此処はバストゥークより南へ徒歩で三時間ほど離れたダングルフの涸れ谷
最近此処でアイテム収集をしている一人の冒険者がいた
(奪われた名声と自由)
(プロローグ)
「ふぅ、これ位にしとこうかな」
私はすわり心地のよさそうな場所を選び腰をおろす。
そしてつい先ほど拾った……というよりは奪い取ったともいうアイテムをサックにつめ込んだ。
クリスタルに素材に薬草金目になるものがごっそり詰まっている
「もう入りきらないや」
私は重い腰を上げ帰宅準備をする。
「よいっしょっと」
モンスターから奪い取ったアイテム類で、ひしめき合っているサックを左腕で担ごうとした瞬間左肩に激痛がはしる。
「痛ぁ〜ナンダァ?」
痛みは左方のショルダー辺り。私はショルダーを外し痛みのあった部位に触れてみる。
「ふんぐぁぁ」
あまりの痛さに声が出ない。しばらく悶絶した後ようやく落ち着き、左肩を見てみることにする。
「あちゃーこりゃ酷いわ」
どうやら最後の一匹との戦闘で相手の太刀を食らったみたいだ。
かなり傷が深く出血もひどい。
「あーもぅやってくれちゃって」
私は負傷していない右手を患部にかざす。
「ケアル」
その言葉を発した瞬間かざした右手が白く輝く。
輝きは徐々に薄れてゆきそれと同時に傷口もふさがってゆく。
「よっし完璧ぃ〜」
左腕をぐるぐる廻し様子見をする。
「さって帰ろっかな〜」
サックを肩に担ぎ、帰ることにするが何か忘れているような気がしてならない。
「あっ忘れるところだったよ」
私は先ほど外したショルダーに気がつき拾おうとした。
が私はショルダーを見て目が点になってしまった。
見事に割れている……
最悪である。昨日修理から戻ったバッカリの私のショルダー……
しかも修理不能なまでに派手に割れて……修理費が……
「もしかして今日稼いだアイテムでチャラってかぁ?」
腹いせに割れたショルダーを蹴っ飛ばした。
「これじゃ仕送り出来ないジャンよぉ〜あーんゴブリンの馬鹿ぁ〜」
その場にしゃがみ込み絶叫、しかし帰ってくるのは山びこだけ。
「虚しい帰ろう……」
小声で呟き谷を出ることにした。
谷を出ると広い荒野が広がっている。日没にまだ程遠いのかポツポツと冒険者の姿も見える。
派手に戦っている者や休息している者、はたまたモンスターに追いかけられてる者……
もう少し稼げたかもしれない、しかしショルダーが無い今は無謀な事。おまけにサックは荷物でパンパンだ。そう思いながらぽてぽて歩いていた。
右前方をダチョウほどはある大きい鳥が人を乗せ走っている。チョコボである。
「いいなぁ〜あれ」
羨ましげに見つつ、いつも必ず休息をとっている場所までたどり着く。
一息ついたがそろそろ歩くのにも疲れてきた。
サックも荷物が多くて重くてかなわない。
「近道して帰ろっと」
普段は急いでいるときしか通らない道がある。三十分位は短縮できる。
が少々厄介なのだ。あるモンスターの縄張りを横切る事になるからだ。
しかしこの行動で後の冒険生活がガラリと変わる事など今の私には到底予測出来なかった。
一.(お馬鹿な人間のこと)
抜き足・差し足・忍び足……
息を潜めて慎重に進む。
ようやく近道も残り半分……
モンスターウェルサイドポイント(化け物の井戸端会議場)に差し掛かる。
私たち冒険者はモンスターの群れる場所をこう呼んでいる。
「さて今日はだいじょうぶかな」
岩場の影からポイントを覗くとモンスターが四匹群がっている。
クゥダフだ。
「あちゃ〜」
こいつらは私達同等の知恵を持ち、魔法もある程度だが使う者もいる。
四匹まとまってこられたら装備不十分の今の私には勝ち目があるだろうか?
「距離五十メートルってとこかな」
私は携帯用の計測スコープを右目にあてつつ、頭をポリポリ掻きながら得策を考える。
「走って逃げ切れそうなんだけどなぁ〜」
推測だと逃げ切れる。が、万が一予定外の事態が起こったときは死がまっている。
確実な方法ではないが限りなく安全な策を思いついた。
上手い具合に共同団体らしき冒険者の団体がいる。
『共同団体』
気のあった冒険者同士複数で行動をともにしている、いわゆるチームである。
「よしっ一丁やってやりますか」
私はその団体の目の前にストーンを放つ。
無論岩場の影からばれない様にクゥダフが仕掛けたと見せかける為に。
我ながらアクドイ方法だな。自分でもそう思う……でも死にたくないし。
「おっ引っかかった引っかかった」
団体はクゥダフに襲い掛かっている。
推測どおり彼らは『共同団体』だったみたい。
ひょっとすると私達のほうが馬鹿なんじゃ?とかつい思う……
自分を含め馬鹿な団体さんを後にして私は近道を抜ける事に成功した。
二.(柄の悪いお兄さんのこと)
バストゥーク商業区出口ようやく帰ってきた。
出口辺りは少々人も多いし、ここを待ち合わせに指定する人もいる。
現に二十人程度はいるみたいである。
「そいつをよこしな。ショートカットのお嬢さん」
追いはぎか……
その中の一人の男が私のサックを指差し舌なめずりしている。見たとこ戦士かそこら。
冒険者生活は裕福である。わずか一日で一般人の月給に等しい収入がある。
安定はしてはいないが食いっぱぐれる事はまず無い。
故にワーパー『働き者』と呼ばれる特別な冒険者もいる。
かくいう私もその一人なのだ。
「何寝ぼけたこと言ってるの?自分で取ってくりゃいじゃん。アイダーさん」
『アイダー』冒険者から『怠け者』のレッテルを貼られた称号である。
くすくすと笑い声が、野次馬の中からが聞こえてくる。
「てっめぇ覚悟はできてるんだろうな」
男の顔がみるみるうちに真っ赤になる。
すでに鞘から剣を抜いてるし……
やっぱ怒ったか……ほんとのこといったんだけどなぁ……
「あんた達いい加減にしなよ」
割って入ってきたのが一人のタルタルだ。
好奇心旺盛な小人タルタル。大人でも私たちの腰あたりの背丈で愛くるしい顔立ちである。
ちょっと今出てこないでよ……まずいよタルタルちゃん……
「うるさいっ!てめーは引っ込んでろ!」
アイダーは左手の盾でタルタルを城門の壁に吹っ飛ばしてしまった。
タルタルは、打ち所が悪かったのか左足をおさえて悲痛な叫びを上げている。
続いてアイダーの放った太刀が私に飛んでくるが、しかし太刀が私の目の前で止まる。
「っくそってめぇ赤魔道師か」
『パライズ』
黒魔法系麻痺呪文。タルタルが飛ばされる前に放ったが少し遅かったようだ。
私もちょっとムカついて来たぞっと。
「ミスラさん、これ持っててくれる?」
固まったアイダーをよそに近くにいたミスラに声をかけサックを渡す私。猫のような耳と尻尾の可愛らしい姿をしている。
『ミスラ族』
私達ヒュームの男性にもかなり人気がある。
「えっあっはい」
ミスラは私のサックの重さで転んでしまった。
「何これ重いぃー」
今日はさすがに採りすぎたかな?
さってと……私はアイダーのほうに振り向き
「で?だったらどうする?」
私は剣を抜きアイダーを睨む。
「女は犯すに決まってるだろ」
剣を構え直したか……ちぇっ効果が切れたよ……サンドバックにしてやろうと思ってたのに。しょうがないなぁ……
鞘から剣を抜きアイダーに切りつける……が盾に弾かれる。
「剣で勝てるわけ無いだろ?お嬢さん?」
憎たらしい目つきでこちらを見下している。
「それはどうだろうねえ」
そう言いながら私は剣と盾を持ち替え構えなおす。
相手は右利きと踏んでの行動である。
「馬鹿か?てめーはショルダーもねぇくせに」
アイダーはそう言い放ち剣を振るう。
ぎぃぃぃいいいん!
鈍い金属音が響きわたる。剣を盾代わりに相手の太刀を受け止める。
そのまま右手に持った盾で相手の盾を弾き飛ばし十メートル前後辺りでぽとりと落ちる。
「すっすごい」
私の荷物を持ってもらってるミスラが驚きの声をあげた。
周りからも歓声が聞こえ始める。
「何ぃ!?」
アイダーは何が起こったかわかってないみたいらしい。
「両ききだとこういう芸当もできるんだよ〜」
そう言い放ち私は相手を蹴り飛ばし距離をとる。
盾を地面に置き右手を地面にそえる。
「木々を育む偉大なる大地よ!その姿、怒りに変えて我が壁を砕け!」
呪文と同時にアイダーの立っている地面から鋭い岩の塊が襲い掛かる。
『ストーン』
黒魔法系精霊術
アイダーは私の術で串刺しになる予定だったが、剣に命中し破壊……
外した?いやよけたか……
「覚えてやがれこの糞アマっ」
出ました悪党の『名台詞』、参りましたって事で解釈してよさそうだな……
アイダーはいちもくさんでその場を走り去っていった。
私は彼が使っていた盾を拾いいい考えが浮かびあがった。
「これ鍛冶屋でショルダーに加工してもらお」
我ながらナイスアイデアじゃん。
「はい、これお返しします」
自画自賛してる私にミスラから声がかかる。
「ありがとうね重かったでしょ?」
私はニッコリと微笑み可愛いネコ耳のミスラに軽く挨拶を交わす。
そして集まった野次馬を掻き分けて先ほど飛ばされたタルタルのところへ向かう。
「大丈夫?」
タルタルに声をかける。後でさっきのミスラも不安そうにしてる。
「さっきのネーちゃん?」
タルタルは私を恐る恐る見上る
私は目線をあわす為しゃがみ怪我が無いか伺うことにした。
勿論彼を治療する為に。
三.(偶然の出会いは奇跡なりのこと)
「乾杯〜」
私たちは、ジョッキになみなみと注がれた麦芽酒で、食事を満喫していた。
テーブルに置かれた食べきれない程の料理の数々。
ミスラとタルタルそして私……
普段めったなことでは他人とはかかわらないのだが、今日は特別である。
負傷したタルタルの治療をした事と、このタルタルと冒険団を組んでいるミスラからのお礼。
そして先ほど撃退したアイダーが、結果的にバストゥーク自衛団により束縛され国から謝礼が出た事をかねた、いわゆるお祝いというやつだ。
「あんまり飲みすぎちゃだめですよ?ロッド?」
ミスラはタルタルにジョッキを取りあげようと必死になっている。
無理もない。あの小さな体で私たちと同じジョッキを抱え込んで飲んでいるのだから……
「いいじゃんショーテル。お祝いなんだしさぁ」
タルタルも必死でジョッキを奪われまいと抱え込んで離さない。
「レイピアさんもロッドにいってやってくださいよぅ〜」
ほとほと困り果ててるご様子……
「いいんじゃない?ショーテルさん死にゃしないでしょ。」
私はローストチキンを片手にふりふり麦芽酒を一気に喉に流し込む。そしてチキンにかぶりつきながら。
「ひょとして心配症?」
とショーテルに問う。
すると勢いよくどんとジョッキテーブルに置き
「そうなんだよレイピアのネーちゃん、心配症なんだよショーテルって」
口を手でぬぐいながら羊肉にかぶりつくロッド。
「さっきだってあんなにひどい怪我したじゃない」
ロッドを睨みつけ
「もう死んじゃったのかと思ったじゃないですか!」
ちょっと強めの口調でショーテルの説教が始まった。
正直私も治療できるか分からなかったのだ。かなり派手に壁にブチ当てられたのだから。
「でもネーちゃんの治癒術すごいよね。おいら片足ちぎれかかってたのに」
ショーテルの説教から逃れようと考えたのか、私に話をふってくる
「そうですよね、私もあんなに凄いケアルは初めて見ましたよ」
ショーテルも釣られて目を輝かせてこちらを見つめている。
「あれはね、治癒魔法の術の重複作用なんだよ。」
私はそう答えると二人は声をそろえて……
「重複作用?」
『重複作用』
それは同じ魔法を同時に複数かさねて『かける』ことで、術の効力を増す方法である。しかし私はまだ二つしか重ねがけすることが出来ない。
魔法力の少ない魔道師が無茶な重複をすると精神崩壊することがある。
魔道師の中では『三流魔道師は呆けるのが早い』
という言い伝えがあるが、こういう意味なのかもしれない。
とくに治癒術以外の魔法は重ねがけが困難であるが、二人には話す必要が無いのでそっちは飛ばすことにする。
ロッドはシーフ。ショーテルはモンク……魔法には縁がないであろう。話も一段落着き、私は麦芽酒を一口。んーんまい!
「でもよかったねロッドちゃん大事に至らなくて」
そういいつつもう一口。幸福のひとときである。癒されるよねこの一杯!
「ちゃんはやめてよ。おいらこう見えても二十七なんだよ」
ロッドの言葉に思わず口の中の物を噴出す。
「タルタル族って年はとっても体形は変わらないんですよ。しらなかったんですか?」
ショーテルの言葉でさらに驚いた。体型が変わらないってもしかして?
「それって老けないって事?」
恐る恐るたずねてみる。
「そうなりますね。ただ寿命は私達とかわりませんけど」
ショーテルから詳しいことを聞いた。
タルタル族は生まれてからある一定期間成長するとそこから死ぬまで成長が止まり、脳以外は細胞分裂が一定だそうだ。要するに呆けてもおじいちゃんか青年か判断できない。
私はショーテルに一言、羨ましくないそれって話を持ちかけた。
「そうですね、死ぬまで若いままなんていいですよねぇ〜」
私とショーテルはロッドをみつめながら激しく羨ましがった。
こっちは必死こいてケアしてるっつうーのにまったく持って不公平だよ神様!…
「そういうネーちゃんは幾つなのさ?」
こんどはロッドが私に問いかけくる。
「ん?私は十八だよ」
そう答えると今度はロッドが麦芽酒を噴出した。それも私の顔めがけて
「うわっきったな〜い」
そう答えながらハンカチで顔を拭く私……ちょっと飲んじゃた……
「それってもしかして?うそでしょ?本当なんですか」
ショーテルも驚いてるようなんだけど?
「冒険者許可証取得可能年齢って確か」
ロッドがショーテルに何か確認を取るような感じで話しているけど?
「十八ですねたしか」
ショーテルは驚いた表情で私の顔をまじまじと見つめる。
「なによぅ。なんかまずかったの?」
何かいけないことをしたのかな?少し焦る私……
「ネーちゃんワーパーなんだろ?」
ロッドは確認を取るように聞き返す。
「そうだよ許可証も持ってるよほら」
ロッドに私がワーパーである証明許可証を見せた。
「本当ですね……ワーパーには冒険者に認定されてある程度名声が無いと取るのは難しいって聞きましたけど」
ショーテルが私の許可証をまじまじ見ながら首をかしげている。
「あっそれね私試験受けてないんだシードでパスしたんだけど?」
「シード?特別認定ですって?いったいどういうことなんですか?」
目を丸くするショーテル。
「私の親父も冒険者やっててさ、もうあっちの世界に逝っちゃったけどね」
「親父の娘だって事が分かったらすぐに認定されちゃった」
私はペロッと舌をだす。
「ねえネーちゃんのフルネームはなんていうの」
ロッドは自分の麦芽酒を横にどけテーブルに乗り出す
「レイピア・チェイルメイン」
そう一言いったら二人とも口をそろえて
「まさかセイバー・チェイルメイン??」
あれっ、なんで親父の名前を……
「そうだけど?親父の名前何で知ってるの?」
そういうと二人とも椅子から立ち上がり
「それほんとうなのぉ〜」
酒場に割れんばかりの大声が響き渡った。
「それ人違いなんじゃない?」
麦芽酒に飽きた私は、果実酒に舌鼓を打ちつつ否定していた。
『セイバーチェイルメイン』今からさかのぼる事八年前
ジュノを約百体のクゥダフの大群が襲ってきたことがある。
その大群をたった一人で撃退した戦士がいた。
彼の振るう剣は一太刀で四体を仕留めることが出来たとい英雄。
そしてジュノを救い自らも朽ち果ててしまったという伝説の人物。
だが人違いだろう。同姓同名はよくある話。うちの親父とは比べようもない。
実際私の親父は只のワーパーだった。幼いときに母をなくし親父とその妹、いわゆる叔母さんと生活していた。
親父は暇さえあればいつも私に剣術を教えてくれていた。
いつも筋がいいと褒めてくれるのが嬉しくて私は剣術に励んできた。
だが私が十歳の時信じられない出来事が起こってしまった。
一通の緊急報告書が我が家に届いた。
親父が罪も無い一般の人を殺めてしまった。法により処刑されたという内容だったのだ。
当時の私には信じられなかった……
あんなに優しくて強かった親父が殺人を犯すなんて。
村のみんなも信じてはいなかった。
村の為に一生懸命だった親父。
親父が持って帰る財産で村が成り立っていたのだ。
このままでは村が無くなってしまう。
私がワーパーに……父さんの代わりに……
十三の時に決心し、独学で魔法学や剣術を磨いた。
私が冒険者になるきっかけだった。
酒場を後にし、競売場入り口で三人で話を聞くことになった。
「じゃなぜシードで通ったんですか?」
ショーテルが不思議そうに首を傾げている。
ふと疑問点が浮かんできた。処刑された年と伝説の人物の死が一致していること。
親父の名前でシードに選ばれたこと。ジュノにいければすぐに分かるのだが……
今の私はそんな金も暇も無い。村の仕送りを止めることも出来ない。
ロッドがショーテルに何やら耳打している。
「あら、いい考えじゃないですか。ロッド」
「でしょ?おいらあったまいい」
なにかいい考えでも浮かんだのか?……
「私たちの団体でジュノに居る方がいますのでその方に頼んでみます」
ショーテルは耳をピコピコさせながらロッドを前にだす。
「でさその伝説のセイバー・チェイルメインの自画像持ってきてもらうのさ」
ロッドはパチンと指を鳴らす。
「いいの?そんなにしてもらって?」
私はすまなさそうな顔ををしていると、ロッドはウインクしつつ、
「お互い様でしょ?」
「それじゃ明日この場所に来てくださいね」
ショーテルはそういい残しロッドとモーグリハウスに帰っていく。
サヨナラの挨拶をすませた私は、今日収穫したアイテム類を全て競売場に出品し、帰宅することにした。
四.(モーグリは働き者のこと)
「レイピア、起きるクポ〜」
う〜ん五月蝿いもう少し寝かせて……頭痛いし……
「今日はジュノからお客さん来るんだクポ?」
あ〜そういやそうだった。昨日ショーテルとロッドから競売場に来いって……
がばっと、あわててベッドから起き上がる。
そうだ、親父の真相が分かるかもしれない。
「うぅ、頭割れそ……」
昨日は流石に飲みすぎた、完璧に二日酔いである。
「ごめんモーグリお水頂戴」
パタパタと羽をはばたかせ宙をとびキッチンへ向かう奇妙な動物。子豚を直立させ羽が生えた姿をしたモーグリ、一応モンスターの類になる。
人語を理解し、冒険者の面倒を見てくれるお手伝いさんといったところか……
冒険者は、モーグリハウスと呼ばれる部屋で寝泊りをする。
部屋がアイテムの倉庫にもなっており、その番人もしてくれている。
「お待たせクポ〜」
モーグリからコップ一杯の水を受け取り、一気に飲み干しテーブルへ置いた。
「そうだポストどうなってるかな」
モーグリにポストの中身を確認してもらう事にする。
「了解だクポ」
モーグリはびしっと、私に敬礼しポストの中身を調べ始める。
私は空になったコップを片付ける為キッチンへ向かう。
「昨日は大活躍だったクポね」
リビングからモーグリの声がする。
「あ〜そう言えば謝礼もらったっけ?」
コップを洗いながら受け答えする私。
いくら入ってるんだろうか二ー三万ギル位が妥当だろう。
「レイピア〜大変だクポ〜」
モーグリはキッチンへすっ飛んできた。
「なによ?どうしたのよぉ?」
血相を変えている何が起こったのか……
「かっかっか」
モーグリはあわててるせいか舌がまわってない……
「完売だクポ〜」
何?完売だぁひょっとして……
「昨日と一昨日出品したやつが?」
コクコク頷くモーグリ。
私は慌ててポストへ向かう。
ポストのリストを確認するが確かに出品した物が全てリスト上から消えている。
『魔法のポスト』
一般家庭にもある私たちが俗に言う倉庫である。
中に物を入れるとある空間に物体を保管してくれる便利な物。
さらに競売場で得たお金や品物も届くのだ。
「モーグリお願い」
私はモーグリに金額を調べさせる。
冒険者用ポストはモーグリの魔力にしか反応しないように設定されている、いわゆる鍵なのだ。
「で?どう、いくら来てるの?」
少し興奮気味にモーグリをそそのかす。
出品物が即効で売れることはしばしばある、が完売は稀にしかないのだ。
競売場のシステムは一番安い値段で出品した物から先に落とされる。
簡単に言うと一ギルで出品すれば真っ先に落とされるということ。
私の読みががあたった。最近落とされずに返品が続いて困っていたので、全て相場の三分の一で出品したのだ。
「五万ギルクポ」
モーグリの言葉に私は小さくガッツポーズをとる。ほぼ相場で全て売れている。
「おろすクポ〜」
モーグリはそう言うと、ポストから紙幣をとりだした。
普通に暮らしていると一日辺り千ギルで暮らせてしまう。
ワーパーはオイシイ職業なのだ。
「じゃ四万は村に送っていいクポね〜」
送金準備を始めたモーグリを私は止める。
「まだ謝礼が有るじゃない」
「そうだったクポ」
モーグリはそういうとテーブルにおいていた謝礼金の入った封筒を持ってきた。
さてといくら入っているのやら。ちょっと楽しみだね。
五.(謝礼にビックリのこと)
テーブルに向かい合い正座し、唖然としている私とモーグリ。
そして、テーブルに置かれた大金の山……
さっき送金されて来た、金額とあわせて。
「五十万ギル……」
テーブルに左膝をつき顎を乗せぼそっと小声で……
封筒の中に同封された一通の書類に目を通し、モーグリに視線を送る。
どうやら束縛されたアイダーが第一級指名手配されていたらしい。
謝礼どころか賞金までかかっていたのだ。
こいつはひょっとして久々に……
「休暇とれるわこりゃ。」
私のその一言にモーグリが反応する。
「のんびり出来るクポね。」
村に四十万送金したとして手元に十万も残る。
単純計算で半年も休むことが出来るのだ。
なにしようかなぁー、美味い物たらふく食べて〜うふふ!
しばらくあれこれ妄想してる時に……
「装備買いかえたら良いクポ。」
モーグリは、パタパタこっちにと近寄る。
そうだな、壊れたショルダー直すよりもっと良い装備に買いかえた方がいいか。
これなら一式買いかえて、新たな魔法も覚える時間もある。
『魔法』
この『ヴァナ・ディール』には魔法が何種類かあるが、基本は大きく分けて、
攻撃系の黒、回復補助系の白、そして私のジョブ万能系の赤が、存在する。
赤魔法は特殊で一部の黒と白の魔法が扱え、更に赤独自の精霊魔法を武器に宿らせる、エン系魔法が存在する。
魔法書は魔法屋か、競売場で手に入れることが出来るが、取得には時間がかかる。
魔法書に書かれている術式を、完全に把握しなければ取得できない。
おそらく一月はかかるかも知れない。今が丁度うってつけなのだ。
休暇を利用し少し腕を磨くか……
「じゃあ競売場にいってくるよ、留守番と送金よろしくね。」
私は大金の中から、一万ギル紙幣を十枚程財布に込めて部屋を出ることにした。
「行ってらっしゃいクポ〜。」
モーグリに見送られ競売場に向かう私。
「おや、レイピアちゃんまた出品かい?」
競売場の出品口から親父さんが顔を出す。
「ちがうよ〜今日は入品に来たんだよ親父さん、大金が手に入ったのよ。」
私は嬉しそうに親父さんを見つめる。
「ほぅ、そりゃ良かったな。」
親父さんもにっこり微笑んでくれる。
「んじゃいってきますね。」
親父さんに手を振り、入品場の扉を開け中に入る。
六.(競売場でウッキウキのこと)
「いらっしゃいませ、こちらをお付けください。」
女性店員からひとつのイヤリングを付けて貰う。
『リンクシェル』
離れた場所でも会話が出来るアイテム。
これを付けてやり取りをする事になっている。
入品場の中はかなり広く、そしてショーケースにはずらりと、アイテムが陳列されている。
私は小走りで魔法書の置かれているコーナーへと向かった。
魔法書コーナーに着いた私は、早速品定めをする。
『エンサンダー』
雷の精霊を、武器に宿らせる魔法剣術。
これがあれば、戦闘の勝率も格段に上がるはず……しっしかし……
「えぇ〜無いよ一個も。」
ガックリ肩を落としてリンクシェルで、店員に詳細を聞き更にショックを受ける。
エン系魔法の類は、出品率が非常に低く入手しにくいらしい。
現に三ヶ月も前から出品されて無い……
仕方が無いので手ごろな値段で、短期間で習得できそうな物を落とす事にした。
そして今度は装備品の展示されているコーナーへ移動する私。
ほとんどのワーパーは単独で行動する。
ゆえに回復など多彩さが求められる。
私が赤魔道師をジョブに選んだのは村に仕送りする為に、単独で回復でき無駄な出費を抑えたい為だった。
試着室でいろいろな装備を試着し動きやすさを確かめていく。
女の私には重装備は出来ない、軽くて丈夫な物。
そして重要な箇所を防御できる物を選んでいく。
兜系は周りが見渡しにくく音が聞き取りづらい為、魔力を増幅させる髪飾りを選ぶ。
その他の装備は、金額と見合わせ適当に選んでいった。
とりあえず装備を落とし、武器を買い換えるか否か悩んでいた。
今私が使っているのはショートソード。
そろそろ少し刃渡りが長いロングソードあたりに買いかえて、接近戦から、中距離戦に切り替えたいところだ。
私は武器のコーナーで、ショーケースに両手をあててにらめっこ……どうしようか……まだ三万ギル程度残している。
「失礼いたします。」
悩んでる私の後ろから男の声がする。
振り向くと、一人の店員さんが一本の剣を抱えていた。
おそらく出品物の陳列に来たのだろう。
「あっどうぞどうぞ。」
私は邪魔にならないように、ショーケースから離れる。
店員さんは、剣と詳細が書かれたラベルをそっと、ショーケース内に収めて
「ごゆっくりご覧ください。」
私に丁寧いにお辞儀をし、ショーケースのガラスを拭き始める。
私は今店員さんが陳列した剣のラベルに書かれた詳細を読み、横でガラスを拭いている、店員さんを呼びつける。
「御用でしょうか。」
ガラス拭きを中断し私のほうを向きネクタイをととのえる店員さん。
「このラベルの詳細は本当ですか。」
と私の問いに店員さんは、
「はい、確認済みでございます。」
その言葉を聞き私は、すかさず、
「落とします。相場教えてください。」
店員さんは脇に抱えていた相場表を開き
「一万五千ギルが今の相場ですね。」
にっこり微笑み答える。
「じゃあ二万でお願いします。」
これでたぶん落とせるはずだと思うけどなぁ……
店員さんは相場表を閉じにっこり微笑み、
「おめでとうございます。落札でございます。」
よっし落とせた。これで一式そろったな。
「はい、これ」
店員さんに一万ギル紙幣を二枚とリンクシェルを渡す。
「おかえりですか?では落札物はポストに送りましょうか?」
領収書を受け取り、
「ここで着ちゃいますから、送ってもらわなくていいですよ。」
落とした装備と魔法書を店員さんに持ってきて貰い、試着室で全て着替えてお古の装備を店員にわたす。
「これ相場の三分の一で出品してください。」
出品表にサインをして店員にわたす。
しかしラッキーだった。あんな滅多にお目にかかれない魔法剣が手に入るなんて、もうウッキウキである。
「またのご来店お待ちしております」
店員さんに見送られ、競売場の外に出ることにする。
シューテルとロッドは、まだ来ていないようだ。
「八時半か。まだ早かったかな?」
懐中時計に目をやる私。
「ほう、なかなか立派になったね。」
出品場の親父さんに声をかけられる。
「そうかな。でもちょっとまだ慣れてないから動きづらいや。」
そういいながら私は軽く数回飛び跳ねて見せた。
「そう言えば、あんたを探してる人がいたよ。」
親父さんはパイプをふかしながら私に話しかける。
私は、身なりと名前を聞きどこへ行ったのか問いかける。
「たぶん街の外なんじゃないかな。モンスター狩りでもして、暇つぶししてくるとか言ってたからな。」
そういうとパイプをぷかりとふかす親父さん。
「ありがとう親父さん。」
そう一言礼を言い、私は慌てて外へ向かうことにした。
七.(金髪の剣士現るのこと)
私は噴水前の階段を駆け下り、商店街を走り抜けていく。
商店街を抜け、商業区の門に到着し足を止め、息を整え深呼吸する。
競売場の親父さんから聞いた男のことで頭が一杯になってくる。
長い金髪のヒュームの青年・全身白ずくめの防具で身を固めている騎士。
身長百七十前後でスリムな体型。そして名前が……
セイバー・バルック……
「あ〜なんか頭痛くなってきた。」
これは偶然か?
誰かに騙されてたりして?
とりあえず悩んでいてもしょうがない。
念のため門のガードさんに聞き込みをする。
「確かに外に出られましたね。確か六時ごろでしたかね。」
へっ?六時?……そんなに朝早くからこっちに来てたの?
「ありがとうございました。」
丁寧にお礼を言い、門を出る私。
外ではちらほら人がいる、取りあえず白い装備をしている、人を片っ端から探すことにする。
それっぽい人が、座り込んでバザーをしている。
取りあえず、バザーをしている人に近づく。
私に気がついたのかこちらを振り向いた。
「やぁ、いらっしゃい。なんか買ってくかい。」
私は手をひらひらと振り振り、
「私、ワーパーだから。」
ワーパーは金を稼ぐのが仕事。
バザーにはほとんど興味ないしね。
彼は私の顔をじぃーと見つめ、
「そっか、じゃ買わないわな。」
彼はそういうと、オープンヘルメットを外し、手に持っている水筒を口に持っていく。
さらりと風に流される長い金髪……
「あなたひょっとして、セイバー・バルックさん?」
と私はたずねる。
「そうですけど?なんで俺の名前知ってる?」
セイバーは口を水筒から離し、首を傾げる。
「探してる人到着。」
私は自分の顔をちょいちょいと指差した。
「おおぅ、あんたがレイピアさんかい。」
立ち上がり、パンパンと砂を払いながら、
「ショーテルに聞いてたのと、身なりが違ってたからわからなかったよ。」
へ?あっそうか……
「さっき装備一式買いかえたんだった。」
すると、セイバーは私の装備を見始める。
「ふむふむ、ほほぅなるほどねぇ。いい買い物してるねぇ。」
そして、水筒を口に当て一口。
「急所、間接部分に重点を置き、露出した箇所はチェーンメイルでカバー。」
ずばりと言い当てる。
「確かにそれなら動きやすいな。」
そして、私の剣をつんつん指差し、
「これ、買っちゃったのかぁ。」
と一言。
「そーなんだ、出品されたてだったからつい買っちゃった。」
鞘から剣を抜き一振りする私。
「あれぇ?」
また一振り……
ブン・ブン・ブン……
何度振っても……
「炎が出ない。」
『フレイムソード』
剣に炎の精霊が宿った魔法剣……のはずなのに……
ガックリうなだれて。
「店員さん、確認済みっていてたぁ。」
目をウルウルさせセイバーを見つめる。
「ちょっと貸してみな。」
私はそのまま彼に剣を渡す……目をウルウルさせながら……
剣を手に取り構えるセイバー。
「こいつは俺も前に使っててね。ちょっとコツがいるんだ。」
剣を一振り……
剣が真っ赤に染まり炎をまとう。
剣を振るたび炎が踊る。ちょっとカッコいいかも……
「ほいよ、本物だぜ。剣先に集中して振ってみな。」
私に剣を返すセイバー。
私はまた剣を構え……深呼吸して、剣先に集中させる。
「てりゃっ」
気合一発、太刀をかますが……
「でっでにゃい……」
うそぉーこれって難しいよぉ。
「ひょっとして、魔法剣術覚える間の穴埋めにしようとか思ってた?」
セイバーの一言が、胸にぐさりと突き刺さる。
「むっ」
ぷぅと、ほっぺを膨らませむくれる私。
「図星っってところだな。いくらで買ったの?」
私はセイバーの問いに、競売場で落としたいきさつを話す。
するとくすくす笑い出すセイバー。
「笑うこと無いじゃないのさ」
むくれている私のほっぺはさらに風船のごとくパンパンになる。
「実はな、最近落札率の低い出品物はね。品切れしているように見せかけてるんだわ。」
私の肩をパンパンたたき、
「見事に引っかかりましたな、お嬢さん。」
あ……そう言えばあんとき相場しか聞いてなかった。
「あぁー在庫確認してなかったぁ〜」
迂闊だった……あれほど金には慎重だったのに……
大金手にすると、判断が鈍る……私は『金の欲望』に惑わされたのだ。
「五千ギル損したってか。我ながら情けない。」
するとセイバーはさらに肩をパンパン叩き
「その分村に回せたのにな、残念でしたな。」
全くそのとおり私としたことが……?
「ってショーテルってそんなことまで話したの?」
「あいつ口軽いんだよねぇ、これが。」
むう後でとっちめてやろ。
「それより持ってきた?自画像?」
「宿に保管してるよ。」
それじゃあ。
「宿のレストランで食事でもどう?おごるよ?」
まだ一万残してるし、これも礼儀であるしね。
「ほいじゃあ」
セイバーはバザーに並べていたアイテムをかき集めて
「こいつを、道具屋で換金してくれる?飯の足しになるしね。」
意外と気が利くじゃん。これが騎士道というやつかな?
「うん、たすかるわ。じゃあ行きましょうか」
そういうと二人は宿屋に向かう為門を入り宿屋に向かう事にした。
そしてそこで、意外な真実を知ることとなった。
八.(私のお肉……のこと)
料亭にのテーブルにステーキが置かれている
それも三人前……
「いやぁ〜悪いね。いい物ご馳走になって。」
二人だけのはずだったんだが……
私の知らない間に二人を先に呼びつけてたみたい……リンクシェルで。
「ほんと、おいしいですね。このお肉。」
ショーテルはほっぺをおさえながら嬉しそうに口をモゴモゴさせている。
「いい肉使ってるね。うんうん。旨いよこれ。」
おいおいロッド?タルタルのくせに、並みの量を食べる気か?……少し残せ。
「レイピア?君は食べないのかい?」
セイバーが私に語りかける。
「私はもう朝食食べたからいらない。」
というのは嘘である。
私の財布の中身では精一杯だった。残り1万ギル&小銭にセイバーが換金したアイテムでも足らなかった。
だってこの宿でいっちばん高い肉なんだもん……しくしく
「それより自画像持ってきたけど、見る?」
セイバーが、自分のサックの中をゴソゴソとあさり始める。
それを私は、食事の後で良いと一旦断った。怖かったのだ。
別人ならそれで良し。だが、ジュノを救った本人が親父だったら……
あ〜考えたくも無い。今はやめとこう。
私はもやもやしている頭を軽くこずき、さっき競売場で落とした、
数冊の魔法書に目を通す。
そしてテーブルにおいている、アルミケースから一本タバコのような物を、
取り出しマッチに火をつけ一服する。
「おいおい、いい子うめなくなるぜ?」
セイバーのひと言にロッドもショーテルも賛同している。
「ああ、これのこと?タバコじゃないよ。」
そう言って、一本取り出しセイバーに火をつけ吸ってみろと渡す。
セイバーは私が渡したそれを、吹かし目を丸くする。
「これ、エーテルか?」
その言葉に二人も驚く。
葉っぱにエーテルをしみ込ませ乾燥させた物を紙に巻いた、私のオリジナルアイテムである。
原液程の効果は無いが、ある程度魔法で消費した精神力を、正常まで戻すことは出来る。
エーテルは小さなガラスの小瓶に入っているのだが、冒険中のアクシデントで割れてしまうことが良くある。
おまけにこれがなかなかの高額な代物なのだ。
おそらくエーテル3個で今彼らが食べているステーキに、追加で一人前頼んでもでお釣りがくる位高い。
てなわけで携帯用として常に持ち歩いている。
「これ、俺にも作ってくんない?」
くわえた物をちょいちょい指差しながら。
「良いわよ、エーテル持ってくるなら、作ってあげるよ。」
私は吸い終えたそれを灰皿でもみ消す。
彼は魔法も使うのかな首を傾げていた私に気づいてか、
「おれ、白魔法をちょいとかじっててね。」
なるほど納得……
「サポートジョブね。」
『サポートジョブ』
冒険者の中には複数のジョブ(職業)を学びそれをサポート
にしている人がいる。
「そういうこと。」
そういうと彼も、くわえていた物をもみ消す
「いや〜こりゃいいわ。頭がすっきりしたよ。」
そして彼はこれで、商売が成り立つのではないか?というようなことを言ってきた。
当然この私が、気づかないはずがない。一度バザーで叩き売りをやったことがあるが……結果、道具屋さんに止めてくれと泣いて頼まれてしまった。
エーテルその物の売れ行きが落ちたのだ。かわいそうだから売るの止めたけど。
「ごちそうさまでしたぁ。」
ショーテルはハンカチで口を拭き拭きにっこりと。
さぞかしおいしかった事だろう……
「うぅっ苦しい〜もうおなか一杯。」
げっロッドのやつみんな平らげてるよ……ちょっと残してほしかったな。
「じゃあ本題に入りますかね。」
そう言うと一枚の自画像をサックから取り出す。
ごくっ果たして親父なんだろうか?
それとも別人か?
セイバー・チェイルメイン……
罪人か英雄か今はっきりする。
私は、セイバーから自画像を受け取り、確認する事にする。
九.(最悪の結果のこと)
数分後私は既に料理を片付けられ食後のコーヒーを置かれたテーブルに
うなだれていた。
写真の自画像は紛れもない親父の顔。
三人はみな嬉しそうにはしゃぎながら、良かったを連呼している。
そりゃ、良かったことにこしたことはない。罪人じゃなかったのだから。
しかし、今の私にはそれ以上に、怒りと悔しさが上回っていた。
私が見るのを少しためらい、後回しにした訳。
誰かに騙された……
私はテーブルを思いっきりたたきつけていた。何度も何度も……
その行動に三人いや宿にいる人たちが何事?のように見つめている。
「私、騙されてた。8年間もずっと。」
悔し涙が溢れだしてきた。
「一体どういうことだ?」
ハンカチを私に渡しながらセイバーが理由を聞いてきた。
村の我が家に届いたのは、処刑されたという報告書。
じゃあ何のために?誰がそんな偽の報告書を送ってきたのか?
国直属の警備団、自衛官などが殉職し、その人が妻子ある身柄だったとしたら……
当然その妻、子は生活保護が受けられるはずである。
ならたとえ只のワーパーだった人でも、一国の危機を救って倒れ、
その人物が妻子ある身、村の再建をしていると知ったら国はどうする?見殺しか?
「そりゃ、村の再建資金や、手伝い位してくれるわな当然」
セイバーのひと言に、私はテーブルをバンとひとたたきして、
「誰かに持っていかれた。親父の名声も、私たちの自由も。」
誰が好き好んでこんな危険な職業選ぶものか。
私は他に手段がなかったから、今の職業をやってるだけだ。
本当だったら今頃、かっこいい彼氏でも見つけて、綺麗な草原でお弁当広げて、
素敵な恋愛なんぞをしていたかもしれない。
「ジュノ来るか?真相確かめようぜ。」
セイバーの誘いに私は、
「有難う、でもその前に一度村に帰って確かめるわ。」
万が一のために保管してあるのだ。報告書が。
それを、持ってジュノのカムラナート大公に会って詳しいことを聞き出そうと考える。
「で村は何処にあるんですか?」
ショーテルの問いに私はコンシュタッド高原に村があることを伝える。
「割と近いじゃん、チョコボならすぐに着きそうだよ?」
ロッドが椅子の上に立ちながら私を見つめている。
「そうだな、一緒に行こうか?みんなで。」
セイバーのひと言に何でそこまでしてしてくれるの?と私は問う。
「こいつ助けてくれたの誰でしたっけ?」
セイバーはロッドの頭をポンポンっと叩く。
ロッドは照れくさそうに鼻をこしこしと擦っている。
えっそれだけの理由で?
更にセイバーは
「それに俺、曲がった奴が嫌いな性質でね。」
そして私の頭もポンと叩き、
「こーんな可愛いお嬢さんを、不幸な目にあわせてるなんて、お兄さん許さないぞっと。」
ポンポン叩かれながら私はまた泣き出してしまった。
「さて、泣いてる暇があるならさっさと出発しようぜ?」
私を覗き込みにっこりと優しく微笑むセイバーに私はちょっと照れくさくなり、
ごしごし涙を拭い、ほっぺを数回両手でパンパンと叩く。
「うん、行きましょう。絶対に騙した奴とっ捕まえてやる。」
私は右手を強く握り締める。
「じゃあこいつを君に渡しておこう。」
そういうとひとつのリンクシェルを私にくれた。
見てみると青と白のスプライトの綺麗なパールがついている。
「こいつらもおんなじ物付けてるんだぜ。」
二人をクイクイと親指でさしながら。
「これで君は俺たちの仲間だ。」
そして右手を差し出すセイバー。
ロッドもショーテルもその差し出された右手に手を重ねていく。
そして私もゆっくりとそっと手を重ねていく
「これでパーティの成立だな。」
そういうと彼は、私のアルミケースからひとつエーテルタバコをくわえ火をつけ煙をふかし、こう言った。
「宜しくな。」
十・(レイピア初パーティー結成のこと)
私は商業区門ので口で一人、彼らが来るのを待っていた。
コンシュタッド高原。私の村に向かう為に。
春には色とりどりの花を咲かせ、夏にはあたり一面が鮮やかな緑色にそまり、秋にはおいしい果実を実らせ冬が来ると、あたり一面が銀世界になる。
……と、ここまで書くと、まぁなんて良いところなんでしょ。そんなところに住んで、癒されてみたい。なんて思うだろうが、実際はそんな甘い物ではない。
毎日、冒険者がぞろぞろと蟻の行列。おまけに、あたり一面モンスターだらけ……こんなところに住んでいる物好きは、おそらく私たち位だろう。
私は腰を下ろし東の方角を眺める。
数分後2羽のチョコボが、やって来た。
乗っているのはショーテルとセイバーの二人。
「あれロッドはどうしたの?」
私の質問にショーテルの背中が答える。
「ここだよ。」
なんとロッドはショーテルの背中に帯で縛り付けられている。
しかも後ろ向きで……
「こうしておくと後方気にしなくていいんですよ。」
ショーテルの言葉に私は納得した。
なるほどね、でもそれだと酔ったりしないのか?
「さて、お前さんものりな。」
セイバーは手綱を引きチョコボをしゃがませる。
そして私は、チョコボに飛び乗りセイバーの背中にしがみつく。
「鎧つけてなきゃ最高なのになぁ。」
セイバーはため息ひとつついた。
確かにゴツゴツと鎧が当たる。
つけてなければ背中の温もりも感じられるだろう。
私は、ここまで良くしてくれている彼に少し、好意を抱いていた。ちょこっと顔が熱くなってきた。
それに察したかセイバーはひと言。
「ひょっとして惚れたりした。」
私はぷいっと無言で横に視線をそむけた。
くすくす笑ってるショーテルとロッド……うぅ〜恥ずかしい……
セイバーは軽く笑いながらチョコボの腹に軽く踵を当てる。
立ち上がるチョコボ。
「じゃいきますよ。お嬢さん。」
そう言うと手綱をしならせチョコボを走らせた。
地面が……人が……モンスターが……景色が……飛ぶように視線から消えてゆく……鼓膜からは風の音が駆け抜けてゆく……
「速い、すっご〜い」
私の感激の声を上げる。
「だろ〜。これならすぐ着くよ。」
前方を駆けるチョコボから縛られたロッドが、手を振りながら答える。
「飛ばすからしっかりつかまっててくれよ。」
セイバーのひと言に私は彼の背中にしっかりと体をくっつける。
手綱がまたしなる。
どんどん加速していく。
もう景色が分からないほどの速さになっている。聞こえてくるのは風の音だけになってしまっていた。
十一.(詐欺師をぶっ飛ばせのこと)
もう半日は走ってきたのだろうか、一度休憩をはさみまた出発をする私たち三人。
休憩をしたのは、ロッドがチョコボ酔いしたからである。
ちゅーか普通するだろ?その乗り方だと……
私は何故普通に乗らないのかと一度尋ねたのだが。
その理由はロッドを前に乗っけると、ずっとしゃべりっぱなしで
五月蝿いらしいのだ。おまけに胸まで触る始末……すけべなのか?
吐くものもないくらい吐いたらしいので取りあえず出発となったのだが……
並みのステーキ食うからだろ?タルタル用のセットもあったのに……
せっかく奮発して食べさせた最高の肉……しくしく
「もうすぐだよ。」
私は村がある方角を指差した、ポツポツと並ぶ風車小屋。ここいらが、私たちの村である。
数分後村に到着しチョコボから降り大声で村人を呼んだ。
私の声が辺りに響き渡る。
そして、ひょこひょことでて来る村の住人。
その数私を含め30人。小さなむらなのだ。
私たち三人はチョコボから降りることにした。
するとチョコボは、一鳴きしバストゥークの我が家へと帰っていった。
「おぉ、お嬢かえってきたのか?」
一人の男性が、私に近づいてきた。
「お帰り、レイピア。」
四十半ばの女性が私に話しかけてくる。
「ただいま、叔母様。」
そういうと私は彼女に抱きついた。
「あんな大金どうしたんだい?」
私は、頭を撫でてくれているおば様に、今までの経緯を話した。
その夜……
盛大な料理が並ぶ……羊の丸焼きに、ワインそして私たち。
相変わらず、青い顔してるロッド……まだ醒めてないのか?
「しかし、今まで騙されてたなんて。」
皆が口をそろえて同じ事を繰り返し
「じゃあ、これは貴方に渡しておくわね。」
叔母様はれいの報告書を私に渡してくれた。
「そんじゃ俺は一足先にジュノにかえるわ。」
セイバーは、報告書をひょいと取り上げ……
「なんか分かったら連絡する。リンクシェルは常時身につけて置くようにしてくれ。」
胡坐を組んでいた彼はすくりと立ち上がり、身支度をととのえ始めた。
村人たちは彼に声援を送っている。
「そんじゃいってくるわ。」
彼は一枚の紙を体に貼り付け両手で印を結ぶ。
すると彼の体は光り輝き光の霧になり天高く飛び去っていった。
『デジョン』
一瞬で設定している目的地へ運んでくれる黒魔法。
それを誰でも扱えるように一枚の紙に封印した呪符である。ただ一回限りなのだが。
「で私たちはどうします?」
ショーテルはお行儀よくちょこんと座りワインをちびちび飲んでいる。
「取りあえずバストゥークで彼の連絡を待つわ。」
私は、ショーテルにそう言うと、すくっと立ち上がり、
「みんな、ちょっと聞いて。」
村人の視線をこっちに集める。
「この前送ったお金で半年持たせて頂戴。」
そして鞘か剣を抜き眺めながら
「今の今まで騙してた奴とっ捕まえてくるから。」
盛大な拍手が高原に響き渡る……私は剣を夜空に高々と掲げた
十二.(コンシュタッドを離れてのこと)
次の日の朝早く、私たち3人はバストゥークへ向かう為、身支度をととのえ始めていた。
村の人達から、二日分の食料を分けてもらい個々にサックへと詰め込んでいく。
「さて、準備はいいかしら?」
私の合図に二人ともこくりと頷いた。
チョコボがいない為、徒歩になる。おそらく早くて一日半はかかるだろう。無論何もなければの話だが……
私たちは高原を抜けるため歩き出した。
まあモンスターどもに囲まれても三人もいれば問題ないだろう。
ここいら辺りなら私一人でもやっていけるのだから。
半日歩いたところで2体のクゥダフに遭遇した。
1体は戦士系もう1体は魔道師系か……
「私はあっち相手にするから片方お願い。」
私は魔道師系のクゥダフを指差す。
「はい、じゃあ戦士系は私たちが相手します。」
戦闘開始である。
私は両手で印を結び相手が唱えるよりも一足早く魔法を放つ。
「静寂よ!」
『サイレス』
相手の魔力を封じる黒魔術。
魔法の詠唱を出来なくし一時的に発声が出来なくなる。
魔法は相手にすると厄介なのだ、なので先に封印しておくのがベスト。
戦士系クゥダフにロッドが走りよる。
そして目の前でロッドの姿が消えた……
なに?どういうことなの?
「へへーん。」
クゥダフの後で相手が手にしていた剣を持っている。凄い……ぜんぜん見えなかった。
ロッドは一瞬で相手の武器を奪っていたのだ。
「はっ。」
そしてショーテルは相手の懐に素早く入り、相手の顎をめがけ蹴りを突き上げる。
空中へ飛ばされるクゥダフ。
「そらよ、返すぜ。」
そういうと先ほど奪った剣を飛ばされているクゥダフめがけ投げつけた。
ダシュッ
剣は背中に突き刺さり貫通、腹にまで達している。串刺しという奴だ。どさりと音を立て地面に這い蹲るクゥダフ。もう、絶命しているだろう。
凄い、これが連携なのか……気をとり直し私もそろそろ行動にでる。右手に集中させ魔法を放つ。
「束縛よ!」
『バインド』
黒魔法系弱体魔法
相手に精神をコントロールし動けなくしてしまう魔法。
そして距離をおいて術の詠唱をする。
「木々を揺らす風の精霊よ、我が剣となりて、刃と成せ。」
『エアロ』
黒魔法系精霊術。
一定の範囲に強烈な疾風を巻き起こし真空の刃を発生させる魔法だ。
クゥダフにそれが襲い掛かる。
そしてバラバラに刻み始めていった。
「ひゅ〜やっぱ魔法は凄いや。」
ロッドが私のお尻をポンポンたたきながら……
「こらこら、触るのやめなさいって。」
ごうん。
ショーテルの拳骨がロッドに炸裂する。
「いい加減にしなさい。ロッド。」
……今ので死んでないのだろうか……すんごい音したけど?
「あーぅぅー。」
頭を抑えて唸っているロッド、あ、生きてた。
「にしても凄いわよね。貴方たち。」
私はロッドの頭に出来たどでかいタンコブを眺めつつひと言。
「もう三年の付き合いですから。即席のパーティーとはちがいますよ。」
照れながらショーテルは語る。
「それにロッドの早業すごいよねぇ。」
あたしの言葉に反応したのかロッドは立ち上がり、
「これのことかな。」
私の目の前で消えた……
はっもしかして……やっぱり無い……腰につけた剣が鞘ごと。
「へー凄い剣だなぁー。かっこいー。」
ロッド自分の背丈よりもながいであろう、私から奪った剣をするりと抜き眺めている。
「わわっ重い。」
バランスを崩しロッドはすっころんだ。
キィィィン
剣先が若干赤に染まる……
「わっちゃっちゃっちゃぁー」
えっ……彼のお尻に火が付いている。私は慌てて魔法を唱える。
『ウォーター』
黒魔法系精霊術
水の刃を形成し敵を切り刻む魔法……それの魔法力を最小限にまで絞込み只の水を形成させロッドめがけてなげつけた。
「あーたすかった……けどもっとスマートなほうほうなかったの?」
びしょ濡れのロッドは恨めしい目でこっちを見る。
「私のキュートでプリティなお尻を触ったお返しだよ。」
そういって彼の鼻をピンと弾く。
しかし……何故炎がでたのか?
あれだけ試しても全然出なかったのに……もしかすると?
私は剣を拾い一太刀振ってみた。
剣が真っ赤に染まり炎が舞う。
やっぱりそういうことだったのか。
セイバーが言っていたコツってこういうことなのか!
私は剣を鞘に収め、腰に取り付ける
「さあいきましょう。」
私たちはこの場所を立ち去りバストゥークへと又歩き出したのだった。
十三.(発動!炎を纏う魔法剣のこと)
私は深呼吸して、剣を構えていた。
もうじき商業区に到着するのだが、その前に、試したいことがあったのだ。万が一のことを考えて、ショーテルとロッドに、後方で待機してもらっていた。
相手はクゥダフ二匹どちらも戦士系である。私は素早く、懐に入り鋭い一撃を放つが……手ごたえが妙に悪い……
「あれ、なんかへんだな?」
あっ、そうか武器を買いかえてたんだった。
慌てて、攻撃を盾でかわしつつ、距離をとる。そして剣を前に差し出し相手との間合いを計った。
「よっしこれくらいだな。」
肩の力を抜き、剣をゆったりと構えなおす。すり足で近寄り、相手が私の距離に入るのを待つ。耐え切れなくなったのか、一体のクゥダフがこっち迫ってきた。
私は、相手の喉下にめがけ、腰を回転させ素早く太刀を放つ。
剣は真っ赤に染まり炎の刃が相手の首に襲い掛かる。喉を焼き切られた一体はどさりとうつぶせになって倒れた。
私は左手に持っていた盾を手首にスライドさせて固定、今度は剣を、両手持に持ち替えて上段で構えもう一体に備える。
「はぁぁ」
呼吸を整え、前に一歩踏み込みそのまま切り下ろす。そのまま右手に持ち替え左から右へ水平に剣を振る。
クゥダフの胴体に十字の焼き傷が出来る。炎の十字切りといったところか……そのまま軽くどかっと蹴りを入れると、クゥダフはそのまま仰向けに倒れてしまった。
そして鞘に剣を収めて、後を振り向き、二人にガッツポーズをしてみせる。
「凄い、すごーぃ。」
それを見てか、ショーテルは飛び跳ねて感激している。
指笛鳴らしているをロッド、もうやんややんやの大騒ぎである。そこまで感動されると、こっちも照れてしまうんだけど……
私はあたまをコリコリと掻きつつ、二人にハイタッチをする。
セイバーが言っていたコツ……それは、単純な物だった。
剣先に集中し力まない事要は、腕力だけで剣を振らないことなのだ。
全ての力を剣先に注ぎ遠心力がある限界に達すると、初めてフレイムソードの持っている魔力が発動する。
まぁ、腕力だけでも発動しないわけでもないのだが……
女である私には全体重をのせないと発動は無理みたいだ。取りあえず買って損は無かったというだけ有り難かった。
取りあえずこの場所で数時間ほど鍛錬することに二人も賛成した。
個々に練習する三人。
ショーテルは拳法の型を取り始める。
ロッドは短剣を持ちシャドーをはじめた。
そして私は何度も素振りをする。
一太刀一太刀炎がまい踊る……
十四.(二人のモルモットのこと)
商業区へ帰ってきた私たちは、私の提案で、私のモーグリハウスで待機することにした。
別に個々で待機してもいいのだが、こういうときは固まって行動していた方が都合が良い。
と言うのは建前で……うふふ。
二人を中に入れると私は気づかれないように鍵をかける。
「お客さんだクポ?」
モーグリはパタパタと私に近づいてきた。
「うんそうだよ。」
私は、お茶を入れてくれるよう、モーグリに頼む。そして二人をリビングに招待した。
「ちょっと二人ともそこで立ってて頂戴。」
二人はきょとんとするが、その場で立ってくれた。
「何をはじめるんですか?」
ショーテルのひと言と同時に私は呪文を唱え始める。
そしてそれをロッドに向けて放った。
光が彼を包むそして……
「あ〜れ〜え〜?」
ロッドの動きがスローモーになった。
まるでナマケモノがごとく動作がのろい……私とショーテルはそのしぐさを見て数分笑い転げた。
『弱体魔法スロー』
相手の精神をコントロールし脳の伝達信号を一時的に遅くする魔法である。
おそらく当の本人も気が付いてないだろう。
彼にかかっていた術を解き。
「んじゃ次は〜。」
私はショーテルをチラッと目線を送る。
「ひっ痛いのはやですよぉ。」
逃げようとする彼女にもうひとつ覚えた魔法をかけた。
「あれ?何ともないんですけど?」
キラキラ輝いている自分の体をキョロキョロ見回すショーテル。
「ちょっと失礼して。」
私はそういうと彼女の体に手を触れてみた。
「うんうん大成功。」
私はにっこりした顔で、不思議そうな顔をしているショーテルに自分の体に触れてみろと私はいう。
「あれ?何か鎧を着てる感じですぅ。」
それを聞いたロッドは彼女に触れてみる。
「ほんとだ。なんか硬いよ?」
ロッドも少し驚いている。
「プロテスですねこれ。」
ショーテルは私にそういった。
白魔法系強化魔法『プロテス』
全身を魔法の壁で包み込み物理的な衝撃を和らげる効果はある。
さてと、リビングにおいてあるラックから数冊の魔法書を取り出しテーブルにどさりと置く私。
「実験台宜しく。」
ニヤリと笑うその姿を見たのか、二人は慌てて外へ逃げ出そうとするのだが……
さっき部屋の鍵かけちゃったもんねぇ。鍵は私じゃないと開けられないように魔法かかってるしぃ……
滅多にないしね、人体での魔法訓練するの。うふふふぅ。
「観念しなさいな。」
私は両手をわきわきさせながら二人にじりじりと近づいていく。
二人は抱き合ってガタガタと震えている。
「大丈夫、死にはしないから。」
私は又ニヤリと笑う。
「おっお助けぇ〜。」
二人の叫びが商業区に響き渡るのだった……
十五.(レイピア驚きの急展開?のこと)
小一時間が過ぎ、私たち三人はうつ伏せになってぶっ倒れていた……
「うぅ、もっもう駄目。」
皆が同じ言葉を吐く。
魔法の連発・唱える側と受ける側。どちらにしても、もう精神力が限界だった。
いつもなら、モーグリが相手をしてくれている。いやいやだが……
テーブルには、モーグリが用意してくれた、お茶とお菓子が置いてあるのだが、もうそれに手を出す気力が残っていなかった。
「モーグリ、例の奴持ってきて〜。」
私はうつ伏せのまま弱弱しく、モーグリに液体入りの小瓶を三つ持ってこさせた。
それを手にする3人。
「ささ、ぐいっとあけちゃってくださいな。」
私は一本のそれを一気に飲み干した。
足の先から、頭のてっぺんまで爽快感が押寄せる。まるで、頭から悪いガスが抜けていく感じ……これが、原液のエーテルの効果である。
二人もそれを飲み……
「ぷは〜生き返った〜。」
ごろりと、仰向けに転がるロッド。
「死ぬかとおもいましたよぅ。」
起き上がりざまに、私を恨めしげに見つめているショーテル。
「まっまぁいいじゃない。おかげで魔法も大分習得できたし。」
私は焦りながら、お茶を勧める。
紅茶をすする私たち。そしてケーキをぱくついていた矢先にリンクシェルからセイバーの声がした。
何でも、情報用のスクリーンを見ろという。
仕方なくスクリーンを見ることにする私たち。
雷のクリスタルを媒体にし、各国の情報を映像化して映し出す今で言うテレビといったところか。
取りあえずセイバーに指示でジュノの情報を見ることにする私たち……
「記者会見ですかね?」
ショーテルはスクリーンにかぶりついて見入っている。
「えっぇぇぇ〜。」
ショーテルは馬鹿でかく声を上げ、私を手招きする。
何事なのか?取りあえずスクリーンの前に座る私……
「なっなにこれぇ〜。」
私は唖然として紅茶カップを落っことす
会見に移ってるのは紛れもないジュノ大公。
そしてその内容とは……ジュノを救った英雄の娘が生きていた。という内容だったのだ。
やっぱり、騙されていたのか……私は死んだことにされていた。
そして、村の住人もそれぞれの国に移籍したという……んな馬鹿な!
「これはもうジュノに良くしかないですね。」
ショーテルは私の落としたカップを片付けながらそう言った。
ジュノには飛空艇で行くのだが……生憎、パスポートを取ってない。
どうしようかと悩んでる時にまたリンクシェルが反応する。
「ジュノの大使が君に会いたいそうだよ。迎えをよこすらしい。」
セイバーのひと言に私は何時なのか聞きだす。
三日後にこちらに迎えが来るらしい。
これならジュノにいける……
「そう、わかった。ひとつ質問いいかな。」
私はセイバーに、ジュノで何をやらかしたのか聞きだす。
どうやら彼は大使に例の報告書を見せたらしい。
その報告書を見たとたん大使の顔が青ざめたというのだ。
取りあえず真相に一歩近づいたのは確かだ。
「三日間まがあくなぁ〜。」
私はちょこんと座っている二人に目線を送る。
「んじゃ三日間、お相手よろしくね。」
二人の顔が青ざめていく。
「えぇ〜。」
二人は又抱き合って震えだした。
「お願いゆるしてぇ〜。」
十六.(ジュノヘ殴り込み!のこと)
三日後私たちはジュノに向かう為、バストゥークの港区にある、飛空挺のポートにやって来た。
飛空挺は一時間おきにやって来るのだが、次の便がそろそろ到着する。
次の便は緊急便ということで出航口には誰もいなかった。
おそらくこれにジュノの使いの人が乗っているはずである。
そうこうしているうちに、港区にサイレンが鳴り響く。
飛空挺が着水するため橋があがる合図だ。
慌てて橋を数人が渡りきりガードが橋を封鎖している。
数分後ポートに到着し中から数人の乗客が降りてくる。
その中の一人のヒュームの男性が、私たちの目の前で立ち止まり
「お待たせいたしました、ジュノの使いの者です。」
深々とお辞儀する使いの人。
「お世話になります。」
私はぺこりと頭を下げ、挨拶を交わした。
「それでは参りましょう。」
私たちは彼の後について飛空挺に乗り込んだ。
飛空挺……
この『ヴァナ・ディール』には
徒歩・チョコボ・船・飛空挺と数種類の魔法が、交通手段として用いられている。
とくに飛空挺は特殊で水上と空二つのルートで乗客を運ぶことが出来る。
まぁ殆どが、空のルートを取るのだが……取りあえず私は甲板に上がってみることにする。
まぁ見た感じ数個のでっかいプロペラが付いてるだけで、そこいらの船と外観はかわらない。
何回か飛んでいるところを見たことはあるのだが、乗ったことは一度もなかった。
どんな感じなのか少し興奮はするのだが……
「そろそろ出航いたしますので、船内に戻られてください。」
乗務員さんに連れられ、私は一旦船内に戻ることにした。
「では出航いたします。気分が悪くなられた方は私までご連絡ください。」
乗務員さんの言葉とともに例のサイレンが鳴り響く。
橋が跳ね上がる。飛空挺が水上を走り始めた。
数分後、体に少し負担がかかり始める。何か重い物がのしかかったみたいに……そしてそれはすぐにおさまった。
「もう飛んでるんですか?」
私は使いの人に聞いてみた。
「ええ、飛んでますよ。ジュノまでは二時間で到着します。」
二時間?そんなに早くつくのか……
チョコボつかっても二日はかかると思うけど……
「あの〜上あがってみてもいいですか?」
私は船内の天井を指差しながら使いの人に聞く。
「甲板は危険ですので、機長室に案内いたしましょうか?外の景色が見れますよ。」
私は機長室に案内してもらうことにする。
「二人は行かないの?」
ショーテルとロッドに一緒に行かないかと尋ねたのだが
「そんな気力ありません。」
ぷぅとほっぺを膨らましむくれている、ショーテル。
「あんだけ魔法唱えまくって平気なのネーちゃんくらいだよ。」
とロッドは力なく私に言い返す。
「化け物。」
二人はボソッと同じ事を言う。
むかっ
「静寂」
私は二人にサイレスをかける。
「むがむがむがむ〜」
まともに口が聞けなくなる二人。
「ひと言多い。」
私は二人にそう言い放ち、機長室へ言ってくると伝える。
むがむが言ってる二人を後に機長室へ案内してもらうことにした。
そこには機長と副機長が船の操縦を任されていた。
周りはガラス張りで外の景色が見渡せる……山の上を通り過ぎようとしている……人やモンスターが蟻のように小さい……本当に飛んでるんだ。
「すご〜い。」
私の声に副機長が振り向き、
「君が、英雄の娘さんかい?」
私はぺこりとお辞儀をして、
「お世話になります。」
と軽く挨拶をする。
すると副機長さんは私を見つめながら
「ジュノは人が多いからビックリするよ。」
とひと言
『ジュノ』
カムラナート大公が納めるかなり大きい国。
各国への交通ルートの中心になっているので、冒険者の数の多さが、半端ではないそうだ。
そしてその国の中にあるル・ルデの庭に大公の館があるらしい。
「あんた可愛いからナンパされんように気をつけなさいよ。」
そういうと副機長さんは席へ座られた。
「もうすぐジュノに到着するから船内に戻りたまえ。」
機長さんは私ににこやかに話しかける。
私は又深々とお辞儀をし船内に戻ることにした。
更に真相に近づいた……この先一体何があるのか分からないが、真相を暴いて、皆の無念を晴らしたい。
私は船内に戻り、到着に備えることにした。
『ジュノ大国』
『下層部』『上層部』『飛空挺乗り場』そして 『ル・ルデの庭』
四層の区間に分かれている大きい国で、冒険者制度にワーパー制度をいち早く用いた国でもある。
ワーパー制度がなかった時代、殆どの冒険者が金の欲望にとらわれていた。私利私欲のために、剣を振るい魔法を使う冒険者たち。
ワーパー制度とは一部の優れた冒険者や、私のように生活難の人間に与えられた制度である。
だが適正な試験をパスしなければ、この制度は受けられない。だが、今もその欲望に勝てず彷徨い歩くのがアイダーである。
私はいつまでこの仕事を続けなくてはならないだろうか……
十七.(第一部最終章)
ジュノのポートに飛空挺が着水する。
桟橋によせられる飛空挺。
船員さんたちはフックにロープを繋ぎ止めている。
私たちは飛空挺から降りる準備をする。
「何か外が騒がしくないですか。」
ショーテルが船内の窓から外を覗きながら手招きをしている。
確かに騒がしいのだが、これが普通なんじゃないのか?大きい国だし……
私もショーテルが覗いていた窓から外を眺めてみる。
「なによこれ。」
外には撮影用の複写装置を抱えた報道員がわんさか……ひょっとして私が来るのを待っていたのか?
だとしたらこのまま出て行くのは非常にまずい。
「参りましたねぇ。」
使いの人もこの状況に困っている。
もうこれしかないな……可愛そうだけど仕方ない。
私はショーテルとロッドを呼んで耳打で作戦を伝える。
「嫌です絶対にいやぁー」
「おいらも反対。」
二人とも大ブーイングである。
「しょうがないでしょ。これしか良いアイデア浮かばなかったんだから。」
そしてちょっと目を潤わせながら、
「お願い、もう少しで親父に会えるの。」
私の悲しそうな芝居を見てか、しぶしぶ二人はOKしてくれた。
結構騙されやすいタイプなんだな。この二人は……私の考え……只単に二人に船から下りてもらうだけ。
囮になってもらうのだ……恐る恐る船を降りる二人。
案の定……揉みくちゃにされている……もはや、報道員の波にのまれて姿が見えない。……数分後、ぞろぞろと入港口に向かう報道員たち。
どうやら、諦めてくれたらしい。
「死んでませんよね?お二方。」
「だいじょうぶでしょ?さあ、行きましょう。」
私は冷たい視線を感じながらも船から降りる。
報道員が群がっていた場所に横たわっている二人。
しかもぴくぴく痙攣を起こしてるし。
「だから嫌だって言ったのにぃ。」
「おっおいらもう駄目、死ぬ……」
二人とも仰向けにぶっ倒れ、全身足跡だらけ……
「はいはい、いつまでも寝てないで立った立った。」
ぱんぱん手をたたき無理やり立たせ入港口を目指す。
「鬼……」
「悪魔だわ……」
完全に二人はふてくされている。
使いの人もこれには流石に苦笑いしている。
私は気にすることなく入港口の扉を開け、中に入ると室内の受付テーブルで背もたれしているセイバーの姿があった。
「お勤めご苦労さん。団長。」
「上手く播けましたか?報道員の方々は。」
「ええ、サンドリア行きのポートに陽動したから大丈夫ですよ。」
「では後はお任せしますね。」
使いの人はそう言って、ポートから出て行った。
「団長?」
さっきの使いの人が、そうだったのか?
「まあ、いろいろとあってね。理由は歩きながら話そう。大公も君が来るのをまってるしね。」
そして私たちはジュノに入国手続きを済ませポートから出ることになった。
「うひゃー。」
私はあまりの人の多さに、驚愕の声を上げる。殆ど歩行者天国並みで、まともに歩けない状態だ。
そんな私とは裏腹に三人はスイスイ人の波を避けつつ歩いている。
「ちょっと待ってよ。」
私は三人を呼び止めた。
「田舎もんはこれだからねぇ。」
「まったくよねぇ。」
ロッドとショーテルは私を横目で見つつニヤニヤしている。
うぅ、さっきの仕返しのつもりか……悔しいけど言い返せない……くそっ
「慣れてないからしょうがないか。んじゃゆっくり行きますか。」
セイバーは一旦私のいるところに戻ってくれた。
「さっき言ってた団長って?」
私は彼に理由を聞くことにする。
セイバーたちはある冒険者の団体に入団していた。
冒険者たちは、多人数で団体を組みそこで各国々の情報をやり取りしている。
その団体の中で皆仲間を募って冒険に出るのである。でその団体の設立者が団長になるわけなのだが……
「なんで団長さんが使いに?」
もともとジュノのバストゥーク大使館から使いが来る予定だったが、緊急事態でデルクフの塔の調査の依頼を大公から命じられたらしいのだ。
セイバーも調べ物で手が離せず、急遽手が空いていた団長に頼んだというのだ。
「調べ物って何調べてたの?」
セイバーが調べたところ……偽の報告書は大公直筆でサインもあったのだが、筆跡鑑定したところ、大公が書いた物ではないことが分かったらしい。
じゃあ例の偽の報告書を誰が書き、村に届けたのか……
「で、犯人は分かった?」
「いや、まだそこまで行き着いてない。」
彼の言葉に少し肩をおとす。
「でこっちが本物の報告書の内容だ。」
私は彼から書類を手渡される。
その内容とは……『英雄の活躍を称え村の再建費用の資金を与える』という内容だった。
「やっぱりお金が絡んでたのか。」
持ち逃げされたのだ、誰かに……
「何それ、酷すぎる。」
ショーテルの口が開いた。
「とにかく謝罪がしたいらしい。急いでル・ルデの庭に行くぞ。」
セイバーが再び歩き出した。
慌てて遅れまいと私も歩き出す。
まぁ大体の予想は、以前宿で食事していた時に分かっていたから、さほど腹が立たなかった。
……謝罪かぁ……でも大公が悪くはないんだし……
少し大公に面会するのに躊躇している私だった。
第一部完