「才能」
あれは、11歳……。小学5年生の時。
あの時、初めて気が付いた。
周りの愛情がどこに注がれているのか。
「じゃあ、もう一回弾いてみようか」
先生に言われ、私はピアノの鍵盤に指を置いた。
そして、楽譜をちらりと見ながら音楽を奏でていく。
「……うん。ちょっと47小節のところで早くなったよね。家で、そこ練習しといてくれる?」
「はい」
私が答える。
レッスンが終わり、外へ出ると、辺りは真っ暗だった。
私の名前は、北白川唯。
ピアノと英会話が好きな小学5年生。
「唯!」
聞きなれた声が聞こえる。
顔を上げると、お母さんが来るまで待っていてくれた。
「お母さん!」
私が言うと、お母さんは笑顔になる。
車に乗ると、カーナビにニュースが流れている。
それは、母親が4歳の子供を虐待死させたというものだった。
「……怖いね」
「そうね。大丈夫よ、お母さんたちは、唯の事を愛しているから」
「うん!」
本当に、とっても幸せ。
こういう子供って本当にかわいそう。
だって、私は恵まれているもの。
両親の愛情にも、才能にも。