―オレは工藤新一の姿に戻れなくなった。
アポトシキンの解毒薬を摂取し続け、抗体が出来てしまったのだ。―だけど、まだ1%の望みはあった。
でも飲むのを止めた。
「貴方、分かってるの!?確かに、1%の望みはあるわよ。けど99%の確率で死ぬのよ?1%は1%なの!工藤新一だけじゃなく、江戸川コナンまで居なくなったら彼女の悲しみは…どうなると思うのよッ!」灰原に大声でまくし立てられたからだ。
「…そう、だよな」
オレは工藤新一には戻れない。それが真実。探偵たるもの、真実は受け止めないといけない。―それがどんなに認めなくない真実だとしても。
「ごめんなさい、工藤君。私の作った毒薬のせいでこんな事になってしまって…」
「バーロ、オメーのせいじゃねぇよ。元はと言えば、オレの好奇心のせいでこうなったんだ。」
謝る灰原に、オレは自虐的に微笑みそう言った。
いつか、こうなる時が来る事をオレは頭の中で分かっていた筈だったのに。いざとなると胸が痛む物なんだな、こういうのって。
「なぁ、灰原。少し時間をくれねぇか?…最後に蘭に工藤新一として、電話をしてぇんだ。」
そうだ、オレの一番の気掛かりは蘭だ。もうこれ以上蘭を待たせていられない。オレは10歳になり、蘭ははたちだ。そろそろ結婚してもよい歳なんだ。
オレは灰原から少し離れた所で蘭に電話をかけた。
―これで最後だ。オレの本音で、オレの声で蘭に電話する最後の時だ。ピ、ピ、ピ、ピと電話をかける。
「もしもし、蘭…。オレだけど」
フゥーと溜息を1つついた。
「し、新一?急に、どうしたの?」
久しぶりに聞く、蘭の声。小2になると同時に、オレは蘭の家に居候するのを止めた。
「…さよなら。」
オレはそれだけ言うとプツリと電話を切った。
これ以上蘭の声を聞くと、別れる気になれない様な気がしたから。
―蘭、バイバイ。オレは心の中で呟いた。
その頃、蘭はいきなり電話を切られた事に動揺していた。
―新一、何で?さよなら、てどういう事?
さよならの意味だって分かっている。もう、もう新一に会えないという事だ。
でも、どうして?10年以上一緒に居たのに。
何で、今更。
蘭には分からなかった。
―もし、工藤新一に戻れなくなる前に《ここにいるよ》と言えてたら。少し未來は変わっていたんじゃないか。今更思う。
「工藤君、あれだけで良かったの?彼女に言う言葉…少な過ぎない?」
「良いんだよ、あれ以上蘭の声を聞くと別れる気持ちが薄れるかもしれねぇしな」
オレは、灰原に誤魔化した。それもあるけどもうこれ以外、蘭を…蘭を、騙したくなかったからだ。
―その数日後、FBIや安室さんに協力して貰ってオレの…工藤新一の葬式を行った。
「新一…新一!何で、何でよぉ…ッ」
ポロポロとオレのために涙を流してくれる蘭。
その横で、蘭の背中をさすっている園子。
「探偵ボウズ…」
オレの事を良く思っていなかったおっちゃんさえ、悲しんでくれていた。
―オレ、愛されてたんだな。
その帰り道、オレはフラフラと探偵事務所に来ていた。
ただ、何となく。
「あ―久しぶりだね、コナン君。元気にしてた?」
久しぶりに会った蘭は、前よりも美人になっていた。
「蘭…」
蘭の顔を見ていられなくなって反らした視線の先には、「毛利小五郎」「英理」「蘭」「江戸川コナン」という文字。
「蘭、これって…」
つい、蘭に聞くとえへへと笑い、「あ、これ?お母さんが戻って来てくれて、表札作り変えたんだ。…でも、コナン君の名前外せなくて…もう、一緒に住んでないのにね」
そう答えた。蘭の切ない表情に、胸が締めつけられた。
「ねぇ、コナン君。私、結婚する事にしたの…。本当は、ずっと新一、待ってたかったけど…もう居ないし」
悲しそうに言う蘭に、かける言葉なんて見つけられなかった。
「ねぇ、誰と結婚するの?」
今、一番蘭に聞きたい事。
「新出先生よ。プロポーズしてくれたの!ねぇ、コナン君。結婚式来てよね。コナン君にも祝福して貰いたくて」
そう言う蘭に、嫉妬してしまう。祝福なんて出来る訳ない。蘭の隣に居るのは、オレの筈だったのに。
―やっぱオレ、蘭が好きだったんだな。
「ゴメン、蘭。祝福なんて出来ねぇよ…だって…だってオレが新一だから」
続き気になる!
頑張れ!
>>6
ありがとう❤頑張る!
つい、勢いで言ってしまった。呆然と立ち尽くす蘭。
「コナン君?どういう事、コナン君はコナン君だよね?」
頭に「?」を浮かべたようにオレに問う。
「ずっと、ずっと…機会があれば言おうと思ってた。―後悔すらしてたんだ…ここにいるよって言えたら、どんなに良かったかって。でも、結婚すんな!オレが新一だからッ」
詰りそうになりながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
もう、これ以上嘘を付きたくなかったから。蘭の涙は、見たくなかったから。やっと言えた、オレの本音。
「新一?新一なの…コナン君は、新一なの?」
少しずつ状況が理解してきたのか、蘭が呟くように言う。
「ああ、そうさ。オレが新一だよ」
―フッと笑いながら、蘭に徐々に近づいてゆく…
「あん?どうしたんだぁ、騒がしいぞぉ?」
おっちゃんが事務所から出てくる。
オレは逃げるように帰る。
「ち、ちょっと新一!?…もぅ!」
お父さんが出てきたと同時に居なくなるんだから。
―本当に北風みたいな奴だな、新一は。
そう、トロピカルランドに行った後の新一は北風みたいだった。それまで一緒に居たのが、嘘みたいに新一に会えなくて。
―でも、また会えるって思ってたのに…
プルルル…プルルル
電話が鳴った。誰だろ?
「もしもし、蘭…。オレだけど」
その声の主に、私は驚く。新一!新一からだ!
「し、新一?急に、どうしたの?」
ドキドキしながら、相手の返事を待つ。―だけど、その答えは私の想像していた物と違っていた。
「さよなら」
たったそれだけ新一は言うと、電話を切った。
一瞬、何を言われたのか分からなくなる。世界が静まりかえったように思えた。自然と涙が出る。
「何で、新一…何でよぉ…ッ」
溢れた涙は止まらなかった。私が気付いた時には、朝になっていた。
その数日後、葬式の手紙が届いた。
「そ、葬式の知らせ…?誰からだろう」
名前を見て、私は真っ青になった。
「し、新一?嘘でしょ、何で…」
だけど嘘じゃなかった。それから一日経って、私達は葬式へ向かった。
眠ったように息絶えている新一を見て、何も感じることが出来なかった。
「んだよ、人を死人扱いすんなよな」そう言って、起きてくれるような気がした。だけど、違っていた。
「新一…新一!何で、何でよぉ…ッ」
止めどなく溢れ出す涙。園子が背中をさすってくれる。
それでも私はどうする事も出来なかった。
―だから、探偵事務所の前でコナン君に会って衝撃的な事を聞いてビックリした。
「ずっと、ずっと…機会があれば言おうと思ってた。―後悔すらしてたんだ…ここにいるよって言えたら、どんなに良かったかって。でも、結婚すんな!オレが新一だからッ」
ゆっくりだけど、確かにそう言った。
さっき、葬式を終えたばかりなのに。
だけど、聞きたかった。
「新一?新一なの…コナン君は、新一なの?」
―それを聞かない手は、無いと思った。
「ああ、そうさ。オレが新一だよ」
フッと笑みを漏らし、そう言うコナン君。いや、新一と呼んだ方が良いの?もっともっと、色んな事が聞きたかった。なのに、「あん?どうしたんだぁ、騒がしいぞぉ?」お父さんが出てきただけで、逃げるように帰る新一。馬鹿みたい。もっと話したかったのに。
―やっぱ、北風だな。
結構切ない!
これからどうなるのか、超楽しみ!
>>10
ありがとう!!これからもよろしくね(^-^)
その帰り道、オレは色々考えていた。つい、正体を明かしてしまった事。工藤新一は死んだ事になった事。
「ん?あれ、工藤君?」
聞き覚えある声に、少し声が高くなったような感じがしてつい後ろを振り返った。
その声の主は世良だった。
「せっ世良?」
高2の時に見たより、髪も長く背も低くなった様な印象を受けた。
「今日、葬式だったんだろ?…工藤君の」
世良は用事があって葬式に参加出来なかった。けれど、こうして気にかけてくれたのが嬉しかった。
「ああ、安室さんやFBIに協力して貰ってな。」
安室さんやFBIに事情を話したら、すぐ協力してくれた。しかも、極秘で。
「ゴメンね、私も行ければ良かったんだけど…」
自分の事を[ボク]と呼ぶのを止め、女らしくなった。
「良いんだよ、気にかけてくれたのが嬉しかったんだからよ」
オレは世良です頭をポンと撫でる。オレが少し背伸びするだけで届く背の高さ。
「…今でも考えてる。あの時、《秀兄のFBIの捜査員にならないか》って誘いを断らなければどうなってたかなって…」
そう、彼女は赤井さんのFBIの捜査員にならないかという誘いを断った。
「にしてもお前、綺麗になったな」
心の中で言ったつもりが、声に出していた。
「…え//く、工藤君?そんな事言うと、私襲っちゃうよ?」
照れかくしなのか、襲うという世良の頬は赤く染まっていた。
「襲えるもんなら襲ってみろよ、世良の姉ちゃん?」
わざと"世良の姉ちゃん"と呼び、挑発してみた。
「んーやっぱ良いや、蘭ちゃんに悪いし」
えへへと笑う世良。やっぱ女らしくなったな、コイツ。
「んじゃ、またな、工藤君!何かあったら相談しろよー!」
今では世良はオレの良き理解者の一人だ。
おお、世良ちゃんもでた!これからの展開に期待!
15:宮野志保 ◆j6:2018/08/04(土) 17:16 ID:6pM >>14
ありがとう!期待してて(笑)
そんな事を考えるとながら、博士の家に寄る。
葬式が終わったら、寄ると約束していたのだ。
「よ―博士」
返事が無い。―約束忘れてどっか行ってんのか?
もう一度呼び掛けようと思った所に、人影が見えた。
呼び掛けに答えなかった博士に文句を言ってやろうと「おい、居るなら返事しろよ…」言いかけたオレに「あら、工藤君?来てたの、いらっしゃい」博士の変わりに答えたのは、声の高い女性―フサエ・キャンベル・木ノ下だった。
―そう、フサエブランドで有名な彼女。実は、博士とフサエさんは結婚していたのだ。探偵団達のフォローもあって、二人共素直になった。
「フサエさん、博士は?」
え、博士、どうなったの!?
18:映姫さん:2018/08/11(土) 03:42 ID:RuI 切ない…。
とても続きが気になります!
>>17
えへへ、それは続きを観てね(*^^*)
>>18
観て下さってありがとうございます!
更新すると言っておきながら更新出来ず、すいません(汗)
フサエさんに聞くと、「博士(ひろし)さんなら、今トイレよ。すぐに戻ってくると思うわ」―んだよ。心配して損したと、思いつつ無事で良かったと思う。その後、間もなく博士がトイレから出てきた。「なんじゃ、新一。遅かったのう」
呑気にそういう博士。―ホント、人騒がせな奴だぜ。
「遅いって、こっちは博士の事、待ってたんだぜ?―まぁ、遅れたオレも悪かったけどよ…」
そう、途中で毛利探偵事務所に寄り、正体を明し、その後世良に会った。―言わなきゃな。蘭に正体を明かした事。博士にも、勿論灰原にも。
◆◆
「―な、なんじゃとぉ!?蘭君に正体を明かしたァ!?」
驚く博士、ジトメで睨む灰原。ま、そりゃそうか。
「…全く。いつかやるとは思ってたけど―いくら何でも、早すぎよ?今日、葬式したばかりじゃない!蘭さんだって、気持ちの整理が追いつかないじゃない」
思った通り、灰原は怒ったような、呆れたような、声色でまくし立てた。―この三年間で、何十回繰り返しただろうか。このやり取り。そんな事を考えていると、「―ちょっと、聞いてるの?」「はい、反省してます…」他に思いつく言葉がなかった。変に言い訳したら、さらに相手の機嫌を損ねるだけだ。―これも三年間で培った物だった。