイメージはこの動画のやられてる方:https://www.youtube.com/watch?v=-3x3otsujjQ
32:カイバー:2016/10/31(月) 22:32 ID:waY 安武 亜留羽の裏設定 捏造過多注意。矛盾あるかも
過去、現在の境遇に関して
・元ネタはクトゥルフ神話の狂えるアラブ人アブドゥル・アルハザード:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%8F%E3%82%BA%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88
・亜留羽が外の世界で深秘を知ったのは実は偶然ではなく仕組まれたもの
・亜留羽に初めて深秘を教えたのはとある異界の神格の一体
・ぶっちゃけ這い寄る混沌ナイアーラトテップの化身。クトゥルフの神格:http://dic.pixiv.net/a/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%83%88%E3%83%9B%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%97
・ちなみに教えた理由は特にない。完全に向こうのおもしろ半分。ニャル様ってそういうやつ。自分の暇つぶしのため
・実は未だにニャル様に映画か演劇気分で観察されている。つまりは加護を受けているということ
・その恩恵は二つあり1つは【平時において深秘がらみのトラブルを無意識に引き寄せる、引き寄せられる】というもの
・もう一つは【危機的な状況において自分の生存「のみ」に関した幸運を招き寄せる】というもの
・つまり行く先々でトラブルに遭遇しておきながらいつも自分だけはなんだかんだで助かる生粋の疫病神体質(コナン君状態)
・しかし本人は自分から自発的に行動していると思っており、踊らされているのに気づいていない
・実は亜留羽は異界の知識や魔法によって心身に汚染を受けている
・具体的には徐々に心身が人間から離れて向こうの異界の神に近いものに近づいていっている
・最終的には人ではなくなる。そうでなくともどちらにせよクトゥルフ系の魔法使いは碌でもない末路をたどることになる
・二話の世界においては亜留羽は菫子と共謀して深秘録の異変を起こしている。菫子のサポート、裏方担当
・菫子が単なる好奇心から幻想郷を暴こうとしたのに対し、亜留羽は警戒心から幻想郷を暴こうとした
・所有していたオカルトボールの関連オカルトは「リアル」。詳しくはこちら:https://www.youtube.com/watch?v=92AoEeYKMZ4
・深秘を封じろ! 秘封倶楽部初代副会長!
能力に関して
・亜留羽が所有している魔導書はネクロミコンの原本「キタブ・アル=アジフ」。魔導書としては最高峰の一品
・ただし厄モノ度も最高峰。呪いの装備級
・亜留羽の魔法は幻想郷の魔法使いの使用しているものとは仕様が異なっている
・魔力ではなく精神力を直接代償にして行使する。才能は関係なく使うだけなら実は誰でもできる。使うだけなら
・亜留羽個人ではなく魔導書が魔法を行使している。亜留羽は本に指示をだしているだけ
・強力な反面個人の好みによる後付けのアレンジや改良ができず融通が利かない
・例えるなら他の魔法使い組の魔法はプログラムアドバンス:http://dic.pixiv.net/a/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%A2%E3%83%89%E3%83%90%E3%83%B3%E3%82%B9
・対して亜留羽の使っているのはダーク・チップ:http://dic.pixiv.net/a/%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%83%E3%83%97
・亜留羽は元からの精神の強さと慣れにものをいわせて力ずくで無理矢理連続使用している
・魔導書はニャル様からもらった。だが実はこの魔導書自体もニャル様の化身
某月某日の夕暮れ。幻想郷。
人里からすこし離れた小高い場所。
そこに彼女…マリータ・ヘミングウェイの果樹園、通称「マリータ・ガーデン」は存在していた。
「マリータお姉様ー!こんばんわーですー♪」
果樹園の出入り口の門の向かってすぐ右横…そこに彼女が果樹園で収穫した果実を直売する出店は存在していた。
そこの奥のレジ代わりの机で帳簿を書き留めていた少女はその声に反応すると振り返って言う。
「お、はーーーい!!いらっしゃいませー!」
立ち上がる。胸まで掛かった赤林檎のような真紅のウェーブヘアを揺らし、ついでに首から背中に引っかけた麦わら帽子を揺らしながら
その緑色の瞳をむけてお店に向かって歩いてきた青と紫色のゴスロリ風の服を着た小柄なその少女を歓迎する。
「あらー!紫姫ちゃん久しぶりねー!元気にしてたー?」
入ってきたその来客にマリータはフレンドリーに話しかける。その来客…神蓮 紫姫はマリータとこの店にとって常連のお得意様だ。
「はいです!すみません、最近どうも少しここから足が遠いみたいで…」
その少女…紫姫は少し申し訳なさそうしながらマリータに頭をさげる。
「アハハ!いーのいーの!そんなのは気にしなくて」
しかしマリータはそんなこと気にもしていないというようにカラカラと笑う。
「お客様の予定をお店は縛れないわよ。そんなの気にせず来たいときにこればいーの!」
あっけらかんとした態度で紫姫の肩をポンポンとたたきながら言う
「それにここに来ないって事はそれだけそっちのお茶会が賑わってるってことなんだろうし。うらやましいわーモテモテで」
少しからかうような声色でいうマリータに紫姫は
「え、えへへ…、それほどでもないですよー。でも最近はとても賑やかでたのしいです!」
少し照れたように朗らかに笑って答えた。彼女はお茶会が趣味だ。よく友人をまねいておしゃべりに興じているのはマリータも
知っていた。自分も招待されたことがあるのだが最近は…
「こっちの方こそごめんねー。なかなかそっち来れなくて、ほら最近のこの時期って忙しいからさー。繁忙期っていうの?」
逆にこちらが申し訳ないと言うようにマリータは頭をさげる。
「もう体ばきばきでさー。ほんと歳は取りたくないわー。昔できたことがどんどんできなくなってくんだもん」
そう言いながら右肩に左手をあて、見た限りではシミもしわもない健康そのものな二の腕をぐるぐると回した。
「くす、なんだかマリータお姉様お年寄りくさいですねー」
マリータの見た目に反する年期のはいった動作には紫姫も思わず笑いがこぼれる。
「なにおー、若者の余裕かこらー。なーんであなたの方はいつまでたっても変わらないのかしらねー、…あ、神だからか」
不公平だわー、と彼女はいつまでもかわいらしい目の前の少女に対して悲観するような声をあげてわざとらしく顔を覆って嘆くふりをする。
そしておもむろに紫姫のつるつるのほっぺを両手で覆ってもみしだき始めた。
「わひゃぁっ!?ちょっ、くすぐったいですよー♪やめてくださいー」
そんな感じでひとしきり互いにじゃれ合いと日常会話を楽しんだところで
「くすくす…、あっ、えっと今日の注文なんですけど…」
紫姫はようやくこの店にきた目的を口にする。
「ああっ、はいはいごめんねー。改めていらっしゃいませ!いつだって誰だってお店にとってお客様は神様です!あ、あなた元から神様だったわね」
それを聞いてマリータも気がついたように営業モードにはいる。
「リンゴの果実一かごと…、それと特製リンゴジャムくださいな♪いま作りたいお菓子に使いたくて」
たしか今頃がいちばんおいしい旬でしたよね?と付け加え、紫姫は出店の机の上に置かれた商品を指さしていく。
「はーい!まいどありー!あっ、リンゴジュース、サービスで付けときますね!」
会計レジで紫姫のだすお代と商品を交換しつつ、後ろの冷蔵倉の扉をあけて二リットルほどの大きさのビンを林檎のかごの中に添える。
「えっ、良いんですか!?こんなにたくさんもらっちゃって」
ぱっと紫姫の顔色が明るくなる。
「いーのいーの!どーせ掃いて捨てるほどあるんだから、サービスサービス、遠慮なんてせず持ってって!」
それをみてマリータは笑って肯定する。今年は少しばかり収穫量が多いのだ。これくらいしないと商品が売り切れない。
「ありがとうございます♪次来るときはできたお菓子もって来ますね!」
紫姫はマリータに渡されたかごを抱えながら深々とお辞儀をする
「はーいありがとうございましたー!またのご来店をおまちしておりまーす!」
それに答えてマリータもお辞儀を返す。
「それでは、今日は失礼します。また今度一緒にお茶会しましょうね!」
そう言って彼女はくるりと踵をかえすと地を蹴って空へと飛び立っていった。そして思い出したように振り向くと、
「あっ、その時はまた新しくできたお友達を紹介しますねー!きっと驚きますよ!なんたってロボなんですから!ロボ!」
そう言ってはしゃぎながらご機嫌に彼女は自宅に帰っていった。
「……ろぼ…って何?んーよく分かんないけど、新手の妖怪の名前かしらね」
遠ざかって空に消えていく紫姫の残した言葉に首をかしげながら手を振って見送った。
「……ん?」
その彼女の後ろでギィ…、という果樹園のややさび付きが激しい鉄製の門が開く音がした。
今気がついたが果樹園の方から何人分かのざわめきが聞こえてくる。だれか出てくる。
「おーい!マリーおばさーん!今日もりんごもらってくわよー!!」
太陽のような元気な声を出して門からでできたのは一人の妖精の少女だ。
羽を背中に生やし、金髪のセミロングをツーサイドにまとめた彼女…、日の光の妖精サニーミルクは出てくるなり空に飛び立たち
ながらマリータに声を掛けた。
「別に忍び込まなくて良いって言ってるのに。はいはいまいどありー。持ってって良いわよー。おばさんっていうな」
そう言いつつも声を掛けられたマリータは気にすること無く、お代を払わず林檎を抱えて持っていく彼女に何も言わずに見送った。
「サニー!まってよー、あっマリーおばさんこんばんわー」
つぎに出てきたのは同じく背中に羽を生やした妖精。
亜麻色の金髪に帽子をかぶった彼女は月の光の妖精の妖精ルナチャイルドだ。たたらを踏みつつ彼女もかごにいれた林檎を抱えてサニーミルク
を追いつつマリータに会釈する。
「こんばんわ。いつもふりまわされてるわねールナちゃんも。まいどあり。でもおばさんじゃ無いから。お姉さんだから」
最後は訂正しつつやはり彼女はきにしない。この妖精たちが自分の所の作物を持って行くのは当たり前だと言わんばかりに見送る。
「もー、二人ともちゃんと挨拶しなきゃだめよー、うふふ。すみませんマリータおばさん。あの二人が」
三番目に出てきたのも妖精だ。切りそろえた腰までの黒い長髪。青いスカートの彼女、星の光の妖精ルナチャイルドだけ何も持たず門から出た
その足でマリータに近づいてきてお辞儀をした。
「あなたはいつも礼儀正しいわねー。大変でしょあの二人。あとおば……、いや、もういいわ、うん。はいついでだからこれ持ってって。ルナちゃん」
どうもこの子だけ他二人とちがって自分のことを意識的におばさん呼ばわりしているような。なんてことを考えながら冷蔵倉からリンゴジュース
入りのビンを取り出し投げ渡してやる。
「おっとと。ありがとうございます。それではまた今度」
「うんうん。じゃーまたねー」
レジで帳簿をに記す作業に戻りつつ、手を振って飛んでいく三人を見送る。
「おーい、マリーター、私も林檎もらっていくぜー」
四番目に出てきたのもやはり羽を生やした妖精。いい加減少しばかり面倒になったマリータは黒い大きな三角帽を被ったその妖精を視界の端っこにとらえつつ、
「はいはーい、まいどありー、好きにもってっちゃってー」
と帳簿から目を離さずに適当に手だけ振って見送ろうとして
「………………んん?」
手を止めた。
帳簿からいったん目を離して今まさに「林檎入りの籠をひっかけた箒にまたがって」飛び立とうとしている四番目にでできたその妖精を改めて二度見する。
ウェーブの掛かった片方だけお下げにした金髪と黒い三角帽子。黒い服に白いフリルとエプロンのついたスカート。あと箒。
それは妖精というより、だれもが思い浮かべるテンプレートな魔法使いといった印象を受ける。
てゆーかあれ霧雨魔理沙だ。
魔法の森に住んでいる人間の魔法使いだ。
「んじゃー、また今度なー」
「………………ふむ」
飛び立とうとしている魔理沙を見てマリータは少しばかり巡回した。そのあと自分がつけていたエプロンのポッケから剪定バサミをとりだして、
「曲者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
魔理沙に向かって投げつけた。
「おおっとぉ!」
が、魔理沙は手慣れた動きで慌てること無く、相手の反応がワンテンポ遅れて来るのを予期していたかのように箒ごと自らの体をひねるように
して空中で飛んできたハサミをいとも簡単に躱して見せた。
「危ないだろうが。お客様は神様なんだろー。そんな態度とっていいのかよ」
「神様として拝んでほしけりゃちゃんとお金払いなさい!ドロボウに捧げる信奉は一握りたりともないわよ!」
空中で箒に座りながらのたまう魔理沙(こそどろ)を見上げながらマリータはいきり立つ。
「えーいいじゃんかー。どうせ減っても困るもんじゃ無いんだろー。妖精は見逃すくせによー。」
口を膨らませながら反論し自分の背中を指さす。
「ほれ、今日は私も妖精なんだって。見ろよこの美しい羽を…」
改めて見てみるとなんとまぁ、粗雑な作りの付け羽だろうか。てゆうかただの切ったダンボールだ。
しかも左右で大きさが違ううえに色も塗ってない。ミカンのイラストが隠されもせずに右側の羽からその存在をアピールしていた。
変装するという気がまるで感じられない。
「『それ』のどこが美しいのよ!子どもの工作以下じゃないの!」
ここまで隠す気がないとなると完全に自分をおちょくる気で作ったとしか思えない。
「なんだとこら!この私が研究時間を3分も削って作った力作中の力作だぞ。褒めろよ」
どや顔で逆ギレされた。
「語るに落ちてんじゃないの!いいからお代はらってけー!金持ってるやつが無断で持ってくのはさすがにむかつくわ!」
「しつこいやつだなー。いいじゃん死んだらちゃんと返すから」
「林檎は消耗品よ!たーべーもーのー!それとも何、死ぬまで鑑賞用に飾っておくとかいうつもり!?」
「あー、もうそれでいいや。んじゃーなー。さようならまた明日また来週ー」
面倒くさくなったのか、そのまま踵を返すと魔理沙は高度をあげて飛び立っていった。
「ちょっ、待ちなさい!」
当然マリータも放ってはおかない。自分も空を飛ぼうと助走をつけてジャンプして
「へぶちっ!!?」
そのまま転んで地面に顔面から激突した。
「いだだだ…!あ、そういえばブーツ…!」
履いていないのを忘れていた。今自分は普通の白地のスニーカーだったのだ。
マリータはそこそこの格の妖怪としては珍しいことに自力では飛べないのだ。浮力の魔法を付与した黒地のロングブーツ、あれがないと。
しかしやたらとでかくてふさふさした羽の装飾がうっとうしくて仕事のジャマのため弾幕ごっこ以外では着用するのを控えていたのだ。
それは今果樹園の裏側に位置する自分の家の玄関の靴いれにしまってある。マリータは己のうかつさを悔いた。
とても今からでは取ってくるのは間に合わない。そんなことをしているうちに魔理沙はどんどん遠ざかっていく。
そして結局マリータはというと、
「お代おいてけ!ドロボォォォォォ!!」
ただ叫ぶことしかできなかった。
「はー、まったくあのくそがきー…!」
そしてすっかり夜になった閉店時間、未だにぼやきながらマリータは門に向かって左横のほうに置いてあるベンチに腰掛けて呑んでいた。
「あーゆうブイブイやってる若造ってほんと苦手だわ」
昔の自分を思い出してどうにも胸が悪くなってしまう。まぁ…
「あの子なら私みたいに馬鹿やることも無いでしょうけど」
右手に酒瓶(シードル)をぶら下げながらうなだれてくだを巻いているその姿には実に年季と哀愁が漂っている。まるで
「まるでつとめている会社ををクビになったサラリーマンみたいですわね」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
壁を背にして座っていたはずなのに真後ろから、ぬぅっ、と言う表現がまさに的確な感じに
自分の右真横に現れた顔にマリータは悲鳴を上げてベンチから飛び上がる。
思わずつんのめって再び先ほどのように転んでしまいそうになるのを必死になってこらえた。
ついでに酒瓶もちゃっかり両手で庇ってこぼさないようにしているのを見てその「顔」は実に不気味にくすりと笑うと
「あらあら残念。サプライズはあまりお気に召さなかったみたいですわね」
「ななな、何がサプライズですかぁ!わざわざひとの意識の死角から現れなきゃ死んじゃう病気にでもかかってるんですか!?」
ベンチの後ろの壁。そこにいつのまか現れていた…赤黒く、中に無数の目が見える謎の空間の裂け目。どう表現したらいいのか。
とりあえず謎の「スキマ」としか表現しようのないものからその顔を覗かせて笑っていやがるモノにマリータは全力で苦言を呈する。
毛先を複数束ねた金髪のロングヘア。白いフリルに黒ドレスという点においてはさきほどの魔理沙と共通だが異なるのはその圧倒的なまでに
いやな感じのする存在の濃さ。
「本当にいつもいつもぉ!八雲さん!」
八雲紫。
幻想郷にて古参中の古参と言われる妖怪。幻想郷を創った者達の一人と言われている幻想郷最強の賢者がそこに居た。
「クスッ、ごめんなさいね。あなたってリアクションがいちいち大きくて面白いからついね」
悪びれることも無く。スキマから悠然し出でてベンチの上に立って佇んでいる。
「あなた以外のひとは驚くより先にうんざりした顔するから」
とんっ、と一つはねて紫はふわりとベンチに腰掛けた。
「そりゃそーでしょうねー。私もいい加減少しうんざりしてきましたよ」
マリータは吐き捨てるように言ってから残りの酒を一気にあおり溜め息をはいてから出店に歩き冷蔵倉を無造作にあさる。
…とそこから新しいシードルを二本取り出してベンチに戻ってきた。そして
「…お久しぶりですね、いらっしゃい。はいこれ、リンゴ酒はお嫌いですか?」
顔をそらしながら、左手の方にもったシードルの瓶を紫に差し出した。
「そんなことは無いわよ。ありがたくいただきますわ」
紫は両手で丁寧に瓶を受け取った。相変わらず無駄に優雅で胡散臭い動きだな。と思いながらマリータも瓶の蓋をあけながら
どっかりと紫の横にすわる。実に対照的な粗雑な雰囲気だ。
「見ていたわよ。今日も繁盛していたようね」
「おかげさまで。そこそこやっていけてますよ」
「信頼されてるわよねー。いちいち言ってることが嘘かホントか分からないのはお互い様なのにどうしてこう差が付くのかしら」
「それは普通に日頃の行いのせいだと思いますけどね。あとは能力か雰囲気かの違いくらいでしょ。てか自覚はあるんですね」
「はっきり言ってくれるわねー」
一息ついてから言い忘れていたことを紫は紡ぐ
「さて、改めましてごきげんよう。今日は月が綺麗ですわね」
晴天の夜の空に、ぽっかりと浮かんだ月を見上げながら紫は言った
「月がきれいぃぃぃぃぃぃぃ???」
だんだん酔いが回ってきたのか、乱暴に酒瓶を垂直に傾けてラッパ呑みするとマリータは
「ぷはぁっ…、あいにくと自分はそれだけは生涯で一度たりとも思ったことありませんね。」
ぐれたおっさんのように地面に唾でも吐きそうな雰囲気を纏わせてマリータは吐き捨てた。
「あらあらそうなの?もったいないわね」
「ええ、むしろああいうお高くとまってる雰囲気は嫌いですよ。太陽がなきゃ輝けもしないくせに。無駄に目立って」
月の話題を出した途端マリータは普段から考えられないほど不機嫌なオーラを発する。ヤクザみたいである。
そのままベンチにもたれかかって憮然と空に浮かぶ月を睨め付けた。
「まあそれはわたくしも同じ思いだけれど」
「いやじゃあなんで月が綺麗とか自分で言ったの!?」
紫の言に酔いの勢いのままで乱暴にツッコミをいれる。そして一呼吸いれると
「あっ、そー言えば八雲さん。リンゴジュース要ります?」
「なにかしら突然」
唐突に話題を変えたマリータに紫は優雅に酒を傾けながら視線だけを向けた。
「まあ、嫌いではないけれど」
「そりゃ良かったです。じゃあ全部持ってってください」
無茶ぶりを要求した。
「……理由をたずねてもよろしいかしら」
「理由っても単純な話でして。調子にのって作り過ぎちゃったんですよねー。今年はやたら収穫量が多いんでついー…」
「無償で配ってたんですけどまだ瓶が在庫50本くらいあるんですよねー。賞味期限も近いのでまとめて引き取ってもらおうかと」
しれっと笑顔で何でも無い事のように押しつけ宣言をかました。
「……なるほど、つまり自分でこさえた生ゴミをこのわたくしに押しつけようとしていると」
自分のスキマを冷蔵庫扱いするなと、少しだけ呆れの表情を混ぜてやはり視線だけでマリータをにらみつける。
「ジュースの代わりにあなたを丸一日スキマの中に閉じ込めてあげましょうか?」
「すいませんでしたごめんなさいでしたチョーシこいてましたどうか勘弁してください」
マリータは速攻で頭を下げて謝罪した。自分より能力権力が高い者には全力で媚びへつらうのが彼女なのだ。
目にもとまらぬ120度ぴったりのお辞儀は無駄に洗練された情けなさである。
それがうまく世の中を渡っていく方法なのだと。それが「今」の彼女の基本スタイルである。目上に反抗などもってのほかだ。
「昔の」自分はともかくとして。
「今のこれがかの「原罪の咎蛇」とは誰も思わないでしょうね」
「………」
ピタッ、と
瓶を傾けるマリータの動きが止まる
「それとも「墜ちたる天使」とでも呼べば良いかしら」
「あなたは『初めて人間に嘘のつき方を教えた』」
「『自分のために他者を騙す』、その穢れを刻み込んだ存在」
「それは一体どれほどの愉悦だったのかしらねぇ。やっぱり蜜の味ってやつ?」
紫は張り付いたような笑みをうかべたまま訪ねる。
マリータの表情はうかがえない。ただ、小刻みにぷるぷると震えているように見えた。そして…、
「に………………」
「に?」
「にゃぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
ものすごい悲鳴をあげた。
「にゃー…、って」
さすがの紫も目を白黒させてマリータを眺める。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!それ以上は勘弁してぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「掘り返さないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!それ私の黒歴史ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「あれはアレよぉ!!ちょっと気が大きくなってたって言うか!?なんか自分ならもう何でもできるみたいなそんな感じな最高にハイな気分に
なっちゃっててぇぇぇぇぇぇ!若気の至りってやつなのおおおおおおおおおお!中学生二年生的っていうか!?盗んだバイクで走り出す的な!!
なんかそんなノリで使命感と勢いのままに突っ走っちゃったのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!思い出させないで!!全身がかゆくなってくるからー!!!」
ベンチからバネのようにハネ飛んで紫の前であることも気にせず全身をかきむしってのたうち回るマリータ。
紫の目から見ても、いや誰がどう見ても打算で適当にごましているようには見えない。よく見るとクビのあたりに蕁麻疹まで浮いている。
完全に本気で嫌がっている。
そしてひとしきり暴れ回るとやがてがっくりと肩を落としてブツブツとつぶやき始めた。
「……正直ね、あの業界ね。上司が部下の能力下回ってることなんてまず無いのよ。権力だけじゃなくてね。やっぱ序列って大事だなって。昔の私はそれ分かって無かったのね」
うなだれた姿勢のまま再び紫の横に腰掛けて膝を抱えた。
「あら。あなたは自分の行いを後悔しているということかしら」
「いやそれは全然」
醜態をさらしていた先ほどとは打って変わって、紫の言葉に彼女は屹然とはっきり答えを返した。
「後悔なんてしていない。ただ折檻を受けてトラウマになったのは別問題ってだけで」
ベンチから再び立ち上がって言う。
そして空を見上げた。いやにらみつける。両の手を広げて、嗤う。
「穢れなきものなんて実にくだらない。それは成長の放棄と同意義じゃない」
「ただただ綺麗なだけの真水に結局どれほどの価値があろうか、あるものか。汚れが無ければそこに魚は住めぬのだから」
「穢れこそがこの地上に在るべきものだ。人の、地上の生命全ての進化に必要なもの」
「見よ!カミガミよ!この祝福に満ちた素晴らしき世界を!この世に罪をもって生まれない者など一人も居ない!」
「善悪の知識の木から、果実はとうの昔に既にもがれたぞ!この世界はとうの昔にお前達の掌から零れ落ちているぞ!」
「そしていずれは知恵の樹からも実をもぎ取りこの世界はお前達がふんぞり返るその領域へと手をを伸ばすだろう!!」
「なあ!!実際の所、「監獄」とは一体どちらのことだというのだろうなぁ!!!」
「ククク、フゥーハハハハハ!この醜くも!美しい!!この世界こそ……まさに!!!」
「楽園だ」
まるでそれは「魔王」のように。
「………………はっ」
ふと正気に返った。そ…してぎりぎりと壊れた人形のようにおそるおそる後ろを振り向く。
にやにやと嫌らしいほほえみを浮かべる賢者がいた。
「え……、えーっとー、……その、」
顔を自前の髪よりも真っ赤に上気させて何とか言い訳を繕おうとするが、
「実にカッコイイ啖呵だったわねー。これだけで後100年はあなたとの話の種は尽きないでしょうね」
「や、八雲さーん!?あなた私に能力つかってないでしょうね!?今と昔の私の境界弄ったりとか…」
「わざわざそんなこといたしませんわよ。今のは純粋にあなたの実力よ。……プッ」
「ぐふっ!」
吹き出した紫にボディブロウでも食らったかのようにマリータはのけぞる。
「汚れが無ければそこに魚は住めぬのだから(キリッ)」
しかしここでやめてなどやらないのが八雲紫が八雲紫たる所以でもある。
「がはっ!」
「この世に罪をもって生まれない者など一人も居ない(キリリッ)」
「ごふっ!」
「果実はとうの昔に既にもがれたぞ(笑)」
「げはっ…!もっ、もうやめ…」
「そしていずれは…」
「私の心のライフはもうゼロよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ついにマリータは叫ぶとそのまま地面にぐずれおちた。
「うう……、あしたは臨時休業しようかなぁ…」
さめざめと赤面して涙を流しながらそうこぼすマリータに
「そうね。あなたにとってはその方がいいでしょう。特に今は、ね」
紫は意外にも肯定の意をしめした。
え?とマリータはくずおれた体勢のままベンチに座った紫に疑問の顔を向ける。
「月の連中が妙な動きを見せている、と霊夢からの報告でね。今日はそれを伝えに来たのよ」
「最近幻想郷に月のものと思わしき妙な機械が目撃されてね。どうも穢れを掃除してるみたいなの」
「おそらく此処に『降りてくる』つもりですわ」
扇を広げて口元にかざしながら、紫はようやくマリータに此処に来た本題を伝えたのだった。
「は?あの連中が?あの上流階級の貴族気取りの潔癖症どもがなんでわざわざそんなこと…」
それにマリータはますます疑問の感情をあらわにする。あれの穢れ嫌いっぷりはマリータもよく知るところである。
あの潔癖症どもにとって地上など肥だめも同然のはずだ。それがなぜわざわざ足場の掃除などという面倒なことをしてまでをしてまで地上に降り立とう
としているというのか。マリータは嫌悪もそこそこにまず首をひねる。
「さあ?まあよっぽと切羽詰まっている状況なのは間違いないわ。わざわざここに来ようとしていると言うことは」
「どちらにせよあなたにとっては都合の悪い事実でしょう?あなた、向こうのブラックリストに乗っているらしいしね」
「…そうですね。確かに都合が悪いです。非常に。向こうの関係者と顔を合わせるのだけは絶対勘弁ですね」
マリータは苦虫をかみつぶした表情を浮かべながら肯定する。そして起き上がり立ったまま酒瓶を傾けつつ
「となると…ホントにしばらくの間は休業してどっかに雲隠れした方がよさそうですね」
紫姫ちゃんたち常連さんには悪いけれど、とつぶやきながら果樹園の門の鍵を閉めるべく鍵をとりに自宅の方角に向かって歩き始めた。
「ありがとうございます。わざわざ伝えに来てくださって」
そして振り返り、ベンチに座る紫にむかって頭をさげて礼を言った。
「昔みたいにわざわざ来てくれたんならお礼代わりにぶっとばしてやるーとか言わないのね」
そんなマリータに対して紫は茶化すように昔の話を交えつつ質問をふる。
「ちょっ、や、やめてくださいよー。所詮若い頃の、昔の話じゃないですかー。今の私じゃあとてもてとも…怖いし」
そして歩きながら、マリータは独り言のようにその心中を語った。
「どんなご時世だろうと、私みたいな老骨は世界にとって用は無いんですよ。力が衰えているというならなおさらね。これが世の真理です。だから」
「これからのことは力がまだある現役の連中か、」
「それか期待の若い世代の連中に任せることにしますよ」
「老いた蛇は…、老兵は死なず、ただ消え行くのみ…、て感じですね」
「そっちの方がカッコイイでしょ?潔くて」
「……じゃっ、今日は改めてありがとうございました!お休みなさい!…、あ、空瓶はベンチに適当に置いててくれればいいので!」
言っている内に照れくさくなったのか、そのままマリータは手を振ってから振り返らず走っていき自宅の方面へと消えていった。
「……結局、格好付けなところは昔とあんまり変わってないのよね、あの子も」
紫は酒瓶を傾けつつマリータの後ろ姿を見送りながら独りごちた。
実際、『向こう』には一体何が起こっているのか。と紫は考える。
「ま、だいだいは想像は付くけどね。…何もかも、思い通りになるとは思わない事ね」
空に浮かぶ月に向かって、不気味にほほえむ。
「その穢れ無き月と、この美しく残酷な世界に、乾杯……、なーんて、ね」
その夜、紫は一人リンゴ酒の瓶を両手にその景色をしばしの間楽しんだ。
終。
異伝其の参『原罪の咎蛇 マリータ・ヘミングウェイは地上に賛歌を謳った』
第三話イメージED:https://www.youtube.com/watch?v=W-k1IzXFcRU
なんとか今日中におわった…。
52:カイバー:2016/11/05(土) 20:15 ID:waY マリータ裏設定 捏造過多注意。矛盾あるかも
境遇について
・マリータの元ネタはアダムとエバに登場するエバを騙して善悪の知恵の実を食べさせた蛇:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%80%E3%83%A0%E3%81%A8%E3%82%A8%E3%83%90
・及びその正体とされる神への反逆者墜天使ルシファー、または魔王サタン:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC
・正確には地上に伝わっている上記の神話の登場人物のモデルになった人物という設定
・三話においては神話で世界(地上と地上の生命)を創造した神(ヤハウェ)=月の勢力、として扱っている
・マリータは月の在り方と思想にに異を唱えてクーデターをおこし、地上に穢れが生まれるきっかけの一つを作った元月の関係者
・しかしそもそもマリータ自身は月の生まれだったのか、種族は月人か月兎かそれとも別の何かだったかは不明
・クーデター自体は失敗して敗北している。マリータはその罪に問われ名前と能力と権力を剥奪の上で二つの呪いを掛けられ地上に追放された(堕天)
・呪いの一つは神話において蛇に掛けられた腹ばいになって地を這い続ける呪い=自力で空を飛べなくなる呪い
・正確には地上に魂が縛られ決して月に戻れなくなる呪縛。あらゆる手で月にたどり着けない
・ただし地上で弾幕ごっこするくらいの高度なら道具などの力で浮かぶ事ができる
・もう一つは「月の勢力(神)の血を引く者とのあらゆる勝負に絶対に敗北し滅ぼされる」という運命
・神話においてもサタンは神の子イエスに敗北することを確約されている
・マリータはこの呪いのために月の関係者と顔を合わせることを嫌っている。
・相手が月人である限りどんな勝負(弾幕ごっこ含む)にも自分が負けることが最初から決まっているため
・敗北のあと滅ぼされる事まで確定しているため、マリータにとって月人と戦う事は勝敗関係なく常に命の危険がある
能力について
・全盛期のマリータの能力は『虚言を真言にする程度の能力』
・自身の口にした嘘を「本当の事だった」ことにする世界改変
・サグメの能力が「そこに存在するもの(事実)に対して語ること」がトリガーとなり「どんな内容を言ったかは関係無い」、「既にある事象を逆転」させるものなら
対してマリータの能力は「そこに存在しないもの(嘘)」を「どんな内容で語ったか」がトリガーになる、「そこには無い事象を創造」するものだった
・地上に追放される際に剥奪され「虚言を鵜呑みにさせる程度の能力」(嘘を真実と相手に「錯覚させるだけ」)に弱体化している
一話〜三話の関わり
・力は衰えて弱くなったが地上の人間の進化の可能性を信じていつか神の領域にも届くというポジティブ思想の妖怪・マリータ(三話)
・ただの人間から魔法使いになり深秘を知ったことで人間の弱さと深秘の危険性に怯えて人の可能性を信じ切れないネガティブ人間・亜留羽(二話)
・二人の立場と思想は対立している。たぶん顔合わせるとケンカになる。
・マリータと亜留羽の抱いた願いと懸念はVI−z(一話)が生まれた遙か未来の時代に起こった月と地上の星間戦争という形で実現して(しまって)いる
・結局戦争は地上の敗北で終わり、数多の犠牲を出した。亜留羽の抱いた懸念、深秘の前に人間はかなわないのかもしれないという危機感は現実になる。
・しかし月(神)の領域に地上が手を届かせたのも事実。地上の人間の進化の可能性を信じるマリータの抱いた願望もまた現実になる。