幾つの夜を乗り越えたとしても凄惨な過去から逃れることは出来ない。
背後の闇は未来を進む者さえ呑み込もうと迫るもの……
これは紅魔の館に仕えるメイド……"十六夜咲夜"の物語
>>1 世界観と注意
>>2 異変キャラ
お嬢様達を開放しなさい・・・・・
(咲夜は零夜を睨みつけながら、レミリア達を開放するようにと忠告する・・・・・
しかし、零夜が咲夜に殺意を抱くのとは裏腹に、咲夜は零夜とは和解したい気持ちもある・・・・・
咲夜は戦いを目前に、どうすればいいのかわからなくなっていた・・・・・)
零夜
「いいだろう……ただし、この俺を倒せたら……の話だがな。」
【「静止する時()」】
先程のやり取りの中でレミリアに語ったように、零夜の中にはまだ迷いや躊躇いが残っていた。でなければわざわざ館の空間を操って咲夜を飛ばさずに最初の段階で彼女の首を斬っていればそれで終わっていただろう。
だが、その迷いや躊躇いがある反面、憎しみや復讐心だけを支えに零夜は生きてきた。もはや、どちらかが命を落とすまで止まることは出来ない。
零夜は手にした銀の懐中時計のスイッチを押し、周囲の時の流れを完全に静止させる灰色の波動を放ち、更に左手の掌に銀製の短剣を召喚してそれを咲夜に向けて投擲する事で仕留めようとする。
あら、気が合うじゃない・・・・・
ヒュッ・・・・・!
(咲夜は投げられた短剣を回避すると、ナイフを6本取り出し零夜へ向けて投げる・・・・・
零夜同様、咲夜にとってもこの戦いは後戻りできない戦いであり、同時に過去の過ちに対する回答と終止符を打つ戦いでもある・・・・・)
零夜
「なるほど、時間停止はやはり効かない……か。」
停止した時の中でも此方の投擲した短剣を避け、咲夜がナイフを投げるのを見て、やはり同じ時間操作能力者同士だと互いに相殺し合うのだと言うことを理解すると、今度は右手に十字架を連想させる銀の長剣を召喚して投げられたナイフを全て弾き飛ばしながら、此方からも距離を詰めるべく駆け出す。
駆け出すとそのまま手にした長剣を勢いよく前へ突き出し、そのリーチを活かした高速の突きによって咲夜の体を刺し貫こうとする。
・・・っぐ・・・・・!
ガッ・・・・・!
(零夜は咲夜への復讐心から来る純粋な殺意によって容赦のない一撃、対する咲夜は主達を救う為とはいえ、零夜のように敵対者に殺意があるわけではないからか、やはり少し動きに躊躇いがある・・・・・
咲夜は攻撃を瞬時に回避しようとするが、右腹部辺りの服の生地を裂かれ、皮膚をかする・・・・・
かすったところはわずかながらに切り傷になり、血が出る・・・・・
咲夜は片足を振り上げ零夜に反撃をする・・・・・)
零夜
「……ふん、今回は逃げないんだな?」
零夜は突きを避けられ、反撃として繰り出された蹴りに対して自分の左手を盾のようにして相手の脚にぶつける事でその威力の軽減を行いながら、「今回は逃げ出さないんだな」と皮肉を呟く。
そして、更なる追撃として突き出した右腕を横へ払う事で手にした長剣による薙ぎ払いをする。先程の咲夜の蹴りを敢えて受けたのはこの斬撃を当てるためであり、これこそが本命の攻撃となっている。
ザッ・・・・・!
ぅぐ・・・・・!
(零夜の斬撃を回避しようとするが、反応が遅れて腕に長剣が突き刺さる・・・・・
そして、今回は逃げないんだなという零夜の問いに対して「えぇ・・・・・そうね・・・・・今の私は逃げない人間になったの・・・・・」と返す・・・・・)
零夜
「……そんなにあの妖怪共が大切なのか?」
零夜の振横薙ぎに振るった長剣が左腕に深々と斬り込み、骨にまで到達すると、ここまで身を挺してまで妖怪…つまりはレミリア達が大切なのかと問い、刺さった長剣を勢いよく引き抜く事で 咲夜の左腕を切断しようとする。
グッ・・・・・!
当たり前でしょ・・・・・私の大切な家族よ・・・・・
(咲夜は長剣の刃の部分を握り、ググッと力を込めて切断は免れようとする・・・・・
そして、零夜のあの妖怪共が大切なのかという問いに対して、咲夜は大切な家族であると返す・・・・・
咲夜からすれば、レミリア達はかけがえのない存在であることがわかる・・・・・)
零夜
「戯言を……ぬかすなッ!!!」
《シャッ》
零夜は長剣の刃を掴んで引き抜くのを阻止した事に対して驚くものの、直ぐにそれを遥かに上回る"憎悪"が零夜の心を支配していく……
自分よりも先に時間操作能力を開花させていたにも関わらず、自分や家族を見捨てて一人逃げ出した姉が……あろうことか妖怪を守るためにその身を挺しているのだと言う事が零夜の心を復讐へと駆り立てる。
咲夜の顔を蹴り飛ばして剣を引き抜こうと、床を蹴って少し飛び上がり、そのまま体を捻って遠心力を込めた回し蹴りを放ち、相手を蹴り飛ばそうとする。
遅いっ・・・・・!!!!!
(咲夜は零夜の蹴りを避けると、そのまま自力で長剣の刃を引き抜いて零夜へと無数のナイフを投げつける・・・・・
今の家族を馬鹿にされている以上、咲夜も黙ってはいられない・・・・・
咲夜も徐々に攻撃することへの躊躇は消え始めている・・・・・)
零夜
「俺はお前を消すために生きてきた……そのために俺は復讐以外の全てを捨てて来た……何も失っていないお前とは覚悟が違う!!」
意思の強さは戦う強さへと変わる……
零夜の場合は姉への復讐、その一念のために人間らしい心も、友も、仲間も、復讐を成すための力以外の全てを捨てて来た……それが零夜が自分では止めることが出来ない理由になっている。
自分とは対称的に新しい居場所や家族、仲間を得た咲夜に劣る理由がないと言い、ほぼ至近距離であった事からナイフを取り出そうとする咲夜に対して、回し蹴りが空振りしたものの、その勢いを利用して空中で更に一回転して咲夜の手を蹴り飛ばしてナイフを叩き落とそうとする。
笑わせるんじゃないわよっ・・・・・!!!!!
(咲夜は零夜の蹴りを受けながらも、更に瞬時に別のナイフを取り出して至近距離で投げつける・・・・・
咲夜だって今の今までレミリア達とただただ幸せな毎日を送っていたわけではない・・・・・
それこそ、レミリアに拾われるまでは地獄のような日々も生きてきた、拾われる前も後も、時間停止能力を持ちながらも家族を救えなかったことをずっと心の闇として秘めながら生きてきた・・・・・
なんなら、救えたはずなのに救えなかった咲夜からすれば、零夜よりも心の闇は深いのかもしれない・・・・・)
零夜
「それは俺の台詞……だ!!」
ナイフを投げられるものの、蹴りや欧打が当たる程の至近距離では投擲による優位性は殆ど無く、咲夜の手を蹴ってナイフを弾き飛ばすと、地面に着地した瞬間にそのまま地面近くにまで姿勢を落とす事でナイフを避けると同時に、彼女に対して足払いを仕掛けて転倒させようとする。
一度転倒してしまえば、再度起き上がるにせよ、床を転がって避けようとするにせよ、零夜の持つ長剣による斬撃を回避する事が困難になってしまうだろう。
なっ・・・・・!?
(零夜の思惑通り、咲夜は足払いを仕掛けられて転倒する・・・・・
咲夜は家族を囚われているということから零夜に対する怒りの感情は抱いているものの、零夜が咲夜に対して抱く恨みの感情はそれをもはるかに凌駕するということの証明にもなっている・・・・・)
零夜
「俺がどんな思いでこれまで生きてきたのか……どんな人生を歩まされて来たのか……お前には想像する事さえ出来ないだろうな!!」
《ヒュオッ》
足払いが成功し、転倒した咲夜に対して零夜はこれまでの生について口にする……
奴隷として生きてきた人生……能力を開花させて奴隷でなくなってからも安息の地など無く、闇の狩人として様々な苦痛や恐怖、絶望を味わって来たのか等、咲夜には想像する事すら出来ないだろうと言うと、右手に握った長剣を振り下ろし、倒れた咲夜の体を両断しようとする。
パチュリー
「…………ッ!これは………?」
咲夜と零夜が戦いを繰り広げている中、パチュリーは自分の体に刺さり、魔力を封じている魔封効果が込められた銀のナイフの柄を掴み、激痛に耐えながらもゆっくりと引き抜く。すると、そのナイフから違和感が感じられ、その違和感の正体が何なのかと勘繰り始める。
既にナイフは抜けたものの、まだ魔力は回復しておらず、完全に回復しきるまでには到底日の出には間に合わないため、フランを閉じ込めた時のように雨を降らせたり、空を雨雲で覆うことは出来ない。
二人の戦いに自分は介入することは出来ない……
時間操作が出来ない自分が零夜へ反撃しようとしてもかえって足手まといになってしまう事が目に見えているからだ。
ガッ・・・・・!
ぐっ・・・・・!
(咲夜はナイフを取り出し、刃の部分で長剣の刃をなんとか食い止めるが、ナイフの刃と長剣の刃では圧倒的な差があるが、何が何でも負けられない咲夜は必死に抵抗する・・・・・
そして、
パチュリーがナイフを引き抜いたのを見ると「パチュリー様!ナイフをこっちへ・・・・・!」と叫ぶ・・・・・)
零夜
「剣にナイフが勝てると思っているのか?」
零夜はナイフの柄
だが、幾ら振るいやすさを重視して軽量化されているとは言え、ナイフと長剣とではその単純な質量に差がありすぎる上に、床に倒れた状態で腕力しかまともに使えない状態の咲夜と長剣を振り下ろしている事で単純な腕力に加えて剣の質量や体重も攻撃に乗せることが出来る零夜とでは力を込められる姿勢や態勢にも大きく差を付けられてしまっている。
パチュリーも咲夜の呼び掛けに応えて魔封じのナイフを投げ渡そうとするが、この状況を打破し、零夜の注意を逸らす事が出来なければ容易く避けられてしまうだろう。
・・・っ・・・・・私・・・・・は・・・・・負けられな・・・・・
ズブッ・・・・・
ぁ゛・・・・・
(咲夜の体に、長剣の刃が深々と突き刺さる・・・・・
どんなに負けるわけにはいかないという強い意志があったとしても、長年に渡って募った復讐心を前にしては、力が一歩及ばないということの証明なのかもしれない・・・・・)
零夜
「………終わりだな。」
零夜は復讐を成し遂げられるという事への喜びも嬉しさも何も宿っていない、どこまでも冷たい無感情な顔をしたまま、咲夜のナイフの柄を貫いた長剣を更に押し込んで彼女の体を貫こうとしていく……
どれだけ時間を操れると言う規格外の能力を持っていようとも、人間である事に変わりはない……傷や怪我をすれば簡単には治らず、失った手足が戻る事もない……一つの傷や怪我が致命傷となりうる人間だ。
パチュリー
「………ッ!(防御魔法を……!いえ、それでは間に合わない……回復魔法をしようにも剣が刺さってしまっては意味を成さない……それ以前に今の私に魔力は残されていないし、このナイフを投げたところであの時使いに阻まれるのは確実……打つ手が……無い………)」
パチュリーは脳内に様々な打開策や救出方法を模索するものの、いずれにしても今の状況を打破しうるようなものは見付からない……
・・・・・
(咲夜の手は力なく崩れ、長剣の刃が容赦なく体を貫く・・・・・
咲夜はもう抵抗もしない・・・・・いや、できない・・・・・
長剣が刺さった場所からは、血が流れ続けている・・・・・)
零夜
「………残りは1時間20分か。
ここまでに相当の魔力を消耗したが……これでもう俺の時間操作に対抗できる奴もいない。このまま館内にいる奴らも殲滅しておくか……」
咲夜の体を貫いた長剣をそのまま床に刺して串刺しの状態にすると、懐から銀の懐中時計を取り出して日の出までに残された時間を確認し、咲夜の名を叫ぼうとしたものの、ナイフによって受けた傷によって大声が出せなくなっており、呻くような声をあげるパチュリーと、銀の鎖によって十字架に磔にされたレミリアとフランの三者の様子を見る。
そして、三者をまとめて始末しようと三人の頭上に召喚魔法を展開し、そこから銀の大剣を呼び寄せ、それを落とす事で三人をまとめて貫こうとする……
???
「………ッ!!
今の私だけでは……この結界を壊せない……」
零夜が幾重にも渡って張り巡らせた巨大にして強固な結界。
紅魔館の正面門の前では幾度も激突した後があるものの、結界が破壊できるまでには及ばず、己の無力さにうちひしがれている者が一人いた……
自分一人だけではこの壁を壊して助けに向かうことは出来ない……
だが、博麗の巫女ならばこの結界を解除して助けに向かうことが出来るようになるかもしれない。
???
「レミリア……フラン……待っていて………」
脳裏にはレミリアとフラン、そして館の住人達の事が次々と過り、歯を強く食い縛り、巫女の元へと向かって飛び去って行く……
かつてヴァルターの暴力や支配から二人を守ることが出来なかった……その過ちを再び繰り返す訳にはいかない。
レミリア「・・・・・アンタは、必ず地獄に堕ちる・・・・・」
フランドール「・・・・・消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」
(レミリアとフランドールの二人は咲夜を長剣で突き刺した零夜を睨みつけながら、抵抗も何もせずにただただ罵声を浴びせる・・・・・
今この時、自分達を救うべく動いている者がいるということも知らずに・・・・・)
零夜
「地獄……か。ならば死した妖は何処へ行くのだろうな?」
《バチンッ》
レミリアとフランの二人の言葉を聞き、ならば完全に死亡した妖怪は何処へ行くのだろうと呟くと、零夜は指を鳴らす。
するとそろを合図として三人の頭上に召喚した大剣が三人の心臓目掛けて落ち始め、咲夜と同じように串刺しにしようとする。
カチッ・・・・・
(突然、レミリア、フランドール、パチュリーの三人を亡き者にするために召喚した大剣が三人に直撃する寸前でその動きを止める・・・・・
零夜ならば・・・・・いや、零夜だからこそすぐにわかるような、この謎の現象の正体は・・・・・)
零夜
「…………!!」
日の出を待つこと無くとも、決着は既についた。
体を貫かれ、絶命したであろう咲夜ではもう何も出来ず、咲夜以外で時間を操れる自分に対抗できる者はいない。
そう考えていた最中、突如として自分以外の者による時間停止が発動される……咲夜も人間だ。体を貫かれて尚、生きている事など出来ず、どれだけ強い能力を持っていようとも死してしまえば無力となる。
その筈であったにも関わらず、時間停止が成されている事に驚愕し、停止した時の中で左手に長剣を握ったまま何が起こったのかと咲夜の方へ振り返る。
ポタッ・・・・・ポタッ・・・・・
はぁっ・・・・・はぁっ・・・・・!
(零夜が振り返ると、咲夜は自分の体へ突き刺さっていた長剣を抜き取り、刺さっていた場所を左手で押さえながら右手で長剣を構える・・・・・
零夜の原動力が咲夜に対する復讐心ならば、咲夜の原動力はレミリア達に対する愛だろうか・・・・・)
零夜
「馬鹿な……確かに体を貫いた筈だぞ?お前……まさか人間を辞めているのか?」
人間の生命力や再生力では体を貫かれた状態で立ち上がることなど、まして能力を使うことなど到底出来ない……だとしたら考えられる可能性は一つ。咲夜は既に人間を辞めて吸血鬼にでもなっているのだろうか?
……ならば此方も相応の戦法を取るまで。
零夜は軽く一回転し、その遠心力を乗せて右手に持った長剣を振るい、魔力を具現化させた横薙ぎの巨大な斬撃を放つ。
ガッ・・・・・!!!!!
(咲夜は手負いの状態でありながらも、素早い動きで零夜の斬撃を避け、そして背後に回り込みさっきまで自分の体に刺さっていた長剣を振るう・・・・・
そして「私は人間をやめちゃあいないわよ・・・・・昔も、そして今も、失うことが怖いただの人間よ・・・・・」と、今は今この時、レミリア達を失うかもしれないことだろうが、昔というのは家族を助けられなかった時のようにも聞こえる・・・・・)
零夜
「なら……あの状態からどうやって助かったんだ?確実にお前の体を刺し貫いていた筈だ。」
背後に回り込んだ咲夜を見て右手に持っていた長剣を振り向き際に振るい、咲夜が振るった剣と激突させて相殺しつつ、右足を咲夜の左横腹目掛けて蹴り出して鍔迫り合いにもさせずに一気に斬り伏せようとする。
さぁ・・・・・ね・・・・・私にだって・・・・・わからないわ・・・・・
ヒュッ・・・・・!
(咲夜は零夜の攻撃を再び避けると、ナイフを零夜へ向けて投げつける・・・・・
零夜の頬をナイフがかすり、鮮血が一滴滴る・・・・・
自分でもここまで手負いの状態で何故戦えているのかがわからないが、まだ戦えるのであれば、何としてでもこの戦いに終止符を打ちたい・・・・・)
零夜
「……そうか……お前は人間を捨てたか。」
零夜の繰り出した蹴りは咲夜を前に空振りに終わり、同時に距離を取って咲夜が投げたナイフを零夜は回避したは良いものの、自身の頬に掠り、傷口から血が垂れると、それを左手の袖で拭う。
零夜
「ならば………俺も人間である事を捨て去り、完全なる殺戮と破壊の化身と化そう!!」
姉の咲夜は人間である事を捨てたのだと判断すると、零夜は左手の掌の上に召喚魔法陣を展開し、そこから黒い血液が入った小さな注射器を取り出す。
その黒い血液から感じられるおぞましく、禍々しい闇の魔力から、レミリアとフランにとって最悪の象徴とも言えるあの"ヴァルター"の血液である事が即座にわかるだろう……
・・・っ・・・・・!?
(零夜が掌に召喚したものが予想外過ぎるものだったため、咲夜は言葉を失う・・・・・
もしあれを注射してしまえば、零夜を本当の意味で救い出すことはできなくなってしまう・・・・・
どんなに敵同士だとしても、やはり血の繋がった実の弟・・・・・死なせたくはない・・・・・)
パチュリー
「させる訳がないでしょ……!」
【「ウィンターエレメント」】
零夜がヴァルターの血を取り込んでしまえば殆ど壊滅状態にある現在の紅魔館のメンバーでは対抗する手段がないと判断したパチュリーは自分の傷や怪我を回復する事よりも零夜の妨害を選び、床に右手を付けて水柱を立ち上げる事で零夜の左腕へ攻撃を加えて彼が持つヴァルターの血が入った注射器を吹き飛ばす。
零夜
「………ちッ!まだ生きていた……!!」
《シャッ》
零夜は吹き飛ばされた注射器の代わりに手元に短剣を生成してそのままパチュリーの眉間目掛けて正確に投げ、咲夜の代わりにパチュリーから先に仕留めようとする。
カチッ・・・・・
ヒュッ・・・・・!
(咲夜は時を止め、パチュリーに向けて投げられたナイフを停止させると、そのままそのナイフを握りしめ零夜の腕へめがけて思い切り投げる・・・・・
時が止まっていようとなかろうと、零夜と咲夜には関係ない、ここからは両者共に手加減なしの死闘である・・・・・)
零夜
「どこまでも邪魔をするつもりか……!!」
咲夜が時を止めようとも零夜はその影響を受けず、咲夜もまた零夜による時間停止の効果を受けないようになっており、静止した時間の中で投げ返されたナイフを避けて柄を掴むとそのまま咲夜目掛けて投げ返す。
そしてパチュリーの展開した水柱によって吹き飛ばされた注射器の方を確認するとそれを目指して飛翔する。ただでさえ現時点でも苦戦が免れない零夜が吸血鬼となってしまった場合、その戦闘力がどれだけ跳ね上がるのかは想像に難しくは無い……
させないわよっ・・・・・!!!!!
グォッ・・・・・!
(咲夜は飛んできたナイフによる攻撃は受けずに掴むと、そのままナイフを忍ばせて走り始める・・・・・
そして、零夜に追いつくとそのまま腹部へと拳による強烈な一撃を入れる・・・・・
この注射器を打ってしまったが最後、もう取り返しのつかないことになるのは明白である以上、どんな手段を使ってでも阻止しなければならない・・・・・)
零夜
「………ぐッ!」
注射器さえ手に入れてしまえば即座に殲滅する事が出来ると言う事や、先程までまともにダメージを受けていなかったと言うと例えば慢心から高速で追い付き、拳を繰り出した咲夜の一撃に対する反応が遅れて咲夜のボディーブローが直撃し、追撃のチャンスが生まれる。
アンタの好き勝手にさせないわよ・・・・・!!!!!
ズブッ!!!!!
(咲夜はボディブローに続いて、零夜の右肩へ向けて先ほど零夜が投げてきたものの、簡単に掴み取り忍ばせたナイフを深々と突き刺す・・・・・
追撃のチャンスが生まれた以上、なるべく深手を負わせることで動きを鈍らせた方がこちら側が少しでも有利になりうる・・・・・)
零夜
「…………!!!」
咲夜が取り出したナイフが零夜の右肩に突き刺さり、右手に持っていた長剣を落とし、消失し、確固たるダメージを与える事に成功するものの、零夜は左腕で接近して来た咲夜に対して体内からダメージを与えようと掌底を打ち込もうとする。
ドゴッ・・・!!!!!
諦めなさい・・・・・アンタは絶対負けられないんでしょうけど、それ以上に私は絶対に負けられないのよ・・・・・
(咲夜は零夜の掌底打ちを避けると、再び零夜の腹部へとボディブローを入れる・・・・・
零夜へ初めてダメージと呼べるようなダメージを与えられた今、この戦いを終わらせるなら今しかない・・・・・
最初は弟に対して攻撃することを心のどこかで躊躇いがあったものの、今はもう容赦なんて必要ないと判断し、手加減無しで攻撃を仕掛ける・・・・・)
零夜
「ぐッ……!!
図に……乗るな!!!」
掌底零夜は咲夜による追撃を受け、更にダメージを受けると反撃として魔術式を展開し、自分を中心とした周辺に青い爆炎を解き放ち、接近した咲夜をそのまま焼き尽くそうとする。
カチッ・・・・・
ズゥッ・・・・・!
ちょっとダメージを受けた程度で、随分と取り乱すのね・・・・・
(咲夜は先ほどのように時間操作で炎が放たれる前まで戻すと、零夜の左足へとナイフを投げ、深々と刺さる・・・・・
守るモノがある咲夜からすれば、ちょっとやそっとのダメージは跳ね除けてしまうぐらいに信念があるものの、守るモノもなければただただ復讐の鬼と化した零夜は、ダメージを受ければ受けるほど復讐計画に揺らぎが生じて今この時のように攻撃を受けやすくなっている・・・・・)
零夜
「不意を突かれて動揺していただけだ。だが、奇跡はもう二度と起こらないぞ?」
零夜にはまだ自分の肉体の時間すら操るだけの力がまだ残っているのか、右肩に突き刺さったナイフを抜き取って投げ捨てると傷口に手を当てながら咲夜の投げたナイフを避け、自身の肉体の時間を遡ることで無傷の状態にまで自己回復していく。
零夜
「……どうやら俺はお前を些か過小評価していたようだ。もう油断も慢心もしない。お前に確実な死をもたらすまで手を緩めもしない。……本気で行こう。」
《ゴオォォォォォォォォォォォォォォォッ》
その宣言の通り、零夜の眼から優位性を確保していた事から来る油断や慢心が消え、純然たる殺意の炎だけが渦巻き始め、ヴァルターの血を取り込む事すら脳裏から排除し、眼前にいる咲夜を仕留める事だけに専念し始め、零夜の放つ魔力の質がより充実し、彼が青く揺らめく炎のようなオーラを纏う。
零夜は両手に長剣を召喚し、更に召喚した長剣に燃え盛る青炎を纏わせ、剣に切り裂かれた際のダメージを跳ね上げ、傷口や断面を焼くことで一撃ごとに致死のダメージを負わせやすくしている。
戦闘に専念するようになった零夜の戦闘力は先程までとは比較にすらならないだろう……ここからが二人にとっての正念場であり、互いの生死を決定づける事になる。咲夜も、零夜も、先に致命傷を負った方が敗北し、命すらも失う事を意味している……
夜明けまで残り一時間……
因縁と宿命、因果の果てに退治する二人にとっての本当の死闘が幕を開ける……
そう・・・・・わかったわ、お互い本気でやりましょう・・・・・
(そう言うと、咲夜も目が今までとは違い、零夜に対する殺意が混じり始める・・・・・
だが、咲夜は心のどこかではまだ、零夜と和解してまた一緒に過ごしたいという気持ちもあるのか、表情は少し複雑そうにも見える・・・・・)
零夜
「………………。」
沈黙したまま零夜の赤い瞳のある左目に青白い魔法陣が現れ、先制攻撃として咲夜の足元から巨大な青い炎の柱を立てる事で防御や回避に回らせる事で先ずは咲夜の動きを制限して体勢を崩させようとする。
仮にも血の繋がった姉弟よ?ナメないでもらいたいわね・・・・・?
(咲夜は零夜の攻撃を先読みしたものの、それでも間一髪で炎の柱を避けるとそのままナイフを投げる・・・・・
零夜と咲夜、元は同じ時を刻んでいたはずの二つの秒針は、再び止まった時の中で動き出す・・・・・
それこそ、本当の意味で時が止まるまで、止まることは無い・・・・・)
零夜
「……血の繋がった姉弟、か。
今となっては忌むべき宿命にしか聞こえないな!!」
零夜は立ち上げた炎の柱を回避した上でナイフを投げて反撃してきた咲夜を見て、姉弟と言う関係さえも今となっては憎悪を駆り立てるだけのものとなってしまっていると応え、向かってくるナイフを手にした青炎を纏った長剣で弾く。
すると、停止した時間の中でも燃焼する効力を持っているのか、弾かれたナイフが青炎に包まれ、溶けて消えていく……
更に零夜は双剣の利点を最大限に活用すべく、近接戦闘へと持ち込むべく距離を詰めようと飛翔し、両手に持った長剣を交差させるようにして振り下ろす。
ジッ・・・・・
ぐっ・・・・・っ・・・・・!
ズザッ・・・・・!
(零夜と比べれば、武器も攻撃手段も幾分か劣る上にかなりの痛手を負っているからか、咲夜は息を切らしながら零夜の攻撃への反応が遅れ、長剣が咲夜の服をかすり、わずかだが服を焼く・・・・・
炎が移った部分は破って何とかするものの、体力の面に関しては、これはどうにもできない・・・・・)
零夜
「避けているだけでは何も変わらないぞ?」
零夜は今度は咲夜に向けて右手に持った長剣を横薙ぎに振るって一撃を放ち、続けて左手の長剣を振り下ろして二撃目を放ち、二つの斬撃を繰り出して猛攻を仕掛けようとする。
零夜が振るった剣は青炎を纏っているため、剣が振るわれた箇所には数秒間、青炎が残存し、ジワジワと逃げ場さえ奪っていく…
くっ・・・・・!次から次へとっ・・・・・!
(咲夜は息を切らしながら攻撃を避け続けるものの、確かに零夜の言う通り、避けているだけでは現状は何も変わることは無い・・・・・
だが、それは咲夜自身も一番わかっていることであり、零夜がヴァルターの血を取り込むことは何とか阻止できてはいるが、それ以外は追い詰められているという状況が続く・・・・・)
零夜
「どうした、俺を倒すんじゃなかったのか?」
零夜は両手に持った長剣を振るい続け、息もつかせぬような苛烈な攻撃を繰り出し、双剣と言う手数と長剣のリーチ、数秒間は青炎が斬撃の軌道上に残ると言う圧倒的な戦力によって咲夜を追い詰める中、失われた過去が回想となって蘇る……
幼少期の零夜
「姉さんは強いですね!
僕も姉さんみたいに強くなって皆を守れるようになります!!」
咲夜の記憶の中にあった零夜は自分も姉のように強くなって皆を守りたい、全てを守れるぐらい強くなりたいと願っていた……いや、信じていた。
彼もあの襲撃さえ無ければ哀れな復讐者にならず、自分の信じるもの、大切なモノを守る守護者になれていたかもしれない。
零夜は全てを失い、レミリア達と出会うことが出来ずに絶望と苦痛の闇をさ迷い続けたもう"一人の咲夜"であるとも言えるだろう……
零夜
「お前が守ろうとしているモノも……お前の帰るべき場所も……全て奪い尽くしてやる……!!」
だが、あの襲撃を境に彼の身にどれだけの不幸が降りかかったのか……
その地獄のような日々は彼の思想や性格を冷酷な復讐者へねじ曲げてしまっているようで、今の彼の中には憎悪と復讐しか残ってはおらず、かつての彼の面影は最早残っていない……
零夜は決着を付けようと右手に持った青炎を纏い青い光を放つ長剣を勢い良く突き出して咲夜の心臓を貫こうとする。
幼少期の咲夜「私だってまだまだだよ!もっともっと強くならなくっちゃ!」
(過去の記憶も、血の繋がりも、今は全てが零夜の復讐心と憎悪の源となっている・・・・・
かつて強くなってみんなを守れるような人間になりたいという目標を持っていたあの頃・・・・・よりにもよって一番守りたい家族を襲撃されながら、恐怖のあまりに能力を有効活用することすらできずに逃げ出したあの日・・・・・
あの日から自分は、姉ではなく、零夜の性格を捻じ曲げることになった原因の一つでしかなくなったのだと、お互いの秒針は動かなくなったのだと、今更ながらに気づいた・・・・・)
ズブッ・・・・・
___・・・・・
(時が止まったかのように、その瞬間、音が消える・・・・・
いや、正確には、音が消えたかのような錯覚をするほどに、目の前の動きがスローに見える、と言った方が正しいだろうか・・・・・
咲夜の体を貫いた長剣は、青い光を放ちながら、今一度、咲夜の時を奪おうとする・・・・・)
零夜
「俺にはもう守るモノも帰る場所もない……お前も……お前も同じ苦痛を味わえ!!!」
零夜の顔は激しい憎悪と殺意に満ちている……だが、その顔には何処か深い悲しみが潜んでおり、彼の放つ言葉には戻ることの無い過去、失われた過去への後悔と絶望が秘められており、咲夜の体を貫いた長剣に宿る青炎の火力を上げて内部から跡形もなく焼き尽くそうとする……
悪意と醜い欲望によって引き裂かれ、歪められた二つの運命が一つになる時……それは絶望に満ちた破滅となるのだろうか……
スッ・・・・・
・・・・・ごめ・・・・・ん・・・・・
(咲夜がとった行動は、意外なものだった・・・・・
剣で貫かれた状態で、もがき苦しむわけでも、必死に抵抗して引き抜くわけでもなく、零夜を抱き締め、震えた声で途切れ途切れにごめんと、吐血しながらかすれた声で言うと、そのまま地面に倒れると同時に青い炎が所々、僅かな範囲で咲夜の服や皮膚を燃やし始める・・・・・)
零夜
「!!?」
例え咲夜から反撃が来ようとも左手にはまだ長剣を持っており、ナイフを投げる前にその腕を切断することも出来るし、そうで無くとも致命傷にならなければ時を遡らせることで回復も出来る。何処にも死角は無く、あらゆる状況や状態を想定していたものの、咲夜の取った自分を抱き締めると言う行動までは予想することが出来なかった。
零夜
「なんだ……今さら……何もかももう遅い……遅すぎる!!」
頭の中では憎悪と殺意の他にこれまでに感じた事の無い程強い困惑と驚愕が渦巻くようになり、それが戸惑いを生じさせており、咲夜の体から長剣を引き抜き、倒れた咲夜を見て、精神の乱れによって青炎が維持できなくなり消えている事にも気付かずに困惑したまま両手に持った長剣を大きく振り上げてトドメを刺そうとする……
・・・・・
(倒れた咲夜の虚ろな目に映るのは、変わり果ててしまった弟の姿・・・・・
だが、零夜が今のような人格になってしまった原因は、一番は自分だとも言える・・・・・
咲夜は、自身の死を悟るも、最後の最後まで、また姉と弟として過ごすことが出来なかったことに、後悔の涙を流し始める・・・・・)
《ドオォォォォォォォォォォォッ》
零夜
「…………!?」
最早後には退けない、振り下ろした零夜の双刃が咲夜の体をバラバラに切り裂こうとした次の瞬間、術者である咲夜が倒れた影響で時間停止が解け、それに呼応するように紅魔館内から激しい轟音と衝撃が生じ、まるで地震が起こったかのような振動によって零夜は体勢を崩して床に片膝を付く。
レミリア、フランドール「・・・っ・・・・・!?」
(時間停止が解けたことで、レミリアとフランドールも地震のように揺れる紅魔館に気づく・・・・・
停止した時間の中で咲夜と戦っていた零夜ですら、突然起きた出来事に驚くぐらいなのだから、突然と気が動き出すと同時に揺れているという状況を知ることになったレミリアとフランドールからすれば、もっと理解が追いつかないだろう・・・・・)
パチュリー
「この気は……眠れる龍が目覚めた……とでも言うのかしら?」
《バゴッ》
パチュリーは東洋の魔術を研究しており、そのため"気"についての理解や知識もあるため、紅魔館内から鳴り響くモノの正体をいち早く見抜くと、これまで苦痛や苦悶に満ちた表情をしていたパチュリーの顔に余裕と落ち着きが戻り始める。
パチュリーか轟音の主に気付いたのとほぼ同時に零夜の足元から天を貫くかのように巨大でありながら、夜明けの光明の如く美しい虹色の光の柱が立ち上がり、零夜を弾き飛ばす。更にその光柱の中には再生が不可能なまでのダメージと損傷を受けたリビングアーマーの残骸が含まれている。
零夜を弾き飛ばした光柱が徐々に薄れて消えるとそこには瀕死の咲夜を抱き抱えた美鈴が浮かんでいるものの、普段の彼女からは想像も出来ないほど強大な妖力と、本来ならば妖怪が使うことが出来ない筈の神力を身に纏っている。
普段彼女が被っていた緑の帽子は無く、その代わりに二本で一対の雄々しい龍の角が生え、背中から二枚の龍の翼、手や顔の左半分には赤き龍の鱗が生えたまさに人の形をした龍のような姿となっており、腰まで伸びた綺麗な赤い長髪が風に靡いて零夜と対峙する。
レミリア「あ、あれは・・・・・」
(パチュリーは大体のことは把握出来ているようだが、レミリアは突然の出来事が連続で起きているからか、未だに理解が追いつかない・・・・・
ただ一つ言えるとすれば、希望の光が見えた、ということだろうか・・・・・)
美鈴
「遅くなってしまい申し訳ありません。」
美鈴は抱き抱えた咲夜に自身の気を操る能力を用いて彼女の生命力と再生力を上げて回復を施しつつ、地へ降り立つと、ゆっくりと咲夜を寝かせるようにして置く。
零夜
「まさか……あの忌まわしき竜族が居たとはな……それも、俺が倒した筈の奴が竜だったとは………」
弾き飛ばされた零夜だったものの、空中で一回転し、足から着地したため、直ぐに体勢を整えることが出来たため、美鈴の姿を見て憎悪の言葉を口にし、両手に持った長剣に再び青炎を纏わせ始める。
レミリア「美鈴、気をつけなさい・・・・・そいつ、時を止める能力者よ・・・・・咲夜の弟というだけはあるわ・・・・・」
(再び戦闘を始めようと準備を整え始める零夜を見て、レミリアは美鈴に、零夜は咲夜同様に時を止めることが出来る能力者だから、気をつけるように忠告する・・・・・
零夜も人間であることに変わりはないが、その憎悪と復讐心、咲夜への執着心は異常とも言えるからだ・・・・・)
美鈴
「はい、身に染みています……」
一度零夜の時止めによって動きが封じられていた事もあり、全身を切り裂かれて倒された事があるため、レミリアの助言を聞いて、身に染みて知っていると応えると、パチュリーの気を操ることで咲夜と同じく回復させ始めると、床に寝かせた咲夜の方を見て優しく微笑む。
零夜
「……ふん、一度俺が倒した奴だ。
手負いの竜を一匹片付けることなど容易い事だ。
この竜を潰したら……次はそこの魔女、そしてその次が吸血鬼のお前らだ。」
《ダンッ》
零夜は一度倒した事のあると言うことから美鈴も容易く倒せると考えており、時間停止をすること無く、両手に青炎を纏わせた長剣を持ったまま、咲夜達を見ている美鈴の背後に回り込んでは飛び上がり、頭上から長剣を交差させるようにして振り下ろし、一撃で美鈴を倒そうとした次の瞬間。
《ドゴオォォォォォォォォォォォォォォッ》
零夜の振り下ろした凶刃が背を向けた美鈴の体に直撃するとなったその直後、振り下ろされた長剣が美鈴の体に当たるよりも先に美鈴の放った裏拳が零夜の手にし、交差する双剣を二本をまとめて打ち砕き、そのまま紅魔館の時計塔へ向けて零夜が軽々と吹き飛ばされ、爆発が起こる。
美鈴
「今の私は……"少し"怒っているので加減は出来なさそうですが……それで充分そうですね。」
今の美鈴の姿は、かつて、咲夜が来るまでメイド長を努めていた頃の強く、凛々しい美鈴の姿に戻っているが、それはつまり美鈴が心の底から激昂している事を意味している……
あまり美鈴と接した事の無かったフランの目からすれば、今の美鈴は普段隠していた"本性"をさらけ出したようにも映るだろう。
フランドール「な・・・・・何あれ・・・・・あれは本当に、美鈴なの・・・・・?いつもと全然違う・・・・・」
(あまり接したことのないフランドールからしても、今の美鈴が見た目以外にも、いつもと根本的に何もかもが違っているということを本能的に直感する・・・・・
いや、寧ろ美鈴の種族を考えれば、いつもの方が本来とは違っていて、寧ろこっちの方が本来に近いのかもしれない・・・・・)
零夜
「どいつもこいつも……邪魔ばかりしやがって……!!」
《ダッ》
零夜は新たに長剣を両手に持って美鈴に向かって飛び掛かると、美鈴はその軌道を完全に見切っており、振るわれた長剣を次々とその刃を砕き、その度に零夜の魔力を削っていく。
既に館中に張り巡らせていた魔術式によって魔力を消耗し、咲夜との戦いでは体力を大きく消耗しており、時を止めて回避や防御が出来る零夜とは長期戦にはなるものの、美鈴が零夜を打ち倒すことは可能になるだろう。
パチュリー
「美鈴の力で体が動けるようにまで回復出来た……このまま行けば美鈴が彼を打ち倒すでしょうけれど……それだと」
地平線の彼方を見て、今ならまだ日の出には幾らかの猶予があると悟ると、自分の回復よりも咲夜の回復を優先して回復魔法をかける事で、美鈴の気の操作だけでは治癒しきれない外傷を治し始める。
フランドール「・・・・・」
レミリア「咲夜がここまで追い込まれるとはね・・・・・でも、これでなんとか解決しそうね・・・・・」
(フランドールが唖然としたまま美鈴と零夜の戦いを見る中、レミリアは咲夜ほどの実力者がここまで追い込まれたことは意外だったものの、これで今回の件はなんとか解決しそうだと呟く・・・・・
本来、この戦いは咲夜が終止符を打たなければいけないのだろうが、今正に零夜を上回っているのであれば、このまま美鈴零夜をが倒せば戦いの方は解決、といったところだろうか・・・・・)
零夜
「…………ッ!こいつは面倒だな……ならば……!!」
零夜は美鈴に向けて振るう長剣、投擲する短剣が次々と砕かれ、魔力によって生成出来る量にも限界が見え始めると、美鈴の繰り出す殴打や蹴りを紙一重でかわしつつ、咲夜の頭上に短剣を生成、召喚して落とすことで仕留めようとする。
咲夜「・・・・・」
カッ・・・・・!
(頭上に短剣が生成されたその瞬間、咲夜は咄嗟に避けて短剣が地面に突き刺さる・・・・・
どうやら意識を取り戻したらしく、回復した咲夜は立ち上がっては零夜の方を見て、複雑そうな表情をする・・・・・
和解は通用しない、姉として何もしてやれない、こんな時、どうすればいいのだろうかとわからなくなる・・・・・)
零夜
「…………ちッ!!」
パチュリー
「目が覚めたのなら丁度良かった……今のうちに貴女にこれを渡しておくわ。」
美鈴による回復が効果を発揮したのか、咲夜が短剣を避けたのを見て零夜は舌打ちする中、美鈴が零夜を押している事で自分の回復に魔力を回せるようになった事で自分の回復を行うパチュリーが先程は渡すことが出来なかった封魔のナイフを咲夜に手渡そうとする。
美鈴(龍人化)
「(……おかしい……お嬢様の言うように咲夜さんと同じ時間操作が出来る筈はなのにそれをする素振りすら見せない……何かを待っている……?)」
零夜が生成し、投げ付ける短剣や長剣を美鈴は赤い龍の鱗が生えた両腕を振るうことでに刃を砕き、零夜の振るう剣撃も今の美鈴の体を切り裂くことが出来ず、その一方で美鈴の打撃は防御や回避をしてはいるものの、着実に零夜の体にダメージを蓄積させており、戦況は美鈴達に優位になりつつあるのだが、ここまで追い詰められても尚、零夜は時間操作を行う素振りを見せない。
その事に対して違和感を覚えた美鈴はまさか何らかの状況や状態になるのを待っているかのように感じてしまう。
・・・・・ありがとうございます、念の為に、忍ばせておきます・・・・・
(咲夜は、弟を〇すことになるかもしれないという感情を抱きながら、パチュリーからナイフを受け取り、服に忍ばせる・・・・・
このまま美鈴と戦っていれば、圧倒的な戦力差によっていずれ零夜は命を落とすだろう・・・・・
せめて命だけは・・・・・命だけは救いたい・・・・・)
美鈴
「やはり……何かを企んでいる……!!
お嬢様方への危害を及ぼす前に……今ここで仕留める!!」
【華符「破山砲」】
美鈴は零夜との戦いの中、反撃できるチャンスが生じた際に魔術や魔力、時間停止と言ったものを使用せずにただ剣を召喚してそれによって自分の打撃を防ぐことにだけ専念しているところを見て、やはり零夜が何かしらの隙を伺っていると言うことを見破ると、下手に策を打たれないようにしようと考え付く。
美鈴は長剣を交差させるて盾のようにしている零夜に対して、美鈴は屋上の一角に無数の亀裂が生じるほどに強く踏み込み、龍の力と気の力を及ぼす交ぜた一撃必殺の威力を込めた虹色の光を纏わせた拳を繰り出し、交差させて防御体制に入っている零夜を長剣もろとも遥か時計塔のある方向に向けて殴り、零夜の手にした長剣を二本とも打ち砕いて彼の体を軽々弾き飛ばし、時計塔内へと外壁を破壊して叩き込む。
美鈴
「手応えあり……勝負はつきましたね。」
零夜の腹部を捕らえた確かな感覚があった事と、殴り飛ばされた零夜からは徐々に気が弱まっていくのを感じ取り、これで完全に決着が付いただろうと確信を得る……もう魔術や召喚術を使えるほどの余力も、時間操作をするだけの力も残されておらず、辛うじて生きているのが関の山と言ったところだろうか。
・・・・・
(咲夜は、ただただ立ち尽くしながら零夜が殴り飛ばされた方向へと視線を向ける・・・・・
生きていたのなら、できればこんな風に再会することも、戦うこともしたくはなかった・・・・・
昔も、そして今も、姉として何も出来ない自分自身が嫌になってくる・・・・・)
零夜
「……………ははははははッ!!」
美鈴の一撃によって殴り飛ばされた先、立ち込める土煙の中、ボロボロになった零夜が瓦礫の中から立ち上がり、高らかに笑い始めている。
先程していたような自分の肉体の時間を巻き戻して回復する事すら出来ない程に満身創痍になってはいるものの、その手には先程零夜の手から落ちた黒血が入った注射器を持っている。
零夜が防御に徹し、まともに反撃をしなかったのは注射器の落ちた場所を確認していたからであり、注射器の在処を確認すると、一気に勝負をつけようとする美鈴が何らかの大技を出してくると言う事まで読み、敢えてその一撃を受けて注射器の落ちている場所まで吹き飛ばされるように誘導していた。
零夜
「これで俺の……勝ちだ!!」
零夜は手にした注射器を今度は何の躊躇いもなく自分のくびすじに刺し、そのまま黒血を流し込み、黒血を取り込み始めていく……
咲夜「なっ・・・・・!?」
(零夜のとった行動に、姉として何もしてやれないという葛藤が一気に晴れるほどの衝撃を受ける・・・・・
レミリアを先に拘束したり、自身の体の時間を戻して回復に応用したりなど、戦いにおいて用意周到な零夜のことだ、恐らくは零夜の飛ばされた先に注射器が偶然あったのではなく、零夜は自分で注射器を取りに行けないのであればと、敢えて美鈴を誘導してこうなるように仕向けていたのだと察すると、後戻りできない取り返しのつかない事態に心の底から震えが生じ始める・・・・・)
美鈴
「マズい……!!!」
零夜が自分自身の首に黒血を注入としているのを見た美鈴が再度虹色の光を纏わせた拳を撃ち込もうと零夜に迫るものの、美鈴が放った拳は零夜の左手によって掴まれ、制止される……
黒血を取り込んだ零夜の身体には無数の血管が浮かび上がり、目からは血の涙が流れ、彼から感じられる魔力が禍々しいものへと変わっていく。
零夜
「やってくれたな……竜人!!」
《メキッ》
美鈴
「ぐッ……うああああッ!!」
零夜は掴んだ美鈴の拳を片手で握り潰し、美鈴はそのあまりの激痛に叫ぶ……零夜は黒血を取り込んでまだ数秒しか経っていないにも関わらず、ここまで力が跳ね上がっている事から、黒血を完全に吸収し終えた場合、どれほどまでの力を得るようになるのかは想像すら困難……
・・・・・おい
(零夜が美鈴の拳を片手で握り潰した次の瞬間、背後から声が聞こえる・・・・・
その短い一言の中には、殺意にも似た威圧感が込められている・・・・・
零夜と咲夜、最終決戦の幕が上がった・・・・・)
零夜
「…………!
……ふん、背後に回り込めば奇襲が出来るとでも思ったのか?」
零夜は背後から声が聞こえて来ると、後ろに回り込めば奇襲を仕掛ける事が出来るとでも思ったのかと言い放つと、零夜の背中から四枚の二対の巨大な青黒い蝙蝠やドラゴンのような翼腕がある翼が展開される。
直接背中から生えた翼では無いものの、常時後方5mに接近不可、生存不可の翼型の魔力嵐が形成されているため、下手に背後に回り込もうとすれば翼を構成している魔力の奔流によって呑み込まれ、バラバラに引き裂かれ、塵にされてしまうだろう。
奇襲?そんな卑怯なことしないわ・・・・・
(そう言うと「相手がアンタじゃなかったらね・・・・・」と言い、ナイフを構える・・・・・
まさか何の躊躇いもなく血を取り込むとは予想外だったが、こうなってしまった以上、咲夜が夢見た和解などもう到底叶わず、倒すか、相打ちかのどちらかしか本当に道は残されていないということになる・・・・・)
《ゴオォォォォォォォォォォォッ》
零夜の背中から展開された四枚の竜翼のような形状の闇の魔力の奔流が零夜の背後に回り込みナイフを構えた咲夜の体を呑み込み、跡形もなく消し去ろうとする。
・・・・・こんなに変わり果てて・・・・・
(ついさっきまでは、ただただ復讐心によって性格が変わり果ててしまっただけだったものの、今となってはもはや種族も含めて何もかもが変わってしまった・・・・・
咲夜は哀れんで呟く・・・・・)
零夜
「俺は復讐のためにここまで捨てたぞ……!!
人間の心も、人間の体も……全てを捨てて復讐の化身となった!!」
零夜は自身の背中から展開した魔力翼で呑み込んでその体を焼きながら、美鈴の体を叩き付けるようにして投げ、二人をまとめて葬り去ろうとする。
零夜の本来の性格は大人しく、自分だけでなく、家族も守りたいと願っていた優しい心を持っていた……いったいどれだけの苦痛を、絶望を味わえばここまで歪んでしまうのだろう。
・・・・・残ったものがただの復讐心だなんて、哀れな・・・・・
(そう言うと、咲夜はパチュリーから先ほど受け取ったナイフを取り出そうとする・・・・・
どんなに変わり果てても、何もかも変わったとしても、やはりずっと会いたかった実の弟・・・・・
いざ倒せるのか、トドメをさせるのかと問われたとしたら、はいかいいえで答えるのではなく、首を横に振るだろう・・・・・)
美鈴
「ぐ……うッ……!!」
咲夜目掛けて投げられた美鈴の体に魔封のナイフを取りだそうした事や、ナイフを構えていた事が仇となり、美鈴の体に咲夜のナイフが突き刺さり、更に何の防御も回避もせずに魔力嵐の中にいた事で、2人の体を零夜が展開した魔翼が呑み込み、二人の体を少しずつ切り裂き始める。
荒れ狂う濃縮された魔力の嵐は皮膚を裂き、肉を切りる。
一呼吸ごとに体内にまで魔力の奔流が鼻腔を通して肺にまで到達し、刃のような魔力の暴風によって体を外側からだけでなく、内側からも切り刻まれてしまうことになるだろう。
零夜
「ハハハハッ!なんとでも言え!その哀れな奴にお前は消されるんだからなぁ!!」
魔封のナイフを使えば変異途中の零夜の力を封じて倒すことが出来るかもしれない……だが、人間の頃であればいざ知らず、今の彼は人とは根本から異なる異形にして異質な存在になりつつある。
それも、パチュリーのように人間に近い性質を持った魔女であるのならばまだ魔力を封じられてある程度のダメージを受けるだけに抑えられるものの、邪悪や魔力の塊のような存在になりつつある零夜が受ければ体の大部分を占めるように侵食を続ける黒血そのものが消失することになるため、零夜の死を意味することになる……
だが、それも全ては零夜が何らかの決定的な隙を見せなければナイフを当てることすら叶わないだろう。
・・・っ・・・・・!美鈴!落とし前は後でしっかりつけるからもう少しだけ協力してちょうだい!
(本来なら自分のせいで美鈴の体にナイフが突き刺さってしまったことに精神的なショックを受けるものの、今はそれすらもできないほどの緊急事態であるからか、美鈴に対してこの落とし前はあとでつけるからもう少しだけこの戦いに協力してくれと懇願する・・・・・)
【>>187に付け足します!】
(咲夜は美鈴にもう少しだけ協力してくれと頼めば、そのまま美鈴の腕を引いて魔翼から抜け出す・・・・・
抜け出したはいいものの、さっきまでとは何もかもが桁違いになっている上に、まだ完全に馴染んではいないであろうことから、これから更に力は増してゆくばかりだろう・・・・・)
【OKです!】
美鈴
「私に出来ることなら何でもやりますよ……!!」
咲夜の異様な回復力や、あの命を奪う魔の嵐の中でも平然としていた事に驚くものの、自分に出来ることがあれば協力を惜しまないと応える。
零夜
「ハハハハハ!凄まじい力だ!人間である事を辞めるだけでこれだけの力が手に入るのならばもっと早くに辞めておくべきだったな!!」
【惨爪「狂刻千裂ノ業罰」】
《ズガガガガガガガガガガガガガガッ》
魔翼による嵐から咲夜達が脱出すると、二人の方へと振り返り、零夜は背中から展開した四枚の翼を四本の巨大な三本指の細長い腕へと変化させるとそれらを滅茶苦茶に振り回し、周囲一帯に無数の青黒い斬撃が繰り出す。
その千を超える斬撃の一つ一つに人体を容易く切断できる威力があり、一撃でもまともに受けてしまえば致命傷は免れないだろう……
本当に人間じゃなくなったようね・・・・・
(咲夜は美鈴の手を掴んだまま零夜の斬撃を紙一重で避けてゆく・・・・・
最初から歪んでしまってはいたものの、それでもまだ家族を助けられたはずなのに助けずに一人逃げた咲夜に対する復讐心から襲撃を仕掛けるという、まだ人間らしい部分があった・・・・・
だが、今は違う・・・・・
零夜の言葉は、血を取り込んだことによって人格にまで影響が及んでいるのか、それとも零夜の本音の一つなのかは定かではないが、ただただ力を求めるあまりに変わり果ててしまった愚か者の成れの果ての言葉に聞こえ、容姿の変化もその欲望に見合った相応の結果に思えてくる・・・・・)
零夜
「言っただろ?人間である事を辞めて完全なる破壊と殺戮の化身と化そう……とな。」
【惨翼「狂刻滅潰ノ災禍」】
《バゴォッ》
零夜の四本の腕の一つが咲夜と美鈴を中心とした半径10mを球体状に抉り取り、消し飛ばす事で館の一角がまるで何かを補食されたかのように半円状に削り取られる……その威力から、即座に範囲外にまで逃れなければ、肉片一つ、血液の一滴も残らずに消し飛ばされてしまう事になるだろう。
零夜
「一つ良いことを教えてやる。
後30分で夜明けになる……これが何を意味しているのかは説明しなくてもわかるな?」
【惨腕「狂刻暴裂ノ翼撃」】
《ドドドドドドドドドドドドドドドドッ》
半円状に館の一部もろとも消し飛ばすだけに飽き足らず、例え今の一撃を避けたとしても即座に撃滅出来るように背中に展開した四本の巨腕が再び翼状に戻ると同時にその羽根を飛ばす事で一気に畳み掛ける。
その羽撃の威力は凄まじく、館の壁や天井、床を貫き、中に避難していた多数の妖精メイドの体を貫き、バラバラに消し飛ばして行く。この羽根による猛攻を受けた場合、あらゆる防御は意味を成さず、足を止めた瞬間にその体は無惨にも貫かれ、妖精メイド達と同じ末路を辿ることになってしまうだろう……
更に、羽根を弾丸のように撃ち込みながら、零夜は空いた右手を自分のズボンのポケットから取り出した銀の懐中時計を開けてその秒針を咲夜達に向けて残り30分もすれば夜明けを迎え、磔にされているレミリアとフランの二人がその陽光によって焼き尽くされ、消滅してしまうと言うことを告げる……
・・・っ・・・・・!!!!!
ぐっ・・・・・
(咲夜は、目の前で館の一部が抉り取られる挙句、妖精メイド達も次から次へと無残にもバラバラにされてゆくその悲惨な光景を見て、咲夜は零夜の猛攻を避けることに専念しながらも、怒りが込み上げてくる・・・・・
怒りのあまり、拳に人間とは思えないほどに強い力を込め始める・・・・・
そして咲夜自身は怒りのあまりに気づいていないものの、美鈴の手を掴んでいる方の拳も強い力が入り、どれほどの怒りがわいているのか、美鈴にも十分伝わる・・・・・)
零夜
「だが、あの吸血鬼姉妹やそこの竜人、魔女は俺の狙いじゃない……俺の狙いは最初からお前一人だ。お前だけは何に変えても必ず消す……!!」
【惨爪「狂刻捻壊ノ裂葬」】
《ドドドドドドドドドドッ》
零夜は撃ち込んだ無数の羽根弾の一つ一つに媒体として無数の黒い竜巻を生じさせ、付近にある全てのものを引き込み、瓦礫であろうと骸であろうと、関係無く引き寄せ、呑み込み、バラバラに引き裂き消失させている。
更に、その黒い竜巻からは無数の黒い真空刃が放たれ続け、それら全てが咲夜一人を狙っており、真空刃を受けて足を止めたところを竜巻によって一気に引き込もうとする。
美鈴
「正面から向かっても迎撃されてしまう……
咲夜さん!何か……策はありますか?」
体勢を立て直した美鈴は強い怒気を感じる咲夜に対し、何か策はあるのかと聞きつつ、彼女に向けて放たれた羽根弾や真空刃の一部を両腕に赤龍の鱗を纏わせて弾く事で支援する。
だが、このまま行けば時間だけが過ぎて行くことになる。
そして、その時間の果てにあるのはレミリア達の消滅という最悪の未来だ……
・・・・・策・・・・・策は・・・・・
(こんな時だからこそ機転を利かして何かしらの策を導き出さなければならない・・・・・
が、それは戦う相手が常人ならの話・・・・・
や
零夜は時間停止能力も通用しなければ、ヴァルターの血を取り込んで時間経過と共に徐々に力が跳ね上がってゆく・・・・・
守らなければならないモノを守るべくして戦っているのに、その為の策が何も浮かばない・・・・・
まず、策を練っていられるほどの余裕なんてない・・・・・)
美鈴
「……それなら……私がアイツを引き付けます。
その隙に咲夜さんは魔封のナイフを当てて下さい。」
美鈴は策を弄する余裕が無く、回避に専念している咲夜に対して咲夜が持つ特異なナイフの気を察知し、それが魔封の効果を持っているのではないかとまで推測した上で自分が囮となって隙を作り、その隙を付いて魔封のナイフで零夜を討って欲しいと言う。
だが、それは下手をすれば美鈴も零夜に殺害されてしまうだろう……そうなってもおかしくは無いほどの強大な力を持つ存在に零夜は成ってしまっている。更に、ナイフを当ててもそれで倒しきれると言う確証はなく、あまりにもリスクの大きい賭けとなっている……
零夜
「もういい……この館もろともお前らを消し飛ばしてやる!!!」
【惨滅「狂刻鏖滅ノ炎陽」】
《ギゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……》
零夜はなかなか攻撃が当たらない事に痺れを切らし、両腕を振り上げると頭上に禍々しい青黒い炎の塊生成し始める……すると、まるで空間そのもが軋んでいるかのような異様な音を響かせ、紅魔館を覆う結界内にある全てのものを消滅させられるだけの途方もない破壊力を持った大技を繰り出そうとする。
零夜の生成した太陽がごとき炎球はそれなりに離れているレミリアや美鈴達でも呼吸が苦しくなり、肌が焼かれるような強烈な熱を放っている。
・・・・・美鈴・・・・・
(元を辿れば自分がこの惨劇の元凶でもある為、なるべく家族を巻き込むような事態に発展させたくはなかった・・・・・
だが、協力なくしてこの戦いを終わらせることは不可能・・・・・
美鈴が囮となり、零夜が大技を繰り出そうとしている今この時、咲夜は魔封のナイフを構える・・・・・)
美鈴
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
【星気「星脈地転弾」】
先程零夜に掴まれ、握り潰された拳を気の集中による再生力の向上に加えて強固な赤龍の鱗で外からも支える事でギプスの役割を果たすようになっており、咲夜が回避を手伝ってくれた事である程度動かせる程に回復することが出来た。
再び腕を握り潰されてしまうかもしれない、失敗して全て無駄になるかもしれないと言う不安を振り払うように、気力を振り絞るように、吼えると両腕に虹色に輝く巨大な光球を形成していく。
本来ならば周囲の気を集め、それらを練り上げる事で威力を高めるのだが、気を練るような余裕を与えてはくれないだろう零夜への迅速な攻撃を可能にするため、自身の体に流れる気を回復や身体強化に回していたものも全てこの一撃へ込め、零夜に向けて放つ。
零夜
「はははは!今の俺は竜の力をも凌駕している!!その無駄な抵抗もろとも潰れ、塵となれ!!!」
零夜は大きく挙げていた両腕を勢い良く美鈴達に向けて振り下ろし、闇の魔力を源とする青黒い炎によって作り出された巨大な魔炎弾がゆっくりと美鈴と咲夜の二人をまとめて呑み込もうと迫る……
零夜の放つ魔炎弾は美鈴の渾身の一撃である虹色の光球の数倍はあり、案の定、美鈴の一撃も押し返され始めてしまう。
だが、攻撃に集中している事と、多少ダメージを受けようと、この一撃が決まればこの結界内にいる自分を除いた全ての存在が焼き尽くされ、消滅すると言う事実から周囲への注意が薄れている。
・・・・・
(咲夜は零夜へ魔封のナイフを投げる為、狙いを定める・・・・・
今までこんなにもナイフを投げる対象に照準を合わせることはなかった・・・・・
手が震える・・・・・もし外したらという不安からか、それとも・・・・・)
美鈴
「……く……ぅ……!!想像以上に重い……!長くは……持たない………!!」
美鈴はまだ完全には練り終えてはいないものの、周囲の気も少しずつだが虹の光球へ送り込み、威力を上げてはいるものの、零夜が持つ莫大な闇の魔力を前に殆ど効果は無く、数分は持ちこたえていられると考えていたものの、早くも片膝を付いてそう長くは持ちこたえてはいられないと呟く。
ヒュォッ・・・・・!
(咲夜は零夜の胸へとめがけて、魔封のナイフを全力を込めて投げつける・・・・・
咲夜の心境としては、無・・・・・
弟へ対する罪悪感、この手で葬らなければならない運命、今の家族の命の安全を第一にするべきという現状、様々な感情が入り乱れて投げたナイフを見つめながら、咲夜は無表情のままいつの間にか涙を流していた・・・・・)
零夜
「ははははは!潰れろ!消えろ!!
この世から完全には消え去れ!!!」
零夜は憎悪と怨念が混ざった罵声を怒鳴りながら、増大する闇の魔力を利用して美鈴の抵抗を押し切って館もろとも全てを消滅させようとしており、減るどころか増していく零夜の魔力を前に美鈴も遂に限界を迎えようとしていた……
だが……そこへ一閃。
咲夜の投げたナイフが夜明け前の夜闇を切り裂くかのような一筋の銀光が走り、それが零夜の右肩に突き刺さると、一時的に零夜の得ていた莫大な闇の魔力が制御を失い、魔炎の太陽が弱まり、美鈴の虹色の光弾に逆に押し返されて消滅し、更には零夜の体が床へと崩れ落ち倒れる。
零夜
「ぐッ………!これは……俺が投げたナイフ……!?
そうか………あの時に魔女に刺さっていたものか!?」
零夜は奇しくもパチュリーと同じ右肩に刺さった魔封のナイフの柄を掴み、そのまま引き抜こうとする。反撃のチャンスは今しかない。
だが、パチュリーが銀の鎖にかけられた拘束術式を解除して助け出そうとしているものの、未だ拘束されているレミリアとフランは勿論、美鈴は周囲の気だけでなく、自身の気も全て出しきっているため疲弊しきっており、魔力の回復も未だ不完全なパチュリーも追撃に参加する事が出来ない……
決着は咲夜の決断と実力に委ねられた………
・・・・・ぁぁあああああああああああああああぁああぁぁあああああっ!!!!!
ズブッ・・・・・!グサッ・・・・・!
ズブッ・・・・・!グサッ・・・・・!
ズブッ・・・・・!グサッ・・・・・!
(零夜が魔封のナイフを引き抜こうとしたその時、その隙を狙って咲夜は零夜へと飛びかかり、馬乗り状態でナイフを引き抜くと、今度はそのまま零夜の心臓めがけてナイフを振り上げ、ナイフの刃が全て見えなくなるまで零夜の胸へ深々と突き刺す・・・・・
それを何回も何回も、ただひたすら、無我夢中と言わんばかりに繰り返す・・・・・)
零夜
「…………ッ!!」
《ガッ》
零夜は咲夜が飛び掛かって、押し倒し、肩に刺さっていたナイフを引き抜いて自分の心臓目掛けて振り下ろそうとするのを見て、ナイフを振り下ろした右手の手首に自分の両手を交差させて右手を止める事でナイフの刃を制止させる。
グググッ・・・・・
・・・っ・・・・・っ・・・・・!
(咲夜は右手を止められても尚、力を込め続けながら零夜を押してゆく・・・・・
咲夜の目からは涙がこぼれ、零夜の頬に一粒、また一粒と落ちてゆく・・・・・
せめて自分が姉として零夜にしてやれることと言えば、もうこの手で葬り去ってやることぐらいしかない・・・・・)
零夜
「………ぐッ!また……また俺を見捨てるのか!?」
体勢的に自分の腕力だけでなく、全体重もかけられる咲夜とは異なり、黒血を取り込んでしまったばかりに存在そのものが魔に成り果てた零夜にとって魔封のナイフは大きな脅威となってしまっている。
背中に展開していた魔翼も魔封のナイフが刺さった事で消滅し、更に魔封のナイフが近くにあるため常時魔力を消耗し、弱まっている零夜の腕力だけでは長くは防げず、徐々にナイフの刃が迫る中、涙が零れておる相手に対して「また見捨てるのか」と口にする。
ピタッ・・・・・
・・・・・
(咲夜の動きが止まる・・・・・零夜からすれば咲夜に反撃する隙を作る為に動揺するように放った言葉だと思われるが、咲夜からすればその言葉は、胸を締め付けるほどに酷な言葉だった・・・・・
数年前のあの日、零夜や両親を見放して自分だけ助かろうとしたわけではない・・・・・
ただ、怖かった・・・・・時間を止めることが出来るにしても、裏を返せばただそれしかできない・・・・・
今ならまだともかく、幼少期の自分からすれば、時を止めることが出来ても恐ろしすぎて何もできなかった・・・・・
咲夜は、零夜に向けたナイフを止めたまま、手が震える・・・・・)
零夜
「お前は何時だってそうだ……!
守る、救う、助ける……そんなものは全てただの戯言だった!
俺は父を、母を最後まで守ろう、助けようと戦った!
家族を失ってからも姉さんに会うために必死で戦い、もがき、生き抜いた!何度も死にかけた!何度も叩きのめされた!何度も地の底を這い回った!生きるために盗みをしたり殺人もした!」
死の縁に追い込まれた者は取り繕っていたものが剥がれ、その本性が露となる……零夜の本性…本音が咲夜の心を突く言葉の刃となってしまっている。零夜は咲夜を動揺させるために吐いた言葉ではなく、剥がれた本性のままに言葉を口にしているため、そのまま咲夜を攻める言葉を続けていく。
零夜
「血を吐くまで蹴られた事があったか?
餓えのあまりムカデやネズミを生のまま食った事は?
醜悪な貴族からの拷問を受けた事は?
目の前で親しい奴隷仲間の命を潰された事は?
俺は地獄の中でしか生きられなかった……だがお前はどうだ!?
俺にはもう、受け入れてくれる家族も!心を許せる仲間も!帰るべき場所も!守るべきモノも!何も無い!!全てを失った!!!」
零夜の抱く憎悪と怨念が、零夜の魔力となって急速に回復していく……
このまま放っておけば零夜は再び強大な魔力を得て、二度と今のように有利な状況を作ることは出来なくなってしまうだろう……
加えて……既に地平線の彼方には日の光が空を照らし始めており、残された時間は数分しか無いだろう……
私だって守ろうと思ったわよ!!!!!でも所詮子供の力じゃあ時を止められても、それくらいしかできなかった・・・・・!!!!!ずっとずっと・・・・・ずーっと後悔していたわよ!!!!!
(零夜が咲夜に怒号を浴びせたように、咲夜も零夜に怒号を浴びせる・・・・・
子供の浅知恵と力では時を止められてもそれ以上はどうしようもできなかったこと、ずっと後悔しながら生きてきたこと・・・・・
しかし後悔してももう遅い・・・・・)
《パキィィィィィィィィィィンッ》
咲夜と零夜が対峙し、怒声を交わす中、突如として紅魔館を覆っていた零夜の展開した巨大結界が強制的に解除され、まるで砕かれたガラスのようにバラバラになって落ちて来る……
ガラスとは異なり、その破片に当たっても無力化された破片達が当たることはなく、建物や体をすり抜けて地上へと吸い込まれるようにして落ち、消えていく。
魔理沙
「よーし、そこまでだ!お前ら!」
零夜と咲夜の傍へ、砕かれた結界の間を縫うようにしてきらびやかな星弾を巻きながら箒に跨がった魔理沙が二人に八卦炉を向けて戦いを辞めるようにと仲裁をしようとする。
零夜は反撃や攻撃のために動こうとすれば、咲夜は時間を操作しようとしたり、ナイフをそのまま零夜に押し込もうとすれば、その瞬間にはマスタースパークを放てるようにと臨戦態勢に入っている。
・・・・・何しに来たの・・・・・?
(破片が落ちては消えてゆくという、幻想的な光景ではあるが穏やかではない状況の中、無数の破片に咲夜と零夜の顔が反射しながら落ちてゆく・・・・・
咲夜は魔理沙の方を向けば、何をしに来たのかと問いかける・・・・・
咲夜からすれば、魔理沙達の駆けつけなど眼中にないほどに心が締め付けられている・・・・・)
魔理沙
「何をしに来たのかって、見てわかるだろう?異変が起こりそうだったから面倒になる前に止めに来ただけだ。」
箒に跨がり、八卦炉を構えたまま異変が起こりそうな予感がしたため、幻想郷中に波及する前に止めに来たのだと応える。
・・・・・邪魔しないで・・・・・これは私が片付けなきゃいけない問題なのよ・・・・・
(今回の出来事の原因は自分にもあるし、今回のことは咲夜も、そして零夜も、自分自身で決着をつけなければ気が済まないし、自分達で決着をつけなければならない・・・・・
恐らくこれに関しては、零夜も同意見だろう・・・・・)
霊夢
「……ええ、そうね。
だから貴方達同士の事にはこれ以上手出しはしない。
ルーミア、日の光を防いで。」
八卦炉を構える魔理沙とは別に、レミリアとフランの二人が磔にされている前に霊夢が上空から降り立ち指先で十字架目掛けて数回だけ空間をなぞるように動かすと、二人を拘束する銀の鎖の拘束封印効果が解除される。
魔力が枯渇し、体力と魔力の回復途中であったとは言え、パチュリーでさえ、相応の時間が必要となる拘束術式を容易く解除したのを見てパチュリーは唖然とする。
また、今の状況について把握していたのか、ルーミアを呼んでレミリアとフランの二人を闇玉で包み込む事で地平線の彼方から登って来る太陽からの光から二人を守る。
零夜
「………いや、どちらにせよ、もうタイムオーバーだ。」
夜明けの光によって照らし出される中、ヴァルターの血を取り込んだ事で吸血鬼となった零夜の体が焼かれ始めている。そんな中でも零夜は何時でも反撃できるだけの魔力を回復し、隙も幾らでもあったにも関わらず、敢えて両腕の力を抜き、咲夜のナイフが零夜の心臓を貫く……
・・・っ・・・・・!
(零夜が両腕の力を抜いて自分が向けていたナイフの刃先が零夜の心臓を貫けば、咲夜は唖然とする・・・・・
「・・・・・どうして・・・・・?どうしてよ・・・・・」
咲夜は大粒の涙を両目からこぼしながらどうしてと零夜に問いかける・・・・・)
零夜
「………気付いていたよ。
あの日、姉さんが俺達を見捨てた訳じゃなかったと言うことに…」
この屋上に着いてから……いや、それ以前に最初の異界の猟犬との戦いでも猟犬との戦いでもそうだった。
障
壁や結界は零夜の能力でも得意分野でも無かったため、本気で怖そうと思えば壊して逃亡する事も出来た筈だ。だが、それをせず、あくまでも自分の前に立ち、戦いの中でも一歩たりとも下がろうとはせず、最後まで自分と向き合っていた。
そんな姉が幾ら幼かったからとはいえ、自分達を置いて逃げ去る訳がないと言うことを戦いの中でも零夜自身も理解していた……だからこそ、何時でもトドメを刺せるような状況であったにも関わらず、それを一切しなかった……
零夜
「これで……よかったんだ………」
《カチッ》
零夜は心臓を貫かれており、吸血鬼化した影響で辛うじて話せてはいるものの、登る太陽の光が零夜の体を焦がしており、数分とたたずに零夜は消滅するだろう……
そんな確実な死が目の前に迫っているにも関わらず、零夜は穏やかな笑みをしたまま、弱々しい手付きでズボンのポケットから銀の懐中時計を取り出し、それを介して時間を巻き戻し、破壊された館や、殺害された妖精メイド達を甦らせ、逆に館中に召喚していた魔物達を異界へと送り返し、まるでこれまでの戦いが起こらなかったかのように綺麗な状態へと戻していく。
だが、霊夢達や、咲夜の刺したナイフはそのままになっており、零夜の時間は一秒たりとも戻ることはなく、寧ろ魔力を失った状態で大規模な能力の発動を行った事によって完全に力を失う。
・・・・・嫌・・・・・逝かないで・・・・・
(もはや消える運命しか残されていない零夜を抱き締めながら、咲夜は泣く・・・・・
互いの時計の針は狂ってしまったまま、ここまで来てしまった・・・・・
ようやっと零夜が理解してくれたその時が別れの時だなんて、姉として非常に辛い・・・・・)
零夜
「…………本当は……復讐なんてどうでも良かったんだ……だけど……最期を迎えるのなら……姉さんの真意を知りたかった……姉さんの手で……終わりたかった………」
零夜の腹部には、吸血鬼化した際に身体中にあった傷跡が再生して消えていた中でも再生すること無く残っていた鳩尾の深い刺傷と、脇腹に付けられた三本の巨大な爪痕が弱った零夜の体から黒い血が流れ始めている。
この傷跡が館に訪れる前から付けられていたものであり、放っておいても零夜はこの傷の悪化によって命を落としていただろう。この戦いの後に生き残る算段や考えが毛頭無かったのも、自らの命が残り数日程度しか残されておらず、最期の場所として姉の前を選んだのだろう。
だが……問題は吸血鬼の再生力でも関知できない程の傷を、時間を操れる零夜に付けた"何者"かが存在していると言うことになる。そして……それこそが咲夜と零夜の因縁の敵となる。
・・・・・守れなくて、ごめんなさい・・・・・
(零夜の身体を抱き締めながら、再生せずに残っていた傷を見て、あの日自分にもっと力があれば、こんなふうに戦うことも、こんな傷を負うこともなかっただろうと思えば守れなくてごめんなさいと言う・・・・・
咲夜も、そして零夜も、お互いの真の敵はお互い同士ではなく別にいるということも同時に知る・・・・・)
零夜
「……謝る必要は無い……よ……寧ろ……俺の方が……姉さん達に迷惑をかけてしまった……もう少し……早く……姉さんと会えていれば………こうはならなかった……かもしれない……」
零夜の体は日光による影響で急速に朽ち果てており、既に体の半分が塵となって消滅してしまっており、辛うじて生きている全ての力を使って少しでも咲夜と話したい、咲夜に教えておきたい情報を口にしていく。
零夜
「……あの日……俺達を襲撃した奴らの正体は……
悪しき黒竜……魔竜軍団の総括者『ハーオス・ジルニトラ』だ……俺も……復讐のために奴らの拠点に乗り込んだけど………結果はこの様……だった……」
零夜の横腹と鳩尾にある巨大な爪跡はハーオス・ジルニトラと呼ばれる存在が付けたものであると教え、自分も敵討ちのために乗り込んだものの、時間を自在に操り、高い魔術操作や、近接戦闘力を持ち、更には魔物の力を封じる鎖やナイフを持っていた零夜でさえ、敵わない程の強大な力をもった悪であると言う。
・・・・・ハーオス・・・・・ジルニトラ・・・・・
(その名前を、強く心に刻み込む・・・・・
自分からも、零夜からも全てを奪い去った忌まわしき諸悪の根源・・・・・何が何でもこの手で完全に葬りさってやると強い意志を抱けば、咲夜は零夜の手を握る・・・・・
咲夜の手からは、また失うのかという辛さと悲しみが震えとなって零夜の手に伝わる・・・・・)
零夜
「ははは……姉さんは……笑顔の方が似合っているよ……
大丈夫……姉さんならきっと………」
零夜の力であっても既に確定した事象を巻き戻すことは出来ない……
零夜は咲夜の手を介して苦悩と悲しみを感じとると、咲夜の記憶にあった幼い頃の彼と同じように優しく微笑み、左手を咲夜の頬に手を伸ばし、せめて最期は笑顔で消えようとする。
・・・・・ゆっくり休んでね・・・・・おやすみ・・・・・
(消えゆく零夜を見ながら、大粒の涙を流しながらも笑顔を見せる・・・・・
せめて自分が姉としてしてやれることといえば、零夜の最後の希望に応えること・・・・・
どこまでも悲しい微笑みを零夜へと向ける・・・・・)
《ザアァァァァァァァ……》
零夜は優しく微笑んだまま日光によって完全に塵となって崩れ去り、消滅していく。咲夜の腕の中、亡骸すら残らずに消えた零夜の居た場所には零夜の心臓を貫いた魔封じのナイフと零夜の形見とも言える懐中時計が残される……
・・・・・っ・・・・・
(咲夜は、懐中時計を抱くように握り締め、声すら出ないほどに泣く・・・・・
何故守れなかったのか、何故何もしてやれなかったのか、そればかりが頭の中で輪廻のように渦巻く・・・・・
そして、本当に倒すべき敵に対する憎悪が湧いてくる・・・・・)
美鈴
「…咲夜さん………」
美鈴もパチュリーも霊夢、魔理沙の四人、その場にいる誰もが咲夜に対して声をかける事が出来なかった……襲撃者である零夜が咲夜の弟であり、敵でありながらも悲しい運命に翻弄された者であるのだと知ると、かける言葉も無くなる中で美鈴は思わず咲夜への言葉を小さく呟く……
・・・・・
(背を向けたまま、咲夜は立ち上がり、美鈴の方へ振り返る・・・・・
そして「・・・・・いつまでもくよくよしていられないわ、私はこの紅魔館のメイドだもの・・・・・」と、いつまでもくよくよしていてはメイドとしてやらなければならないことにも支障が出ると思ってか、咲夜はいつもと同じような雰囲気で振る舞う・・・・・)
パチュリー
「………そう、それなら早速フランとレミィを館内に運んでもらえるかしら?異変は終わったけれどついさっきまで敵として戦ってきたそこの二人や、人喰い妖怪だけに任せるのは心配だし、美鈴は気を、私は魔力を消耗しきっていて疲労困憊といった状況だから……」
パチュリーは敢えて咲夜が過去に呑み込まれないように、復讐に捕らわれた零夜のようにならないように、普段と同じように振る舞い、レミリアとフランの二人を日の当たらないように時間を止めて館内に避難させて欲しいと言う。
美鈴
「(……まさか……アイツの名前をこの幻想郷でも聞くことになるなんて……いざとなれば……私も…………)」
美鈴はかつて見た巨大な漆黒の竜……ハーオスの姿が脳裏を過ると、もし、咲夜と零夜の因縁の敵があの魔竜であるのならば……もし、あの魔竜と挑むことがあるのであれば……自分も相応の覚悟を決めなければならないと拳を握る力が少し強くなる……
かしこまりました・・・・・
(そう言うと、レミリアとフランドールに日光が当たらないように館内へと避難させる・・・・・
レミリアも、そしてフランドールも、咲夜に対してかける言葉が見つからない・・・・・
やっと再開できた家族を、自らの手で葬るということを経験しながらも、いつも通りに振舞わなければならない・・・・・
紅魔館のメイドとして、それしかできないから・・・・・)
霊夢
「……………。」
咲夜の様子を見ながら、手にした大幣を肩に乗せて敢えて何も言葉をかけずにいる。自分は大切な誰かを失った事がない。だから咲夜の悲しみや後悔に真の意味で共感する事は出来ず、慰めの言葉をかけようと、それは全て只の戯れ言に過ぎないだろう。
もし自分があと少し駆け付けるのが速ければ……零夜の侵入に気付けていれば、また別の未来があったかもしれない。だがそれらはもう既に過ぎ去った後の出来事だ。幾ら望もうと確定した過去が巻き戻るわけではない……
零夜が最後に残した銀の懐中時計にはまだ零夜の魔力が残っており、この懐中時計を介して能力を発動させる事で時間停止による体力や魔力の消耗を抑え、魔封のナイフを用いることで能力の使用による反動や消費を大きく抑えることが出来る。
遺体すら遺さずに消滅し、葬式の一つもあげられなくなった零夜の残したナイフと懐中時計……皮肉にも脅威となっていたこれが唯一彼が生きていた証であり、咲夜に更なる力を与えるきっかけとなっている。
・・・・・
(一人の人間として、これからずっと背負ってゆくことになった十字架が、あまりにも大きすぎた・・・・・
零夜の分も生きることで、罪を償うことになるのなら、これからも紅魔館のメイドとして、いつも通りに振る舞いながら生きてゆく・・・・・
が、心の方は今にもバラバラになりそうな程に、本当は辛かった・・・・・)
【回想】
生き別れ、死んだと思っていた零夜と再開したのも束の間、咲夜は自身の手で唯一の家族を手にかけて罪悪感か、それとも過ぎ去った過去を振り返りたいと言う無意識の願望からか、まだ咲夜達の両親が生きていた頃の記憶が蘇る……
そこはのどかな草原の中で、草原の一角では二人の住んでいる小さな屋敷が見え、二人で並んで座っている。
回想の中の零夜は幼い頃のままで、歪んだ憎悪も復讐も何も持っていない優しい雰囲気をしていて、姉と話せるのがよほど嬉しいのかニコニコと楽しそうに笑っている。
零夜
「姉さんの夢は何ですか?」
そんな中、零夜は咲夜に対して夢は何かあるかと聞いてみる。
二人は平和に暮らせる今日と言う日が明日も明後日も、またその次の日も、ずっと続き、普通の人間として生き、普通の人間として終わりを迎えると信じ、未来への希望も夢もあった……
私は・・・・・そうだなぁ・・・・・困っている人をたくさん救う、正義の味方かな!
(まだ誰かを救うということがどれほど大変かも知らなかった幼き頃の日々・・・・・
振り返ってみれば、いつも平和と幸せで満ちていた・・・・・
この幸せを奪われるなんて、夢にも思っていなかったほどに、幼かった・・・・・)
【名前はミスですW】
234:追憶◆3.:2021/03/05(金) 00:11 零夜
「それなら、僕は困っている沢山の人を救う姉さんを守るヒーローになる!!」
零夜は沢山の人を救う姉を守れるような存在になりたいと応える。
この零夜の言葉は嘘や偽りなどではなく、本心から来た願いだった……復讐や憎悪によって狂い、破滅の道とわかりながらも進まざるを得なかった零夜とは驚くほどに正反対の性格。
しかし、この性格こそが零夜の本来の性格だった……
"あの日"が訪れ、全てを失うことになるまでは……
でもそうなるには私達二人とも、まずは努力しなきゃだね!
(いつだって努力を胸に掲げ、頑張っていたつもりだった・・・・・
結局その努力は、いざという時には恐怖に怯んで何の役にも立たないということも、すべてを失ったあの日にわかってしまうまでは、努力すれば守れないものはないと思っていた・・・・・)
零夜
「うん!必ずなってやるんだ……!!」
零夜は目を輝かせ、この頃の零夜は時間操作の片鱗すら無かったにも関わらず、既にある程度の時間操作が出来ていた姉を守れるほどに強くなりたいと心に誓い、弾けるような笑顔で応える。
二人が共に手を取り合って生きていける未来もあった。
真っ直ぐに生きている者ばかりが踏みつけにされる、清く生きようとしている者ばかりが足を掬われる。だが、美しい自然も優しい人の心も存在している。
全てはこの美しい世界に"悪"が蔓延っているからだ。
悪は自らの野心のために平気で他者を貶める。
その悪の頂点の一角を成しているのが
"ハーオス・ジルニトラ"と呼ばれる存在なのだろう。
《カチッ》
咲夜の意識を現実に戻すかのように鳴った小さな音と共に懐中時計の蓋がゆっくりと開く。奇しくも零夜が死亡した瞬間に時計の針が止まり、機能を失っていた銀の懐中時計の蓋が開く。
【紅魔館】
パチュリー
「………レミィ。貴方は今回の件に何か違和感を感じた?」
咲夜が回想をしている頃、少しずつ失われた魔力が回復してきたパチュリーは、零夜の聖銀の鎖によって吸血鬼単体の再生力だけでは回復しにくい鎖の跡や、火傷の後を回復魔法によって治療しながら、今回の件で感じた違和感を相手も感じているかどうかを聞いてみる。
どうやって零夜がこの幻想郷に侵入してきたのか…
零夜の言っていた"アイツ"とは何物なのか…
何故自分達の弱点や性質を知っていたのか…
様々な疑問が拭いきれぬ違和感となっている。
・・・・・
(精神的に多大なショックを受けた咲夜は、零夜の形見である懐中時計が開くのを見れば、視線をゆっくりとそちらの方へと向ける・・・・・
今の咲夜は、一人だけの時はもはや放心状態とも言えるほどに、物言わぬ骸のごとくただただ懐中時計を見つめるだけとなっていた・・・・・)
感じたも何も、違和感しかなかったわよ・・・・・
(そう言うと「そもそも、あの男の血をどこから入手したかっていうのが一番気になるわ・・・・・あの男は確かに先代の博麗の巫女に
倒されたはず・・・・・なのにその血が未だに存在していたことを踏まえると・・・・・これはちょっと、天変地異の前触れかもね・・・・・」と言い)
『Extreme hopes are born from extreme misery』
開かれた懐中時計の蓋の内側には
「究極の希望は究極の苦難から生まれる」
と言う英国の諺が刻まれており、それは苦難の中からも希望を生み出したかったと言う零夜の考えや、苦難と苦痛に満ちた中でも全てに絶望して自らの命を絶つのではなく、姉との邂逅と言う信念(希望)を持っていた。
ある意味では最後の最期で求めていた姉の腕の中で息絶えることが出来たと言う悲しい希望を示しているのと同時に、咲夜を勇気づけるかのような言葉でもある。
自分が消え去ろうとも、姉には笑顔でいてほしい。
それは零夜の最後の望みであり、最後の希望だった。
どんな悲しみや苦難に満ちた中であろうとも希望を見出だし、絶望に、苦悩に打ち勝って欲しいと言う彼の意識の現れなのだろう。
ーーーーーーーーーー
パチュリー
「……彼を私達にけしかけた何者かが存在していると考えるのが妥当ね……それもこの幻想郷を……私達のことをよく知っている存在が手引きしていたのかもしれない……」
パチュリー
「……これが単に私の思い過ごしならそれで良いのだけれど……今回の一件の裏には更に巨大な悪……それこそあの男と同等かそれ以上の存在が潜んでいる」
パチュリーは壁に背を預け、周辺を見渡して他には誰もこの話を聞いていないであろうことを確認すると言葉を続ける。
パチュリーの脳裏にはルーミアの姿が浮かんでいる。
ルーミアはヴァルターと同じ闇を操る力を持ち、チルノや大妖精のように霧の湖やその近辺に住んでいる訳でもないにも関わらず、まるで何かを探しているかのように館の側にまで来ることが多く、"封印されている"状況にある事から、彼女の本性や本心がどのようなものなのか、過去にどのような存在であったのかも謎に包まれている。他にも疑問な点は幾つも考えられる。
加えて、ルーミアの闇玉によってレミリアとフランの二人を日光から遮断していた際も、ルーミアの操る闇からは何処かヴァルターに近い魔力が感じられた。もし、ルーミアが巨悪と繋がっていた場合、館の部外者であるにも関わらず、幻想郷の知識を持ち、館周辺にまで来ていたことの説明も出来る……
・・・・・っ・・・・・
(零夜が託してくれたメッセージに、咲夜は涙がこぼれて溢れてくる・・・・・
究極の苦難が正に今なら、これから見合った究極の希望が見えてくるのだろうか・・・・・
今の咲夜は、零夜の死に対する哀しみでいっぱいだった・・・・・)
・・・・・もしかしたら、もうこの幻想郷内にいる可能性もあるってこと・・・・・?
(レミリアもパチュリーと同じく、今回の件には何かが絡んでいるであろうことを察してはいた・・・・・
かつてヴァルターが先代巫女と戦った時と同等か、それ以上の波乱と災いが訪れる・・・・・
そんな気がして仕方が無い・・・・・)
パチュリー
「ええ、そう考えるのが自然ね……私の推測が正しければあの宵闇妖怪がそうなんじゃないかと考えているわ。」
パチュリーは明確にルーミアが内通者なのではないかと口にする。
様々な不鮮明な言動や、奇しくも"あの男"と同系統の能力であると言うのが大きいが、中でも今日改めてルーミアが作り出した闇玉から感じた力が同質であった事が一番の要因となっている。
これが本当なのかどうかはまだ定かではないものの、この幻想郷内に内通者が潜んでいるというのは紛れない事実だろう。
・・・・・あの男が生きている頃から、もしかして関係があるのかしら・・・・・
(ルーミアの能力はあの男に似ていること、パチュリーが有力視していることも踏まえて、レミリアもあの男が生きていた頃から何かしらの関係があったのだとしたらと考え始める・・・・・
零夜と比べれば、ルーミアと戦った場合はまだ勝つのには苦労しなさそうではあるが・・・・・)
パチュリー
「それはわからない……けれど、どうするかは貴女が決めて頂戴。
正体を判明させるために迫ってもいいし、少し泳がせて様子を見るのもいい。私は貴女に合わせるわ。」
普段図書館に籠って読書をしている自分にとってずっと立って話をしているのは少しばかりしんどいため、傍にある壁に背を預けると、ルーミアについての考察や憶測は現状ではまだに推測の域を出ない事からどうするかの判断は相手に任せると言う。
ルーミア
「……あ!貴方達も回復したんだね?よかったぁ!!」
そんな中、今まさに疑惑を向けられていたルーミアがひょこりと顔を覗かせてレミリアとパチュリーの様子を見て、もう回復している事を知り、笑顔になって安心する。
霊夢と魔理沙は美鈴から零夜についての情報を聞いて彼が何処からやって来たのか、何故この館を狙ったのか等についての議論をしているようで、三人はこの近くにはいない。
不意を突いた時間操作であった事から零夜には遅れを取ってしまったものの、吸血鬼の中でも高位の実力者であるレミリアの身体能力であればルーミアを容易く始末する事も出来るだろう……だが、今のルーミアからは微塵も邪気や悪意を感じられない………これは単に隠しているだけだろうか……?
えぇ、そうさせてもらうわ・・・・・最悪の場合は、この手にかけることも・・・・・
ぞわっ・・・・・
(この手にかけることも、その後に「躊躇わない」と言葉を続けようとした次の瞬間、ルーミアがタイミングを見計らったかのように現れたことでレミリアの背筋に寒気が走る・・・・・
この笑顔がただただ純粋な笑顔なのか、それとも何か裏があることを隠している上での笑顔なのか、どちらなのかが判別できないルーミアの笑顔に得体の知れない恐怖を感じながら、それを隠すかのように「えぇ、なんとか回復できたわ・・・・・」と、できるだけ自然な微笑みに見えるように表情を作って言葉を返す・・・・・)
パチュリー
「それじゃあ、私は図書館に戻るわ。
まだ読みかけの本も沢山ある事だから……ね……?」
ルーミアを見てからレミリアへと視線を移すと、「後は任せた」とアイコンタクトを送ると、パチュリーは右手をヒラヒラと振りながら振り替えること無く自分の図書館に向かって歩いて帰っていく……
ルーミア
「吸血鬼は日光に弱いんだよね?私も陽の光は嫌い。
光に当たると髪や肌が荒れてしまうし、何よりも眩しくて……でも吸血鬼に比べたら大したことは無いと思うけれどね。
そう言えばこうして話すのは始めてだったね!
私の名前はルーミア!宵闇の妖怪だよ!」
ルーミアはパチュリーが去っていくのを手を元気に振り返して見送ると、始めて話せたからか、目を輝かせてレミリアの前に楽しそうに歩み寄ると、自分も太陽が嫌いだと言うことや、自分の名前について話し始める。
レミリアが寒気を感じた事を露知らず、満面の笑みで話し始めるその様子は第三者から見ると姉妹が話しているようにさえ見えるのだが、その内心ではどう思っているのかはわからない……
えぇ、またね・・・・・
(レミリアはアイコンタクトで「わかった」と返してパチュリーを見送れば、ルーミアの方へと視線を戻して「そういえばそうだったわね、私の名前はレミリア・スカーレット、よろしくね」と自己紹介をして、手を差し出して握手を求める・・・・・
フランドールの笑顔も時々、どんな本心を内に秘めているかわからない時があるが、ルーミアの笑顔はそれ以上にわからなくさえ感じる・・・・・)
ルーミア
「よろしくね、レミリア!
それじゃあ、私は邪魔にならないように帰るけど、また会おうね!!」
ルーミアは満面の笑みで上機嫌のまま両手でレミリアの手を包むように握手すると、館から去ろうとする。二人は初対面である筈にも関わらず、何処かで会ったことがあるような感覚を覚えるのだが、レミリアの脳裏に残っているのは"あの男"やその取り巻き、劣悪かつ醜悪な世界についての記憶が大半であるため、下手に思い出そうとすれば、二度と思い出したくない忌まわしい過去を辿ることになってしまうだろう……
・・・・・えぇ、また会いましょうね・・・・・
(下手に何かしらを聞き出そうとすれば、ルーミアがもしもあの男と関わりがあった場合、今はもうあの男がいないにせよ何にせよこちら側が不利になるのは明白・・・・・
レミリアは、また会いましょうねと言いながら、小さく手を振りルーミアを見送る・・・・・)
《バタン》
ルーミア
「……………ふふふ……」
レミリアの前から立ち去るために開けた扉を通り抜けた後に閉め、閉めたドアに背を預けると、ルーミアはレミリア達から見えなくなった事を確認すると、隠れてクスりと笑みを溢す。
その笑みの裏側にあるのは悪意ある企てか、それとも……
ぞわっ・・・・・
《またこの寒気だわ・・・・・真意がつかめないあの笑顔・・・・・どんな意味があるのかしら・・・・・》
(ルーミアが去った後でも、得体の知れない寒気を感じてはあの笑顔にはどんな意味があるのだろうかと、不安がよぎる・・・・・
たった今ルーミアと別れたものの、今この時もルーミアが自分たちを陥れるために暗躍し始めていたとしたら・・・・・
それに、ルーミアが今回来たことで、もし敵側だとすれば視察も十分に出来たかもしれない・・・・・
そう思うと、ルーミアに対する不安が拭えない・・・・・)
【紅魔館 玄関ホール】
魔理沙
「あーあ、結局は私達が解決するまでもなく終わったな。
しかも、どうやって幻想郷に侵入した方法も検討がつかないと来た。これ以上は私達からも動きようがないな。」
レミリアとパチュリーの二人が話している中、霊夢と魔理沙の二人は美鈴から零夜の襲撃や、決着の様子まで聞いてみたものの、どうやってこの幻想郷に侵入したのか、何故この幻想郷の場所を知っていたのかについては不明であり、異変そのものも自分達が本格的に介入する前に終わったため、不完全燃焼のままでいた魔理沙が少し愚痴を言う。
霊夢
「もしかしたら……いえ………そんな事は………でも………」
魔理沙
「……?
もしかして何かわかったのか?」
霊夢に備わった博麗の巫女としての勘がこの異変の裏に渦巻く黒幕や、零夜の侵入経路、その方法についてまである程度の推測を作り上げられるように導いているのだが、これはあくまでも可能性の一つであり、万が一これが真実であった場合、幻想郷そのものが黒幕の掌の上である事を意味してしまう……
霊夢
「………なんでもないわ。少し深読みしていただけ。
何の確信も確証もないただの考察よ。」
魔理沙
「お前の勘はいやに当たるから考察でも何でもいいから聞いてみたいが、どうやら今はあまり話したくはない内容みたいだから気が向いた時にでも話してくれ。」
どれだけ入り組んだ複雑怪奇な異変であっても真実や元凶の元へと辿り着く事が出来る巫女の勘の的中率は魔理沙もよく知っており、完全な的はずれな意見を口にする筈もないと思いその考察内容を聞こうとするものの、何かを悩んでいるような霊夢の表情を見て、また話したくなったらでいいと言って大人しく引き下がる……
いえ、話してもらいたいわ・・・・・今すぐに・・・・・
(霊夢と魔理沙の会話にいきなり介入してきては、今すぐに話してもらいたいと告げる・・・・・
霊夢が話すことをしぶるその内容が、自分自身が抱く嫌な予感とシンクロしているような気がしたのか、お互いが抱いている不安がどれほど合致するのかを確かめたいのだろう・・・・・)
魔理沙
「うわ!聞いていたのか?」
霊夢
「………これを聞けば貴方ももう後戻りは出来ないわよ?
知らなかった頃には戻れなくなる……」
魔理沙は気づかなかったのか、突然姿を見せた相手に驚くものの、霊夢はさほど驚いた様子はなく、考え込んだ様子のまま、知ればもう後戻りは出来ないぞと念押しをする……
私を誰だと思っているの?覚悟なら、もうできているわ・・・・・
(霊夢の聞けばもう後戻りはできないという忠告に対して、レミリアは即答で覚悟ならもう出来ていると言葉を返す・・・・・
だが、やはり心の奥底には恐怖や不安が根付いてしまっているのか、頬を一粒の冷や汗が伝って、わずかではあるものの足が小刻みに震えている・・・・・)
霊夢
「……そう、それなら話すわ。
誰だったかは詳しくは思い出せないけど、私が巫女になって数日目辺りで幻想郷の賢者の一人から外の世界には七つ存在する巨大な闇の勢力が存在しているそうよ。」
覚悟は出来ていると応えるレミリアに対して霊夢は世界の闇に蔓延る七つの巨悪について話していく。霊夢の記憶は紫が一時期新米巫女だった霊夢を鍛える際に話していたものの一部なのだが、犲狼を倒した後に紫に関連する記憶を消されているため、紫から聞いたことを思い出せていないものの、その内容や訓練によって身に付いたスキルは鮮明に覚えている。
霊夢
「奴らは何百千年も前から人間社会に溶け込み、世界各地で戦争や紛争、民族対立や宗教対立を巻き起こしたり、意図的に災害を引き起こす事で莫大な負の力を生み出し、自らの糧として来た奴ら……
科学が発達し、妖怪や神々が否定されたり忘れ去られ、消滅したり幻想郷に流れて来ているにも関わらず、忘れ去られる事も消滅する事もなく、中世の頃と変わらず血生臭い闇の世界に君臨し続けている七人のろくでなし共……」
人類の歴史は戦争の歴史や災害との戦いの歴史であるとも呼ばれているが、そうなるように仕向け、絶えず世に混乱と争乱を巻き起こし続けている者達が存在しているのだと口にする。突拍子も無いような内容だが、人類が何故、何百年、何千年経っても同じ過ちを繰り返すのか、何故争いを無くしたり完全に災害を防ぐことが出来ないのか……その真の理由について話していく。
霊夢
「まるで一本の大樹から伸びる根のように世界各地の裏に勢力を広げ続け、栄養(命や力)を奪い続ける横繋がりの七人の極悪人。それを私達は『悪の根(ヴァイスリゾーム)』と呼んでいるわ。」
霊夢は淡々とした口調だが、世界中に存在するあらゆる悲劇の裏にはヴァイスリゾームと呼ばれる七つの組織の連合体が存在しているのだと語る。これが本当ならば、幻想郷が成立する以前……妖やそれを狩るための退治師しかおらず、幻想郷と明確に区分される前から暗躍している組織、勢力がいるのだと言う事になる。
・・・・・ヴァイスリゾーム・・・・・
(数多の悲劇や混乱の全ての諸悪の根源である存在の名前を聞き、レミリアは背筋に寒気が走る・・・・・
この幻想郷が生まれる以前から存在し、裏で災いをコントロールして恐怖の対象として人知れず君臨していたという話を聞けば、いずれ自分達はその巨悪と対峙することになるという恐怖心からか、自然と体が震えてくる・・・・・)
霊夢
「奴らは元々強力な力を持った悪党だったのだけど、生み出した負の力を取り込むことで更に勢力を、戦力を強化し続けた事で外の世界だけじゃなく、地獄や魔界、夢の世界なんかの全世界にまで影響を及ぼすほどに成長し、他の追随を許さないほどの勢力になった……」
底無しの強大な力を生み出すのは破滅を伴う"負の力"
怨念や憎悪、復讐等の感情から生まれる力は無能力者だった零夜に生粋の能力者であった咲夜のものを凌駕しうるほどの力を開花させていた。
事実、憎しみや怒りを原動力した場合、限界を超えた力を発揮できる事が多い。だがヴァイスリゾームは自分達がその感情を抱くのではなく、他者の生み出した負の力を自分達のものとして取り込むことで勢力を拡大させて来た……
霊夢
「この世界が……各地で惨劇が繰り広げられる度にヴァイスリゾームは強くなる。こいつらの言動は"乱れ"よ。この世界が乱れれば乱れるほどに潤う。逆に平和は一番の忌み嫌うもの。世を乱れさせたいのならどうすればいいと思う?」
平和が訪れてしまえば負の力も低迷してしまう。
それを防ぐためにヴァイスリゾームは様々な形で暗躍し、耐えること無く惨劇を、悲劇を生み出し続け、世を乱れさせ続けている。
この世に蔓延る悪達は自らの意思でなくとも、様々な惨劇や悲劇を巻き起こすことで間接的にヴァイスリゾームを支援し、彼らが増長する手助けをしていた事になってしまう……
世界の裏に蠢くあまりにも大きすぎる悪の軍勢、闇の勢力……
今回の異変の根底にはその世界の闇が大きく関係しているのだと言うことを霊夢は告げている……
その理由は意外と単純だ。
零夜を咲夜に恨みを持つように仕向けて争わせる事で例え零夜が死亡しても咲夜やレミリアの生み出した負の力を吸収することが出来る。
自分達は安全な場所から見ているだけで莫大な負の力を得ることが出来る……世界規模の悪であれば当然世界中の情勢や地形も把握しており、この幻想郷についての伝承や情報を集める事も可能だろう。
あるいは……"幻想入りした内通者"を介しているとも考えられる……
・・・・・まさか、最初から今回の件は・・・・・咲夜の弟がこうなるように奴らが仕向けたっていうの・・・・・?全て計算の上で・・・・・?
(突如として家族が襲われたことで咲夜は恐怖で逃げてしまい、それを零夜が家族を助けることよりも逃げることを咲夜が優先したと思って恨みを抱いたことが今回の件の主な原因だった・・・・・
ということは、その襲撃も何もかも含めて、全てヴァイスリゾームの計算通りだった可能性がある・・・・・いや、それしかない・・・・・)
霊夢
「……まだ推測の域だけどね?
もっとも……流れて来たのならばいざ知らず、個人の力で意図的にこの
それも、他には誰にも見付かること無く、真っ直ぐに目的のアンタ達のいる場所に来れた事の理由としてはこれが一番しっくり来るのよ。」
通常、この幻想郷の位置がわかったところで意思を持たぬ物や意識が極端に薄れているものしか結界を通り抜ける事が出来ないにも関わらず……それもかつての吸血鬼異変のように強引に結界を抉じ開けた訳でもなかった……
その事から何らかの方法で一時的に結界に干渉して結界の綻びを作り出して通り抜けたのではないかと考えているのだが、それをするためにはこの結界に精通した者、或いは結界の性質を理解している者しか出来ない筈だ。
霊夢
「……もっとも、アンタの父親もヴァイスリゾームの一角であったらしいからその辺りも何かしらの影響を及ぼしているんじゃないかと疑っているのだけどね?」
怪しいと言えば、つい数日前に紅霧異変を引き起こしたレミリア達を完全には信頼したわけではないためか、ヴァイスリゾームの一角を成すヴァルターの忘れ形見であるレミリア達がタイミング的に何かしらのきっかけを作ったのではないかとも考えている……
霊夢
「……まだ推測の域だけどね?
もっとも……流れて来たのならばいざ知らず、個人の力で意図的にこの幻想郷に来れたとは考えにくい……
それも、私に結界の異変を感知される事もなく、他に誰にも見付かること無く、真っ直ぐに目的のアンタ達のいる場所に来れた事の理由としてはこれが一番しっくり来るのよ。」
通常、この幻想郷の位置がわかったところで意思を持たぬ物や意識が極端に薄れているものしか結界を通り抜ける事が出来ないにも関わらず……それもかつての吸血鬼異変のように強引に結界を抉じ開けた訳でもなかった……
その事から何らかの方法で一時的に結界に干渉して結界の綻びを作り出して通り抜けたのではないかと考えているのだが、それをするためにはこの結界に精通した者、或いは結界の性質を理解している者しか出来ない筈だ。
霊夢
「……もっとも、アンタの父親もヴァイスリゾームの一角であったらしいからその辺りも何かしらの影響を及ぼしているんじゃないかと疑っているのだけどね?」
怪しいと言えば、つい数日前に紅霧異変を引き起こしたレミリア達を完全には信頼したわけではないためか、ヴァイスリゾームの一角を成すヴァルターの忘れ形見であるレミリア達がタイミング的に何かしらのきっかけを作ったのではないかとも考えている……
もういっぺん言ってみなさい?速攻首を消し飛ばしてやるわよ・・・・・?
(確かにヴァルターの血を受け継いだ子供であり、ヴァイスリゾームとは完全に無関係とは言い切れない立場であるのは事実だが、だからと言ってあの男、ひいてはその仲間達と同じように扱われるのは心の底から怒りが湧いてくる・・・・・
レミリアは、声を荒らげてはいないものの、その言葉からは霊夢に対する怒りが感じられる・・・・・)
霊夢
「へえ…言うじゃない?なんなら、もう一回倒してあげましょうか?」
魔理沙
「おいおい、お前らがぶつかったら今度は本当に館ごと全員吹き飛ぶぞ?そのへんにしておけって、な?」
霊夢はヴァイスリゾームやヴァルターを直接見たことが無いため、どこまでも推測するしか無く、詳細な見分け方もまだわからない。だからこそ警戒心を強めているのだが、口下手な霊夢はそれを丁寧に説明するのではなく、挑発するように言葉を返してしまう。
博麗の巫女と高位吸血鬼のレミリアが本気でぶつかれば自分はともかく、この館にいる者達の命が危ないと思った魔理沙が霊夢とレミリアの間に割って入って二人に愛想笑いをしながら辞めるように言う。
・・・・・それもそうね、その減らず口の巫女の息の根ならいつでも止められるし・・・・・
(魔理沙の言葉を聞けば、確かに魔理沙の言う通りだと思い、それもそうねと言う・・・・・
確かに今自分がここで怒りに身を任せて霊夢と対峙すれば、周りへ被害が及ぶ・・・・・
レミリアからすれば博麗の巫女と言えど霊夢は所詮減らず口のただの人間、消すにしても今でなくてもいいと判断する・・・・・)
霊夢
「あ?」
魔理沙
「おい!だからやめろって!」
挑発を続けるレミリアに対して更に苛立った霊夢は肉体的なダメージが比較的少ない御札ではなく、退魔用の針を三本、指の間に挟むようにして持ち、臨戦態勢に入り、レミリアにも挑発するような言葉は言わないでくれと頼む。
あら、怖い怖い・・・・・博麗の巫女は短期ねぇ〜・・・・・
(魔理沙が止めに入ってもなおレミリアは霊夢を挑発するような言い方を続ける・・・・・
もはやレミリアも意地で言っているとしか思えない・・・・・)
【紅魔館 上空】
紫
「………この幻想郷が誕生した時から今まで、幾つもの備えを用意してあるのだけど……まさか"このタイミング"で動き始めたなんて……これが混沌と破滅に満ちた終焉となるか……それとも…………」
霊夢の頭でブチッと何かが切れるような音が起こると、激情に任せて「いい覚悟ね?なら今度は本当に退治してあげるわ!!」と言い、零夜の最期の能力で修復された紅魔館の一角が吹き飛ぶような戦いが展開される事になる中、紅魔館の上空に開かれたスキマを通じて館の様子を伺っていた紫が誰にもと無くポツリと呟く……
紫
「………願わくばこれが新たなる世界……永き闇夜を打ち払う夜明けの光明となる事を祈っているわ………」
霊夢とレミリアの戦いが始まりそうになったところで気取られぬようにスキマを閉じ、無数の目が存在するスキマ空間の中を漂う道路標識の一つに腰かけて観察していた紫はまるで祈るかのように目を閉じ、天を仰ぐように顔を上げ、夜明けの到来を求めて呟く。
後に親友の幽々子の命と幻想郷の命運を天秤にかける決断を迫られ、名目上、一部記憶を消した霊夢の前に始めて姿を見せ、一戦を交える事になる春雪異変の到来をこの時点で予知していた……
生き別れた二つ夜と、それぞれの想いが交錯する譚はこれにて終幕。
だが、幻想郷を…この世界を覆う永く、冥く、冷たい夜はまだ始まってすらもいなかった事を後に幻想郷の者達は知る事になる………