思い付いたら単発気味にぽちぽちやっていきます。
基本繋がらない、ゆるゆるしてるのかシリアスなのか、そもそもなんなのかよくわからない話。
いいんです、自己満足だから。
はじめる前に、まあ、一文だけ。
その山には、天狗の一家が居るのです。
[第一和。 私、天狗です。]
木の大枝に股がって、うつ伏せに寝転がって眼下を眺める。
こうしていると風が通り抜けるのと、木の葉の擦れる音が聞こえるのです。
眼下の道では、山彦・呼子姉妹の小さな喧嘩が起きています。
私から見ればどーでも良い、しかし彼女達にとっては重要な問題が。
止めないのですかって?
遠目の見物は楽しいですよ、
「ああ、馬鹿やってますねぇ」
そんな風に思えてきて。
ん?
他人の不幸は蜜の味、というのとは、また違うのですが……
単純に面白いだけなんですけどねえ、まあ、その解釈でも合格点をあげますよ。
性格悪いなあ、って?
まさかあ、我々程人間らしい妖怪も居ないでしょう。
おや、あの姉妹、行ってしまいましたか……
もうちょっと、いがみ合ってるのを見てるのが楽しいんですけどねえ。
「おお、北山のオヤジさんのお嬢ちゃん!」
おや、高い高度を飛ぶあの方は……祟徳上皇ではないですか!
元人間ではありますが、死後天狗となった名高い天狗なのです。
元人間風情の天狗と考えると、眩しい位置から見下ろされるのは酌でございます。
私も枝を蹴ってそちらに参りますか、やや低い位置までにしておきますが。
「おやおや、これは上皇様。 珍しいですねえ? あなたが此処にいらっしゃるなんて」
にこにこ、にこにこ。
心の中でどう思っていようと、見かけ上身分上媚びへつらうのは大事です。
「なぁに、旧友の娘の顔を見れたら、とね。
相変わらずの漆黒の翼だね、体に似合わない大きさだけど」
「それは光栄でございます。 えへへ……早く体の方も、翼に追い付けば良いのですが」
まあー、確かに父に劣らぬ大きさではありますよ。
私の自慢の翼です。
ちょっと大きくなりすぎた感ありますが、大きなことは良いことです。
父の鼻は男らしく、大きく太く長いですし。
「いやーでも、身長としては小柄でも出るとこは出てるだろう?
黒く艶のある短髪も、琥珀の光を閉じ込めたような目も、両親譲りなのだろうな、うん」
こんにゃろう……って、いけないいけない。
スマイルスマイルですよ、天狗の子。
「あははは、知ってます? 人間さんのこんな言葉
……セクシャルハラスメント、縮めてセクハラ」
私が笑顔でそう言うと、御相手様は「まいったな」と言うように肩をすくめて、
「生憎、英語はからきしでね。 今は妖怪に興味が有るもんだから」
自分と異なるものに興味を示す良い例ですねえ。
「あっ、そうだ。 白狼天狗……いや、木の葉天狗だっけ?
とりあえず、君を探してたよ、彼」
「ああ、あいつですかぁ」
あいつには「様」だの「さん」だのはつけません。
だって私よりは下だもの。
「じゃあ、そろそろ行ってあげますかねぇ」
「あんまり苛めるなよ?」
「いやあ、からかうと面白いもので
では、これにて失礼させていただきます
あなた様のお旅が良いものでありますよう」
決まり文句と一礼さえちゃんとしてれば、面倒にはなりません。
これ当然ですね。
さてあいつのとこに行きますか、と、私は翼を羽ばたかせる。
「ああ、じゃあまたな、梵ちゃん!」
「……だから、」
でも、父からの名を、そんな呼び方は許せません。
「梵、天、丸、です!」
吐き捨てるように加速していく。
私は烏天狗、あいつよりも上で上皇様よりずっと下の身。
とある武将の幼名を持つ娘。
[第二和。 地域密着型天狗]
視界良好、風も心地好く、やっぱり空を飛ぶのは爽快ですねー。
「まあ、それはいいんですけど……うーん」
あいつはどこですかねー。
どうせこの辺りの人里なんでしょうけど……
ほら! ほら居た! やっぱり居ましたよ。
人間のおっさんにまじった白い狼の頭が。
あーあー、畑仕事なんかして……
* * * * *
私は下等な天狗だ。
いや、天狗と呼べるかどうかも危ういのだ。
人間相手に働いて、上の方々の使うお金を稼ぐ、そんな存在なんだ。
ああ、額を拭っても、どこをどう拭っても泥が付く。
こんな姿を見られたら、あのお方に嘲笑われることだろうな……
しかし。
「いやぁ、ありがとなあ柳田さん!」
「下手な若い衆より助かるわあ」
この方々は同じ、泥だらけの顔で笑ってくれる。
「いや、皆さんに比べたらまだまだであります。」
「いやーいい筋してるよ? なんなら今の仕事がクビになったら、ウチに養子に来るといい!」
でも笑えない冗談を言うのだけは止めてほしいのであります。
「あっ、今日の分のお駄賃ねこれ」
「おお、ありがとうございます!」
「ほんじゃ、ちょっと休んで行くといいべ」
「いんやダメだろー、ほら……」
「?」
彼がクックッと笑って指す空には、あの方がいらっしゃった。
髪をいじりながら、不満げに。
いやいや何故不満げなんだ、貴方がとっとと飛んで行ってしまうから、私を置いて行ってしまったんじゃないか。
探してみたは良いものの、みつからないんじゃあ意味がない!
そうこうしている内に仕事の時間になって仕事場に急いで行って働いて泥だらけになって……
……と、よっぽど言いたくとも、彼女は年下でも目上なのであります。
例え理不尽でも、のたれ死にたくなければ謝罪が第一であります。
* * * * *
「私を探してたんじゃなくて、畑仕事ですか? 柳田」
「ハッ。 ……申し訳も御座いません」
民家の屋根に腰掛けて見下ろす先には、私よりも下の位の白狼天狗。
人間さんは木の葉天狗とも名付けてましたね。
しっかし本当、態度良く伏せてますよねぇ。
位の割に品はある分、土汚れが残念です。
「白」狼天狗とはなんだったのか。
「まあ……だいたい想像は付きますけどねえ
置いてったのは悪かったですけど、速く飛べる努力とかしてないんですかぁー」
「は、はあ」
我ながらむちゃくちゃですかな。
柳田は狼の頭で体格も大きいけど、翼は並の大きさ。
重い体で私程の速さで飛べる筈もない。
それを知ってて言うんですけどね、やっぱ面白いもんで。
この、歯を噛み締めて耳を垂れてる様が。
「ま、良いでしょう。 私も楽しかったですしね
帰りましょう」
「ハッ。 り、了解であります」
私が屋根から地に降りると、柳田は少し後方になるように横を歩く。
うんうん、それで宜しい。
「しっかしー、仮にも山を統べる天狗ともあろうものが、そんなに泥やら土やら付けちゃって……」
「わ、私が山を統べる妖怪だなんてとんでもない!
それは神格化され、崇め奉られる北山紅葉坊の頭領……貴方様のご両親のような方々に与えられし称号です
私のような者には、とても」
「……」
謙虚なのか裏があるのか、よくわからないんですから、もう。
「そんなしょんぼりすんじゃないですよ
人間にとって最も身近で親しみやすいのは、柳田みたいな妖怪なんですから
お前はきっと飛ぶよりも、腕っぷしの方が有るんでしょうね」
「それは端くれとはいえ、天狗としては複雑なのですが……私、誉めて頂いてるのでしょうか?」
「さあ? とりあえず、照れるか怯えるか戸惑うかどれかにしなさい」
「申し訳ございません」
「うん、素直で宜しい。」
父もいい拾い物をしましたねー、お出掛けには悪くない護衛です。
目が良いし、鼻も良いし……笛で来るしな。
こうやって頭を撫でてやるとモフモフしてますし、なんか嬉しそうですし。
「そういえば……恐れながら、ひとつお聞きして宜しいでしょうか?」
「許可します」
「では、お聞きします
私が置いてかれ………いや、居ない事にお気づきでなかったのですか?」
「何馬鹿いってんですか、気付いてましたっての。」
「ですよね……」
『まあいっか、と思われたんだろうなあ……』
って思ってるんでしょうねー、この顔は。
[第三和。 翼の事、昔の事 前]
「ええ、お休みなさい」
そう言って父の居る枝から離れ、いつもの枝に飛びます私。
我々天狗は背中に翼が御座います、よって寝そべって寝ることは不可能。
まあ、翼をしまう事も出来無くは無いのですが……
力の弱いものはその技術が無いですし、強すぎるものは逆に納めるのが大変だったりします。
そもそもこの翼は人が言う、妖力の量に比例した大きさになり、いわば力そのものであるのです。
頻繁な出し入れは体によくありません、人間さんで例えるなら血を出し入れするようなものなんです。
それに寝ている間に何かあっては大変ですし、すぐ行動できるよう、出しっぱなしが一番で御座います。
だからこのように、枝に跨り幹を背にもたれて眠るのです。
落ちないか? 野暮な事を聞きますねぇ、そういうのは馬鹿が落ちるだけです。
それでは、お休みなさい。
「……すぅ」
今日は暖かい夜だ、こんな日はよく眠れる。 長い夢だって見れるのです。
そう言えばあの頃も夏だったな。 気温に関わらず汗をかいていたっけ。
……何で汗をかいてたんだっけ?
「い……おい、」
ああ、これは昔の事だ。 だっていま頬を張られた。 痛かった、じんじんしてた。
ていうか、殴っただけで壁まで吹っ飛んだりしますか?
それはこの頃の私が今以上に軽かったのか、この鬼の力がそれ程強かったのか。
はて、多分両方ですかね。
「おい! 戻ったと思ったらなに寝てんだ烏! 北方の伝達に支障が出たらどうする!」
「もっ、申し訳ありません」
あーあー、嫌だなあ、あんな態度の自分。 見るのも疲れるし惨めだし、何よりムカつくし呆れるな。
日本の開国と共に流れ込んできた西洋人、それとともにやってきた西洋妖怪。
日本の戦争がはじまったのと同時に、火蓋を切った東西妖大戦。
ただでさえ妖怪中でも仲が悪かったのに、そんなもんが来るもんだから……ああ、もう。
当時はまだ鬼の力が強く、天狗の時代が始まったばかり。 河童なんてもっと後。
烏天狗として生まれていた私はまだ小さく、下等だった。
父の治めていた山には鬼が蔓延り、彼らと同等に扱われたのは父と一部の者たちだけ。
私の扱いは一言え言うなら――
「伝書鳩!」
ああ、これ、これです。 私、怒りマークがついてます。 顔だって引きつります。
御察しの方もいるでしょう? この頃はまだ弱いとはいえ、速さだけは一級品の私ですもの。
おまけにまだ幼く従順です、情報伝達悪にはもってこいの逸材です。
だからって……伝書鳩はいかがなものでしょうかね! ね!
私のプライドずったずたですよ! 十文字斬りに大文字斬りを加え、さらに斜めに裂いた位にはズタズタです!