蟲ノ巫女

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1:07:2015/05/24(日) 07:44 ID:qv.

虫と話せる少女の話。

2:07:2015/05/24(日) 07:47 ID:qv.

佐倉葵(さくら あおい)は高校二年であった。彼女が通うこの学校は、文武両道を謳う、どこにでもあるような進学校だ。葵にとっては最寄りの学校で、自転車の車輪を200回まわせば辿り着くような距離にある。
本日晴天。初夏、昼下がり。昼食前の授業の一コマ。
ある生徒はノートまとめに精を出し、ある生徒は隠れてスマホを弄ぶ。空腹に耐えて時計を睨む生徒もいれば、頭を低くして眠り落ちている生徒もいる。
窓際の最後列に座る葵は、全開した窓から入る風で涼んでいるところだった。
そんなところに蜂が来た。正確に言えば雀蜂。大きさからして牝だ。黄と黒の斑点模様が実にリスキーだと思われがちである。

「おーい、葵ちゃん」

すぐに気づいた葵は、いつものように他の生徒に気づかれないほど囁かな声で応対した。

「エリシアさん。久しぶり」

雀蜂のエリシアはしばしば葵に会いに来る。喋り好きなのだ。
エリシアは「最近忙しくて」と参ったように言って葵の机の縁に羽を休めた。

「コロニーの完成が見えないのヨ。女王様も焦ってるみたいだワ。若いワーカー達も頑張ってるんだけど、姉さん達がいないとどうにもねぇ」

エリシアの姉にあたる、歴戦の働き蜂(ワーカー)たちは皆、この前敵状視察に行ったきり帰ってこなかったらしい。その事を知っていた葵は「そっか。大変なんだね」と気を遣った返事をする。

3:07:2015/05/24(日) 19:43 ID:qv.

「葵ちゃんも大変でしょ。人間なんて」
「うーん、そうでもないよ?」
「葵ちゃんは例外だけど、大抵は私たちが顔を見せるだけで逃げちゃうようなチキンだもの」
「ふふ、そうかもしれないね」

苦笑する葵。エリシアはまた一段と調子良くなって喋り始めた。

「そういえばそろそろ裏の山にW光る連中Wが来る頃でしょ? 」
「ゲンジボタルか。あの一帯の中流は確かに集まるけれど、どうかしたの?」
「それが……様子がおかしいのよ」

エリシアの声色が突然強張った。おそらくこれが本題で、言いあぐねていたのだろう。

「量が多すぎるのよ。去年の三倍以上はいるの」
「見てみるまでは分からないけど、ちょっと異常だね……」

葵は毎年、裏山へホタルを見に行っていた。なかなか蛍光スポットであるにも関わらず、あまり人に知られていない穴場なのだ。
エリシアは参った様子で言った。

「あの辺りは最寄りの餌場だし、話題になって人が集まりすぎると面倒なのよね。他の連中もそう思ってるんじゃないかしら」

その時、この高校の特徴の扁平なチャイムが鳴った。教壇に立っていた先生が四限目終了を告げてさっさと去り、やる気のなさそうだった生徒達は活気付き出した。

「購買いくぞ。奢って」「何度言っても奢らねえ」「またノート見せて?」「また寝てたのね」「山田の授業たりぃ」「それな」「おーい、こっちの席来いよ」「うわ水筒忘れた」「自販機行くか。俺もマッチ飲みたいし」

途端にノイジーになった教室。エリシアは去り時だと思ったようで、飛び立とうと羽を震わせた。

「エリシアさん、とりあえず今夜見てくるね」
「頼りにしてるわね」

そう言ってエリシアは窓の外へ抜けていった。その姿を葵の隣の席の男子が目撃して「うわ、ハチ!?」と絶叫する。
葵はエリシアが人間をナメている理由がよくわかったような気がして、込み上げる笑いを堪えていた。


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