____この学校には、見る者全てを魅了するほどの美少女生徒がいる……
最近ここ、小堺学園で囁かれる有名な話だ。
あくまで「噂」ではなく、本当の話………
その証拠に、今日も屋上の一角にはたくさんの人だかりができている
「おい……見ろよあの子!」
「わあ……!
噂通りだな………美少女って………」
頬を赤く染めた男子生徒たちの目線は、すでに一点にしか向いていない
男子生徒だけではない
屋上に集まっている者皆が皆、その一点を食いつくように見つめている
皆の視線が行き着く先を辿ると、日陰の隅に横たわっている体が目に入る
………そしていま、その体がむっくりと起き上がった
___太陽の光を受けて輝く、白金の長髪
長い睫毛の下に覗くのは、髪と揃った色の、金剛石のように煌めく、大きな瞳
雪のごとく真っ白な肌を一層際立てているのは、この紅の唇だろうか
「ふぇ…」
小さく首を傾げ、今おかれている自らの状況を考えているようだ
そして、そんな姿さえも愛らしい
小柄で可愛らしい体つきをしているが、胸だけは大人顔負けの大きさだ
「………みんな……?
どうしたの?」
固まっている周りを見て、少女はまた首を傾げる
今度は、人差し指をほおに当てて。
「「か…………」」
「蚊?」
「「可愛いいい!!!」」
……
………確かに、少女の美貌は全校生徒をも魅了してしまうもののようだ。
「ふ、ふぇ?
僕、可愛くなんかないよ………?」
…おまけに無自覚といただいた。
鈍感少女なんだな。きっと。
_______少女の名は、岡本アリスと言う。
この少女が主人公ならば、周りはモブ。
アリスきっと、イケメンに囲まれながら逆ハーレムのような日々をすごすのだろう。
将来は美男と幸せに暮らしたり………ロマンチックな展開も、あるかもしれない。
が。
…………誠に残念ながら、岡本アリスは主人公ではない。
そう、その頃。
アリスがちやほやされてるちょうどその頃、等の主人公は…………
「ぶぇっくしょーい!!」
胡座を掻きながら、ゲームコントローラーを握っていた。
紺色のコントローラーから、コードを伝って繋げられた箱型テレビ。
この二つのものの共通点は、どちらも薄汚れていることだろうか。
……箱型テレビの画面は今はまだ真っ暗で…………画面の目の前にいる少女の姿を、映し出している。
「………フン」
その姿を鏡代わりマジマジと見て、少女は憎々しげに鼻を鳴らした。
少女が首を動かすと同時に、画面に映ったその姿もまた首を動かす。
「どこの落ち武者かと思ったら、アタシかよ」
(女子とは思えないほど)ドスの聞いた低い掠れ声で、ため息混じりに少女は呟いた。
______ピョンと、ところどころ跳ねた黒髪。
その髪が地味に茶色がかっているのが彼女の自慢らしいが、正直どうでもいいと思う。
肌は白めで、よく言えば色白、悪く言えば不健康と言ったところだろうか……
瞳は淀んだ黒、やる気のない半開きの目………
アンハッピーセットで、隈と青白い唇も付いてくる。いらねーよ。
服装は、上はジャージ、下はスカート_____本人いわく、シワは入れないように常にアイロンがけしているらしいが………
もう一目見てニートである。学校入ってる分まあマシだとは思うが。
良くてもおっさんとしか言えない………不思議。
彼女の辞書に「おしゃれ」と「女子力」を書き入れてくれなかったのは、神様のイタズラだろうか。
「うぃ〜……対戦すっぞー」
少女が掛け声すると、何人か少年・少女がやって来て………
その中から1人、少年が出てきた
「えー……雅か……まーいーや」
「なんで嫌そうなんだよ………
ってもうスタートかよ! はえーよ!」
いつの間にか出ていたゲーム画面に向かい、少女はコントローラーを動かす。
少年も慌てて彼女の側に座り、ゲームを始める……
______柳 クレア15歳、高校一年生
・彼女にあるのは、ゲームとアニメに対する熱意と、愛情のみ