話が噛み合わない。彼女と話すときはいつも話が噛み合わない。
会話らしい会話が出来ないし、なんていうか、こう……そう、ムカつくのだ。
成績順位最下位の彼女に言い負かされるのが、悔しくてムカつくのだ。
多分、この先ずっと、コイツには敵わないと思う。
屁理屈ばっかで厨二っぽくて、よく笑って。
どうしてコイツと隣の席なんだろう。
____そう書かれた日記を閉じて、目を瞑る。
この日記の持ち主は、まったくどこで何をしているのか。
>>>>>>>>>>>
わけわからんプロローグですみません。
えっと、ムクロともうします。
この板では、文才を上げるために、とても短い期間に短編を書かせて頂きました。
特に文才は上がってはいないですが、なんかシリーズものを書きたくなったので新しくスレを立ててみました。
青春物のつもりです。
恋愛……ではないでしょう、多分。
どうか、完結するまでご付き合い下さい。
「よーし席替えすっぞー」
担任のやる気のない掛け声に、クラスの者たちが騒ぎ出す。
あの子と隣が良い、今までありがとう、寂しいな、やっと離れられる、だのだの……。
よく見る反応だ。
俺はその反応をする奴らを横目に、アクビをした。
よくもまぁ、ここまで騒げるな。
担任が「んじゃくじ引きなー」とせっせっとくじを作っていく。
そういえば、前回の席替えもくじで決めたっけ。
窓から差し込む夏の容赦ない光に目を細めた。
この席ともお別れか。次はどこになるんだろ。できれば同じ席がいいんだけどな。
そして、俺は自嘲的に笑った。
何を思ってるんだろうな。この席はとても暑いというのに。
慣れ親しんだ席だからか?……まぁいい。
この席か、廊下側が良いな。
「おっし。くじ出来たから、さっさと女子とりにこい。男子はその次なー」
はぁーい、と楽しげな声でみんなが返事をする。
隣の席を見やれば、「あぁ、もうこの席ともお別れかぁ!」と言いつつ喜ぶ女子がいた。
特に話したこともない女子。
全然喋らない男子と離れられて嬉しいんだろう。
まぁ、俺もこんなキャーキャー騒ぐ女子と隣なんて嫌だったし、どっちもどっちってことで。
隣の女子が立って、くじをとりに行く。
「あ、あたしあの席かー」
「おぉ、わたしは理恵ちゃんの席だね」
「キャー、一番前ぇ〜?」
一喜一憂する女子を煩わしく思った。
煩くない女子など、根暗な女子だけ。
で、その根暗な女子も嫌いな俺。俺ってぜってー恋とかしないタイプだよな。
また自嘲的に笑った。
第一話『席替え』
皆くじを引き終え、机を動かすこととなった。
さて、誰が隣になるのか。キャーキャー騒ぐ女子はごめんだぞ。
席が近くなる男子は静かなやつがいいな。けど、根暗いやつはごめんだ。
と、数多くの注文を心の中でしていると、くじで決まった席についた。
机をそこに置き、隣は誰かな〜と呑気そうに座った。
今回の席は廊下側の一番後ろ。
素晴らしい。席の場所で言えばとても良い場所だ。
実は先生に見られやすい一番後ろの席という場所だが、代わりに、他の先生以外のやつらには見られにくい場所だ。
そして、この時期にとっては涼しい場所だ。日陰だし。
これで隣や周りが煩くなければ完璧なのだが___。
「お、宮部?お前後ろ?」
斜め前の席になったのは、どうやら煩い高橋だったようだ。
あれか、これがフラグってやつなのか。
俺は自分の先ほどまでの考えに笑いそうになった。
……この男、高橋 孝太郎はチビだ。だのに運動神経が良く、話上手。ただのクラスの人気者なのだ。
だからこそ嫌いだった。ひねくれてるって言われても構わない。
誰にでも話しかけてくるコイツのことが、俺は嫌いだ。
「んおっとぉ!隣はさゆりちゃんかあ」
「え、隣はこうちゃんなの〜」
「そう嫌な顔すんなよ〜」
俺の前の席は高橋さゆりか。
この、高橋孝太郎と仲良さげな高橋さゆりは従兄弟同士だ。
親族。だからこんなにも仲良さげなのだ。
さゆりは人気者ってわけではないが、明るい女子だ。で、コイツのことも俺は嫌いだ。というより、俺は好きな人がいない。
目の前で楽しげに話す二人から目をそらし、机の中に常にある本を手に取る。
最近ハマった。ファンタジーものだ。
3ページほど進んだところで、ようやく隣のヤツが来た。
遅いな。一体どんなヤツだよ。こんなに遅いなんて。
俺は本を読みながら悪態をついた。
こんなに遅いとかどんだけノロマなんだよ。それともあれか。場所を忘れたのか。バカだな。
ページがきっかり3ページほど進んだところで、変化が起きた。
まず、本が取り上げられた。
「うわ、なんだよ」
「なんだよ、とは酷いな。隣が来たのに無視かい?挨拶くらいしてもいいじゃないか。常識なのにな」
で、ムカつく言い方された。
俺は直感的に最悪だ、と思った。
声と喋り方で分かる。隣のやつは学年……いや、学校中で有名な変人だ。
俺は厄介だなと思いながらソイツから本を取り返した。
「なんだい、その目は」
無視して本を読み始める。
隣からムカつく言葉がたくさん投げられるが、とにかく無視無視。
どうやら、俺の隣の席になったやつは倉沢葉月のようだった。
第二話『周り』
__倉沢葉月。
白縁メガネの女子。
アニメの登場人物がしそうな独特のしゃべり方をして、変な行動をする成績最下位の女子。
先生たちからは『厄介者』。周りの生徒たちからは『面白いやつ』『色々と面倒なやつ』。
で、俺からしてみれば『ただの変人』。
生徒たちから嫌われてはないようだが、あまり話しかけてるやつを見たことがない。
当たり前だ。こんなやつ、話しかけようとするやつが可笑しい。可笑しくて笑っちゃうね。
テストの成績最下位の癖に頭が良さそうなしゃべり方をするし、コイツは色々とムカつく。
なんで隣になったんだ……。こういうときばかりは神様を恨むぞ。
「君はどうして人を見下すかな」
見下してるのはお前の方かと。
「なぁ、君も何か話したらどうだい?班の役割をまだ決めていない。みんな困るだろう?」
確かにそうかもしれない。
けれど、倉沢とは絶対話したくないんだよ、こっちは。
あぁ、俺に話しかけるのやめてくれないか。他にも高橋やさゆりがいるだろ?
「な、なあ、宮部。お前喉痛いの?だから喋りたくないの?」
「あ、そうだよね。宮部くん、朝に喉が痛いって健康観察のとき言ってたもんね!」
あぁ、そうだよ。そういうことにしとくよ。本当は痛くないけどね。
こうしておくことでメリットも少なからずあるしね。
一応頷いておく。すると、高橋従兄弟どもは「だよね」「だよな」と息ぴったりに言う。
いくら従兄弟でも、ここまで息が合うのはさすがにないと思うのだが。
倉沢は、「そうだな」と頷く。
「して、君は班長になるかい?というより、それしか空いてないのだけどな」
「お、宮部が班長?そうかそうかー!!宮部が班長決定なー」
「うんうん。宮部くんはしっかりしてるし、何より成績上位だし。確か……十位?」
「あれ?五位じゃなかった?」
いや、自慢じゃないが一位だ。
俺が成績上位と聞いた倉沢が、驚いたように乾いた声で笑った。
「なるほど……ハハッ。君のような少年が上位なんてな」
見下すな。なんだ、その言い方は。少しカチンときたぞ。
という心の声が聞こえるわけもなく、倉沢は俺を散々見下す発言をしてきた。そりゃあもう、高橋従兄弟が笑うほど。
「倉沢さん、結構面白いんだね〜」
「いやいやぁ、さゆりちゃん。葉月結構面白いやつだよ?」
「誉めてくれるのは純粋に嬉しいありがとう」
「うわー、凄い!!ありがとうなんて、倉沢さん良い人〜!」
あぁ、先が思いやられる。
俺を見下す発言で面白い人認定なんて可笑しすぎる。
この班、嫌いだ。倉沢も嫌いだ。つか皆嫌いだ。
第三話『倉沢葉月』
「んじゃあ、残りの時間は新しい隣の席のやつとの親睦会ってことで。先生は職員室行ってっから〜」
やる気のない先生が教室から出ていく。
机で班を作っていたのを崩し、机を元の位置に戻す。
親睦会ね……めんどくせぇ。さて、本でも読むかな。
本を取り出して、表紙を開くと、隣からニョっと腕がのびてきて本を奪っていった。
また倉沢か。こいつは人の本を取るのが好きなのだろうか。
本を取って私物化するのだろうか。ほら、あの有名なガキ大将のように。
隣を見ると、倉沢が俺から取った本を読んでいた。
ふむふむ、と聞こえてくる。なんとまぁムカつく野郎だ。感にさわる。
俺に気づいたのか、倉沢は「やあ」とだけ言って本に戻った。
「やあ、ってなんだよ。本返せ」
「いいよ」
あれ、結構あっさり返してくれたな。
そんなところに驚きつつ、本を若干奪うようにして受けとる。
眼鏡をクイッとあげて、倉沢はただ一言。
「君はバカだろう」
「はぁ?」
バカ?バカだと?今までそんなことは言われたことがない。むしろ天才と言われてきた。
生まれてこの方「末は医者か!?」とまで言われたほどだというのに。
そんな俺をバカ呼ばわりだと?
とうとう俺の堪忍袋の緒が切れた。
「んだと?俺さ、結構成績良いんだよね。お前よりは良いんだ。だのにバカだって?」
本を机の中にしまって、ソイツを睨む。
他のやつらは隣の席のやつと話していて俺らの不穏な空気には気づかない。
それを良いことに、俺は倉沢に言った。
「お前、順位最下位だろ。一位の俺に言っていいの?」
勝った。そう思った。これで倉沢は黙るだろう。何も言い返せないはずだ。
が、倉沢は変人だ。しかも学校中の人間が認めるほどの。
だからコイツはつまらなそうな顔で言った。
「やっぱりバカじゃないか」
と。
俺は言い返そうとして口を開いたが、倉沢の方が一歩早かった。
「なんなんだい?テストの順位だかなんだか知らないが、それで頭良いと思っているのかい?本当にバカだな。成績の話じゃない。頭の話をしているんだよ。成績なんて、誰でも良くできる。けど頭は違う。で、君は頭が悪い。つまりバカ。それを言って何が悪い?」
マシンガン。そう思った。
倉沢の言葉はまだまだ続く。口を挟もうとしても、その隙を与えてはくれない。
「成績にしがみついて人を見下す君の頭には何が詰まっている?成績用の脳みそしかないのだろうな。人間としての脳みそを持ち合わせてはいるかい?まぁ、そんなわけないだろうな。成績で人を見るような君には、そんな高度な脳みそはない」
俺は怒りに震えていた。
こんなに言われたのは初めてだった。
とにかくムカついてムカついて、倉沢の足を蹴っていた。
「ふむ、暴力か。裁判を起こせば君の敗けは確定だな。どうだい?裁判を起こすかい?お馬鹿くんよ」
「……っお前な。いい加減にしろよな」
「いい加減?お馬鹿くんに話しかけるなということか?」
「お馬鹿くんってなんだよ。俺か?俺はそういう名前じゃねぇんだよ」
「返し方が一々子供だな。お馬鹿くんという名前じゃないのなら、君はなんて名前なんだ」
あぁ、ムカつく!!
倉沢は明らかに俺で遊んでいる。
にやにやと笑って、俺を見下している。
見下しているのはどっちだか。
さっき言った自分の言葉を忘れたのだろうか。どっちがバカなんだか。
「何も答えないのかい?」
「んなわけないだ___」
「じゃあ君は今日から太郎だ。喜べ」
喜べるか。
どうやらコイツとは相性が悪いようだ。
第四話『マシンガン』
(/倉沢葉月ちゃん、すっごくかわいいです!他の普通の女の子と違っているところ、すっごく好きです!葉月ちゃんファンになっちゃいますよ♪───O(≧∇≦)O────♪
スペース感謝。)
>>6
あの子は変わってます。体の芯まで変わってます。けど、良い子のはずなので!!
これからも、倉沢葉月ちゃんのことや作品のことを応援していただけると嬉しいです!!
「太郎。君は本を読むのが好きなようだな」
席替えという悪魔の罠によって、俺は最悪なことに倉沢葉月という学校中で有名な変人と隣になった。
アニメやゲームに一人はこういうしゃべり方をするのだろう。倉沢葉月は厨二病のようだった。
そして、その倉沢葉月は読書中の俺に話しかけてきた。
大切な読書の時間に、少ない休み時間に、何話しかけてきているんだ。神経を疑う。
多分こいつだけだろう。読書中の俺に話しかけてきたのは。
「おーい、聞いているのか。あ、聞いていないフリか。つまらないことをするんだな。あきれる」
どーぞどーぞ、呆れて下さい。どーぞどーぞ、気ままに呆れてて下さいな。
俺は心の中でそう思い、再び本に集中し、文章に表された情景を脳に写し出す。
感覚は物語の中に吸い込まれ、主人公たちが会話をしているという場面のそれを、間近で見ているような錯覚に陥り、周りのリアルの音という音は消え去り、残ったのは物語の中の音だけ。
これで物語と俺は同化した。
さあ、主人公たちの雑談が終わり、次の場面へ____
パンッ
不気味なほど乾いた音が聞こえたかと思うと、リアルに引き戻された。
音より少し遅れて感じたのは痛み。
頭が一瞬冷たくなり、次には熱くなる。頭を叩かれたのだと分かった。
「協力を感謝するよ、えぇと……謎の男よ」
「あっはっはっはっ〜。ボクちんは孝太郎だって。謎の男じゃないぜぇ?」
「ほう。君は孝太郎、というのだったな。すまない。私は少々覚えるのが苦手なのでな」
「いやいや、いいっていいって!」
隣の変人が斜め前の席人気者と話をしている。仲良さげに見えるが、片方は名前を覚えられていない。
しかも、名前を覚えようともしないヤツはなぜか偉そうで、なぜか俺の頭を叩くようにもう片方の謎の男、もとい高橋に依頼したようだった。
俺は若干切れた。
なぜ叩く?なぜその頼みを聞く?なぜ読書の邪魔をする?
なぜ、なぜ、なぜ………。
たくさんの『なぜ』が脳を占領する。
高橋は俺を見て「ごっめ〜ん」と言ってチロッと舌を出す。
脳を占領していた『なぜ』が『ウゼェ』に占領され始めた瞬間だった。
「さぁ、太郎。本を読むのをやめてくれないか。好きなのは分かるが、しばらくの間は私は君の隣の席だ。パートナーに近い存在だ。交流しようじゃないか」
「なぁ……」
俺は本を机の中に丁重にしまった。
「お、お、どうした」
「なんだ?」
二人が興味津々と言った感じで俺を見てくる。
あまりそういうことに慣れていないのに、頭は冷静だった。
いや、怒っていたから冷静じゃないのかもしれない。けれど、冷静に近い怒りだったのだから、さほど問題ではないだろう。
「俺さ、交流とか興味ねぇんだよね」
第六話『ただいま読書中』
「俺さ、交流とか興味ねぇんだよね」
あれ?可笑しいな。
少しの違和感。高橋の方は苦笑いしているだけで、特に変わりはない。が、問題は葉月の方だった。
なぜか、オーラが違う気がするのだ。
さっきまで変人オーラを出していたのに、今は暗めなオーラを出しているというか………雰囲気が違う。
俺はマズイことしたかな、と高橋に目配せをした。高橋はただ苦笑いするだけで、何も言ってこない。
ただ、無言の状態が少し続くと、高橋は他のやつらの方へ行ってしまった。
俺、一人ぼっち。仲間無し。
さて、どうしたものか。
あれやこれやと悩んでいると、葉月が「クックックッ……」と声をあげた。
「クックックッ……フッフッフッ……フハハハハハハ!!そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな!?」
どこの天才少年だ。なぜに悪の笑いを三段活用をした。
白縁メガネをグイッと人差し指で持ち上げ、乾いた笑い声をあげた。
「君は今!!私の出す波長によって、軽い暗示にかかっているのだよ!!」
すまん、よく分からない。
葉月は席につき、筆箱から2本のペンを取り出した。
一本は水色、もう一本は黄色だ。
こういうあまり使わなさそうな色のペンを持ってるあたり、こいつも女子なんだなーと関係ないことを思う。
葉月は水色のペンを軽く振った。
「これが、私だとする」
次は黄色のペンを同じように軽く振った。
「で、これが太郎だ」
どうでもいいが、太郎はもう決定されてしまっているのだろうか。
ちょっと残念かもしれない。
葉月は黄色のペンを水色のペンで叩いた。
それは、俺のことを葉月が叩いた、または暴力をふるったということだろうか。
「こうやって、私と君は交流をした」
「暴力の交流ですか」
「いや、違う。暴力だけではない。今も君は私と交流している。自分から進んで言葉も発した」
は?何を言っているんだ?
交流ってもんは、こう……もっと楽しそうな話をするものなのでは?
葉月はなおも続ける。
「君は先ほど交流には興味ないと言ったね。だから私は悲しそうにした。そうすることによって、君は私に興味を少なからず持つだろうからね。で、どうだ。君の意識は私に向き、こうして話をしている。交流ってものは共に話をすること、共に行動をすることだ」
「……それが?何が言いたいんだかさっぱりだ」
「バカすぎて笑えてくるよ」
「んだと?」
右足に力をいれ、席替えの時間のときのようにすぐに蹴れるように準備をしておく。
葉月は愉快そうに笑った。
「ほら、君の右足は少し動いた。力を入れたのだろう?私の言葉を聞いてね。ということは、私の言葉を聞き、それに反応しようとしているのだから、交流していることになる」
なにツラツラと言葉を並べてるんだ?
なぜか、頭が良く見えて__いや、違うだろう。これは、催眠術の一種だ。
こうやって言葉を並べるのは、それっぽく聞こえさせるため。
落ち着け、俺。大丈夫だ。
「交流というものは楽しい」
持っていたペンを、人間で言うのならジャンプしているように動かす。
楽しい、を表現しているようだった。
「人は交流をすることで少しずつ変われる。私は高いところへゆくため、交流しなければならない。君は初めてのタイプだ。イラつかせるのは面倒臭いが、これも交流のためだ。いや、実に楽しい時間だったよ。読書に戻るといいだろう」
葉月はそう言って、自信の机の中から持ってきてはいけないものを取り出した。
携帯電話だ。スマホだ。なんて校則違反なことをしているんだ!バカじゃないのか!?
俺がバカなら、コイツは言葉で表しきれないほどバカだ。アホだ。
葉月は「くふふ」と気味の悪い笑い声を上げながらスマホを操作し続けた。
第七話『交流したい』
__葉月、まだやってるよ。
……あっ。
いつの間にかアイツを『葉月』と心の中で呼んでいたことに気付き、なんとも言えない恥ずかしさが込み上げてきた。
どうして恥ずかしさが込み上げてきたのかは分からないが、俺は葉月……じゃなくて、えぇっと……『倉沢』を見た。
授業中だというのにスマホを片手にいじっている。
ノートは真っ白で、放り出されたシャーペンは存在を全否定されてるようだった。必要ない、とそんな感じで。
先生が細々とした歴史について話している中、スマホをいじりながら笑うはづ……じゃなくて、倉沢は、ニヤニヤしていた。
何が面白いのだろう。スマホの液晶画面には一体何が映っているというのか。
少し気になって、はづ……倉沢の手元のスマホを見ていたら、倉沢がそれに気づいたらしく、これまたニヤニヤしながら真っ白なノートに何かを書いた。
やっと使ってもらえたシャーペンがまたすぐに放り出されるのを見届けると、俺は倉沢が見せてきたノートを見た。
そこには短く『まだ君に教えるわけにはいかない』と女子らしい丸めの文字で書かれていた。
俺は呆れて何も言えず、授業の方に意識を向けた。
本当に、倉沢葉月は取り返しのつかない厨二だ。痛い行動をつつしめば、それなりに人気者になれそうなのにな。
「おぉーい、倉沢葉月ぃー、なぁにやってんのー?」
ざわ、ざわ、ざわ。
教室にたくさんの声が溢れる。
甘ったるい喋り方の女教師は、倉沢の席の横に立つと、倉沢の小さな手からそのスマホを奪った。
「まったく、何してるのー。スマホ持ってきちゃぁダメだしー、何より授業中にやっちゃぁダメでしょうがぁー!」
倉沢は至って冷静だった。というよりいつも通りだった。
人を見下しているような態度。けどそれに気づかない先生。最悪の組み合わせだ。
「何見てたのー。正直に言ってごらーん」
「友と話をしていたのだが」
問題あるだろうか?連絡を取るのは当たり前のことだろうに。
と、首をかしげて、本当に信じられないっと言ったふうに先生を見た。
どこが当たり前なんだか。信じられないのはお前の言動の方だろう。
なんだ、授業中に友達と連絡をとるのは普通なのか、当たり前なのか?
一体コイツの頭はなにでできてるんだ……。
先生は「あらまぁ」と笑った。
「アナタは、いつになったら普通になるのかなー」
ああ、喋り方気持ち悪いな。言っちゃダメだろうけれど。
「普通というのは人によって基準が違う。今の私は、私からしてみれば普通だ。キサマに勝手に普通じゃないと言われるのは心に傷がつくほど最悪なことだ」
「なら、アナタは私からしたら普通じゃないわよー?」
「それならば、私からしてみれば、お前のような腐れ教師は普通以下だな。私情だが、私の嫌いなやつにそっくりだしな。価値を見出だせないな」
俺、関係ないよね?
こんなのに関係ないよね?視線はずしていいよね?
俺は教科書に目線を落とし、ため息をついた。
なんか、面倒臭いなぁ。
第八話『授業』
「倉沢葉月ぃ!!アンタは教師に向かって何を言ってんの!!反省のはの字も見えないぞ!!」
「口調が変わったな」
「今すぐ職員室に私と来い!!担任も交えて説教する!!」
「説教?私がキサマにか?」
「バカなことを言うんじゃない!!」
「言っておくが、私はちゃんと授業を聞いていたし、スマホを使っていたのは、学校の状況を知りたい友に状況を教えていただけだ。それを可笑しいと言い、説教するのはいかがなものか。私はただ、友を思ってやったことだ。キサマの言ってることを略せば、“ 友を捨てて授業を聞け。ついでに私が普通じゃない可笑しいやつ ”ということになるが?」
「とにかく職員室に来いッ!!」
確実に終わったな、はづ……じゃなくて倉沢。
教師にここまで言って、いくら友達の為とはいえスマホを学校に持ってきていじってて。
それで成績が悪いときた。これは高校にいけないのではないか?
いけたとしても通信制の高校モドキか……。
同情はしない。
口調が甘ったるいのから厳しいのに変わった先生は、倉沢の腕を掴み、そのまま職員室へと引っ張って行った。
それでも倉沢はよく聞こえる声で何かを言っており、こんな状況でもあのマシンガンを撃つことが出来るなんて、逆に尊敬する。
先生と倉沢が居なくなった教室は無音だった。
誰もが己の耳と目を疑っていた。
そりゃそうだ。だって、今まで授業中に倉沢があそこまでの騒ぎを起こしたことがなかったから。
倉沢はいつも授業中は静かだったし、何かを言ったとしても先生の言葉や接し方を指摘するだけで、あんなことをするようなやつではなかった。
変人だってことは皆承知だ。
けれど、やっぱり驚いてしまうのが普通だろう。
普通は、先生に向かってあんなこと言わないし、俺だって驚いていた。
長い沈黙。その沈黙を破ったのは無機質なチャイムだった。
第九話『授業と倉沢葉月のマシンガン』
___休み時間。
倉沢は職員室に連れていかれていていない。
静かに過ごせてとても嬉しい。
まったく、倉沢はなんてバカなやつなんだろう。先生にあんな口の聞き方をして、授業中にスマホをいじくって。
あぁ、俺はなんて幸せなんだろう。
あんなバカなことなんてしないし、アイツみたく成績が悪くなく、むしろ「倉沢と隣の席なんて気の毒ね」と色んな先生に言われるくらいの優等生。
先ほどの授業のことを知った先生方に言われる同情と哀れみの言葉に、優越感を感じながら本を読んだ。
……いつものように本の中に入れないのはなぜだ。
優越感に浸っているとき、ふと気づいた。
いつものように本の中に、物語に入れない。
頭の中に映像が浮かんでくることもないし、そもそも内容が入ってこない。
___なんで?
「……なぁ、宮部ぇ」
「……あ"?」
いきなり高橋に声をかけられ、つい不機嫌そうな声を出してしまう。
高橋と話していたであろう男達が俺に負けないくらいの不機嫌そうな声を上げた。
「おい、こーたろー、コイツと話しすんの?」
「孝太郎、お前優しいのはいいけどよー」
ああ、最悪だ。
なんで話しかけてくるんだろ。
俺だって話したくないのに。
こんなやつらと話してたら、頭が悪くなるからな。
倉沢なら、「君は頭がもともと悪いんだから大丈夫だろう」なんて言ってきそうだな。
……なんで倉沢のこと考えてんだ?
あ、そう、きっと、さっきの授業のことが無意識の中に混じっちゃってるんだ。そう、そうに違いない。
俺が倉沢を気にしてるとか、そんなんじゃないだろう。
「おい、こいつ黙ってんぞ」
「孝太郎、あっち行こうぜ。こいつキモいし」
キモい。
その言葉が胸に落ちてきた。
とても重々しく、まるで昔を思い出させるように。
昔……小学生のころ、自分が普通に使っていた言葉。
加害者と被害者という関係にいて、その被害者が消えたとき、俺が後悔して使わなくなった言葉。
俺の愚かな過去が溢れ出す。
俺が今のようになったのは、あのときのアレがキッカケだった。
「お前らなあ。……ごめんな、宮部。だいじょ___」
俺は高橋に差し出された手を払った。
「俺、交流とかコミュニケーションとか嫌いなんだ。あっち行ってくれないか」
男達から次々と短い言葉が発せられる。
やれ「最低」だの、やれ「うぜぇ」だの。
俺は本に夢中になっているように、本に目を向けた。
別に、あの男達の言葉にムカついたり、倉沢のことを考えていたりで、心がめちゃくちゃになってしまって高橋の手を払ったわけじゃない。
別に、八つ当たりしたんじゃない。
別に、昔のことを思い出したから苛ついたんじゃない。
ただ、本当に、交流が、コミュニケーションが嫌いだっただけだ。
___本当に。
だから別に、鼻がツンとしてるのは、それらと関係なくて。
……高橋孝太郎。俺はコイツが嫌いだ。
人気者って嫌いだ。
第十話『嫌いな・・・』
やあ、太郎。元気にしていたかい?
能天気。そんな言葉がよく似合う。
ようやく戻ってきた倉沢葉月を俺は睨みつけ、そして本に目を戻した。
___今は昼休みだった。
三時間目のあの授業が終わり、そのあとの休み時間で俺は嫌な思いをし、そしてまた時間がきて、給食を終えて……昼休み。
給食を職員室で食べたという倉沢は、説教を本当にされたのだろうか、という疑問が出てくるほど陽気で能天気だった。
「なぁ、太郎。どうした?そうか、そうか。そこまで本が好きか」
悪いかよ、本が好きで。
倉沢が俺の机に二冊の分厚い本を置いた。
なんだこれ?と見てみると、本の表紙には綺麗な絵が描かれていた。
その絵よりも目立つべきハズの題名は、あまり目立ってはいなかった。
表紙は絵、と言いたいのだろうか、この著者は。
「どうだ。ネェから借りてきた本だぞ」
「……ハ、ハァ……」
「ため息が出るほど素晴らしい表紙だろう。内容も素晴らしいんだ。どうだ、どうだ?」
どうだと言われてもなぁ……。
確かに素晴らしい表紙だと思う。
けど、引っ掛かる部分がある。
『ネェ』とは?
借りてきたとは?
「いやはや、ネェは本当に素晴らしい本を持っている。ちなみに、私がオススメするのはこの青が目立つ表紙のものだ」
青が目立つ表紙を指差し、「面白そうだろう?」と倉沢が笑った。
あまり目立っていない題名は『安らぎを求める愚か者へ』だった。
ああ、確かに面白い題名だな。
著者の頭の中はどうなっているんだ、と問いたくなるくらいの面白い題名だ。確かに倉沢が好きそうだ。
俺はそう思った。
そして、相づちをしてから聞いてみる。
「ネェってなんだ?借りてきたって?」
「……ネェというのは姉の呼び名だ。私がネェと読んでいる。借りてきたって言うのは、そのネェから借りてきたのだ。それすらも分からないというか、太郎。やはりバカなのだな」
……ハァ。
とため息を吐いて青が目立つ表紙の『安らぎを求める愚か者へ』を差し出してきた。
「そんなバカであるのにも関わらず、成績は良い君にこれは視野を広げてくれるだろう。貸してやる。あぁ、けれど3日しかやらない。太郎ならば、3日なんて余裕だろう?」
まあ、これくらいなら1日……遅くて2日くらいで読み終わるだろうけど……。
「姉から借りてきたってことは、お前の姉はこの学校の生徒なのか?」
適当に言って本を受け取った。
まぁ、面白い題名だし、ちょっと気になるので素直に読んでみようと思う。
「いや、教師だ」
ドサッ。
本を落としてしまった。
机の上に落としたのが幸いだった。
倉沢は「なんてことを」と言いながら本を改めて差し出してきた。この本をおずおずと受け取った。
第十一話『戻ってきた倉沢と本』
本の表紙を見つめながら考えた。
……倉沢葉月の姉、か。
倉沢っていう苗字なのは間違いないだろう。いや、もしかしたら結婚して苗字変わってるかも。だから、間違いないという表現は可笑しいな。
一体どんな人なのだろうか?
倉沢は変人だろ?じゃあ、姉も変人?
でも、変人の教師なんて居たかなぁ……あぁ、居るな、そういや。
俺は部活の顧問を思い出した。
俺の部活はほぼ帰宅部と言われるパソコン部。週に二回、パソコン検定__P検のために頑張って活動している……なんてことはなくて、皆、他の部活が自分に合わないとか、部活面倒臭いと思っているから入っただけというやつが多い。だからか、活動は至ってらくちん。
パソコンをいじってればいいだけ。
もちろん俺も他の部活が自分に合わないからこのパソコン部に入った。
パソコンをしていればいい部活。なんて天国なんだろう……!!
そう思っていたら、最悪は目に合った。
顧問が変人だったのだ。
コーヒーを飲みながらパソコンをいじっている先生。
コーヒーはさておき、パソコン部なのだから、顧問もパソコンをいじるのは普通だろう。
けれど、パソコンの画面を覗いてしまったとき、俺は恐怖した。
先輩が『後輩のために』と称して先生が席を外したときに無理矢理見せられた。
画面には文字の羅列。
読んでみると、そりゃあもう……恐怖しかない。
世に言うGL、百合なるものが書かれていた。
女子同士の甘くも辛い恋の物語……。男同士のじゃなくて良かった、なんて言っていられない。
実は男同士のも書いているらしいのだ、顧問の先生は。
で、ネットで活動する二次創作作家らしい。きっとどこかのサイトに小説を載せているのだろう。
そういうのをまったく知らなかった俺は恐怖した。
いわゆる腐女子。確かに笑ったところとか倉沢に似ているかもしれない。
じゃあ、あの人が倉沢の姉?
でも、あの人の苗字って確か宮原だったよな?
独身だと聞いたし、苗字が変わったというわけではないだろう、うん。
んじゃ、倉沢と宮原先生は関係ないか。
倉沢の姉、意外と常識人だったりしてな。
……あ、今日部活だ。
第十二話『宮原』
黙々と倉沢の姉について考えていると、倉沢が「どうした、太郎」と聞いてきた。
先生に返されたであろうスマホをまたしてもいじくりながら。
「別に」
「別にってわけではないんじゃないか?ほらほら、言ってみるがいい」
ニヤリと効果音がつきそうな顔で俺を見た。
倉沢の持っていたスマホから微かにブブッというバイブ音が聞こえた。
倉沢はまたスマホに視線を戻す。
「おぉ、面白いことになったな…!!」
スマホを見ていた倉沢が、プレゼントを貰った子供のような明るい弾けた声で言う。
面白いこと、とはなんだろうか。
俺は倉沢のスマホの画面を見てみた。
見やすいように、と倉沢がスマホを手渡してくる。
【ルナちゃん、わたし、ルナちゃんが通う学校に行けることになったよ!!んでね、ちょうど来週の月曜日なんだけど……】
画面にはその文字と共に、うちの学校の制服の写真が付いていた。
「これは?」
聞いてみた。
ってかルナちゃんってもしかして倉沢のことだろうか?
……あ、なんだろう。笑えてくる。
「あぁ、私の友のメールの内容だ。メールの方が楽なのでな、メールで話をしている。ネットのとある掲示板で知り合ったんだ。良い子だぞ?今度うちの学校に転校してくるんだ」
ネット、掲示板、転校。
よくもまぁ、そんな偶然があったものだ。
それに、ネットで知り合ったって言っても、どうしてメアド交換してるんだ?
交換するには、唯一話せるネットにメアドを載せなければいけないようなもので……。危険だよな、普通。
「二年前オフ会で会ったきりだからなぁ……久しぶりだ」
あ、オフ会ね。それならメアド交換してても可笑しくはないか。
でも、凄い偶然だよな。ネットで会ったやつが、たまたま『同い年』で『同じ学校に転校』してきて。
これを人は運命と呼ぶってか。
倉沢は嬉しそうに「楽しみだ」を繰り返している。
あまりそういう風に喜ぶ印象がなかったせいか、少し驚く。
こいつの場合、嬉しくて笑うとしても、人が自分にひれ伏すのが嬉しくて笑う……っていうのを想像していたから。
「ふーん……」
「あ、ルナというのは私のネット上での名前でな。葉月には “ 月 ” という文字が入るだろう?それからとったんだ」
「よくありそうだな」
「ちなみに、友の名前は衣月というんだ。衣服の衣に普通の月。本名は……転校してきた日のお楽しみだそうだ」
俺はその話を聞きながら、面倒臭いことになるだろうなぁと思った。
類は友を呼ぶって言うしな。
「あぁ、そうだ、太郎」
「んだよ」
五時間目の授業が始まってすぐ、倉沢がコソコソと話しかけてきた。
授業に集中したいのにさせてくれない。コイツは最低最悪のやつだ。
そこまでして俺の立派過ぎる成績を落とさせたいのだろうか、などと考えてみる。
倉沢はウキウキとしながら俺に言ってくる。
倉沢が手に持ったシャーペンは、細かく震えている。興奮しているのが見てとれた。
「太郎には、これから手伝ってもらうからな」
「何を?」
聞くと、「そりゃあ……」と、さも当たり前のようにいってのけた。
「衣月の席についてだが?」
なぜに衣月さんの席について何かしなければならないんですかねぇ……?
そんなことを言うために大事な授業中に話しかけてきたのか。愚か者め。恥を知れ。
「衣月は人見知りと言っていた。となると、知らない人達がいるこの学校で頼れるのは必然的に私しか頼れる人がいなくなる。だから、衣月のために、私と席が近い方が良いだろう。ならば、そうなるように仕向けなければ……!!」
つまり、コイツは衣月さんと席が近くなりたい、と。
そう言いたいわけか。
「衣月は大事な友だからな!私はあの子と席は隣が良いとも思っている」
「それは無理かと」
「なぜ?」
「この学校は絶対に男と女が隣同士になるようになっているからな」
「解せぬ」
「あっそ」
コソコソと喋るのは意外に疲れるものだ。
こういうことを毎時間ごとに女子たちがやってると思うと、女子って結構凄いのかも?と思えてくる。
だがしかし、授業中にお喋りなど感心しないので、俺はその思いを否定する。
「あぁ、でも席は近くが良いな。楽しみだ……!!」
分かったからそんなに興奮しないでくれ。
鼻息荒いぞ、お前。なんかちょっとどころじゃなく、ひく……。
なんて一応女子である倉沢に言えるわけがなく、俺は無視して授業に集中し始めた。
ああ、気づいたら何話か書いてない!
どうしよう?まぁ、いいや。
ダダダダーン?ババババーン?
ドドドドーン?いや、ガガガガーン?
それとも、ドゥドゥドゥドゥーン?
音楽室に流れる、有名な作曲家ベートーヴェンが作曲した日本では『運命』という名で知られる曲が俺の頭の中で擬音として表すにはどうすればいいか、というよく分からない問題を提議していた。
皆はよくダダダダーンって表すけれど、俺的にはドドドドーンの方がいいかなー、と。
この曲は、運命が扉を叩く音を表しているらしいし。
扉を叩いた時の音はトントン。それを激しくするとドンドン。さらに激しくすると___
ドドドドーン……ドドドドーン……
ドドドドン、ドドドドン、ドドドドン……
あぁ、なんか聴き飽きてきたかも。
ふあっとあくびをして、目を机の上に置いてあるプリントに移した。
___音楽。
それは、『ヤバイほど音痴でうるさいのが嫌い』略してYOUの俺からしてみれば拷問も同じ教科である。
今は鑑賞の時間だ。皆聞き惚れてるのか、それとも眠りこけているのか、音楽室は『運命』以外の音なんて聞こえてなかった。
………そのはずったのにっ!!
「なぁ太郎。これは運命だろうな。だって、私には運命が扉を叩く音が聞こえているのだから!」
あぁ、さいですか。
倉沢はとても嬉しそうに言ってくる。
倉沢のネッ友兼メル友兼親友の衣月さんが、なんと俺たちのクラスに転校してくることになり、しかもしかも、席が近くになるらしい。
なぜこうも偶然が?
そんなの簡単だ。倉沢が、やりやがったのだ。
俺を早々とやる気なしの担任の先生のところに連れていったかと思えば、いきなり頭を無理矢理下げられ、『クラス同じにして、席を私の近くにしてくれ!!たろ……いや、宮部もこう頭を下げているし!!』とまぁ言ってくれた。
先生といえば、この俺様が頭を下げ、他人と行動しているのに感動したのか、『いいよ』と言った。
……最悪だ。
それからというもの、倉沢はこんな調子だ。
正直、痛さが増したと思う。
倉沢や
運命(さだめ)に踊る
ただのバカ
なんていう川柳ができたくらいだ。
「はぁーい。んじゃまぁ、プリントに感想書いてねー」
音楽が止まり、音楽の先生の女にしては低い声が音楽室に響いた。
「えぇっと……衣月との運命が感じられる良い曲だった、と」
「バカか。消せ」