同じ顔の妹にコンプレックスを抱いていたあたし。
妹になりたい。
何度、そう思ってきたことだろう。
そんなあたしに、あなたは教えてくれた。
あたしが、姉であることの意味を。
あたしが、あたしであることの意味を。
第一章「妹なんて、大嫌い」
ねぇ、姉と妹って、どっちが損か知ってる?
それはやっぱり、お姉ちゃんの方が損だよね。
何で、姉ってだけでこんなに差別されるんだろう―。
「花音ちゃん、今日もかわいいわねぇ」
そんな母親の声に、あたしは少し顔をしかめた。
別に、褒めていることが不快なわけじゃない。
母親が子供をほめるのは当たり前の事だろうし。
あたしが不快に感じているのは、朝っぱらから目の前で妹の髪をいじる母親と、それにデレデレの妹の表情。
あたしは無言で朝ご飯を食べ終わると、鞄をつかんで学校へと向かった。
「行ってきます……」
すると、それに気付いた妹、花音が慌てて追いかけてくる。
「あっ……待って!」
聞こえないふりをして速足で通学路を歩くあたし。
「待って、早いよ!」
もうちょっとで駅に着くところだったのに……!
そう思いながら腕にすがりつく花音を見る。
双子の妹、花音はとってもかわいい女の子。
でも、成績は悪く、運動もできないし忘れ物は多い。
それなのになぜか男子にはモテる。
「はぁ、はぁ……。もう、何で置いていくの!?」
まぁ、一卵性の双子だから、顔は同じなんだけれど……。
あたしはここらではかなりレベルの高い私立の進学校に通っていて、その中でも成績上位組だけがはいれる特進化クラスだし。
「ねぇ、聞いてる?」
でも、やっぱり人間見た目なのかな?
あたしは花音と違って男運無いからなぁ……。
「ねぇってば!」
「あー、もう、さっきからうるさいな!何?」
たったそれだけで潤む花音の瞳。
「酷い……。花音は、一緒に居たいだけなのにぃ……」
ヤバイ、ヤバイです。
はい、こんな時は……。
逃げるに限るよね!!
後ろから聞こえる鳴き声に耳をふさぎながらあたしは駅まで全力疾走で駆け抜ける。
改札を乱暴にとおり、電車に乗る。
ガタンガタンと心地よい揺れに包まれながら、あたしは窓の外を眺めた。
あたしの名前は、小笠原蓮。
現在高校2年生。
あたしの最近の悩みは、『妹』。
さっきのやり取りからわかるように、母親は花音を溺愛していて、花音は容量が良い。
それとは対照的に、あたしは成績は良いが、要領が悪く、友達も少ない。
ちなみに、父さんは学校の先生をしていて、出張がすごく多い。
だから、年に2,3回くらいしか家に帰らない。
あたしは、どちらかと言えば父さんになのかな?
まぁ、だとしたら……嬉しいかな?
放課後、あたしが家に帰ると、玄関先で母親が待ち構えていた。
そのただらない雰囲気に少しビクッとなってしまう。
「おかえり」
「た、ただいま……」
無言のまま数秒見詰め合っていたが、その空気に耐えきれたくなってあたしは口を開いた。
「な、何……?」
「何って、蓮が一番解ってるでしょ?」
分かってるって……何を?
あたし、何かした?
そんなあたしの心を見透かしたように、母さんは口を開いた。
「今日の朝、花音を泣かせたでしょう!」
今日の朝……、花音を泣かせた……?
あぁ、そういえばそうだったっけ。
「今朝ね、花音が泣きながら帰ってきたのよ」
泣きながらって……。
あの子は、どれだけ大げさなの?
「蓮が、花音なんか大嫌いだって……死んじまえって言ったそうね!?」
は?
いや、確かに花音を泣かせたのは事実だけど、あたしはそこまで言ってない。
花音がしつこいから、うるさいって言っただけなのに。
「な、何言ってんの……?確かにあたしは花音を泣かせたよ!?だけど……」
「ほら、やっぱりあんたが泣かせたんじゃない!どうしてそういうことすんのよ!?」
母さんは、あたしの言葉を遮ってあたしを責めた。
「いや、だから……」
「黙って!あんたの意見なんか聞きたくない!!あんたはお姉ちゃんなのよ!
それなのに、妹を泣かすなんて!」
「……」
謝らなきゃいけないのかな……?
妹に、花音に。
でも、あたしは悪くない。
確かにあたしにも非はある。
だけど、それ以上にこんな嘘をついてまで自分を守ろうとする花音の方が悪いんじゃないのか。
めっちゃ、おもしろいです!
続き気になります!
頑張ってください、応援します!
またコメントしますねw
興味深くて おもしろいです( ´▽`)ノ
更新楽しみにしてます!
お二人とも、コメントありがとうございます!
返信遅れてごめんなさい(-_-;)
2日間宿泊研修があったもので……。
更新楽しみにしていてください☆
「蓮!?聞いてるのっ!!」
黙り込んだあたしを見て、さらに声を荒げる母親。
ふと、視線を母さんの後ろに移すと、玄関のすぐ近くにあるリビングのドアから顔をのぞかせている花音の姿が目に入った。
その表情は、凄くニヤついていた。
何で……どうして、いつも花音ばっかり……。
花音は良くて、どうしてあたしはだめなの……?
脳裏に、小さいころの記憶がよみがえる。
花音にばっかり可愛い服や靴、ぬいぐるみを買っていた母親。
そんな幸せそうな光景を見て、すぐに顔をそむけたあたし。
平気そうな顔をしていたけれど、本当は、あたし―……。
「……そんなに、そんなにあたしが嫌い?」
自然と、あたしの口から言葉が漏れていた。
でも、もうダメ。
止められなかった。
「ねぇ、あたし、何かした?母さんに、花音に」
母さんは、何も言わなかった。
花音はというと、少し目を見開いて、あたしを凝視していた。
「あたしは、別に嫌われてもいいよ。だけど、何もしてないのに、差別されるのは、許さない」
「あんたっ……親になんて口利いてんのっ!!」
振り上げられた母親の右手が、あたしの頬を張った。
パンッという乾いた音が響く。
あたしは左ほおを押さえながら、まっすぐに母さんを見つめる。
「何で……何で我慢するのはいつもあたしなの……?」
「蓮、仕方ないじゃん。あんたはかわいくなんだからさ」
花音が言う。
「あたしは、妹ばかりかわいがる母親も、それに甘えている妹もっ、みんな、みんな大嫌い!!」
第二章「海での出会い」
ねぇ、みんなは運命って信じる?
あたしはね、信じるよ。
だって、今のあたしには、それしかよりどころがなかったから―。
あたしは、感情のままに家を飛び出し、気が付くと海へと来ていた。
沈みかけている夕日が辺りを照らしてくれるが、11月の風は冷たい。
コートはもともと着ていなかったけれど、唯一のカイロも、放り投げてきた鞄の中だ。
あたしは、制服を着たまま浜辺に座り、海を眺めていた。
何で、母さんは花音が好きなんだろう。
何で、花音はそれに甘えるんだろう。
そんな思いが渦巻く。
だんだんと日が沈み、あたりは暗くなってきた。
寒さはさらに増す。
どうしよう、帰ろうかな……。
でも、帰りたくない……。
すごく迷っていたのと、寒さを紛らわすのとで、あたしは浜辺を行ったり来たりしていた。
しかし、だんだん疲れてくる。
あたしが再び座り込んだとき、肩をたたかれた。
反射的に振り返って見ると、そこには知らない男の子が。
「……ねぇ、何してるの?」
何って……何でそんなこと言われなきゃいけないの?
もしかして、不審者!?
「え……っと……」
あたしの思っていることが伝わったのか、その男の子は笑いながら謝った。
「ごめん、いきなり聞かれても、困るよね。僕は藤田千秋。君は?」
「……小笠原蓮。高2」
「高2?すごい、僕と同じだ!」
へぇ、何だか子供っぽく見えるのに、あたしと同い年か。
「で、君はここで何をしているの?」
千秋はもう一度聞く。